令和2年度調査・研究助成、令和2年度普及事業助成の決定について
3月から6月にかけて公募した標記の助成事業について、数多くの申請をお寄せいただきありがとうございました。このたび、下記の通り助成対象を決定いたしましたので、お知らせいたします。
目次
審査経過
助成対象の決定に当たっては、審査委員会を設けて慎重に審査を行い、その審査結果に基づき、助成対象を決定したものです。
建築技術教育普及調査事業等審査委員会(敬称略 五十音順)
委員長 南 一誠 (芝浦工業大学)
委 員 大橋 好光 (東京都市大学)
委 員 佐藤 研一 (建築技術教育普及センター)
委 員 高橋 徹 (千葉大学大学院)
委 員 水流 潤太郎 (長岡造形大学)
委 員 萩原 一郎 (東京理科大学)
委 員 松田 雄二 (東京大学大学院)
委 員 若山 尚之 (千葉工業大学)
講評
建築技術教育普及調査事業等審査委員会
本助成制度は、建築技術の教育普及が一層促進されることを目的として、平成22年度に実質的に開始されたもので、今年度で11年目を迎えます。今年度も、幅広い事業内容に関して多くの意欲的な応募をいただきました。本制度の活用により、建築技術の教育普及が一層促進されることが期待されます。
審査に当たっては、以下に記載する観点から各審査委員間で議論を進め、評価を実施いたしました。なお、本審査は、本助成制度の趣旨に基づき、予算の範囲内で助成効果が効果的に得られるか否かの評価を実施したものであることを申し添えます。
1 調査・研究助成
(1)本助成制度の対象として優位に評価できるか否かについて、下記の評価基準の観点等を中心に審議し、事業の順位付けを行いました。
- 調査・研究が目指そうとしている成果により、建築技術者の啓発や資質の向上が図られること、国民の建築技術者への理解や信頼を深めることが期待できること、または、建築実務、教育制度のあり方等を提案しようとするものであること。
- 調査・研究の実施方法や体制・行程が明確で実行可能なものであり、掲げた調査・研究の目標を達成しうると判断できること。
- 調査・研究の目的や内容に新規性、独自性が高く、今後の展開の可能性があると判断できること。
審査の結果、調査・研究助成として4件を採択いたしました。
(2)採択された案件は、「目視等により仕様確認不能な木造一戸建住宅に対応した新しい性能向上インスペクションの評価方法の考案とその安定性及び作業効率性に関する研究」、「台風等の災害による屋根防水に対する応急処置方法の調査・研究」、「建築設備における浸水被害に関する実態調査と課題把握」、「生物劣化と発錆が同時に生じた釘接合部の非破壊検査方法の開発」の4件です。
なお、継続的な応募案件については、これまでの成果や採択継続の必要性について議論を行ったうえで、必要性の高いものについて採択しました。
採択された案件ごとの選評は、下記の一覧表に掲載しているとおりです。
2 普及事業助成
(1)本助成制度の対象として優位に評価できるか否かについて、下記の評価基準の観点等を中心に審議し、事業の順位付けを行いました。
- 普及活動を通じて広めようとする内容が、建築技術者が体得すべき建築実務面で有用な知見である、若しくは、国民の建築技術者への理解や信頼を深めるものであると判断できること。
- 講演会などを企画・実施する方法や体制・行程が明確で、実行可能なものであり、期待する効果が発揮できると判断できること。
- これまで毎年問題なく実施している等、申請者の本来事業として行うべき事業と考えられるものではないこと。
審査の結果、普及事業助成として4件を採択いたしました。
(2)採択された案件は、「子ども施設の音環境保全規準・設計指針の普及活動事業」、「ステイホームで見えてきたシニア期の住まいのつくり方に関する学習機会の提供」、「住宅・建築物に係る強風・豪雨災害対応円滑化事業」、「建築士と医療専門家との連携推進事業」です。
なお、継続的な応募案件については、これまでの成果や採択継続の必要性について議論を行ったうえで、必要性の高いものについて採択しました。
採択された案件ごとの選評については、下記の一覧表に掲載しているとおりです。
助成対象案件
調査・研究(令和2年度分)4件 〔受付順〕
名 称 | 実施者 | 選 評 |
---|---|---|
目視等により仕様確認不能な木造一戸建住宅に対応した新しい性能向上インスペクションの評価方法の考案とその安定性及び作業効率性に関する研究 | 多田 豊(阿南工業高等専門学校講師) | 昨年度実施した木造一戸建て住宅の性能向上インスペクションの調査実験により、目視等で現代的な工法による木造一戸建て住宅の評価を行う上での問題点が明らかとなった、これを踏まえ、今年度本調査は、非破壊・破壊検査を加えた安定性と効率性の高い新たな評価方法を調査研究するもの。木造一戸建て住宅は国民の最も身近な建築物であり、当該調査により、そのインスペクションの手法が進展することに期待したい。 |
台風等の災害による屋根防水に対する応急処置方法の調査・研究 | 山代 悟(被災屋根応急補修工法開発研究会代表) | 台風により家屋損傷等の被害を受けた被災者へのアンケートや、建材メーカーと協力した応急的な防水方法の試験施工とその後の経過観察等をもとに、迅速かつ簡易的に応急施工できる防水技術の開発を目指すもの。多くの被災者が今も被災建物での生活により困窮している中、被災者の生活再建に必要な住まいを確保するため、被災建物を迅速かつ簡易的に応急施工できる屋根防水技術の確保は必須であり、建築技術者に期待されているテーマである。当該事業により開発された施工技術が、多くの被災者に役立つものとなることを期待する。 |
建築設備における浸水被害に関する実態調査と課題把握 | (一社)建築設備技術者協会 | 近年の気候変動の影響等により台風・豪雨等の局地的な大雨が頻発する中、建築物の浸水被害を建築設備技術者の観点で調査研究を行うもの。災害に対する建築分野での対策が必要な問題の中で、建築物の浸水被害対策は未だに整備が十分でないテーマであり、被害データの収集とその対策の提案により、今後の浸水による被害の解決の一助になることを期待したい。建築設備分野からの提案に留まらず、河川工学や都市工学等関連分野との連携により、より役立つ調査研究となることを期待する。 |
生物劣化と発錆が同時に生じた釘接合部の非破壊検査方法の開発 | 石山 央樹(大阪市立大学准教授) | 木造住宅の耐久性向上に必要な釘接合部に生じた錆に対する超音波を用いた非破壊検査に関する調査・研究。昨年度助成対象となった超音波及び打音による診断の研究成果を発展させ、生物劣化の調査の追加や診断方法を変更する等、調査方法も進展している。釘の錆だけにとどまらず木造建築の重要なテーマである接合部の総合的な劣化調査への発展等、従来にない新たな視点での調査研究となることを期待する。 |
普及事業(令和2年度分)4件 〔受付順〕
名 称 | 実施者 | 選 評 |
---|---|---|
子ども施設の音環境保全規準・設計指針の普及活動事業-教材作成と講習会の開催- | (一社)こどものための音環境デザイン | 子どもの健やかな育ちを支える子ども施設の音環境づくりを目的として、設計者や現場職員らの音環境づくりのスキル向上のための教材制作及び講習会開催に取り組む事業。身近で重要な音の問題について、次世代を担う子どもたちの施設の音環境の向上に取り組む試みは社会的意義が高く、かつ先進的で有益である。講習会を動画にて配信する等、多くの人が利用できる教材やその学習環境を提供する等、より広く広報普及することを期待する。 |
ステイホームで見えてきたシニア期の住まいのつくり方に関する学習機会の提供 | (一社)ケアリングデザイン | 超高齢化社会の到来の中、コロナ禍によって多くの人が体験した「ステイホーム」は高齢期の住宅ベースの生活の疑似体験となっている。当該事業は超高齢化社会の住環境の重要性について、建築関係者に留まらず、広く一般へ啓蒙活動としてWebセミナー等を行うもの。シニア期を見据えた家づくりは建築分野に留まらず社会全体の喫緊の重要課題であり、五感に対応したデザイン上のノウハウは新規性も高く、有用かつ公益性も高い。実施するセミナーでは従来の知見の延長に留まらず、新たな視点での提案にも期待したい。 |
住宅・建築物に係る強風・豪雨災害対応円滑化事業 | (公社)日本建築士会連合会 | 近年多発する強風・豪雨等による住宅・建築物被害については、同じ自然災害である地震被害に比べ、応急危険度判定や罹災証明のような住宅被害認定等の仕組みが整っておらず、その整備が急がれている。当該事業は過去2年間の強風・豪雨の災害状況の調査等により明らかとなった知見や対策をもとに、浸水被害額や復旧に必要な費用の積算方法、建築関係者の強風・豪雨時の防災活動方針等を作成するもの。各地で頻発する強風・豪雨災害に対する全国的な活動は、関係者が早急に取り組むべきテーマであり、成果については申請者である建築士会連合会のホームページでの広報に留まらず、全国の関連団体等へ活用を働きかける等、今後の防災・減災の一助となることに期待する。 |
建築士と医療専門家との連携推進事業 | (公社)愛知建築士会 | リハビリテーション病棟入院患者を対象として過年度に実施した医療専門家と建築士が連携して行った医療分野での建築士の役割の明確化等を踏まえ、医療と建築の連携の方法や時期、医療従事者が行うリハビリや住宅改善指導の効用検証を行い、それを踏まえ医療と建築の連携のガイドラインを作成し、普及促進や広報を行う事業。ウィズコロナの時代に医療分野と建築分野との連携は喫緊の課題であり、当該事業が現場レベルでの両者の連携の実践的活動であることは評価される。地域の特性による影響を受けにくい分野であり、一部地域での活動に留まらず、より広範囲な普及活動を期待する。 |