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Tuesday, March 19, 2013

Magazine "F5.6" vol.7

枻出版社から発刊されているカメラ専門雑誌「F5.6(エフゴーロク)」の第7号が発売されました。

この号の巻頭6Pにわたって、セイケトミオさんがプラハでDP3 Merrillを使って撮影された写真が掲載されています。

これらの写真は、DP3 Merrillのカタログで使用したものと撮影データとしては同じもので、それをベータ版のPhoto Pro5.5でモノクロ現像されたものです。

これまでこのセイケさんの作品ページはライカのカメラで撮られてきましたので、被写体は違うにしろ、以前の号の、それらの写真との違いは、見る方が見れば十分に読み取れるのではないかと思います。

シグマ側に立って言えば、まったく遜色ない、というのが僕の正直な感想です。もっと言えば、価格で言えば10倍するカメラでなくても同等の「作品」が撮れるということを証明してしまった、ということにもなり、これはDPシリーズの持つポテンシャルを信じてきた僕にとってはとてもうれしい出来事です。

煙突の写真はスヴォルノスティの廃墟の中から撮影した光景です。この場所に辿り着くまでにセイケさんと人気のない階段を恐る恐る登ったのが思い出されます。見開きのクラシックカーとの出会いも衝撃的でした。8Pはプラハの写真の神様が降臨した瞬間。そしてカタログにはカラーで掲載した最後の石畳と犬のカット。どの写真も、そこにいた僕は特別な思いを持ってしまい、胸が熱くなってしまいますが、モノクロームに仕上げられた素晴らしい写真を、ぜひ書店で手に取って見て頂けたらと思います。

それから自分ごとになりますが、同じ号に僕へのインタビュー記事が掲載されました。タイトルは「シグマDP3メリルという独創性 シグマが私たちの心を掴むもうひとつの理由 INTERVEW / 福井信蔵氏(アートディレクター)」という仰々しいものですが、シグマの山木社長の意を汲みながら、これまで行なってきたシグマのカメラ群へのブランディング方針と、その具体化について語らせていただきました。インタビューでは、「宇宙でも書けるスーパーボールペンではなく、最高の鉛筆」という一言に色々な思いを込めました。セイケさんの写真と合わせて読んで頂けたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

Posted by Fukui Shinzo at Tuesday, March 19, 2013 6 comments | category: , , , ,

Saturday, March 02, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Prague

巨匠・セイケトミオさんに、SIGMA DP3 Merrillのデビューを飾る写真をお願いし、訪れることになった古都・プラハ。「これが現時点での最新です」と受け取ったDP3をプラハで手渡し、2012年11月20日から、セイケさんとの撮影が始まりました。問題の多いベータ機という未完成のSIGMA DP3 Merrillを渡されながら、あれほどの写真を残してくださったセイケさんへの感謝は言葉に出来ません。

自分の撮影メモを紐解くと、初日にこう書いています。
「初日メモ。憧れの写真家と過ごした12時間。朝8時半にホテルに来てくださり、そこからラウンジで2時間、まずはカメラを手渡して設定の確認と機能の説明をひととおり。そのあとDPシリーズに与えてきたコンセプトと、今回のプロジェクトの大きなフレーム、さらに清家さんの写真から受けている印象を、もう一度しっかりと話す。彼の写真を自分なりに分析し、その特徴とも言えるところを彼に面と向かって言うのは正直ものすごく緊張する行為だった。話している間じゅう、無表情に近い顔、強い目線。怖い。最後までじっと僕の話を聞いて、「すべて了解。アタマに入れました」という返事。ほっとする。そして次にセイケさんの口から出たのは、どうやってそれを実現するかという、具体的なプランと、出来なかったときのリスクについて。なんという理解力。なんという器の大きさ。写真家となってからプロモーションのために写真を撮るのは初めてだ、と聞いたが、それは本当なのかと思う。この人にかけるしかないという思いが正しかったと、この段階で思える。本当にありがたい。奇跡に近いと思う」。
後で理解したことですが、「プロモーションのために写真を撮る」かどうかなどという以上に、セイケトミオという写真家が、写真を撮るための姿勢と集中力は遥かに高いのです。あたりまえのことですが、これまですべてご自分で計画され、実行され、撮れたか撮れなかったの結果もすべて自分の責任となる。そうした、厳しくも本物の、「写真家」の持つレベルの高さの片鱗に触れながら、この時はまだその高みを理解出来ていませんでした。

さらに、以前、このブログに記したことがありますが、ベータ機での撮影はストレスの多いものです。プラハでのカメラも様々な問題を抱えていました。でも愚痴ひとつ言わず、「シグマの山木社長が納得してくれる写真撮らなきゃねー」と、にこやかに僕に接してくださいました。さらに僕に向けて様々な会話を通して、「写真を撮る前に、撮る自分を正すことが先」ということを教えてくださいました。カタログとサイトに記した「純朴という名の郷愁」のエピローグは、まさにそういうかたちで頂いた言葉をそのまま載せたものです。

自分ごとで言えば、セイケさんが撮影される後ろから、僕も初めてのDP3 Merrillを使いながら写真を撮りました。枚数だけはそれなりに撮りましたが、セイケさんが撮られた写真を見せてもらうたび、自分がいかにダメかを思い知らされました。セイケさんは見るまでもなくダメなのをご存知なので「どんなの撮れたの」とは言わずにいてくださる紳士なのです。その優しさのおかげで、僕は変に落ち込まず、あきらめもせず、投げやりにもならず、何がダメなのかを毎晩考え、自分なりに工夫しながら撮ることを続けました。でも翌日、同じ場所でセイケさんが撮られた写真を見て「すげー」と同時にガックリ…。それを毎日繰り返しながら、言葉にしがたいものを得ました。

そしてプラハでの撮影から東京に戻ってきて、「あ、世界が違う」と感じました。うまく言えませんが、「東京」から出発したのに、戻った「東京」が、出発した「東京」ではない。そんな感じです。眼が変わってしまった。見えているものの中で「見るべきもの」がハッキリと認識出来ている。まさに別次元です。完全に世界が変わってしまいました。「写真と言うのは自分を写すことだ」というセイケさんの言葉を、一生懸命、咀嚼しようと努めただけで、世界が変わってしまいました。

でも、これは、まさに僕が望んでいたことなのです。まさかこんなカタチで自分事に出来るとは驚きでした。ここまで自分を大きく変えるとは思っても見ませんでしたが、僕がSIGMA DP3 Merrillで写真を撮ってもらえませんかとセイケさんにお願いした時、セイケさんに託した「写真の持つチカラ」を、まさか、というほどに我が身に得ることが出来た。そして「この思いは、写真に対して意識のある人にはきっと伝わる」という確信にも繋がりました。これほどの強烈な経験は、僕にとってはアヴェドンを育てたブロドヴィッチとの出会い以来でした。

セイケさんが写真に残している「セイケトミオ」とは何か。写真とは何か。それに気づくには、ただただセイケさんの写真に無の心で対峙すれば、誰にでもわかることだと思います。そこで「わからない」のは、見る人の心の問題であって、セイケさんのせいではない。見る側がすべてを脱ぎ捨て、写真家が撮った時の「心」に触れようとすれば、僕が得たものと同じものをきっと得ることが出来ると思います。

セイケさんから得たもの。それを言葉にするのには、もう少しかかります。それほどに僕にとってそれは大切なものなのです。言葉に出来る時がきたらまた書きます。


■このエントリーに用いた写真について : 最初の写真は、プラハでずっと見続けたセイケさんの背中です。セイケさんは街中でも常に集中されていますが、さらに「撮る!」と決めた瞬間から、ものすごい集中が始まることを、いつも背中から感じていました。それを撮りました。二枚目の使いこまれたチューバの写真は、僕はきっと一生忘れないだろうな、という僕だけの大切な思い出が深く重なっています。それを心に置きながら現像したものです。撮ったときは無心でした。でも後に深く学ぶこととなった写真です。

Posted by Fukui Shinzo at Saturday, March 02, 2013 3 comments | category: , , , ,

Sunday, February 17, 2013

SIGMA DP Merrill Series : 画角比較2

DP3 Merrillの発売までもうすぐですね。僕もワクワクしています。さて、プラハで撮ってみた三機種の画角違いの写真をもう一枚作ってみました。前にアップした画角違いのスタディは、遠景ベースだったのですが、これはDP3 Merrillのサイトにもアップしたもので、建物を基軸に見てみると、こんな感じ、という見本です。このスタディをフルサイズでご覧になりたい方はFlickrにもアップしましたので、そちらからご覧ください(原寸)。

一目瞭然なので、もう説明はいらないかと思いますが、3枚重ねている一番下が広角のDP1 Merrillで撮った写真です。その上にDP2 Merrillの写真を縮小しながら重ねました。さらにその上に、DP3 Merrillでの写真を同様に縮小して重ねています。

一番下になっているDP1 Merrillはかなり広い絵が撮れることがご理解頂けるかと思います。画面右にあるように立っている場所の横の壁も覆いかぶさるように画角に入れたり、パースの強い絵も撮ることが可能です。また、真ん中のDP2 Merrillの写真は、ほぼ標準レンズの画角ですので、簡単に言うと、見たままの感じです。この写真でも、教会と塔を見上げた感じが、そのままが撮れた感じがします。一番自然な画角ですね。■追記:ごめんなさい。DP2 Merrillは35mm換算45mm相当なのに、写真の中に41mmと書いちゃいました。とほほ。

一番上に重ねたDP3 Merrillの写真は随分と小さくなってます。これぐらい寄るんだなとご理解ください。この写真で言えば、右側の塔も入れられないかと思いましたが画角的に無理でした。逆に言えば、このように「切り取る」感覚で撮ることが出来ます。DP3 Merrillは「すごい望遠」というわけではありませんが、もう一歩近づきたかった、もうちょっと切り取り感を作りたかった、と、そういう思いをお持ちなら納得出来るのではないかと思います。

自分の写真世界を一歩深めるために、三機種からこれしかないと決めるもよし。二機種を選ぶもよし。三兄弟すべてを揃えるもよし。いずれにせよ、どうかご自分の「写真」を一段深めて行っていただけたらと思います。

Posted by Fukui Shinzo at Sunday, February 17, 2013 0 comments | category: , , ,

Friday, February 15, 2013

SIGMA DP Merrill: フォーカスを無限大に固定する

【重要】DP3 Merrillの本番機を入手して、この方法を試しましたが、DP3 Merrillではこの方法では無限大にならないことがわかりました。テスト検証が遅くなってすみません。修正しました。ご迷惑をおかけしたことを、お詫び申し上げます。

カメラのフォーカス(合焦)を「確実に∞(無限大)にしたい!」という時なのに、「合わない!」っていうことって、これがあるんですよね。そこで、今日は、DP2 Merrillのフォーカスを、「確実に無限大に合わせ、固定する方法」について書いておきたいと思います。いつも前置きが長いので、今日は戯言は後回しにします。戯言は気が向いたら読んでください。さて一発で確実に無限大にするにはどうするか以下に記します。ものすごく簡単です。
  1. カメラのフォーカスのモードを、オートフォーカスにする。
  2. カメラの電源を切る。
  3. カメラの電源を入れてカメラを再起動する。
  4. この時点でフォーカスは無限大になっている。
  5. 無限大に固定するためフォーカスのモードをマニュアルにする。

どんだけ簡単やねん!という感じですね(笑)。カメラがパワーオンになった時点でオートフォーカスは無限大になっている。これを覚えて、ぜひ活用してください。注意点はひとつだけ。この方法で無限大にしたあと、レンズのピントリングを回さないこと。あたりまえのことですが、マニュアルフォーカス状態ですので、カメラをホールドし直した時などに、レンズのところのピントリングを微妙に動かしてしまわないようにすること。これだけです。

試しに、ちょっとテストで撮ってみました。カメラはDP2 Merrillです。北側の窓を開け(寒ぃ)、最近出来たデカいマンションにカメラをむけてみました。以下の3枚は

・オートフォーカスで合わせたもの
・上記の方法で無限大にして撮ったもの
・マニュアルで撮ったもの

です。それを原寸にして、切り取ったものです。オートフォーカスと、無限大に設定して撮った二枚では、ほとんど差はありません。ほんの少しだけ無限大にして撮ったものの方が、自然な感じに思います。

それにしても良く写りますなぁ。まぁ見比べてみてください。


最後の三枚目は、マニュアルモードにして、液晶での拡大率を最大にし、明るく輝いている屋根の上の赤い光にフォーカスを合わせようと、ピントリングを回してみました。液晶上では白い点ですので、それが一番小さくなったところでシャッターを切っています。でも合ってなーい!これが怖いわけです。液晶上では合っている感じなのです。写真でも赤い棒みたいなのはフォーカス来てる感じなのです。でも、写真全体としてはボケている!こういった失敗を無くすためにも、ぜひこの技を知って頂けたらと思います。

ちなみに日中のマニュアルフォーカスでは、もっとピント山は掴みやすいですし、こんな失敗はあまりありません。また、出来ればその都度、撮れた写真を液晶で最大の大きさまで拡大して確認しましょう。

さて、以下は戯言です。僕はこの技を知らず、サハラ砂漠での満天の星空にカメラを向けたとき、オートフォーカスでは合焦させることが困難で、二時間ぐらい、ピントリングをカチカチと動かしてましたが、もう「どーにも合わない!寝る!」となって(笑)、結局DP2 Merrillで撮ることが出来ませんでした。

他にも、三脚でガチガチに固定したけど、被写体が液晶の中で揺らいでいて、マニュアルフォーカスで合ってるような気もするけど自信がない!ということも起こります。

また、クルマや列車の窓から写真を撮ろうとしてもオートフォーカスが合わない時があります。これは自分自身が高速に動いているので変化が激しく、カメラがどこを基準に合焦させればいいか判断できなくなっているわけです。でも、この方法で無限大にしておくと、車窓からの景色なども、確実にポンボケさせずに撮ることができます。

さらに、DP Merrill三兄弟のオートフォーカスは、コントラスト検出方式なので、薄暗いところではピントが来ません。いや、まじで来ません。ずーっと「ジーコジーコ」言って、まったくピントはずれのところで止まって赤い[ ]マークが表示されたりします。こういう時に、被写体が無限大でも行けそうな感じなら、この無限大設定のやり方は有効かもしれません。

ちなみに、この、DP Merrillシリーズのオートフォーカスについて、ちょっと書いておきます。

オートフォーカスには、位相差AFと、コントラスト検出方式があります。位相差AFは、非常に高速に合焦点を検出出来ますが、フォーカス用に別のセンサーを使用するのでコンパクト化には向いていません。

一方、DP Merrillシリーズのコントラスト検出は、写真を記録するメインのセンサーに届いた光をもとに、レンズを動かしながらコントラストの強い部分を探して合焦させる方式です。この方式は、ボケた(コントラストが低い)状態から、レンズを動かしながら、最も輝度差のある部分を探るので、合焦に時間がかかるのが欠点です。初代のDP1/DP2は「コココッ」という音を立てながら合焦するのですが、フォーカスが合うまで時間がかかり、とても酷評されました(涙)。でも、DPもMerrillシリーズになって、輝度情報の検知と処理速度がかなり改善されて快適になりました。さらなる改善に期待したいですね。


Posted by Fukui Shinzo at Friday, February 15, 2013 3 comments | category: , , ,

Sunday, February 10, 2013

SIGMA DP Merrill Series : 画角比較

SIGMAのコンパクトカメラDPシリーズも広角、標準、そして中望遠と、三機種が出揃いました。このSIGMA DP1 Merrill、SIGMA DP2 Merrill、SIGMA DP3 Merrillの、それぞれの画角の違いを知って頂くのに、DP3 Merrillのレンズ紹介のページにもプラハの聖ミクラーシュ教会を被写体とした画角写真を載せましたが、あれは絵としてDP3 Merrillの絵が一番いいかと言うとそうでもないところもあり(あれが後ろに下がる限界の場所なのです)、もっと引いたところからの絵の方が理解しやすいかとも思いましたので、こちらにアップしておきます。

ちなみにこれらは同時撮影ではありません。同じ場所から三台のカメラを三脚に順に載せ替えながら撮ったものですので、太陽は動いていますし、雲間から陽光が出たり入ったりしている状況ですので光量の違いがあります。ですので、あくまでも「画角の比較」という視点で見てください。

SIGMA DP1 Merrill : 19mm(35mm換算28mm相当)

SIGMA DP2 Merrill : 30mm(35mm換算45mm相当)

SIGMA DP3 Merrill : 50mm(35mm換算75mm相当)

さらに、これら三機種の写真を、写真の真中に写っているスメタナ美術館と、その奥の旧市街広場のティーン教会の二本の塔のところを、写真として合わせるように縮小・拡大をして、実際の縮小率・拡大率をスタディした時のデータをアップしておきます。まずは縮小比率のものです。一番下のDP1 Merrillは広角なので、当然のように一番引いた絵です。それを100%としての縮小率です。

次に拡大比率のスタディです。一番小さいDP3 Merrillを100%として、DP2、DP1の拡大率を入れてみました。DP3 Merrillがどれぐらい寄れる感じかわかっていただけるかと思います。こうして重ねて見ると、違いが一目瞭然ですね。

以上、DP Merrill三兄弟の比較でした。DP3 Merrillがまた手に入ったら、これとはまた違った被写体で、こういうテストをしてみたいと思っています。

●追記:このエントリーで使用した写真をFlickrにアップしました。
focal length comp: DP1 Merrill
focal length comp: DP2 Merrill
focal length comp: DP3 Merrill
focal length comp: DP Merrill series


Posted by Fukui Shinzo at Sunday, February 10, 2013 4 comments | category: , , ,

Photo Pro : 色収差補正

シグマのカメラで撮影したRAWデータを現像するSIGMA Photo Proには、倍率色収差を補正する機能を持っています。また、その補正も、それぞれのレンズのデータを元に補正することが出来るので、初めて現像するような方でも、とても簡単に補正を行うことが可能です。

収差とはセンサー上での光の集まり方の微妙なズレのことを言います。デジタルカメラは、レンズを通して光をセンサー上に結像させ、それを記録しています。しかし、レンズを通した光は、まっすぐにセンサー表面に届いているわけではありません。

特に広角レンズの場合には、かなり斜めからの光もレンズは処理しなければなりません。レンズの屈折を利用して光を出来る限り真っ直ぐに、そしてセンサー面での結像にズレが起こらないようにする。これがレンズ開発のむずかしいところなのだと思います。このあたりの説明はニコン・インストルメンツカンパニーさんの顕微鏡技術での説明がとてもわかりやすいと思います(下段の説明の「光源の状態」タブを押すとレンズを通した光がどのようになってズレが起こるか理解出来ると思います)。

結像のズレが発生する原因は、レンズの形状によるものと、レンズに使われる素材の特性に拠るものに分けられます。このブログエントリーで言及する「倍率色収差」は、後者の素材によるもので、視野の広さに比例して「色ずれ」が発生します。ですので広角レンズを搭載したDP1 Merrillでは、避けられないと言ってもいいでしょう。もちろん、最新の技術によって開発されたFLDガラスのような高価なレンズ素材をコスト度外視に使えば、結像ズレは改善されるのかもしれませんが、我々が購入できる価格帯で、最高のレンズ性能を持ったカメラを作ることもシグマのレンズ開発の大きなミッションなのだと思います。

さて、前置きが長くなりました。Photo Proの色収差補正について、具体的な説明に入りたいと思います。サンプルとして開いている写真はSIGMA DP1 Merrillで撮影したものです。広角レンズを搭載しているので若干の色収差が起こる場合があります。それを補正するプロセスをキャプチャしながら、Photo Proの使い方を説明します。まず、ベースの写真を開きます。これはプラハの丘の上からブルタバ川とカレル橋を見下したところです。

この写真の左端を拡大してみます。拡大率は200%です。写真の端を拡大しているのは、最も光が真っ直ぐに届かないところだからです。こうして拡大してみると見事に色収差が起こっています。「パープルフリンジ」と呼ばれるマゼンダ色が滲んだ感じに出ているのがわかるでしょうか。でもこれの補正がPhoto ProでのRAW現像で簡単に出来るのです。補正のために調整パレットの「倍率色収差補正」のタブを開きます。

「倍率色収差補正」のタブの、「レンズプロファイル」をオンにします。画像をクリックして見てみてください。これだけで随分とマゼンダ色のところに補正がかかったことがわかります。そして、この「レンズプロファイル」での補正はPhotoshopでのように、ただ色を除去・変換するという機能ではなく、レンズによる収差を、全体で補正していることがわかります。写真の中心を軸に、原理的に収差の大きい左端に近づくにつれて徐々に補正が強まっている。これは拡大した画像で、補正前とこの補正後を交互に見ると、それがわかるかと思います。さて、でもまだ色の滲みが残っています。そこで、さらに「フリンジ除去」機能も使ってみます。「倍率色収差」のタブにある「マニュアル」補正も使えますが、この写真の場合は、「レンズプロファイル」補正でかなり補正出来ているので、フリンジ補正で微調整に進みます。

「倍率色収差補正」のタブの下の「フリンジ除去」タブを開き、マゼンダの補正を「オン」にし、さらに「適用量」を1.0にしてみました。これでほぼズレを消すことが出来ました。しかしこれで完璧ではありません。マゼンダのズレを補正したことで、こんどはグリーンのズレも少し出ていることがわかりました。これを補正してみます。

「フリンジ除去」タブのマゼンダ補正の上に、グリーン補正も施してみました。もう色がズレていた部分はほとんどなくなりました。枝の向こうの空の色もスッキリとした印象です。まだ気になる場合は、マゼンダとグリーンの補正の適用量を調整します。また、注意が必要ですが、色相パラメータを左右に動かしたり、補正する色相範囲の強弱を調整することで、ほぼ完璧に補正することが可能です。

次に写真を全体表示にして、これらの補正が、写真そのものの印象に大きく影響していないかどうかを確認します。何よりもこれが一番大切です。今回の事例では、「フリンジ除去」タブの色相バーまでは触りませんでしたし、問題ないと思うのですが確認します。また、特定色をピクセル単位で吸い上げて補正する「フリンジ除去」タブの中のスポイト型アイコンの機能を使うと、写真全体の色調に大きな影響を与えかねません。ですので、この補正前と補正後を必ず全体で見比べる。これはとても大切です。実際にこの写真でも見比べてみましたが、最初の補正前と補正後に大きな違いはありません。

さて、DP1 Merrillで撮った写真は、こうした倍率色収差の補正が必ず必要かと問われれば、僕の答えは「いいえ」です。普段ネットで見せたりするレベルではほとんど問題にはなりません。ただ、大きくプリントする場合などは、この補正をかけて無意味な色のチラつきを除去しておくことは必要になると思います。また、印刷する場合は、このマゼンダ色はそのまま出てしまいますので、僕は必ず補正するようにしています。

Photo Proの色収差補正の説明は以上です。フリンジ補正は、また別の側面もありますので、補正が必要になった事例を探して、また書いてみたいと思います。

Posted by Fukui Shinzo at Sunday, February 10, 2013 0 comments | category: , ,

Saturday, February 09, 2013

SIGMA DP3 Merrill: Macro Sample

SIGMA DP3 Merrillのマクロの見本は、サンプルギャラリー撮影メモの第四弾でも紹介しましたが、同じ画角で絞り違いも見たいですよねぇ、ということで、絞りを変えた2枚をFlickrにアップしておきました。被写体はプラハの古本屋で買ったソ連の共産主義に統括されていた頃のチェコ(この頃はチェコ・スロヴァキアですね)の切手です。この時代の切手は「労働万歳!」みたいな絵柄ばっかりでしたが、プラハの景色があるのを見つけたので買いました(ソビエトの国旗が邪魔ですけどw)。切手のサイズや消印の大きさは日本の切手とあまり変わりませんので、スケール感などの目安にしてください。一枚目が絞りF16.0です。ここまで絞っても、よくある嫌気な収差はまったく感じられません。二枚目は開けて、絞りF4.0です。この被写体を撮るのは開けすぎですが、ボケ足の感じはとても素直な感じがしますね。




Posted by Fukui Shinzo at Saturday, February 09, 2013 3 comments | category: , ,

Thursday, February 07, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 6

DP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモも、今日で第六弾。最後になります。今日はDP3M-36番からです。

DP3M-36
いつもは一人で撮影されているセイケさんにとって、ずっと後ろをついてきて、時には待たせる僕のような存在は、あきらかに邪魔者だったと思います。でも、そこは紳士のセイケさんですから、「あっち行け」とか、「もう来るな」とかは絶対に仰らないわけです。そんなある日、僕は朝から用事があって宿を出ることが出来ず、セイケさんとは別行動でした。セイケさんは、足手まといな僕がいなくて、きっと清々しておられたのではないかと思います。でも、この日はずっと小雨が降っていて、セイケさんが撮影されているのかどうかもわからず、とにかく用事を終えて、午後に落ち合いました。そしたらセイケさん、随分と優しいのです(笑)。とてもご機嫌で、「今日はね、色々撮れたんだよ」と、カメラの液晶で撮れた写真を見せてくださるのです。そして、「カフェに入ろうか」と、これを撮ったプラハのカフェ・ルーブルに連れて行って下さいました(ここのホット・チョコレートはプラハで一番濃厚で美味しかったです)。恐縮しながらも、その時にお聞きした話は、「写真とは」の真髄に迫る話で、僕にとっては忘れられない時間となりました。これは、その時にセイケさんが頼まれた紅茶のポットです。とても暗かったので三脚を立て、ガラスコップに焦点を合わせて撮りました。絞りはF5.6です。自然なボケ感と、滑らかな質感描写が、ポット、グラス、カップの、それぞれの立体感を素直に記録しています。また、窓の外からの光も柔らかく、静けさを感じます。そして僕は、この写真を見るたびに、セイケさんから頂いた金言が、いまも蘇ります。

DP3M-37
プラハの街を縦横無尽に走る「トラム」こと路面電車。僕たちは毎日乗って移動していましたが、不思議なことに観光客が乗っているのを、あまり見ませんでした。彼らはどうやって移動しているのかわかりませんが、まぁトラムに乗らなくても旧市街を歩いて回るだけでも観光は十分に出来るので、そういうことなのかもしれません。とにかくトラムは便利です。停留所で待てばすぐに来ますし、どこに行くのもチョイ乗り感覚で、乗ったり降りたり。それぐらい煩雑に次から次と走って来ます。そんな中、石畳と線路の輝きのコントラストに魅せられていました。でもじっくり構えて撮っているわけには行かないのです。線路に立つと、すぐに後ろから電車が近づいてきて「ぽわーん」と警笛が鳴らされます。それに線路のところはクルマも走るので危険なのです。でも、ある日、クルマが来ない線路だけの場所を見つけ、撮っては歩道に戻り、また路面に戻って撮る、というのを繰り返して、これを撮ることが出来ました。構図としては、夕方の路面の、ほとんどモノクロームの絵で、あまりに構成的すぎるので、この構図の中に、通りすぎて行ったトラムの余韻の赤い色の光を入れようと粘りました。絞りはF4.5です。

DP3M-38
これは、アールヌーヴォーの代名詞のような存在の「アルフォンス・ミュシャ」がデザインした、聖ヴィート大聖堂のステンドグラスです。でかいです。巨大です。ディティールを撮りたかったので、近づけるだけ近づいて撮りました。他のステンドグラスにはない美しい色彩も、細かなガラスの質感も、ちゃんと写ってますね。この大聖堂の中は、写真はOKなのですが三脚は立てさせてくれません。どう考えてもブレると思い、お願いしましたが許可されませんでした。仕方がないので手持ちで撮ることにしました。そういうわけでこれも開放F2.8です。ISO感度を上げようかとも思いましたが、このベータ機では、こういう暗い所ではバンディング・ノイズが出ることを懸念していたので(この写真にも出ています)やめました。そして、こういう時に連写モードが役立ちます(笑)。左右のブレは写真的には致命的ですが、前後のブレはピント位置が違ってくるだけで、まだ救いようがあります。ですので、出来るだけ身体が横に揺れないように足を踏ん張り、あとは集中して撮り続けました。このベータ機ではなく、発売される本番機なら、ISO400 / F5.6ぐらいでも余裕で撮れるのではないかと思います。しかしこれ、微妙な色までホント良く写ったなぁ。

DP3M-39
セイケさんとの撮影は2012年11月30日に終了し、セイケさんは翌朝にプラハからイギリスに戻られました。僕はもう一日滞在し、ステンドグラスの写真の38番から夜景の42番までを撮りました。これらは、このサンプルギャラリーに掲載するための写真として撮ったもので、セイケさんと一緒に過ごした時間での写真以外に、もう少し色彩感のあるものや、建物、よりスナップ的なものも撮影しておかなければ…と、そういう感じで撮ったものです。そこで、セイケさんとの撮影では徹底的に避けてきた観光地に出かけました(笑)。そしてこの快晴です。セイケさんと撮影していた時には、一度も出なかった見事な青空が広がりました。これだけ明るいとブレの心配もなく、ある意味、気楽に撮れます。そんな気持ちを天が察したのか、真上をジェット機が真っ直ぐに飛んでくれました。飛行機雲にフォーカスを置くのではなく、手前のシルエットにピントを合わせました。絞りはF5.6です。これはノーマルに現像していますが、Fov Classicモードで現像すると空の青が際立ったのかもしれませんね。

DP3M-40
西陽に照らされる聖ヴィート大聖堂を見上げた図です。38番のステンドグラスを撮ったあと、大きな教会をぐるりと回遊し、表に出てきたところです。言ってみれば大聖堂の正面ですね。ただ、DP3 Merrillの「レンズ紹介」のページの一番下に、DP1 / DP2 / DP3の画角違いを載せましたが、DP3 Merrillは、これぐらい狭い画角なので、全体を撮るにはかなり下がらなければなりません。しかしこの大聖堂の前はそんなに広くないのです。サンプルギャラリーの10番の、遠景から撮った大聖堂の写真でもわかるように、周りは建物で囲まれているので引きがありません。仕方ないので、逆に寄って、正面のステンドグラス部分を撮りました。しかし写ってますね。保護用にかけられたネットの、網の線の一本一本が、すべて滲まずに描写されていて驚きです。他社のカメラだと、これと同じ画角で撮ると、おそらくネットの色と背景の色が近い部分は溶けてしまったように写ってしまいますが、そこはMerrillセンサー、さすがの描画です。それから、これは晴天ですがISO200で撮っています。その理由は白飛びを防ぐためです。このように直射日光が当たっていて、被写体に強いコントラストがある場合、ISO100のJPEG撮りでは白飛びが起こる場合があります(RAWで撮っていれば現像でかなり戻せる)。これはMerrillセンサーの実際の実効感度がISO100よりも若干高いことに起因しています。直射日光下では、ISO200で撮ることで回避出来る場合があることを覚えておいてください。

DP3M-41
DP3 Merrillと同時発表で話題になっているモノクロモードの写真です。あくまでもベータ機での撮影ですし、現像もPhoto Pro5.5のベータ版で現像していますので、これも「見本」という見方でご覧ください。この写真を撮った場所はプラハのアンジェル駅の裏通り、プルゼニスカーから南に少し行ったあたりです。プラハのマンホールは、紋章のある文様も魅力的なのですが、この鋳鉄のザラザラした質感が美しく、また石畳との対比もいい感じ。奥から光が差し込むのを待って撮りました。モノクロモードでの現像では、光の入り具合と、鋳鉄の鈍い輝き、この二点に絞って現像しています。Foveonのセンサーは、元々光を100%取り込んでいますので、X3FというRAWデータは、そのすべての光の情報を保持しています。ですので撮ったときに生成されるJPEGデータでの階調や、ハイライトなどは、あくまでも暫定的な現像結果でしかありません(またJPEGでは白飛びが起こりやすいのです)。そして色分離せず「すべての光」の情報をモノクロームでコントロールするわけですから、カラーの現像よりも、より突っ込んだ印象操作が可能です。これは次のSIGMA Photo Pro 5.5がリリースされたら、是非みなさんに試して頂きたいところです。ちなみにこの写真の元のデータは、(削除) またFlickrにアップしますね (削除ここまで)。まったく印象の違う絵ですので、現像でこんなに出来るのかと驚かれると思います。■追記:Flickrに元の写真をアップしました。Flickrのは撮ったまま現像したデータです。

DP3M-42
さて、長々と書きつづけてきたDP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモも、最後の写真になりました。この写真は、マーネスーフ橋の上から、カレル橋を撮ったものです。プラハは夜になると主だった建築に美しい照明が当てられます。それもよく考えられていて、照明の光源が上手く隠されていて、夜でも写真が撮りやすいような配慮がありました。このあたりはさすがです(京都や奈良の、あの無神経な照明は考え直してもらいたいものです)。そういうわけで夜景を撮りたいと思っていましたが、中々絵になる光景に出会いません。そこにカメラを向けても、ただ照明の当たった古い建物、でしかないわけです。そんなことから川面に光が映り込む光景を撮ることに決め、カフェ・スラヴィア側から王宮を狙ったり、ストジェレツキー島から見てみたりと、色々歩いた結果、このマーネスーフ橋から見た光景に決めました。ISO100で4秒露光です。空に伸びる照明のフレアが美しく、評価測光での±0から露出を少し開けて一度撮りましたが、左の建物に白飛びが出たので、その両方を鑑みて露出を-0.3下げて撮っています。それでもこのバックライトの感じがちゃんと写っていて美しいですね。また、この写真は色温度をあえて「蛍光灯」にして撮っています。この設定での色が、僕には最も美しく感じたのでした。異邦人を温かく受け入れ、色々な経験をさせてくれたプラハの街への感謝を胸に、最後の夜に輝くプラハを撮る。これはその時の僕の心の中の色です。

これでDP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモは終了です。見ていただいて、DP3 Merrillってこういう感じなのかな、と、そういうニュアンスを少しでも掴んでいただけたらと、そういう想いで書きました。また、写真の解説というよりも、撮影記になってしまったものもありました。でも、旅の写真は、そういう「そのときの記憶」こそが重要なのではないでしょうか。それを元に現像し、記憶を焼き付ける。そしてその経験を自分のものにして、また次の旅へとつなげていく。そういう意味でも、「写真」というのは素晴らしいものですね。

最後に、心からセイケさんに感謝します。ありがとうございました!

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以下、この撮影メモのエントリーリストです。それぞれ7枚づつです。合わせてお読みいただけたら幸いです。
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 1
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 2
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 3
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 4
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 5
→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 6(このエントリーです)

Posted by Fukui Shinzo at Thursday, February 07, 2013 5 comments | category: , ,

Wednesday, February 06, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 5

DP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモも、今日で第五弾まで来ました。昨日は忙しくて、ここまで続けて来た通りに書くことが出来ませんでした。すみません。今日はDP3M-29番からです。

DP3M-29
これまで写真を公開するときは「gris」という名前を使ってきたのですが、実はそのグリィ(gris)という名前は一緒に暮らしているイタリアン・グレーハウンドの名前なのです。でも実名を出さなきゃダメ!と、DP1 Merrillのプロジェクトで一緒にカウボーイを撮影しに行ったポール・タッカーさんに強く言われたので、今回は自分の名前をサンプルギャラリーのクレジットに掲載しました。そんなわけで、ロケ先でワンコを見ると、東京にいるグリィのことを思い出して、つい撮ってしまうわけです(笑)。このワンコは、セイケさんと連日歩いていて、カタログの9Pの、衝撃的な光景(サイトではchapter2のヘッダの写真です)に出会う直前でした(このギャラリー解説とは別にセイケさんとの撮影記は、またブログに記したいと思ってます)。通りを歩いていると、ちょうど目の高さの窓にこの子が座っていました。しかし状況はとても暗く、立ち止まって撮ろうとしてもオートフォーカスが合わない!そんな中、なんとか撮りました。寄った写真もあるのですが、自分としてはこの引きの絵の、その暗さ(プラハの初冬は午後3時半には暗くなるのです)が窓に写った感じが気に入っています。

DP3M-30
この写真はトラムの席に座ったところから窓越しに撮っています。だからこの高さから撮れているわけですが、バスの座席に座って通りに立っている人を撮るとこんな感じの画角、と、そういう感じで見ていただければ、DP3 Merrillのレンズの距離感を掴んで頂けるでしょうか。決して望遠ではなく「中望遠」ですので、画角は狭いのですが、工夫すれば色々な絵を撮ることが可能です。絞りはF2.8開放です。メガネや手袋、ビニール袋などの質感がしっかりしているので立体感に違和感がありませんね。さて、この30番と手前のワンコの29番ですが、この2枚には、暗部にバンディング・ノイズが出ています。撮影を終えてからプラハで使った機材のファームウェアの具合をシグマさんに確かめて頂いたところ、このベータ機では、バンディング・ノイズ処理のところがチューンし切れていないとのこと。ですので発売される段階では劇的に改善されていると思って頂いてもいいかと思います。ちなみに、バンディング・ノイズとは、階調割れのことです。シグマのカメラでは、縦横に走る線のようなノイズのことを言います。これはセンサーの受光部が細かく方眼に切られており、そこの受光部分で発生している、本当に微弱な揺れが、そのまま増幅されて出てきてしまっているのです(と僕は理解しています)。シグマ以外のデジタルカメラに搭載されたセンサーは、すべてモノクロセンサーなので、光の強弱の部分で階調割れは起こりにくく、微弱な光を大幅に増幅してもノイズは発生しにくいわけです。でも色は調合して作っていますので、必ず「にじみ」が出る。まぁ、一長一短あるわけです。

DP3M-31
撮影中盤、セイケさんとトラムに乗って、街の西側に行ってみました。そうすると徐々に古い建物が少なくなり、団地が連なるエリアに入っていきました。まさに庶民の街という感じですが、どこか整然としていて冷たさを感じます。セイケさんも何かを感じたのか「ちょっと降りて歩いてみようか」と言われ、次の駅で降りたところ、なんとも形容しがたい東欧的モダニズムに出会いました。この写真の建物はまだシックな色なのですが、この建物の奥には、建物ごとに虹色にグラデーションになっているなど、かなり大規模な再開発があったことが伺えました。70年代初頭ぐらいの建築でしょうか。コンクリートとアルミとプラスチックとガラス。そこかしこに共産圏の香りがします。旧市街の「華麗なる百塔の街」と形容されるようなプラハから受ける郷愁とは別の、実際に人々が暮らす真実の姿の一端。この光景に触れたことで、僕は違った感覚が呼び起こされました。

DP3M-32
20番の説明にも書きましたが、観光地は別にして、庶民の街では、店先を彩るようなディスプレイがほとんどありません。もちろん無いわけではないのですが、工夫がないと言いますか、魅力的なプレゼンテーションが少ないのです。セイケさんも「パリの小粋さを求めてみてもプラハにはない。だから逆にモノを見る目を鋭くしなきゃならないところもあって、この街は集中力を求める」と仰ってました(巨匠らしいお言葉です)。確かにパリは(それが郊外であっても)、工夫を凝らした軒先に数多く出会えますし、写真に、そのエスプリを写し込むのも容易です。しかしプラハは違う。この街は、もっと足が地についた視線を求めて来る。そんな風にセイケさんの言葉を咀嚼しながら歩き続けました。そして出会ったのがこの黒板でした。お肉屋さんの店先です。勢いのある文字に惹きつけられました。まず、消しては書いた痕跡のある黒板にカメラを向けましたが、壁の色と窓枠の色とのコントラストも良く、それらを含めての構図にアタマを切り替えて撮りました。
●追記:コメント欄でmonoceros59さんが指摘してくださったように、赤い窓枠のところに羽虫が一匹とまってます。か細い足までしっかり描写していますね。

DP3M-33
どこに行っても、僕はこういう光景に出会うと萌えてしまいます(笑)。こういう偶然が生んだアブストラクトの読解が楽しいのです。過去、こういうので一番すごかったのはベネチアで、剥がして次を貼るのではなく、上に上にと糊を塗っては貼っていくので、その厚みとシワの寄り方に萌えまくりましたが、プラハのこれは、剥がし手と貼り手の妙な息づかいが感じられます。またこれは、すごくプラハらしいと感じました。多様なタイポグラフィ。またその重なり方も絶妙です。手描き風のクルマのイラストや、その上に踊っているように腰掛けた人の姿のような要素もいい味を出しています。また色も、他では見ない色彩感。さらにこの背景の壁から浮き出た長方形が絵画のキャンバスのようでもあります。そもそもこれは電気のヒューズのような配線部分のカバーなのです。それがいつしかキャンバスとなり、それを良しとしないこの建物の管理人が剥がす、というのが繰り返されている…。そんな光景を思い浮かべながら構図を決めて撮りました。これは絞りF3.5です。

DP3M-34
この写真は、サンプルギャラリー解説の第一弾で紹介した、DP3M-03番の馬の足をセイケさんが撮られているとき、隣に立っていたので、その馬の首の部分を撮ったものです。いまにも雨が降りそうな曇天でしたので、これも開放F2.8で撮っています。質感表現としては見て頂けるものにはなっているのでギャラリーに掲載しましたが、実はこれは馬を撮ろうとしたのではありません。目の前にある光景を「切り取る」という方向にアタマは動いていて、どちらかと言うと構図の中をコンポジション的に構成しようという意識が働いていたのだと思います。太い斜めの線(馬具)、右上に縦の線(たてがみ)、という具合に、構図の中を構成的にしようと、そういう感じです。でも、いま改めて見直すと、もっと絞って、寄れば良かったなと思います。構図としても左側が甘いですね。左半分の毛並みの流れも入れたいという欲が敗因ですね。もっと煩悩を滅してから撮れとセイケさんに言われそうです(滝汗)。

DP3M-35
これはプラハの中心部にある、ある建物の二階から、中庭ごしに回廊の向こう側を撮ったものです。この場所にはセイケさんと二度訪れました。この写真をサンプルギャラリーに載せたいと思ったのは、この見事な質感表現もあるのですが、回廊の奥の壁の上部のあたりの表現力を見て頂きたいというのが本音です。DP2 Merrillのプロジェクトでのモロッコの撮影でも「これはすごいなー」と感じたことなのですが、Merrillセンサーは徐々に暗くなっていく部分の描画力が他社のカメラに比べて圧倒的に高いのです。この写真で言えば窓の上から画面が切れるまでのあたりの描画です。モロッコの写真(DP2 Merrillのギャラリー12番の写真)の、左側の回廊の奥の光があまり届いていない暗いところあたりの描画です。つまり、そこは実際はとても暗いのです。でも前が明るいので、そこからの反射する光があって暗さが緩和されている。そういう緩やかなリフレクション。それが全体のバランスを崩さずに写真にしっかりと写る。この写真で言えば、向かって左の窓の上のあたりの質感描写は、全部そういう下から煽られた微妙な光だということがわかります。こういう「光の持つ方向性」のようなものを感じられるのがMerrillセンサーで撮った写真の魅力のひとつです。神々は細部に宿る。こうした微細なところの優れた描画。そしてその集合体としてのリアリティ。水面のようなものを撮っても、まさに!と、リアルに感じることが出来るのも、こういう「光の方向性を描き分ける能力」があるからではないでしょうか。

今日もなんとか7枚書けました。残すところ、あと7枚ですね。引き続き書いて行きたいと思います。

→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 6 へ


Posted by Fukui Shinzo at Wednesday, February 06, 2013 4 comments | category: , ,

Tuesday, February 05, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 4

DP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモ、第四弾。今日はDP3M-22番からです。

DP3M-22
DP3 Merrillのレンズにはマクロ機能がついています。マクロとは接写のことです。フィルム時代はマクロと言えばフィルム上に等倍での撮影が出来る前提のレンズを指していましたが、デジタルカメラになってからはセンサーサイズが色々出てきて、等倍ではない場合にもマクロという言い方をするようになりました。今は撮影倍率という言い方のほうが正しく伝わるのかもしれませんね。DP3 Merrill搭載DPレンズのマクロは最大撮影倍率1:3です。また最短で被写体に寄れる距離は22.6cmです。そういう数字を出してもイメージが湧かないと思うので、22番と23番はマクロの見本としてサンプルギャラリーに掲載しました。22番は昼食時にレストランでマクロテストをした時の一枚です。フォーカスは瓶の手前のハイライトに合わせ、F5.6まで絞っています。手前のテーブルの合焦具合を見て頂くと、被写界深度とボケ具合がわかるかと思います。

DP3M-23
23番もマクロの見本としてサンプルギャラリーに掲載しました。プラハから帰国してから、トランクの小袋にある色々な硬貨を混ぜて撮りました。ユーロだけでなく、オーストラリアドルとかインドネシアのルピーとか、昨年行ったモロッコのコインもありますね。中央右のフォーカスを合わせたのがプラハでの通貨「チェコ・コルナ(Koruna česká)」の20kč銅貨です。この20kčコインのサイズは、いま定規でちゃんと測ってみたら、直径が26mmでした。このサイズで、どれぐらい寄れるかの目安にしてもらえたらと思います。フォーカスはコインの20の数字下の「kč」のところに合わせています。絞りはF4.5です。F2.8だと奥のコインはかなりボケた感じになります。それにしても使い込まれたコインというのは、その痕跡がこんなにあるものなんですね。実はプラハでの撮影は氷点下が続く中でしたが、このチェコのコインは、お釣りなどで手渡されたときに不思議と冷たさをあまり感じませんでした。それはこのコインの無数の傷が、手に優しく馴染んだからなのかもしれません。

DP3M-24
これを撮影した日の前夜から冷たい雨が降りはじめ、早朝も小雨が残っていました。もちろん雨だからといって撮影中止ではありません。逆に、濡れたことによる輝きや、変化する景色を求めて、いつも通りにセイケさんと出発です。プラハには大きな公園や広場が沢山あります。それぞれに銅像が立っていたり、教会の前庭的な佇まいだったりと特徴があるのですが、この写真は街の中心部にあるカルロヴォ・ナームニェスティーのカレル広場で撮りました。朝の9時半ぐらいですから人影もまばら。セイケさんはベンチと柳の落葉にカメラを向けられます。次に遠景の構図に移られたので、僕は邪魔にならないように少し離れて見守ることにしました。しばらくして振り返るとこの光景。うひゃって感じです。この公園は道路が3本通るほどに縦に長く、川側には近代的なビルもあるので、オフィスから抜けだしてきた女性でしょうか。携帯で誰かを説得するように話しています。DP3M-18の時のようにカメラをぱっと構えて5枚ほど構図を変えながら続けて撮りました。絞りはF2.8の開放。オートフォーカスで撮っていますが、髪にビシっとピントが来ていて、これは絞り開放での解像感を見て頂くには良いかと思ってギャラリーに掲載しました。ちなみにこの写真は、現像では何ひとつパラメータを変えていません。まさに撮ったままでこの描写。驚きです。

DP3M-25
前にも書きましたが、プラハの街を歩いていると、どうしたらこんな質感になるのか、何があってこんなに剥げてるのか、ここでいったい何が繰り広げられたのかと、思わず思い耽ってしまうようなディティールを持つ壁に出会います。この壁もそのひとつ。積み重ねられた石だけでも何種類もあり、またそれぞれの朽ち方にも「時間」を感じます。これも絞り開放F2.8で撮りましたが、カサカサした壁面にフォーカスしているにも関わらず、思った以上に雨樋の持つ質感が出ていて、平面的な撮り方なのに立体感を感じる絵となりました。さらに、この写真をギャラリーにアップしたいと思ったのは、さまざまな「黒」の表現力です。ただ汚れた黒というものではなく、煤けた黒、湿度を持った黒など、それぞれの質感を感じる黒の描写力。煤の厚みの違いまで感じる。これがMerrillセンサーの実力ですね。

DP3M-26
この写真は、プラハ北駅から、南側に伸びるトラムの線路に沿って歩くとすぐのところにある古本屋さんの入り口脇の光景です。このあとの27番、28番も、同じウィンドウの光景です。古写真の飾り方に沢山のピンを打っている光景が珍しく、セイケさんに「ちょ、ちょっと撮ってもいいですかぁ」と、待って頂きながら(汗)撮りました。これらの写真の「写り具合」は、見て頂いた通りで、狙ったものが際立つ写り。さすがの描写です。それから、同じ被写体でこの26番、27番、28番と3枚続けて掲載したのは、こういう被写体に出会ったとき、「その場の雰囲気を含めて撮りたい」、「気に入ったものをマクロ的に寄っても撮りたい」という、実際に撮るときの意識の流れのままに掲載することで、DP3 Merrillのレンズの感じを掴んでいただけるといいなと考えたからです。どうでしょうか。イメージして頂けるでしょうか(汗)。

DP3M-27
単焦点レンズでの撮影は、自分から身体を動かしながら構図を決めなければなりません。動かずとも寄れるズームレンズは便利ですが、実はズームは被写体への角度は変えられません。ただ被写体に寄っていくだけです。ですので、ズームする前に「確定」した構図が決まっていなければ、撮れたようで撮れていない、もしくは、撮った気になれたけれど、後から見ると面白くない写真になっている、ということに繋がりやすいのです。一方、シグマのDPシリーズのように、カメラの焦点距離が決まっていると、まず画角と相談する(脳内)、寄るのか引くのか(身体を動かしています)、構図の中の要素の整理(微妙に動きつつ脳内)、垂直水平など(ド集中)、と、こういう身体性を伴いながら構図を摸索していくわけです(この感じは僕だけっすかね 汗)。こういうことを続けると、自分と被写体との深い対話という「経験」を積み重ねていくことが出来ます。そしてその先に「自分らしい写真」というものが見えて来るのではないでしょうか。

DP3M-28
この一連の写真の撮った順番は、27番のマリア様を撮ってから、全景としての26番を撮り、そのあとこの写真を撮っています。意識としては、先に角度のある構図で27番のマリア様を撮ったので、それとは違う構図を探したくなったのでした(セイケさんを待たせていると言うのに!)。そしてフラットな撮り方でコンポジション的に撮ろうと決め、マリア様よりも下にあって水平に撮れそうな、この女性の肖像写真に決めました。紙自体のザラッとした質感も撮りたかったのだと思います。構図を決めようとしたとき、肖像写真の女性の目線が正面ではなく向かって左を見ているなと思ったことを覚えています。ですので、直感的に構図をずらし、上と右に黒い部分を入れてリズムを作ろうという意識が働いたんだと思います。他人事みたいですが、スタジオで煮詰めながら撮ってるわけではないので、その時にどうだったか定かではありませんが、僕の思考回路はそういう風に動いたと思います。あと、これぐらい近い距離での手持ち撮影だと、腕も身体も微妙に揺れているので、どうしてもフォーカスが動きます。そういう時は「□」が三つ並んでる連写モードに切り替えて、とにかく同じ画角でシャッターを押し続ける。これで確実にフォーカスばっちりの一枚が撮れます。後にまた書きますが、ステンドグラスの写真はそれでゲット出来たのです(笑)。

今日もなんとか7枚分のメモを書くことが出来ました。続きますので、明日以降もよろしくお願いします。。

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 5

Posted by Fukui Shinzo at Tuesday, February 05, 2013 5 comments | category: , ,

Sunday, February 03, 2013

SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 3

気軽に書き始めたこのDP3 Merrillサンプルギャラリーの撮影メモですが、いざ言語化していくとなるとむずかしいものですね。思っている以上に時間もかかりますが、最後まで続けて行きたいと思います。今日は「DP3M-15」番からの写真です。

DP3M-15
昨日のエントリーの13番に、セイケトミオさんが天使にカメラを向けておられる時の「心の持ちよう」の話を書きました。あたりまえですが僕が天使を撮っているときとは大違い。僕はもう構図と露出を決めるので精一杯で、その時の「心」と言えば「シルエットがかっこいい」という程度のものです(恥ずかしい)。まぁ、「セイケさんは偉大な写真家であって、もう神ですからー」とか言い訳してみても始まらないので、今後はセイケさんの教えをしっかりと自分のものにして行きたいと思います。さてこの写真、かなり現像で印象を起こしています。この「起こす」というのは、RAWでの記録で撮影するからこそ可能なのですが、奥の空の明るく飛び気味なところはアンダーに抑えて雲の調子を出し、黒く潰れた手前の天使のシルエットは逆にハイライト部分を起こして暗い中にも羽根や腕の立体感を出そうとしています(X3 Fill Light:を+1.2まで使っています)。明るい部分を暗く(調子を出す)、暗い部分を明るく(質感を出す)する。この相反した調整を、同時に出来るのがシグマのX3FというRAWデータの素晴らしいところです。これは使った人にしかわからない事だと思うので、シグマさんには是非、X3Fデータのダウンロードと、Photo Proの試用版の提供など、この現像体験が出来るようにするお許しを頂きたいものです。

DP3M-16
昨日ご紹介したプラハの丘の上にそびえ立つぺトシーン鉄塔からのプラハ城遠景撮影(10番)を終え、299段ある螺旋階段を下まで降りてきたとき、寒さにブルブル震えながら飼い主を一生懸命探しているプードルがいました。近づくと怯えた表情を見せましたが、しゃがんで話しかけ、身体をさすってあげると落ち着いたようで、震えも止まり、写真を撮らせてくれました。彼女は左眼が白く、たぶん白内障にかかっていてほとんど見えていないのだと思いますが、しっかりカメラ目線を送ってくれました。開放F2.8で撮ったので少し後ピンになっているのが気になるかもしれません。でも、優しいご主人がこの子を大切に育てていることがわかる丁寧にカットされた毛並みは見事に写りました。これぐらいの光でもISO100で1/125秒で撮れるなら、発売される実機のISO感度を200に設定すれば1/500秒で撮れますから、手ブレの心配もなく、きっと使い勝手に問題はないと思われます。そういえば、この写真を撮ったあと、ドイツ人の方に声をかけられ、「おっ、シグマのDPだね。見りゃわかるよ。あれ、レンズ長いね。新しい製品かい?」と聞かれてびっくりしました。まだDP3が開発されていることすら誰も知らない時期でしたので、「お願いだからfacebookとかに書かないでね」と懇願したのもこの写真を撮ったときの思い出です。

DP3M-17
コカ・コーラってすごいですよね。世界中、どこに行っても必ずある。そして、それぞれ国ごとにキチンとエリア・マーケティングがされている。さらに、その国々でのコークの表現がある。コカ・コーラのマーケティング素材は被写体としても魅力的で、モロッコで撮影したDP2 Merrillのサイトにも一枚載せましたし、オレゴンでのDP1 Merrillの撮影でも古い看板と出会いました。これだけフォトジェニックなブランドは他にはありません。そんなコカ・コーラ。プラハではプラハらしい佇まいで僕を待っていてくれました。この写真は、元は「日陰」モードで撮りましたが、あまりに鄙びた調子に写ったので、現像で「オート」に戻し、現物の色を再現しました。実際、これを撮った場所は北駅からさらに北に裏路地を入った、いわゆる危ないエリアで、堂々と三脚立てて撮るというのは無理。なのでブレないようにガラス面に身体を押し付けながらカメラをホールドして撮りました。夕方の曇天という弱い光で、さらに窓越しなのに、黒いコークの部分が潰れず、立体になっているのがわかります。こういう僅かな光も確実に拾うところもMerrillセンサーならではの特徴だと思います。

DP3M-18
実は、この絵になるカップルの後ろ姿を見つけたのはセイケさんなのです。街の中心部に来た時、ぱぁーっと日差しが出て、影が落ち、街の見え方が一変しました。コントラストが強まり、逆光からのシルエット的な絵を僕は目で探っていました。そのとき、「むっ」というセイケさんの小さな声が聞こえました。振り返ると、公園のベンチに座るこのカップルたちに忍び寄るように近づいて行きます。こうしたフォトジェニックな被写体を見つける能力も写真家の目なのです。セイケさんはこの写真よりも左斜め後ろに移動され、もっと広い構図を探っておられたようです。僕は素直に真後ろからこの構図に決めてまず撮りました。撮影モードの設定は、絞り優先のISO100、絞りは開放F2.8、色温度は「オート」で、僕のデフォルトの設定のままです。これを撮ったあと、設定を変えて撮ろうとしたら、この二人のまわりに沢山の人が来てしまい雑然としてしまいました。見つけたらすぐカメラを構えてパッと撮る。そんな感じで撮れた一枚です。奥の教会の描写、樹木の細かく輝く開放でのボケ具合、そして合焦している手前の人物。これらが相まって感じる確かな距離感も見て頂きたくて、この写真をギャラリーに掲載することにしました。

DP3M-19
チェコはクリエイティブな文化が育まれた歴史を持っています。写真はもとより、タイポグラフィの世界でも、ブックデザインの世界でも、素晴らしい歴史を持っています。そういう背景があるからでしょうか、撮っている最中に「どう撮ってるのか見せてよ」と言われたのは一度や二度ではありませんでした。写真やカメラが好きの人が多いんですね。この写真は中古カメラ屋さんのショーウィンドウです。開店前のシャッターが降りている時間でしたので(でも沢山の人が開店を待っている)、網目になっているシャッターの間から、飾られていた8ミリカメラを撮っています。被写体の下のレンズに網目が映り込んでいますね。これも絞りはF2.8の開放です。ホワイトバランスは「日陰」の設定で普通に撮りましたが、いい味の色がそのまま出てくれました。こうした古いカメラが高値で売られ、それを眺めに多くの人が集まってくるという光景は、なんとも言えない微笑ましさがあって、僕もなぜかこの場所から離れ難かったのを覚えています。

DP3M-20
窓越しの写真が続きますが、このように窓に映り込むリフレクションを被写体に重ね合わせての絵を模索するのは、僕のこれまでのDPシリーズでの撮影を重ねる中で得たひとつの表現手段です。一方で、プラハはこういう光景で絵になる場所はとても少ないのです。街の中心部の観光地は別ですが、少し離れた庶民の街ではウィンドウディスプレイ自体がほとんどありません。共産圏だったからかもしれませんし、寒い地域というのもあるのでしょうか、「見せている」という光景は建物の中にあり、外側の建物はどれも威圧的な佇まいです。さて、この写真はマリオネットの劇場近くの人形屋さんです。この老婆は頭が掌ほどある大きなものでした。デフォルメされ誇張された立体的な顔。藁で作られた白髪や、骨ばった手。さらに渋い色に染められた衣装やウールの襟巻きなど、すべてが魅力的で、引き寄せられるように撮りました。顔の正面から目線が来ている構図も狙いましたが、右目と左目が違うところを見ているように作られていることに気づき、この写真の角度に構図を合わせ直して撮りました。これも開放F2.8の絞りです。

DP3M-21
この写真に写っているのは「JOSEF SUDEK」の写真集です。ISO100、絞り開放F2.8で、シャッタースピードは1/320秒で撮っています。このヨセフ・スーデックは、プラハの写真家です。そして今回、プラハでのロケに決めたのも、このスーデックさんという写真家が背景にあります。その理由はサイトのコラム「純朴という名の郷愁」の序文にあるとおり、写真家・セイケトミオにとって重要な意味を持つ写真家であり、今回のプラハでのセイケさんの撮影のトーンを強く導いたとも言えるでしょう。スーデックさんは、第一次世界大戦で右腕を失うという悲痛事を越え、写真家として数多くの作品を残しました。特に印象的なのは、ナチによって作家活動の弾圧を受けた時代の、彼の小さなアトリエで撮られた窓からの眺めの写真です。抑圧された中で撮られたのに、その写真から立ち上がってくるものは命への慈しみ溢れる優しい眼差しです。その写真に込められた「心」に感銘を受けたセイケさんは、スーデックさんの写真にある光を確かめたいと、後を追いかけるようにプラハに何度も足を運ばれました。そしてセイケさんは僕にこう語ってくださいました。「どこにもなかったんだよ。その光は。だからね、もう自分の光は自分で見つけなさいと、そういう風にスーデックさんに言われたような気がしたんだ」と。そうしてセイケさんは今回のプラハでの撮影に向かわれました。「スーデックの光を求めてプラハへ」ではなく、「プラハでセイケトミオの光を見つける」旅だったのです。徹底したオリジナリティが立ち上がってくる今回のセイケさんの写真には、そういう覚悟のようなものが存在しているのです。

なんかスーデックさんの話を書いていて、自分の写真のメモから離れてしまいましたが、プラハに来ることになった理由とも言えるスーデックさんの写真集が飾られている光景に出会えたのは奇跡のように感じました。そしてセイケさんもこの光景を撮られました。それはティザーサイトの最初のロゴが重なるこのカットです。僕のようなあたりまえの構図で撮らないところが写真家の目です。


さて、今回のDP3 Merrillでの撮影で、セイケトミオさんが撮られた写真の数々は、これまでのカメラのカタログやプロモーションで使用されてきた「作例タイプ」のものとはまったく異質なものと誰もが感じておられると思います。同時に、僕がセイケさんにDP3 Merrillのデビューのために撮影してもらえませんかとお願いしたとき、セイケさんも強い戸惑いを感じられたことと思います。

しかし実現することができた。それは、何度も繰り返すようですが、よくある被写体を撮った作例を見て、カメラの良し悪しを判断する次元から、写真そのものに没入する歓び、作品としての写真づくりという視座、という新たな次元に、このカメラを手にする方を誘いたい。そのためにも、勇気を持って一歩前に進み出ることが、いまなすべきことではないか。そういう僕の思いを、セイケさんに真正面からぶつけたとき、セイケさんの中に、微かに共感出来るものを感じてくださったからだと思います。

そして何よりも、これはシグマの山木社長の写真への強い情熱と深いご理解があってのことです。理解されにくいかもしれない新たな次元への前進を許してくださった山木社長のご英断あってのことです。ありがとうございました。今日はここまでにします。明日からも頑張って続きを書きますね。

→ SIGMA DP3 Merrill : Sample Gallery: 4

Posted by Fukui Shinzo at Sunday, February 03, 2013 3 comments | category: , ,
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