システム子会社がDX推進の抵抗勢力に、重要なのは既得権益からの切り離し
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アクセンチュア
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数多くのモダナイゼーション案件を見てきた筆者の経験から、実際に起こり得る問題や葛藤を架空の事件簿として解説する本連載。最終回となる今回は、レガシーシステムからの脱却と改善をシステム子会社に任せてあやうく頓挫するところだったモダナイゼーション事例を紹介する。
システム子会社が脱メインフレームに抵抗した事件
一般家庭に電力を供給し社会インフラを支えるA社は、創業から100年を超える。1980年代には、企画機能だけを本社に残し、システムの開発や運用の機能を新たに設立したシステム子会社に移管した。他の多くの企業にも見られた「ITを中核事業とは見なさない」という動きだ。本社とは異なる給与体系の導入によるコスト削減や、他社のシステム開発の受注などにより、収益の改善という意味では一定の目的を果たした。
ところが昨今の電力会社は、電力自由化による販売競争の激化や環境に配慮した脱炭素といった課題を抱えている。そうした課題を解決するにはデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が欠かせない。デジタル戦略を担うIT部門を子会社に分離しているメリットよりも弊害のほうが目立つようになってきた。
そのような状況の中、メインフレームを中心に運用してきた販売/設備管理システムのコストを脱メインフレームにより削減する方針が決まった。本社の企画部門がDXに投資する原資を確保するためだ。
A社は電力を供給する設備の老朽化に対応するため、ドローンや人工知能(AI)を利用して省力化と効率化を進めている。一般家庭にスマートメーターを導入し、電力とガスを合わせて提供する総合エネルギー契約の販売も強化している。
DXへの投資拡大を目指す中、IT予算の8割を占めるメインフレームのレガシーシステムを維持するコストの削減とそうした業務に携わる人材のシフトは、本社の企画部長にとって急務の課題だった。
10年もの期間をかけて再構築?
そこでシステム子会社に対し、脱メインフレームを前提としたモダナイゼーションを検討するよう指示した。ところが検討報告書には脱メインフレームが難しい理由ばかりが並んでいた。報告書の結論は、メインフレームを残したまま10年の期間をかけてシステム全体を再構築すべきだという驚くべきものだった。
本社企画部長はため息をついた。「結局は時間稼ぎがしたいだけではないか」。一刻を争ってDXを進めようとしている今、悠長に10年もかけて再構築しようという感覚にはついていけない。まともに議論しようという気がないとしか思えなかった。
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