2、ミサイル防衛問題
(1)研究と配備の一体化
田窪:ミサイル防衛についての質問させていただきます。
アメリカはNMD(国主ミサイル防衛)という本士防衛、TMD(戦域ミサイル防衛)の二つに分けて進めてきました。NMDについて、質問し、その次に日本が協力しているNTW(Navy Theater Wide=軍海戦域大)システムと言う海上配備のTMD(戦域ミサイル/防衛)について質問します。
日本政府の基本的立場はアメリカのBMD(弾道ミサイル防衛)システムについて、「理解する」という立場です。具体的なものが出てこないうちは賛成も反対もしようがないという立場だと思いますが、プッシュの新しい方針というのは、開発の部分と配備の部分をいっしょくたにしてしまつて、アラスカに新しく実験用の基地を設け、そこに、迎撃ミサイルを置いておくというものです。実験用のはずの基地を実際の迎撃にも使う可能性があります。そうすると具体化化するまでわからないといっていても、分岐点のないまま、いつのまにか具体化してしまうということになつてしまうのではないかと思います。
(2)日本政府のミサイル防衛に対する立場
田窪:これらについての日本政府の立場を説明して下さい。
市川恵一(北米局日米安全保障条約課主席事務官):外務省北米局日米安全保障条約課の市川と申します。NMD(国土ミサイル防衛)というアメリカの本土を防衛するものと、アメリカの友好国、同盟国、海外派遣している米軍を防衛するTMD(戦域ミサイル防衛)があって、技術に分かれています。ブッシュ政権は5月1日に演説をして、冷戦後の安全保障環境が変化し、先ほどの話もありましたが、米ソの対立ではなく、一部のならずもの国家がミサイルの不公正な社会になることに、きちんと対応していかなければならない。
こういうコンセプトの下で、ミサイル防衛を進めると。日本政府の立場としては、5点あります。一つは、ミサイルの中の不拡散、脅威が国際社会にあるということを理解する。二つ目は、ミサイル防衛とともに、核戦力の削減をする、場合によっては一方的にもやっていく。そういうことを歓迎するという立場です。全体として、日本政府はブッシュ政権のミサイル防衛を理解する、と言っている。日本とアメリカとのTMDの部分の研究協力をし、ロシア、中国、インド、パキスタンときちんと話合い関係を保ちながらやっていくという取り組みをしている。
で、研究から配備まで連続しているのではないかということですね。
(3)ミサイル防衛と戦略的安定について
市川:一部確かにそういうような向きがあることは承知していますが、我々がアメリカに対して言つているのは、戦略的な安定をめざしておこなっていかなければならない。ロシア、中国との協議をしていかなければならない、他の国からも言われている。アメリカが突っ走っているという批判があるのは承知している。ミサイル防衛計画について、関係国に説明するべきだと繰り返し言つています。
田窪: 戦略的に乱さない形でやって欲しいと日本がアメリカに言つているというのはほとんど聞こえてこない。アメリカのいろいろな同盟国が懸念を表明するなかで日本だけが「理解をする」といっている。目に見える形で「中国、ロシアとの関係を重視して協議してほしい」と言っていただきたい。
もともとクリントン政権のときに、核戦力を削減しようという動きがあったのを止めていたのは共和党で、今一方的に削減するからと言っても、ミサイル防衛といっしょに核戦力を削減するというそういうバーゲンは成立しないと思います。また、一方的な核削減措置だけだと検証体制ができないことがありうる。
(4) N T W と情報公開
田窪: 日本が協力している海上配備のシステム、NTWについても一つだけお聞きしたいと思います。ペンタゴンの新しい計画では、NTWというのがBMD計画全体の中で姿を消してしまっていて、ミッド・コースという敵のミサイルの飛翔の中間段階の防衛の部分に入り込んでいる。そのミッド・コースの中の上昇段階での迎撃に海上配備のシステムを使うということになっている。昔言つていたTMDという、日本をあるいは戦域を守るというのではなくて、アメリカ本土を守るという役割をNTWに与えようという動きで、予算の中に入つている。日本を守るような形、戦域防衛が姿を消しています。姿を消しているといっても、TMD的なものが完全になくなっているわけはない。だから、TMDとしての研究も続くでしょう。
NTWは、もともとブロック1、ブロック2と、2段階に分けて、配備するとなっている。
日本が協力をしているのは、プロック2です。ブロック1は2006年で緊急用として少数配備して、2008年である段階まで配備する。2010年から本格的な利用のための配備をするということになっています。日本が関わるブロック2はその後やると。一時、ブロック1が消えたようだった。ブロック1は放棄して、いきなリブロック2に進むという話があった。ところがまたブロック1が浮上してきているようです。7月に開かれた上院の軍事委員会の公聴会でリード上院議員が、ブロック1は技術的にも問題があり、大した防衛効果もあげられないということで、放棄されたと理解していたのに2002年の予算にブロック1がまた登場しているのはどういうわけかと聞いています。BMDの責任者は、もともとブロック1を放棄するという公式な決定はなかったはずだと言い訳をしています。このようにアメリカの中でも、NTWの役割や、開発状況について混乱があります。
海上配備のNTWがNMDの中に組み入れられる場合に、日本が果たす役割というのはどうなるのか。この辺の細かい状況とか、日本が関わっている技術研究段階とかをこれから市民に公開できるのか、をお聞きしたい。というのは、われわれが調べる場合には、アメリカの文書を調べる、日本からは何も出てこないと言うことがあるわけです。
市川: 私もこういう集会に出るのは数少ない経験なんです。重要で得がたいと思つていますが、安保軍事防衛はわかりにくいというのは反省しています。外務省のホームページには日米安保の項しかないのを反省しているところです。ご指摘のあった点、考えてみようと思います。
それから、海上配備型のNTWD(海軍ミサイル防衛)というものですが、日本がアメリカとやっている研究というのは、あくまでもNMDではない、というのはあきらかなんです。BMD(弾道ミサイル防衛)に関しての共同研究ということで交換公文という政府間の取り決めをしている、その下にさらに技術的にこういうふうな手順で研究していきましょうという取り決めを結んでやっている。NMDになってしまうということではない。さらにわれわれがやっているBMDの研究はあくまで研究であって、その後どのように、開発あるいは配備していくかはまだ白紙でそのときに考えると、このことは、6月30日にブッシュ大統領と小泉総理があつて話をしたときにも立場を伝えている。 したがって、BMDの研究の結果がNMDの方に行つてしまうのじゃないか、ということがありましたけれども、日米間の取り決めであくまでもBMDの研究であるとわれわれは合意しているということです。
(5)BMDの研究とNMD(アメリカ国土防衛)への協力転用の危惧
田窪: アメリカの方がBMDのなかでNMDとTMDと二つにわけないでいっしょにするんだと言っているわけなんです。アメリカが日本の協力を得て開発する技術を将来アメリカのアメリカ本土を守るための技術に組み入れていく、ということを防ぐような仕組みがそもそもあるのだろうか。
もうひとつ、99年8月16日の覚書きというのは、研究期間は何年になっているのでしょうか。
市川: 最初の方のご質問ですが、いわゆるBMDという戦域ミサイル防衛、とNMDといわれているアメリカの本上に届くような長い射程のミサイル防衛、そもそもミサイルの技術がちがうんですよね。たとえば秒速がぜんぜん違いまして、アメリカに到達するような弾道弾ミサイルは秒速7キロ以上なんですね、それに対し、日本が研究しようというものは、秒速3キロメートルくらいである、だから、技術的にぜんぜんちがうんですね。そこは、簡単に転用されちゃうんじゃないかというような心配はない。
二つ目の話は、研究は何年か、ということですが、明確に何年という形にはなっていません。
田窪:細かくやり取りをしている時間がなくなってしまつたようなので、見解だけをいわせてください。TMDとNMDの間に明確な区別があるということですけれども、条約の中にはきめられていませんで、ロシアとアメリカの合意事項で一度きめたんですね、秒速7キロというのは飛んでくるミサイルの速度で、秒速3kmと言うのは阻止しようという迎撃ミサイルの速度です。
[付記:射程1万キロ程度の大陸問弾道弾の速度は秒速約7km。戦域ミサイルは、通常、射程3500kmまでのものをいい、この射程のミサイルは、秒速約5km。NMDの速度は、秒速7-8km。NTWブロック1は、秒速約3km。ブロック2が4.5km(さらに速いものになる可能性もある。)敵のミサイルと迎撃ミサイルが衝突する際の相対速度は、NMDの場合、秒速10-14km。 NTWブロック2が射程3500kmのミサイルに衝突する場合、秒速7ー9km。このような理解から、市川氏が、「日本が研究しようというものは、秒速3キロメートルくらいである」といわれた際、プロック1のスピードのことを言われていると判断した。だが、射程約1000kmのノドンは、秒速約3kmである。だから、市川氏は、この数字を言われていたのかもしれない。ただし、日本が関わっているシステムは、ノドンだけを対象にしたものではない。したがって敵の戦域ミサイルの速度のことなら秒速5km、NTW自身の速度なら、4 5km以上という数字をあげなければならない。
BMDという用語について。米国から見るとTMDで守ろうとしているのは、米国の国土ではなく、戦域にいる米軍あるいは戦域の中にある同盟国である。ところが日本から見ると、TMDで守るべきは、日本全土だから、戦域ではない。そこで、日本政府は、以前からTMDをBMD(弾道ミサイル防衛)システムと呼んできた。米国の発想では、BMDの中にNMD(全土ミサイル防衛)システムとTMDがある。だから、日本政府がBMDはNMDに活用されないなどという場合は、TMDはNMDに活用されないという主張と読み直さないと混乱が生じる。そして、NMDの形態としては、クリントン政権の下で開発の進められてきた陸上配備のもののほかに、ABM条約を無視すれば、海上配備もありうる。
さらに複雑なのは、プッシュ政権になって、NMDとTMDを計画の中で峻別せず、BMDという名称の下で一体として進めることになった点である。NTWを全土防衛のために使わないなどとはもともと言っていないがブジシュ政権になって、積極的にNTWの全土防衛用の活用を推進する方向が出ている。]
アメリカとロシアの覚書の中では、迎撃するミサイルの方は秒速3km以下のものについてはABM(弾道弾迎撃ミサイル)制限条約の下で許されるTMDとして認めましょう、となっている。秒速3km以上のものについては、戦略的な安定性を脅かすようなものになりうるから、協議をつづけましょう、ということで、TMDとNMDが明確に分けられるとは言っていません。
それから、秒速3kmとおっしゃいましたが、実際はブロック1という日本が関係しないものは3kmです。日本が関係しているのは、ブロック2、これは、秒速4.5kmです。ただし、これは、基本的な数字で、秒速5kmにするのか、秒速4kmにするのか、わからないのです。
それに、ミサイル防衛技術というのは、ミサイルの速度だけの問題ではなくて、いつの時点でセンサーが向こうから飛んでくるミサイルを捉えるのか、その後追いかけ続ける補足用のセンサーが機能するかしないかということも重要な要素になります。だから単純に、迎撃ミサイルの速度だけを問題にしてもしょうがない。いずれにじても、秒速3kmと言うのは、日本が協力しているシステムとは関係ないので、ご認識いただきたいと思います。
また上昇段階で敵のミサイルを捉えるシステムとしてNTWを活用したものを国防省が開発するといっているわけですが、民間の方でもそれを推進しようという動きが出てきている。ブッシュの政権の下では、NMDとTMDをいっしょにしてやっちゃいましょうと、と言っているわけで、音のクリントン時代の見解であるとか、ブロック1の数字を使って、ブロック2の説明をするのは、説明不足だと思います。では、もう時間がないですよね。
内藤(司会): 最後のところに時間をとりたかったんですが、あと20分くらいとなりました。次のテーマに移りたいと思います。
出典
核軍縮 市民と外務省との対話集会の記録
2002年1月16日
販価 200円
発行 核兵器廃絶市民連絡会
連絡先:東神田法律事務所 内藤雅義
Tel 03‐5283‐7799 Fax 03-5283-7791
日米の戦略対話が始まったー安保再定義の舞台裏
』(亜紀書房 2002年)(p288ー289)