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中性子星合体の重力波を初観測、貴金属を大量放出

ノーベル賞受賞の2カ月前に検出、約3500人が関わった大規模観測の物語

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発生源はどこだ!?

ここで見事な活躍を見せたのが、カリフォルニア大学サンタクルーズ校の博士研究員チャーリー・キルパトリック氏だ。キルパトリック氏とその同僚らはすぐに行動を起こし、まずは重力波とガンマ線の発生源の近くにある数多くの銀河の中から、有力なものをピックアップした。

キルパトリック氏のチームが使用できるのはチリにあるささやかな望遠鏡で、彼らは空が暗くなったらすぐに、これらの銀河をひとつずつ観察し、星の衝突の兆候を探す計画を立てた。とはいえ、のんびりしてはいられない。目当ての空が見えるのはせいぜい1〜2時間で、すぐに地平線の向こうへ沈んでしまうからだ。

新たな重力波が検出される4カ月前にハッブル宇宙望遠鏡がとらえた楕円形の銀河「NGC4993」(左)。一方、チリのスウォープ望遠鏡の画像(右)には、2017年8月に現れた明るい点が見える。(PHOTOGRAPH BY HUBBLE/STSCI (LEFT) AND PHOTOGRAPH BY 1M2H TEAM/UC SANTA CRUZ & CARNEGIE OBSERVATORIES/RYAN FOLEY (RIGHT))

LIGOとVIRGOからの知らせが届いてからおよそ10時間後、キルパトリック氏が観測した5つ目の銀河に、以前には存在しなかった輝く点があるのが発見された。氏のチームは、この発見を世界の天文台に向けて発信した。42分以内には、新たに5つのグループが同じ銀河を望遠鏡にとらえていた。

数日の間にいくつもの天文台がチームに加わり、その後数週間にわたって、楕円形をした銀河「NGC4993」の外れにある重力波の発生源は、宇宙のなかで最も熱い注目を浴びるスポットとなった。

そこではかつて、2つの中性子星が長い間互いの周りをらせんを描きながら回っていた。何百万年という歳月の末、2つの星がついに衝突すると、そのあまりの激しさに時空がゆがみ、発生した重力波は光の速さで宇宙空間をさざ波のように広がって、やがて地球に到達した。

金や銀はなぜこんなに多いのか

すばやい対応のおかげで、科学者らはこの爆発を電波からガンマ線まで、あらゆる波長域で観測できた。

今回、中性子星の合体が観測されたことによって、長い間議論されてきた重元素の起源も解明されようとしている。重元素とは具体的には、金やプラチナなどの貴金属や、LIGOのレーザーの建造にも使われたネオジムなどを指す。

2つの中性子星はらせん軌道を描きながら接近し、やがて衝突すると、時空の構造にゆがみを生じさせる。(ILLUSTRATION BY NSF/LIGO/SONOMA STATE UNIVERSITY/A. SIMONNET)
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これらの金属は、主に巨大な恒星が最後に爆発する際に、その内部で生成されるとかつては考えられていた。しかし近年の研究で、こうした超新星爆発では、現在宇宙に存在する重金属に匹敵するだけの量が放出されなかったことがわかってきた。

こうした重い元素を作るには、たくさんの中性子が必要だ。中性子とは原子核を構成する粒子のひとつで、その名前からも想像される通り、中性子星が破壊されたときに大量に放出される。

今回の爆発を赤外線で観測したところ、放出された破片には少なくとも地球1万個分の貴金属が含まれていることがわかった。これは現在宇宙に存在が確認されている量を満たすのに十分な値だ。

一方で、今回観測された出来事には、まだ謎に包まれている部分もある。たとえば2つの中性子星が衝突した後に残されたものが何なのかは、はっきりとはわかっていない。確かなのは、それが太陽の約2.6倍の重さの天体だということだけだ。

米アリゾナ大学のフェリヤル・オゼル氏によると、この質量と、できたての中性子星の特徴を踏まえると、これはほぼ間違いなくブラックホールだという。あるいは異常に大きな中性子星だという可能性もあるが、そうした存在は物理学的な常識からは考えにくい。(参考記事:「21年後に巨大ブラックホールが衝突へ」 )

もしもあと1カ月遅かったら

また、爆発とその後の経過は、必ずしも予想通りには進まなかった。ガンマ線バーストは、以前に観測された同様の現象に比べるとかなり微弱なものだったと、米カリフォルニア工科大学のマンシ・カスリワル氏は言う。さらには爆発後、X線と電波が検出器に届くまでの時間も、予想されていたよりも長かった。

カナダ、マギル大学のダリル・ハガード氏はこれについて、爆発によって噴出した超高速ジェットの向きが地球に対してまっすぐではなく、わずかにズレていたせいではないかと推測している。

あるいは、もっと複雑なことが起こっている可能性もある。カスリワル氏は、まゆのように内部にエネルギーを貯め込んだ破片が爆発によって放出され、これが最初に生み出されたジェットの行く手をふさいだのではないかと推測している。研究者らは、まだしばらくの間は見えるはずの電波の観測を続けて、この問題の解決につなげたいと考えている。(参考記事:「ブラックホールは食べ残しを投げ捨てるとの新説」 )

しかしさらなる観測には、時を待たなければならない。現在は発生源の銀河の位置が太陽に近すぎるため、一部の望遠鏡で観測が危険になるためだ。(参考記事:「史上初のブラックホール撮影、成否は数カ月後」 )

米カーネギー天文台のマリア・ドラウト氏は言う。「この爆発が起こったのは1億3000万年前ですが、もしこれがあと1カ月遅かったなら、まったく観測することができなかったでしょう。検出器はスイッチを切られ、銀河は太陽の向こうにあったはずですから」

文=Nadia Drake/訳=北村京子

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ナショナルジオグラフィック日本版サイト

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