核情報

2009年5月1日〜

集団的自衛権と米国向けミサイル 絶対当たらないと言っていた外務省

北朝鮮の「人工衛星」発射問題や集団的自衛権の関係で、米国に向けたミサイルを日本は打ち落とすべきか否かという議論がされていますが、情報が錯綜しているようです。ここで想起すべきなのは、以前外務省は、法的解釈以前の問題として、日本のシステムでは将来にわたって米国向けのミサイルを打ち落とせるようにはならないと説明していたという点です。(基本的に同じ理解(誤解)だった防衛庁)

例えば、2001年8月10日に開かれた「市民と外務省との対話集会」で外務省の担当者は、次のように述べています。

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海上配備型のNTWD(海軍ミサイル防衛)というものですが、日本がアメリカとやっている研究というのは、あくまでもNMD[米本土防衛用]ではない、というのはあきらかなんです。・・・いわゆるBMDという戦域ミサイル防衛、とNMDといわれているアメリカの本上に届くような長い射程のミサイル防衛、そもそもミサイルの技術がちがうんですよね。たとえば秒速がぜんぜん違いまして、アメリカに到達するような弾道弾ミサイルは秒速7キロ以上なんですね、それに対し、日本が研究しようというものは、秒速3キロメートルくらいである、だから、技術的にぜんぜんちがうんですね。そこは、簡単に転用されちゃうんじゃないかというような心配はない。

日本が米国と共同研究している海軍戦域広域防衛システム(イージス艦発射の迎撃ミサイルSM3)が、米国本土を守るための大陸間弾道弾迎撃システムの一部として使われる可能性があるのではないかという質問に答えたものです。当時は、海上配備の米国本土防衛システムの開発は、米ロ間の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約で禁止されていました。質問は、日米協力の結果、SM3の能力が上がれば、日本が条約違反に巻き込まれることになる可能性を指摘したものです。

秒速3キロメートルと言っているのが、ノドンの速度のことか現在配備されている迎撃ミサイルSM3の速度のことか定かではありませんが(両方とも秒速3km程度)、要するに、

  1. 日本が米国と共同開発中のSM3改良型でも、米国に向かって飛んでいく大陸間弾道弾を打ち落とせるようなことにはならないと言っているのです(これは現在の日本政府などの主張と矛盾)。
  2. もちろん、すでに配備されているSM3ではまず打ち落とせないということです(こちらは正しいが、今日本が米国向けミサイルを打ち落とせると思っている人々の考えとは対立)。

それがいつの間にか、現在配備中のSM3で米国向けミサイルを打ち落とせるような誤解が生じています。政府が今回発表したのは、「人工衛星」発射が失敗して、ロケット(ミサイル)あるいはその一部が落ちてくるような事態になれば、それを迎撃するつもりだということでした。落ちてきたものを打ち落とすことの難しさについての議論は別として、日本を遙かに超えて飛んでいくものを打ち落とすというのは望むべくもないことです。

関係者は、一部のマスコミ関係者も含め、少なくとも現段階では、日本には米国に向けて飛んでいくミサイルを打ち落とす能力はないと理解しているようです

例えば 集団的自衛権に関する有識者懇談会(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)の初会合についての解説の中で次のように説明しています。

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弾道ミサイル防衛については、これまでの解釈では自衛隊が日本を狙ったミサイルを打ち落とすことは個別的自衛権の行使に当たるものの、アメリカを狙ったミサイルの迎撃は集団的自衛権の行使にあたり、憲法上できないとされてきました。

もちろん、今のミサイル防衛システムの性能では、アメリカを狙った大陸間弾道弾を自衛隊が撃ち落とすのは難しいとされています。

従って、安倍総理の問題提起は、将来の技術水準の向上を見越して、今のうちから法的な検討を進めておこうということです。」

安倍前総理は、このような安全保障環境の変化や法解釈の適切性に留意し、以下の四つの事例を問題意識として提示され、本懇談会で検討するよう指示された。・・・

(2)同盟国である米国が弾道ミサイルによって甚大な被害を被るようなことがあれば、我が国自身の防衛に深刻な影響を及ぼすことも間違いない。それにもかかわらず、技術的な問題は別として、仮に米国に向かうかもしれない弾道ミサイルをレーダーで捕捉した場合でも、我が国は迎撃できないという状況が生じてよいのか。

「技術的な問題は別として」というのは、現段階では、迎撃できないが、将来迎撃できるようなことになった場合と言うことです。

また、産経新聞の2009年4月22日付けの記事

自民党の安倍晋三元首相は21日、党本部で開かれた中堅、若手議員の議員連 盟「北朝鮮に対する抑止力強化を検討する会」の会合で講演し、北朝鮮の弾道ミ サイル発射を踏まえ「日米両国が協力を深めつつミサイル防衛を機能させるため には、集団的自衛権の行使や敵基地攻撃能力の保有について議論しないといけない」と述べた。

安倍氏は、米国を攻撃する長距離弾道ミサイルを日本の自衛隊が迎撃するケー スに触れ、将来、技術的に可能になることを想定し、その前に法的整理をするこ とが必要と指摘。安倍内閣で発足し、集団的自衛権行使に向け憲法解釈の変更を 求めた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告書に基づき、検討 するよう求めた。敵基地攻撃能力については「装備や法的整理の検討をしなけれ ばいけない」と語った。

将来できるかどうかは、別として、このような想定をすること自体が、以前の外務省の説明と矛盾しています。外務省には、当時の説明が間違っていたのか、安倍氏らの想定があり得ないことなのか明らかにして欲しいところです。

参考

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