仁科会館

仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

第30回 仁科芳雄博士生誕日記念科学講演会

  • 令和6年12月10日(火)
  • 里庄総合文化ホール フロイデ大ホール
五神 真先生

講師 : 五神 真(ごのかみ まこと)先生国立研究開発法人理化学研究所理事長、東京大学大学院理学系研究科特任研究員、東京大学未来ビジョン研究センター客員教授

演題:最先端研究への招待

講演概要

学生時代に「ガラスはなぜ透明か」ということを物理学で考えたらどうなるか、ということがきっかけで光と物質の研究に入り込み、気がつくと 40 年余り、光と量子科学の研究の最前線でハラハラドキドキしながら研究を続けてきました。科学の発展を国内外の仲間や学生達と共に体験してきました。この間、半導体エレクトロニクスの飛躍的な進歩によってレーザー技術や光技術が格段に進歩し、それが物理学の革新的な進歩をもたらしました。そんな中、2015 年から 6 年間東京大学の総長となり、また 2022 年 4 月からは理化学研究所の理事長に就任し、桁違いに広く、そして深い知の世界が広がっていることを体感しています。理研で行っている最先端研究の面白さを紹介しながら、皆さんに科学研究がいかにワクワクするものか、お伝えしたいと思います。

講演の様子

地元の中学生と一般聴講者約500名を前に、ご講演をいただきました。

冒頭では、地球規模の課題が深刻化している現状が示されました。新型コロナウイルス感染症は世界中に広がり、地球温暖化によって日本の気候は温帯から亜熱帯へ移行しつつあります。専門家の中には「対策のタイムリミットは2030年」と警鐘を鳴らす人もいます。

しかし未来は決して悲観すべきものではないと、五神先生は1970年代の多摩川の写真を示されました。生活排水で泡だらけだった川は、現在では大きく改善され、美しい姿を取り戻しています。人間が引き起こした問題は、人間の力で解決できること、そしてその過程で科学が重要な役割を果たすことを象徴する事例として紹介されました。

続いて、ご自身の研究の紹介がありました。東京大学で光と物質の相互作用を理解し制御する研究を進め、香取先生との共同プロジェクトでは「光格子時計」開発につながる研究を主導しました。光格子時計を用いて、スカイツリーの展望台に置いた時計が地上よりわずかに遅れることを測定し、アインシュタインの一般相対論が予言する「重力による時間の遅れ」を精密に確認しました。この技術は地球内部の変動を捉える可能性をもち、地震予知や火山噴火の監視に役立つと期待されています。

2015年に東京大学総長となった際の入学式での祝辞にも触れられました。「知のプロフェッショナル」になるためには、3つの基礎力-新しい発想を生み出す力、考え続ける力、原理に立ち戻る力-に加え、多様性を尊重し自己を相対化する視野が不可欠だと語られたそうです。これらは中学生にもぜひ実践してほしいとメッセージを送ってくださいました。

講演では理化学研究所と仁科博士の研究にも触れられました。仁科博士は宇宙線研究の先駆者で、その成果は日本へ2度のノーベル賞をもたらしたニュートリノ研究へとつながるものです。

最後に、「今は変化の時代です。変化に流されるのではなく、自ら変化を生み出す絶好の機会ととらえ、楽しんで挑戦してほしい。」と中学生に力強いエールが送られました。

多様な内容を明快にまとめた、非常に示唆に富む講演でした。

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