医学が「生命の医学」と言われるのに対して、歯学は「生活の医学」と言われ、国民が高いQOLを維持しながら、健康寿命の延伸を享受するために歯学の貢献が強く望まれている。そんな中、歯学研究院ではミッションの再定義で健康科学に貢献する馬出キャンパスの特徴を生かして「多職種間連携教育・研究により次世代を担うグローバル人材を育成し、先進的な基礎研究に裏打ちされた先進医療の研究開発と医療を推進する」と謳っている。
OBT研究センター趣旨
口腔機能(oral health)の異常や破綻と脳機能(brain health)との関連は長く言われている。高齢者の歯の喪失や歯周病などに起因する口腔機能や口腔健康状態の低下が、アルツハイマー型認知症の増悪因子になる可能性が示唆されている。しかし、現象論的に論じられることが多く、メカニズムにまで切り込んだ研究は少ない。しかし、九大では歯周炎に起因してサイトカインを介して脳の炎症に繋いでいることを報告した。また、高齢者の咀嚼・嚥下機能の低下による脳血流量低下、低栄養あるいは誤嚥性肺炎は脳機能を含む全身の健康(total health)を悪化させている。また、口腔センサー(味覚、口腔粘膜や歯根膜による圧覚、痛覚、温覚など)からの入力は脳を活性化し、全身の健康にも役立つ。
高齢者にとって口から美味しく食べることはQOLの維持や健康寿命延伸に不可欠であり、咀嚼・嚥下による口からの摂食ならびに味覚を通じた食健全化は重要である。また、咀嚼機能は、脳のリハビリテーション効果、メタボ予防効果ならびに認知症予防効果にも及ぶことが明らかとなってきている。これらのことから「健康長寿の秘訣は健全な口腔機能・口腔健康にある」というコンセプトに基づき、歯学研究院の得意をさらに高めることで、これらの問題に正面から取り組む。国民のQOL向上、健康寿命延伸に対する戦略を打ち出すことは歯学研究院の社会的役割を考慮したミッションである。そこで、口腔機能(Oral health)→ 脳機能(Brain health)→ 全身の健康(Total health)を包括的にサイエンスするセンター(OBT研究センターと略称)を設置する。