[画像:睡眠に関するイメージと言えば、体を横たえ、心身をクールダウンし、一日の疲れを癒やすリラックスタイム、海で言えば「凪(なぎ)」の状態だろうか。ところが、睡眠中に心身が荒れ狂う「嵐」の時間帯がある。]

このところ急速な進歩を遂げた睡眠の科学だが、それだけに誤解も流布している。そこでNHK​「​きょうの健康」や「チョイス@病気になったとき」などでもおなじみの第一人者が都市伝説を一刀両断!睡眠の常識と非常識を科学の視点から紐解き、日々の快眠に役立つ確かな情報をお届けします。

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第134回 睡眠中に心拍数や血圧、体温が乱高下する「自律神経の嵐」とは

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(イラスト:三島由美子)
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睡眠に関するイメージと言えば、体を横たえ、心身をクールダウンし、一日の疲れを癒やすリラックスタイム、海で言えば「凪(なぎ)」の状態だろうか。ところが、睡眠中に心身が荒れ狂う「嵐」の時間帯がある。

この3月に医師国家試験の合格発表があった。毎年さまざまな疾患について出題されるが、今年は睡眠障害に関する問題が4題あり、そのうちの1題がまさにこの睡眠中(より正確にはレム睡眠中)の嵐に関するものだった。レム睡眠中に限り自律神経の一種である交感神経が高ぶり血圧や心拍などが乱高下する。別名「自律神経の嵐」とも呼ばれ、明け方に多い狭心症や不整脈の発作にも関わっているのでご紹介したい。末尾に実際の問題文を載せたので、本稿にお目通しいただいた後にチャレンジしてはいかがでしょう。

睡眠障害の中には、睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシー(過眠症の一種)、レム睡眠行動障害、不眠症や睡眠薬など医師国家試験で何度も出題され、受験生もヤマを張りやすいいわゆる鉄板問題(領域)もあるのだが、今回の「自律神経の嵐」に関する問題は予想外だったのだろう。ある医学教育系企業の集計では、この問題の受験生の正答率は約70%と、正答率が90%を超える問題も少なくない医師国家試験の中ではかなり難しい部類の問題であったようだ。

さて、睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類あることはご存じだろう。ノンレム睡眠はさらに浅いノンレム睡眠と深いノンレム睡眠に分けられ、後者は周波数の低い脳波(徐波)が主体となるため徐波睡眠とも呼ばれる。レム睡眠とノンレム睡眠は一晩を通して交代して出現するが、最初のレム睡眠は寝付いてから60〜120分後に出現し、以後平均して約90分周期で一晩に3〜5回出現する。レム睡眠は睡眠時間全体の20〜25%を占め、7時間睡眠であれば合計80〜100分ほどのレム睡眠が出現する。

健康な成人の睡眠の典型的な経過図を模式的に示した。この例では0時に就床(消灯)して8時過ぎに起床している。レム睡眠が約90分周期で出現し、明け方に向けて長くなっている。レム睡眠の間隔や一晩当たりの回数には個人差があり、また日によって異なる。(画像提供:三島和夫)
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受験生もよく知っているレム睡眠の特徴として、夢を見やすいこと、骨格筋が弛緩(しかん)する、の二つがある。骨格筋とは力こぶのように意識的に力を入れることができる筋肉のことで、それが弛緩するためレム睡眠中は寝返りも打てない。この二つの特徴はそのまま今回の国家試験の問題の選択肢になっている。これを間違った医学生はほとんどいなかっただろう。

対して、 今回のテーマ「自律神経の嵐」だが、睡眠医学の専門書には必ず載っている有名な現象であるものの、学生が普段使用する初学者向けの教科書では解説していないものも多い。特に、最近ではしっかりとした成書ではなく、受験向けの薄っぺらな参考書で国家試験を乗り越えようとする医学生も多いので、今回の国家試験で初めて「自律神経の嵐」について知った受験生も多かったと思う。実は私が睡眠障害の項を分担執筆している学生用の教科書でも「自律神経の嵐」については触れていない。そのためこの問題を見て、専門家として感心すると同時に、大学教官としては少し反省している次第である。

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