米国の「憂慮する科学者同盟(UCS)」ほか著名な団体代表および個人(計12名)が7月10日にオバマ大統領に対し、今年の広島・長崎原爆記念日に両地を訪れ、核が二度と使われないようにしなければならないとの考えを再度表明すると共に、任期終了までに米国が取る具体的な措置について発表するよう呼びかける書簡を送付したのを受け、原水禁と原子力資料情報室は同13日、UCSの要請を支持するとの書簡を大統領に送付しました。日本側の書簡は、さらに、日本の団体として、唯一の役割(目的)政策等に反対しないように日本政府に要請すると約束すると共に、大統領に対して、
- プルトニウム及び高濃縮ウランをこれ以上蓄積しないように世界各国に呼びかけること、
- 既存の軍事用余剰・民生用プルトニウムの処分方法の開発のために日本政府その他と協力し合うプログラムを開始すること
を要請しました。
参考
長崎新聞2015年7月14日記事
- 長崎新聞2015年7月14日記事(切り抜きを右に表示)
- 被爆国日本の核政策の実態:先制不使用問題
- NPT特集
生物・化学兵器及び通常兵器による攻撃を抑止するために、これらによる攻撃に対して米国が核兵器で報復する可能性を示すことによって威嚇して欲しいというのが1982年以来、日本政府が表明してきた立場です。核兵器の唯一の役割は核攻撃を抑止することだとの政策を米国がとると、日本の安全保障に不安を感じた日本が核武装するのではないかとの懸念が米国側にあります。日本は2014年末現在約48トン(核兵器6000発分)ものプルトニウムを持ちながら、使い道のないまま、青森県六ヶ所村の使用済み燃料再処理工場を来年春にも完成させ、さらなるプルトニウム分離を開始しようとしています。大統領は核物質の最小化を呼びかけています。日本側の書簡は、このような日本の政策を変えれば、大統領にとって核なき世界に向けた行動が取りやすくなることを示しています。そして、それは、大統領の被爆地訪問実現の準備ともなります。
[The Honorable Barack Obama
President of the United States of America
The White House
Washington DC 20500
United States of America
大統領様
私たちは、広島・長崎の被曝70周年を記念するために日本に行かれるよう要請します。そうすればあなたはこれらの歴史的な場所を訪れる最初の米国大統領となります。
この訪問は、核兵器は二度と使われてはならないということを世界に想起させるまたとない機会を提供することになるでしょう。そして、2009年4月のプラハ演説のフォローアップの機会にもなるでしょう。あの演説において、大統領は、米国には、冷戦的思考に終止符を打ち、核兵器の役割を減らし、そして、最終的には核兵器のない世界の平和と安全保障を達成する上で世界の国々の先頭に立って「行動する道義的責任」があると述べられました。
ですから、私たちは、記念スピーチという機会を使って、核兵器が人類に対して与え続けている脅威を減らすために大統領の任期終了までに米国が取る具体的な措置を発表されるよう要請します。
これらの措置のなかには、たとえば、米国の地上配備の核兵器を高度な準備態勢からはずし、それにより、攻撃が起きているとの警報の段階でこれらのミサイルを発射するオプションをなくしてしまうこと、米国の核兵器の唯一の役割(目的)は米国及びその同盟国に対する核攻撃の抑止にあると宣言すること、あるいは、大統領の2013年6月のベルリンでのスピーチで表明されたように1000~1100発のレベルに米国の配備戦略核の数を独自に削減することなどが含まれ得るでしょう。
これらのどの措置も、大統領がプラハで表明されたゴールに今もコミットしていることを世界に訴える強力なメッセージとなるでしょう。
大統領、私たちはあなたに期待しています。私たちの子供たちもあなたの子供たちもあなたに期待しています。世界があなたに期待しています。
敬具
- Angela Canterbury
アンジェラ・カンターベリー - Executive Director, Council for a Livable World/Center for Arms Control & Nonproliferation
生きられる世界のための協議会/軍備管理・核不拡散センター 事務局長 - Jay Coghlan
ジェイ・コグラン - Executive Director, Nuclear Watch New Mexico
ニューメキシコ・ニュークリア・ウォッチ 事務局長 - Lisbeth Gronlund
リズベス・グロンランド - Co-Director, Senior Scientist, Global Security Program, Union of Concerned Scientists
憂慮する科学者同盟世界安全保障プログラウム 共同ディレクター(上級科学者) - Morton H. Halperin
モートン・H・パルパリン - Former Director of Policy Planning, Department of State (1998-2001)
元国務省政策企画本部長((1998-2001) - William D. Hartung
ウイリアム・D・ハータング - Director, Arms and Security Project, Center for International Policy
国際政策センター軍備・安全保障プロジェクト・ディレクター - Marylia Kelly
メリリア・ケリー - Executive Director, Tri-Valley CARES
トライバレーCARES 事務局長 - David Krieger
デイビッド・クリーガー - President, Nuclear Age Peace Foundation
核時代平和財団 所長 - Peter Kuznick
ピーター・カズニック - Director, American University's Nuclear Studies Institute
アメリカン大学核問題研究所 所長 - Kevin Martin
ケビン・マーティン - Executive Director, Peace Action
ピース・アクション 事務局長 - Jon Rainwater
ジョン・レインウォーター - Executive Director, Peace Action West
ピース・アクション・ウェスト 事務局長 - Susan Shaer
スーザン・シャエル - Executive Director, Women's Action for New Directions
新しい方向のための女性行動 事務局長 - Catherine Thomasson
キャサリン・トマソン - MD, Executive Director, Physicians for Social Responsibility
社会的責任のための医師 事務局長(医学博士)
連絡先:Lisbeth Gronlund, UCS, 2 Brattle Square, Cambridge, MA 02138
- 原文:
The Honorable Barack Obama
President of the United States of America
The White House
Washington DC 20500
United States of America2015年7月13日
大統領様
私たちは、以下に添付した米国の影響力を持つ諸団体が署名した書簡にある要請を支持します。広島及び長崎を訪れ、その機会を使って「核兵器は二度と使われてはならないということを世界に想起させる」と共に、「核兵器が人類に対して与え続けている脅威を減らすために大統領の任期終了までに米国が取る具体的な措置を発表される」ようにとの要請です。
私たちは、大統領が広島、長崎、あるいはその他の場所で発表する核兵器のない世界に向けた政策――米国の核兵器の唯一の役割は米国及びその同盟国に対する核攻撃の抑止にあるとする「唯一の役割(目的)政策」を最初のステップとして採用することも含め――に反対しないよう日本政府に働きかけます。
私たちは、また、大統領に次のように要請します。
高濃縮ウラン及びプルトニウムの更なる蓄積をしないよう世界各国に呼びかけること――2014年3月の安倍晋三首相との共同声明において、2009年4月のプラハでの大統領の発言に言及しながら呼びかけられたように。
既存の軍事用余剰及び民生用プルトニウムの安全かつセキュリティーの確かな処分方法開発のために日本政府その他と協力し合うプログラムを開始すること。大統領の共同宣言の表現を借りるなら、これは核軍縮を不可逆なものにするのにも役立つだけでなく、「そのような核物質を権限のない者や犯罪者,テロリストらが入手することを防ぐのに役立つ」でしょう。
私たちは大統領に期待しています。被爆者が大統領に期待しています。
敬具
伴英幸 原子力情報室共同代表
川野浩一 原水爆禁止日本国民会議 議長
連絡先:原水爆禁止日本国民会議 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-2-11連合会館1F
上記書簡英訳
[引用
岡田=クリントン/ゲーツ書簡 二○しろまる○しろまる九年十二月二十四日
[現在貴国において進められている核態勢の見直し(NPR)に関し、私の基本的な考え方を申し上げます。
言うまでもなく、我が国の安全保障にとって、日米安全保障条約はその根幹をなすものであり、我が国政府は、核抑止力を含む貴国の拡大抑止に依存している現実を十分に認識しています。そして、この抑止の信頼性は十分な能力によって裏付けられる必要があります。
他方、我が国政府は、オバマ大統領が「核兵器のない世界」を掲げ、貴国が世界の核軍縮・核不拡散、そして、核廃絶の先頭に立っていることを高く評価しています。我が国としても、貴国ともに、その崇高な目標の実現に向けて努力したいと考えています。
したがって、我が国政府としては、貴国の拡大抑止を信頼し、重視していますが、これは、我が国政府が「核兵器のない世界」という目標と相反する政策を貴国に求めるものではありません。
我が国の一部メディアにおいて、本年五月に公表された「米議会戦略態勢委員会」報告書の作成過程の中で、我が国外交当局者が、貴国に核兵器を削減しないよう働きかけた、あるいは、より具体的に、貴国の核卜マホーク(TLAM/N)の退役に反対したり、貴国による地中貫通型小型核(RNEP)の保有を求めたりしたと報じられています。
しかしながら、我が国政府は、貴国の特定の装備体系について、それを持つことが必要であるか、持つことが望ましいかについて判断する立場にありません。したがって、前内閣の下で行われた協議ではありますが、私は、我が国政府として、上記委員会を含む貴国とのこれまでのやり取りの中で、TLAM/NやRNEPといった特定の装備体系を貴国が保有すべきか否かについて述べたことはないと理解しています。もし、仮に述べたことがあったとすれば、それは核軍縮を目指す私の考えとは明らかに異なるものです。
ただし、TLAM/Nの退役が行われることになる場合には、我が国への拡大抑止にいかなる影響を及ぼすのか、それをどのように補うのかといった点を含む貴国の拡大抑止に係る政策については、引き続き貴国による説明を希望するものです。
なお、すでにご承知のことと存じますが、十二月十五日、日豪共同イニシアチブで設置された「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」が報告書を公表しました。その中には、すべての核武装国による措置として核兵器の目的を核兵器使用の抑止のみに限定すべきこと、NPT非核兵器国に対する核兵器の使用を禁止すべきことなどの提案が含まれています。これらに関し、「核兵器のない世界」への第一歩として、私は強い関心を有しています。直ちに実現し得るものではないかもしれませんが、現在あるいは将来の政策への適用の可能性について、今後日米両国政府間で議論を深めたいと考えています。
二○しろまる○しろまる九年十二月二十四日
日本国外務大臣
アメリカ合衆国国務長官
ヒラリー・ロダム・クリントン 閣下
先制不使用問題に関する政府答弁例
1982年6月25日予算委員会
横路孝弘議員の質問に対する松田・外務審議官(当時)の答弁
[引用]
(75年4月に宮沢・キッシンジャー会談)
「わが国に対して加えられることがあるべき攻撃に対して、かりに通常兵器だけでそれを抑止するような十分な力にならないという状況であれば核兵器も使用されることあるべし、と、絶対に核兵器が使用されることがないというのではこれは抑止力になりませんから、通常兵器と核兵器と総合した立場で抑止力というものを考える、それは私はごくごく当然の立場ではないかというふうに思っておるわけであります。」
1998年8月5日 森野泰成軍備管理・軍縮課首席事務官(当時)広島での会合で
米国が核の先制不使用を宣言した場合の問題点について
[引用]
高村国務大臣 まず、核の先制不使用を考える前提でありますが、政府の最大、最重要の責務である国の安全保障が結果的に核が使用されない形で確保されるのであれば、その方が望ましいということは、これは言うまでもないことだ、こう思っております。さらに、将来的には、安全保障を害しない形で核兵器のない世界が実現されることが最善のシナリオである、こういうふうにも考えているわけでございます。
他方で、現実の国際社会において、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しており、核兵器のみを他の兵器と全く切り離して取り扱おうとすることは、それは必ずしも現実的ではない、かえって抑止のバランスを崩して、安全保障を不安定化させることもあり得ると考えているわけでございます。
したがって、安全保障を考えるに当たっては、関係国を取り巻く諸情勢に加え、核兵器等の大量破壊兵器や通常兵器の関係等を総合的にとらえて対処しなければならない、こういうふうに考えております。
こういった基本的な認識に立って、我が国としては、核の先制不使用について、核兵器国間の信頼醸成及びそのことを通じた核兵器削減につながる可能性があることを積極的に評価すべきとの考え方があることは承知をしておりますが、これまでも申し上げたとおり、いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えているわけでございます。
いずれにいたしましても、核先制不使用の問題については、現時点では核兵器国間での見解の一致が見られていないと承知しており、我が国としては米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保するとともに、核兵器を含む軍備削減、国際的核不拡散体制の堅持、強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会をつくっていくということが重要である、こういうふうに考えています。
1999年 新アジェンダ連合(NAC)が国連に出した決議案棄権についての外務省説明(社民党への口頭説明)
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