もっと奈良を楽しむ
秋里に女人の心を癒してきた至宝を訪れて。
色づく初瀬の里にたたずむ観音霊場、長谷寺。
「こもりくの泊瀬」と万葉集に歌われた静かな里にある長谷寺の起源は、飛鳥時代。その後、奈良時代に西国三十三所観音霊場巡礼の開祖、徳道上人が十一面観世音菩薩を祀られ、観音信仰を集めるようになりました。現在のご本尊は室町時代の造立で、10mを越す我が国最大級の木造仏。右手に錫杖、左手に水瓶を持ち、方形の大盤石という台座に立つ、いわゆる長谷寺式十一面観世音菩薩です。399段の登廊の先にある本堂と礼堂は国宝。花の御寺(みてら)として有名ですが、初瀬山の紅葉が壮大な伽藍を染める秋も美しく、礼堂の南にある外舞台からの眺めは格別です。
朝の勤行の声明を聞きながら紅葉を楽しむ。
登廊を上って辿り着く本堂では、朝の勤行が行われ、一般の人も1000年以上続けられてきた静謐で厳かな"祈り"を体感することができます。澄んだ空気のなか、響きわたる声明に耳を傾けてみましょう。ふと見渡すと周囲は紅葉の真っただ中。長谷寺の奥深さ、精神性にふれ、心にしみるひとときを過ごせます。
(問) 0744-47-7001 (所) 桜井市初瀬731-1(P) 70台(有料)(交)
近鉄長谷寺駅から徒歩約15分
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おみやげ
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草もち
草もち
五木寛之「百寺巡礼」でも紹介された名品で、よもぎをたっぷり練り込み風味抜群。
(問) 0745-93-2556
(室生草もち本舗) -
起き上がりカエル守
起き上がりカエル守
無事帰る(返る)など縁起物のカエルが何度でも起き上がってくるかわいいお守り。
(長谷寺)
平安女流文学にみる観音信仰
平安時代は、高貴な人々の間で「初瀬詣で」が流行し、多くの宮廷女流文学の中でも観音信仰とご利益が語られています。「更級日記」「蜻蛉日記」では、悩み多き作者が長谷寺参詣の詳細が心情とともに綴られ、「源氏物語」の玉蔓の章では、再会の御利益が物語の一部になっています。
国宝の伽藍が紅に染まる女人高野、室生寺。
室生寺は、平安時代の初頭、空海や最澄に並ぶ高僧として名をはせた興福寺の高僧修円によって、伽藍の造営が行われたといわれています。その後、山深い環境が密教の道場にふさわしいことなどから、次第に密教的色彩を強め、鎌倉期には真言密教の最も重要な儀式を行う灌頂堂と、弘法大師を祀る御影堂が奥の院に建立されます。興味深いことに真言密教の根本道場である高野山が、女人を禁制したのに対し、室生寺は女人を受け入れ、『女人高野』として親しまれるようになりました。室生寺は朱塗りの太鼓橋に始まり、仁王門、自然石を積み上げた鎧坂の階段へと続きます。周りは植物、樹木に彩られ、四季折々に美しい光景で迎えてくれます。伽藍の内、金堂、灌頂堂、五重塔は国宝。なかでも五重塔は屋外に建つ木造のものとしては我が国最小とあって、優しげな姿が印象的です。境内はモミジも多く、秋になると山の冷気に包まれて、ひときわ鮮やかな紅に。山寺が照り輝く束の間の美しさに、心奪われることでしょう。
室生寺(問) 0745-93-2003(所) 宇陀市室生78(時) 8:30〜17:00(\) 大人600円(P)
100台(有料)(交) 近鉄室生口大野駅からバス室生寺下車、徒歩約5分
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「女人山上」と呼ばれる元山上千光寺の紅葉狩り。
660年頃、役行者が開山したと伝わる千光寺は、「行者様が彫られた千手観音様から千の光が発せられた」という言い伝えが寺名の由来になっています。役行者が大峯山を開く前に修行したとされることから元山上とも、また多くの女人修行者が訪れることから、女人山上とも呼ばれ1300年以上もの歴史を刻んでいます。八尺の清滝地蔵尊磨崖仏が彫られた滝や、岩場を巡る行場があり、修行場として開かれている一方、「鉄の下駄」(3歩、歩めば玉の輿)「鉄の錫杖」(3回持ち上げれば良縁)など縁結びの御利益でも知られています。周囲は、すっぽり雑木林に囲まれ、秋は静かに訪れて、豊かな自然を美しく色づかせます。
(問) 0745-45-0652(所)生駒郡平群町鳴川188 (\) 無料(本堂拝観時は志納)(P)
あり(無料、駐車場より徒歩約10分)(交) 近鉄元山上口駅より徒歩約50分
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中将姫ゆかりの當麻寺と紅葉に彩られる名園。
役行者の最初の修行地といわれ、古くから落日を象徴する祈りの霊山、二上山の東麓にある當麻寺には、尊くも不思議な中将姫物語が伝えられています。ご本尊は、信仰深き中将姫の想いにみほとけが応えて出来上がったという當麻曼陀羅(国宝)。そこには、多くの仏菩薩、天人そして鳥たちまでもがお互いに慈しみ合っている様子が描かれ、この世に調和の世界を築いていこうという願いと、それを実現しようという教えが込められています。
當麻寺の塔頭のうち最古である「中之坊」には、大和三名園の一つに数えられる「香藕園(こうぐうえん)」があります。心字池を中心とした桃山期の庭園で、江戸時代初期の将軍家茶道指南役、片桐石州が改修したと伝えられています。内庭と外庭を区切る土塀を低く作ることで、限られた土地に奥行きをもたせた空間は、日本の庭園文化を凝縮した小宇宙のよう。秋には、紅葉の赤が池の水面に映り、風にそよぐ秋草の可憐さが目をひきます。借景になっている天平建築の東塔(国宝)は、色とりどりの樹木に彩られ趣を添えます。