2度目の重力波観測、天文学はいよいよ新時代へ
宇宙を観測するまったく新しい方法が確立、ブラックホールなどの研究に期待
科学者たちが重力波の直接観測に再び成功し、天文学の新時代の始まりが決定的になった。
2016年2月に歴史的な初観測が発表された重力波と同じく、今回の重力波も、10億年以上前に2つのブラックホールが互いに強く引かれ合い、激しい抱擁を交わしたことで発生した。この重力波がさざ波のように宇宙空間に広がり、地球を通過したところを天文学者が捉えたのだ。(参考記事:「重力波、世紀の発見をもたらした壮大な物語」)
ブラックホールどうしの合体や超高密度の中性子星どうしの衝突など、宇宙でも有数の激しい天体現象によって生成する重力波は、宇宙を観測するまったく新しい方法を科学者にもたらすことになる。どんな波長の光でも見ることのできないものを重力波で観測し、研究できる可能性がある。(参考記事:「重力波観測で開く"多宇宙"への扉」)
2回目の重力波が観測されたことにより、LIGO(レーザー干渉計重力波天文台)での2月の初観測が単なるまぐれ当たりではなく、千回とまでは言わないが、何百回という現象の1例であることが確実になった。すなわち、次があるということだ。
LIGOに資金を提供している全米科学財団の理事長である天体物理学者のフランス・コルドバ氏は、「壮大な現象を検出することには大きな意義がありますが、1回だけでは科学というより魔法です」と言う。
「2回目に検出できたときに初めて、その現象を本当に観測できたと言えます。これでようやく、人類が本当に新しい観測手段を手にしたことが証明されました」(参考記事:「【解説】"高速電波バースト"、謎解明に一歩前進」)
時空のさざ波
2つのブラックホールが合体するときに発生した重力波が初めて捉えられた。
時空のさざ波
ブラックホール1
ブラックホール2
回転する巨人
2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転したのち合体する。距離が近づくほど、回転は速くなる。この過程で放出されるエネルギーは、アインシュタインが理論的に予言した重力波という時空のさざ波となる。
太陽質量
巨大なエネルギー
合体してできた大きなブラックホールの質量は、もとの2つのブラックホールの質量の和よりも小さい。太陽質量3個分の質量がエネルギーに変換され、重力波として放出される。
ブラック
ホール1
14
ブラック
ホール2
8
新しい
ブラックホール
21
重力
波
1
NG STAFF
SOURCE: LIGO
時空のさざ波
2つのブラックホールが合体するときに発生した重力波が初めて捉えられた。
回転する巨人
2つのブラックホールが互いに渦を巻くように回転したのち合体する。距離が近づくほど、回転は速くなる。この過程で放出されるエネルギーは、アインシュタインが理論的に予言した重力波という時空のさざ波となる。
ブラックホール1
ブラックホール2
時空の
さざ波
巨大なエネルギー
合体してできた大きなブラックホールの質量は、もとの2つのブラックホールの質量の和よりも小さい。太陽質量3個分の質量がエネルギーに変換され、重力波として放出される。
太陽質量
ブラック
ホール1
14
ブラック
ホール2
8
新しい
ブラックホール
21
重力
波
1
NG STAFF
SOURCE: LIGO
初回の発表前に実は観測されていた
重力波が初めて検出された2015年9月14日、1世紀にわたって物理学者たちをやきもきさせてきた探求の物語に終止符が打たれた。
1916年に重力波の存在を予言したアルベルト・アインシュタインは、その後、重力波の存在を疑うようになったが、彼の一般相対性理論には重力波が絶対に必要だった。1970年代に新型のパルサーが観測されたことで重力波の存在がようやく証明されると、その功績を上げた科学者は1993年にノーベル物理学賞を受賞した。(参考記事:「不当な評価を受けてきた女性科学者6人」)
LIGOが最初に検出した重力波は、太陽の約30倍の質量を持つ巨大ブラックホールどうしの衝突によって発生したものだったが、今回の重力波は、太陽質量の14倍と約8倍の軽いブラックホールどうしの衝突によるものだ。(参考記事:「21年後に巨大ブラックホールが衝突へ」)
この2つのブラックホールがお互いのまわりを回転したのちに合体した結果、太陽のおよそ21倍の質量の新しいブラックホールが誕生し、太陽が100億年の生涯の間に作り出すのと同じ量のエネルギーを放出した。
この衝突によって生じた時空のさざ波が14億年かけて宇宙空間を伝わり、今度は2015年12月26日未明に地球を通り抜けた。
米国ルイジアナ州とワシントン州に設置された、レーザーと鏡を組み合わせた2基のL字型の検出装置が、おそろしく小さな波をそれぞれ測定した。その波は、陽子の直径の1万分の1にも満たない長さだけ地球を引き伸ばした。
家族と一緒に休暇を楽しんでいた米ペンシルベニア州立大学の物理学者チャド・ハンナ氏のもとに電話がかかったのはその70秒後だった。
LIGOが検出した重力波のデータを分析するチームの共同リーダーであるハンナ氏は、この知らせを聞いて「椅子から飛び上がり、ノートパソコンと携帯電話をひっつかんで2階に駆け上がりました。家族はあっけにとられていました」と言う。
当時、ハンナ氏と1000人以上の科学者や技術者たちは、2015年9月に検出された重力波の確認作業に追われていた。2つの分析を同時に進めるために、彼らは冬中、猛烈な勢いで仕事をしなければならなかった。最初の重力波に続き、このほど比較的静かな12月の重力波についても確認が終わり、『フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)』6月15日号に分析結果が発表された。
LIGOの研究者たちは、最初の重力波の検出について発表する前に第2の重力波を検出できたことで大いに勇気づけられ、自信をもって2月の発表に臨むことができたという。重力波の検出は、すでにこの数十年で最も重要な物理学上の発見の1つとされている。
米マサチューセッツ工科大学LIGO研究所の所長で、近年のLIGOの改良に取り組んできたデヴィッド・シューメーカー氏は、「この発見には、ずいぶんじらされました」と言う。「自分たちが何を手にしたのかは分かっていたので、じらされることも楽しめましたが」
新しい観測施設も続々と
いま、重力波天文学の見通しはかつてないほど明るい。
研究者によると、LIGOは現在、本来のわずか3分の1の感度で運用されているという。計画通りに改良が進めば、LIGOは2019年までに27倍の広さの宇宙を調べられるようになるため、重力波もどんどん検出されるようになるはずだ。
さらに、世界各地でも重力波を検出できるようになる。2016年5月には全米科学財団とインドとの間で協定が結ばれ、2023年にもインドにLIGOのような重力波検出装置が設置される可能性が出てきた。日本の研究チームも地下に重力波検出装置を建設中で、2018年に稼働する予定である。
さらに、現在アップグレードのために運用を停止しているイタリアの重力波天文台VIRGOが稼働を始めれば、重力波が空のどの領域からやってきたかを三角測量により決定できるようになり、天文学者は光学望遠鏡で問題の領域を観測できるようになる。コルドバ氏が考える重力波天文学の究極の目標は、この連携にある。(参考記事:「宇宙最大のブラックホールをもつ銀河を撮影」)
米国国立電波天文台の天文学者スコット・ランサム氏の言葉によれば、いよいよ「重力波天文学の時代の華々しい幕開けです」
文=Michael Greshko/訳=三枝小夜子