2割の自己負担対象者が増える方向
フルコースの在宅介護は困難に
要介護になっても最期まで住み慣れた我が家で、と願っている人は多いだろう。その願いをかなえるのは、家族とお金である。
高齢者の終活サポートを長年行ってきた黒澤史津乃さん(現・OAGライフサポート・シニアマネジャー)が語る。
「在宅介護の限界は排泄です。赤ちゃんのオムツ替えと違って、高齢者の下の世話は家族もやりたがらないし、されるほうも嫌がる。かといって、オムツをパンパンにしておけないので、ヘルパーさんを長時間入れると、自費負担が増えてあっという間に月の費用が30万円をこえてしまう。それなら、20万円以下の費用で済む施設に移るというようなケースが多いですね」
年末に決着する介護保険の改正論議では、2割の自己負担対象者を増やす方向で話が進められている。それが現実となれば、所得水準よって負担が倍増する利用者が増える。
湯水のようにお金が使えなければ、フルコースの在宅介護は夢物語で終わるだろう。
なり手が少なく有効求人倍率は15倍
高齢化が進むヘルパーは絶滅危惧種
「在宅介護は崩壊寸前」と、業界関係者は口をそろえる。
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などに併設する事業者を除くと、ホームヘルパーを確保できず、廃業する例が相次いでいるからだ。
ホームヘルパーは高齢化が進み、80代の現役も珍しくない。有効求人倍率は約15倍。一人の採用に15社が群がる異常事態が続いている。業界ではホームヘルパーを"絶滅危惧種"と呼ぶ。
なり手が少ないのは当然だ。将来がある若い人にとって、施設で働いたほうが安定した給料が見込め、キャリアアップも期待できる。しかも、訪問介護は危険を伴う。
今年1月、訪問診療先で医師が殺害されるという悲惨な事件が埼玉県内で起きた。この事件を受けて県が行ったアンケート調査に、医師や看護師、ホームヘルパーの半数が暴力やハラスメントを受けた経験があると回答している。
埼玉県は警備会社と契約し複数で訪問するための補助金を出すなどの対策を検討しているが、財源に余裕のない自治体ではとうてい無理な話である。
人手不足解消の切り札として期待される外国人も急激に増えない上に、言葉の問題から、ほとんどが特別養護老人ホーム(特養)など施設での採用になる。
日本の財政が悪化するなかで、政府もない袖はふれないので、介護保険に回す財源は今後も多くを期待できない。
月々の支払いは年金だけが頼りなのに
施設の食費や管理費の値上げがつらい
人材や財源が慢性的に不足するなか、2025年には団塊世代のすべてが75歳以上の後期高齢者になる。厚生労働省は、要介護者は600万人を超え、介護職が32万人不足すると予測している。
高齢者の核家族化は、介護難民を増やす要因となるかもしれない。厚生労働省の調査によれば、65歳以上の「おひとりさま」は742万人、夫婦のみの「おふたりさま」も700万世帯に及ぶ(2021年)。
最近の傾向として、配偶者の死別後、子供がいてもそのまま一人で暮らす高齢者が多い。予備軍を入れると1000万人を超える「おひとりさま」は、介護が必要になった時に資金的な余裕がなければ、料金が安い施設への入居しか選択肢はなくなる。
救いは、費用の安い特養が入りやすくなっていることだろう。2015年に入居条件を要介護3以上に限定したことから、入居期間が短くなり、数百人と言われた待機者もかなり少なくなった。大量の特養が建設された東京の西多摩地区では空きが目立ち、入居者の確保に苦戦を強いられているほどだ。
西多摩地区は立地に難があったが、今後は世田谷区、練馬区などでも東京都の補助金を頼りにした開設ラッシュが続く。親の介護に直面していて、親のお金が十分でないなら、真っ先に検討の対象にするべきだろう。
しかし、特養は要介護3以上の認定が必要で、個室タイプが少ない、なんとなく"施設感"が漂う、など抵抗感を持つ人もいるだろう。
そんな人には、介護付き有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が検討の対象になる。特養並みの料金のホームから、入居金が数百万〜数千万円のホームまで、選択の幅は広い。
金融資産や自宅の処分で5000万円以上を用意できる「おひとりさま」や「おふたりさま」なら、元気なうちに自立者向けの施設に入り、趣味やスポーツを通して仲間と余生を楽しむという道もある。
今年になって、施設の入居者や入居を検討している人には、インフレの波が重くのしかかっている。主に、月々に支払う食費や管理費の値上げである。月の利用料を年金から払っている入居者には、とても切実な問題だ。
「将来、払えなくなって退去を迫られるのはつらいから、といって入居をあきらめた方もいらっしゃいました」と、ある老人ホームの募集担当者が明かす。
親や自分の介護が必要になった時、資産や体の状態に応じて、どのような選択肢があるのか、知っておくことは大切である。頭がしっかりして体が動くときでないと、できない準備もあるからだ。
介護がまだ不要な富裕層なら
自立型の高級老人ホーム
『週刊ダイヤモンド』10月29日号の第一特集は「選ぶ介護」です。急増する高齢の「おひとりさま」や「おふたりさま」(夫婦のみ世帯)は、親の介護だけでなく、自分の介護をどうするか、という問題に対処しなければなりません。
在宅でぎりぎりまで頑張るにせよ、施設入居を検討するにせよ、元気なうちに準備しておくことが大切です。
人生100年時代、できれば住み慣れた我が家で最期まで過ごしたいと考えている人は多いでしょう。しかし、身体の状態や認知症などの進み具合によって、地域の訪問介護サービスが十分でなければ、やがて在宅での介護は限界を迎えます。
介護難民になりそうな人にとって救いは、特養があまり始めたこと。ただし、認知症患者や身寄りのない入居者が多い特養は、民間に比べて虐待が発生しやすいともいわれています。
医療系が運営主体の特養は、不要な検査を受けさせられたり、入院させられたりすることも。特養を選ぶ際にどんな点に注意すべきか、本特集ではチェック表を掲載しました。
特養には抵抗がある、入居要件である要介護3までの重度者ではない、という人に参考にしていただきたいのが、恒例の「老人ホームランキング」です。
親を入れたい場合には「介護型」、元気な方で早めに入って仲間を作り、第2の人生を楽しみたいという人にとっては「自立型」のランキングが参考になるはすです。
自立型は高級ホームが多く、入居金も数千万円から数億円。資金的によほど余裕のある人を除いて、入ったら最後、簡単には退去できません。年齢別、性別など複雑になっている入居金についても、図解で解説しました。
その他にも、親のため、自分のために、介護サービスや施設を選択する際に必要な情報が詰まった一冊です。