資料15 フルオロウラシル及びアイソボリン(大腸がん)
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抗がん剤報告書:フルオロウラシル及びアイソボリン(大腸がん)
1.報告書の対象となる療法等について
療法名
5-FU持続静注・急速静注/アイソボリン併用療法
未承認用法・用量を含む医薬品名
フルオロウラシル
アイソボリン
予定効能・効果
結腸癌、直腸癌
予定用法・用量
・
1日量として、アイソボリンを通常成人100mg/m2を2時間点滴静注、
この直後にフルオロウラシルを通常成人400mg/m2を急速静注、
さらに600mg/m2フルオロウラシルを22時間かけて持続静注する。
これを2日間連続投与する。
この2日間投与を2週間毎に繰り返す。(de Gramont療法)
・
アイソボリンを通常成人250mg/m2を2時間点滴静注後、
フルオロウラシルを通常成人2600mg/m2を24時間持続静注する。
これを毎週6回投与後、2週休薬する(1クール)。(AIO療法)
・
アイソボリンを通常成人200mg/m2を2時間点滴静注、
この直後にフルオロウラシルを通常成人400mg/m2を急速静注、
さらにフルオロウラシルを通常成人2400-3000mg/m2を46時間持続静注、持続静注のみ2日間連続投与することになる。
これを2週間ごとに繰り返す。(sLVFU2療法)
なお、海外文献で使用されているロイコボリンは国内承認のアイソボリン(L-型ロイコボリン)と比較して効力は約50%であり、アイソボリン投与量はロイコボリン投与量の50%として記載。
現在の適応内での投与法
5-FU/ LV療法(日本と欧・米の比較)
1. 日本: Roswell Parkレジメンのみ認可されている
・
5-FU 600mg/m2 + l-LV(アイソボリン) 250mg/m2、
毎週投与,6回投与後2週休薬
わが国ではLVの静注用製剤は筋注用LVであるが、大腸癌に対してLVの光学異性体のL体のみを成分としたアイソボリン(l-LV)と5FUとの併用の治験がなされ、l-LVが認可されている。
2. 米国: 5-FU静注(以下、bolus 5-FU)が中心
・
Mayo Clinic療法:5-FU 425mg/m2+ LV 20mg/m2, 5日間連日投与,
4週間毎に繰り返す
・
Roswell Park療法:5-FU 600mg/m2+ LV 500mg/m2,毎週投与,
6回投与後2週休薬
3. ヨーロッパ:5-FU持続静注(以下、infusional 5-FU )が中心
・
de Gramont 療法 (上記)
・
AIO 療法 (上記)
近年、切除不能・再発大腸癌の化学療法の進歩は著しく、Oxaliplatin (OHP)や塩酸イリノテカン (CPT-11)と5-fluorouracil (5-FU)/ ロイコボリン(LV)との併用療法が開発された結果、全生存期間をエンドポイントとした欧米の第III相比較試験にて、従来5-FU系の薬剤のみでは12ヶ月前後であった生存期間中央値(MST)が、最近は20ヶ月を越える結果が散見されるに至っている1-2)。これらの試験結果をうけて、欧州ではde Gramont療法やAIO療法などの5-FU持続静注法(infusional 5-FU)にOHPを組み合わせたFOLFOX療法が切除不能・再発大腸癌に対する一次治療の標準的治療と認識されている。また、米国でもこれらの臨床試験の結果に鑑み、米国のNational Comprehensive Cancer Network (NCCN), Clinical Practice Guidelines in Oncology-v.1.2004の切除不能,再発大腸癌に対する標準的一次治療はinfusional 5-FU/LV/CPT-11 (FOLFIRI)またはinfusional 5-FU/LV/OHP (FOLFOX)と改訂され、infusional 5-FUが推奨されている3)。
一方、わが国ではロイコボリンにかわってアイソボリン(l-LV)が使用されているが、その用法・用量は、急速静注 (bolus)のRoswell Park療法のみが認可されており、de Gramont療法やAIO療法、sLVFU2療法などのinfusional 5-FUの投与法が認可されていない。このため、本邦でのCPT-11/5-FU-LV療法はbolus 5-FUをベースとしたIFL療法4)であり、世界標準のひとつであるFOLFIRI療法が施行できない状況にある。さらに現在申請中のOHPが承認された後にも世界標準治療であるFOLFOX療法が行えないことが予想される。今後、わが国においても世界標準治療であるFOLFIRIまたはFOLFOX療法を行えるようにするためにも、5-FU/l-LVの用法・用量の適応拡大が望まれる。
2.公知の取扱いについて
(1) 無作為化比較試験等の公表論文
infusional 5-FUとbolus 5-FUの比較
欧米で行なわれたde Gramont療法とMayo療法との無作為比較試験
5) 、AIO療法とMayo療法との無作為比較試験 (EORTC 40952)
6)、本邦で行なわれた第II相試験
7)の成績を下記に示す。
de Gramont療法とMayo療法との無作為比較試験 (GERCOR)
5)で、生存期間の中央値はそれぞれ15.5ヶ月、14.2ヶ月(p=0.067)であり、生存期間には差がなかったが、奏効率 (32.6% vs 14.4%, p=0.0004)、無増悪生存期間(6.9ヶ月 vs 5.5ヶ月、p=0.0012)、Grade3-4の毒性の頻度 (11.1% vs 23.9%、p=0.0004)において、Mayo療法よりもinfusional 5-FUであるde Gramont療法が優れているとの結果であった。毒性の詳細を下記に示すが、Grade3以上の血液毒性、非血液毒性、治療関連死亡ともに、infusional 5-FUであるde Gramont療法の方が低い傾向を認めた。
AIO療法とMayo療法との無作為比較試験 (EORTC 40952)
6)では、奏効率 はそれぞれ17%、12%で、生存期間の中央値が13.7ヶ月、11.1ヶ月 (p=0.70)と両群間に有意差はなかったが、無増悪生存期間(5.6ヶ月 vs 4.0ヶ月、p=0.03)においてinfusional 5-FUであるAIO療法が優れているとの結果であった。毒性の点からはGrade3/4の下痢の頻度はAIO療法の方が高い傾向を示したが、その他の血液、非血液毒性、治療関連死亡に関してはMayo療法の方が一般に高い傾向であるとの結果であった。毒性の詳細を下記に示す
表1 5-FU/LV療法(日本と欧・米の比較)
療法
試験の種類
症例数
奏効率(%)
CR/PR
(%)
生存期間
中央値(月)
Mayo 5, 6)
第III相
2165)
1676)
14 5)
12 6)
2/125)
0/126)
14.2 5)
11.9 6)
De Gramont 5)
第III相
217
32.6
6/ 27
15.5
AIO 6)
第III相
164
17
2/15
13.7
Roswell Park(日本)7)
第II相
70
30
0/30
9.9
表2 de Gramont療法とMayo療法の毒性の比較
5)
Grade 3/4の毒性の頻度(%)
De Gramont
Mayo
毒性
n=208
n=205
p-value
好中球
1.9
7.3
0.0052
血小板
1.0
0.5
N.S.
感染
1.0
3.9
N.S.
悪心
3.9
3.4
N.S.
下痢
2.9
7.3
0.039
粘膜炎
1.9
12.7
0.0001
心臓-虚血/梗塞
0
0
-
皮膚
1.0
0
-
脱毛
0.5
1.5
N.S.
鼻出血
0
0
-
結膜炎
0
0
-
神経学的所見
0.5
0
N.S.
治療関連死亡
0
0.5
-
計
11.1
23.9
0.0004
文献5)から抜粋(一部改変)、N.S.: not significant, -: 論文中に記載無し
表3 AIO療法とMayo療法の毒性の比較
6)
Grade 3/4の毒性の頻度(%)
AIO (%)
Mayo (%)
毒性
N=154
n=159
p-value
白血球
1/ 0.7
6/ 0.7
0.053
血小板
0/ 0
0.7/ 0
N.S.
ヘモグロビン
0/ 0
4/ 0.7
0.01
下痢
16/ 6
8/ 1
0.015
悪心
4/ 0
2/ 0.7
N.S.
嘔吐
5/ 0.7
1/ 0.7
N.S.
口内炎
3/ 2
10/ 1
0.065
手足皮膚反応
4/ -
1/ -
N.S.
感染
0.7/ 0.7
1/ 2
N.S.
脱毛
0.7/ -
0/ -
N.S.
治療関連死亡
0.6
1.3
-
文献6)から抜粋(一部改変)、N.S.: not significant, -: 論文中に記載無し
表1,2,3の脚注
文献5)
登録患者数はMayo 216例、de Gramont 217例であり、うち腫瘍縮小効果可能症例はMayo 173例、De Gramont 175例、毒性が評価可能な症例はMayo 205例、de Gramont 208例であった。
文献6)
登録患者数はMayo 167例、AIO 164例であり、うち腫瘍縮小効果可能症例はMayo 139例、AIO 132例、毒性が評価可能な症例はMayo 159例、AIO 154例であった。
文献7)
登録患者数は76。うち腫瘍縮小効果可能症例は70例、毒性が評価可能な症例は73例であった。
CPT-11, OHPの登場以降、CPT-11、OHPとinfusional 5-FU/LVの併用療法において、infusional 5-FU/LVの投与方法は試験により変遷してきている。FOLFIRI療法においては、de Gramont療法+CPT-11、AIO+CPT-11(Douillard版)、sLVFU2療法+CPT-11(GERCOR版)、FOLFOX療法においては、de Gramont療法+OHP(FOLFOX4)、sLVFU2+OHP(GERCOR版)。これらの5-FU+LVの併用方法のうち、GERCOR試験が最も良好な成績を示したことより、sLVFU2療法の位置づけは高い
21)。sLVFU2療法の第I/II相試験では、登録86例中、奏効率は37%(評価可能な59例中22例)で無増悪生存期間の中央値は8.6ヶ月であった。毒性については、Grade 3の毒性はLevel 1(5-FU 2.4g/m
2)で3%、Level 2(5-FU 3g/m
2)では0%、Level 3(5-FU 3.6g/m
2)では16%であり、sLVFU2療法は少なくとも他の5-FUとLVの投与方法と同等の有効性を示し、簡便であると結語されている
20)。
(2) 教科書
臨床腫瘍学の最も権威ある教科書CANCER Principles & Practice of Oncology, 6Th edition. Devita VT. では"Use of protracted intravenous infusion of 5-FU may be superior and better tolerated than intravenous bolus doing"と記載されている10)。
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
bolus 5-FUとinfusional 5-FUの6つの比較試験 (症例数1219)のメタアナリシスにより、infusionalの方がbolusよりもわずかではあるが生存期間において優れているとの結果が得られた
8)。
表4 Bolus 5-FU/LVとinfusional 5-FU/LVの効果のメタアナリシス
8-9)
5-FUの投与法
奏効率(%)
生存期間(月)
Bolus
14
11.3
Infusional
22
12.1
p=0.0002
p=0.039
また、毒性に関しては、bolusでは好中球減少の発症頻度が高いのに対し、infusionalでは手足皮膚反応が多く認められたが、その他の非血液毒性には両群間に差はなく、両者で毒性のプロファイルは異なるものの、安全性においてもinfusional 5-FUの方が優れていることが示唆される
9)。
表5 bolus 5-FUとinfusionalとのメタアナリシスからの毒性の比較
8-9)
Grade 3/4の毒性の頻度(%)
infusional 5-FU
bolus 5-FU
毒性
n=607
n=612
p-value
血液毒性
4
31
< 0.0001
非血液毒性
13
14
0.78
下痢
4
6
悪心・嘔吐
3
4
粘膜炎
9
7
手足皮膚反応
34
13
< 0.0001
(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
・
米国のNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドライン3)でもinfuional 5-FUをbaseにしたFOLFOXまたはFOLFIRIが切除不能・再発大腸癌に対する標準的治療であるとされている。
National Comprehensive Cancer Network (NCCN)のClinical Practice Guidelines in Oncology-v.1.2004
・
米国National Cancer Instituteの出しているPhysician Data Query (PDQ)においても、Stage IV・再発大腸癌に対して5-FU/LVとCPT-11の併用療法(FOLFIRI, AIO, IFL)またはOHPの併用療法(FOLFOX4, FOLFOX6)が標準であると考えられるとされている。(http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/treatment/colon/HealthProfessional/page9)。
(5) 総評
以上の根拠からみて、切除不能・再発結腸直腸癌に対して、infusional 5-FU/l-lVを含むde Gramont療法およびAIO療法、sLVFU2療法は、現在わが国で認可されているbolus 5-FU/l-LV (Roswell Park療法)よりも実施手技及び管理上やや複雑であるが、効果・安全性において優れていることは医学・薬学上公知であると判断できる。
3.裏付けとなるデータについて
臨床試験の試験成績に関する資料
1. 5-FU/LVとCPT-11併用療法におけるinfusional 5-FUとbolus 5-FUの成績
5-FU/LVとCPT-11併用療法は5-FUの投与方法がbolus (0038試験)
4)であってもinfusional (V303試験)
11)であっても、上記のMayo療法りも延命効果があることが示され、CPT-11+5-FU/LV療法は、転移性結腸・直腸がん患者の統計学的に有意な無増悪生存期間(PFS)の延長(p<0.001)、および全生存期間の延長(P=0.009)をもたらすことが明らかになった
12)。現在わが国においては、大腸癌に対して最も有効な治療方法はbolus 5-FU/l-LV+CPT-11(IFL療法)であると考えられる。
その後、bolus 5-FU/LV+CPT-11とinfusional 5-FU/LV+OHP (FOLFOX)との比較試験が行われた結果、FOLFOX療法はbolus 5-FU/LV+CPT-11よりも延命効果を示した
1)が、FOLFOXとinfusional 5-FU/LV+CPT-11との比較では奏効率・生存期間ともほぼ同等であった
2)。間接的ではあるがこの2つの試験の結果より、CPT-11との併用においても5-FU/LVの投与方法はbolusよりもinfusionalの延命効果が大きいことが示唆される。
表6 5-FU/LV+CPT-11の第III相比較試験
試験名
治療方法
症例数
奏効率(%)
生存期間(月)
N9741 1)
Bolus 5-FU/LV+CPT-11
264
31
15.0
Infusion 5-FU/LV+OHP(FOLFOX4)
267
45
19.5
GERCOR 2)
Infusion 5-FU/LV+CPT-11
109
56
21.5
Infusion 5-FU/LV+OHP(FOLFOX6)
111
54
20.6
また、上記のbolus 5-FU+CPT-11(0038試験)とinfusional 5-FU+CPT-11(V303)試験で毒性を比較すると、Grade 3以上の下痢、好中球減少のいずれにおいてもbolus 5-FU+CPT-11の方がinfusional 5-FU+CPT-11よりも発現頻度が高く、CPT-11との併用時においてもbolusよりもinfusional 5-FU法の安全性が高いことが示唆される。特に、bolus 5-FU/LV+CPT-11(IFL療法)では、infusionalに比べて早期死亡率が高いことは重大な問題である(6. 本剤の安全性に関する評価参照)。
これまで、様々なinfusional 5-FU/LVの投与方法にCPT-11を併用した臨床試験が行われてきたが、その中で最も良好な生存期間を示したのはsLVFU2療法にCPT-11を併用したGERCOR版であり(4.本剤の位置づけの項参照)、さらにGERCOR版のFOLFIRI療法が他のinfusional 5-FU/LVと比較して手技的に簡便であることから、現在世界的にもinfusional 5-FU+LV+CPT-11の併用(FOLFIRI療法)はsLVFU2法に基づいたGERCOR版が中心であると考えられる。わが国においても、5-FU+LV+CPT-11併用(FOLFIRI療法)の国立がんセンターを中心とした第II相多施設共同臨床試験でGERCOR版を採用している(5.国内における本剤の使用状況について 参照)。
4.本療法の位置づけについて
他剤、他の組み合わせとの比較等について
OHPは米国よりもヨーロッパでの認可が先行したことを受けて、Infusional 5-FU/LVとの併用療法を中心に展開されている。FOLFOX4の5-FUの投与法はde Gramontレジメン、FOLFOX6とFOLFIRIの投与法はsLVFU2療法をベースにしている。FOLFOX4またはFOLFOX6、FOLFIRIはMSTが20ヶ月前後と良好な成績が示されおり、いずれの治療方法も世界標準治療と認識されるに至っている。
数個の比較試験の結果を用いたメタアナリシスでも二次治療以降も含めた全経過中に5-FU, OHP, CPT-11の3剤を用いた患者の生存期間が最も良好であり、infusional 5-FU/LVとOHP-basedまたはCPT-11-basedの化学療法がfirst-lineで施行され、残りのagentを2nd-lineで施行することが重要と論じられている
17)。
表7 Infuional 5-FU/LV+OHPの併用試験
試験名
治療法
症例数
奏効率
生存期間
EFC4584 18)
Infusion 5-FU/LV (de Gramont)
210
22
14.7
Infusion 5-FU/LV+OHP (FOLFOX4)
210
50
16.2
N9741 1)
Bolus 5-FU/LV+CPT-11
264
31
15.0
FOLFOX
267
45
19.5
GERCOR 2)
Infusion 5-FU/LV+CPT-11
109
56
21.5
FOLFOX6
111
54
20.6
わが国におけるOHPの治験 (ヤクルト本社)では、既にヨーロッパでFOLFOXの良好な結果が報告されていたにもかかわらず、わが国で認可されていた5-FU/LVがbolus 5-FU/l-LV (Roswell Park療法)であったためにbolus 5-FU/LV+OHP療法の第I/II相試験を施行し、本年の秋には結果が報告される予定である。しかし、bolus 5-FU/LV+OHP療法がFOLFOX療法と同等またはそれ以上の成績、安全性を示すかどうかは定かではなく、bolus 5-FU/LV+OHP療法は世界的にみて標準治療とはいえない。
さらに、欧米ではCapecitabineなどの経口フッ化ピリミジン剤、Cetuximab、BevacizumabやPTK/ZKなどの分子標的薬剤などの新規抗がん剤の開発のための多くの臨床試験が現在の標準治療であるInfusion 5-FU/LV+OHP (FOLFOX4療法)をベースに展開されている。今後も大腸癌における抗がん剤の開発スピードはわが国より欧米の方が先行することが予想され、わが国での認可がbolus 5-FU/l-LVに限られていることは、今後欧米から発信された新治療法の外挿において障害になると考えられる。
5.国内における本剤の使用状況について
公表論文等
・現在、国内の実施医療ではde Gramont療法、AIO療法、sLVFU2療法は一般的には行われていないが、FOLFIRI療法の第I相試験の結果が国立がんセンターから2004年日本癌治療学会で発表予定である。
・上記のde Gramont療法、AIO療法、sLVFU2療法を施行するにあたって、infusional 5-FU/LVは、現在承認されているRoswell Park療法よりも手技的には煩雑であるが、最近では持続静注用の皮下埋め込み式のポートとバルーン式の持続静注用ポンプが使用可能であるために、外来治療でも簡便に施行可能である。従って、infusional 5-FU/LV承認後、Roswell Park療法よりも効果・安全性において優れているde Gramont療法、AIO療法、sLVFU2療法が一般的に使用されることが予想される。
6.本剤の安全性に関する評価
「2.公知の取扱いについて」に記載したように、5-FU/LVは現在わが国で認可されているbolusよりもinfusionの方が安全性の高いことは、de Gramont療法、AIO療法を中心として、第III相試験の結果示された。sLVFU2の毒性については、第I/II相試験の結果ではあるが、Grade 3の毒性はLevel 1(5-FU 2.4g/m
2)で3%、Level 2(5-FU 3g/m
2)では0%、Level 3(5-FU 3.6g/m
2)では16%であり、sLVFU2療法は少なくとも他の5-FUとロイコボリンの併用方法より毒性も低く、簡便であると結語されている
20)。
5-FU/LVとCPT-11の併用療法において、術後補助化学療法におけるbolus 5-FU+CPT-11(IFL療法)と5-FU/LV(Roswell Park療法)の第III相比較試験(C89803試験)では、60日以内の早期死亡率がRoswell Park療法群の0.8%に比較してIFL療法群で2.5%と高かったために試験中止となった
15)。IFL療法において60日以内の早期死亡率が高いことが問題とされ、N9741試験の第2ステージではIFL療法の用量の見直しがなされ、CPT-11を125mg/m
2→100mg/ m
2、5-FUを500mg/ m
2→400mg/ m
2と変更され現在進行中である。改定されたCPT-11の用量は本邦で施行されているCPT-11の用量と同じであり、60日以内の早期死亡がFOLFOX4群で2.0%、改訂IFL群で2.7%と2004年6月のASCOで報告された
16)。このように、IFL療法の投与量については、日米間で差がなくなっている。2003年の癌治療学会において、本邦のIFL療法の安全性に関する2つのretrospectiveな検討が報告され、0038試験の結果と比較して、少数例ではあるが毒性に関して欧米での毒性の頻度と同等、もしくはむしろ低い頻度であるとする結果が示された
13, 14) 。
切除不能・再発大腸癌に対するN9741試験の第1ステージでも60日以内の早期死亡がFOLFOX4療法群の1.8%に比してIFL療法群では4.5%と高かった
15)。このように、de Gramont+OHP(FOLFOX4)療法, sLVFU2+CPT-11(FOLFIRI)療法ともに、わが国の一般診療で使用されているbolus 5-FU/LV+CPT (IFL)療法よりも安全性が高いことが報告されているため、わが国においても、infusional 5-FU+l-LV療法は現在用いられているIFL療法よりも安全に行うことができると予想される。ただし、国内の実施医療ではde Gramont療法、AIO療法、sLVFU2療法は一般的には行われていないため、安全性の確認のために当初はがん療法に精通した医師の下で使用するなどの対応が考えられる。
表8 5-FU/LV+CPT-11併用療法における毒性のbolusとinfusionalの比較
4, 11, 13, 14)
Grade 3/4の毒性の頻度(%)
V303試験 11)
0038試験 4)
本邦 13, 14)
% Grade 3/4
(CPT-11+infusional 5-FU)
deGramont/AIO+CPT-11
n=145/ 54
(CPT-11+bolus 5-FU)
IFL
n=225
(CPT-11+bolus 5-FU)
IFL
n=10/ 8
好中球
46.2/ 28.8
53.8
40.0/ 13.0
発熱性好中球減少
3.4/ 9.3
7.1
-/ 0
Grade3-4の好中球減少を伴う感染
2.1/ 1.9
1.8
-/ 0
下痢
13.1/ 44.4
22.7
0/ 0
嘔吐
2.8/ 11.1
9.7
0/ 0
粘膜炎
4.1/ -
2.2
0/ 0
文献4, 11, 13, 14)から抜粋(一部改変)、-: 文献中に記載無し
7.本剤の投与量の妥当性について
現在、国内の実施医療ではde Gramont療法、AIO療法、sLVFU2療法は一般的には行われていない。現在進行中の医師主導自主研究でFOLFIRI療法が検討されており、「転移・再発大腸癌患者を対象とした5-FU/l-LVとCPT-11併用(FOLFIRI療法)の臨床第I相試験」では、欧米と同等の用法,用量であるCPT-11 180mg/m2のFOLFIRI療法を施行し用量制限毒性(DLT)の発現は認められなかった。また、昨年の癌治療学会にて小松らは 19)、FOLFOX4療法が安全に施行可能であったと報告している。まだ少数例での検討であるが、FOLFIRI療法、de Gramont療法の外挿可能性が示唆される。
以上より、infusional 5-FU/l-LV療法において欧米と同じ投与量はわが国においても妥当であると考えられる。
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