平成30年度調査・研究助成、平成30年度普及事業助成の決定について
3月から4月にかけて公募した標記の助成事業について、数多くの申請をお寄せいただきありがとうございました。このたび、下記の通り助成対象を決定いたしましたので、お知らせいたします。
目次
審査経過
助成対象の決定に当たっては、審査委員会を設けて慎重に審査を行い、その審査結果に基づき、助成対象を決定したものです。
建築技術教育普及調査事業等審査委員会(敬称略 五十音順)
委員長 小川 富由(住宅保証機構)
委 員 井上 勝徳(建築技術教育普及センター)
委 員 大月 敏雄(東京大学大学院)
委 員 小野 泰 (ものつくり大学)
委 員 高橋 徹 (千葉大学大学院)
委 員 堀 啓二 (共立女子大学)
委 員 南 一誠 (芝浦工業大学)
委 員 若山 尚之(千葉工業大学)
講評
建築技術教育普及調査事業等審査委員会
本助成制度は、建築技術の教育普及が一層促進されることを目的として、平成22年度に実質的に開始されたものであり、今年度で9年目を迎えています。今年度も、幅広い事業内容に関して多くの意欲的な応募をいただきました。本制度の活用により、建築技術の教育普及が一層促進されることを期待するものです。
審査に当たっては、以下に記載する観点から各審査委員間で議論を進め、評価を実施いたしました。なお、本審査結果は、調査・研究や普及活動そのものの絶対的価値を判定したものではなく、本助成制度の趣旨に基づき、予算の範囲内で助成効果が効果的に得られるか否かの評価を相対的に実施したものであることを申し添えます。
1 調査・研究助成
(1)本助成制度の対象として優位に評価できるか否かについて、下記の評価基準の観点等を中心に審議を実施し、事業の順位付けを行いました。
- 調査・研究が目指そうとしている成果により、建築技術者の啓発や資質の向上が図られること、国民の建築技術者への理解や信頼を深めることが期待できること、または、建築実務、教育制度のあり方等を提案しようとするものであること
- 調査・研究の実施方法や体制・行程が明確で実行可能なものであり、掲げた調査・研究の目標を達成しうると判断できること
- 調査・研究の目的や内容に新規性、独自性が高く、今後の展開の可能性があると判断できること
審査の結果、調査・研究助成として5件を採択いたしました。
(2)採択された案件については、高齢化を背景とした郊外戸建て住宅地における建築協定の見直しの調査や、都市部で増加している壁面緑化の設計技術向上のための実情調査、省エネ化施設・設備が設置された学校施設(エコスクール)の持続可能な維持管理のための点検・管理のあり方の調査、児童養護施設の生活空間の質的側面の向上を目指した大規模改修の実態調査、海外での都市デザインに携わる建築技術者の研修制度やその運用実態に関する調査などがみられました。
採択された案件ごとの選評は、下記の一覧表に掲載しているとおりです。
2 普及事業助成
(1)本助成制度の対象として優位に評価できるか否かについて、下記の評価基準の観点等を中心に審議を実施し、事業の順位付けを行いました。
- 普及活動を通じて広めようとする内容が、建築技術者が体得すべき建築実務面で有用な知見である、若しくは、国民の建築技術者への理解や信頼を深めるものであると判断できること
- 講演会などを企画・実施する方法や体制・行程が明確で、実行可能なものであり、期待する効果が発揮できると判断できること
- これまで毎年問題なく実施している等、申請者の本来事業として行うべき事業と考えられるものではないこと
審査の結果、普及事業助成として7件を採択いたしました。
また、継続的な応募と見られる案件については、これまでの成果や採択継続の必要性について議論を行ったうえで、必要性の高いものについては採択したものがありました。
(2)採択された案件については、平成29年度からの継続事業として、木造住宅の耐震改修の技能者向けの講習会と被災地での住宅再建を目指す被災者を対象とした相談会の開催、及び子どもや若者・外国人に対する「和の建築技術」の魅力発信を目指した体験学習や動画作成事業が、また、震災等への備えとして災害時における住家被害認定調査技術者養成のための研修会や歴史的木造建築物の活用と防災計画に係る講習会の他、子ども達へのミニチュアハウスの組み立て体験提供などの普及活動などがみられました。
採択された案件ごとの選評については、下記の一覧表に掲載しているとおりです。
助成対象案件
(1)調査・研究(平成30年度分)5件 〔受付順〕
名 称 | 実施者 | 選 評 |
---|---|---|
壁面緑化工法別設計技術向上のための調査研究 | 松本 薫 (特定非営利活動法人屋上開発研究会) | 自治体の指導等により建築物の緑化が広く普及し、十分な緑地を設けられない建物では壁面緑化を用いるケースも増えてきているが、壁面緑化は工法的にいまだ未完成な部分が多く、また建築コストも高く、建築設計者の壁面緑化に関する知識・情報も不足していることから、本調査では壁面緑化の不具合事例の調査分析を行い、その成果を取りまとめて普及活動につなげていこうとするものである。 |
エコスクール等の学校施設の持続的な運営と建築技術者の役割に関する調査研究 | 一般社団法人日本建築学会 | 室内環境調整のための特殊な施設や設備が設置されているエコスクールの持続的な運営に役立てるため、複数のエコスクール校舎を有する杉並区において、エネルギー消費量や設備機器の運用実績を調査するとともに、エコスクールを含む学校施設の点検・監理のあり方を検討し、持続可能な学校施設運営の方策を示そうとするものである。 |
児童養護施設の改修による生活空間の質的改善効果に関する研究 | 伊藤 潤一(千葉大学大学院工学研究院融合理工学府建築学コース助教) | 現在、空間の質的側面についての指針のないグループホームについて、大規模改修による要養護児童の生活空間の質的側面向上の実態を調査することにより、空間の質的向上を図る効果的改修方法の提案を行うことを目的とした調査研究である。 |
高齢化する経年郊外戸建て住宅地における建築協定の認知度と発展的解消に関する研究 | 藤井 さやか(筑波大学システム情報系准教授) | 建築協定を有し、高齢化が進行する高経年郊外住宅地の事例調査により、建築協定の認識や運用方法、建築協定の内容変更や別ルールへの発展的解消の可能性について検討することを目的とした調査研究である。 |
イギリスの建築・まちづくり分野に携わる建築技術者の実務研修等を支えるシステムに関する研究 | 有田 智一(筑波大学システム情報系社会工学域教授) | 都市デザインの分野において、職能・資格制度が確立し長い歴史の中で一定の実績をあげている英国の人材育成システムの調査を行い、今後の日本での都市デザイン分野における職能・資格制度への示唆について考察を行うことを目的とした研究である。 |
(2)普及事業(平成30年度分)7件 〔受付順〕
名 称 | 実施者 | 選 評 |
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全国の建築士会における建築相談会の活性化を図る「建築相談フローチャートモデル」の作成とその研修普及事業 | (公社)日本建築士会連合会 | 全国の建築士会で行われる建築相談会の活性化とレベルアップを目的として「建築相談フローチャートモデル」を作成し、相談にあたる建築士の研修を行うもの。 |
自然災害被災地での住宅再建に向けての「住まいづくり相談カフェ」キャラバン | UIFA JAPON(国際女性建築家会議 日本支部) | 熊本地震の被災地や2016年台風10号の被災地において、住宅再建を目指す被災者を対象として建築士等による相談会を開催し、建築士等による復旧・復興支援を図ろうとするものである。 |
木造住宅の耐震改修促進のための新技術習得を目的とした大工・工務店向け施工講習会 | 国立大学法人 名古屋工業大学高度防災工学センター | 大工・技能者に対して、古い木造住宅の耐震化促進ための耐震改修工法の施工講習会を実施し、広く普及させることを目的としたものである。 |
歴史博物館から発信する町家の建築技術"匠の技"と住文化の魅力-子ども・若者・外国人に日本の建築技術を理解してもらうために- | 博物館住まい学習研究会 | 江戸時代の街並み再現展示施設をもつ「大阪くらしの今昔館」を活用した体験学習と、町屋の建築技術と住文化についての動画の発信により、町屋建築の正しい理解と「和の建築技術」の魅力発信を目的とする事業である。 |
災害における住家被害認定調査技術者養成事業 | (一社)災害総合支援機構 | 「災害に係る住家の被害認定基準運用指針(内閣府)」を活用した住家被害認定の研修会を開催し、調査技術に習熟した技術者の育成を図ろうとするものである。 |
子どもたちに木造住宅の構造を伝え日本の木の家の文化に触れるためのミニチュアハウスの製作とワークショップ「ミニチュアハウスの組立体験」の実施 | 特定非営利活動法人 もくの会 | 在来軸組み工法の木造住宅の1/2スケールのミニチュアハウスを制作し、組み立て体験のイベントや出前授業を通じて子どもたちに建築体験を提供するものである。 |
「歴史的木造建築物の活用と防災計画-避難計画」普及事業 | (公社)日本火災学会 | 歴史的木造建築物の活用に関心が高まっているが、これらの建築物については避難安全性が脆弱な場合が多いことから、建築設計者や建物所有者に対し、歴史的建築物の特徴を損なわない範囲での建物の改修、防災設備、避難誘導方策の実証的な考え方や情報提供を行うための冊子の編集や講習会の開催を行うものである。 |