HIT/抗PF4抗体疾患部会
部会長 金子 誠(三井記念病院 臨床検査部)
a) 第18回SSCシンポジウム
テーマを「各領域におけるHIT診断・治療の最新の動向」として発表した.心臓血管外科領域におけるHIT診断・治療の最新の動向は,本橋慎也先生,透析領域におけるHITは土井洋平先生,救急領域における網羅的HITスクリーニングについて,高橋悠希先生にご講演いただいた.
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
北海道大学で行っている臨床研究
・ HIT疑い患者におけるイムノクロマト法(ICA)と機能的測定法(PMA)全国からHIT疑いの検体を集めて測定を行い,現在まで34例が登録された。
再検査,追跡検査を含めて70検体を測定し,継続して症例を積み重ねていく北海道大学救急科との共同研究では191例で登録終了し,現在,解析を行い,今後,報告をしていく。
c) その他の活動
・ 部会長/副部会長の交代
金子 誠/安本篤史(2024年4月〜)
・ 部会員増員
国立循環器病研究センター・分子病態部 小亀浩市(2023年10月〜)、藤田医科大学病院輸血部 石原裕也(2024年4月〜)。今後,ガイドラインの改定時にはまた増やす必要がある。
・ ヘパリン添付文書の改定
投与が必要な場合は,本剤投与後は血小板数を測定すること。HITがあらわれることがある。と変更
・ 部会名の変更
HIT/抗PF4抗体疾患部会とした.背景として,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)のほか,同様の病態であるワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)が公知となった.その他のワクチン関連や,アデノウイルス感染症(小児・成人)でもVITT発症報告があり,すべてに共通する原因が抗血小板第4因子(PF4)抗体であることから,anti-PF4 disorder(抗PF4抗体疾患)と総称し,本部会で取り扱うこととした。
・ 血栓止血学会の用語集を修正,「抗PF4抗体疾患」を追加(2023年6月)
a) SSC動画作成
・部会紹介,機能的測定法(血小板マイクロパーティクル測定法:PMA)の宣伝など
b) イムノクロマト試薬の有用性の検討
・HIT疑いの患者検体を前向きに収集して有用性を検討する
・体外循環や透析導入期のHIT未発症の患者検体を収集し,イムノクロマト試薬の偽陽性率を評価する
c) HITの診断・治療ガイドラインの改定について
・anti-PF4 disorder(抗PF4抗体疾患)という概念を広く周知
HITガイドラインのタイトル自体も変更することも考慮
d) PMAの測定の標準化
・藤田医科大学病院輸血部で測定に向けて準備中。
HIT部会
部会長 安本 篤史(北海道大学病院 検査・輸血部)
a) 第17回SSCシンポジウム
第17回SSCシンポジウムでは、テーマを「HIT診療を変えるHITの新規診断法」として発表した。宮田茂樹先生から機能的測定法の基本的な内容からその重要性についてご講演いただき、安本がイムノクロマト法による免疫学的測定法の有用性と現在、国内で行われている機能的測定法について講演した。最後に丸山慶子先生から血小板を用いない新しいHIT抗体検出法(Alpha-HITアッセイ)についてご講演いただいた。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
日本凍結乾燥研究所との共同研究で開発を進めていたHIT抗体を測定するイムノクロマト試薬が2022年に体外診断用医薬品として認可され、2023年5月に保険収載された。今後は実臨床での評価およびガイドラインにどのように組み込むかを検討していく。
c) その他の活動
・北海道大学病院検査・輸血部で進めていた機能的測定法(血小板マイクロパーティクル測定法)が確立して全国から検体を集めて測定を行う臨床研究を開始した。また、ELISA法によるHIT抗体測定についてもワクチン接種後の患者に限定して進めており、今後、HIT患者にも適応を拡大していく予定で進めている。
・ヘパリンの添付文書にはHITの既往歴のある患者への投与に対して注意事項が記載されているが現在のエビデンスと合致していない。改定前の文言は「9.1.5. ヘパリン起因性血小板減少症(HIT:heparin-induced thrombocytopenia)の既往歴のある患者:治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。HITが発現しやすいと考えられる。」と記載されているが、「9.1.5. ヘパリン起因性血小板減少症(HIT:heparin-induced thrombocytopenia)の既往歴のある患者:治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。」と変更するようにヘパリン製造会社と協議し、今後、PMDA、厚労省と修正の調整を行っていく。
・ヘパリン以外の抗凝固薬は現在、アルガトロバンのみ保険収載されている。内保連の医薬品再評価提案書にアリクストラの適応疾患の拡大と献血ヴェノグロブリンの重症・難治症例の適応拡大を提出中である。
<イムノクロマト試薬の有用性の検討>
・HIT疑いの患者検体を前向きに収集して有用性を検討する
・体外循環や透析導入期のHIT未発症の患者検体を収集し、イムノクロマト試薬の偽陽性率を評価する
HIT部会
部会長 安本 篤史(北海道大学病院 検査・輸血部)
a) 第16回SSCシンポジウム
第16回SSCシンポジウムでは、血栓性素因部会と合同開催し、テーマを「COVID-19とSARS-CoV-2ワクチンによる血栓症の最新情報」として発表した。HIT部会から3名が発表し、COVID-19患者とHIT、SARS-CoV-2ワクチンとHIT、そしてSARS-CoV-2ワクチン後の抗PF4抗体について発表した。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
・「HITの診断・治療ガイドライン」が完成し、2021年に血栓止血誌32(6):737-782にて発表した。今後はこの初版をもとに定期的に見直しをかけて更新を行っていく。
・「アストラゼネカ社COVID-19ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症の診断と治療の手引・第1〜3版」の作成協力を行った。
c) その他の活動
以前は単施設において機能的測定法が行われていたが現在は受付を停止している。現在、本邦では確立された機能的測定法を提供することはできていないため、HIT部会として重要な検討事項のひとつである。現在、北海道大学病院検査・輸血部にて機能的測定法を確立して、SARS-CoV-2ワクチン後の血栓症に対してのみ検査を受け付けている。現在、HITでも施行可能なように倫理申請を進めている。検査体制が安定してくれば同様の方法を他施設(東京大学附属病院や熊本大学など)でも施行できる体制を設立する。
・機能的測定法の確立を行う。今年度は北海道大学病院で確立して、症例数を積み重ねて、多施設でも再現性をもって実施できるようにプロトコールを作成していく。
HIT部会 部会長 安本 篤史(北海道大学病院 検査・輸血部)
a) 第15回SSCシンポジウム
HIT部会では、HITの診断・治療ガイドラインの作成を進めており、Clinical Question(CQ)を部会内で検討し、7つの大項目に分けてそれぞれのエキスパートが担当し、ヘパリン起因性血小板減少症の診断、治療ガイドライン-最終案-とのテーマで発表を行った。コロナ禍にあったが、メールにて議論を行い、最終的な推奨文と解説文を作成し、今回の発表に至った。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
HIT部会ではHITの診断・治療ガイドラインの作成を進めている。これまでにCQの決定、関連する参考文献の抽出および収集、各CQに対する推奨文及び解説文の作成まで行い、令和元年12月にHIT部会員が集まり、詳細な最終検討を行った。コロナ禍の中も活発にメールにて修正を加えて、最終案として3月に完成した。ガイドライン委員会や外部委員にご評価をいただき、次年度に発表していく予定となる。
c) その他の活動
以前は単施設において機能的測定法が行われていたが現在は受付を停止している。現在、本邦では確立された機能的測定法を提供することはできていないため、HIT部会として重要な検討事項のひとつである。HIT部会内での意見を集約した結果、北海道大学病院にて機能的測定法を確立して、同様の方法を他施設(東京大学附属病院や鹿児島大学など)でも施行できる体制を設立する。
・ガイドラインの発表を行う。
・機能的測定法の確立を行う。今年度は北海道大学病院で確立して、症例数を積み重ねて、多施設でも再現性をもって実施できるようにプロトコールを作成していく。
・新型コロナウイルスに対するワクチン、特にアストラゼネカとJ&J社のワクチンで血栓症が報告されている。原因はHITと似たような機序でおきるTTS(血小板減少性血栓症)であることから、HIT部会でも対応策に関与することになった。脳卒中学会からの依頼で、脳卒中学会、COVID-19対策チーム、HIT部会とで手引き作成を行っていく。
a) SSCシンポジウムの準備内容
HIT部会では、HITの診断・治療ガイドラインの作成を進めており、Clinical Question(CQ)を部会内でさらに検討し、7つの大項目に分けてそれぞれのエキスパートが担当し、ヘパリン起因性血小板減少症の診断、治療ガイドライン-暫定案-とのテーマで発表を行う予定だった。複数回にわたるディスカッションにて各CQに対する推奨文と解説文を作成した。今年のSSCシンポジウムにて最終版を発表し、ディスカッションを行う予定であったが、今後は部内で最終検討し、発表を予定している。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
HIT部会ではHITの診断・治療ガイドラインの作成を進めている。これまでにCQの決定、関連する参考文献の抽出および収集、各CQに対する推奨文及び解説文の作成まで行い、令和元年12月にHIT部会員が集まり、詳細な最終検討を行った。現在はフォーマット調整を行い、HITの基本事項をまとめている段階である。
c) その他の活動
以前は単施設において機能的測定法が行われていたが現在は受付を停止している。現在、本邦では確立された機能的測定法を提供することはできていないため、HIT部会として重要な検討事項のひとつである。今後はガイドラインと並行してどのような体制を作っていくかを検討する。
ガイドラインの完成に向けて活動していく。CQに対する推奨文および解説文は完成したため、ガイドラインの正式な文書を作成する。HITガイドライン作成委員会にも、適宜、意見を仰いでいく。並行して、機能的測定法の提供についても検討を重ねていく。
a) SSCシンポジウム
HIT部会では、HITの診断・治療ガイドラインの作成を進めており、平成29年度に決めたClinical Question(CQ)を部会内でさらに検討し、7つの大項目に分けてそれぞれのエキスパートが担当し、ヘパリン起因性血小板減少症の診断、治療ガイドライン策定に向けて-Clinical Questionに対する最新情報-とのテーマで発表を行った。前年度に検討したCQに基づき、抽出した参考文献から、CQに対する推奨文と解説文を提案し、ディスカッションを行った。今回の検討、討議でCQと推奨文を大枠が完成することができた。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
前年度のSSCシンポジウム後にCQを決定し、関連する参考文献の抽出および収集したところ、さらにCQを分ける必要が出たため、CQを7つの大項目に分類した。各担当を決定し、各自でCQに必要な文献の抽出および推奨文を作成し、SSCシンポジウムで発表を行った。そこで検討されたことを踏まえて、推奨文および解説文をガイドラインのフォーマットで作成していく。
c) その他の活動
以前から和中によりHITの情報提供の場としてホームページが作製されていた。定期的にホームページの更新及び症例相談にも応じている。
全国様々な病院からのHIT診断に対するコンサルテーション依頼に対応するために、本邦での機能的HIT抗体検査は、国立循環器病研究センターの宮田らによって行われている。また、HITの全国登録調査が実施され、日本のHIT疑い症例のデータは当該施設に集約されている。
ガイドラインの完成に向けて活動していく。CQに対する暫定的な推奨文および解説文は完成したため、GRADEに基づくMinds診療ガイドラインに則って、ガイドラインの正式な文書を作成する。必要に応じてHIT部会員で集まり、進捗を確認しながら進めていく。HITガイドライン作成委員会にも、適宜、意見を仰いでいく。
a) SSCシンポジウム
HIT部会では、HITの診断・治療ガイドラインの作成を進めており、平成29年度はHITの診断、治療ガイドライン策定に向けて-検討すべきClinical Question(CQ)とは-のテーマで発表を行った。臨床的診断、血清学的診断、急性期治療、慢性期治療の4つ大項目に分けて、それぞれのエキスパートから現状の問題点をあげていただき、それに基づいたCQを提示して、ディスカッションを行った。今回の検討、討議でガイドラインに必要なCQを網羅することができた。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
「HITの診断・治療ガイドライン作成委員会」設置を日本血栓止血学会理事会に申請し、承認された。委員長は矢冨裕、副委員長は宮田茂樹とし、部会外委員、外部委員もそれぞれ選出し、承認された。並行して、ガイドラインの作成も進めており、SSCシンポジウム後にCQを決定し、CQに関連する参考文献の抽出および全参考文献の収集も完了した。
c) その他の活動
全国様々な病院からのHIT診断に対するコンサルテーション依頼に対応するために、本邦での機能的HIT抗体検査は、国立循環器病研究センターの宮田らによって行われている。また、HITの全国登録調査が実施され、日本のHIT疑い症例のデータは当該施設に集約されている。今後、検体の二次利用が可能となるように研究計画の変更について、倫理申請が行われている。
ガイドラインのCQ設定と関連する参考文献の収集は完了したため、平成30年度は、HIT部会員で分担して、GRADEに基づくMinds診療ガイドラインに則って、ガイドラインを作成していく。定期的にHIT部会員で集まり、進捗を確認しながら進めていく。HITガイドライン作成委員会は設置されたため、適宜、意見を仰いでいく。
国立循環器病研究センターでの倫理申請が通過したところで、HIT血液検体の二次利用も検討していく。また、引き続き全国登録調査の集計も行い、ガイドライン作成の資料としての利用も考える。
a) SSCシンポジウム
抗血小板第4因子(PF4)/ヘパリン抗体が細菌や核酸(DNAやRNA)などにより誘導され、ヘパリン投与歴のない整形外科術後患者や感染症患者でspontaneous HIT syndromeが発症する報告が増加している。SSCではまずspontaneous HIT syndromeの一症例が提示され、そのメカニズムおよび適切な診断へのアプローチについて概説された。最後にmouse HIT抗体を用いたspontaneous HIT syndromeのin vitroモデルの確立とその基礎的検討についての発表がなされた。
spontaneous HIT syndromeの詳細な検討は、HIT発症メカニズムを理解するうえでも重要である。特異的なHIT免疫応答の理解が、適切なHIT診断、治療につながるため、今回の検討、討議は、今後のHIT診断ガイドライン作成にも、重要な情報を与えるものと考えられる。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
HITの診療ガイドライン作成を目指すこととなった。
c) その他の活動
全国様々な病院からのHIT診断に対するコンサルテーション依頼に対応するために、本邦でのfunctional assayは、国立循環器病研究センターの宮田らによって行われている。また、HITの全国登録調査が実施され、日本のHIT疑い症例のデータは当該施設に集約されている。今後、検体の二次利用が可能となるように研究計画の変更について、倫理申請が行われている。
ガイドラインの作成に向けて、動き始める。GRADEに基づくMinds診療ガイドラインに則って、ガイドライン策定を行う予定。まずはガイドライン作成委員会の申請を行うこととし、部会員、関連他学会、部会員以外での学会員からの委員選定を行う。また、ガイドライン作成に必要な論文の選定と要約のまとめを早い時期から開始したい。
国立循環器病研究センターでの倫理申請が通過したところで、HIT血液検体の二次利用も検討していく。また、全国登録調査の集計も平行して行うことで、ガイドライン作成の資料としても有用となる。
a) SSCシンポジウムの内容
1.ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)最適診断法の確立
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)では、ヘパリン投与により、HIT抗体〔血小板活性化能を持つ抗血小板第4因子(PF4)/ヘパリン抗体〕の産生が誘導され、トロンビン過剰産生を招き、高頻度(患者の約半数)で血栓塞栓症を合併する。
血清学的診断法として、現在、主に実施されている免疫測定法(antigen immunoassay:2012年に薬事承認されたラテックス凝集法、化学発光免疫測定法による抗PF4/ヘパリン抗体測定法を含む)については、感度に優れるものの、特異度が低く、偽陽性を示す割合が多いことが確認された。また、HIT抗体には多様性があり、僅かではあるが試薬間で測定結果に乖離が認めることがあり、一つの試薬で陰性でも、臨床的にHITが強く疑われる場合には、他の試薬あるいは他の方法(functional assay)での測定が重要であることが指摘された。また、抗体価の強さを考慮することで、特異度を改善できる可能性が示唆された。
しかしながら、HITの最適診断法として、患者血清に含まれる抗PF4/ヘパリン抗体が、血小板活性化能を保持する抗体(HIT抗体)かどうかを検出できるfunctional assayの重要性が確認された。感度、特異度に優れるfunctional assayの実施には、適切なドナーからの洗浄血小板を用いたアッセイの確立が重要であり、HIT抗体によりヘパリン濃度に依存して活性化される血小板から放出されたmicroparticleをflow cytometryを用いて検出する方法、また、血小板から放出されたセロトニンをHPLCで測定することにより、functional assayが実施可能であることが報告された。特に、microparticleをflow cytometryを用いて検出する方法による検討では、functional assayによる血小板活性化能の検出によって、治療予後も予測できる可能性があること、特に強陽性を示す症例では、HITが疑われた時点で遅滞なく抗凝固療法を始めることで、それ以降の血栓塞栓症の発症を抑制できる可能性があることが示された。
また,HIT抗体による血小板活性化のメカニズムとして、CD9抗体と類似性を有するユニークな血小板活性化経路を有し,その重要性が最近海外から報告された。しかし、この活性化経路における12-リポキシゲナーゼ活性化は,必ずしもHIT抗体による血小板活性化に特異的ではないことが指摘された。HIT抗体による血小板活性化はサイトカラシン感受性の細胞骨格再編成に依存し,至適濃度のサイトカラシンを用いることにより,機能的測定法の質を高めることができる可能性が報告された。
2.HIT既往患者へのヘパリン投与の是非
HIT既往患者へのヘパリン再投与は原則禁忌とされ、HIT既往患者で、ヘパリンを投与せざるを得ない状況(人工心肺を用いた手術など)での対応に苦慮する。これら問題の解決策を検討した。
透析患者で、HITを発症し、感度の高い免疫測定法で陰性化を確認した後のヘパリン再投与で、HIT再発を示唆する症例が報告された。この症例では、ヘパリン再投与時のfunctional assayが陽性であり、そのために再発したものと考えられた。functional assay陰性化を待ってヘパリンによる血液透析再開に成功した。透析HIT患者におけるヘパリン再投与のコンセンサスに関しては今後も検討を続けていくことの重要性が指摘され、必要に応じてより感度・特異度に優れたfunctional assayの結果に基づく判断の必要性が指摘された。
心臓外科医にとって、未だHITが良く理解されているとはいいがたく、適切な診断が行われず、安易にアルガトロバンでの人工心肺管理を選択するケースが散見される。その場合に、アルガトロバンによる人工心肺管理が困難となりうること、また、術後に止血困難となった症例について検討された。臨床的所見を的確に判断し、IgGクラス限った免疫測定法、洗浄血小板を用いた機能的測定法に基づく診断により、HITを的確に診断し、人工心肺管理時の抗凝固薬の選択を行うことの重要性が指摘された。
HIT既往患者で、functional assayが陰性化したのち、たとえ免疫測定法が陽性であっても患者の状態を考え、ヘパリン再投与による人工心肺管理や血液透析を行なった症例について検討された。結果、ヘパリン再投与後、HIT再発を認めた症例はなかった。ただ、再投与4日目以降にHIT抗体の再上昇を認める症例があり、特にヘパリン非依存性の強いHIT抗体である場合には、HIT再発につながる可能性がある。よって、ヘパリン再投与の際に以下の2点に留意することの重要性が指摘された。
1)人工心肺中のみヘパリンを使用し、術後は使用しない。
2)再投与後には、血小板数や、TATなどによるトロンビン産生の有無をモニタリングするとともに、再投与後少なくとも5日目、14日目にはHIT抗体再上昇の有無につき、検討を行う。
b) その他の活動
HIT疑い症例の全国登録調査(HITレジストリ)を継続
国立循環器病研究センター倫理委員会の承認を得て、HIT疑い症例の全国登録調査を継続して実施した。
c) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
今後、上記の検討結果などを踏まえ、本邦独自のHIT診断基準、治療指針の策定につなげていくことを確認した。
HITはclinicopathologic syndromeとしてとらえるべきとされ、HIT診断は臨床症状と血清学的診断を組み合わせて行うことの重要性が指摘されているが、実態としてその診断は必ずしも容易ではない。
血清学的診断法として、従来主に行われてきた免疫測定法(antigen immunoassay:2012年に薬事承認されたラテックス凝集法、化学発光免疫測定法による抗PF4/ヘパリン抗体測定法も免疫測定法)については、感度に優れるものの、特異度が低く、偽陽性を示す割合が多いことが、いくつかの施設での検討で確認された。免疫測定法に過度に依存したHIT診断における、過剰診断の懸念が指摘された。
また、臨床的診断法で一般的に用いられている4T’s スコアリングシステムを用いても、臨床的情報のみでHITを診断することは困難であることが指摘された。特に、4T’s スコアについても、異なる判定者による最終的なスコアに乖離が生まれるという問題も報告され、今後さらに、HITの臨床的診断法ならびに血清学的診断法改善の重要性が指摘されている。
近年、抗PF4/heparin抗体は、heparin投与を行わなくても、他のpolyanion、たとえば、細菌表面、核酸(DNA, RNA)によっても誘導されることが指摘されている。実際、heparin投与歴のない整形外科術後患者(手術による組織破壊などにより核酸が放出される)や感染症患者(細菌表面や細菌、ウイルスの崩壊による核酸の放出)でのHIT発症の報告が増加している。本邦においても、まったくヘパリン投与歴がなく、入院歴もない患者でのspontaneous HIT syndrome 発症が報告され、その診断基準についても検討された。heparin投与歴のない症例でHITを疑うことは難しいため、見逃されている可能性が指摘されている。
現在の本邦のヘパリンの添付文書では、HIT既往患者でのヘパリン再投与は禁忌とされるが、HIT既往患者に対して、ヘパリンの再投与をした場合の抗体価の推移や再発率は未だ大規模なデータがなく、世界的にも関心事となっている。特に、心臓血管外科患者や血液透析患者では、ヘパリン再投与が可能かどうかは、患者予後を左右する重大な問題となる。
本邦で少数ながら検討された結果では、HIT抗体が陰性化したのちは、少なくとも短期間に限ったヘパリン再投与が安全に実施できる可能性が高いが、再発例の報告もあり、今後さらなる検討が必要と認識された。
皮肉にも優れた抗凝固薬であるヘパリンが誘引となり、免疫学的機序により血小板減少とともに重篤な血栓塞栓症を引き起こす「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT: heparin-induced thrombocytopenia)」という疾患の病態が近年、急速に解明されつつある。
本邦でもようやく2006年4月にヘパリンの添付文書が改訂され、HITが重篤な副作用として認知された。しかしながら、現時点において、HITの治療薬、診断薬としてわが国において薬事法上承認されたものはない。このため、臨床上大きな混乱を招いており、その対策が急務となっている。
HIT部会では、ヘパリン起因性血小板減少症の本邦における診断基準、治療指針の策定に向けて、活動を行っている。
平成18年度には、本邦におけるHITの発症割合ならびにHITの現状を把握するために、岡本歌子先生を代表とするHIT情報センターを中心として、本邦におけるHIT症例の集積とその検討を行うととともに、レトロスペクティブならびにプロスペクティブコホート研究を行ってきた。
特に、ヘパリン投与が必須である心臓血管外科手術ならびに経皮的冠動脈インターベンション施行患者を対象とした、多施設共同プロスペクティブコホート研究(循環器病研究委託費 15公-1)を実施し、全国11施設より合計1,554名の登録が行われた。現在その解析を実施している。
また、本邦においてHIT治療薬として薬事法上承認されたものはない現状を打破するため、アルガトロバンのHITに対する臨床試験(自らが実施する治験)(厚生労働科学研究費補助金:治験推進研究事業 大規模治験ネットワーク:日本医師会 治験促進センター)を実施した。本治験は本邦における初めての医師主導治験の1つとして実施された。全国20施設の御協力を得て、最終的に8症例が登録された。現在、解析を実施している。また、海外のHIT研究者とも連携を取り、情報収集を行っている。