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西武の新ヘッドコーチに鳥越裕介氏(53)が就任しました。選手に寄り添い、今宮健太らを主力に育て上げるなど常勝ホークスの礎を築いた思考とは―。ライオンズ復活の鍵を握るキーマンがソフトバンク1軍内野守備走塁コーチに就任した2010年秋の記事を復刻しました。(西口憲一)

【2010年11月5日西日本スポーツ タカのつぼ】

夕暮れのサブグラウンド。ソフトバンクの鳥越裕介1軍内野守備走塁コーチが、明石健志と今宮健太相手にノックを打っていた。「あかんわ! ノッカーが悪いわ」。狙ったところに打てず、発した自虐的な言葉。すると観客が反応した。「おい、しっかり打たんか!」。コーチとファンの絶妙な〝掛け合い〟に、1日を締めくくる「特守」の雰囲気は明るくなった。

守備の名手と呼ばれた現役時代は、チームのムードメーカーでもあった。「でも...」と口にして、続けた。「僕は周りから思われているほど、明るくないですよ。ああでもない、こうでもないと悩む性格だし」。送球難に苦しんでいた選手に、ポンと肩をたたいたことがある。「どんな球でも、おれが捕るから心配すんな」。その一方、中日からトレードで移籍してきた自身は周囲に気を使いすぎて、人知れず円形脱毛症にかかった。

ベンチで戦況を見つめる鳥越2軍監督(中央)

今季7年ぶりのリーグ優勝を達成した首脳陣に、球団はメスを入れた。3軍制を敷くこともあり、積極的にコーチングスタッフを増員。配置換えは7人、フロントからの転身が2人、外部から招いた新任は5人にのぼった。鳥越コーチは、2軍監督からの配置転換。2年前に30代の若さでファームを統括する立場を任されながらも、若い選手と日々向き合い、徐々に手応えを抱いていたところでの人事だった。

秋山幸二監督が求める「勝負師の集団」の一員として、鳥越コーチも新たな任に就いた。秋季キャンプでは、背中の「71」が「88」に変わっていた。母校・臼杵高の大先輩で、西鉄ライオンズの名捕手だった和田博実さん(09年に逝去)のコーチ時代の背番号。「勝ち負けも大事だが、内容を重視しろ。選手の努力を見逃すな」。尊敬する野球人から受けたアドバイスを胸に縫い付けている。

冒頭のノック。鳥越コーチはバットを右手で持ち、左手でボールを上げるノックスタイルだった。左手でバットを操作した方がスムーズに打てそうだが、鳥越コーチの意図はこうだ。「ボールは常にバットの前にあるもの。試合で守っていて、バットの後ろからは絶対に出てこないでしょ? 選手にはまずボールをしっかり見せて、集中してもらう」。たとえ1球でもおろそかにはしない。明るい言動とは裏腹のきめ細かさを持って、選手と接する。背中には末広がりの「8(八)」が二つ。選手とホークスの未来を照らす気概があふれた。

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西口 憲一

西口 憲一

編集委員

立命館大学でアメリカンフットボールに打ち込み、「人の心を動かし、心に残るような記事を書きたい」とスポーツ記者を志しました。 1993年西日本新聞社入社。 運動部からスタートし、以来、福岡→大分→福岡→東京→福岡→東京→福岡。 主にプロ野球(ダイエー、ソフトバンク、西武)やソフトボールを取材。1999年ダイエー初優勝、2008年北京と2021年東京の両五輪でのソフトボール金メダル獲得に心が震えました。 現在はバレーボールSVリーグ女子のSAGA久光スプリングスの記事も書いています。福岡市出身。

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