平成16年度調査研究報告(抄録)
自動車整備業及び車体整備業に関する粉じんの実態調査
研究代表者 鳥取産業保健推進センター 所長 長田 昭夫
主任研究者 鳥取産業保健推進センター 相談員 米田 明真
共同研究者 鳥取産業保健推進センター 相談員 森 典子
鳥取産業保健推進センター 相談員 山家 武
鳥取産業保健推進センター 相談員 松浦 喜房
鳥取大学工学部 機械工学科教授 鈴木 豊彦
1.はじめに
鳥取県においては、平成8年以降、粉じんの吸入による療養が必要な疾病は発生していないが、依然としてじん肺新規有所見者の発生が認められ、特に自動車整備業務に従事する労働者に多く発生している。
本研究では、鳥取県の自動車整備業・車体整備業における「粉じん作業」の実施状況と、粉じんによる健康障害の発生状況について実態調査を行った。
2.調査の方法
調査は、以下の手順で実施した。
アンケート→事業場の現地調査→作業環境測定
(1)アンケート
鳥取県下の自動車整備事業場及び車体整備事業場(計340事業場)に、「粉じんに関するアンケート」を送付した。176社より回答が得られた。(回収率51.8%)
(2)事業場の現地調査
アンケートの結果より選定した32事業場について、詳細な聞き取り調査を実施した。
(3)作業環境測定及び個人ばく露濃度測定
14事業場について、作業環境測定及び粉じんの個人ばく露濃度測定を実施した。作業環境測定の方法は、作業環境測定基準に従った。個人ばく露濃度は、粉じん測定用個人サンプラーを作業者に装着し測定した。測定時に採取した粉じん4検体について、遊離ケイ酸含有量と石綿含有量の分析を行った。
3.調査結果
(1)アンケート結果
鳥取県の自動車整備・車体整備業は、全体の97%が労働者数50人未満の小規模事業場で占められている。
粉じんが発生する作業実施時、自動車整備・車体整備業では十分な換気対策は行われず、呼吸用保護具の着用は徹底されていない。(表A及び表B)
表A 分解清掃作業時の換気対策(複数回答可)
表B 溶接作業時の呼吸用保護具(複数回答可)
(2)事業場の現地調査結果
実際の事業場では、粉じんが発生する作業は工場全体で行なわれている。調査した中には、局所排気装置・全体換気装置(換気扇等)が粉じん発生箇所から離れ、粉じん対策として機能しない事業場が見受けられた。また、現場の作業者の国検防じんマスク(使い捨て式又は取替え式)の着用率は低く、管理も行き届いていなかった。
(3)作業環境測定及び個人ばく露濃度測定結果
測定の対象とする作業は表1の通りとした。
表1 測定対象作業
(分解清掃作業)
1エアブロー(圧縮空気の吹き付け)
2洗浄剤(エンジンクリーナー等)
3注水
4真空式粉じん除去装置(真空集じん装置)
1吸引装置付研磨機(掃除機)
2集じん袋使用
3吸引装置を使用せず
表2 測定結果
平均値 B測定値
研磨機 0.67 2.00 0.01 0.01
測定結果(表2)より、以下の考察が得られた。
1作業環境測定結果を「作業環境評価基準」に基づき評価すると、すべての作業場が「第1管理区分」となり、A測定平均値及びB測定値はいずれも低い値を示した。
2溶接作業で発生する粉じん(溶接ヒューム)は、吸入性粉じん濃度と総粉じん濃度がほぼ同じであり、ほとんどが吸入性粉じんで占められている。
3個人ばく露測定結果は、作業環境測定結果に比べ高い数値を示した。特に、吸引装置を使用しない場合、短時間作業でも作業者位置の粉じんは高濃度になる。
4.まとめ
(1)自動車整備業・車体整備業における具体的な粉じん対策
1ブレーキドラム等の堆積物除去作業では、多量の粉じんが発生するエアブローを今後は禁止し、湿式の清掃方法(洗浄剤(エンジンクリーナー)又は注水)を選択すべきである。
2溶接作業では、ヒューム吸引トーチ又はフレキシブルダクトを利用したポータブルファン等の排気設備の使用が望まれる。
3パテの研磨作業又は塗料の剥離作業は、吸引装置が接続された研磨機を使用するべきである。
4手持ち式グラインダーによる研磨作業及び吸引装置が取り付けられない研磨機で塗料の剥離を行なう場合は、作業者の呼吸用保護具の着用が必要である。
5事業者及び作業者に対し、粉じんについての知識の普及と、正しい粉じん対策の指導が必要である。
(2)まとめと提言
1自動車整備業・車体整備業の各作業からは高濃度の粉じんが発生し、有効な呼吸用保護具(国検防じんマスク)を着用せずに日常的に作業を行うと、じん肺等を発症する要因となることが示唆された。
2現状では、自動車整備業・車体整備業の粉じん対策は立ち遅れている。
3早急に業界をあげて改善を図らなければならない。
作業方法を変更することにより、小規模事業場でも改善は可能である。