美ぼうと教養をそなえた江戸の華揚巻あげまき
| ■しかく 本名 |
三浦屋揚巻(みうらやあげまき) |
| ■しかく 性格 |
好き嫌いがはっきりしている |
| ■しかく 特技 |
憎まれ口 |
揚巻
揚巻
錦絵の場面
吉原の有名な三浦屋の揚巻が、客の意休(いきゅう)と対峙している。
登場する演目
『助六由縁江戸桜』(すけろくゆかりのえどざくら)
通称:助六
揚巻は吉原の中でも、花魁(おいらん)・傾城(けいせい)と呼ばれるトップクラスの遊女。かんざしや櫛(くし)など、合計20本近くの髪飾りをつけ、豪華な打掛(うちかけ)を着ている。プライドが高く、恋人の助六を罵(ののし)る意休に対しては、店の大得意(だいとくい)の客であっても「くらがりで見ても助六さんと意休さんを取り違えてよいものかいなァ」と、大胆に悪態をつく。
作者
原作:2代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
楽器の音色で女心を表現する遊女阿古屋あこや
| ■しかく 本名 |
傾城 阿古屋 |
| ■しかく 性格 |
度胸がある |
| ■しかく 特技 |
琴(こと)・三味線・胡弓(こきゅう)の演奏 |
阿古屋
阿古屋
錦絵の場面
琴を弾きながら、恋人の居場所は知らないと歌詞で伝えている。
登場する演目
『壇浦兜軍記』(だんのうらかぶとぐんき)
通称:阿古屋、琴責め(ことぜめ)
京の傾城(けいせい:高級な遊女)で、平家の武士・景清(かげきよ)の恋人。平家の滅亡後、姿を隠した景清を追う役人に呼び出され、取り調べをうける。居場所を知らないと答える阿古屋は、役人に琴・三味線・胡弓、3つの楽器の演奏を命じられるが、音色に乱れがないことから、嘘をついていないとして許される。追い詰められた状況で、恋人への思いを歌いながら堂々と楽器を弾きこなす、気品と色気に満ちたキャラクター。
作者
文耕堂(ぶんこうどう)ほか、合作
俳優
6代目中村歌右衛門(なかむらうたえもん)、5代目坂東玉三郎(ばんどうたまさぶろう)
本質は情にあつく、家族思いの不良いがみの権太いがみのごんた
| ■しかく 本名 |
いがみの権太 |
| ■しかく 性格 |
意外とあまったれ |
| ■しかく 特技 |
父を怒らせる |
いがみの権太
いがみの権太
錦絵の場面
首が入ったすし桶(おけ)を、母親からもらった金を隠したすし桶だと思って持ち出す。
登場する演目
『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)
通称:千本桜
賭け事や盗みばかりしているため、すし屋の父からほとんど家族の縁を切られている。逃亡しているかつての主人一家を助ける父の心を知り、悪ぶった芝居の裏で自分の妻子をその身代わりに引き渡したが、その真実を知らずに激怒した父に刺され、苦しみながら本心を明かして息絶える。
作者
並木川柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
俳優
5代目松本幸四郎(まつもとこうしろう)、5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
金持ちだけを狙う天下の大盗賊石川五右衛門いしかわごえもん
| ■しかく 本名 |
石川五右衛門 |
| ■しかく 性格 |
大胆不敵 |
| ■しかく 特技 |
財宝を盗む |
石川五右衛門
石川五右衛門
錦絵の場面
山門の下まで追ってきた真柴久吉(ましばひさよし)と対峙している。
登場する演目
『楼門五三桐』(さんもんごさんのきり)
通称:楼門
のび放題の髪に、すその長い豪華などてらを羽織り、桜が満開の京・南禅寺(なんぜんじ)の極彩色の山門に現れる。追われる身にもかかわらず、ゆうゆうと煙草をくゆらせ「絶景かな 絶景かな」と夕暮れ時の春の眺めを讃える。モデルは安土桃山時代に実在したといわれる盗賊のリーダー。江戸時代、五右衛門の伝説を基に数多くの物語がつくられた。
作者
初代並木五瓶(なみきごへい)
一目惚れが仇(あだ)となり、転落した若旦那伊豆屋与三郎いずやよさぶろう
| ■しかく 本名 |
伊豆屋与三郎 |
| ■しかく 性格 |
悪ぶっているが実は優男 |
| ■しかく 特技 |
ゆすり |
伊豆屋与三郎
伊豆屋与三郎
錦絵の場面
傷だらけの与三郎が女の家へ押しかけ、治療費としてたかった金を仲間と分けている。
登場する演目
『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)
通称:切られ与三(きられよさ)
江戸の商家の若旦那。木更津の浜辺で、やくざ者の妾(めかけ:妻以外に養っている女性)お富(おとみ)と恋に落ちる。それがばれて、眉間、左頬(ひだりほお)、右目の下など体中を34ヶ所も切られて「切られ与三」というあだ名がついた。ゆすりに行った家で偶然再会したお富に「しがねえ恋の情けが仇......」と恨み言をはく。長唄(ながうた)の4代目芳村伊三郎(よしむらいさぶろう)が、若い頃に体験した実話をふまえて生まれた役。
作者
3代目瀬川如皐(せがわじょこう)
俳優
8代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)、15代目市村羽左衛門(いちむらうざえもん)
あほうのふりで、周囲をあざむく賢人一条大蔵卿いちじょうおおくらきょう
| ■しかく 本名 |
一条大蔵卿 |
| ■しかく 性格 |
かしこい |
| ■しかく 特技 |
舞 |
一条大蔵卿
一条大蔵卿
錦絵の場面
りりしい姿で登場した大蔵卿が、屋敷に忍びこんだ平氏方の武士をしとめている。
登場する演目
『鬼一法眼三略巻』(きいちほうげんさんりゃくのまき)
通称:一条大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
源氏の血をひく牛若丸(うしわかまる)の母・常盤御前(ときわごぜん)が、再婚した公家。源氏の味方であることを隠すため、舞の稽古ばかりしている愚かな貴族のふりをしている。平家のスパイを斬(き)った後のほんのすこしの時間、りりしく英知に優れた本性を見せる。モデルは藤原長成(ふじわらのながなり)。「平家でなければ人ではない」といわれた時代を生き抜く、ユーモラスで知略(ちりゃく)に富んだ人物として造形された。
作者
文耕堂(ぶんこうどう)ほか、合作
俳優
11代目片岡仁左衛門(かたおかにざえもん)、初代中村吉右衛門(なかむらきちえもん)
「女の敵は女」を地でいく悪役岩藤いわふじ
| ■しかく 本名 |
岩藤 |
| ■しかく 性格 |
気性が激しく、意地悪(いじわる) |
| ■しかく 特技 |
武術 |
岩藤
岩藤
錦絵の場面
雨の降る夜、悪事に成功した岩藤が御殿の庭で傘をさしている。
登場する演目
『加賀見山旧錦絵』(かがみやまこきょうのにしきえ)
通称:加賀見山
武家に仕える女性。主君からの信頼があつい町人出身の尾上(おのえ)に嫉妬(しっと)し、さまざまな意地悪をする。密書を拾われた尾上を陥れて、大勢の前で草履(ぞうり)で叩いてはずかしめ、自殺へ追いやった。尾上を慕っていたお初(おはつ)にのちに殺される。後日談『加賀見山再岩藤』(かがみやまごにちのいわふじ)では幽霊となって登場する。亡霊となってよみがえった岩藤は、傘を片手に満開の桜の中を、フワリフワリと飛んでゆく。
作者
容楊黛(ようようたい)
俳優
初代尾上松助(おのえまつすけ)
正義感にあふれる三つ子の長男梅王丸うめおうまる
| ■しかく 本名 |
梅王丸 |
| ■しかく 性格 |
忠義にあつい |
| ■しかく 特技 |
牛車をひく |
梅王丸
梅王丸
錦絵の場面
三つ子の兄弟の一人とともに、主君の敵(かたき)を乗せた牛車を襲うが、もう一人の弟に遮られる。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
菅丞相(かんしょうじょう)に仕える家来で、三つ子の兄弟の長男。天下を狙い、菅丞相をおとしいれた藤原時平(ふじわらのしへい)に仕える次男・松王丸(まつおうまる)とは敵味方となって争う。荒々しく勇猛な「荒事(あらごと)」という役柄を代表するキャラクターで、役名にちなんだ梅の花の衣裳や太い帯、怒りを表す赤い隈取(くまどり)が特徴。
作者
並木川柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
息子のために力を尽くす愛情深い母延寿えんじゅ
| ■しかく 本名 |
延寿 |
| ■しかく 性格 |
息子思い |
| ■しかく 特技 |
変装 |
延寿
延寿
錦絵の場面
夫から届いた手紙が入った箱を手にしている。
登場する演目
『ひらかな盛衰記』(ひらがなせいすいき)
通称:源太勘当(げんだかんどう)、神崎揚屋(かんざきあげや)、逆櫓(さかろ)
梶原景時(かじわらかげとき)の妻。戦場にいる景時から手紙が届くが、その内容は佐々木高綱(ささきたかつな)と敵軍を攻める順序を競い、負けた長男の源太(げんだ)に切腹(せっぷく)を命じるものだった。しかし、父の命を救ってくれた恩に報いるためわざと負けたと聞いた延寿は息子を勘当(かんどう)することで、命を助ける。武士の妻としての体面を保ちつつ、再び戦に出る息子へ変装して大金を届ける愛情の深さを見せる。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
文耕堂(ぶんこうどう)ほか、合作
早稲田大学演劇博物館所蔵(016-0274(A))
貞淑な妻から恐ろしい幽霊へお岩おいわ
| ■しかく 本名 |
お岩 |
| ■しかく 性格 |
執念深い |
| ■しかく 特技 |
亡霊となって人を取り殺す |
お岩
お岩
錦絵の場面
幽霊となったお岩が提灯(ちょうちん)から現れる場面。さまざまな仕掛けで幽霊が登場する演出は、当時の作者や俳優たちによって考案された。
登場する演目
『東海道四谷怪談』(とうかいどうよつやかいだん)
通称:四谷怪談
出産して病気がちになり、夫・民谷伊右衛門(たみやいえもん)から疎(うと)まれている。伊右衛門を娘と結婚させようとする隣の金持ちの家の策略で毒を飲まされ、片目が腫(は)れ上がり、櫛(くし)でとくたびに髪の毛は抜け落ち、悲しみ憤りながら死んでゆく。幽霊となったお岩は、自分を苦しめた人々を次々と取り殺す。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
3代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
兄弟の仇討(あだう)ちを応援する美しい遊女大磯の虎おおいそのとら
大磯の虎
大磯の虎
錦絵の場面
豪華なかんざしをつけ、帯を前に垂らしている。
登場する演目
『寿曽我対面』(ことぶきそがのたいめん)
通称:曽我対面
大磯(現在の神奈川県、大磯)の傾城(けいせい:高級な遊女)で、曽我兄弟の兄・十郎(じゅうろう)の恋人。陰ながら兄弟を支えている。父の仇討ちを志(こころざ)す兄弟が、敵(かたき)に対面する場に立ち会う。少ない動きのなかで、人気絶頂の遊女として、気品と貫禄(かんろく)を見せるキャラクター。兄弟が仇討ちをとげて死んだ後、兄弟を弔(とむら)いながら諸国を巡り、二人の物語を語り伝えたという伝説が残っている。
作者
原作:中村明石清三郎(なかむらあかしせいざぶろう)、初代市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)合作
強い信念を持った理想のリーダー大星由良之助おおぼしゆらのすけ
| ■しかく 本名 |
大星由良之助良金(おおぼしゆらのすけよしかね) |
| ■しかく 性格 |
冷静沈着 |
| ■しかく 特技 |
部下をまとめる |
大星由良之助
大星由良之助
錦絵の場面
由良之助が本心を隠して、遊びにふける「祇園一力茶屋(ぎおんいちりきぢゃや)」の場面。以前、同じ主君に仕えていた女とその兄との様子を伺っている。
登場する演目
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)
通称:忠臣蔵
元禄時代に起きた、仇討(あだう)ち事件のリーダーだった赤穂藩の国家老(くにがろう)・大石内蔵助(おおいしくらのすけ)がモデル。主君の塩冶判官(えんやはんがん)の刃傷(にんじょう)事件を聞いて鎌倉へかけつけ、切腹を命じられた塩冶判官に、敵への復讐を誓う。心では仇討ちの意志を固めながら、それが周囲にばれないよう、遊郭で遊びほうけているように見せかける。最後は元塩冶家の46人の浪人とともに、討ち入りを果たす。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
俳優
初代沢村宗十郎(さわむらそうじゅうろう)、初代尾上菊五郎(おのえきくごろう)、9代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
めげない恋愛至上主義者お軽おかる
| ■しかく 本名 |
お軽 |
| ■しかく 性格 |
行動力がある |
| ■しかく 特技 |
環境適応力が高い |
お軽
お軽
錦絵の場面
勤め先の御殿から駆(か)け落ちし、恋人・早野勘平(はやのかんぺい)とともに実家へ向かう旅の途中。清元(きよもと)の演奏による舞踊の場面で通称「落人(おちうど)」とよばれる。
登場する演目
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)
通称:忠臣蔵
塩冶家(えんやけ)に仕える女性。恋人の勘平とデートをしている最中に、主君が人を斬(き)りつけてしまう。主君の一大事に側にいることができなかったことを後悔し、腹を切ろうとする勘平をとめ、実家へ連れて帰る。勘平が武士に戻るために必要な金をつくろうと遊女になるが、勘平が死んだことを聞くと、彼の名誉を挽回する行動にでる。どんな状況になってもめげずに、とにかく恋人一筋で突き進む。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
吉三の名を持つ悪党3人の兄貴分和尚吉三おしょうきちさ
| ■しかく 本名 |
和尚吉三 |
| ■しかく 性格 |
仲間思い |
| ■しかく 特技 |
話術 |
和尚吉三
和尚吉三
錦絵の場面
川のほとりで起きた争いの仲裁をしている場面。
登場する演目
『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)
通称:三人吉三
以前、出家していたことから「和尚」と呼ばれる悪党。奪った百両を巡って刀を抜く、お嬢吉三(おじょうきちさ)とお坊吉三(おぼうきちさ)の間に入り争いをおさめ、同じ名前をもつ者同士、仲間になる。お坊に父の土左衛門伝吉(どざえもんでんきち)を殺されるが、追われる身となった二人をなんとか逃がそうと取り計らう。しかし、親の因果(いんが)や今までの様々な悪行の報いを受け、最後は3人で刺し違えて果てる。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
歌舞伎指折りの名ぜりふをもつ女装の盗賊お嬢吉三おじょうきちさ
| ■しかく 本名 |
お嬢吉三 |
| ■しかく 性格 |
仲間思い |
| ■しかく 特技 |
女装 |
お嬢吉三
お嬢吉三
錦絵の場面
奪った大金をめぐり、もう一人の盗賊がお嬢吉三へ斬(き)りかかっている。
登場する演目
『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)
通称:三人吉三
女性として育てられ、振袖(ふりそで)姿で盗みをはたらく盗賊。同じ吉三という名の和尚吉三(おしょうきちさ)、お坊吉三(おぼうきちさ)と出会い、仲間になる。夜鷹(よたか:下級の遊女)を川に突き落とし、金を奪って名ぜりふ「月もおぼろに白魚の......」を語るシーンは見どころ。クライマックスでは江戸時代の放火事件に取材した「八百屋お七(やおやおしち)」物の趣向を取り入れ、雪の中で櫓太鼓(やぐらだいこ)を叩く。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
初演:3代目岩井粂三郎(いわいくめさぶろう)、15代目市村羽左衛門(いちむらうざえもん)
男に負けない力持ちでも心は娘お園おその
| ■しかく 本名 |
お園 |
| ■しかく 性格 |
うぶ |
| ■しかく 特技 |
武芸 |
お園
お園
錦絵の場面
剣術の達人だった父が殺され、お園は虚無僧(こむそう:尺八[しゃくはち]を吹いて諸国をまわる僧)姿で敵(かたき)を追っている。
登場する演目
『彦山権現誓助剣』(ひこさんごんげんちかいのすけだち)
通称:毛谷村(けやむら)
身体が大きい女性で武芸の達人。大きな臼(うす)を持ち上げるほどの力持ちでもある。虚無僧に姿をかえて親の敵を捜している。旅の途中で出会った六助(ろくすけ)が実は親の決めた婚約者であると知り、急に恥ずかしがって女らしく振る舞うところがユーモラスな見せ場。「女武道(おんなぶどう)」という役柄の代表的なキャラクター。
作者
梅野下風(うめのしたかぜ)、近松保蔵(ちかまつやすぞう)
恋のために、いちずに突き進むお嬢様お染おそめ
| ■しかく 本名 |
お染 |
| ■しかく 性格 |
自分の感情に素直 |
| ■しかく 特技 |
お洒落 |
お染
お染
錦絵の場面
実家の野崎村(のざきむら)へ戻った恋人を訪ねるお染。家の中の様子を伺っている。
登場する演目
『新版歌祭文』(しんぱんうたざいもん)
通称:野崎村(のざきむら)
大坂の油屋の娘。奉公にきた久松(ひさまつ)と恋仲になり、久松の子を身ごもる。金のトラブルで野崎村へ帰されていた久松に、観音様へのお参りと家族に嘘をついてはるばる会いに行く。身分違いで結ばれないとわかっているため、二人は心中する決心をしている。美しい振袖(ふりそで)姿で登場する、都会的な町娘のキャラクター。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)
顔より心を大事にする粋なあねさんお辰おたつ
| ■しかく 本名 |
お辰 |
| ■しかく 性格 |
きっぷがいい |
| ■しかく 特技 |
思い切った行動 |
お辰
お辰
錦絵の場面
美しい顔を自ら痛めつけ、女の意地を示そうとしている。
登場する演目
『夏祭浪花鑑』(なつまつりなにわかがみ)
通称:夏祭
庶民の中でも下層で暮らすが、体をはって弱いものを助ける侠客(きょうかく)・一寸徳兵衛(いっすんとくべえ)の美人の女房。人柄を見込まれて若い男を預かって地元へ帰ろうとするが、男と二人きりで旅をするのを心配されると、焼けた金串を自分の顔に押し当ててみにくいやけどをつくり「これでも色気がござんすか」と、義理を果たす覚悟の心を見せる。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
熱心に夫の出世の手助けをする女房お徳おとく
| ■しかく 本名 |
お徳 |
| ■しかく 性格 |
社交的 |
| ■しかく 特技 |
おしゃべり、鼓(つづみ)の演奏 |
お徳
お徳
錦絵の場面
夫が描いた絵に起きた、不思議な現象に驚いている。
登場する演目
『傾城反魂香』(けいせいはんごんこう)
通称:吃又(どもまた)
人前に出るとうまく喋れない絵師の夫の又平(またへい)に代わって達者に喋り、夫の絵を認めてもらおうと力を尽くす。将来を悲観した夫は自殺しようとするが、嘆きながらも、手水鉢(ちょうずばち:手や口を洗う水を入れておく鉢)に自画像を描いて残すよう勧める。すると、手水鉢に描いた自画像に不思議な現象が起こり、又平はめでたく才能を認められる。苦労をする夫へ大きな愛情を注ぐ世話女房。
作者
近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
死んだはずだが生きていた運命の女お富おとみ
| ■しかく 本名 |
お富 |
| ■しかく 性格 |
愛情が深い |
| ■しかく 特技 |
男ウケがいい |
お富
お富
錦絵の場面
お富が恋人と再会する場面。お富は恋人に薄情だと恨みごとを言われ、生き別れた日から1日も忘れたことはないと嘆いている。
登場する演目
『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)
通称:切られ与三(きられよさ)
元は江戸の芸者で、木更津の親分の妾(めかけ:妻以外に養っている女性)。木更津の浜辺で伊豆屋与三郎(いずやよさぶろう)と出会い、恋に落ちたために、与三郎はめった斬(ぎ)りにされ、自分も海に身を投げた。命をとりとめた後、別の男の世話で暮らしているところへ偶然に与三郎が現れて運命の再会を果たし、与三郎への愛を再確認する。縞(しま)の着物や湯上がりのゆったりした髪型、しぐさに江戸の粋と大人の色気があふれる。
作者
3代目瀬川如皐(せがわじょこう)
ワンシーンでも強い印象を残す悪党斧定九郎おのさだくろう
| ■しかく 本名 |
斧定九郎 |
| ■しかく 性格 |
非情 |
| ■しかく 特技 |
強盗 |
斧定九郎
斧定九郎
錦絵の場面
文政2(1819)年の様子が描かれている。この公演で7代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)は定九郎以外に、一人で7つの役を演じた。黒い着流しで色悪風の扮装は、初代中村仲蔵(なかむらなかぞう)がそれまでの山賊風から工夫し、大評判となったもの。
登場する演目
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)
通称:忠臣蔵
塩冶家(えんやけ)の家老の息子だが、落ちぶれて強盗になっている。夜の山中で、通りかかった男を殺して金を奪うが、その直後に早野勘平(はやのかんぺい)に誤って撃たれ、絶命する。黒いシンプルな着物を着て登場し、「五十両〜」と一言しか言葉を発しない。惨忍(ざんにん)な性格で、舞台に登場する時間が少ないにもかかわらず、圧倒的な存在感とクールさで人気を集める悪役。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
俳優
初代中村仲蔵
主人思いで武術に優れた召使いの少女お初おはつ
| ■しかく 本名 |
お初 |
| ■しかく 性格 |
勝気でひたむきだがやり過ぎる |
| ■しかく 特技 |
草履(ぞうり)を頭の上に置いて頭痛を治す |
お初
お初
錦絵の場面
御殿の庭で、主人の敵(かたき)・岩藤(いわふじ)を狙っている。
登場する演目
『加賀見山旧錦絵』(かがみやまこきょうのにしきえ)
通称:加賀見山
武家に仕える女官たちの物語。藩の乗っ取りを企む岩藤から、迫害を受ける尾上(おのえ)と、その召使いであるお初。主人をかばって、剣術の試合で岩藤たちを打ち倒すものの、かえって尾上が、大事な宝を盗んだという疑いを岩藤からかけられ、草履で打ちすえられたすえに、自害してしまう。悲しんだお初は、岩藤を挑発しながら戦いを挑み、激しく争ったのち、討ち取る。
作者
容楊黛(ようようたい)
俳優
5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)
命をかけて恋しい人を守るけなげな船頭の娘お舟おふね
| ■しかく 本名 |
お舟 |
| ■しかく 性格 |
勇敢、心優しい |
| ■しかく 特技 |
愛した人の言葉を信じることができる |
お舟
お舟
錦絵の場面
惚れた男と来世で一緒になることを夢見て、太鼓を叩く。
登場する演目
『神霊矢口渡』(しんれいやぐちのわたし)
通称:矢口渡
一夜の宿を借りた逃亡中の武士、新田義岑(にったよしみね)に一目惚れする。欲深い父親が、賞金を目当てに義岑を殺そうとしているのを知り、自分が身代わりとなって父に斬(き)られる。瀕死(ひんし)の傷を負いながら最後の力を振り絞って、追手の囲みを解く合図の太鼓を打ち鳴らし、義岑とその恋人を逃がす。
作者
福内鬼外(ふくうちきがい[平賀源内:ひらがげんない])
武家出身の育ちが良い悪党お坊吉三おぼうきちさ
| ■しかく 本名 |
お坊吉三 |
| ■しかく 性格 |
生意気だが仲間思い |
| ■しかく 特技 |
辻斬(つじぎ)り |
お坊吉三
お坊吉三
錦絵の場面
お嬢吉三(おじょうきちさ)が奪った金を狙い、刀を抜いている。
登場する演目
『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)
通称:三人吉三
身分の高い武士の息子で育ちが良かったため「お坊」と呼ばれる盗賊。名刀を盗まれたのが原因で父は切腹し家族はばらばらになった。金を巡ってお嬢吉三と争っているところへ通りかかった和尚吉三(おしょうきちさ)になだめられ、三人は仲間になる。のちに、刀を盗んだ張本人の和尚の父・土左衛門伝吉(どざえもんでんきち)を殺す。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
婚約者のために身をひく純情な村娘お光おみつ
| ■しかく 本名 |
お光 |
| ■しかく 性格 |
やさしすぎる |
| ■しかく 特技 |
料理 |
お光
お光
錦絵の場面
結婚が決まったお光がうきうきしながら、祝言(しゅうげん)の料理を用意しようとしている。
登場する演目
『新版歌祭文』(しんぱんうたざいもん)
通称:野崎村(のざきむら)
野崎村の百姓の娘。婚約者・久松(ひさまつ)との結婚準備をしているところへ、久松が奉公していた油屋の娘・お染(おそめ)が訪ねる。お染は久松と恋仲で、しかも都会的で華やかな娘。やきもちを焼いてあれこれ意地悪(いじわる)をするが、二人が心中をする覚悟と知ると、髪を切り落とし尼になる。結婚を目前に、いそいそと準備をする純朴な村娘が一転、思い切った決断をする変化が見どころ。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)
恋人のためにすべてを捧げる娘お三輪おみわ
| ■しかく 本名 |
お三輪 |
| ■しかく 性格 |
いちず |
| ■しかく 特技 |
追跡 |
お三輪
お三輪
錦絵の場面
恋い焦がれていた男が別の女性と結婚することを知り、嫉妬(しっと)に狂ったお三輪が髪をふり乱している。
登場する演目
『妹背山婦女庭訓』(いもせやまおんなていきん)
通称:妹背山
大和国(やまとのくに:現在の奈良県)の造り酒屋の娘。恋人の求女(もとめ)を追って御殿に入り込む。求女に逢いたくて御殿の女中たちのいじめに堪えていたが、求女が橘姫(たちばなひめ)と結婚するのを知って激しく嫉妬する。求女の家来に刺されるが、自分の血が悪人を倒そうとする求女の役に立つことを知り、喜んで死んでゆく。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)ほか、合作
俳優
3代目中村歌右衛門(なかむらうたえもん)
厳しい中にも情のある老女覚寿かくじゅ
| ■しかく 本名 |
覚寿 |
| ■しかく 性格 |
キッチリしている |
| ■しかく 特技 |
推理 |
覚寿
覚寿
錦絵の場面
長女を殺したのは婿(むこ)だと推察した覚寿が、今にも刀を突き刺そうとしている。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
菅丞相(かんしょうじょう)の伯母。長女の立田前(たつたのまえ)と次女の苅屋姫(かりやひめ)の母。苅屋姫は丞相の養女になっている。苅屋姫の軽はずみな行動が原因で丞相が罪に問われたと姫をとがめ、杖で打ちたたく。丞相の命を狙い、妻である立田前を殺した婿を自らの手で殺す強さを持つ一方で、流罪になる丞相と苅屋姫を最後に会わせるという情を見せる。演じるのが難しい老女役の一つで、俳優の演技には気品と強さが求められる。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
娘のために復讐の想いを断ち切る平家の武将景清かげきよ
| ■しかく 本名 |
悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ) |
| ■しかく 性格 |
意地っ張り |
| ■しかく 特技 |
立ち回り |
景清
景清
錦絵の場面
盲目の景清が幼い頃に生き別れた娘と再会し、顔をたしかめている。
登場する演目
『嬢景清八嶋日記』(むすめかげきよやしまにっき)
通称:日向島(ひゅうがじま)
源氏の大将・源頼朝(みなもとのよりとも)の暗殺に失敗した景清は、自分の目をえぐり、都から遠く離れた島で落ちぶれた生活をしている。そこへ、娘の糸滝(いとたき)がはるばる訪ねて来て、景清が官位を取りもどすために必要な金を渡すが、糸滝が身売りをして作った金と知り、武士の誇りと娘への愛情の狭間で葛藤する。猛将として名高い景清だが、最後は娘のため頼朝に従う。平安末期に実在した武士がモデルで、能・文楽・舞踊にも登場するキャラクター。
作者
増補者:若竹笛躬(ふえみ)、黒蔵主(こくぞうす)、中邑阿契(なかむらあけい)合作
俳優
7代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
男にもてあそばれ、怨霊(おんりょう)となった悲しい美女累かさね
| ■しかく 本名 |
累 |
| ■しかく 性格 |
執念が強い |
| ■しかく 特技 |
念力 |
累
累
錦絵の場面
怪談物を得意とした3代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)が、美女の累と悪人で美男の与右衛門(よえもん)2つの役を演じている。
登場する演目
『色彩間苅豆』(いろもようちょっとかりまめ)
通称:かさね
武家に仕えていた美しい女性。浪人の与右衛門と恋仲になるが、与右衛門は累の父を殺した犯人だった。父の霊が乗り移った累は顔が醜く変わり、与右衛門に殺される。前半の美しさと、怨霊となった後の恐ろしい姿の対比が見どころ。逃げる与右衛門を見えない糸で引くように引き戻す「連理引(れんりびき)」という独特の動きもある。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
3代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
権力にこびる憎まれ役が見せるもう一つの顔梶原平三景時かじわらへいぞうかげとき
| ■しかく 本名 |
梶原平三景時 |
| ■しかく 性格 |
人情がある |
| ■しかく 特技 |
刀の鑑定、剣術 |
梶原平三景時
梶原平三景時
錦絵の場面
問題を解決した景時が、颯爽と扇をかかげ見得(みえ)をきっている。
登場する演目
『梶原平三誉石切』(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
通称:石切梶原(いしきりかじわら)
平家の武士だが、源氏に心を寄せている。らでん細工職人の六郎太夫(ろくろだゆう)の持ってきた刀を鑑定し、試し切りに自分を、という六郎太夫を助けるため、わざと斬(き)りそこねる。その後、石の手水鉢(ちょうずばち:手や口を洗う水を入れておく鉢)を真っ二つに斬り、刀の切れ味を証明して自ら買い上げる。モデルは鎌倉の武士。悪役として描かれることが多い人物だが、この作品では爽やかな一面を見せる。
作者
長谷川千四(はせがわせんし)、文耕堂(ぶんこうどう)合作
俳優
3代目中村歌右衛門(なかむらうたえもん)
妻子がいても恋人と別れられない男紙屋治兵衛かみやじへえ
| ■しかく 本名 |
紙屋治兵衛 |
| ■しかく 性格 |
あきらめが悪い |
| ■しかく 特技 |
盗み聞き |
紙屋治兵衛
紙屋治兵衛
錦絵の場面
恋人の遊女と客との会話を立ち聞きしている。
登場する演目
『心中天網島』(しんじゅうてんのあみじま)
通称:天網島、紙屋治兵衛
大坂で紙屋を営む商人。妻子がありながら遊女で恋人の小春(こはる)に入れ込み、家族から心配されている。小春は妻のおさんの頼みで治兵衛と別れ、おさんは小春を身うけする金を工面(くめん)する。治兵衛のために心を尽くす、二人の義理がたい女性の努力もむなしく、最後は小春と心中してしまう上方の「和事(わごと)」の代表的なキャラクター。縞(しま)の着物に手ぬぐいの頬かむり姿で、小春を思い魂(たましい)の抜けたように登場するシーンが見どころ。
作者
近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
俳優
初代中村鴈治郎(なかむらがんじろう)
どこか憎めない粋な小悪党髪結新三かみゆいしんざ
| ■しかく 本名 |
髪結新三 |
| ■しかく 性格 |
口がうまく気が強い |
| ■しかく 特技 |
髪を結う |
髪結新三
髪結新三
錦絵の場面
髪を結うための道具を収めた箱を持っている。
登場する演目
『梅雨小袖昔八丈』(つゆこそでむかしはちじょう)
通称:髪結新三
前科者だが、現在は腕のいい髪結いで長屋に住んでいる。材木商・白子屋の手代忠七(ちゅうしち)をそそのかして、店の娘と駆(か)け落ちさせようとする。途中、突然態度を変えて、忠七から娘を奪い、店に身代金を要求する。しかし、身代金をあてにして買った高価な初鰹(はつがつお)や、奪った金を、家主に言いくるめられて半分巻き上げられてしまう、悪党だがどこか憎めないキャラクター。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
女の前で意地を張り、金を横領した男亀屋忠兵衛かめやちゅうべえ
| ■しかく 本名 |
亀屋忠兵衛 |
| ■しかく 性格 |
追い詰められると判断力を失う |
| ■しかく 特技 |
女性に甘える |
亀屋忠兵衛
亀屋忠兵衛
錦絵の場面
悪口に逆上した忠兵衛は、預かっていた大事な金に手を付けてしまう。
登場する演目
『恋飛脚大和往来』(こいびきゃくやまとおうらい)
通称:梅川忠兵衛(うめがわちゅうべえ)、封印切(ふういんきり)、新口村(にのくちむら)
大坂の飛脚屋(ひきゃくや:現金を運ぶ輸送業)の養子・忠兵衛は、恋仲である遊女の梅川を自由にするための金がほしい。自分より先にその金を払おうとする恋敵から悪口をいわれ、逆上した忠兵衛は、大罪と知りながら、仕事で預かっていた金を使ってしまう。梅川とともに故郷へ逃げてきた忠兵衛は、実の父親と無言で再会する。追ってきた役人を避けて逃げていく二人の姿を、父親はいつまでも見送るのだった。
作者
原作:近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
死後に「神様」としてまつられる不遇の大臣菅丞相かんしょうじょう
| ■しかく 本名 |
菅原道真(すがわらのみちざね) |
| ■しかく 性格 |
気品がある、高潔 |
| ■しかく 特技 |
奇跡を起こす |
菅丞相
菅丞相
錦絵の場面
梅の模様の装束を着た丞相が、敵の一味をにらんでいる。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
人徳がある政治家[大臣]で書や詩歌に秀でている。いわれのない罪を着せられて九州へ流される途中、伯母覚寿(かくじゅ)のもとへ立ち寄る。そこで命を狙われるが、形見に彫った木像が不思議な力で身代わりとなってくれる。モデルは平安前期の貴族で学者の菅原道真。左遷(させん)され、不遇のまま没した道真は様々な伝説となり、現在でも学問の神様「天神さま」としてまつられている。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
俳優
13代目片岡仁左衛門(かたおかにざえもん)
親思いのスーパー狐狐忠信きつねただのぶ
| ■しかく 本名 |
源九郎狐(げんくろうぎつね) |
| ■しかく 性格 |
親思い |
| ■しかく 特技 |
人間に化ける |
狐忠信
狐忠信
錦絵の場面
源義経(みなもとのよしつね)と静御前(しずかごぜん)に怪しまれ、正体を問い詰められている。
登場する演目
『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)
通称:千本桜
源義経の家臣である佐藤忠信(さとうただのぶ)に化けた狐。殺されて鼓(つづみ)の皮にされた両親を慕い、その鼓を持っている静御前に付き従っている。人間に化けていても、所々で狐のような手の動きや、鼓の音に聞き惚れる怪しい様子を見せる。問い詰められて、白い毛に覆われた正体を現すと、狐らしい身軽な動きや喋りで両親への思いを語りだす。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
俳優
5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
色気と愛嬌のある、傷だらけの悪女切られお富きられおとみ
| ■しかく 本名 |
お富 |
| ■しかく 性格 |
行動力がある |
| ■しかく 特技 |
ゆすり |
切られお富
切られお富
錦絵の場面
好きな男に金を貢ぐため、ゆすりで奪った金を夫から奪い、斬(き)り殺そうとしている。
登場する演目
『処女翫浮名横櫛』(むすめごのみうきなのよこぐし)
通称:切られお富
「切られ与三(きられよさ)」を女に置き換えたキャラクター。赤間源衛門(あかまげんざえもん)の妾(めかけ:妻以外に養っている女性)にもかかわらず与三郎(よさぶろう)と恋仲になったために斬(き)られ、体中に傷が残った。ゆすりをしたり、威勢よくたんかを切る気性の強さの一方で、与三郎と再会した時には顔の傷を隠そうとするけなげな女心も見せる。後ろで軽くまとめた髪に格子(こうし:チェック)の着物、という粋なスタイルが特徴。好きな男のためには、ゆすりや殺しも平気で行う「悪婆(あくば)」という役柄の代表。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
4代目澤村源之助(さわむらげんのすけ)
忠義のために我が子を殺した哀しみの武士熊谷直実くまがいなおざね
| ■しかく 本名 |
熊谷次郎直実(くまがいのじろうなおざね) |
| ■しかく 性格 |
主君のために家族も犠牲にする |
| ■しかく 特技 |
一騎打ち |
熊谷直実
熊谷直実
錦絵の場面
息子を心配する妻を、直実が押し止めている。
登場する演目
『一谷嫩軍記』(いちのたにふたばぐんき)
通称:熊谷陣屋(くまがいじんや)
源義経(みなもとのよしつね)に仕える武士。平家の武将・平敦盛(たいらのあつもり)の首を討ち、義経に差し出す。しかし実は首は敦盛のものではなく、直実の実の息子が身代わりになっていた。恩人の御曹司である敦盛を助けるために自分の息子を失い、武士のむなしさを実感した直実は出家する。
作者
並木宗輔(なみきそうすけ)ほか、合作
俳優
7代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)、4代目中村芝翫(なかむらしかん)
あざやかな謎解きで騒動を解決粂寺弾正くめでらだんじょう
| ■しかく 本名 |
粂寺弾正 |
| ■しかく 性格 |
プレイボーイ |
| ■しかく 特技 |
推理 |
粂寺弾正
粂寺弾正
錦絵の場面
毛抜きが立つ様子を確認した弾正は、その謎を解こうとしている。
登場する演目
『雷神不動北山桜』(なるかみふどうきたやまざくら)
通称:毛抜(けぬき)、鳴神(なるかみ)
大名の家老。病気で主人との結婚が延期になっている娘のところへ催促の使者として訪れると、娘は髪の毛が逆立つ不思議な病気にかかっていた。その部屋で、鉄の毛抜きが立って踊るのを見た弾正は、天井に磁石を持った忍びの者がいて、娘の「病気」もそのせいであることを見抜く。頭が切れるだけでなく、男女問わず見舞い先の家来たちをくどいて振られるがいっこうにめげない、愛嬌のあるキャラクターでもある。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
津打半十郎(つうちはんじゅうろう)、安田蛙文(やすだあぶん)、中田萬助(なかだまんすけ)
俳優
2代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
立命館大学ARC所蔵(arcHS03-0007-2_11)
街道沿いで旅人をだまして金や命を奪う悪いやつ雲助くもすけ
| ■しかく 本名 |
不明 |
| ■しかく 性格 |
悪いことを平気でするが、けっこう間抜 |
| ■しかく 特技 |
弱そうな相手を見つける |
雲助
雲助
錦絵の場面
寂しい場所で、若い男を襲う雲助と、そこへ通りかかった江戸の顔役
登場する演目
『浮世柄比翼稲妻』(うきよづかひよくのいなづま)
通称:鈴ヶ森(すずがもり)、鞘当(さやあて)
旅人を籠(かご)に乗せたり台に乗せて川を渡したりしながら、弱そうに見える客だと、強盗に変わり、金品を奪うのが雲助。江戸へ向かう若い男を、東海道沿いの処刑場の近くで、十数人がかりで襲うものの、逆に斬(き)られてしまう。美しい男が実は剣術の達人で、雲助たちが顔や尻、手足などを次々と切られていく、おかしみのある立ち回りが展開される。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
色じかけで使命を果たす女スパイ雲の絶間姫くものたえまひめ
| ■しかく 本名 |
雲の絶間姫 |
| ■しかく 性格 |
策略家 |
| ■しかく 特技 |
色じかけ |
雲の絶間姫
雲の絶間姫
錦絵の場面
滝壺の前で、具合が悪くなったふりをする雲の絶間姫。鳴神上人(なるかみしょうにん)の気をひこうとしている。
登場する演目
『雷神不動北山桜』(なるかみふどうきたやまざくら)
通称:毛抜(けぬき)、鳴神(なるかみ)
着物の片袖を脱いだ姿で登場する絶世の美女。鳴神上人を誘惑して油断させ、封じられた竜神を解きはなち、雨を降らせる目的で、朝廷から上人のもとに送り込まれる。自分の恋物語を語ったり、素足をちらりと見せたり、病気のふりをして介抱させたりと、あの手この手で巧みに上人の気をひく。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
原作:初代市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
権力にひるまない痛快な悪の頭領河内山宗俊こうちやまそうしゅん
| ■しかく 本名 |
河内山宗俊 |
| ■しかく 性格 |
豪胆 |
| ■しかく 特技 |
ゆすり |
河内山宗俊
河内山宗俊
錦絵の場面
鮮やかな緋色の着物は、舞台を華やかにする9代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)の工夫による。現在でも河内山は緋色の着物で登場する。
登場する演目
『天衣紛上野初花』(くもにまごううえののはつはな)
通称:河内山
江戸城で、将軍や役人に茶を出す御数寄屋坊主(おすきやぼうず)という職についている。大名の屋敷に囚われた質屋の娘を200両で助け出す約束で、権力のある寺の僧のふりをして乗り込む。左の頬(ほお)にあるほくろから正体を見破られるが、「悪に強きは善にもと...」と居直り、家の安泰を願う家老が見逃すと、さらに「バカめ」と捨てぜりふを吐いて立ち去る。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
9代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
頬(ほお)に蝙蝠の刺青(いれずみ)がある、ゆすりやたかりの常習犯蝙蝠安こうもりやす
| ■しかく 本名 |
安五郎(やすごろう) |
| ■しかく 性格 |
小心で間抜けなのに大物のつもり |
| ■しかく 特技 |
恩を売って弱みにつけ込む |
蝙蝠安
蝙蝠安
錦絵の場面
お富(おとみ)の家へゆすりに訪れた伊豆屋与三郎(いずやよさぶろう)と蝙蝠安。女物の古い着物を着て登場する。
登場する演目
『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)
通称:切られ与三(きられよさ)
ゆすりやたかりなどを重ねる、小悪党の安五郎は、右の頬へ彫っている刺青から、蝙蝠安と呼ばれている。やくざ者と揉め事を起こし、半殺しにされた与三郎という男を助け、悪事の相棒にする。今は別の男の妾(めかけ:妻以外に養っている女性)となっている、与三郎の元恋人・お富のもとへ、一緒にゆすりに行く。しかし、その男が、自分の父親の知人とわかると、わずかな金だけもらって、引き下がろうとする。
作者
3代目瀬川如皐(せがわじょこう)
俳優
初代中村鶴蔵(なかむらつるぞう)、4代目尾上松助(おのえまつすけ)
二股をかけながら筋を通した男斎藤実盛さいとうさねもり
| ■しかく 本名 |
斎藤別当実盛(さいとうべっとうさねもり) |
| ■しかく 性格 |
本心を見せない |
| ■しかく 特技 |
口がうまい |
斎藤実盛
斎藤実盛
錦絵の場面
琵琶湖で平家の船に乗る実盛が、白旗を持って泳ぐ女を助ける。
登場する演目
『源平布引滝』(げんぺいぬのびきのたき)
通称:実盛物語
かつて源氏の武将だった斎藤実盛は、敵である平家に今は仕えながら、衰える源氏をひそかに応援している。実盛の以前の主君の妻の葵御前(あおいごぜん)は妊娠しており、百姓の家にかくまわれている。源氏の子を殺そうとやって来た追手を実盛が言い負かして帰した後に、葵御前は無事に出産する。源氏の子を救うために実盛が犠牲にした小万(こまん)という女の息子に対しては、将来、自分が討たれることを約束して立ち去る。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)、三好松洛(みよししょうらく)合作
俳優
5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
恩人の子の身代わりに、自分の子を失う母親相模さがみ
| ■しかく 本名 |
相模 |
| ■しかく 性格 |
心配しすぎる |
| ■しかく 特技 |
出かける行動力 |
相模
相模
錦絵の場面
息子の首が入った桶(おけ)へ近寄ろうとする相模を、熊谷次郎直実(くまがいのじろうなおざね)は制札(せいさつ:木の立札)で押しとどめる。
登場する演目
『一谷嫩軍記』(いちのたにふたばぐんき)
通称:熊谷陣屋(くまがいじんや)
相模は武将・熊谷次郎直実と禁じられている家臣同士の恋愛をして、それがばれたところを、藤の方(ふじのかた)に救われる。10数年後、相模は直実との息子・小次郎(こじろう)を、藤の方は天皇との息子・平敦盛(たいらのあつもり)を、それぞれ戦場へ送り出す。しかし、夫・直実が、主君・源義経(みなもとのよしつね)の命令で敦盛の身代わりとして小次郎を討ったことを知り、相模は嘆き悲しむ。
作者
並木宗輔(なみきそうすけ)、ほか合作
どこかまぬけで、もてない男鷺坂伴内さぎさかばんない
| ■しかく 本名 |
鷺坂伴内 |
| ■しかく 性格 |
いやみったらしい |
| ■しかく 特技 |
ウケを狙わずに笑いがとれる |
鷺坂伴内
鷺坂伴内
錦絵の場面
大好きなお軽(おかる)にちょっかいを出すが、嫌がられている。
登場する演目
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)
通称:忠臣蔵
高師直(こうのもろのう)の家臣。師直への賄賂(わいろ)を受け取る場面でコント的なやりとりを見せる。また、お軽のことが好きで、早野勘平(はやのかんぺい)と駆(か)け落ちする際も二人につきまとうが、蹴(け)ちらされる。悪役の中でも、シリアスな物語を和ませる半道敵(はんどうがたき)という滑稽(こっけい)な役柄の代表的なキャラクター。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
恋にとりつかれて踊る鳥の化身鷺娘さぎむすめ
| ■しかく 本名 |
鷺娘 |
| ■しかく 性格 |
気持ちの起伏が激しい |
| ■しかく 特技 |
踊りながら変身する |
鷺娘
鷺娘
錦絵の場面
咲く花に雪が降り積もるなか、白鷺が描かれた着物姿の娘が、蛇の目傘(じゃのめがさ)をさしてたたずむ。
登場する演目
『鷺娘』
雪が舞う冬の夕暮れ。ぬれた鷺のように、白い装束でたたずむ娘は、寂しく静かな風情で踊る。一瞬で衣裳を替えて華やかな町娘の姿になり、恋する心情をうったえながら、リズミカルに踊る。闇が迫ると、娘は鳥の姿となり、裂かれた恋への執着のために、地獄で責めさいなまれる苦しみを踊る。
作者
作詞:壕越二三治(ほりこしにそうじ)、作曲:杵屋忠次郎(きねやちゅうじろう)ほか
俳優
9代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
どんな境遇でもめげないお姫様桜姫さくらひめ
| ■しかく 本名 |
桜姫 |
| ■しかく 性格 |
情熱的 |
| ■しかく 特技 |
つきまとう男を撃退する |
桜姫
桜姫
錦絵の場面
身分の高い僧が、桜姫を想い焦がれている。
登場する演目
『桜姫東文章』(さくらひめあずまぶんしょう)
通称:東文章
身分の高い姫。屋敷に忍び込んだ身分の卑しい悪党の権助(ごんすけ)との間に子どもができて、屋敷を追われる。その後、前世で恋人だった僧侶の清玄(せいげん)が現れるが、権助を選んでともに暮らす。落ちぶれても幽霊が現れても動じず、心のおもむくままに行動する女性。お姫様言葉と下品な言葉をまぜこぜにして喋る。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)
桜のようにはかなく散る三兄弟の末っ子桜丸さくらまる
| ■しかく 本名 |
桜丸 |
| ■しかく 性格 |
おっとり |
| ■しかく 特技 |
牛車をひく |
桜丸
桜丸
錦絵の場面
敵を乗せた牛車を襲う場面。桜の刺繍(ししゅう)をほどこした襦袢(じゅばん)を着ている。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
帝の弟である斎世親王(ときよしんのう)に仕える家来で、三つ子の兄弟の三男。親王の駆け落ちの手助けをしたことが、菅丞相(かんしょうじょう)を失脚させる原因となったのを悔やみ、切腹して死ぬ。長男の梅王丸(うめおうまる)が勇猛な「荒事(あらごと)」のキャラクターなのに対し、柔らかい物腰の「和事(わごと)」のキャラクター。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
同じ名前と不思議な縁(えん)で結びついた仲間三人吉三さんにんきちさ
| ■しかく 本名 |
お嬢吉三(おじょうきちさ) お坊吉三(おぼうきちさ) 和尚吉三(おしょうきちさ) |
| ■しかく 性格 |
仲間思い |
| ■しかく 特技 |
盗み |
三人吉三
三人吉三
錦絵の場面
川のほとりで三人の盗賊が出会う場面:刀を抜いたお嬢とお坊の間に和尚が入り、争いをおさめている。
登場する演目
『三人吉三廓初買』(さんにんきちさくるわのはつがい)
通称:三人吉三
偶然に知り合った同じ名前の盗賊三人。お嬢とお坊の争いを仲裁した和尚を兄貴分として仲間になる。武家の息子だったお坊が落ちぶれたのは和尚の父の盗みが原因であり、お嬢が金を奪った女は和尚の妹だった、など、実は互いに不思議な因縁(いんねん)で結ばれていることが分かる。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
武将の心を舞で魅了した美しい女性静御前しずかごぜん
| ■しかく 本名 |
静御前 |
| ■しかく 性格 |
愛する人のためなら苦難も耐え忍ぶ |
| ■しかく 特技 |
舞と鼓(つづみ)の演奏 |
静御前
静御前
錦絵の場面
桜が満開の季節、恋人を追い吉野へと向かっている。
登場する演目
『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)
通称:千本桜
源義経(みなもとのよしつね)の恋人の白拍子(しらびょうし:男装で歌や舞を演じる女性の芸能者)。義経の館が襲撃にあうと、薙刀(なぎなた)を持って奮戦する。別れ別れになった義経を追いかけて吉野山へ向かう道中の場面では、家来の狐忠信(きつねただのぶ)とコンビで華やかに踊る。どこまでも一筋に恋人を思い、愛される女性。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
ピンチになると現れる、正義のヒーロー暫しばらく
| ■しかく 本名 |
鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ) |
| ■しかく 性格 |
正義感にあふれる |
| ■しかく 特技 |
存在感 |
暫
暫
錦絵の場面
天下を狙う悪人が、善良な人たちを殺そうとするところへ、正義の武将が登場し、悪人たちを退治して善人たちを救う。
登場する演目
『暫』
江戸の街を守る、超人的な力を持った魔除けのような存在として生み出された、荒々しく豪快な「荒事(あらごと)」という分野を代表するキャラクター。棒のように張り出した髪に大きな紙の飾りを付け、顔には赤い筋の化粧をし、広い袖のある柿色の服に、巨大な刀を差す。姿を見せないまま、いきなり「しばらく」という大きな声を響かせ、巨大な力強い扮装で姿を現し、雄弁に自らを語って、悪人を懲らしめる。
作者
初代市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
俳優
初演:初代市川團十郎
煩悩が捨てられず、孤独に絶望する僧俊寛しゅんかん
| ■しかく 本名 |
俊寛僧都(しゅんかんそうず) |
| ■しかく 性格 |
人間味がある |
俊寛
俊寛
錦絵の場面
島にとり残された俊寛が、遠ざかる船に向かって叫ぶ。
登場する演目
『平家女護島』(へいけにょごのしま)
通称:俊寛
『平家物語(へいけものがたり)』に描かれた平安時代の僧がモデル。平家を討とうとした罪で、島流しになっていたが、ある日、都から船が来て帰れることになる。しかし都に残してきた妻が死んだことを知ると、自分の代わりに、ともに流されていた成経(なりつね)の恋人・千鳥(ちどり)を乗船させる。たった一人、島に残る覚悟を決めたはずだったが、遠ざかる船に向かって悲しみ叫ぶ。
作者
近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
100人斬(き)っても悪びれない美しい不良少年白井権八しらいごんぱち
| ■しかく 本名 |
白井権八 |
| ■しかく 性格 |
大胆不敵 |
| ■しかく 特技 |
剣術 |
白井権八
白井権八
錦絵の場面
鎌倉から江戸へ戻る幡随長兵衛(ばんずいちょうべえ)に呼び止められている。右が権八。
登場する演目
『浮世柄比翼稲妻』(うきよづかひよくのいなづま)
通称:鈴ヶ森(すずがもり)、鞘当(さやあて)
人を殺して江戸へ逃亡してきた武士。品川の鈴ヶ森で命を狙われ、大勢の人を斬り殺したときに幡随長兵衛と出会い、権八はその度胸を買われて長兵衛の世話になる。実在した強盗殺人犯で、鈴ヶ森で刑死した平井権八(ひらいごんぱち)がモデル。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)
個性あふれる粋な盗賊五人組白浪五人男しらなみごにんおとこ
| ■しかく 本名 |
日本駄右衛門(にっぽんだえもん) 弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ) 南郷力丸(なんごうりきまる) 忠信利平(ただのぶりへい) 赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう) |
| ■しかく 特技 |
盗み、ゆすり、変装など |
白浪五人男
白浪五人男
錦絵の場面
背景に盗賊それぞれのプロフィールと俳優の名が書かれている。
登場する演目
『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうしはなのにしきえ)
通称:白浪五人男(しらなみごにんおとこ)、弁天小僧(べんてんこぞう)
リーダーの日本駄右衛門のもとに集まった盗賊の仲間たち。弁天小僧と南郷力丸がゆすりを行った後、捕り手に追われ、稲瀬川(いなせがわ)で五人が勢揃いする。「志ら波(しらなみ)」と書かれた傘を手に、五人それぞれ違った、個性のある衣裳と音楽で名乗りをあげる場面は華やか。実在したのは日本駄右衛門だけで、それ以外のメンバーは、日本駄右衛門を題材にした作品が生み出されるなかで創作された。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
恋する女心を舞う、執念深くて美しい亡霊白拍子花子しらびょうしはなこ
| ■しかく 本名 |
白拍子花子 |
| ■しかく 性格 |
いちず |
| ■しかく 特技 |
舞を舞う |
白拍子花子
白拍子花子
錦絵の場面
白拍子(しらびょうし:男装で歌や舞を演じる女性の芸能者)・花子が、公家の男性がかぶる帽子を身につけて舞っている。
登場する演目
『京鹿子娘道成寺』(きょうがのこむすめどうじょうじ)
通称:娘道成寺
道成寺の鐘(かね)が再建され、その供養が行われる日、寺に現れて舞いを舞わせてくれと頼む。鞠(まり)つきの様子や町娘の姿、恋する女心の様子などさまざまな舞いを披露し、衣裳もさまざまに早変わりする。最後は鐘に飛び込んで蛇の姿を現す。実は、愛する僧・安珍(あんちん)を鐘ごと焼き殺した清姫(きよひめ)の亡霊だった。
作者
作詞:藤本斗文(ふじもととぶん)、作曲:初代杵屋彌三郎(きねややさぶろう)
俳優
初代中村富十郎(なかむらとみじゅうろう)
痛快で洗練された江戸のモテ男助六すけろく
| ■しかく 本名 |
花川戸助六(はなかわどすけろく) |
| ■しかく 性格 |
威勢がよく喧嘩(けんか)っ早い |
| ■しかく 特技 |
女性にもてる |
助六
助六
錦絵の場面
遊女たちからもらった、たくさんの煙管(きせる)を持つ助六。
登場する演目
『助六由縁江戸桜』(すけろくゆかりのえどざくら)
通称:助六
黒い紋付の着物に赤い襦袢(じゅばん)、紫の鉢巻きを結ぶ粋なファッションや立ち居振る舞い、喧嘩の強さなどで、江戸の町人にとって理想の「かっこいい男」。吉原遊郭でも大人気で、中でも最高格の遊女、三浦屋の揚巻(あげまき)を恋人にしている。その正体は、源氏の宝刀を捜すため侠客(きょうかく:義理や人情を大切にして、弱い者の苦しみを救うために強い者と戦う者)に扮している武士の曽我五郎(そがのごろう)である。
作者
原作:2代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
俳優
初演:2代目市川團十郎
戒律を破り、幽霊になっても恋にいちずな僧清玄せいげん
| ■しかく 本名 |
清玄阿闍梨(せいげんあじゃり) |
| ■しかく 性格 |
執着心が強い |
| ■しかく 特技 |
恋をつらぬく |
清玄
清玄
錦絵の場面
落ちぶれて、病み衰えてもなお桜姫(さくらひめ)に迫ろうとする。
登場する演目
『桜姫東文章』(さくらひめあずまぶんしょう)
通称:東文章
若い頃に白菊丸(しらぎくまる)という少年と心中を図ったことがある。高僧となってから、白菊丸の生まれ変わりである桜姫と出会うが、罪をきせられて追放される。病気になったすえ、誤って刺殺されるが、幽霊になって毎夜姫のもとに現れる。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
罪人を絶望に追いやる非情な武士瀬尾太郎せのおのたろう
| ■しかく 本名 |
瀬尾太郎兼康(せのおのたろうかねやす) |
| ■しかく 性格 |
無慈悲(むじひ) |
| ■しかく 特技 |
追い打ちをかける |
瀬尾太郎
瀬尾太郎
錦絵の場面
罪人となっている俊寛(しゅんかん)へさんざんな仕打ちをした瀬尾太郎が斬(き)り殺される。
登場する演目
『平家女護島』(へいけにょごのしま)
通称:俊寛
平家に仕える武士。罪を許す知らせを持って、流刑の島へ赴く。俊寛に、都にいる彼の妻が処刑されたことを告げ、絶望の淵に突き落とす。白髪でくせ毛、赤い顔をした憎々しい悪役で最後は俊寛に殺される。
作者
近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
出生の秘密を持った無気味な大悪人蘇我入鹿そがのいるか
| ■しかく 本名 |
蘇我入鹿 |
| ■しかく 性格 |
天下をとる野望を秘めている |
| ■しかく 特技 |
霊力を使える |
蘇我入鹿
蘇我入鹿
錦絵の場面
入鹿は嫉妬(しっと)に狂うお三輪(おみわ)の生き血でのみ討伐が叶う。
登場する演目
『妹背山婦女庭訓』(いもせやまおんなていきん)
通称:妹背山
モデルは飛鳥時代に実在した豪族。母親が白い雌鹿(めすじか)の血を飲んでみごもったという。天皇の位を奪い、天下を自分の意のままにしようとたくらむ。白塗りの顔に悪人を表す青い隈取(くまどり)をし、「王子(おうじ)」というかつらをかぶった「公家悪(くげあく)」の代表的なキャラクター。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)ほか、合作
父の敵を狙う血気にあふれた次男坊曽我五郎そがのごろう
| ■しかく 本名 |
曽我五郎時致(そがのごろうときむね) |
| ■しかく 性格 |
血の気が多い |
| ■しかく 特技 |
武芸 |
曽我五郎
曽我五郎
錦絵の場面
兄は千鳥(ちどり)の模様、五郎は揚羽蝶(あげはちょう)の衣裳で演じられる。
登場する演目
『寿曽我対面』(ことぶきそがのたいめん)
通称:曽我対面
兄・十郎(じゅうろう)と年始の挨拶に訪れた屋敷で、父を殺した工藤祐経(くどうすけつね)に対面。祐経から渡された盃(さかずき)をたたき割る。12世紀末に起きた曽我兄弟による敵討ちを元に造形された、「荒事(あらごと)」で演じられるキャラクター。幼い頃から親の敵を狙い、苦労の末に念願を果たした曽我兄弟は、江戸時代の人々によく知られた人物で、数々の芸能・文学作品の主人公として、たびたび登場する。
作者
現行演出:河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
初代・2代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
父の敵を狙う血気にあふれた兄弟の兄曽我十郎そがのじゅうろう
| ■しかく 本名 |
曽我十郎祐成(そがのじゅうろうすけなり) |
| ■しかく 性格 |
辛抱強い |
| ■しかく 特技 |
聞き上手 |
曽我十郎
曽我十郎
錦絵の場面
幼少の頃から狙っていた親の敵(かたき)と、兄弟が初めて対面している。中央が十郎。
登場する演目
『寿曽我対面』(ことぶきそがのたいめん)
通称:曽我対面
年始の挨拶に訪れた屋敷で、弟の五郎(ごろう)が父の敵・工藤祐経(くどうすけつね)に挑みかかろうとするのを留める。モデルは、12世紀末に親の敵討ちを果たした曽我兄弟の兄。江戸時代の人々によく知られていた人物で、数々の芸能・文学作品にたびたび登場するが、荒々しく演じられる弟の五郎に対して、十郎は物腰が柔らかく優しい「和事(わごと)」という役柄のキャラクター。
作者
現行演出:河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
初代中村七三郎(なかむらしちさぶろう)
壮絶な最期を遂げる平家の武将平知盛たいらのとももり
| ■しかく 本名 |
平知盛 |
| ■しかく 性格 |
勇ましい |
| ■しかく 特技 |
別人になりすます |
平知盛
平知盛
錦絵の場面
復讐に挑むも源氏方の武士に取り囲まれ、大物浦(だいもつうら)で自害する知盛。
登場する演目
『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)
通称:千本桜
モデルは、鎧(よろい)を二枚着て海で自害したという言い伝えが残る、平清盛(たいらのきよもり)の四男。合戦で死んだと思われていたが、安徳帝(あんとくてい)を守りながら、船問屋・渡海屋銀平(とかいやぎんぺい)と名乗って暮らしていた。源義経(みなもとのよしつね)に復讐する機会が訪れ、亡霊を表す白い装束で戦いに臨む。しかし、平家滅亡の運命から逃れられないと悟ると、自分の体に結びつけた大碇(おおいかり)とともに海に沈む。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
パワハラに耐えかねてクーデーターを決意武智光秀たけちみつひで
| ■しかく 本名 |
武智光秀 |
| ■しかく 性格 |
我慢強い |
| ■しかく 特技 |
上司を怒らせる |
武智光秀
武智光秀
錦絵の場面
竹やりを持った光秀。この後、農民のやりに突かれて殺されることを暗示している。
登場する演目
『絵本太功記』(えほんたいこうき)
通称:太十(たいじゅう)、尼ヶ崎(あまがさき)
16世紀に実在した武将・明智光秀(あけちみつひで)がモデル。主君を殺した光秀は、旅の僧に姿を変えた真柴久吉(ましばひさよし)追って、母と妻が隠れる田舎を訪れる。しかし、母を久吉だと思い、あやまって竹やりで殺してしまう。さらに、敗戦を知らせに戻った重傷の息子が亡くなり、妻から嘆き責められ、さすがに耐えきれなくなり大泣きする。
作者
近松柳(ちかまつやなぎ)ほか、合作
苦しみながらも教え子を犠牲にした手習いの師匠武部源蔵たけべげんぞう
| ■しかく 本名 |
武部源蔵 |
| ■しかく 性格 |
実直 |
| ■しかく 特技 |
書道 |
武部源蔵
武部源蔵
錦絵の場面
源蔵の寺子屋(てらこや:子どもに読み書きを教える江戸時代の教育施設)に、松王丸(まつおうまる)の妻が訪ねている。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
かつて仕えていた菅丞相(かんしょうじょう)から書の才能を認められ、筆法(ひっぽう:書道の奥義)を伝授される。丞相の息子・菅秀才(かんしゅうさい)をかくまっていることを藤原時平(ふじわらのしへい)に知られ、首を差し出せと命じられる。しかたなく、寺子屋に入ったばかりの子どもを殺して身代わりにする。主君のためとはいえ、罪もない子どもを犠牲にしなければならない自分の立場を嘆く。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
貧乏な浪人暮らしに負け、妻を裏切る無慈悲な色男民谷伊右衛門たみやいえもん
| ■しかく 本名 |
民谷伊右衛門 |
| ■しかく 性格 |
自己中心的 |
| ■しかく 特技 |
女性にもてる |
民谷伊右衛門
民谷伊右衛門
錦絵の場面
妻と殺した男の死骸を戸板の裏と表に打ち付けて、川に流そうとしている。
登場する演目
『東海道四谷怪談』(とうかいどうよつやかいだん)
通称:四谷怪談
もとは武士だが、現在は傘を作って暮らす貧乏な浪人。子を産んで間もない女房のお岩(おいわ)を裏切って、隣家の金持ちの娘と結婚の約束をする。毒で殺されたお岩の幽霊にまどわされて次々と殺人を犯し、最後はお岩の妹の夫・与茂七(よもしち)に殺される。二枚目(にまいめ)で極悪人の「色悪(いろあく)」の代表的なキャラクター。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
強欲な舅(しゅうと)を殺してしまう大坂の魚売り団七九郎兵衛だんしちくろべえ
| ■しかく 本名 |
団七九郎兵衛 |
| ■しかく 性格 |
義理と人情にあつい |
| ■しかく 特技 |
すじを通す |
団七九郎兵衛
団七九郎兵衛
錦絵の場面
夏祭りの夜、祭囃子(まつりばやし)が聞こえるなか、図らずも義父を殺してしまう。
登場する演目
『夏祭浪花鑑』(なつまつりなにわかがみ)
通称:夏祭
大坂の夏を描いた作品に登場する、颯爽としたキャラクター。牢から出してくれた恩人の息子と、その恋人を守るために力を尽くす。欲の深い義父・義平次(ぎへいじ)にののしられ、散々な仕打ちをされて、ついに刀をぬく。はじめは柿色の大きなチェックの着物を着ているが、義平次ともみ合ううちに、ざんばら髪に赤いふんどし、鮮やかな刺青(いれずみ)姿になり、泥まみれになった義父に止めをさす。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
宮廷を守る英雄を襲った蜘蛛の精土蜘蛛つちぐも
| ■しかく 性格 |
執念深く怨みを忘れない |
| ■しかく 特技 |
僧侶に化ける |
土蜘蛛
土蜘蛛
錦絵の場面
正体をあらわした土蜘蛛の精を、皇族や貴族の前で演じる5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
登場する演目
『土蜘蛛』
土蜘蛛とは、たんなる動物ではなく、朝廷に滅ぼされた民族のことを指す言葉でもある。宮廷を警護する源頼光(みなもとのらいこう)は、かつて鬼を退治した英雄だが、今は病に倒れている。旅の僧に姿を変えた土蜘蛛は、病を治す祈祷(きとう)をしようと頼光に近づくが、化け物であることを見破られ、傷を負って逃げる。血の跡を追った、頼光の家来たちに住処を襲われ、無数の白糸を投げつけて戦ったすえ、退治される。
作者
作詞:河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)、作曲:3代目杵屋正次郎(きねやしょうじろう)
俳優
5代目尾上菊五郎
悪事を重ねる下品で迷惑な男釣鐘権助つりがねごんすけ
| ■しかく 本名 |
信夫の惣太(しのぶのそうた) |
| ■しかく 性格 |
欲望むき出しで身勝手 |
| ■しかく 特技 |
悪事をはたらく |
釣鐘権助
釣鐘権助
錦絵の場面
出家を決意した桜姫(さくらひめ)を訪ねた権助は、以前、会った時のことが忘れられなかったと告白される。
登場する演目
『桜姫東文章』(さくらひめあずまぶんしょう)
通称:東文章
腕に彫った刺青(いれずみ)から、釣鐘権助とも呼ばれる、盗賊・信夫の惣太。京の屋敷へ忍びこみ、宝を盗んだうえ、桜姫の父と弟を殺し、高貴な桜姫も襲った。子どもを産んだ桜姫は家を追い出され、忘れられない恋しい権助と江戸で再会し夫婦となる。しかし、権助は桜姫の上品な言葉遣いが嫌になり、遊女として売り飛ばし、その金で長屋の家主となるが、酒に酔ってうっかり自分の素性を明かしたために、桜姫に子どももろとも殺される。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
15代目片岡仁左衛門(かたおかにざえもん)、12代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう
年はとってもまだまだ頼れる親分釣船三婦つりふねのさぶ
| ■しかく 本名 |
釣船三婦 |
| ■しかく 性格 |
怒らせると怖い |
| ■しかく 特技 |
けんか |
釣船三婦
釣船三婦
錦絵の場面
夏祭りの夜、片袖を脱いだ三婦は若い二人の男たちために、力を貸そうとしている。
登場する演目
『夏祭浪花鑑』(なつまつりなにわかがみ)
通称:夏祭
大坂で船の運送業をいとなむ老人で、侠客(きょうかく:義理や人情を大切にして、弱い者の苦しみを救うために強い者と戦う者)の親分。若い頃はけんかに明け暮れていたが、今は数珠(じゅず)を耳にかけ、腹が立ったら念仏を唱えている。牢から出た団七(だんしち)の身柄を預かるなど面倒見がよい。遊女を連れ去ろうとした、ならず者たちを叩きのめし、昔の腕がまだまだ健在だったことを示す。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
蝦蟇(ガマ)をあやつる異国帰りの妖術遣い天竺徳兵衛てんじくとくべえ
| ■しかく 本名 |
天竺徳兵衛 |
| ■しかく 性格 |
野心家 |
| ■しかく 特技 |
異国話 |
天竺徳兵衛
天竺徳兵衛
錦絵の場面
大きな蝦蟇とともに現れる徳兵衛。
登場する演目
『天竺徳兵衛韓噺』(てんじくとくべえいこくばなし)
通称:天徳
天竺(インド)まで行って帰国した元船頭。日本を征服しようと企む父から、蝦蟇の妖術を授かる。大きな蝦蟇の背に乗り、屋根の上から登場するスペクタクルなシーンが見どころ。モデルは江戸時代にタイへ渡った貿易商の徳兵衛。彼の残した異国の見聞録は人々の興味を刺激し、やがて歌舞伎や人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)で、妖術をつかう大悪人として描かれるようになった。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
初代尾上松助(おのえまつすけ)
舞台に活気と彩りを与える生きものたち動物どうぶつ 虎(とら)・鼠(ねすみ)・狐(きつね)など
その他
動物 虎(とら)・鼠(ねすみ)・狐(きつね)など
動物 虎(とら)・鼠(ねすみ)・狐(きつね)など
不詳不詳
| ■しかく 本名 |
付いている場合もあれば、ない場合もある |
| ■しかく 性格 |
人のいうことを聞くときもあれば、聞かないときもある |
| ■しかく 特技 |
人を化かしたり、空を飛んだりすることもある |
動物 虎(とら)・鼠(ねすみ)・狐(きつね)など
動物 虎(とら)・鼠(ねすみ)・狐(きつね)など
錦絵の場面
鳥羽絵という漫画を題材とした舞踊劇の情景:着ぐるみの鼠が寝巻き姿の男にたわむれる。
舞台へ動物を登場させるときは、実際の生き物ではなく、作り物を使ったり、着ぐるみを使ったりする。たとえば馬の役は二人が前後に入って演じ、人を乗せることも多い。人と戦う、虎や猪(いのしし)などの猛獣役も、着ぐるみに人が入って演じている。鼠や鶏、狐などは、実際より少し大きめの作り物を使うことが多いが、妖術を使う場面では、着ぐるみを着た人が演じたり、怪物となった蝦蟇(ガマ)や猫などを、大きな仕掛けで暴れさせたりすることもある。
厳しい中にも情がある役人富樫左衛門とがしのさえもん
| ■しかく 本名 |
富樫左衛門 |
| ■しかく 性格 |
情け深い |
| ■しかく 特技 |
嘘を見抜く |
富樫左衛門
富樫左衛門
錦絵の場面
関所を通過しようとする一行が本当の山伏(やまぶし)かどうか、取り調べている。
登場する演目
『勧進帳』(かんじんちょう)
安宅の関(あたかのせき)を守る役人。山伏の姿になり奥州へ逃げようとする源義経(みなもとのよしつね)一行を取り調べる。弁慶が何も書いていない巻物を勧進帳として朗読したり、正体がばれそうになった義経を家来としてわざと打ちすえたり、命をかけて主君を守ろうとする姿に心を動かされ、正体を知りながらも一行を通過させる。
作者
作詞:3代目並木五瓶(なみきごへい)、作曲:杵屋六翁(きねやろくおう)
親と夫の板ばさみに苦悩する姫時姫ときひめ
| ■しかく 本名 |
時姫 |
| ■しかく 性格 |
自分を犠牲にして人に尽くす |
| ■しかく 特技 |
看病 |
時姫
時姫
錦絵の場面
病にふせる婚約者の母を看病している絹川村(きぬがわむら)で、戦場から戻ってきた婚約者と再会する。
登場する演目
『鎌倉三代記』(かまくらさんだいき)
通称:鎌三(かまさん)、絹川村
北条時政(ほうじょうときまさ)の娘。戦がはじまり、婚約者の三浦之助義村(みうらのすけよしむら)と父が敵味方に分かれてしまう。三浦之助に、夫婦になりたければ時政を討てと言われ、「北条時政討ってみせましょう」と決心を見せる。親と婚約者の間で苦しんだすえ、最後は恋を選ぶ情熱的なキャラクターで、豊臣秀頼(とよとみひでより)に嫁いだ徳川家の千姫(せんひめ)をモデルに創作された。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)ほか、合作
大胆不敵な男まさりの美しい悪女土手のお六どてのおろく
| ■しかく 本名 |
お六 |
| ■しかく 性格 |
気が強い |
| ■しかく 特技 |
たんかを切る |
土手のお六
土手のお六
錦絵の場面
お六を演じる5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)。半四郎は美しい容姿をもつ女方で、千両もの値打ちがあると称えられた目、愛嬌と色気、豊かな演技力で江戸時代の人々を魅了した。
登場する演目
『於染久松色読販』(おそめひさまつうきなのよみうり)
通称:お染の七役(おそめのななやく)
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)が半四郎のために創作したキャラクターで、美しく度胸のある「悪婆(あくば)」と呼ばれる役柄の代表。悪党・鬼門の喜兵衛(きもんのきへえ)と夫婦になり、たばこの葉をきざむ仕事で生計を立てている。かつて仕えていた武家の主人のため、油屋から金をゆすろうとする。この作品では、油屋の娘・お染(おそめ)、丁稚(でっち:商人の家に住み込みで働く少年)の久松(ひさまつ)など、一人の役者が性別や身分の異なる7つの役を演じ、一瞬で衣裳を替えて別の役になる演出が楽しめる。
作者
4代目鶴屋南北
俳優
5代目岩井半四郎
いちずな娘の想いを応援する継母(ままはは)戸無瀬となせ
| ■しかく 本名 |
戸無瀬 |
| ■しかく 性格 |
しっかり者で家族思い |
| ■しかく 特技 |
旅 |
戸無瀬
戸無瀬
錦絵の場面
義理の娘とともに死を覚悟している。
登場する演目
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)
通称:忠臣蔵
桃井家(もものいけ)の家臣の中で、もっとも地位が高い家老(かろう)加古川本蔵(かこがわほんぞう)の後妻。義理の娘の小浪(こなみ)を、婚約者である大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)の息子力弥(りきや)と結婚させるために、小浪とともに東海道を旅する。しかし力弥の母お石(おいし)に冷たくあしらわれ、その場で娘と一緒に死のうとする。若いながらも武士の妻としての誇りを持ち、血の繋がりがない娘に深い愛情をそそぐ、芯(しん)の強い女性。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
夫とともに悲しい決意をする女房戸浪となみ
戸浪
戸浪
錦絵の場面
寺子屋(てらこや:子どもに読み書きを教える江戸時代の教育施設)に入門を希望する子どもを迎えている。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
武部源蔵(たけべげんぞう)の妻。もとは菅丞相(かんしょうじょう)の家に仕えていたが、源蔵と夫婦になり寺子屋を営んでいる。寺子屋でかくまっている丞相の息子・菅秀才(かんしゅうさい)の身代わりに、他の子どもを斬(き)るという源蔵の決意に、涙ながらに従う。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
貧乏暮らしでもモテモテの美男子名古屋山三なごやさんざ
| ■しかく 本名 |
名古屋山三元春(なごやさんざもとはる) 名古屋山左衛門(なごやさんざえもん) |
| ■しかく 性格 |
のんき |
| ■しかく 特技 |
女にもてる |
名古屋山三
名古屋山三
錦絵の場面
深く編笠をかぶり、春の雨に濡れた燕(つばめ)が描かれた着物を着た山三が、夜桜満開の吉原で宿敵・不破伴左衛門(ふわばんざえもん)と対面する。
登場する演目
『浮世柄比翼稲妻』(うきよづかひよくのいなづま)
通称:鈴ヶ森(すずがもり)、鞘当(さやあて)
大名佐々木家に仕える侍だったが、勘当されて浪人になる。吉原で人気の花魁(おいらん)・葛城(かつらぎ)を恋人にする一方で、顔に痣(あざ)がある下働きの女・お国(おくに)にも慕われている。借金に追われ、雨漏りのひどいあばら屋で貧乏暮らしをしても、侍気分がぬけず、優雅な立ち居ふるまいで女性たちを虜(とりこ)にする色白美男子。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
3代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
美女の誘惑には勝てなかった高僧鳴神上人なるかみしょうにん
| ■しかく 本名 |
鳴神上人 |
| ■しかく 性格 |
生真面目だがキレる |
| ■しかく 特技 |
超能力 |
鳴神上人
鳴神上人
錦絵の場面
姫にだまされたことに気づき、荒れ狂う。
登場する演目
『雷神不動北山桜』(なるかみふどうきたやまざくら)
通称:毛抜(けぬき)、鳴神(なるかみ)
修行を重ねた高僧だが、美女・雲の絶間姫(くものたえまひめ)に色気で誘惑され、酒に酔ったすきに、竜神を封じ込めたしめ縄を姫に切られてしまう。だまされたと知ると、それまでの白装束から火焔(かえん)模様の衣裳に早変わりして、顔は怒りを表す隈取(くまどり)になり、力強い「荒事(あらごと)」を繰り広げる。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
原作:初代市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
俳優
8代目市川團十郎
お家のっとりを狙う、妖術づかい仁木弾正にっきだんじょう
| ■しかく 本名 |
仁木弾正 |
| ■しかく 性格 |
陰険 |
| ■しかく 特技 |
化けて飛ぶ |
仁木弾正
仁木弾正
錦絵の場面
床下で、仁木弾正が怪しげな術を使って鼠(ねずみ)に化けている。
登場する演目
『伽羅先代萩』(めいぼくせんだいはぎ)
通称:先代萩
敵役の中でも冷徹で凄みのある「実悪(じつあく)」という分野を代表するキャラクター。実際におきた、仙台藩のお家騒動を元にした物語に登場する。鼻が高く、鋭い目つきの5代目松本幸四郎(まつもとこうしろう)が、その容ぼうを生かして、凄みのある強烈なイメージを確立させた。主君の跡継ぎを暗殺しようとたくらむ弾正が、鼠に姿を変えたり床の下から不気味に現れたりする、奇怪なシーンが見どころ。
作者
奈河亀輔(ながわかめすけ)
俳優
5代目松本幸四郎
五人組をまとめる盗賊のリーダー日本駄右衛門にっぽんだえもん
| ■しかく 本名 |
日本駄右衛門 |
| ■しかく 性格 |
大胆不敵 |
| ■しかく 特技 |
盗み、ゆすり |
日本駄右衛門
日本駄右衛門
錦絵の場面
侍に化けて強盗に入る場面。
登場する演目
『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうしはなのにしきえ)
通称:白浪五人男(しらなみごにんおとこ)、弁天小僧(べんてんこぞう)
18世紀半ばに、東海道を荒らしまわった実在の盗賊がモデル。不要な殺しはしなかったことから、盗みはしても人の道にはずれるような悪事はしないというキャラクターとして、たびたび歌舞伎に登場する。浜松屋の金を奪おうとするが、浜松屋の息子が、かつて自分が捨てた子であることに気づき、そのまま立ち去る。五人が勢揃いする稲瀬川(いなせがわ)で、傘を手に堂々と自ら素性を語る場面が見どころ。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
小さな過ちが大きな不幸につながる不運な若者早野勘平はやのかんぺい
| ■しかく 本名 |
早野勘平 |
| ■しかく 性格 |
早とちり |
| ■しかく 特技 |
鉄砲 |
早野勘平
早野勘平
錦絵の場面
雨が降る中、鉄砲を片手に猪(いのしし)を狙っている。
登場する演目
『仮名手本忠臣蔵』(かなでほんちゅうしんぐら)
通称:忠臣蔵
塩冶家(えんやけ)の武士。恋人のお軽(おかる)とのデート中に、主家の一大事が起き、城へ戻れなくなる。やむを得ず、お軽の実家で猟師をしながら、名誉を回復する機会を狙う。ある日、暗闇で誤って人を撃ち、その死体から財布を盗む。後にお軽の父の死体が発見され、勘平は自分が殺したと思い込んで切腹するが、実は勘平が撃ったのは義父を殺して財布を奪った敵(かたき)だった。少しの過ちから、人生の歯車がどんどん狂ってしまう不運のキャラクター。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
義理や人情を重んじる庶民のヒーロー幡随長兵衛ばんずいちょうべえ
| ■しかく 本名 |
幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ) |
| ■しかく 性格 |
面倒見がいい |
| ■しかく 特技 |
けんか |
幡随長兵衛
幡随長兵衛
錦絵の場面
『浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)』に登場する幡随院長兵衛。柿色で大きな縞(しま)模様の羽織に、俳優の家紋が染め抜かれた派手な衣裳で登場する。
登場する演目
『極付幡随長兵衛』(きわめつきばんずいちょうべえ)
通称:幡随長兵衛
江戸の町奴(まちやっこ:町人のやくざもの、派手な服装をした町人集団)の親分で、弱い者のために強い者へと立ち向かう侠客(きょうかく)。芝居小屋で暴れていた武士の集団をいさめるが、それを恨んだ武士側に呼び出され、わなだと知りながら家族に別れを告げ、堂々とした態度で殺されに行く。モデルとなった侠客は江戸時代に実在した人物で、百数十人の子分を持ち武士の集団に対抗したと言われる。
作者
『極付幡随長兵衛』原作:河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
謎めいた白髭の大物髭の意休ひげのいきゅう
| ■しかく 本名 |
伊賀平内左衛門(いがのへいないざえもん) |
| ■しかく 性格 |
嫉妬(しっと)深い |
| ■しかく 特技 |
金にまかせて女性をくどく |
髭の意休
髭の意休
錦絵の場面
店先で目当ての遊女をにらんでいる。
登場する演目
『助六由縁江戸桜』(すけろくゆかりのえどざくら)
通称:助六
長い白髪と白い髭でおおわれた風ぼうが特徴。金と権力を持っており、遊女・揚巻(あげまき)のもとに通うが、冷たく振られる。実は、物語の主人公・助六の探している刀を盗んだ張本人であり、天下を乱す野望を持っている悪役キャラクター。
作者
原作:2代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
純愛をつらぬくメロドラマの主役久松ひさまつ
| ■しかく 本名 |
久松 |
| ■しかく 性格 |
後先を考えない |
久松
久松
錦絵の場面
油屋で丁稚(でっち:商人の家に住みこみで働く少年)として働く久松。となりに立っているのは油屋の一人娘。
登場する演目
『新版歌祭文』(しんぱんうたざいもん)
通称:野崎村(のざきむら)
もとは武士の息子だが、乳母の兄である野崎村の百姓久作(きゅうさく)の養子として育つ。奉公をしている大坂の油屋の娘・お染(おそめ)と恋に落ちるが、金銭問題で野崎村へ帰される。久松が村で許嫁(いいなずけ)のお光(おみつ)と結婚話を進めているところに、久松の子を身ごもったお染が大坂から訪ねてくる。久松はお染と心中する決意をし、それを察したお光は身を引いて尼になる。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)
金も力もないが愛だけはある色男藤屋伊左衛門ふじやいざえもん
| ■しかく 本名 |
藤屋伊左衛門 |
| ■しかく 性格 |
落ちぶれてもめげない |
| ■しかく 特技 |
憎まれない |
藤屋伊左衛門
藤屋伊左衛門
錦絵の場面
親から勘当され、紙衣(かみこ:紙で作った粗末な着物)姿になった伊左衛門は他の客の相手をしてきた恋人の遊女・夕霧(ゆうぎり)に焼きもちをやいている。
登場する演目
『廓文章』(くるわぶんしょう)
通称:吉田屋(よしだや)
大商人の若旦那だが、恋人の遊女のもとに通いつめたため、親から勘当されている。落ちぶれた様子で恋人を訪ねるが、他の客の相手をする恋人に嫉妬(しっと)してすねる。どことなく愛嬌があって憎めない優男(やさおとこ)。大坂で活躍した初代坂田藤十郎(さかたとうじゅうろう)が創り上げた、柔らかな物腰で、色恋にふける「和事(わごと)」という分野を代表するキャラクター。
作者
原作:近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
人をおとしいれ天下を狙う大悪人藤原時平ふじわらのしへい
| ■しかく 本名 |
藤原時平 |
| ■しかく 性格 |
策略家 |
| ■しかく 特技 |
目ぢから |
藤原時平
藤原時平
錦絵の場面
天皇の象徴である、龍紋が刺繍(ししゅう)された衣裳と金の冠(かんむり)をかぶった時平が、牛車の中から現れる。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
平安時代に実在した貴族で左大臣の藤原時平(ふじわらのときひら)がモデル。対立する菅丞相(かんしょうじょう)を陥れ、九州に追いやった。吉田神社に参詣した時、梅王丸(うめおうまる)と桜丸(さくらまる)兄弟に襲われるが、するどい眼光のひとにらみで兄弟を圧倒する。悪人の中でも身分が高い貴族で、藍色の隈取(くまどり)をした「公家悪(くげあく)」の典型的なキャラクター。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
吉原をうろつく武士くずれの伊達男(だておとこ)不破伴左衛門ふわばんざえもん
| ■しかく 本名 |
不破伴左衛門重勝(ふわばんざえもんしげかつ) |
| ■しかく 性格 |
都会的 |
| ■しかく 特技 |
暗殺 |
不破伴左衛門
不破伴左衛門
錦絵の場面
伴左衛門の雲に稲妻(いなずま)模様の衣裳は、歌舞伎十八番「不破」の基となった『大福帳参会名古屋(だいふくちょうさんかいなごや)』(元禄10(1697)年)で初代市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)が俳句からアイディアを得てデザインを考案した。
登場する演目
『浮世柄比翼稲妻』(うきよづかひよくのいなづま)
通称:鈴ヶ森(すずがもり)、鞘当(さやあて)
白柄組(しらつかぐみ:派手で奇抜な服装をして徒党を組む侍集団)を率いる伊達男。大名佐々木家に仕えていたが、横領をくわだて、名古屋山三(なごやさんざ)の父を殺して名刀を奪い、さらに山三の恋人で腰元の岩橋(いわはし)に横恋慕(よこれんぼ)して追放された。桜が満開の夜の吉原で山三とすれ違い、葛城(かつらぎ)という名の花魁(おいらん)となった岩橋をめぐって張り合う。
※(注記)演目の通称で挙げられている場面に、このキャラクターが登場しないこともあります。
作者
4代目鶴屋南北(つるやなんぼく)
俳優
7代目市川團十郎
絵から抜け出た、女装の泥棒弁天小僧べんてんこぞう
| ■しかく 本名 |
弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ) |
| ■しかく 性格 |
気が弱く優しいところがある |
| ■しかく 特技 |
女性に化ける |
弁天小僧
弁天小僧
錦絵の場面
娘のふりをした少年が正体を現し、酒を飲んで人を脅す場面:この絵柄が先に錦絵へ描かれ、その後に、この少年を実際の役に造形した物語がつくられた。
登場する演目
『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうしはなのにしきえ)
通称:白浪五人男(しらなみごにんおとこ)、弁天小僧(べんてんこぞう)
泥棒を主人公にした「白浪(しらなみ)物」という分野を代表するキャラクター。娘のふりをしていたが、男と見破られて開き直り、「知らざあ言って聞かせやしょう」と自分の素性を明かすシーンが見どころ。初めは高く結った髷(まげ)に黒い振袖姿で、見破られると片袖を脱いで桜の刺青(いれずみ)を見せる。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
5代目尾上菊五郎(おのえきくごろう)
忠義と母性を兼ねそなえた強い女性政岡まさおか
| ■しかく 本名 |
政岡 |
| ■しかく 性格 |
母性が強い |
| ■しかく 特技 |
人前で感情を抑える |
政岡
政岡
錦絵の場面
敵から主君の子を守り、抱き上げる。
登場する演目
『伽羅先代萩』(めいぼくせんだいはぎ)
通称:先代萩
幼い主君・鶴千代(つるちよ)の乳母で、実の子の千松(せんまつ)と同様に愛情を注ぐ。ある日、お家乗っ取りを企む一味からさし出しされた毒入り菓子を、鶴千代の代わりに千松が食べてしまう。目の前で実の息子が殺されても平静を装い、主君を守る芯の強さを持っている。一方で、一人になった時、幼い息子の亡骸を抱いて嘆き悲しむ母としての姿も見せる。
作者
奈河亀輔(ながわかめすけ)
俳優
5代目中村歌右衛門(なかむらうたえもん)
敵の前でも清々しく振る舞う武将真柴久吉ましばひさよし
| ■しかく 本名 |
真柴筑前守久吉(ましばちくぜんのかみひさよし) |
| ■しかく 性格 |
悠然としている |
| ■しかく 特技 |
変装 |
真柴久吉
真柴久吉
錦絵の場面
山門の上にいる盗賊・石川五右衛門(いしかわごえもん)を見上げ、爽やかにポーズを決めている。
登場する演目
『楼門五三桐』(さんもんごさんのきり)
通称:楼門
16世紀に実在した武将・豊臣秀吉(とよとみひでよし)がモデル。史実では猿と呼ばれたが、歌舞伎では、爽やかな美男子として描かれることが多い。水色の着物を着た巡礼姿で登場し、石川五右衛門へ近づく。久吉と感づいた五右衛門が投げる手裏剣(しゅりけん)を、柄杓(ひしゃく:水を汲む道具)で軽々と受けとめる。
作者
初代並木五瓶(なみきごへい)
俳優
嵐雛助(あらしひなすけ)
忠義のために我が子を犠牲にする悲劇の父松王丸まつおうまる
| ■しかく 本名 |
松王丸 |
| ■しかく 性格 |
本当は情が深い |
| ■しかく 特技 |
心の底を見せない |
松王丸
松王丸
錦絵の場面
菅丞相(かんしょうじょう)の息子を殺せという命令がくだされ、松王丸は差し出された首が本物か確かめている。
登場する演目
『菅原伝授手習鑑』(すがわらでんじゅてならいかがみ)
通称:菅原
菅丞相と敵対する藤原時平(ふじわらのしへい)に仕える家来で、三つ子の兄弟の次男。周りから、根性の悪い薄情ものと思われている。表向きは丞相と敵対しているようにふるまいながら、恩のある丞相の役に立ちたいと、丞相の息子の菅秀才(かんしゅうさい)の身代わりに自分の子を犠牲にする。菅秀才の死亡鑑定を任され、悲しみをこらえて我が子の首を確かめるシーンが見せ場。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
俳優
4代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
観客に愛され多くの演目へ登場する武将源義経みなもとのよしつね
| ■しかく 本名 |
九郎判官義経(くろうほうがんよしつね) |
| ■しかく 性格 |
情深いけれどクール |
| ■しかく 特技 |
用もないのに登場する |
源義経
源義経
錦絵の場面
家来に化けた狐(きつね)が親を慕う情の深さに、親兄弟との愛に恵まれない義経は感銘を受ける。
登場する演目
『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)
通称:千本桜
宿敵・平家を滅ぼしながら、兄・源頼朝(みなもとのよりとも)から追われる身となっている義経。生き残って復讐を図る平家の武将を再び倒して天皇を預かったり、親孝行な狐に褒美を与えたお礼に助けてもらったりしながら、逃げのびていく。義経は、ほかにも『勧進帳(かんじんちょう)』『船弁慶(ふなべんけい)』など、さまざまな演目に登場する。
作者
並木千柳(なみきせんりゅう)ほか、合作
知力で主君のピンチを助ける英雄武蔵坊弁慶むさしぼうべんけい
| ■しかく 本名 |
武蔵坊弁慶 |
| ■しかく 性格 |
胆(きも)がすわっている |
| ■しかく 特技 |
山伏問答(やまぶしもんどう) |
武蔵坊弁慶
武蔵坊弁慶
錦絵の場面
山伏(やまぶし)姿で巻物を読み上げる弁慶。能の舞台をまねて松を描いた舞台装置が、背景に見える。
登場する演目
『勧進帳』(かんじんちょう)
源義経(みなもとのよしつね)とともに、山伏一行の姿になって安宅の関(あたかのせき)を通り平泉へ逃亡しようとする。一行を取り調べる役人の富樫左衛門(とがしのさえもん)の前で、何も書いていない巻物を朗読し、さらに疑いの目をごまかすため、家来に扮した義経を打ちすえる。その後、富樫と酒を酌み交わして舞う。モデルは平安末〜鎌倉初期に実在した僧。義経に仕えた豪傑としてさまざまな文芸・芸能作品に登場する。
作者
作詞:3代目並木五瓶(なみきごへい)、作曲:杵屋六翁(きねやろくおう)
俳優
7代目松本幸四郎(まつもとこうしろう)
恋人へのいちずな思いが奇跡を起こす八重垣姫やえがきひめ
| ■しかく 本名 |
八重垣姫 |
| ■しかく 性格 |
情熱的 |
| ■しかく 特技 |
神仏や精霊に好かれる |
八重垣姫
八重垣姫
錦絵の場面
姫の背後に狐火(きつねび)が飛んでいる。狐火は闇夜に怪しく光る火のことで、日本の各地に、狐の吐息が光っている、狐が松明を燃やしているといった伝承が残されている。
登場する演目
『本朝廿四孝』(ほんちょうにじゅうしこう)
通称:廿四孝、十種香(じゅしゅこう)、狐火(きつねび)
上杉謙信(うえすぎけんしん)の娘という設定で創作された架空の人物で、華やかな赤い衣裳を着る「赤姫(あかひめ)」という役柄。婚約者の絵姿に恋こがれ、そっくりの蓑作(みのさく)が現れると一目惚れして、積極的にアプローチする。のちに腰元にそそのかされて兜(かぶと)を盗むと、不思議にも霊力を持つ狐に助けられ凍った湖を渡り、恋人に危険を知らせる。
作者
近松半二(ちかまつはんじ)ほか、合作
好きな男のために放火の罪を犯す少女八百屋お七やおやおしち
| ■しかく 本名 |
お七 |
| ■しかく 性格 |
恋に目がくらみ他のことが見えなくなる |
| ■しかく 特技 |
人形のような動き |
八百屋お七
八百屋お七
錦絵の場面
恋人の危機を救うため、振袖(ふりそで)姿で火の見櫓(やぐら)へ登るお七。
登場する演目
『松竹梅雪曙』(しょうちくばいゆきのあけぼの)
通称:櫓のお七
寺に仕える吉三郎(きちさぶろう)に恋した八百屋の娘・お七は、親の借金の返済の代わりに、釜屋武兵衛(かまやぶへえ)と結婚させられそうになる。一方、吉三郎も、紛失した大切な刀を見つけられないために、切腹を迫られる。武兵衛がその刀を持っていると聞いたお七は、吉三郎へ伝えるために、重罪と知りながら、火の見櫓へ登って火事を知らせる太鼓を打つ。実際に放火の罪を犯した少女がモデル。お七が櫓を登るときの人形のような演技で知られる。
作者
河竹黙阿弥(かわたけもくあみ)
俳優
5代目岩井半四郎(いわいはんしろう)
悪だくみをし、子どもも殺す悪い女八汐やしお
| ■しかく 本名 |
八汐 |
| ■しかく 性格 |
冷血で嫉妬(しっと)深く横暴 |
| ■しかく 特技 |
人をそそのかし悪事を働かせる |
八汐
八汐
錦絵の場面
短刀を振りかざして、政岡(まさおか)と争う八汐。兄・仁木弾正(にっきだんじょう)は妖術を使って鼠(ねずみ)に化ける。
登場する演目
『伽羅先代萩』(めいぼくせんだいはぎ)
通称:先代萩
兄の仁木弾正とともに、藩の乗っ取りを図る八汐。偽の暗殺者を使って、幼い主君の乳母・政岡を陥れようとするが、失敗。今度は毒入りの菓子を用意すると、政岡の子どもが主君の代わりに食べて苦しみ出したので、企てが発覚しないよう子どもを刺し殺すが、のちに政岡に敵(かたき)を討たれる。非道で残虐な役のため、男性の役を主に演じる俳優が演じることが多い。
作者
奈河亀輔(ながわかめすけ)
可憐な少女が勇壮な獅子に弥生やよい[獅子の精(ししのせい)]
公家・武家
弥生[獅子の精(ししのせい)]
弥生[獅子の精(ししのせい)]
若い女
| ■しかく 本名 |
弥生 |
| ■しかく 性格 |
恥ずかしがりや |
| ■しかく 特技 |
毛振り |
弥生[獅子の精(ししのせい)]
弥生[獅子の精(ししのせい)]
錦絵の場面
獅子頭(ししがしら)を手に踊る少女。
登場する演目
『春興鏡獅子』(しゅんきょうかがみじし)
通称:鏡獅子
江戸城で働く少女。正月の行事の日に、将軍の希望で踊りの場に引き出され、恥ずかしがりながらも踊り始める。獅子頭を手にするとその頭が勝手に動き出し、やがて弥生に獅子の精が乗り移ってしまう。前半の優美な弥生の舞と、後半の勇壮な獅子の舞の対比が鮮やか。とくに獅子の精が長い白髪を大きく振り回す「毛振り(けぶり)」が見どころ。
作者
作詞:福地桜痴(ふくちおうち)、作曲:杵屋正次郎(きねやしょうじろう)
俳優
9代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)
金も力もない男に惚れる最高位の遊女夕霧ゆうぎり
| ■しかく 本名 |
扇屋夕霧(おうぎやゆうぎり) |
| ■しかく 性格 |
気高く情にもろい |
| ■しかく 特技 |
懐紙(かいし)を口にくわえる |
夕霧
夕霧
錦絵の場面
長い巻紙の恋文を渡す夕霧と、引き裂こうとする藤屋伊左衛門(ふじやいざえもん)。
登場する演目
『廓文章』(くるわぶんしょう)
通称:吉田屋(よしだや)
美しさと教養を備えた、傾城(けいせい)と呼ばれる最高位の遊女である夕霧。裕福な商家の息子だが、金を使いすぎ勘当された、恋仲の伊左衛門を心配して、病気になっている。そこへ、紙衣(かみこ:紙で作った粗末な着物)姿で伊左衛門が現れ、裕福な頃と同じように甘えたりすねたりする。夕霧は手を焼いて口げんかをしながらも、結局は仲直りをする。実在した太夫をモデルにした演目。
作者
原作:近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)
気品と色気あふれる女性画家雪姫ゆきひめ
| ■しかく 本名 |
雪姫 |
| ■しかく 性格 |
しとやか |
| ■しかく 特技 |
絵を描くこと |
雪姫
雪姫
錦絵の場面
敵(かたき)の男に捕らわれ、くどかれたあげく縛り付けられてしまった雪姫。夫のいる姫は、絶体絶命の危機におちいっている。
登場する演目
『祗園祭礼信仰記』(ぎおんさいれいしんこうき)
通称:金閣寺(きんかくじ)
画家・雪舟(せっしゅう)の血をひく姫。謀反(むほん)をたくらむ松永大膳(まつながだいぜん)に捕らえられ、くどかれる。大膳が父の敵であることを知り、斬(き)りかかるが、大きな桜の木に荒縄で縛り付けられてしまう。しかし、つま先で桜の花びらを集めて鼠(ねずみ)の絵を描くと、不思議なことにその鼠が動き出し、縄を噛み切ってくれる。姫役のなかでも演じるのが難しい「三姫」の一つ。
作者
中邑阿契(なかむらあけい)ほか、合作
中国と日本を股にかけ暴れまくるヒーロー和藤内わとうない
| ■しかく 本名 |
和藤内 |
| ■しかく 性格 |
故国のために戦う勇猛で一本気な男 |
| ■しかく 特技 |
虎(とら)を手なずけて操る |
和藤内
和藤内
錦絵の場面
城から流れる川の水が赤く染まり、狙いが失敗したことを知って怒る和藤内。
登場する演目
『国性爺合戦』(こくせんやかっせん)
通称:国性爺(こくせんや)
唐土(もろこし:中国)の明(みん)の人である父と、日本人の母のあいだに生まれた和藤内は、明が敵国に滅ぼされたのを知って、父母とともに中国に渡る。異母姉である錦祥女(きんしょうじょ)の夫で、今は敵国に従っている将軍・甘輝(かんき)は、錦祥女と母の命を捨てた覚悟に心を動かされ、和藤内に味方し明を再興させる。実在した中国の英雄・鄭成功(ていせいこう)がモデル。勇んで駆けつける、「飛び六方(とびろっぽう)」という力強い動きを見せる。
作者
近松門左衛門(ちかまつもんざえもん)