会員が作る「IUCN」2 モーションの採択
10日午前(というか1時間後にはおやつの時間)に前モーションの議決が終わりました。事前投票があったとはいえ、20近いモーションがコンタクトグループや総会の場で議論されました。これらはオンラインディスカッションではまとまらなかった発議なので、必然、検討にも時間がかかります。
写真 IISD/ENB http://www.iisd.ca/iucn/congress/2016/1sep.html
また、会議期間中に提案されるモーションもありました。通常のモーションに求められる要件に加えて、新規の、緊急課題であることという条件がつきますが、今回は10件が提案されて、6件が決議委員会に受理されました。要件を満たさないと決議委員会に判断された4件のうち1件は、会場から異議申し立てがなされたので、概要が分かったのですが、南沙諸島海域における中国政府の埋め立て事業に対するフィリピンやアメリカのNGOの訴えだったようです。
事前投票については、例えば、水系保全の象徴種としてのウナギの保全、浸透性農薬に関するIUCNの政策の構築など個別の課題は比較的事前投票で決しました。先にご紹介した、島嶼における外来種の導入経路の特定と侵入防止強化を訴えた日本の会員からのモーションもこの事前投票で採択された決議の一つです。どれもが世界の現場で活動する会員から提起される自然保護の話題なので、興味深いものが数多くあります。
写真 IISD/ENB http://www.iisd.ca/iucn/congress/2016/1sep.html
会議期間中の決議の検討では、民間保護地域・自然資本や生物多様性オフセットに関するIUCNの立場、エコツーリズムに関する基準作りといったIUCNの世界レベルの政策や特定課題への立場を決める発議が多くありました。他には緊急課題として、「絶滅危惧IA類のパタゴニアカイツブリに悪影響を与えるアルゼンチンのサンタクルス川上流部に建設が予定されている2つのダム問題」といったものも決議委員会に認められ、会員総会の場で賛成多数で採択されました。最後まで会員間で意見が分かれたものはアフリカゾウの保全のための「象牙の国内市場の閉鎖」を訴えるものです。
採択されたモーションは、こちらから見られます(英語)
他にもIUCNの運営に関するもので、会員制度に関する議決2つを含む、IUCNの運営に関する決議が6つありました。
会員制度改革の前に、IUCNの会員制度を説明すると、投票・発議の権利を有する会員として、国家会員(State)、政府機関会員(Governmental Agency)、NGO・IGO(International NGOの略)会員があり、発言権のみある会員として協力会員(Affiliate)という4つからなります。
写真 IISD/ENB http://www.iisd.ca/iucn/congress/2016/1sep.html
会員による投票は、国家会員と政府機関会員によるカテゴリーAとNGO/IGO会員からなるカテゴリーBでそれぞれ過半数をとらないと可決しないというルール(規約改正は3分の2以上の賛成が必要)になっています。会員だけで物事が決まるのではなく、政府も賛成しないと投票が有効とならないというバランスが働いているのです。
しかし、投票には、賛成・反対に加え"棄権"というものがあり、ある政府の開発事業(開発事業の主務官庁は自然保護会議に参加する省庁ではないことが多い)に対する発議には、国家・政府会員は棄権票を投じることが多く、可決することも普通です。
さて、世界自然保護会議2016では、この会員制度を変更して、カテゴリーC 先住民地域共同体という新たな会員制度を作りました。先住民地域共同体(やその支援組織)は既にIUCNの会員でいるのですが、彼らのアイデンティティーを尊重し、また更なる地域グループにIUCNに加わってもらうことを願って、創設する決定を会員がしました。投票は、NGOと一緒にカウントされるのですが、大きな前進と受け取られました。
もう一つ、自治体を国家・政府機関会員であるカテゴリーAに明確に位置づけることについて議論が行なわれました。規約改正も視野に検討を重ねたのですが、"地方自治体"の定義と呼称の整理(state, province, prefecture, city, town, ward等。どこまでIUCN会員になれるのか?投票などの権利をどうするか?)がついていないことから、理事会の元にタスクフォースを作り、規約改正を視野に議論を深めることが決まったのです。
規約改正含む、IUCNの組織運営に関する決議はこちら
(公財)日本自然保護協会経営企画部副部長
国際自然保護連合日本委員会副会長・事務局長
道家哲平