在来軸組1/10組立模型を活用した中高生を対象とした領域横断型建築
1.普及事業の名称 |
在来軸組1/10組立模型を活用した中高生を対象とした領域横断型建築 講座「暑さ寒さに強く快適な家の仕組みを1/10組立模型で体験してみよう」 |
2.事業の概要 (実施期間/会場/講師等) |
助成期間中に行った1/10組立模型を用いた領域横断型建築講座の概要を以下に示す。 1)構造・施工・防災教育:従来行って来た1/10組立模型を用いて、木造在来軸組工法の住宅の各部材の名前を覚えながら組立てる。さらに、耐震補強部材(筋交い・火打ち梁・面材)を取り付けた前後で起振装置で振動させた場合の模型の揺れを比較して耐震効果を学習した。生徒自身が住宅組立模型を組み立てる体験をしながら主に学習した。 2)計画:事前学習として自宅や学校を採寸し、各自が事前に考えた家の間取りを班で1案に選択し発表する。模型を用いて発表した間取りを組み立てる。 3)光環境:今回の助成金を使用して太陽軌道装置を開発し、予備実験を行って照度の計測方法や生徒による観察方法及び授業の進行方法を決定した。建築講座では、(1)光環境に関する基礎的な原理や原則をスライドで説明し、(2)実施教室において天空日射と人工照明ON/OFF時の机上面照度分布を計測し、(3)春分・秋分・夏至・冬至における窓の位置の違いによる室内照度や採光状況を生徒自身が計測したり目視確認を行い、(4)6種類の日射遮蔽物毎の遮蔽状況を目視確認した。生徒自身が能動的に考え、役割分担しながら光環境の採光と日射遮蔽について学習した。 4)音環境:本年度中の建築講座では音環境の授業を行うことができなかったが、来年度の建築講座を実践するための予備実験を行った。外部からの騒音を住宅の壁付近で防音することを想定して、9種類の防音材、5種類の騒音源、騒音源と騒音計との距離、2種類の騒音計、3種類の測定空間の広さなどを各々変更しながら、生徒が音の干渉がなく、適切に防音効果を把握できる実験方法を検討した。その結果、1つの騒音源(防犯ブザー)に対して2つの対向する測定空間(1/10組立模型の1坪)の中央地点で小型の騒音計を用いて騒音を同時測定することとした。騒音源と4種類の防音壁(段ボール、フェルト、黒板ボード、家具(本棚))との距離を約9cmにすることとした。 各建築講座の概要 1)対象者:山古志中学校1年生 4人 第1回講座7月29日(金曜)午前3時間 山古志・山の学校 内容:構造と施工(2階建て住宅の組立と仕組み、耐震構造と耐震補強等) 講師:後藤哲男教授 第2回講座 8月5日(金曜)午前3時間 長岡造形大学 内容:熱環境(伝熱方法、壁材の種類別にみた断熱・保温性能の実験) 講師:飯野由香利教授、後藤哲男教授 2)対象者:長岡工業高校3年生 4人 第1回講座 8月17日(水曜)午前3時間、午後3時間 内容:光環境(教室での照度分布測定、各季節や各時刻における採光と 日射遮蔽の実験) 講師:飯野由香利教授、後藤哲男教授 第2回講座 8月18日(木曜)午前3時間、午後3時間 内容:熱環境(伝熱方法、壁材の種類別にみた断熱・保温性能の実験)、耐震構造と平屋建て 講師:後藤哲男教授 第3回講座8月19日(金曜)午前3時間、午後3時間 内容:宿題の間取りのエスキス、耐震構造と平屋建て 講師:後藤哲男教授 3)対象者:北中学校3年生 23人 1クラス 第1回講座 9月20日(火曜)午後3時間 内容:構造と施工(2階建て住宅の組立と仕組み、耐震構造と耐震補強等) 講師:後藤哲男教授、飯野由香利教授 第2回講座 9月21日(水曜)午後3時間 内容:光環境(教室での照度分布測定、採光と日射遮蔽の実験) 講師:飯野由香利教授、後藤哲男教授 4)対象者:青葉台中学校2年生 32人と29人の2クラス 第1・2回講座 11月15日午後3時間、11月29日午後3時間 各日各クラス同内容 内容:構造と施工(2階建て住宅の組立と仕組み、耐震構造と耐震補強等) 講師:後藤哲男教授、飯野由香利教授(2回目のみ) |
3.事業の成果・効果 (対象者/参加者数/成果物等) |
在来軸組1/10組立模型を用いて、中学生と高校生の92人を対象として、構造(耐震)と施工、熱環境(壁材の断熱・保温性能)、光環境(照度測定、採光と日射遮蔽)に関する領域横断型建築講座を実践した。さらに、来年度の建築講座における音環境(壁面の防音)の予備実験を行い、教育実践方法の指針を得た。 各講座において、講座の前後でアンケート調査を行い、講座内容における理解度を分析した。人数の多かった青葉台中学校2クラスの生徒の回答に基づく構造や施工に関する講座での理解度を以下に示す。(1)在来軸組工法の柱や土台は85%前後で、その他の部材は7〜41%、(2)荷重の流れについて80%以上、(3)建物の安定・不安定を90%以上及び自由度は95%以上、(4)広さや寸法については85%以上、(5)接合部(ホゾや蟻継)は59・78%、(6)耐震補強材(筋交い・面材・火打ち)は83%、(7)耐震構造は72%と83%、(8)1/10組立模型を用いることによる耐震構造や間取りについては97%。模型を組み立てることや起振装置で模型を揺らすことを面白いと感じたのは60%以上であった。 一方、北中学校を対象とした光環境に関する講座での理解度を次に示す。(1)直達日射と散乱日射との相違点や、直達日射の入光状況が季節や時間帯及び太陽高度で異なることを理解できたのはほぼ全員、(2)散乱(天空)日射時における3種類の窓の位置による室内の明るさの相違は67%以上、(3)日射遮蔽物と太陽の方位との関係は30〜50%、(3)日射遮蔽の省エネの関係を約90%、(4)1/10組立模型を用いたことにより、採光と日射遮蔽について100%、(5)得られた光環境の知識が将来に役立つと100%が考えており、模型の実験で想像しやすかったのは生徒の約半数であった。 以上、建築の様々な領域横断型教育を中高生を対象に行ったことにより、生徒は住宅を多面的な観点から捉えることができ、居住者の安全性や快適性を確保するための建物の様々な仕組みや工夫などを学習できたと考えられる。さらに、理科などで学んだ光の特性や力学等の原理を応用した物理現象を実験を通して捉えることができ、日常生活での物理現象に対して創意工夫して住まう方法を考案できるようになり、生活の質の向上に繋がる様相が伺えた。本建築講座を通して中高生の時期に建築に関する知識や技能を習得することにより、建築に興味・関心を持つようになり、建築・土木工学系志望者数の減少といった問題への対策に繋がると思われる。近年、長岡造形大学の建築・環境デザイン学科に入学した数人の学生は本講座を受講していたことからも実証されている。 |
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