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2021年10月5日(火)
生野茉椰、坂本涼風、大石和奈(東京工業大学附属科学技術高等学校)
日本を代表する文房具・オフィス用品メーカーのコクヨ株式会社が大切にしているのは、自社の「先取り体験」。「お客さまよりも一歩先に失敗する」をスローガンに掲げ、持続可能な社会の形成に向けて積極的に新しい取組を行っています。これを肌で感じさせてくれるのが、長年にわたりコクヨ株式会社が運営しているライブオフィスです。作られたのは高度経済成長期真っただ中、1969年の大阪でした。当時としては画期的な、日本初の取組です。創設から52年経った2021年現在、全国30ヵ所に展開しています。
ライブオフィスは、社員が実際に働く姿を見られることから「生きたショールーム」とも呼ばれます。予約制の見学ツアーを実施し、各自社製品のコンセプトと具現化するアイデアを見せることで、お客さんに新しい働き方を提案しています。社員がオフィス内で新しい働き方をいち早く体験し、失敗と成功を繰り返しながら、お客さんにとっての最適なオフィスを模索しているのです。
私たちが訪問した「東京品川オフィス」は、働き方の実験場「THE CAMPUS」として2021年2月15日にリニューアルオープンしました。コンセプトは、「みんなのワーク&ライフ開放区」。新型コロナウィルス感染症の影響で在宅勤務が増え、多くの人がオフィス用チェアやデスクを自宅に購入しました。働き方が大きく変わったなかでオフィスの役割を再考し、「ワーク」と「ライフ」の関係性、職場や生活空間の持つ意味などについて改めて考え、完成させたのが、この施設なのです。ビルの一部を開放し、だれでも利用できるラウンジや公園、コーヒースタンドなどのパブリックエリアも新たに創設されました。
「東京品川オフィス」には、社外の人でも利用できる公園が敷地内にあります(提供:コクヨ株式会社)
ライブオフィスの4階から9階の各階には、「捗はかどる」「整う」「遊ぶ」「試す」「集う」「企む」の6テーマが設定されています。
「集う」をテーマとした階は、間仕切りをカーテンにすることで人数や用途に応じたスペースを確保できるようになっています。
空間の設計に必要な機能や資料、素材を揃えた「試す」。
部署や仕事の垣根を超えてオープンなコミュニケーションを促す「遊ぶ」。
チームのメンバーとのやりとりなど、仕事に向かう心身のコンディションを整えることをテーマにした「整う」。
ひとつの建物の中で、全く違うテーマのオフィスを見ていくことで、お客さんは新たな気付きを得て、自分たちのオフィスのイメージを膨らませることができます。
「遊ぶ」がテーマのライブオフィス6階。テーマに合わせた室内のデザイン
(提供:コクヨ株式会社)
また、私たちが驚いたのは「ジェンダーレス・トイレ」です。
2階ロビーにあるこのトイレには、男女の区別がありません。手洗い場とロビーはガラスで仕切られ、見通しがよく安心して使用できる設計になっていますが、使用者の間では賛否両論あるそうです。
お客さんへ提案する前に自分たちで体験して得た気付きを活かすという、コクヨ株式会社らしい施設だと感じました。このような姿勢を知り、私たちも働き方の多様性を考える機会となりました。
ジェンダーへの取組としての試みであるトイレ(提供:コクヨ株式会社)
「エコマーク」「グリーンマーク」のように環境に配慮した商品であることを示すマークは、世の中に多く存在しています。コクヨ株式会社も自社製品すべてを環境に配慮したものにするために、エコではない製品にバツ印を付けていく「エコバツマーク」に取り組みました。製品への評価は、独自の環境基準に基づいて行われます。製品ごとに“つくる時”“つかう時”“はこぶ時”“すてる時”の4つの観点から、その製品が環境に配慮しているかどうかを評価します。どれかひとつでも基準をクリアできなかった場合は、その製品のカタログに“エコバツマーク”が付けられるのです。
当初、この取組に反対する社内の声も多かったといいます。「環境に配慮していない」と評価された製品を、バツ印とともにカタログへ掲載するのは勇気の要る行動です。それでもコクヨ株式会社がこの取組を続けることができたのは、環境配慮への強い想いと“先取り体験力”にあると感じます。
2008年の取組スタートからわずか3年後の2011年には、エコバツ該当商品がゼロになりました。環境に対する配慮が足りない製品をあえて示す逆転の発想が、大きな成功につながっています。
東京ライブオフィス取材時の様子コクヨ株式会社は、オフィス家具を中心としたファニチャー事業も行っています。 インクルーシブデザインの手法を用いて開発したのが、ロビーチェア「Madre」(マドレ)。
ワークショップを通して実際に障害のある人と話し合いを重ね、完成させた待合用のいすです。インクルーシブデザインとは、高齢者や障害者、外国人など、これまではデザインプロセスから外されていた人々とともに商品開発やデザインを行う手法です。
「車いすでも自立したい、自分でできることはしたい、特別扱いされたくない」という意見から、「車いす利用者が使いやすいいす」というテーマが設定されました。要望に応え、車いす利用者がほかの人と一緒に待ち、移動できるスペースを確保できるようにデザイン。加えて、座面の高さ、ひじかけの長さも工夫され、立ち上がりやすく設計されています。その結果、Madreは車いす利用者だけでなく、ベビーカーをひいた人や杖をついている人にも使いやすい製品となりました。
最初は特定の人のためにデザインされたものでも、アイデアや使いやすさを追求していくことで、他の人にも心地よくなるのだと思いました。きっとそれこそが「インクルーシブデザイン」の肝なのでしょう。
Madre についてお話しくださった
コクヨさんの、多くの人の悩みに耳を傾け、それを解決するためのアイデアを商品として創り上げているところが本当に素敵だなと感じました。オフィスにもたくさんの工夫が散りばめられていて、ただ仕事をするのではなく、そこに楽しみが自然と生まれるような空間で、私もこんな素敵なオフィスで働きたいなと思いました。
取材をさせていただく前のコクヨさんのイメージは、文房具を作っている会社でした。取材が決定して、事前調査をしていく過程でオフィス家具などの空間デザインも行なっていることを初めて知りました。私たちが快適に働くことができるのは誰かが失敗や成功を繰り返した成果、与えてくれるもので、その結果、時代に対応した働き方ができるのだなと、取材や会社見学をとおして思いました。
コクヨさんの「先取り体験力」や「共感力」に圧倒されました。商品開発やよりよいオフィス空間の追究など、至る所でそれらが感じられました。「エコバツマーク」の取組もそうですが、持続可能な社会を目指していく決意の強さを感じました。
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