トヨタを襲う「新・六重苦」!日本企業が脱炭素地獄に転落するもっともな理由

ダイヤモンド編集部
有料会員限定
記事をクリップ
URLをコピー
記事を印刷
Xでシェア
Facebookでシェア
はてなブックマークでシェア
LINEでシェア
noteでシェア
脱炭素地獄#19Photo:Bloomberg/gettyimages

トヨタ自動車は「脱炭素地獄」に耐えられるのか。トヨタは、グループ・サプライヤーへの炭素削減のプレッシャー、欧州・中国に仕掛けられたEVシフトのゲームチェンジ、半導体・車載電池の欠乏、電力コスト高騰による国内生産の危機、輸出に伴う炭素税の賦課――など脱炭素シフトに伴う"あらゆる負荷"に苦しめられている。特集『脱炭素地獄』の#19では、トヨタを例に日本企業が見舞われている「脱炭素地獄」の実態を徹底解説する。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

優等生トヨタも陥った半導体減産
部品不足と日鉄提訴の根源は「脱炭素」

トヨタ自動車よ、お前もか――。8月下旬、トヨタが半導体不足などの部品調達難を理由に9月の世界生産を4割減らすと表明すると、市場関係者の間では失望感が広がった。

ホンダや日産自動車など競合メーカーが軒並み減産体制を強いられる中、優等生のトヨタだけは強気な生産計画をぶち上げていただけに大減産の衝撃は大きかった。それから2カ月が経過したが、いまだ半導体不足の解消には至っていない。

10月に入って、さらに不穏なニュースが続いている。中国の電力制限により、半導体のみならず自動車部品の供給が滞ってしまったのだ。ある自動車メーカー社員は「汎用部品を通常の100倍程度の価格で調達するケースも出てきた」と嘆く。

そして、極め付きはトヨタが重要サプライヤーである日本製鉄に提訴されたことだ。両社の対立には、提訴理由である特許権侵害以上に根深い事情がある(訴訟の真相については、本特集の#2『トヨタが日本製鉄に訴えられた真の理由、中国と日鉄の二股が招いた「2年戦争」の全内幕』参照)。

半導体不足、中国の電力制限、日本製鉄によるトヨタ提訴――。その全ての発端となっているのが世界的な「脱炭素シフト」だ。トヨタは今、「新たな六重苦」にさいなまれている。

トヨタをはじめ国内自動車メーカーが「製造業の六重苦」に見舞われたのは、2011年の東日本大震災の発生後のことだった。六重苦とは、超円高、法人税率の高さ、労働規制、自由貿易協定の遅れ、環境規制、電力問題のことを指す。

特に、円高の進行と電力供給不足に伴うコスト増が、自動車メーカーの業績を直撃。「日本でものづくりをして輸出で稼ぐ」という国内製造業の加工貿易モデルの限界が露呈したのだった。

それから10年。世界的な脱炭素シフトにより、日本企業は「新たな六重苦」に見舞われることになった。その事業環境の厳しさは当時の比ではない。

きっかけは、19年の欧州グリーンディールだ。50年の「カーボンニュートラル(炭素中立。温室効果ガスをゼロにする)」の実現を世界に先駆けて宣言したことだ。

これを境に、環境負荷の低減を経済成長の糧にするグリーン経済戦争が勃発。脱炭素をお題目に掲げながらも、その内実はエネルギーと技術の覇権を懸けた国家間争いである。

どの主要国にとっても、自動車は国力を象徴する基幹産業だ。そしてトヨタは、ガソリン車とハイブリッド車(HV)で一時代を築いた絶対的王者。グリーン経済戦争のゲームチェンジャー――、すなわち主要国や競合企業、モビリティー参入企業――にとって、トヨタは戦いの土俵から引きずり降ろしたい"格好の標的"なのである。

果たして、トヨタを苛む「新・六重苦」とは何なのか。ここからは、図解を駆使して詳しく解説する。

記事一覧

予告

日本企業が転落する脱炭素地獄、「利益より炭素」が重要な経営指標となる理由

2021年10月18日

#1

×ばつTSMC構想の裏にトヨタと経産省、日の丸半導体「一発逆転計画」綱渡りの内実

2021年10月18日

#2

トヨタが日本製鉄に訴えられた真の理由、中国と日鉄の二股が招いた「2年戦争」の全内幕

2021年10月18日

#3

脱炭素「脱落危険度」が高い会社ランキング【ワースト421社完全版】7位日本製鉄、1位は?

2021年10月19日

#4

ENEOSの再エネ企業2000億円買収の裏で、トヨタ・NTTと競らせた「暗躍者」の正体

2021年10月19日

#5

日本製鉄がトヨタから値決め主導権を奪還も、焼け石に水で「鉄鋼3社統合説」急浮上

2021年10月20日

#6

脱炭素シフトに「ついて行けない」危険性が高い企業ランキング【排出量が多い12業種】ANA、三菱ケミは何位?

2021年10月20日

#7

脱炭素の目玉「2兆円基金」の内訳とは?半導体、水素、鉄鋼...予算争奪戦が勃発

2021年10月20日

#8

「TSMC国内誘致は"愚の骨頂"」半導体元技術者が経産省の悲願を一刀両断する理由

2021年10月21日

#9

「脱炭素シフト」に殺される企業ランキング【自動車・電機100社】アイシン、ホンダ、パナの順位は?

2021年10月21日

#10

三菱商事、三井物産、東京ガスが付け込む炭素大量排出の「悪者」は?

2021年10月21日

#11

日の丸半導体"蘇生"には5兆円が必要、TSMC誘致に続く「次の切り札」とは?

2021年10月22日

#12

EY、KPMG...会計四大コンサルが脱炭素強化の理由、秘策「お墨付きビジネス」とは?

2021年10月22日

#13

脱炭素シフトで勝ち残る会社ランキング【ベスト50社】2位リクルート、1位は?

2021年10月22日

#14

「脱炭素で食料危機」リスクの真相、発電事業と農業が同じ原料を奪い合う重大懸念

2021年10月23日

#15

3メガバンクと政投銀が「100兆円」を脱炭素へ投下!仁義なき顧客争奪戦の実態

2021年10月23日

#16

三井住友FGがトヨタより「水素」で脚光浴びる理由、250社を束ねる思惑とは?

2021年10月24日

#17

ホンダ、ヤマト、三菱ケミカル...エコじゃない企業の涙ぐましい「脱炭素戦術」の勘所

2021年10月24日

#18

EV激増で勃発した「車載電池争奪戦」の内幕、半導体不足の教訓を生かす秘策とは?

2021年10月25日

#19

トヨタを襲う「新・六重苦」!日本企業が脱炭素地獄に転落するもっともな理由

2021年10月27日

番外編

TSMCが狙う未来の大口顧客はトヨタ・日本電産・ダイキン、工場誘致の立役者が断言

2021年11月4日

この記事に関連する企業

あなたにおすすめ

特集

アクセスランキング

  • 最新
  • 昨日
  • 週間
  • 会員

最新記事

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /