核情報

2016. 1.12

日本のプルトニウムお断り
─米サウスカロライナ州地方紙が怒る「不条理劇」

『サウス・カロライナ州の世界に向けたメッセージ──「ノー・モアー・プルトニウム」』と題された社説が新年早々同州地方紙に掲載されました。1月2日のこの社説は、米国エネルギー省が昨年12月末に「外国の国々から最大900kgのプルトニウムを最終処分までの間の貯蔵・処理のためにサウス・カロライナ州のサバンナ・リバー・サイト(SRS)に搬入しても重大な影響はないとの結論」を発表したのを受けてのことです。「結論」は、東海村の「高速炉臨界装置(FCA)」に警備体制の不十分な形で置かれている331kgのプルトニウムを3月末にワシントンで開かれる核セキュリティー・サミットの前にSRSに運び込むことを可能にするためだと見られています(注1)。このプルトニウムの日本からの搬出に関する日米合意が、前回のサミットで発表された主要成果の一つだったからです(注2)。


  1. サバンナ・リバー核兵器施設(SRS)の現状
  2. 問題は331kgだけではない
  3. 日本の運動は「不条理劇」を止めさせられるか
  4. 注・参考

サバンナ・リバー核兵器施設(SRS)の現状


The heart of the MOX boondoggle cover-up: 12ドル billion MOX plant under construction at Savannah River Site, ©High Flyer, special to SRS Watch, October 25, 2014
写真:建設頓挫中のMOX工場 SRS Watch 提供

SRSは冷戦時代、ワシントン州ハンフォード・サイトと並んで米国の二つの核兵器用プルトニウム(及びトリチウム)生産施設の一つとなっていました(注3)。5基の生産炉がありまし たが現在ではすべて閉鎖されていて、プルトニウム製造のための再処理も行われていません(注4)。新しい役割は主にプルトニウムの処分に関わるものです。米国が核兵器用に余剰と宣言したプルトニウム約50トンの内、ロシアとの間でそれぞれ処分することに合意した34トンをウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)」燃料にするための工場がSRSで建設中です。燃料を原発で使い、高い放射能を持つ使用済み燃料に変えようとの計画です。だが、この計画は工事の遅れと建設費高騰のため頓挫しています。SRSにはすでに処分を待つ13トンのプルトニウムがあります。このうち、化学物質などと混ざっている6トンは、ニューメキシコ州地下の岩塩層に設けられた「廃棄物隔離パイロット・プラント(WIPP)」に送る計画ですが、この計画も地元州の態度などによってはどうなるか分からないと危惧されています。これ以上のプルトニウムを持ち込むことは許し難いというのが社説の主張で、ニッキー・ヘイリー知事は連邦政府に対する訴訟が必要かもしれないと述べているとのことです。社説は、事態は「不条理劇」のようなものだと述べ、「もうたくさん」と結んでいます(注5)。


問題は331kgだけではない

エネルギー省がまとめた2014年12月3日付けの文書は外国の研究施設にある400kgのプルトニウムについて「とりわけ持ち運びが容易で核兵器にしやすい形態にある」と指摘し(注6)、「日本のFCAのすべてのプルトニウムとヨーロッパの二カ国のすべての余剰プルトニウムの搬出について初期合意」できたことを報告しています。FCAのプルトニウムは「引き出し」状容器に入れられた金属版状のものなど、取り扱いが簡単で、しかも、出力が非常に小さなこの炉では「使用済み」にはならず「未使用」の状態が続くことから特に心配されてきました(注7)。

しかし、米国が懸念しているのは研究施設のものだけではありません。再処理で得られる分離済みプルトニウムがすべて核兵器に利用可能であることを米国は問題にしてきました。上述の文書も、「脅威は続く」とした項目のなかで、原発の使用済み燃料の再処理から生じる世界的な民生用プルトニウム量の増大問題を取り上げています。

ところが、国際的安全保障上問題のある核兵器利用可能物質をサウス・カロライナ州で厳重に保管するようお願いする立場にあるはずの日本は、「国際原子力機関(IAEA)」の計算方法で核兵器6000発分に相当する約48トンものプルトニウムを抱えながら、さらに使用済み燃料から年間8トンも分離する能力のある六ヶ所再処理工場の早期運転開始を追求する政策を変えていません(注8)。日本のプルトニウムお断りと言われて当然の状況です。

日本の運動は「不条理劇」を止めさせられるか

日本原燃は昨年11月、六ヶ所村再処理工場の完工時期を2016年3月から18年度上期に延期すると発表しましたが、元の予定だと3月のサミットでオバマ政権がFCAのプルトニウムの輸送完了を成果として大々的に宣伝する中、六ヶ所再処理工場完工が大きく報じられるということになるところでした。この皮肉な事態は避けらることになりましたが、同時期に、再処理用認可法人設立法案国会提出のニュースが世界で流れることになる可能性があります。今年4月からの電力市場における小売の参入全面自由化のもたらす競争激化の中で原子力事業者の破綻する場合に備えて新法人を設立しようという法案です。そして原子力発電会社に対し、毎年度、発電量に応じて再処理等の実施に必要な費用をこの法人に拠出することを義務付けるといいます。たまってしまったプルトニウムを消費する原子炉を持つ電力会社が潰れても再処理を進めようという「不条理劇」です。

SRS監視グループのクレメンツは言います。「この日本からのプルトニウムの搬出をオバマ大統領の核不拡散面の遺産とみなすものがいるかもしれないが、もっと大きな課題がある。核兵器利用可能なプルトニウムの分離、蓄積、燃料としての使用を日本に止めさせることである」(私信)。日本の反核運動は「不条理劇」に気付いて行動を起こせるでしょうか。

注・参考

  • 注1: 英国のセラフィールド核施設の監視を続ける地元団体のマーティン・フォーウッドによると、輸送に使われる可能性のあるパシフィック・ニュークリア・トランスポート(PNTL)社運用の4隻のうち2隻は1月11日段階では施設に近いバロー港に停泊中である。1隻はフランスに向けて移動中、後の廃棄物輸送専門の一隻は神戸港にいる。通常より速く動くとしても、バロー港からパナマ運河を経て東海村に行き、2日停泊してそのまま喜望峰を回ってSRS近くのチャールストン港に着くのに78〜85日かかると彼は予測する。このため決定が急がれていたと見られる。(他社の船が使われる可能性もゼロではない。)
    核セキュリティー・サミットの発端は、2009年4月5日にオバマ大統領がプラハで行った演説にある。大統領は世界の核物資の量の最小化と保安措置強化を重要課題と宣言し、「核セキュリティー(核物質保安)に関する国際サミットを1年以内に開催」すると約束した。2010年から一年おきにワシントン、ソウル、ハーグで開かれてきた同サミットの大統領にとっての最後の会議が3月31日〜4月1日にワシントンで開かれる。

  • 注2: 2014年3月にハーグで開かれた核セキュリティー・サミットの際に出された日米共同声明は、FCAにあるプルトニウムと高濃縮ウランを厳重な保管と処分のために米国に送ることを発表した。共同声明は、世界全体の高濃縮ウランと分離済みプルトニウムの量を減らすことは、核兵器の材料になる「核物質を権限のない者や犯罪者,テロリストらが入手することを防ぐために」重要であると述べ、「高濃縮ウランとプルトニウムの最小化のために何ができるかを各国に検討するよう奨励」している。

  • 注3: SRSは、36.1トンの兵器級プルトニウムを製造。

  • 注4: テネシー川流域開発公社(TVA)所有のワッツ・バー原子力発電所1号機を使って核兵器用トリチウムの製造が行われており、このための処理がSSRのHキャニオン・プラントで行われている。同プラントでは、また、米国が外国から回収している使用済み高濃縮ウラン燃料を再処理して高濃縮ウランを分離する作業も行われている。

  • 注5: SRS監視グループのトム・クレメンツは、合計331kgのうち、英国起源のものが236kgも入っていることを特に問題視する。核兵器国の英国に任せればいいではないかと指摘する。米国分は93kg、残り2kgはフランス起源である。(この内分けは市民の問い合わせに対しFCAを運転する日本原子力研究開発機構が答えたものだが、同機構を管轄する文部科学省は国会議員事務所からの問い合わせにはセキュリティー上答えられないと応じている。)

  • 注6: GTRI Removal Program Overview, (pdf) December 3, 2014 14ページ

  • 注7: 米国は日本の核物質防護体制についての懸念を持って来ており、折に触れ日本に対しそれを伝えてきた。2011年5月6日にウィキリークスが公開した一連の米国の外交公電からもそのことが垣間見える。例えば、07年2月26日付の公電は、「プルトニウムの主要貯蔵施設のひとつである東海村施設に武装警備員が配置されていない点について」「このサイトでの武装警官の配置を正当化するに足る脅威は存在しない」との文部科学省の説明に驚きを表明していた。

  • 注8: 日本原子力委員会事務局が2015年7月21日に発表した資料によると、英国では、その軽水炉用THORP再処理工場の運転が18年頃に終了するまでに、さらに1トンが「分離・計上される予定」だという(実際はTHORPにおける日本の使用済み燃料の再処理は基本的に04年9月に終了している。帳簿上の割当てが遅れているだけと見られるが、この件を巡る事務局の説明は一貫していない)。つまり、日本のプルトニウム保有量は実質的に約49トンに達していることになる。米国が処分に手を焼いている約50トンの軍事用余剰プルトニウムと同量である。「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」の推定によると14年末の世界の民生用プルトニウムの量は約270トン。このほとんどを英ロ仏の核兵器国と日本が占める。

参考



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