政府は、9月14日、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すと同時に、再処理政策を継続するという「革新的エネルギー・環境戦略」(pdf)を決定しました。日本はすでに、長崎型原爆5000発分以上のプルトニウムを持っています。原発をゼロにするとしながら、さらにプルトニウムを増やす政策は、世界の懸念と疑惑を呼びます。
高速増殖炉の「夢」の後に残る核拡散・テロの悪夢
再処理の元々の目的は、使用した以上のプルトニウムを作る「夢の原子炉」に初期装荷燃料を提供することでした。希少なウランを「有効活用」するためのはずでしたが、ウランの埋蔵量は予想を上回り、原発の成長は予想を遙かに下回る一方、「夢の炉」の実現は遠ざかり続けました。国内外の再処理で蓄積してしまったプルトニウムを無理矢理普通の原子炉で燃やそうと導入されたプルサーマル計画も遅々として進まないまま起きた福島事故。現在運転中の原子炉は2基。消費しようのないプルトニウムを分離し続ける方針は、後は野となれ山となれといっているようです。
韓国は、2014年3月に期限切れとなる韓米原子力協力協定の改定交渉で、日本と同じ再処理の権利を認めるよう米国に求めています。日本が再処理政策を続行すると、米国にとって韓国の要求を拒否するのが難しくなります。受け入れれば、「南と北は核再処理施設とウラン濃縮施設を保有しない」との1992年南北非核化共同宣言(仮調印1991年)に基づく北朝鮮の核問題の解決の可能性も縮小します。また、韓国が再処理政策をとり、他の国もこれに倣えば、核拡散の危険が高まります。
再処理政策継続の理由と実質的モラトリアム
2005年原子力政策大綱策定でも、今回も、再処理政策続行とした決め手は、使用済み燃料の置き場の問題です。各地の原発の使用済み燃料プールが満杯になりつつあり、六ヶ所工場の横にある受け入れプールもほぼ満杯で、空きを作るためには、使用済み燃料を工場に送り込むしかないというのです。
また、六ヶ所村や青森県は、再処理をしないなら使用済み燃料を各地の原発に送り返す、英仏からの返還廃棄物も受け入れない、と主張しています。本格操業となれば多額の固定資産税が入ってきますが、無用の施設となればそれが消えてしまいます。核施設関連の税収・交付金・寄付金に頼り切ってきた県内の他の市町村も県も、従来通りの原子力・再処理推進政策の維持を求める大合唱をしています。約束を守ってくれないと財政的に困る。また、これまでの村民や県民への説明がウソだったとなり、メンツが潰れる。しかし、約束が違うからといって、無用かつ危険な物質の生産を迫るのは理にかないません。交渉なしで返送となれば交付金や核燃料税が途絶え、新しい村作りの協力も得られなくなります。政府は、「引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組みながら、今後、政府として青森県をはじめとする関係自治体や国際社会とコミュニケーション」を図ると当座逃れの約束をしています。再処理事業を止めて議論するのが筋ですが、実質的には再処理はモラトリアム状態にあります。試運転で生じた高レベル廃棄のガラス固化が上手く行っておらず、少なくとも後1年余り、実際の運転はできないからです。この間に、なんとしても、再処理政策の完全放棄の道筋を作るようにしなければなりません。
使用済み燃料の置き場問題解決は乾式貯蔵
福島第一の4号機の例が示した通り、プールに詰め込んで保管する方法だと冷却水喪失により大事故となる危険性があります。自然対流による空冷式乾式貯蔵施設を各地の原子力発電所につくり、炉から取り出し後5年以上経って温度の下がった燃料をそこに移して、プールに余裕を持たせる必要があります。再処理中止・脱原子力を決めたドイツもこの方法を採用しています。施設の建設が間に合わない原発では、1−2ヶ月で建設可能な暫定貯蔵施設(5年間利用可)の建設を認めました。1.5−2年後に本格的貯蔵施設に移すことを前提とした措置です。暫定施設から本格施設への移動はすでに完了しているとのことです。
現在世界に存在する分離済みプルトニウムの量は500トンで、民生用と軍事用がほぼ同量の250トンずつです。核軍縮を進めて、約2万発ある世界の核兵器の総数が1000発となると、1発当たり4キログラムとして、総量は4トンとなります。核兵器利用可能な民生用プルトニウムが増え続けていたのでは、核兵器国は、自国の軍事用余剰プルトニウムの処分を拒むかもしれません。民生用プルトニウムの増加は、核拡散防止、核テロ防止の努力の障害にもなります。日本は、不要なプルトニウムを増やすことにではなく、使用済み燃料と一緒に埋設するなどのプルトニウム処分方法の共同開発にこそ力を注ぐべきです。
参考
民主党政策
- 革新的エネルギー・環境戦略(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定 pdf)
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1)核燃料サイクル政策
核燃料サイクルについては、特に青森県に国策に協力するとの観点から、ウラン濃縮施設、再処理工場、低レベル放射性廃棄物埋設を三点セットで受け入れていただいたこと、海外再処理廃棄物を一時貯蔵・管理のため受け入れていただいてきたこと等の負担をお願いしてきた。これらの協力については、重く受け止めなければならない。また、これまで使用済核燃料等の受け入れに当たっては、核燃料サイクルは中長期的にぶれずに着実に推進すること、青森県を地層処分相当の放射性廃棄物の最終処分地にしないこと、再処理事業の確実な実施が著しく困難となった場合には、日本原燃は使用済核燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講ずることといった約束をしてきた。この約束は尊重する必要がある。青森県を最終処分地にしないとの約束は厳守する。他方、国際社会との関係では核不拡散と原子力の平和的利用という責務を果たしていかなければならない。こうした国際的責務を果たしつつ、引き続き従来の方針に従い再処理事業に取り組みながら、今後、政府として青森県をはじめとする関係自治体や国際社会とコミュニケーションを図りつつ、責任を持って議論する。
- 民主党エネルギー・環境調査会(前原誠司会長)【提言】
・・・これまで電力の安定供給に多大な協力を頂いてきた原発立地地域、そして最終的な「原発ゼロ社会」を目ざす中で核燃料サイクル施設の多くを受け入れてもらった青森県の理解と協力を得るためには一定の時間を要する。・・・
(9)核燃料サイクル、最終処分
核燃料サイクル、使用済み核燃料の最終処分の問題は1966年日本で初めて原発の商業運転が開始されて以来、50年近くにわたって放置されてきた極めて難しい問題であるが、原発をゼロにするかどうかにかかわらず、最早先送りすることのできない問題である。
まずは核燃料サイクル事業に対する国の責任を明らかにし、本質的な必要性、技術成立性、社会的受容性等を一から見直すべきである。全量再処理方式を全面的に見直し、最終処分のあり方を明確にするため、専門機関として原子力バックエンド機構(仮称)を設立し、国が主体的に使用済み核燃料の管理を行うことを明確にすべきであり、最終処分着手までの対応として日本全体の使用済み核燃料を中間貯蔵する施設の設置を進めなければならない。同時に、直接処分の研究を国が率先して進め、また減容化・無害化、超長期保管の研究も進めなければならない。使用済み核燃料の取り扱いに関する国際協力体制も検討すべきである。
最終処分の問題のみならず、原発ゼロによる経済、雇用、財政への影響を含めて国が責任を持って提示し、青森県の理解を高めていかなければならない。
再生可能エネルギー基地への転換や地元の理解を前提とする最新鋭火力の設置など、これまでの電源地域の特性を生かした形で青森県への影響を最小化する必要がある。
福井県についても同様の配慮が必要である。高速増殖炉の実用化は前提とせず、「もんじゅ」は、成果のとりまとめに向け、年限を区切った研究収束計画を策定し、実行することとし、これによる福井県への影響に対応することが重要である。
『我が国のプルトニウム管理状況』(pdf) 原子力委員会
1975年と2011年の原発発電容量拡大予測と
推定埋蔵量のウランで40年維持可能な発電容量
出典:フランク・フォンヒッペル講演資料(2012年5月)
- 使用済み燃料の再処理路線の堅持を求める意見書(pdf)
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- イギリス及びフランスから返還される新たな廃棄物の搬入は認めない。
- 現在、本村に一時貯蔵されている同返還廃棄物を村外へ搬出をすること。
- 使用済み燃料の新たな搬入は認めない。
- 現在、本村に一時貯蔵されている同使用済み燃料を村外へ搬出すること。
- 新たな低レベル放射性廃棄物の搬入は認めない。
- 現在、約25万本の低レベル放射性廃棄物を村外に搬出すること。
- 東京電力株式会社が実質上国有化されており、上記の各種廃棄物の約4割については東京電力株式会社所有のものであり、国が対処すること。
- 国策に協力してきた本村は、広大な土地と海域を失い、大事な産業を亡くした責任は国にあることから、その影響に値する損害賠償を支払うこと。
・・・今秋にも決定するとされているエネルギー政策において、万が一、再処理路線を撤退し、使用済み燃料を直接処分するという結論に達した場合は、昭和60年に電気事業連合会等と締結した立地基本協定に反するもので、その事業を国策として進めてきた政府に大きな責任がある。
したがって、使用済み燃料の再処理を撤退する場合は、以下の内容について責任を持って対処するよう強く求める。
青森県、六ヶ所村と日本原燃株式会社との覚書(1998年7月29日、pdf) (青森県の原子力行政の資料23)
[「再処理事業の確実な実施が著しく困難になった場合には、青森県、六ヶ所村及び日本原燃株式会社が協議のうえ、日本原燃株式会社は、使用済燃料の施設外への搬出を含め、速やかに必要かつ適切な措置を講ずるものとする。」
*協議の上適切な措置を講じるのであって、即時に必ず送り返すことで合意が成立しているわけではない。
原発利益誘導によってゆがめられた地方財政(pdf)
「全国市民オンブズマン連絡会議」 [
表 4は、原発立地市町村及び再処理工場等のいわゆる核燃サイクル基地が所在する六ヶ所村の歳入及び原発関連収入を示したものである。
ほとんどの原発立地市町村では、固定資産税収入の歳入総額に占める比率が一般の市町村を大幅に上回っており、原発施設からの収入が原因と思われる。