a)第18回SSCシンポジウム
凝固線溶検査は血栓性疾患の診断、病態評価や治療に必須であることから、血栓性素因部会と協力したより確実な検討やエキスパートコンセンサス作成を目的に、両部会で合同シンポジウムを企画した。
下記セッションで、ヘパリンやアルガトロンバンのモニタリング検査としてのAPTT試薬の薬剤感受性や、特発性血栓症の診断に必要なATおよびPSの健常成人における基準値および病態識別のcut-off値設定について報告され、議論が行われた。
テーマ:凝固線溶検査の標準化と啓発
座長:家子正裕(札幌保健医療大学保健医療学部看護学科)、山崎昌子(千葉大学大学院医学研究院人工知能(AI)医学)
1. 凝固線溶検査部会企画
凝固波形におけるDOACs低濃度を予測する指標の探索(凝固線溶検査部会多施設共同研究):嶋﨑悠斗(千葉大学)山崎昌子(千葉大学大学院医学研究院人工知能(AI)医学)ほか
2. 合同企画
1) 1 未分画ヘパリンに対する各種APTT試薬の感受性:山﨑哲(聖マリアンナ医科大学病院)
1) 2 アルガトロバンにおける各種APTT試薬の感受性:熊野穣(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
2) 凝固制御因子検査の標準化と周知・啓発―アンチトロンビン(AT),プロテインS(PS)について:内藤澄悦(北海道医療大学病院)
b)ガイドライン・診断基準・共同研究などの成果
部会の共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」を推進した。APTTやPTおよびその凝固波形解析パラメータに測定装置、試薬や手技に起因する差が認められることおよび機械学習を用いたDOACs低濃度検体を予測するモデルの構築について、第18回SSCシンポジウムにおいて発表し、第46回日本血栓止血学会において発表する。
c)その他の活動
「1. DOACs内服症例における凝固検査値の施設間差および血中濃度との関連、2. APTT試薬のアルガトロバン感受性のin vitro での検証」の研究課題でSSC活動費に応募し、研究実施に向けた倫理申請などの準備を開始した。
●くろまる 第19回SSCシンポジウムに凝固線溶検査部会としてプログラム参画する(他部会との合同企画を検討する)
●くろまる 昨年度からのプロジェクト「1. DOACs内服症例における凝固検査値の施設間差および血中濃度との関連、2. APTT試薬のアルガトロバン感受性のin vitro での検証」を継続する
●くろまる 新プロジェクト「APTTの基準範囲の設定方法と結果の解釈」の標準化を目指す
●くろまる 新プロジェクト「クロスミキシングテスト(CMT)の推奨法」の標準化を目指す
●くろまる 新プロジェクト「活性化凝固時間(ACT) の推奨法」の標準化を目指す
●くろまる 部会活動の成果を広報し、啓発活動を行う
a)第17回SSCシンポジウム
第17回SSCシンポジウム(2023年2月18日WEB開催)において血栓性素因部会との合同で「凝固線溶検査標準化の現状と課題」を企画した。後半4演題を担当し、凝固線溶検査標準化の現状と課題について議論した。
1. DOAC 療法における凝固検査の現状と課題
1)DOAC 服用検体の凝固波形解析
藤森祐多(慶応義塾大学病院臨床検査技術室)
凝固線溶検査部会の多施設共同研究検体を用いた検討から、DOAC血中濃度と補正した凝固波形解析指標との相関はエドキサバンとリバーロキサバンで強く、アピキサバンとダビガトランでは弱いか認められないことが報告された。
2)DOAC 療法下での出血リスクの評価と確認試験
大村一将(北海道医療大学歯学部内科学分野)
直接活性化第X因子阻害薬服用患者と正常血漿の希釈プロトロンビン時間に基づく阻害トロンビン生成比率(RITG)は、DOAC療法中に出血を合併した患者で高値を示すことが報告された。RITGは残存凝固能を評価し、出血ハイリスク患者に有用な試験として期待される。
3)DOAC の凝固検査への影響
松田将門(福島県立医科大学保健科学部臨床検査学科)
DOAC服用中の患者の術前スクリーニング検査では、止血能、凝固因子インヒビターやループスアンチ子アグラントが正しく評価されない危険性について、演者の経験症例を基に解説された。
2.日本検査血液学会との連携と取組み
橋口照人(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 血管代謝病態解析学)
日本検査血液学会・血栓止血検査標準化委員会における採血から測定までのプロセスを考慮した検査標準化の活動と、凝固線溶検査部会の「病態と検査値の特性」の観点からの活動の連携により、標準化を基盤とした多角的病態解析を発展させていく重要性が強調された。
b)ガイドライン・診断基準・共同研究などの成果
部会の共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」における凝固波形解析結果を第45回日本血栓止血学会学術集会およびISTH2023において発表した。
第45回日本血栓止血学会学術集会「直接経口抗凝固薬服用患者の凝固波形解析 ー学術標準化委員会凝固線溶検査部会多施設共同研究ー(口演/ポスター)」
ISTH2023「Correlations between concentrations and anticoagulant effects are different among direct oral anticoagulants administered to patients(ポスター)」
1 DOACs内服症例の臨床検体を用いて、凝固検査、凝固波形解析、DOACs血中濃度の追加測定を行い、DOACs血中濃度と関連する指標や施設間差について検討する。
2 DOACs内服検体の凝固検査で得られた透光度データを機械学習により解析し、DOACs血中濃度と関連する指標について検討する。
3 凝固線溶検査標準化の現状について、血栓止血学会ホームページ上で情報発信していく準備を進める。
a)第16回SSCシンポジウム
第16回SSCシンポジウム(2022年2月19日WEB開催)において、「凝固線溶検査ー検査室から臨床へ」を企画し、凝固線溶検査の進歩や臨床での結果解釈における
ピットフォール、血栓症と出血を合併する病態を取り上げ、最新の情報を紹介した。凝固線溶検査を有効に活用していくためには、専門的な知識を有する検査室から臨床への提言が重要であることが改めて認識された。
1)凝固波形解析の進歩〜検査室から迫る病態へのアプローチ〜
徳永尚樹(社会医療法人川島会 川島病院 検査室)
凝固波形解析の進歩と臨床応用、人工知能の導入等による今後の発展が解説された。
2)DOACs投与患者検体における新規希釈PT試薬の有用性検討
熊野穣(Research & Development Division, HYPHEN BioMed、シスメックス株式会社、直接(新規)経口抗凝固薬の効果確認方法に関する研究会)、家子正裕(岩手県立中部病院、北海道医療大学 歯学部 内科学講座、直接(新規)経口抗凝固薬の効果確認方法に関する研究会)
新規希釈PT試薬による測定は高感度にDOACs血中濃度と相関するとともに、被験者自身の凝固因子活性の低下も反映することが報告された。
3)外注検査のピットフォール
小宮山豊(北陸大学 医療保健学部)、松田将門(新潟大学医歯学総合病院 検査部)
凝固線溶検査の外部委託を有効に活用するために避けるべき検査前誤差や、結果解釈における注意点が紹介された。
4)Thrombosis in myeloproliferative neoplasms
横山健次(東海大学医学部付属八王子病院)
Myeloproliferative neoplasms 患者の血栓症や出血の機序と特徴が解説された。
b)ガイドライン・診断基準・共同研究などの成果
部会活動のテーマである「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」の推進に向け、DOACs内服症例の臨床検体を用いて凝固検査と凝固波形解析を行うとともに透光度データを収集した。
c)その他の活動
第16回SSCシンポジウムの担当部会として開催した。
1 DOACs内服症例の臨床検体における凝固検査で得られた透光度データを人工知能により解析し、DOACs血中濃度と関連する指標や施設間差について検討する。
2 関連学会における凝固線溶検査の標準化に関する活動や凝固線溶検査に関する最新情報を調査する。
a) SSCシンポジウム
第15回SSCシンポジウム(2021年2月27日WEB開催)において、血栓溶解部会との合同で「線溶系の基礎と臨床」を企画し、第二部を担当した。線溶検査は血栓性および出血性疾患の病態解明と治療の進歩に必要で、検査の確立と標準化は重要な課題であることが再認識された。
1) 藤森祐多先生(慶應義塾大学病院 臨床検査技術室)は、「線溶検査に関する最新の動向ー凝固波形解析の応用を中心にー」において、包括的な線溶能の評価法であるROTEM、トロンビン・プラスミン生成試験と凝固線溶波形解析の方法、特徴と課題を解説した。
2)「代表的な線溶異常の病態と検査」では5つの病態を取り上げた。
1.長尾毅彦先生(日本医科大学多摩永山病院 脳神経内科)は、「CAT (cancer-associated thrombosis) とTrousseau 症候群の定義の異同ーわれわれは誰をトルーソーと呼ぶべきか?ー」において、悪性腫瘍と血栓症の合併に関する用語の現状を解説し、CATの病態解明や治療の発展には定義の統一が必要なことを強調した。
2.荒幡昌久先生(南砺市民病院 内科)は、「ALアミロイドーシスにおける出血傾向と凝固線溶異常(第3報)」において、出血症状を伴うALアミロイドーシスではプロトロンビン時間延長、凝固第X因子活性低下、プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)上昇という特徴的な凝固線溶異常が認められたことを報告した。
3.下野謙慎先生(鹿児島市立病院・救命救急センター)は、「重症外傷後の凝固線溶動態の解析―前向き観察研究」において、重症外傷では搬入時より凝固線溶活性化とダメージ関連分子(DAMPs)放出が認められ、それに遅れて抗線溶活性が上昇したことを報告した。
4.橋口照人先生(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・血管代謝病態解析学分野)は「PAI-1 欠損症:自験例と病態の考察」において、PAI-1は術後の創傷治癒や生理的な血管修復に重要な役割を果たし、加齢に伴い凝固線溶系のアイドリングの調節が変化して出血を起こす可能性を考察した。
5. 朝倉英策先生(金沢大学附属病院・高密度無菌治療部)は、「COVID-19の凝固線溶異常とその意義」において、重症COVID-19ではフィブリノゲン、FDP、D-ダイマーが上昇し、死亡例では数日で凝固線溶動態が激変し線溶亢進型DICを呈することを解説した。経時的な凝固線溶検査から把握した病態に応じて血栓症の予防や治療を行うことが望まれ、ヘパリン、アルガトロバン、トロンボモジュリン、ナファモスタットなどの中でヘパリン・ナファモスタット併用療法が期待されている。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
部会活動のテーマである「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」の推進に向け、収集した臨床検体を用いた測定と解析の準備を進めた。
1 DOACs内服症例の臨床検体における凝固波形解析の施設間差や、DOACs血中濃度と関連する指標について検討する。
2 部会の多施設共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」の解析を進め、凝固関連検査の標準化を目指す。
凝固線溶検査部会 部会長 山崎昌子(東京女子医科大学 脳神経内科)
a) SSCシンポジウムの準備内容
第14回SSCシンポジウム(2020年2月22日開催予定)において、血栓溶解部会との合同シンポジウムを企画し、下記の演題発表を予定した。
テーマ:線溶系の基礎と臨床
第一部座長:竹下享典(埼玉医科大学総合医療センター 中央検査部)
長尾毅彦(日本医科大学多摩永山病院 脳神経内科)
1. 線溶機能検査について
a.オーバービュー
a.1.凝固が起これば線溶が起こる
橋口照人(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 血管代謝病態解析学分野)
a.2.線溶制御不能状態を考える
内場光浩(熊本大学病院 輸血・細胞治療部)
b.FDPとDダイマーの標準化へむけての課題
福武勝幸(東京医科大学 臨床検査医学科)
2. 線溶療法 up to date
a.超音波を用いた新しい線溶治療
三村秀毅(東京慈恵会医科大学 神経内科)
b.外傷診療におけるトラネキサム酸の功罪
関根和彦、入野志保、菅原洋子、武部元次郎、小林陽介、土屋悠海、鎌形知弘、道浦 悠、菊岡吉朗(東京都済生会中央病院 救急診療科)
第二部座長:鈴木優子(浜松医科大学 医生理学講座)
山崎昌子(東京女子医科大学 脳神経内科)
1.ROTEM、T-TAS、凝固波形解析と線溶検査への応用の展望
藤森祐多(慶應義塾大学病院 臨床検査技術室)
2.代表的な線溶異常の病態と検査
2-1. CAT( Cancer Associated Thrombosis )とTrousseau 症候群の定義の異同:われわれは誰をトルソーと呼ぶべきか?
長尾毅彦(日本医科大学多摩永山病院 脳神経内科)
2-2.ALアミロイドーシスにおける出血傾向と凝固線溶異常(第2報)
荒幡昌久1,2)、朝倉英策1)(1)金沢大学附属病院 血液内科、2)南砺市民病院 内科)
2-3.重症外傷症例における凝固線溶異常のダイナミクス
下野謙慎1)、伊藤隆史1)、上國料千夏2)、新山修平1)、安田智嗣1)、鈴々木恵美子3)、高間辰雄4)、大西広一4)、吉原秀明4)、垣花泰之2)(1)鹿児島大学病院 救命救急センター、2)鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 救急・集中治療医学分野、3)鹿児島市立病院 臨床検査技術科、4)鹿児島市立病院 救命救急センター)
2-4.PAI-1 欠損症:自験例と病態の考察
橋口照人1)、竹谷英之2)、窓岩清治3)、内場光浩4)(1)鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 血管代謝病態解析学分野、2)東京大学医科学研究所附属病院 関節外科、3)東京都済生会中央病院 臨床検査医学科、4)熊本大学病院 輸血・細胞治療部)
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
部会活動のテーマである「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」を推進した。2019年6月21日に開催された部会では、臨床検体の収集および共同研究機関における測定状況を確認した。DOACs内服症例のAPTT、PT、フィブリノゲンの測定結果の施設間差、APTTまたはPTとDOACs血中濃度との相関における施設間差、光学的測定法と物理学的測定法の相関におけるDOACsごとの特徴について解析を進めている。
1 部会の多施設共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床
判断値への影響の検証」の成果をまとめ、凝固関連検査の標準化を目指す。
2 DOACs内服症例における凝固波形解析の施設間差や、DOACs血中濃度と関連する指標について
検討する。
a) 第13回SSCシンポジウム
シンポジウムテーマ「止血血栓の臨床を支える検査」
部会長 橋口照人(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 血管代謝病態解析学分野)
【はじめに】
今回のシンポジウムでは1) 凝固波形解析の有用性と問題点について 2) VKORC1遺伝子多型におけるビタミンK摂取量と血中ビタミンK濃度との相関について 3) platelet-critの臨床的意義について 4) 遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤によるAPC活性の動態に関する考察 の発表があり、いずれも本部会の発表に相応しい内容の演題であった。
【各演題の報告】*発表者の敬称略
演題 1.臨床検査としての凝固波形解析の活用法と今後の展望
徳永尚樹(徳島大学)は、近年、総合的な止血能を評価する方法として、今後の臨床応用が期待されるAPTT凝固波形解析について、APTTには様々な試薬が存在し、試薬の組成により測定の過程で得られる凝固波形において波形パターンが異なり、測定結果が大きく異なること、更にはAPTTの測定原理においても測定法の違いや凝固点を算出するアルゴリズムが機器により異なり、同じ試薬を用いたとしても波形解析のアルゴリズムの違いによる機器間差が存在することを述べ、凝固波形解析の臨床検査としての発展性と解決すべき問題点を総括した。
演題 2.抗凝固薬の凝固波形パラメータへの影響
藤森祐多(慶應義塾大学)は、APTT測定の凝固反応曲線の1次微分はトロンビンによるフィブリン生成速度を、2次微分は主にプロトロンビナーゼ複合体型 FXaによるトロンビン生成速度を、3次微分は主にXase複合体型 FIXaによるFXa 生成速度をそれぞれ反映すると考えられるとした上で、直接トロンビン阻害薬または直接 FXa 阻害薬を添加した血漿の凝固波形解析を行い、各種凝固波形解析パラメータへの影響を検討した。その結果、抗凝固薬の添加により、それぞれフィブリン、トロンビン、および FXa の最大生成速度を反映する最大凝固速度、最大凝固加速度、最大3次微分陽性値の減少が認められ、トロンビンポジティブフィードバックの阻止が観察されたこと、ダビガトランとアルガトロバンおよび FXa 阻害薬3剤の間で、それぞれ用量依存性変化の波形パターンの類似性が認められたことを示した。また、ヒルジンは他の直接トロンビン阻害薬(ダビガトランとアルガトロバン)と比べて凝固波形解析パラメータの減少の波形パターンが大きく異なり、トロンビンとの強固な結合性に由来する阻害不可逆性との関連性を示唆した。
演題 3.APTT波形による止血能のモニター
和田英夫(三重大学)は、整形外科における関節形成術、腹部外科手術、抗凝固療法(ワルファリンならびにDOAC)、血友病のAPTT凝固波形解析を経時的に検討して報告した。APTT凝固波形解析では、一次微分ならびに二次微分カーブの peak 時間が延長し、peak height が低下したが、数日後 peak heightは著しく増加した。また、術直後は negative accelerationが小さくなることが特徴的であった。ワルファリン療法では、一次微分ならびに二次微分カーブの peak height が低下し、peak width が広くなる特徴的なパターンを示した。DOAC 投与例では、peak 時間の延長のみがみられた。また、血友病インヒビター例のバイパス療法においても特徴的な所見がみられたことを示し、APTT凝固波形解析を用いることより、術後の止血異常、抗凝固療法や補充療法などのモニターが可能であることを示した。
演題 4.VKORC1 遺伝子多型の血中ビタミンK濃度とワルファリンコントロールに及ぼす影響
長尾毅彦(日本医科大学多摩永山病院)は、ワルファリン療法においてビタミンK(VK)摂取制限は不可欠とされている一方で、過度のVK摂取制限を行うと,骨粗鬆症や動脈壁石灰化の進展などの弊害も起こりうるにも関わらず、実際にVK摂取制限の明確な指標がないこと、また日本人と欧米人では遺伝子多型の割合が大きく異なるため,ワルファリンコントロールの状況も異なり,欧米での指針をそのまま流用することはできないことから、VK摂取制限の指標を探索するために,VK摂取量と血中VK濃度との相関がVKORC1遺伝子多型によって異なるかを検証した結果を報告した。VKORC1遺伝子における68例のAA型,16例のAG型の解析において、AA型VKORC1遺伝子の症例ではVK摂取量と血中濃度に相関が認められないことから,厳格なVK摂取制限は必要のない可能性を示唆した。
演題 5.大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術前後での末梢血、凝固系の検討
上田英昭(鹿児島大学)は、大動脈弁狭窄症において、狭窄した弁を血液が通過する時のシアストレスを大動脈弁置換術を行うことで解消することによる血球成分および凝固能の変化について報告した。大動脈弁置換術施行例のうち、原疾患が大動脈弁狭窄症あるいは大動脈弁狭窄兼閉鎖不全症だった78例を対象とした解析を行い、血小板数は術後一旦減少するが、退院時には術前以上まで上昇していること、血小板分布幅も術後一旦は広がるが退院時は術前以下まで減少していることを示した。術直後は人工心肺使用を含めた手術侵襲により血小板数が減少し分布幅も広がるが、侵襲からの回復及び弁置換で血小板へのシアストレスが軽減したための変化と考察した。また、血液中の血小板全容積を表すplatelet-critがシアストレスに影響されて変化していると考えると、術前血小板数が少なく血小板分布幅が広いものほどシアストレスが強く影響していることを示唆した。
演題 6.遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤の抗凝固作用の評価のための活性化プロテインC活性値測定の試み
八島 望(鹿児島大学)は、遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)製剤によって生じるAPC活性の測定の結果をin vitroの測定実験と敗血症性DIC症例において報告した。in vitro の測定実験では、トロンビンを添加した血漿にrTM製剤を投与し37°Cで反応させると、rTMの濃度依存的にAPC活性が上昇した。また、トロンビンの濃度依存的にもAPC活性が上昇した。敗血症性DIC症例におけるrTM製剤の使用前後のAPC活性を測定した結果、血漿中の可溶性トロンボモジュリン濃度は、rTM製剤使用前と比べて、使用後に有意に上昇していたが、APC活性は、rTM製剤の使用前後で有意差を認めなかった。また、一定量のトロンビンとrTM製剤を加えた血漿を37°Cで反応させると、APC活性は数分後にピークとなり、その後、時間経過とともにAPC活性が低下した。これらの結果より体内でのAPC活性の動態はin vitroの実験に加え、インヒビターおよびインヒビター以外の要因の影響も示唆された。
【まとめ】
抗凝固薬の多様な進歩に伴い、残存凝固活性測定法の確立とともに、各々の症例の凝固・抗凝固・線溶系の動態に応じた綿密な管理が必要とされる時代になったと言える。本部会では今後も、検査の標準化、新しい検査の妥当性の検討を含め、社会のニーズに応える活動を継続して行っていきたい。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
部会活動のテーマである「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」を推進した。
c) その他の活動
なし
部会の多施設共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」の成果をまとめる。また、来年度のSSCシンポジウムは血栓溶解部会との合同シンポジウムを計画している。
a) 第12回SSCシンポジウム報告
(1) 凝固線溶検査部会
シンポジウムテーマ「止血血栓の臨床を支える検査」
部会長 橋口照人(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 血管代謝病態解析学分野)
(2) 【はじめに】
止血血栓領域に関連する検査の標準化が医療の進歩とともに益々重要性を増している。近年の直接経口抗凝固薬 (DOAC)の登場は抗凝固療法の革命であるとも言える。凝固線溶検査部会の役割はこれらの進歩を支える検査体制を見直しつつ、本領域における社会の進歩が安全に運用されることを支えていくことにある。今回のシンポジウムにおいても本部会の役割に相応しい6つの演題の発表があった。
(3) 【各演題の報告】*発表者の敬称略
演題 1.検査血液学から探る直接経口抗凝固薬(DOACs)の生化学的特性
藤森祐多(慶應義塾大学病院)は、クラウス法によるフィブリノゲン測定系において抗トロンビン薬であるダビガトランに対して感受性を示す濃度のトロンビンを含有する検査試薬を利用し、凝固時間をフィブリン生成速度の逆数とみなして Lineweaver-Burk plot を適用した結果、ダビガトランの低濃度域では反競合阻害、高濃度域で混合型阻害の様相が観察され、合成基質を用いた検討からの競合阻害という知見とは異なる結果となったことを示した。また、APTT 凝固波形解析により、一次微分はフィブリン生成速度を表し生成されたトロンビンの濃度に比例すること、二次微分はトロンビンの生成速度を反映し、同様に三次微分は Xa の生成速度を反映することを示した上で、DOAC 内服による凝固波形の変化が、トロンビン生成阻害またはトロンビン反応阻害に由来する Va と VIIIa の生成抑制によってもたらされたと考えられることより、DOACs の抗凝固効果がトロンビン-ポジティブフィードバックの阻止に依存することを実験的に提示する結果であることを示唆した。
演題 2.直接経口抗凝固薬(DOAC)服用下のプロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の日差変動に影響する要因
山崎昌子(東京女子医科大学)は、DOACs は作用が可逆的で半減期が短いため、服薬後一定の時間のモニタリングであったとしても変動が大きい可能性が考えられることから、DOAC を服薬し近似条件で繰り返し PT と APTT を測定した患者の検査値のばらつきと、ばらつきに関連する因子(リスクスコア、腎機能、DOAC の種類)を検討した。同一患者において、最終服薬から採血まで 60 分の範囲内に5 回以上の採血を行った 54 例 570 検体(ダビガトラン 10 例 89 検体、リバーロキサバン 22 例 243 検体、アピキサバン 18 例 199 検体、エドキサバン 4 例 39 検体)について検討した結果、DOAC 服用中の同一患者における PT-INR と APTT の変動は、最終服薬から採血までの間隔が 60 分程度のばらつきであれば、リスクスコアや腎機能とは相関せず 10% 以下であったことを示した。また、PT-INR や APTT の延長が高度なほど変動が大きい傾向があり、過剰な延長を示す患者の評価には注意が必要であることが示唆されるとした。
演題 3.高齢者になるにつれてD ダイマー値は上昇するのか
川杉和夫(帝京大学)は、Dダイマーを評価する際の基準値の設定については議論の余地が残っており、特に50 歳以上の高齢患者では、D ダイマーの基準値を現在用いられている値よりも高くするべきであるというエビデンスが欧米から報告されているが、本邦では高齢者を対象とした Dダイマーの基準値に関連した検討は殆ど行われていないことから、高齢者の Dダイマーのパイロットスタディとしての検討結果を報告した。60歳以上の患者(VTE 等の血栓性疾患がなく、ワルファリンなどの抗凝固薬は服用しておらず、糖尿病や高血圧症等を合併していてもコントロールが良好な患者)を対象とした年代別の D ダイマー値は、60 歳代 23人で 0.55±0.11μg/ml、70 歳代 28人で 0.62±0.17μg/ml、80 歳代 21人で0.79±0.24μg/ml でありD ダイマー値は高齢者になるにつれ、その値が上昇する可能性を示唆した。
演題 4.抗Xa 活性、APTT 波形によるDOAC のモニター
和田英夫(三重大学)は、整形外科全関節形成術が施行され、血栓予防に edoxaban 30 mg/day が投与されている 99 例の患者を対象に抗 Xa 活性と APTT 凝固波形解析の結果を報告した。抗 Xa 活性と APTT 凝固波形解析は、edoxaban 投与後 1日目、内服後 1時間後の採血にて行われた。その結果、加速度、速度、1/2 fibrin 形成のピーク時間は edoxaban 投与後有意に延長し、これらのピーク時間は抗 Xa 活性と弱い相関を示したことより、APTT 凝固波形のパラメーターは edoxaban 投与後有意な変化を示し、APTT 凝固波形解析が edoxaban 投与患者のモニターに有用となる可能性が示唆されるとした。
演題 5.心臓外科手術における包括的凝固検査を用いた周術期モニタリング
伊勢隼人(旭川医科大学外科)は、人工心肺を用いた心臓手術では、周術期出血が問題となり、循環停止を伴う開心術では、低体温の影響で周術期出血量は通常の開心術より多いと報告されていること、そして近年、迅速診断可能な指標として point of care(POC)止血凝固モニタリングの有用性が報告されていることから、POC機器である ROTEM の測定結果と出血量の関係についての検討結果を報告した。ROTEM の測定項目では、術中出血量とA10(EXTEM, HEPTEM)、AUC(EXTEM)、CFT(INTEM, HEPTEM)に相関がみられ(p<0.05)、術後12 時間までの出血量とCT(EXTEM)、CFT(HEPTEM)に相関がみられた(p<0.05)。肺離脱直前の測定結果では、一般検査において出血量・輸血量との関連が示された項目は血小板数のみであったが、ROTEM では複数の項目で出血との関連がみられたことから、ROTEM による POC が開心術における出血リスクの指標として有効に活用できる可能性が考えられるとした。
演題 6.遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤の効果を引き出すにあたって凝固検査は有用か?
八島 望(鹿児島大学)は、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤が抗凝固作用を発揮するにあたっては、酵素であるトロンビン濃度、基質であるプロテインC 濃度、酵素のインヒビターであるアンチトロンビンの濃度が影響を及ぼす可能性が考えられるが、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤を使用する際に、これらの濃度が意識されることはほとんどないことから、敗血症病態で想定されるこれらの様々な濃度における活性化プロテインC 産生量を比較検討し、遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤の効果(活性化プロテインC 産生量)への影響についての考察を報告した。
(4) 【まとめ】
抗凝固薬の多様な進歩に伴い、過度の抗凝固状態あるいは残存凝固活性測定法の確立が必須の時代となったと言える。本部会の活動では患者背景を含めたリアルなデータを多施設間にて比較検討しつつ、社会のニーズに応える活動を継続して行っていきたい。
b) ガイドライン、診断基準、共同研究などの成果
部会活動のテーマである「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」を推進した。2回の部会では以下を検討、確認した。
・標準血漿の測定について
・研究代表機関(鹿児島大学)の倫理審査書類について
・臨床検体の集まり状況について
・サンプルの流れの確認について
・「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」に則した検体の取り扱い方法の確認
c) その他の活動
なし
部会の共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」の成果と「各施設にて独自に行われた研究」の双方の成果を2018年度のSSCシンポジウムにて発表することとする。
平成28年度は目的を「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」として、2回の部会を開催して以下の内容について検討した。
平成28年度 第1回 SSC委員会 凝固線溶検査部会
6月17日(金)18:15〜18:45
奈良春日野国際ホール 甍〜I・RA・KA〜(旧 奈良県新公会堂)
別館2F 「会議室7ー2」
2016年度活動計画(概案)
(1) 2015年度のSSCにて本部会として区切りの発表を行ったので、今年度は部会活動に力を入れることとして発表はスキップする。
(2) 今年度も本部会のテーマは「DOACs内服における凝固関連検査の検討」として、その目的を「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」とする。
(3) 活動費として、学会が設けている「研究促進費」を申請する。
(4) 活動は、テーマと目的を主眼として「部会全体が協力して行う研究」と「各施設にて独自に行う研究」の2本柱とする。
(5) 「部会全体が協力して行う研究」は平成15年度までの研究成果を基盤に発展させることとする。
(6) 「検体入手施設」にて得られたDOACs内服患者の匿名化された血漿検体を共同研究施設に送付して検討項目を測定する。その際、標準血漿を同時に送付する。
(7) 「家子正裕、他:凝固検査用サンプル取扱い標準化に関する提言」を取り入れた遵守した研究とする。
(8) 鹿児島大学にて倫理委員会の承認を得た上で各施設に倫理委員会への申請・承認をお願いする。
(9) 2016年度中にデータを揃えて、2017年度に検討すべき課題を見つける。
(10)2017年度のSSCにおいては、「部会の共同研究として行われた研究」と「各施設にて独自に行われた研究」の双方の発表を行う。
平成28年度 第2回 SSC委員会 凝固線溶検査部会
平成29年1月21日(土)13:00〜13:30
野村コンファレンスプラザ日本橋 5階 ミーティングルーム5
検討項目
(1) 2017年度のSSCシンポジウムにおいては、「部会の共同研究として行われた研究」と「各施設にて独自に行われた研究」の双方の発表を行うことの確認をして了承された。
(2) 「部会の共同研究」についての経過報告
1.研究促進費について
2.倫理委員会について
鹿児島大学病院での臨床研究倫理審査の承認を受けたことを報告した。各共同研究施設にて申請される際は、必須項目以外の測定項目は各施設にて測定している項目を記載していただくこととした。本研究においては自施設にて測定している項目を対象とし、外注の項目は対象外とした。特発性血栓症の指定難病認定に伴い、アンチトロンビン活性測定の標準化に協力することを考慮し、測定を実施している施設において本研究のラインに乗せることを確認した。プロテインC・Sについても今後の検討課題とすることを確認した。
3.研究に関する保険加入について
研究代表機関ならびに共同研究機関を範囲とする臨床研究保険に加入したことを報告した。
4.「凝固検査検体取扱いに関するコンセンサス」についての各施設への調査と実務担当者について、本コンセンサスに記載されている全ての項目を記載したエクセルファイルを代表研究機関より送付するので、各施設にて調査の上記載していただくこととした。
5.標準血漿について
市販の標準血漿を使用することとなった。また、研究代表機関にてアンチトロンビン活性測定用の標準血漿を作ることを了承した。
6.トロンビン阻害薬濃度、第Xa因子活性阻害薬濃度について
トロンビン阻害薬濃度については研究代表機関にて、第Xa因子活性阻害薬濃度については北海道医療大学病院にて測定していただくこととなった。
7.症例報告書について
現在作成されている症例報告書は、DOACの内服前と後の検査日が同一日となっているが、同一日ではない症例もあるので、DOACの内服前と後の検査日は各々記載することとなった。
8.データの公表について
本共同研究で得られた成果については論文の発表を待たず、関連の学会等において公表していただき、早期に社会貢献していくことを相互確認した。
部会の共同研究である「DOACs内服症例における凝固関連検査結果の施設間差と臨床判断値への影響の検証」の成果と「各施設にて独自に行われた研究」の双方の成果を2017年度のSSCシンポジウムにて発表することとする。
b)その他の活動:特になし。
c)ガイドライン作成、診断基準設定;なし。DOACの凝固検査評価は、血中濃度のピーク時が捉えられないために、トラフ時に評価が有用であることをSSCシンポジウムで提言した。
また、DOAC服薬者の臨床検体を、東京女子医科大学、富山大学、九州医療センター、北海道医療大学で測定する他施設共同研究を実施した結果を発表した。
響:川杉和夫(帝京大学医学部 内科学講座)発表内容:健常者を対象に、Dabigatran, Rivaroxaban, Apixabanを投与し、経時的にPT(試薬は、ネオプラスチンR(NR)、ネオプラスチン(NP)、デイドイノビン(DI)、リコンビプラスチン(RP)、トロンボレルS(TS))、APTT (試薬はセファスクリーン(CS)、STA試薬シリーズ(ST)、ヒーモスアイレルシンサシル(SS)、トロンボチェック(TC)、データファイ(DF))を測定した。Dabigatranの血中濃度はHemoclot thrombin inhibitor assay、RivaroxabanとApixabanの血中濃度は、STA-Liquid AntiXa(ロッシュ)を用いた。その結果、1)PTは、DabigatranとApixabanで変動は小さく、Rivaroxabanにおいて血中濃度に比例して, NR, NP, RPで大きく延長した。2)APTTは、 DabigatranとRivaroxabanで、その血中濃度に比例してどの試薬でも延長したが、Apixabanの投与前後では、その試薬でも大きな変動は示さなかった。3)服薬後24時間でも、NOACの血中濃度は若干残存することが明らかにした。
○しろまる第2回SSC凝固線溶部会検査部会議事録
○しろまる第3回 SSC凝固線溶検査部会議議事録
【第8回SSCシンポジウムプログラム】