米国は、5月3日午後、2009年9月末現在の国防省管轄下の核兵器の保有量について5113と発表しました。同時にこれまで未発表だった1962年以来の保有核のデータと、1994年以来の解体数についても公表しました。5113発という数字には、退役となりエネルギー省に管轄の移った解体待ち退役核数千発は含まれていません。
「米国科学者連合(FAS)」と「自然資源防護協議会(NRDC)」が同日午前にFASのサイトに載せていた「保有核」の推定は5100でした。FAS/NRDCの推定の精度は、さすがと言うべきでしょう。『米国核兵器ストックパイルの透明性向上』と題されたファクトシート(2010年5月3日付け, pdf)では、戦略核、非戦略核の内訳が公表されていません。FASのハンス・クリステンセンは、今回のデータ公表を画期的なことと歓迎しながらも、透明性を高めるためには、これらのデータも合わせて公表するべきだと指摘しています。配備戦略核については、2010年4月27日付けの国務省ファクトシート『核不拡散条約:軍縮の推進』(英文, pdf)が2009年12月31日現在、1968と発表しています。現在の削減のペースで行くと、今年中に新START条約の上限1550との規定を達成するだろうとクリステンセンは見ます。以下、今回の公表データを計算に入れたFAS/NRDCの推定による米国保有核兵器量の推移を表すグラフ、核兵器データと公表前にFASのウェブサイトに載っていた世界の核兵器推定データ、そして、国防省のファクトシート全訳を掲載します。
- FAS/NRDCによる米国の保有核推定 1945─2010年
- FAS/NRDCによる2010年の米国の核兵器推定
- FAS/NRDCによる世界の核兵器推定データ (2010年5月3日午前)
- 2010年5月3日午後発表ファクトシート全訳
FAS/NRDCによる米国の保有核推定 1945─2010年
FAS/NRDCによる2010年の米国の核兵器推定
米国の核兵器推定 2010年- a 450発のICBM核弾頭の95%と4隻のSSBN搭載384発と推定
- b これに加えて、約1万4000のプルトニウム・ピット[芯]がテキサス州のパンテックス・プラントに保管されている。
[国防省]保有核(stockpile)は、米国の核兵器の総数の極一部でしかない。我々は、組み立て済み核弾頭の総数は、9600発近くと推定する。退役核の解体の進行を考慮すると、これより少し少ないかもしれない。 - 訳注:2009年12月31日現在1968という数字は、国務省ファクトシート(2010年4月27日, pdf)から
出典FAS/NRDC Estimated U.S Nuclear Weapons Inventories, 2010
FAS/NRDCによる世界の核兵器推定データ (2010年5月3日午前)
2010年世界の核戦力の状況 (FAS:2010年 5月 3日)operational 予備含む保有核総数
stockpile 解体待ち退役核 退役核含む総数
(内非戦略5390) 左のうち約3,000 約12,000
出典: Federation of American Scientists : Status of World Nuclear Forces
2010年5月3日午後発表ファクトシート全訳
[2010年5月3日
ファクトシート
米国核兵器ストックパイルの透明性向上
米国は、米国の「保有核(stockpile)」に関する新しく機密解除された情報を発表する。世界の核兵器に関する透明性の拡大は、不拡散努力にとって、そして、新START条約の批准・発効後の追加的削減──配備及び非配備、戦略的及び非戦略的核兵器のすべてを対象とする──の追求にとって重要である。
保有核(Stockpile)
2009年9月30日現在、米国の保有核兵器は、5113個の核弾頭からなっている。この数は、1967会計年度末[1967年9月30日]の保有核兵器のピーク(3万1255)と比べると84%削減されており、1989年末にベルリンの壁が崩壊した時のレベル(2万2217)と比べると75%の削減となっている。下のグラフは、1945年から2009年9月30日の期間の米国の保有核の量を示している。
核弾頭の解体
1994会計年度から2009会計年度までの間に、米国は、8748個の核弾頭を解体した。この他数千の核兵器が退役して解体を待っている。
非戦略核兵器
米国の非戦略核兵器の数は、1991年9月30日から2009年9月30日の間に約90%減少した。
グラフ 米国の保有核兵器 1945─2009年*
*「現用(active)」及び「非現用(inactive)」を含む。この他に数千の核弾頭が「退役(retired)」となっていて、解体を待っている。
1962 25,540 1986 23,317
(会計年度1994─2009年)(訳注)
訳注:以前のデータ公表(英文)はこちら: Declassification of Certain Characteristics of the United States Nuclear Weapon Stockpileとこちら: Declassified Stockpile Data 1945 to 1994
上の表の見やすいバージョンはこちらDOE Facts - Declassification of Certain Characteristics of the United States Nuclear Weapon Stockpile
定義
- 「保有核(stockpile)」には、「現用(active)」と「非現用(inactive)」の両種の弾頭が含まれる。現用核弾頭には、「運用態勢(operational)」の使用準備状態で維持された──短期の時間枠で配備されうる状態になければならない──戦略及び非戦略核弾頭と、補給スペアが入る。これらの核弾頭には、トリチウム・ボトル(訳注)その他の「限定的寿命部品(LLC=Limited Life Components)」が入っている。非現用の核弾頭は、貯蔵所に置かれ、「非運用態勢(non-operational)」で維持されており、そのトリチウム・ボトルは取り外されている。
- 「退役(retired)」核弾頭は、その運搬プラットフォームから外され、「機能状態(functional)」ではなく、保有核の一部とは見なされない。退役核弾頭は、解体の順番待ちとなる。
- 解体済み核弾頭は、部品に分解された核弾頭である。
訳注:
トリチウムは、ブースト型と呼ばれる原爆(水爆の引き金部分)で核分裂の効率を上げるのに使われる。トリチウムは、起爆の際にボトルから中空のプルトニウムの中心部に注入される。トリチウムは約12年半の半減期で減少するので、定期的にボトルの取り替えが必要。次を参照:水爆開発から核実験へ