███邸『████/特殊隔離室』内部 (記録XXX-JP参照)
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-1は現在サイト-8142の低級危険物取扱ロッカーに保管されています。外部への持ち出しは禁止されており、研究目的での使用は担当管理職員2名以上の許可が必要です。
SCP-XXX-JP-1と対の存在とされているSCP-XXX-JP-2の発見、収容は未だ至っていません。これを収容する際、SCP-XXX-JP-2はサイト-8142の上級指定危険物取扱ロッカーに保管してください。ロッカーの周囲には武装した保安要員3名を配置し、赤外線カメラを用いて24時間体制で監視を行ってください。SCP-XXX-JP-2が活性状態になった場合、保安要員はすぐさま担当管理職員の1人である彦名博士に報告、規定に則った沈静作業を行ってください。SCP-XXX-JP-2の沈静が確認され次第、サイト62は即刻封鎖され、Dクラスを含む当該サイトにいた職員はAクラス記憶処理の措置がなされ、別サイトへの派遣がなされます。SCP-XXX-JP-2は機動部隊ゑ-32と保安部隊す-12(蟲の籠)によって確保され、サイト8142の上級指定危険物取扱ロッカーに再保管されます。外部への持ち出しは研究目的を含むいかなる理由があっても禁止されています。
説明: SCP-XXX-JP-1は19██年10月23日に███県██市の███邸で発見された女性の半ミイラ化した遺体であり、後述するSCP-XXX-JP-2もそれと同様の存在であると考えられています。SCP-XXX-JP-1が発見される数日前、先述した███邸では使用人を含む数十人が集団自殺を起こしたため、何らかの異常現象の発生を危惧し複数名の財団調査員が派遣されていました。調査員の1人が『████/特殊隔離室』と書かれた部屋の捜査を行ったところ当該オブジェクトとそれに関連するとされる資料が発見されました。また回収された際に後述の異常性が発覚し、すぐさま収容方法及びSCP-XXX-JP-1のナンバリングが確立されました。
SCP-XXX-JP-1の異常性は、その遺体に物理的接触することで生じます。接触した人物は軽度の目眩や吐き気を訴え、それに伴い幻覚や幻聴といった急性の統合失調症を発症します。これらの症状は接触時間が長時間であるほど重症化し、Dクラスを用いた財団の調査では5分間接触した人物は一週間以内に何らかのかたちで失踪、自殺をしています。症状の改善策として薬物投与による療法が挙げられますが効果は薄く、現時点では記憶処理による快復方法が期待されています。この異常性のためSCP-XXX-JP-1に接触する際は1分以内と制限され、2人以上の保安要員を待機させることが義務付けられています。
Dクラス職員を用いた実験ではSCP-XXX-JP-ABと指定された場所に移動したと主張する者もおり、その際に生じたトラウマや外傷は現実の接触者に反映することが確認されています。SCP-XXX-JP-ABの描写は一定ではないものの、共通して日本の███県に位置する███樹海に類似していると言われています。
SCP-XXX-JP-1は一卵性双生児であることがDNA検査及び後述する関連記録:XXX-JP-1において判明し、そのためSCP-XXX-JP-1と相対するSCP-XXX-JP-2の存在が疑われ、現在捜索を行っております。そのため本報告書で記述されているSCP-XXX-JP-2の異常性はSCP-XXX-JP-1や補遺:XXX-JP-AB-1.AC-2を元に予想したものだということを留意してください。
SCP-XXX-JP-2はSCP-XXX-JP-1と同様に半ミイラ化した遺体であると考えられています。SCP-XXX-JP-2の異常性はSCP-XXX-JP-1と同様に接触することで生じるとされています。接触した者は、先述したSCP-XXX-JP-ABとは異なるSCP-XXX-JP-ACと指定された場所に移動したと主張するとされます。SCP-XXX-JP-ACについての描写は被験者の間で殆ど同じですが、日本の██県████市に存在していた旧███邸
旧███邸の家主 陽█影尚 妻 陰█祥子
SCP-XXX-JP-ACの状況内で得られた、いかなるトラウマや外傷も先述したSCP-XXX-JP-AB同様、現実の接触者にも反映されるとされています。
関連記録XXX-JP-1: 19██年6月13日、SCP-XXX-JP-1と同時に発見された資料の復元作業が開始されました。資料に記述されている文章は不鮮明な部分が多く、そのため詳細な文章や執筆者の特定といった作業は現在に至っても難航しています。
以下は復元が完了した記録書です。文章の鮮明化向上のため、財団の復元チームによって編集が加えられている事に留意してください。
陽█家及ビ陰█家ノ跡継ギ
明治██年10月01日ヲ以テ苦シクモカワタノ血筋ヲヒク分家デアル███家カラ世ニモ珍シキ一卵性双生児ノ姉妹デアル████、████ヲ両家ノ跡継ギトスル。姉ハ陰█家、妹ハ陽█家ニ移ル。
両家ニハ子ガ生マレズ、両家内デノ継承問題ガ生マレタタメノ今回ニ限ル特例デアル。如何ナル理由ガアッテモコレヲ覆スコトハ負カリ通ラン。
又姉妹ハ今後一切ノ交ワリハ認メラレナイ。
陰█家 第██代当主 陽█影尚
陽█家 第██代当主 陰█祥子
記録XXX-JP: 第一回███邸の調査記録。
記録者: 彦名博士
付記: 彦名博士は当時、███邸の家宅捜査を行った調査員の一人でした。主に日本文学を研究しており、財団の文学解読班の責任者でもあり、過去には中山博士との共同研究が記録されています。また、今回の調査班には中山博士も同行していました。
(以下記録)
███邸に対しての恐怖ともとれる違和感はその場にいた私を含め、全ての調査員が感じた。その家が山林に位置していることを踏まえても……そう、そこだけが「別世界にある」と言っても差し支えないような、立地や往来の不便さといった面は特段ないにも関わらず、その場所に家を建てて住まうことに──確証のない違和感を感じたのだ。
舗装がされた道路を何分か走り、そして車ではこれ以上行けないという段に入ったときは、事前に準備をしていた地図を頼りに、歩いて行くことになった。その家に通ずる道は鬱蒼と伸びた木々に覆われており、昼間であるのに足元が覚束なくなるほどに暗く、10分ほど歩いてようやく目的地へとたどり着いた。私たちはようやく着いたのかと安堵していたが、███邸へと目を向けた瞬間にその感情は消失し、愕然とした。確かに、我々が目的としていた███邸は其処に在った。100帖程度あるだろう。白石で創られた、貴族の、いかにも明治の迎賓館を思い起こせる外観である。家は右手側に曲がってから更に25mほど先に在り、その一帯があまり手入れされていない事もあり、詳しい様子を此処から伺い知ることは出来なかった。
しかし、問題はそこではない。外観を詳しく見ることが出来なかったのは、それだけが理由ではなかった。家と我々の間を隔てる、その25m程度の空間。邸をつなぐその道に、それはあったのだ。まず手前側に、3mはある洋式の外門が
数十......いや数百といった数で、所狭しと彫刻が置かれていた。高さは異なるが大体は大人の胸元くらいまでで、体格としては五頭身程度のものである。微笑を浮かべたその表情は一つ一つばらつきがあり、恐らくはこの家主の手作りであると考えられる。高度な彫刻作品といった印象はなく、切り出された大きな石に顔や身体の造形を彫ったといった感じが見てとれた。
屋敷に進入すると、その違和感は膨れ上がり同行していた中山博士もこの異常な雰囲気に警戒心と恐怖を抱いていた。中は非常に寒々しい空気が流れはじめ、私たちはこの場所に長居は無用ということを身体で感じたのだ。
私たちは二つの班に別けて、邸内を調査することにした。何百年も経っているのに対して邸内はまるで今まで誰かが掃除していたかの汚れや建物の経年劣化が見られなかった。書室と思われる部屋を調査すると長編小説の他に、この地方に伝わる民俗学や仏教関連の文献や記録書、そして一つだけ何故か福岡県の鞍手郡にまつわる、ここの亭主が自力で調べたとされる史料が机の引き出しから発見された。
何故、遠く離れたこの場所に福岡県の──それも鞍手郡といった限定的な場所の史料があるのか疑問を覚えたが、すぐに杞憂だと思い込み、考えを捨ててしまった。ある部屋を捜索を捜索していた女性調査員が突然、発狂しながら私に助けを求めてきた。私も部屋に行ってみたが……正直言うと恐怖した。その部屋は酷い腐乱臭が蔓延しており、原型を留めていないほどぐちゃぐちゃとした肉塊が部屋中にこびりつき、糞尿などもいたるところに飛散していた。
私とともにいた調査員もこの惨状をまの当たりりにし、吐いてしまった。ここは……巧く表現できないが、しかし、よく部屋を見た時……我々は絶句した。部屋に飛散している血液や糞尿はまだ新しいものであり、そして。
部屋にあった彫刻だと思っていたものは、女性の左腕であった。(記録終了)
補遺XXX-JP-AB-1.AC-2: SCP-XXX-JP-AB-1及びAC-2について言及された録音資料。
対象: 陽█家 ████氏
インタビューアー: 彦名博士
備考: 対象は最初のSCP-XXX-JP-AB-1を体験した人物であり、当時では精神的に安定した被験者の1人であった。
<記録開始>
彦名博士: ████さん、気分はいかがですか?
████氏: あまり良くない、眠れてないんです。毎晩悪夢にうなされている。
彦名博士: あなたの健康記録書には異常無しと記載されています。それは貴女の症状が原因ですか?
████氏: 症状?あぁ、あの幻覚のことですか。この幻覚の事について考え続けているんです。
彦名博士: 幻覚ですか?
████氏は数度頷く
████氏: 全く信じられないように聞こえるかもしれないが、私の話を信じてください。幻覚が始まった時、私はある屋敷の外──中庭のような所にいました。夜中でしたが、周りは明るいものの霞でおおわれているようでした。空気はひどく嫌な臭いで──まるで腐敗した肉を燃やしているように思いました。 [酷く咳き込む。]
彦名博士: 大丈夫ですか?落ち着いて話してください。
████氏: あぁ、大丈夫です。少し気持ち悪くなって……いろいろなことを思い出してしまって。話を続けましょう。私は光が最も強い場所へと進みました。霞は濃くなっていき臭いもさらに酷くなっていきました。ええ、確かではありません。しばらく──5分ぐらいでしょうか足元が覚束なくなるほどに暗く狭い砂利道を歩き、道が少し開けたところに出ました。漸く明るい所に着いたのかと少々安堵して、視線をそちら側に遣ったとき、私は愕然としました。
彦名博士: なにかいたのですか?
████氏: えぇ、いました。私の──私の先祖にあたる家紋が後ろに刺繍されている黒の袴を着ていた老人がおり、その正面には祭壇と異様に小さい棺、そして大きな炎がくべられていたんです。その人たちは民俗学でいう『翁』に似た能面をつけていたんです。そのせいでその人たちの表情は詳しくは分かりませんでしたが多分笑っていたと思います。そういう雰囲気が周りからあったんです。まるで嘲笑うかのように、今からなにかを捨てて清々しようとするかのように。……確証はありません。[喘ぐ]
彦名博士: ████さん。ゆっくりで構いません。可能な限り私たちに教えてはくれませんか?
████氏が僅かに移動し、 目に見えて不快感を示す。
████氏: ……分かりました。話を続けます。しばらくしてある1人の老人が林の奥から女の子を連れてきたんです。見た目からして8歳ぐらいかと思います。その女の子は寝ているのかそれとも薬物かなにかで意識を奪っているのか、小さく呼吸しているだけで抵抗などはしていませんでした。それから何人かが炎に向かって祝詞のような、呪言のような──そうとしか表現できないことを数分にわたって言ったんです。……正直に言うと異様な光景でした。静かすぎたんです。風の音や葉が落ちる音、誰かの呼吸さえも聞こえず、仏教学にある『祝詞奏上の儀』とも捉えにくい、ただ祝詞だけが読まれていく光景に私はどこか戦慄を覚えましました…。祝詞が読み終えると女の子を連れた老人は勢いが増す炎の前に行き、そう女の子を──炎に投げ入れたんです。まるでゴミを捨てるかのように易々と。その瞬間、大きな笑いが周囲に響き、ある者は『鬼は消えたぞ!』と歓喜し、 またある者は『一族の不純物である鬼の末裔████、地獄へと朽ち果てよ!』と罵声をとばす者もおり、狂喜乱舞といった状況でした。けどその中で微かに、空耳だと認識するほど小さな女の子の声で『ナンデコンナコトスルノ…タスケテ…』と聞こえたんです…。いつも私はそこで幻覚が覚めるんです。[啜り泣く音]……もう話を止めていいですか?もう思い出したくないんです。先祖がしてきたことが……。もう…嫌なんです。あの娘の悲鳴にも聞こえる音を聞きたくないんです。
████氏は片手で口を覆い、泣き始める。彦名氏は████氏がヒステリー状態に陥ったと判断、被験者に対しての継続的なインタビューの続行が不可能な状態だとみなされる。
彦名博士: 今日はここまでにしましょう。
<記録終了>
対象: 陰█家 ████氏
インタビューアー: 彦名博士
<記録開始>
彦名博士: 気分はいかがでしょうか?
████氏: あぁ、最悪だ。ずっと同じ悪夢にうなされているよ。
彦名氏: 悪夢ですか?陽██家の████さんもあなたと同じことを言っていました。
████氏: なに?あいつもなのか。じゃあ、俺がみた悪夢も同じなのかもしれないな。確証はないが…。
彦名博士: 構いません、話してくれますか?
████氏: …分かった。悪夢の初め、気づいたとき俺は和室にいたんだ。瓦葺の、平屋の、いかにも昭和の古民家にある普通の和室だった。おかしいと思ったのは数秒後だ。昼間のはずなのに、妙に空気が冷たくて、弱々しく燃えている1本の蝋燭だけが部屋を照らしていたんだ。悪夢にしてはリアルすぎるその光景に俺は異様なまでに恐怖を覚えた。それから5分ぐらいか左隣にあった『蛙』が描かれた襖が開いて、中から『おかめ(?)』を被った老婆たちが数人でてきたんだ。接触しようとしたが俺の身体がそれを拒んだんだ。理由なんてない、ただ触れれば命が危ないと身体が察したんだ。[咳き込む音]……話を続けるぞ。その婆さんたちは俺の先祖──にあたる家紋が施された白の袴──俗に言う『死装束』を着ていて、右手には玉櫛を、左手には何故か短剣を握っていたんだ。婆さんたちは正面に飾られてあった祭壇に玉櫛を置き、何かを言い始めたんだ。何を言っているかは分からなかったがそれが呪言のように聞こえたんだ。…その後、俺は戦慄した。呪言(?)を言い終えると今度は『蛭』が描かれた襖が開いて中から婆さんに髪の毛を引っ張られながらも、抵抗している女の子が出てきたんだ。女の子は婆さんたちに手枷や足枷をはめられいった。女の子は酷く泣き叫び続けていたよ。けど、婆さんたちは素知らぬ顔をして手枷をはめていった。手枷と足枷をはめ終った後、婆さんたちはどうしたと思う?……刺していったんだよ、生きたまま女の子を。部屋中にあの娘の甲高い悲鳴や罵声、製錬された鉄が肉を抉る音が部屋中に響いたが、婆さんは気にしていなかった。むしろ、もっとその悲鳴を聞かせろと女の子を刺していったんだ。それも笑いながらな。……俺はその光景を見ることしかできなかった。ただ小鹿のように震えることしかできなかったんだ。婆さんたちは最後、『おかめ(?)』の仮面をその娘に着けたんだ。仮面を着けた直後、その娘は涙を流すように目元から血を流した。それから、誰かに──いや、婆さんたちに、確証はないが俺にも向かって消え入りそうな声で『怨むわ』て言って俺の悪夢は終わるんだ。
████氏が酷く咳き込む。呼吸が荒くなっているのがわかる。
████氏: なぁ、もうこの話しは止めにしないか?思い出したくないんだ…。あの娘の叫びが頭から離れないんだ。質問があるなら最後にしてくれ…。[酷く咳き込む音と同時に啜り泣く音]
彦名博士: 分かりました、では最後に──[SCP-XXX-JP-2の偽称]の行方を知りませんか?私たちはそれを捜しているのですが?
████氏: [████氏が強く机を叩く音]そんなこと知るか!親父がどっかの山奥に隠しったきり分からねえよ……もう思い出したくないんだよ!あの娘の叫びが頭から離れないんだ!頼むからもう俺とは関わらないでくれ!くそっ、くそっ、[数秒間硬直]なんで……やめてくれ!来ないでくれ!悪かった!俺らが間違っていた──だからっ!……あぁぁぁぁぁ![数秒間████氏の発狂が続く]
████氏は極度のストレスによる痙攣発作を起こしたため、これ以上のインタビューの続行は不可能と判断。████氏は保安要員によって拘束、即座にサイト26の医務室に搬送され療養、その後解放。インタビューを行った彦名博士は3ヶ月の謹慎処分となりました。
<記録終了>
補遺:XXX-JP-1.-2: 以下の資料は19██年10月21日、███邸の再調査にて調査員が書斎にて発見、財団が修復したものです。調査後、███邸は原因不明の火災によって焼失しています。
我等コノ世ニ生マレ甲斐モナク親ニ先立ツアリサマハ諸事ノ哀レヲトドメタリ。
人人ハ鬼ノ揖斐イビヲ瀆シ、濁世末代トナラン。
無縁ト化スモ人人ハ帰依ヨ帰依ヨト魃バツニ依ル。帰依ヨ帰依ヨトツンボ神。