東京都美術館で開催中の
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」へ行って来ました。
https://gogh2025-26.jp/
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は、画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853–1890)の生涯を、彼の家族のまなざしからたどる、日本初の展覧会です。
ゴッホの死後、その作品を守り抜き、世界に広めた家族の存在に焦点を当て、彼の夢を未来へとつないだ軌跡を描き出します。
ジョン・ピーター・ラッセル 《
フィンセント・ファン・ゴッホの肖像》1886年 油彩、カンヴァス
×ばつ45.6cm
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
アムステルダムのファン・ゴッホ美術館が所蔵する油彩画30点以上、日本初公開となる手紙4通を含む約70点が出品され、作品とともに語られる"もうひとつの物語"がここにあります。
展覧会の構成は以下の通りです。
1章:ファン・ゴッホ家のコレクションからファン・ゴッホ美術館へ
2章:フィンセントとテオ、ファン・ゴッホ兄弟のコレクション
3章:フィンセント・ファン・ゴッホの絵画と素描
4章:ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルが売却した絵画
5章:コレクションの充実 作品収集
フィンセント・ファン・ゴッホ 《
種まく人》 1888年11月 油彩、カンヴァス
×ばつ40.3cm
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
弟テオ(1857–1891)は、兄フィンセントの最大の理解者でした。若くして美術商として成功しながらも、画家を志した兄を経済的にも精神的にも支え続けました。
兄の死からわずか半年後に亡くなりますが、彼が残した膨大な作品群は妻ヨハンナ・ファン・ゴッホ=ボンゲル(1862–1925)に託されます。
ヨーは、義兄の芸術を正しく評価させるために展覧会への貸出や出版を行い、後にゴッホの名を世界に知らしめる大きな原動力となりました。
彼女の情熱がなければ、「ひまわり」も、「種まく人」も、私たちのもとへは届かなかったでしょう。
フィンセント・ファン・ゴッホ 《
グラジオラスとエゾギクを生けた花瓶》 1886年8-9月 油彩、カンヴァス
×ばつ38.4cm ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
その意思を受け継いだのが、テオとヨーの息子ヴィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホ(1890–1978)です。
幼くして叔父フィンセントの存在を伝え聞きながら育った彼は、のちに家族のコレクションを守るために立ち上がります。
1960年に「フィンセント・ファン・ゴッホ財団」を設立し、1973年にはそのコレクションを基にアムステルダムに「ファン・ゴッホ美術館」を開館。
約200点の油彩画と500点を超える素描・版画を擁する同館は、いまや世界最大のゴッホ・コレクションを誇ります。
ファン・ゴッホ美術館 外観 2015年撮影
「ゴッホ展」は数えきれないほど何度も何度も観ていますし、ゴッホ美術館へも足を運びましたが、今回の展覧会では第4章のアプローチがとても新鮮でした。
第4章「ヨー・ファン・ゴッホ=ボンゲルが売却した絵画」では、これまでほとんど紹介されることのなかった、彼女の現実的で戦略的な活動に迫っています。
ヨーはもともと美術とは縁遠い存在でしたが、夫テオとの生活を通して次第に近代美術や美術市場の仕組みに精通していきました。
フィンセント・ファン・ゴッホ 《
オリーブ園》 1889年11月 油彩、カンヴァス
×ばつ92.2cm
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
夫の死後、彼女は遺された200点を超える絵画と500点の素描・版画を相続します。
生活のため、そして何よりフィンセントを正当に評価させるために、作品の貸出や売却を慎重に進めました。
展示の核となるのは、ヨーが残した一冊の会計簿です。もともとは家庭の収支を記録するための帳面でしたが、やがてどの作品をいつ、誰に、いくらで売却したかを細かく記した重要資料となりました。
2002年に学術的な注釈版が刊行され、そこから170点以上の油彩画と44点の紙作品が特定されています。
彼女がどのような作品を、どのような順序で世に送り出したのか─その決断のひとつひとつが、ゴッホの名声を確立していく過程を物語ります。
フィンセント・ファン・ゴッホ 《
麦の穂》 1890年6月 油彩、カンヴァス
×ばつ48cm
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
ヨーにとって絵を手放すことは、単なる経済行為ではありませんでした。芸術を広く伝えるための「信仰」に近い使命感がそこにありました。
彼女は作品の販売を通じて人々の心にゴッホを刻み、展覧会の開催や書簡の出版によって、孤高の画家を"時代の芸術家"へと押し上げていきます。
ヨーが売却した絵の多くは、のちに欧州の主要美術館の所蔵となり、やがて世界中でゴッホの名が知られるようになったのです。
「傘を持つ老人の後ろ姿が描かれたアントン・ファン・ラッパルト宛ての手紙」
1882年9月23日頃 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation) (purchased with support from the Mondriaan Fund, the Ministry of Education, Culture and Science, the VSBfonds and the Cultuurfonds)
本展は、孤独な天才として語られがちなフィンセント・ファン・ゴッホを、家族の愛と信念の物語のなかに位置づけます。
作品の背後には、芸術を信じ、未来に託した三世代の情熱がある。それは、絵画を超えて"生きること"そのものを照らす、もうひとつのゴッホの物語です。
「家族がつないだ画家の夢」というタイトルどおり、本展は"孤独な天才"という従来のイメージを超え、絵画の背後にある人間の絆と信念を描き出します。
フィンセント・ファン・ゴッホ 《画家としての自画像》 1887年12月-1888年2月 油彩、カンヴァス
×ばつ50cm ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
これまでの「ゴッホ展」が作品そのものに焦点を当ててきたとすれば、本展は"作品をどう守り、いかに伝えたか"に光を当てた極めて新鮮な試みです。
家族の手で受け継がれたひとつの夢─それは、100年を超えて今なお、私たちの心を照らし続けています。
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」は12月21日までです。ゴッホ作品を体感的に味わえる「イマーシブ・コーナー」も体験できます。
「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」
会期:2025年9月12日(金)〜12月21日(日)
休館日:月曜日、9月16日(火)、10月14日(火)、11月4日(火)、11月25日(火)
※(注記)ただし9月15日(月・祝)、9月22日(月)、10月13日(月・祝)、11月3日(月・祝)、11月24日(月・休)は開館
開館時間:9:30〜17:30、金曜日は20:00まで(入室は閉館の30分前まで)
会場:東京都美術館
https://www.tobikan.jp/
主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、 NHK、NHKプロモーション、 東京新聞
協賛:NISSHA
後援:オランダ王国大使館
協力:KLMオランダ航空
展覧会公式サイト:
https://gogh2025-26.jp/
家庭画報 特別編集 ビジュアル版
『
画家ゴッホの夢 謎解き名画巡礼 』
家庭画報特別編集 (著)
写真・南川三治郎/文・松井文恵
発売日:2025年9月11日 (木)
仕様:A5判/160ページ
発行:株式会社世界文化社
生誕地ズンデルト、ニューネン、才能を開花させたパリ、そしてアルルや南仏の村へ...。本書は画家ゴッホの夢の跡を辿るように、オランダからフランスへと旅しながら、名画誕生の物語を紡いだ1冊。
ゴッホの代表作を多数掲載。その絵とシンクロする風景写真にも画家のまなざしを感じとれることでしょう。
ゴッホの作品にかける不屈の思いと支援し続けた弟テオ、ゴーガンなど画家仲間との交流など、ゴッホ芸術を謎解きする1冊。
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