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西武の新ヘッドコーチに鳥越裕介氏(53)が就任しました。選手に寄り添い、今宮健太らを主力に育て上げるなど常勝ホークスの礎を築いた思考とは―。ライオンズ復活の鍵を握るキーマンがソフトバンク2軍監督を務めた2009、10年の記事を復刻しました。(西口憲一)

【2009年6月24日西日本スポーツ 若鷹発つ日まで―鳥越2軍監督の奮闘下】

ビデオのように、いつでも記憶を再生できる。それほど印象深かった。プロ1年目の1994年。即戦力の期待を担って中日に入団しながら、鳥越は1軍に定着できなかった。ファームには2人の選手がいた。1人は「首脳陣に嫌われているからさ」と周囲にこぼしていた。もう1人は愚痴も言わず、黙々と練習に取り組んでいた。2人はトレードで中日を退団。1人は移籍先でも愚痴を言い続け、ユニホームを脱いだ。もう1人は阪神で実力を開花させた。今年41歳になる矢野輝弘だった。

戦況を見つめる鳥越2軍監督

「この世界に入ってきた選手は大なり小なりストレスを抱えている。でも、逃げ道を自分でつくってほしくない。逃げ道は僕らがつくる」

自らも在籍2球団目で〝居場所〟を見つけた。中日では首脳陣が「鳥越は無理」「あいつは打てない」と決めつけたような言い方をしているのを人づてに聞いた。99年のシーズン途中、トレードでダイエー(現ソフトバンク)に移った。沈んだ気持ちを救ってくれた言葉がある。当時1軍打撃コーチだった山村善則(現2軍打撃コーチ)が口にした。「おまえは打てるよ」。打てないことを負い目に感じるあまり、マイナス思考に陥っていた。そのひと言が、前向きな心を取り戻すきっかけになった。

「僕は選手に対して先入観を持ちたくないし、可能性を閉ざしたくはない」。プロの世界に飛び込んできたばかりの若手を見て、自分は果たしてどうだったかと常に問うている。「即1軍で活躍する選手なんて何人もいない。でも、みんな何かを持っているから、この世界に入ってきた」。自らの感性や経験を伝え、選手の「志」をいい形で実現させていきたい。鳥越はそう願う。

中日入団激励会で稲尾和久氏(左)らと鏡割りをする鳥越=1993年

「僕は同じときを過ごした、すべての人に影響を受けてきた」。指導者になってから幾多の別れがあった。2年前に故郷大分の英雄で元西鉄(現西武)のエースだった稲尾和久が亡くなり、今月22日には母校・臼杵高の大先輩で同じく元西鉄の捕手だった和田博実が天に召された。ライオンズでバッテリーを組んだ2人は鳥越が尊敬する野球人だった。「勝ち負けも大事だが、内容を重視しろ。選手の努力を見逃すな」。和田に受けたアドバイスは胸に深く刻んでいる。

昨年7月。妻の万美子を病で失った。がんだった。4年半の結婚生活のうち、その半分以上は病気との闘いだった。「最後まで妻は強かった」。その年の秋に球団から2軍監督就任を要請され、最初は戸惑った。区切りをつけたのは2月1日のキャンプイン。宿舎の自室でコーヒーをいれた。妻の分も合わせて二つ。「半歩でも1歩でも前進するからな」。ユニホームに袖を通しながら誓った。出会った若鷹が発(た)つ日まで立ち止まらない。「気持ちも体も、選手にはまだまだ負けません」。背番号の「71」と同じ7月1日に38歳を迎える。夢追い人の〝熱い〟夏が、すぐそこに迫っている。=敬称略

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西口 憲一

西口 憲一

編集委員

立命館大学でアメリカンフットボールに打ち込み、「人の心を動かし、心に残るような記事を書きたい」とスポーツ記者を志しました。 1993年西日本新聞社入社。 運動部からスタートし、以来、福岡→大分→福岡→東京→福岡→東京→福岡。 主にプロ野球(ダイエー、ソフトバンク、西武)やソフトボールを取材。1999年ダイエー初優勝、2008年北京と2021年東京の両五輪でのソフトボール金メダル獲得に心が震えました。 現在はバレーボールSVリーグ女子のSAGA久光スプリングスの記事も書いています。福岡市出身。

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