安心・安全なメタバースの実現に関する研究会
報告書 2024(案)
2024 年●くろまる月●くろまる日
安心・安全なメタバースの実現に関する研究会1目次
はじめに............................................................................. 3
第1章 メタバースをめぐる最近の動向................................................. 5
(1)市場動向..................................................................... 5
(2)国内の動向................................................................... 7
1 政府の動向....................................................................... 7
2 業界団体等の動向................................................................. 7
3 ユーザの動向.................................................................... 15
(3)海外の動向.................................................................. 16
1 米国............................................................................ 16
2 欧州連合(EU).................................................................. 17
3 英国............................................................................ 20
4 中国............................................................................ 22
5 韓国............................................................................ 23
(4)国際的な議論の状況.......................................................... 26
1 MSF............................................................................. 26
2 ITU-T........................................................................... 27
3 OECD............................................................................ 27
4 IGF............................................................................. 28
5 G7.............................................................................. 29
6 WEF............................................................................. 29
(5)インターネット上の情報流通の特性による影響の可能性 .......................... 30
コラム:メタバースと情報流通の健全性に関する国際的議論 ............................ 32
第2章 メタバースの原則(第 1.0 版)の検討.......................................... 34
(1)検討の経緯・背景............................................................ 34
(2)原則案に対する意見等........................................................ 34
(全体に対する意見と修正点) ........................................................ 36
(個別の項目に対する意見と修正点) .................................................. 36
(3)メタバースの原則(第 1.0 版)................................................ 38
1)前文............................................................................ 38
2)原則(第 1.0 版)及び解説 ........................................................ 40
第3章 メタバースに関する技術動向等................................................ 47
(1)VR・AR 等デバイスの動向等 .................................................... 47
1 没入型・ビデオシースルー型...................................................... 49
2 光学シースルー型................................................................ 51
(2)VR・AR 等を用いたメタバースの利活用と課題 .................................... 52
(3)デバイスの進化を踏まえた UI・UX の変化とその影響 .............................. 54
第4章 メタバースに関する様々な利活用事例.......................................... 57
(1)メタバースと生成 AI の連携................................................... 57
1 生成 AI を活用した対話アバター ................................................... 57
2 NPC の自動生成及び活用 .......................................................... 58
3 メタバースの産業応用(インダストリアルメタバース) .............................. 59
(2)メタバースを利活用するに当たっての課題解決 .................................. 60
1 安心・安全なメタバース空間の実現に向けたセキュリティガイドラインの公表 .......... 6022 メタバース・リテラシーの向上のためのガイドブックの公表 .......................... 61
3 青少年を対象としたメタバースの適正利用の啓発 .................................... 62
コラム:生成 AI の台頭............................................................. 62
1 世界の生成 AI 市場規模........................................................... 63
2 ChatGPT 等の生成 AI サービスの活用 ............................................... 63
第5章 今後の検討事項.............................................................. 66
(1)メタバース等に関する国際的な議論の状況フォロー .............................. 66
1 国際的な共通認識の醸成.......................................................... 66
2 国際動向の把握.................................................................. 66
(2)リアルとバーチャルの融合の進展、没入型技術全般を用いた多様なメタバースの利活用促
進に係る課題等の検討.............................................................. 67
1 リアルとバーチャルの融合の進展が社会に与える影響等についての検討 ................ 67
2 没入型技術全般を用いた多様なメタバースの利活用等に関する動向の把握 .............. 67
3 没入型技術に特有の影響・課題、望ましい利用の在り方についての検討 ................ 68
4 メタバースに係るコンテンツの創作・流通等の市場動向の把握 ........................ 68
5 その他.......................................................................... 69
おわりに............................................................................ 70
(参考1)開催要綱
(参考2)開催実績
(参考3)メタバースの原則(第 1.0 版)の補足・解説
(参考4)原則案に関する議論(第1回〜第4回)概要
(参考5)メタバースに関する用語整理
(参考6)メタバース・没入型技術の説明比較3はじめに
その時、大地は水中に没したままであった。梵天の息子マヌは、大地を水の上に持ち上げてくれ
るようにと梵天に頼んだ。梵天はいろいろと熟考したがよい考えが浮かばず、自分を生み出したヴ
ィシュヌ神に祈念した。すると突然、彼の鼻孔から親指ほどの大きさの猪の子供が出て来た。
その猪は見る見るうちに山のように巨大な姿となった。そして、梵天をはじめとする神々が驚い
ていると、その猪の姿をとったヤジュニャ・プルシャ(ヴィシュヌ)は、大声で咆哮すると、水中
に飛びこんで、その牙で大地を救い上げた。
(上村勝彦. インド神話:マハーバーラタの神々. 筑摩書房, 2003, p.265)
シヴァ神、ブラフマー神と共にヒンドゥー教の三大主神として崇敬されているヴィシュヌ神は、
太陽神として世界を維持してきたとされている。
このヴィシュヌ神の最も重要な特徴は、
世界が危機を迎えた時に様々な化身となって人々の前に
現れるという点にある。
この化身のことをサンスクリット語で
「avatara
(アヴァターラ)」と言い、
これが現在メタバースにおいてユーザのアイデンティティを表す
「アバター」
の語源となっている。
現代の我々はメタバース上で、ヴィシュヌ神同様、アバターとして自らの姿を様々な形に変える
ことが可能である。
メタバースは既にコミュニケーションのツールとして一定程度浸透しており、
新型コロナウイル
ス感染症拡大時期以来、
1日の大半をメタバース上でアバターとして過ごすヘビーユーザも存在し
てきた。そして、ここ数年軽量で高性能なヘッドマウントディスプレイが次々と登場したことで、
メタバース上でアバターとなり自由に活動することは、これまで以上に容易になりつつある。
また、観光や教育といった分野においては、メタバースの臨場感や没入感といった特性を踏まえ
たユースケースが着実に積み上がっている。
さらに、産業面においてもメタバースを利活用した事例が登場しており、様々な企業や政府によ
る取組が話題となっている。
このような状況を踏まえ、メタバースにおける民主的価値を実現し、ユーザが安心・安全にメタ
バースを利用していくために、メタバースの原則について国際的に検討し連携を深めていくこと、
そのために、我が国が理論の面から貢献を行うことは非常に重要である。
2022 年8月から 2023 年7月まで開催された
「Web3 時代に向けたメタバース等の利活用に関する
研究会」
で示された課題解決の方向性を踏まえ、
メタバースに関する国際的な理念の確立を見据え、
日本国内での議論を推進することを主目的に、
「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」
では、2023 年 10 月から 2024 年●くろまる月にかけ、メタバースに関する有識者の参画を得て全●くろまる回に渡
る議論を行った。
本報告書でまとめられたメタバースの原則(第 1.0 版)が国際的な理念の検討の礎となるととも4に、我が国のメタバースユーザの利便性が一層向上し、メタバースやその実現・利用を可能とする
VR、AR・MR(これらは包括して「XR(クロスリアリティ)
」と呼称されることが多い)のような没入
型技術(Immersive Technologies)の利活用が今後一層進展していくことを期待してやまない。5第1章 メタバースをめぐる最近の動向
総務省では、安全・安心なサイバー空間の確保に向けた対応を進めることが必要であるという認
識の下、将来的にメタバースがより一般に普及することを見据え、サイバー空間に関する新たな課
題について把握・整理すべく、2022 年8月から 2023 年7月まで「Web3 時代に向けたメタバース等
の利活用に関する研究会」
(以下「前研究会」という。
)を開催した1。前研究会では、メタバース等の仮想空間の利活用に関して、ユーザ利便の向上、その適切かつ円
滑な提供及びイノベーションの創出に向け、
ユーザの理解やデジタルインフラ環境などの観点から、
様々なユースケースを念頭に置きつつ情報通信行政に係る課題の整理に取り組み、2023 年7月に
報告書を取りまとめた2。報告書では、
メタバース等の発展に向けた課題としてアバターに係る課題を始めとした6つの論
点と課題が、
またこれらの課題解決の方向性としてメタバースの理念に関する国際的な共通認識の
形成等が示された。この報告書の内容を受け、ユーザにとって安心・安全なメタバースの実現に向
けて、
メタバースの民主的価値に基づく原則等の検討やメタバースに係る技術動向等のフォローア
ップを行うとともに、
国際的なメタバースの議論にも貢献することを目的として 2023 年 10 月から
新たに開催されたのが「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」
(以下「本研究会」とい
う。
)である3。本章では、前研究会報告書の公表以降を中心に、市場、国内、海外、国際的な議論、インターネ
ット上の情報流通の特性による影響の可能性の5つの観点からメタバースをめぐる最近の動向を
まとめる。
(1)市場動向
2023 年5月に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した後も、引き続きメタバースは
その市場拡大やユーザ数の増加が予測されており、全世界のメタバース市場は、2022 年の 461 億
ドルから、2030 年には 5,078 億ドルまで拡大すると予測されている。内訳はメタバース内での e
コマースが最も大きく、次いでゲーム、ヘルス&フィットネスとなっている4
。主要なプラットフ
ォーマーとして米国の VRChat、韓国の ZEPETO 等が勢力を持っている状況にも大きな変わりはな
く、一般消費者向けの市場が伸びているように見える。一方で、メタ・プラットフォームズ(Meta
Platforms, Inc.)が 2022 年から 2023 年にかけて大規模な人員削減や採用凍結を行う5
など、一1総務省. "Web3 時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会". 総務省 Web サイト. 2023-07
更新, https://www.soumu.go.jp/main sosiki/kenkyu/metaverse/index.html, (参照 2024年06月26日).2総務省. "「Web3 時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」 報告書及び意見募集の結
果の公表". 総務省 Web サイト. 2023年07月18日, https://www.soumu.go.jp/menu news/s-
news/01iicp01 02000120.html, (参照 2024年06月26日).3総務省. "安心・安全なメタバースの実現に関する研究会". 総務省 Web サイト. 2024-05 更新,
https://www.soumu.go.jp/main sosiki/kenkyu/metaverse2/index.html, (参照 2024年06月26日).4総務省. "情報通信白書令和 6 年版 データ集". 総務省 Web サイト. 2023-07 更新,
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/datashu.html, (参照 2024年08月13日).
引用元:Statista. "Metaverse - Worldwide". Statista. 2024,
https://www.statista.com/outlook/amo/metaverse/worldwide. (参照 2024年08月13日).5Hayden, Scott. "Meta's Second Mass Layoff Round to Affect 10,000 More Employees." Road to VR.
March 14, 2023. https://www.roadtovr.com/meta-facebook-layoffs-11000-employees/. (参照 2024年06月26日).6般消費者向けメタバースの普及停滞が起きていると見る向きもあり、イマーシブ(没入型)ヘッ
ドセットやゲームエンジンによる大規模かつ多人数での 3D 空間での描画・共有技術といったメ
タバースに係る既存の技術を産業応用するインダストリアルメタバースが注目を集めている6。ま
た、株式会社矢野経済研究所によれば、日本のメタバース市場は、2022 年度の 1,377 億円(前年
度の 173.6%)から 2027 年度には2兆 59 億円まで及ぶ予測である。
図1 世界のメタバース市場規模の推移と予測
(出典:総務省「令和6年版情報通信白書」4)図2 メタバースの国内市場規模推移・予測
(出典:株式会社矢野経済研究所「メタバースの国内市場動向調査(2023 年)」(2023 年8月 30 日発表)7)6
株式会社野村総合研究所 IT 基盤技術戦略室/NRI セキュアテクノロジーズ. IT ロードマップ
2024 版. 東洋経済新報社, 2024, p.101.7株式会社矢野経済研究所. "メタバースの国内市場動向調査を実施(2023 年)". 矢野経済研究所
Web サイト. 2023年08月30日, https://www.yano.co.jp/press-release/show/press id/3333, (参照 2024年06月26日).7(2)国内の動向
1 政府の動向
前研究会の報告書公表以降の政府内の主な動向としては、
2024 年2月の内閣府知的財産戦
略推進事務局による「
『メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論
点の整理』
(2023 年5月)の主なポイント」8,9
の公表が挙げられる。
同事務局は、メタバースの発展に伴う仮想空間上のコンテンツ創作・利用等をめぐる新た
な動向に鑑み、それらがもたらす新たな法的課題に対応するため、2022 年 11 月より「メタ
バース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議」
を設置し、
3つの分科会(
「現実空間と仮想空間を交錯する知財利用、仮想オブジェクトのデザイン等
に関する権利の取扱い
(第一分科会)」、
「アバターの肖像等に関する取扱い
(第二分科会)」、
「仮想オブジェクトやアバターに対する行為、アバター間の行為等をめぐるルールの形成、
規制措置等の取扱い(第三分科会)」)を設けた。同会議は、それぞれの分科会における議論
等を踏まえ、具体的な課題ごとに今後求められる対応の方向性を整理した「メタバース上の
コンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」10
を 2023 年5月に公表した。
本文書の主なポイントを、
メタバースプラットフォーマー及びプラットフォーム利用事業者
向けとメタバースユーザー(ユーザ生成コンテンツ11
を含む)及びメタバース上のコンテン
ツ権利者向けのそれぞれにまとめた文書が、前述の「
『メタバース上のコンテンツ等をめぐ
る新たな法的課題等に関する論点の整理』
(2023 年5月)の主なポイント」である。
2 業界団体等の動向
本研究会においては、
以下の6団体からそれぞれの取組について説明があった。
ここでは、
各団体が公表している文書を中心に紹介する12。ア 一般社団法人 Metaverse Japan
一般社団法人 Metaverse Japan は「日本の可能性をメタバースを通じて世界に解き放つ
ハブとなる」ことをミッションに 2022 年3月に設立された。メタバースに関連する企業、
自治体、大学等の累計 220 団体以上(2024 年3月時点)を会員とし、複数のワーキンググ
ループに分かれて産業、自治体、教育といった様々な分野でのメタバースの活用や普及拡8内閣府知的財産事務局、内閣府知的財産戦略推進事務局. "『メタバース上のコンテンツ等をめぐ
る新たな法的課題等に関する論点の整理』
(2023 年5月)の主なポイント(メタバースプラット
フォーマー及びプラットフォーム利用事業者向け)". 首相官邸 Web サイト. 2024-02,
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/siryou1.pdf, (参照 2024年06月26日).9内閣府知的財産事務局、内閣府知的財産戦略推進事務局. "『メタバース上のコンテンツ等をめぐ
る新たな法的課題等に関する論点の整理』
(2023 年5月)の主なポイント(メタバースユーザー
及びメタバース上のコンテンツ権利者向け)". 首相官邸 Web サイト. 2024-02,
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/siryou2.pdf, (参照 2024年06月26日).10メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題への対応に関する官民連携会議. "メタバー
ス上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理". 首相官邸 Web サイト.
2023-05, https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/pdf/ronten seiri.pdf, (参照 2024年06月26日).11User Generated Content(以下「UGC」という。
)のこと。12団体の掲載は本研究会内での発表順としている。8大について知識の集積を行っている。2023 年4月には、
「世界初のメタバース・シンクタン
ク」として「Metaverse Japan Lab」を立ち上げ、ワーキンググループとの連携を通じた社
会実装の推進やメタバース・スタンダード・フォーラム
(MSF:Metaverse Standards Forum)
や世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)への参画をはじめとする国際標準化・
ルール形成に向けた活動を実施している。また、2023 年2月には、シンクタンク活動の一
環として1産業基盤強化、
2人材育成、
3メタバース特区創出、
4ルール形成と国際標準、
5ダイバーシティ&インクルージョンの5つの柱からなる政策提言ペーパー「知が循環し、
世界を主導するメタバース産業立国13
」を公表している14。図3 「知が循環し、世界を主導するメタバース産業立国」における5つの柱
(出典:第2回研究会 Metaverse Japan 御発表資料 14)イ 一般社団法人メタバース推進協議会
一般社団法人メタバース推進協議会は「
"人間本来の暮らし方"の探求を、生活者主体の
視点から「現実社会連動メタバース」を創り育てること」を目指して 2022 年3月に設立さ
れた。メタバースに関連する企業や業界団体、大学等のほか、オブザーバーとして中央省
庁、自治体が参加し、有識者勉強会や分科会ごとのルール形成活動等を行っている。
セキュリティ分科会は、一般社団法人セキュア IoT プラットフォーム協議会や一般社団
法人日本スマートフォンセキュリティ協会の技術部会メタバースセキュリティワーキング
グループらと協力し、メタバースに関わる全ての関係者に向けた「メタバースセキュリテ13一般社団法人 Metaverse Japan. "知が循環し、世界を主導するメタバース産業立国". Google ドキ
ュメント. 2023年02月02日,
https://docs.google.com/document/d/1yfUcK2z4W0FYXWTkLcDeN9JOIQUQ1YSoirzSVLrF68A, (参照
2024年07月05日).14一般社団法人 Metaverse Japan. "「Metaverse Japan のご紹介および、安心・安全なメタバース実
現に必要な取り組み (資料2-1)". 総務省 Web サイト. 2023年12月13日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000916509.pdf, (参照 2024年06月26日).9ィガイドライン(第2版)15
」を 2023 年 12 月に公表した。本ガイドラインは、将来的なメタ
バースのセキュリティ認証制度の確立も視野に入れながら、ユーザやコンテンツ、プラッ
トフォームといったメタバースをめぐる機能別レイヤごとに「コンテンツの設計・制作」
「ユーザーへの販売」といったバリューチェーンを洗い出し、ユースケースにおける課題
と対策の方向性を整理したものである。2024 年度には同協議会において本ガイドラインの
有効性評価を行うための実証実験を実施し、本ガイドラインの各論という形式で、より個
別具体的な文書を公表することが予定されているとともに16、上述のセキュリティ認証制度
の在り方についての議論も進められている。
図4 「メタバースセキュリティガイドライン(第2版)」の
内容紹介及び作成アプローチ
(出典:第2回研究会 メタバース推進協議会御発表資料 16)ウ バーチャルシティコンソーシアム
バーチャルシティコンソーシアムは、2020 年5月にオープンした渋谷区公認の配信プラ
ットフォームである「バーチャル渋谷」の開発・運営を通じて得られた知見を元に、VR を
用いたメタバースや、AR・MR を用いた実空間での体験提供も含む「都市連動型メタバース」
についてのガイドラインの策定、運用や発信等を行うことを目的としたコンソーシアムで
あり、2021 年 11 月に任意団体として発足した。KDDI 株式会社、東急株式会社、みずほリ
サーチ&テクノロジーズ株式会社の3団体が参画している(2024 年6月現在)。同コンソーシアムは、メタバースをめぐるマルチステークホルダーへのスピード感を持15一般社団法人メタバース推進協議会. "メタバースセキュリティガイドライン(第2版) 〜安心安
全なメタバース空間の実現に向けて〜". メタバース推進協議会 Web サイト. 2023年12月14日,
https://jmpc.jp/wp-content/uploads/2023/12/3e4a2185cd0ac97ffef6fad9b20c2cfc.pdf, (参照 2024年06月26日).16一般社団法人メタバース推進協議会 事務局. "セキュリティガイドライン 〜安心安全なメタバー
ス空間の実現に向けて〜(資料2-2)". 総務省 Web サイト. 2023年12月13日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000916511.pdf, (参照 2024年06月26日).10った情報提供や共通理解の醸成をねらいに、2022 年4月にメタバースの理念と指針をまと
めた「バーチャルシティ宣言」17
及び同宣言に基づきメタバースを含む「都市連動型メタバ
ース」18
の関連事業者がサービス開発・運営において考慮すべき論点の整理と指針を示した
「バーチャルシティガイドライン ver.1」19
を策定した。2022 年 11 月には NFT 活用につい
て更新した「バーチャルシティガイドライン ver.1.5」20
を、2023 年7月には政府動向等も
踏まえコンテンツの法的保護などの項目を反映するとともに、メタバース内での金融取引
手段や規制法についての項目をアップデートした「バーチャルシティガイドライン
ver.2.0」21
を策定した。本文書では、公共空間での AR・MR コンテンツ活用時の注意点やコ
ンテンツ配信に伴い考慮すべき事項についても整理が行われている22。図5 「バーチャルシティガイドライン ver.2.0」の概要
(出典:第2回研究会 バーチャルシティコンソーシアム御発表資料 22)17
バーチャルシティコンソーシアム, "バーチャルシティ宣言". 渋谷 5G エンターテイメントプロジ
ェクト Web サイト. 2022年04月22日, https://shibuya5g.org/research/docs/declaration.pdf, (参照 2024年06月26日).18「バーチャルシティガイドライン ver.2.0」によれば、インターネット上の都市ともいえるメタ
バースと実在都市を中心とする物理空間とを機能的・経済的に連動させることを目指した概念の
こと。19バーチャルシティコンソーシアム, "バーチャルシティガイドライン ver.1". 渋谷 5G エンターテ
イメントプロジェクト Web サイト. 2022年04月22日, https://shibuya5g.org/research/docs/archive/guideline-
v1.pdf, (参照 2024年06月26日).20バーチャルシティコンソーシアム, "バーチャルシティガイドライン ver.1.5". 渋谷 5G エンター
テイメントプロジェクト Web サイト. 2022年11月08日,
https://shibuya5g.org/research/docs/archive/guideline-v1 5.pdf, (参照 2024年06月26日).21バーチャルシティコンソーシアム, "バーチャルシティガイドライン ver.2.0". 渋谷 5G エンター
テイメントプロジェクト Web サイト. 2023年07月20日, https://shibuya5g.org/research/docs/guideline.pdf,
(参照 2024年06月26日).22バーチャルシティコンソーシアム/慶應義塾大学大学院/KDDI 株式会社 川本大功, "メタバース領
域の民間主導ソフトローの事例としてのバーチャルシティガイドライン・バーチャルシティ宣言
(資料2-3)". 総務省 Web サイト. 2023年12月13日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000916512.pdf, (参照 2024年06月26日).11エ 一般社団法人日本デジタル空間経済連盟
一般社団法人日本デジタル空間経済連盟は「デジタル空間における経済活動を活性化し、
日本経済の健全な発展と豊かな国民生活の実現に寄与すること」を目指して、業界横断の
総合経済団体として 2022 年4月に設立された。企業や弁護士事務所、自治体等の業界を横
断する 118 団体(2024 年5月時点)が参加し、政策提言やデジタル空間に関わる情報発信
等を行っている23,24。同連盟は、デジタル空間上でのビジネス発展に向け、企業が抱える課題について専門家
との議論をまとめた「デジタル空間の発展に向けた報告書」を 2022 年 11 月に公表し、こ
れに基づき、会員企業、学識者、弁護士、クリエイター等によりメタバースがサステナブル
に発展するために必要となる取組について議論を行うメタバース・リテラシー検討委員会
を 2023 年7月に設置した。同委員会は、ユーザや関連事業者のメタバースに対する一定の
知識や倫理観といった「メタバース・リテラシー」の向上を目的とし、2024 年1月に「メ
タバース・リテラシー・ガイドブック」25,26
を公表した。同ガイドブックは、10 のテーマご
とにイラストを用いた具体的な事例の説明や、メタバース独自の文化や注意事項等のユー
ザ向けアドバイス、適切なサービス設計のための指針を示す事業者向けアドバイスがまと
まっている。同ガイドブックには総称ロゴとテーマロゴが付されており、賛同者はこれら
のロゴを自身の SNS 等で利用できるようになっている27。23
一般社団法人日本デジタル空間経済連盟. "日本デジタル空間経済連盟". 日本デジタル空間経済
連盟 Web サイト. 2024-05 更新, https://jdsef.or.jp/, (参照 2024年06月26日).24一般社団法人日本デジタル空間経済連盟 事務局 リサーチ部. "安心・安全なメタバースの実現に
関する研究会 発表資料(資料3-1-1)". 総務省 Web サイト. 2024年01月26日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000924080.pdf, (参照 2024年06月26日).25一般社団法人日本デジタル空間経済連盟 メタバース・リテラシー検討委員会. "メタバース・リ
テラシー・ガイドブック(ユーザー向け)
(資料3-1-2)". 総務省 Web サイト. 2024年01月26日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000924081.pdf, (参照 2024年06月26日).26一般社団法人日本デジタル空間経済連盟 メタバース・リテラシー検討委員会. "メタバース・リ
テラシー・ガイドブック(事業者向け)
(資料3-1-3)". 総務省 Web サイト. 2024年01月26日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000924082.pdf, (参照 2024年06月26日).27利用にはロゴガイドラインへの準拠が必要。https://jdsef.or.jp/metaverse literacy guidebook, (参照
2024年06月26日).12図6 「メタバース・リテラシー・ガイドブック」の構造
(出典:第3回研究会 日本デジタル空間経済連盟御発表資料 24)図7 「メタバース・リテラシー・ガイドブック」のロゴ
(出典:第3回研究会 日本デジタル空間経済連盟御発表資料 24)オ NPO 法人バーチャルライツ
NPO 法人バーチャルライツは VR 文化の振興や表現の自由の擁護等を目的として 2021 年
3月に設立された団体であり、公益活動、政策提言、情報発信を活動の軸としている。13公益活動の一環として、VR ×ばつメタバースに係る調査」といったアン
ケート調査等も行っている。
図8 「VR 写真大賞」の様子
(出典:第3回研究会 バーチャルライツ御発表資料29)カ 京都府
京都府は、映画、アニメ、ゲーム等のコンテンツ関係企業や DX・ICT 関連企業が集積して
いるという地理的特徴を生かし、
ワークショップの開催等を通じて
「クロスメディア産業」
(異なる表現媒体を掛け合わせたコンテンツ産業)の振興を推進している。
同府では、映画産業の中心地として歴史を有する太秦地域において、このクロスメディ
ア産業と教育、医療、観光等の異なる業界の融合により新たな産業の創出を目指すオープ
ンイノベーション拠点
(太秦メディアパーク)の形成を進めている。
現実空間における施設
等は映画・映像関連企業の再整備計画と連動して整備予定であるところ、仮想空間におい
て様々な業界が交流・融合し新たな産業を生み出す場としてメタバースに着目し、2022 年
度に同府と一般社団法人 CiP 協議会を中心とした産学官による
「京都府メタバース検討会」
を立ち上げ、メタバースを活用した新産業創出に向けた実証等の支援に取り組んでいる30,31。同検討会は、メタバースのメリットだけでなく課題やリスクにも着目して議論を行い、安
全性・信頼性の高いメタバース空間づくりを促進するべく、
「メタバースの制作や活用に関
わる方々が、セキュアで信頼できるメタバース空間づくりを自主宣言する指針」として 10
か条からなる「メタバース・トラスト・ステートメント京都宣言」を 2023 年3月に公表し
た32
。同宣言は、2023 年4月の G7 群馬高崎デジタル・技術大臣会合のカンファレンス「デ28NPO 法人バーチャルライツ. "VR 写真大賞 Virtual Reality Photo Award2024". NPO 法人バーチャル
ライツ Web サイト. 2024年01月26日, https://www.npovr.org/VRPA2024, (参照 2024年08月21日).29NPO 法人バーチャルライツ 國武悠人. "民主的価値に基づく「安心・安全なメタバースの実現」
に向けた議論と展望 -文化的特徴を中心に-(資料3-2)". 総務省 Web サイト. 2024年01月26日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000924084.pdf, (参照 2024年06月26日).30京都府. "メディアパーク【Media-park/拡別メタバース】". 京都府 Web サイト. 2023年03月11日 更新,
https://www.pref.kyoto.jp/sangyo-sien/metaverce 6park.html, (参照 2024年06月26日).31京都府商工労働観光部ものづくり振興課. "「京都府のメタバース関連事業について」
(資料3-
3)". 総務省 Web サイト. 2024年01月26日, https://www.soumu.go.jp/main content/000924085.pdf, (参照
2024年06月26日).32京都府. "メタバース・トラスト・ステートメント京都宣言 Metaverse Trust Statement Kyoto
Declaration". 京都府 Web サイト. 2023年03月15日, https://www.pref.kyoto.jp/sangyo-
sien/metaversetrust.html, (参照 2024年06月26日).14ジタル政策におけるグローバル連携の実現」や、2023 年 10 月のインターネット・ガバナン
ス・フォーラム(IGF)京都 2023 のメタバースに関するセッションにおいて国内外に発信
された33
。同宣言の賛同者はロゴマークの使用が可能であり、135 団体が賛同を表明してい
る(2024 年1月時点)。図9 「メタバース・トラスト・ステートメント京都宣言」
(出典:第3回研究会 京都府御発表資料 31)図 10 「メタバース・トラスト・ステートメント京都宣言」のロゴ
(出典:第3回研究会 京都府御発表資料 31)33
総務省情報流通行政局参事官. "インターネット・ガバナンス・フォーラム京都 2023 メタバース
セッションについて(Pursuing a metaverse based on democratic values)
(資料1-3)". 総務省
Web サイト. 2023年10月24日, https://www.soumu.go.jp/main content/000908179.pdf, (参照 2024年06月26日).153 ユーザの動向
総務省では、スマートフォンの普及、ソーシャルメディアの利用の拡大といったメディア
の利用環境の変化を踏まえ、国民の情報通信メディアの利用時間と利用時間帯、利用目的及
び信頼度等について調査するべく、13 歳から 69 歳までの男女合計 1,500 人を対象に、
「情
報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」を 2012 年から毎年行っている34。2024 年6月に公表された
「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調
査報告書」においては、前研究会以来メタバースに関する議論が総務省において継続的に行
われていることを背景に、メタバース等の仮想空間に関する認知や興味、サービスの利用や
利用機器に関する設問を設け、調査が実施されている。ここでは、ユーザの動向として、同
報告書から「コラム3(3) 仮想空間を用いたサービスの利用と利用機器」を紹介する。
仮想空間(メタバース等)に関する利用について、
「日常的に利用している」、「たまに利用
することがある」、「過去に利用・体験したことがある」
(左記3つの回答を合わせ「利用経
験がある」とする。以下同様)、「1度も利用したことがない」、「わからない」の5選択肢で
回答を求めた。
併せて、
「利用経験がある」
との回答があった場合、
サービスを利用する際に用いている機
器について回答を求めた。
(複数回答)
年代別では 10 代及び 20 代の「利用経験がある」との回答が、他の年代と比べ高い傾向と
なった。特に 10 代では「日常的に利用している」、「たまに利用することがある」が 10%を
超えている。
また、利用機器は、全年代ではゲーム機での利用が最も多く、スマートフォン、パソコン
が続く結果となった。
「VR ゴーグル、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)
」での利用は、概
ね年代が上がるにつれ多くなる結果となった。
表1 【令和5年度】仮想空間を用いたサービスの利用(年代別)
(出典:
「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」35)34
総務省. "情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査". 総務省 Web サイト. 2024年06月21日
更新, https://www.soumu.go.jp/iicp/research/results/media usage-time.html, (参照 2024年06月26日).35総務省情報通信政策研究所. "令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報
告書". 総務省 Web サイト. 2024-06, https://www.soumu.go.jp/main content/000953020.pdf, (参照
2024年06月26日).
日常的に利
用している
たまに利用す
ることがある
過去に利用・
体験したこと
がある
1度も利用し
たことがない
わからない
全年代(N=1,500) 3.3% 4.5% 13.3% 65.6% 13.3%
10代(N=140) 14.3% 12.9% 20.0% 35.7% 17.1%
20代(N=217) 5.1% 8.3% 21.7% 54.8% 10.1%
30代(N=241) 2.5% 5.4% 12.4% 66.4% 13.3%
40代(N=313) 1.9% 3.2% 16.0% 65.8% 13.1%
50代(N=319) 0.9% 2.2% 11.0% 73.0% 12.9%
60代(N=270) 1.1% 0.4% 3.7% 80.0% 14.8%16表2 【令和5年度】仮想空間を用いたサービスの利用機器(年代別)
(出典:
「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」35)(3)海外の動向
以下では、主な諸外国・地域(1米国、2EU、3英国、4中国、5韓国)について、メタバー
スに関する政策動向を概説する。
1 米国
2021 年 10 月、Facebook が社名を「Meta Platforms, Inc.」に変更して以降、米国議会で
は、メタバースに対する関心の高まりが見られる。一方、米国では 2024 年5月現在、メタ
バースに特化した法整備は確認できず、
フロリダ州法のような州レベルのプライバシー法は
存在しながらも、包括的な連邦プライバシー法案は未成立であり、米国データプライバシー
保護法(ADPPA)
、子どもオンライン安全法(KOSA)等の審議が継続している。以下では、米
国のメタバースに関する政策動向を記述する。
2022 年2月:議員の連邦取引委員会への書簡
2022 年2月、連邦議会議員は FTC(連邦取引委員会)のリナ・カーン委員長宛てに、VR 製
品やプラットフォームを利用する子どもたちへの潜在的脅威に関する書簡を寄せた。議員
たちは書簡の中で、
「VR 企業がメタバースで商業広告を提示する計画」があり、これは「本
質的に子どもを操作する可能性のある有害なマーケティング手法につながる可能性がある」
との懸念を表明した36。2022 年8月:米国連邦議会調査局の報告書
2022 年8月、
連邦議会調査局は、
「メタバース:コンセプトと議会の課題
(The Metaverse:
Concepts and Issues for Congress)
」と題した報告書を発表した。報告書は、メタバース
の主要概念、関連技術・企業、政策課題を整理した。メタバースの主要課題として、1コン
テンツモデレーション、
2データプライバシー、
3マーケットパワーと競争、
4デジタルデ36Markey, Edward John. "Senator Markey and Reps. Castor, Trahan Urge FTC to Use Authority to Make
Tech Companies Abide by New Platform Policies." ED MARKEY Website, October 8, 2021.
https://www.markey.senate.gov/news/press-releases/senator-markey-and-reps-castor-trahan-urge-ftc-to-
use-authority-to-make-tech-companies-abide-by-new-platform-policies. (参照 2024年06月28日).
パソコン ゲーム機
スマートフォンタブレット端末VRゴーグ
ル、HMD
専用端末・機
器(シミュ
レーション装
置等)
その他
全年代(N=316) 26.9% 66.8% 44.9% 8.5% 18.0% 1.6% 0.3%
10代(N=66) 22.7% 86.4% 50.0% 13.6% 12.1% 1.5% 0.0%
20代(N=76) 27.6% 67.1% 48.7% 10.5% 14.5% 2.6% 1.3%
30代(N=49) 26.5% 69.4% 44.9% 4.1% 14.3% 2.0% 0.0%
40代(N=66) 33.3% 60.6% 40.9% 9.1% 24.2% 1.5% 0.0%
50代(N=45) 24.4% 51.1% 37.8% 2.2% 22.2% 0.0% 0.0%
60代(N=14) 21.4% 42.9% 42.9% 7.1% 35.7% 0.0% 0.0%18– VIRTUAL WORLD, REAL CHALLENGES)
」を公表した41
。この文書は政策面において、EU の既
存法規制等の枠組みでメタバース等に対応することができるかは不明瞭としつつ、
「欧州理
事会で DMA(デジタル市場法)と DSA(デジタルサービス法)にメタバースに関する規定を
追加することは望まれていない」とする欧州委員会副委員長の発言を紹介した42
。この経緯
を踏まえ、以下では、EU のメタバースに関する政策動向を記述する。
2022 年9月:LETTER OF INTENT /「欧州がメタバースで成功するための計画」
2022 年9月、
一般教書演説の際にフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長により、
「STATE
OF THE UNION 2022, LETTER OF INTENT」が公表された。その中では、2023 年に取り組む
べき優先事項として「メタバースなどの仮想世界に関するイニシアチブ(Initiative on
virtual worlds, such as metaverse)
」が挙げられた。この Letter of Intent の発表と同
日に、
欧州委員会公式ブログで、
ティエリー・ブルトン域内市場担当欧州委員は
「人、
技術、
インフラ – 欧州がメタバースで成功するための計画」を公表した。この計画ではメタバー
スの法規制は、
DMA 及び DSA が基礎となるという見解が示された。
なお DMA 及び DSA は 2022
年 11 月に施行され、段階的に事業者への適用がなされている。
2023 年7月:Web 4.0 と仮想世界をリードする EU 戦略
2023 年7月、欧州委員会は「Web4.0 と仮想世界をリードする EU 戦略」を発表した。本
戦略の目的は、欧州連合の市民、企業、行政にとって、開かれて安全な、信頼できる公正か
つ包摂的なデジタル環境を確保することである。
本戦略においては、
人材とスキル、
ビジネ
ス、政府、ガバナンスの4つの観点から、欧州委員会が Web4.0 及び仮想世界に対して取る
べき 10 のアクションが提示されており、各々のアクションに沿い、2023 年から 2024 年に
かけての取組の実施が計画された43。41
Council of the European Union. "Metaverse – Virtual World, Real Challenges." Publications Office of the
European Union, 2023. https://data.europa.eu/doi/10.2860/432862. (参照 2024年06月28日).42POLITICO. "Vestager: Metaverse Poses New Competition Challenges." POLITICO Website, January 18,
2022. https://www.politico.eu/article/metaverse-new-competition-challenges-margrethe-vestager/. (参照
2024年06月28日). なお、DMA 及び DSA の概要については以下を参照。欧州連合日本政府代表部. "EU
の情報通信政策の概要". 欧州連合日本政府代表部 Web サイト. 2023, https://www.eu.emb-
japan.go.jp/files/100551011.pdf, (参照 2024年08月19日).43European Commission. "Towards the next Technological Transition: Commission Presents EU Strategy to
Lead on Web 4.0 and Virtual Worlds." European Commission Website. July 11, 2023.
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip 23 3718. (参照 2024年06月27日).19図 12 Web 4.0 と仮想世界をリードする EU 戦略
(出典:欧州委員会ホームページ44)2023 年 11 月:8つの市民共通の価値観と原則と 23 の提言
欧州委員会は、2023 年2月から4月にかけて無作為に選ばれた 150 人の市民を招待し、
「仮想空間に関する欧州市民パネル」を開催した。市民パネルは、EU における仮想空間が
公正で人々に適したものとなるよう、8つの市民共通の価値観と原則とこれに基づく 23 の
提言を取りまとめた。この提言は「Web4.0 と仮想世界をリードする EU 戦略」に反映された
作業文書として、戦略の発表と同時に公開され45
、2023 年 11 月に最終レポートの形式で発
表された46。2024 年1月:仮想空間と生成 AI の競争に関する意見募集
2024 年1月、EU 競争総局(DG Competition)は仮想空間と生成 AI に関する意見募集を
開始した。意見募集では、EU 競争規則の適用を想定した事項を含む、仮想空間に関する 10
の質問項目が提示された。具体的には、質問項目として市場障壁、競争要因、主要プレイヤ
ー、
市場支配力、
参入可能性、
標準化の規格、
反トラスト法の適用可能性等が列挙された47。2024 年6月、EU 競争総局は投稿意見を踏まえたワークショップを実施した48。そのほか、2023 年6月に欧州議会はメタバースの商機や倫理的課題、法整備の必要性な44European Commission. "Virtual Worlds and Web 4.0 - Factsheet." European Commission Website, July 5,
2023. https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/virtual-worlds-and-web-40-factsheet. (参照 2024-06-27).45
European Commission. "Staff Working Document: Citizens’ Panel Report on Virtual Worlds." European
Commission Website, July 5, 2023. https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/staff-working-document-
citizens-panel-report-virtual-worlds. (参照 2024年06月28日).46European Commission. "European Citizens’ Virtual Worlds Panel." European Commission Website, n.d.
https://citizens.ec.europa.eu/virtual-worlds-panel en. (参照 2024年06月28日).47European Commission. "Commission Launches Calls for Contributions on Competition in Virtual Worlds
and Generative AI." European Commission Website, January 9, 2024.
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip 24 85. (参照 2024年06月28日).48European Commission. "European Commission's Workshop on Competition in Virtual Worlds and
Generative AI." European Commission Website, June 28, 2024. https://competition-
policy.ec.europa.eu/about/reaching-out/virtual-worlds-and-generative-ai en. (参照 2024年08月13日).20どに幅広く触れた研究報告書を公表した。
同報告書では、
1メタバースの商業的、
産業的、
軍事的応用は、日常生活、健康、仕事、安全保障に機会を与えると同時に重大な懸念をもた
らすこと、
2メタバースがポジティブな役割を果たすようにするためには、
法の基本原則、
立法、司法の監視を促進する立法イニシアチブが必要であることが記述された49。3 英国
英国では、2023 年2月に省庁再編で新設された科学・イノベーション・テクノロジー省が
旗頭となり、メタバースと Web3.0 に関する戦略を推進する方針である。また 2023 年3月の
予算において、英国政府は AI の規制と、Web3 やメタバースと呼ばれるウェブテクノロジー
の未来について主導することを約束することを示した50。以下では、
Ofcom
(英国情報通信庁)
の動向を中心に記述する。
2023 年6月:メタバースに関するメディアリテラシーペーパーの発表
2023 年6月、Ofcom は英国の子どもと大人のオンラインスキル、知識、理解を向上させ
ることを目的とした Making Sense of Media プログラムのディスカッションペーパー、
「メ
タバースに関するメディアリテラシー」
を公表した。
この文書は、
主にメタバースの利用に
関する考慮事項が記載されている。具体的な考慮事項として、安心してメタバースを利用
するためのユーザの身元確認、ハラスメントなどの不適切な行為を報告する際に重要とな
る記録の保持などが挙げられた51。2023 年6月:Ofcom による没入型技術への見解の公表
2023 年6月、Ofcom は没入型技術への見解を公表した。この見解においては、Ofcom から
没入型技術が我々のコミュニケーションやオンラインサービスの利用方法をどのように変
える可能性があるのかについての考察が示された。
Ofcom は今後生じ得る疑問として、1没入型技術の需要に対応するために、通信ネットワークはどのように進化する必要があるか、
2コンテンツはどのような形をとり、
誰が作り、
どのように発見・
利用されるのか、
3製品、
技術、ユースケースの市場における競争はどのように展開するのか、の3点を挙げた。ま
た、
Ofcom から仮想世界で提供されるサービスの多くは、
オンライン安全法
(Online Safety
Act)の対象となる可能性が示唆された52。49
The European Parliament. "Metaverse." Think Tank European Parliament, June 26, 2023.
https://www.europarl.europa.eu/thinktank/en/document/IPOL STU(2023)751222. (参照 2024年06月28日).50HM Treasury, "Policy paper Spring Budget", Gov.UK Website, March 21, 2023.
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/6419c87d8fa8f547c267efca/Web accessible Budget 2023.p
df. (参照 2024年08月19日).51Ofcom. "Future Technology and Media Literacy." Ofcom Website, March 14, 2024.
https://www.ofcom.org.uk/media-use-and-attitudes/media-literacy/discussion-papers/. (参照 2024年06月28日).52Ofcom. "How We’re Responding to Renewed Interest in Immersive Technologies." Ofcom Website, June
29, 2023. https://www.ofcom.org.uk/internet-based-services/technology/how-were-responding-to-renewed-
interest-in-immersive-technologies. (参照 2024年06月28日).212023 年 10 月:オンライン安全法(Online Safety Act)
2023 年 10 月、オンライン安全法が成立した。この法律は、違法コンテンツに対するリス
ク管理の義務等を提供者に課し、ユーザに安全なオンラインサービスを提供することを目
的としており、2022 年の法案審議段階においても、政府高官からメタバースが同法の規制
対象に含まれるという発言がなされていた53
。オンライン安全法は Ofcom に対し、同法上の
義務の具体的な遵守方法に関するガイダンスと実践規範(Codes of Practice)の策定を求
めている54。図 13 英国の核融合エネルギー開発におけるメタバースの活用イメージ
(出典:英国政府ホームページ 55)このほか英国では、産学官で産業用にメタバースを用いる取組が見られる。例えば、2023
年6月、
英国原子力公社
(UKAEA)
は核融合エネルギー発電所のプロトタイプ開発の計画 STEP
(Spherical Tokamak for Energy Production) で、インダストリアルメタバースの活用を
発表した。この発表で UKAEA は Dell Technologies、Intel、ケンブリッジ大学との産学官
の連携により、英国の核融合エネルギー開発の推進を目指すとしている55。53
UK Parliament. "Online Safety Bill Volume 712: Debated on Tuesday 19 April 2022." UK Parliament
Website, April 19, 2022. https://hansard.parliament.uk/commons/2022-04-19/debates/F88B42D3-BFC4-
4612-B166-8D2C15FA3E4E/OnlineSafetyBill. (参照 2024年06月28日).54Department for Science, Innovation & Technology. "Online Safety Act: explainer." Gov.UK Website, May
8, 2024. https://hansard.parliament.uk/commons/2022-04-19/debates/F88B42D3-BFC4-4612-B166-
8D2C15FA3E4E/OnlineSafetyBill. (参照 2024年06月28日).55UK Atomic Energy Authority. "Industrial Metaverse Essential for UK Fusion Energy Development." UK
Government Website, June 28, 2023. https://www.gov.uk/government/news/industrial-metaverse-essential-
for-uk-fusion-energy-development. (参照 2024年06月28日).224 中国
中国政府は、メタバースをヒューマン・インテリジェンス、ブロックチェーン、5G、IoT、
仮想現実などの新世代情報技術を利用する、
広大な空間と大きな潜在力を持つ未来産業と捉
えている。2021 年 12 月、中央規律検査委員会が「メタバースはいかに人間の社会生活を書
き換えるか」と題した、メタバースに関する見解を発表した56
。また上海市をはじめとした
地方政府において、独自の行動計画を発表する動きが見られてきた。以下では、近年の中国
の動向を記述する。
2023 年6月:上海市メタバース基幹技術の難関攻略行動計画(2023〜2025)
上海市は、2021 年 12 月の上海デジタル経済発展「第 14 次5カ年計画」の中で、メタバ
ースを重点分野の1つとして位置付けた。また、同市は 2022 年7月公布の「メタバース新
分野育成のための行動計画」において、2025 年にメタバースの市場規模を 3,500 億元にす
ることを目標とした。この2つの計画を実施するため、2023 年6月に上海市は「上海市メ
タバース基幹技術の難関攻略行動計画(2023〜2025)
」を発表した。この行動計画は、没入
型技術及び Web3 技術の研究を加速し、新しいテクノロジーのブレークスルーを推進するこ
とを目指す内容となっている57。2023 年9月:四川省「中国メタバースバレー」 創設の発表
四川省は、2023 年9月、2025 年までに四川省のメタバース産業を発展させ、世界的な影
響力を持つ「中国メタバースバレー」を成都市に創造することを目指す旨を発表し、18 の
主要課題を打ち出した。この目標においては、2500 億元の市場規模を達成し、同産業の総
合競争力を全国トップ水準に到達させることが示された。産業、文化・観光、教育、都市開
発の分野で 200 の典型的なメタバースアプリケーションシナリオを確立するとしている58。2023 年8月:メタバース産業の革新的発展に向けた3カ年行動計画
2023 年8月、MIIT(中国工業情報化部)は関係機関と連名で、
「メタバース産業の革新的
発展に向けた3カ年行動計画 (2023-2025 年) 」を発表した。この行動計画は、2025 年ま
でに世界的な影響力を持つメタバース関連企業を3〜5社育成し、3〜5の産業集積地域
を建設すること等を目標に挙げた。
また、
5つの優先課題として、
1高度なメタバース技術
と産業システムの構築、23次元でインタラクティブな産業メタバースの育成、3没入的56中央纪委国家监委. "深度关注 | 元宇宙如何改写人类社会生活." 中央纪委国家监委 网站,
December. 23, 2021. https://www.ccdi.gov.cn/toutiaon/202112/t20211223 160087.html. (参照 2024-06-28).57
上海市科学技术委员会主办. "关于印发《上海市"元宇宙"关键技术攻关行动方案(2023—
2025 年)
》的通知." 上海市科学技术委员会主办 网站, June 13, 2023.
https://stcsm.sh.gov.cn/zwgk/ghjh/20230613/ddf9bf506da64e8cbdee86d6f1fc834c.html. (参照 2024-06-28).58
四川省经济和信息化厅. "关于印发《四川省元宇宙产业发展行动计划(2023—2025 年)
》的通
知." 四川省经济和信息化厅 网站, September 15, 2023.
https://jxt.sc.gov.cn//scjxt/jxtz/2023/9/15/484bd6b2c7df43d98dd63d597ec306ec.shtml. (参照 2024年06月28日).23でインタラクティブなデジタルライフアプリケーションの創出、4体系的で完全な産業支
援の構築、
5安全で信頼できる産業統治システムの構築を挙げ、
14 の行動指針を示した59。図 14 メタバース産業の革新的発展に向けた3カ年行動計画
(出典:中国政府ホームページ60)5 韓国
韓国政府は、2020 年7月、
「韓国版ニューディール 2.0」において、メタバース等の新産業
の育成と、カーボンニュートラルの推進基盤の構築を新規課題として設定した。韓国では中
央政府がメタバースに関する国家戦略や倫理原則を発表したほか、
ソウル市をはじめ地方自
体においても、メタバースに関する政策が積極的に展開されている。以下では、中央政府の
取組を中心に韓国の政策動向を整理する。
2022 年 1 月:メタバース新産業先導戦略
韓国政府は 2022 年1月、
「韓国版ニューディール 2.0」の一環として、
「メタバース新産
業先導戦略」を発表した。同戦略では「デジタル新大陸、メタバースを通じて跳躍する大韓
民国」
をビジョンに掲げ、
1世界的水準のメタバースプラットフォーム構築に挑戦、2メタ
バース時代に活躍する人材育成、3メタバース産業を主導する専門企業の育成、4国民が
共感できる模範的メタバースの4大推進戦略と 24 の課題を提示した。戦略実現のため、総
額で 5,560 億ウォン(約 525.7 億円)を支出する計画となっている61。59
工业和信息化部. "五部门关于印发《元宇宙产业创新发展三年行动计划(2023-2025 年)
》的通
知." 工业和信息化部 网站, August 29, 2023.
https://www.miit.gov.cn/zwgk/zcwj/wjfb/tz/art/2023/art e715a9d4611742d5a5f7a4f36ea74974.html. (参照
2024年06月28日).60工业和信息化部. "一图读懂《元宇宙产业创新发展三年行动计划(2023-2025 年)
》." 中华人
民共和国文化和旅游部 网站, September 8, 2023.
https://zwgk.mct.gov.cn/zfxxgkml/zcfg/zcjd/202309/t20230909_947133.html. (参照 2024年06月28日).61디지털콘텐츠과. "확장가상세계(메타버스) 신산업 선도전략 발표." 과학기술정보통신부 웹
사이트, n.d.
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?sCode=user&mId=113&mPid=112&bbsSeqNo=94&nttSeqNo=31813
03. (参照 2024年06月28日).242022 年 11 月:メタバース倫理原則
2022 年 11 月、MSIT(科学技術情報通信部)は、自由な経済活動と、個人の権利保護の両
立を目的とした「メタバース倫理原則」を公表した。この倫理原則は、メタバースの利活用
過程で全ての関係者が参照できる法的拘束力のない自律規範という位置付けである。また、
同倫理原則では3大志向価値(1.誠実な自我、2.安全な経験、3.持続可能な繁栄)を掲
げた上で、
8大実践原則
(1真正性、
2自律性、
3互恵性、
4プライバシー尊重、
5公平性、
6個人情報保護、7包括性、8未来への責任)を提示した62。図 15 韓国の倫理原則の3大志向価値と8大実践原則の概念図
(出典:韓国政府ホームページ 62)2023 年3月:仮想世界に向けた規制革新先導計画
2023 年3月、MSIT は「仮想世界に向けた規制革新先導計画」を発表した。同計画は、メ
タバースには民間中心の自主規制、
最小規制、
先制的規制革新、
の3つの基本原則を適用す
ることを示した上で、分野横断で共通する 15 課題と、文化・教育等の分野別の 15 課題、
計 30 の規制改善課題を提示する内容となっている。分野横断の共通課題には、メタバース
産業振興法の整備や倫理原則の普及、情報セキュリティガイドラインの策定・普及が含ま
れている63。2023 年 11 月:メタバースユーザ保護の基本原則
2023 年 11 月、放送通信委員会は、事業者の努力義務として、ユーザ保護の基本原則6つ
を発表し、ユーザ保護のための具体的な方策を盛り込んだ実践規範(案)を提示した。同委62디지털콘텐츠과. "메타버스 윤리원칙 발표." 과학기술정보통신부 웹 사이트, November 28, 2022.
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?sCode=user&mId=113&mPid=112&pageIndex=&bbsSeqNo=94&ntt
SeqNo=3182405. (参照 2024年06月28日).63디지털콘텐츠과. "가상융합세계(메타버스) 선제적 규제혁신 방안 발표" 과학기술정보통신부 웹
사이트, March 2, 2023.
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do;jsessionid=jrIBJJfeJsKvjcIVuxtFsjtcYoLJQRjh5GclhKpg.AP msit 1?
sCode=user&mPid=238&mId=113&bbsSeqNo=94&nttSeqNo=3182794. (参照 2024年06月28日).25員会は、基本原則が事業者のサービス運営規定などに反映されているかをモニタリングし、
事業者が原則を自律的に履行できるよう、追加的な制度改善案を策定する予定である64。2023 年 12 月:メタバース実践倫理
2023 年 12 月、MSIT は、
「メタバース実践倫理」を発表した。これは、2022 年 11 月に発
表された「メタバース倫理原則」における8大実践原則に紐づく具体的な行動原則を規定
したものである。同実践倫理は、基本原則 40 条と、3つのステークホルダー(供給主体、
創作主体、利用主体)別に各 40 条、計 160 条で構成され、メタバースの健全なエコシステ
ムの構築とユーザの権利保護を目的とする。MSIT は同実践倫理の利用方法マニュアル、事
例集、ビデオ講義等の提供を予定している65。2024 年2月:仮想融合産業振興法の成立
2024 年2月、
世界初のメタバース産業振興法
「仮想融合産業振興法」
が韓国で成立した。
本法律はメタバース産業支援及び規制改善を目的としており、2022 年から検討がなされて
いた。振興法では、メタバース産業振興に関する1政府の体制整備、2研究・事業支援、3
規制改善、4ユーザ保護の項目が規定され、2024 年8月に施行に至った66
。同法は MSIT 長
官が仮想融合産業振興のための基本計画を3年ごとに策定・施行することができると規定
し、MSIT 長官の認可を受け設立された協会を通じ、事業者に自主規制を促す内容となって
いる67。また、第3回研究会の NPO 法人バーチャルライツの発表では、韓国の「児童・青少年の性
保護に関する法律(通称:アチョン法)
」の規制動向が紹介された。アチョン法は、青少年に
見えるキャラクターの性描写があるマンガ・アニメの頒布等を禁止しており、この法律に基
づき、明らかに児童・青少年と認識できるアバターに対する性的行為も処罰が可能であると
いう解釈が示されている 29。64
방송통신위원회. "방통위, 「메타버스 이용자 보호 기본원칙」 발표." 방송통신위원회
웹사이트, November 30, 2023.
https://www.kcc.go.kr/user.do;jsessionid=E4RFIt4bMwEHAg02 jcjoeuTNzzRrvcK6VcFtc28.servlet-
aihgcldhome20?mode=view&page=A05030000&dc=K05030000&boardId=1113&cp=4&boardSeq=58472
. (参照 2024年06月28日).65디지털콘텐츠과. "과기정통부, 메타버스 실천윤리 발표." 과학기술정보통신부 웹 사이트,
December 26, 2023.
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?sCode=user&mId=113&mPid=238&bbsSeqNo=94&nttSeqNo=31838
92. (参照 2024年06月28日).66디지털콘텐츠과. "가상융합산업 육성을 위한 법령 본격 시행!" 과학기술정보통신부 웹 사이트,
August 19, 2024.
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?sCode=user&mId=113&mPid=238&pageIndex=&bbsSeqNo=94&ntt
SeqNo=3184828&searchOpt=ALL&searchTx. (参照 2024年08月23日).67디지털콘텐츠과. "세계 최초로 메타버스 산업 진흥을 위한 법률 제정." 과학기술정보통신부 웹
사이트, February 20, 2024.
https://www.msit.go.kr/bbs/view.do?sCode=user&mId=113&mPid=238&pageIndex=&bbsSeqNo=94&ntt
SeqNo=3184092&searchOpt=ALL&searchTxt=. (参照 2024年06月28日).26(4)国際的な議論の状況
以下では、メタバースに関する国際機関等(1MSF、2ITU-T、3OECD、4IGF、5G7、6WEF)
の動向を紹介する。
1 MSF
メタバース・スタンダード・フォーラム(MSF:Metaverse Standards Forum)は、2022 年
6月に、メタバースの相互運用性に関する標準の作成を支援するため、米国において設立さ
れた団体である。既存団体を含む各標準化機関の調整を主目的に、トピックを「ドメイン」
に分類した上で、各ドメインの相互運用性に関して取り組むワーキンググループを作成し、
グループ単位でプロジェクト活動を行っている68
。2024 年5月現在、表3に示す 13 グルー
プが承認されたワーキンググループとして活動している。
表3 メタバース・スタンダード・フォーラムの承認されたワーキンググループ
(出典:MSF ホームページ 68)表3のグループは、各々のドメインで相互運用性を最も促進できる実用的なプロジェクト
や活動について合意を形成し、
それらの洞察を反映したワーキンググループ憲章を策定した。
例えば、
プライバシー、
サイバーセキュリティ、
アイデンティティ
(Privacy, Cybersecurity
& Identity)のグループは、2023 年8月にワーキンググループ憲章が承認されており、憲章
内の取組を 2024 年から 2025 年にかけて実施予定である。その取組の優先事項として、グロ
ーバルレベルでのプライバシー、サイバーセキュリティ、ID リスク管理を含む、プライバシ
ーリスクによる人的損害並びに社会的損害を軽減するための勧告の提供が挙げられている69。68
The Metaverse Standards Forum. "Active Domain Groups." The Metaverse Standards Forum Website, n.d.
https://metaverse-standards.org/domain-groups/. (参照 2024年06月28日).69The Metaverse Standards Forum. "Privacy, Cybersecurity & Identity." The Metaverse Standards Forum
Website, n.d. https://metaverse-standards.org/domain-groups/privacy-cybersecurity-identity/. (参照 2024-
08-27).272 ITU-T
国際電気通信連合の電気通信標準化部門
(ITU-T)
において、
メタバースに関連する標準化
の議論がなされている。例えば ITU-T の各スタディグループ(SG)では、セキュリティ全般
(SG17)
、有線回線でのコンテンツ伝送(SG9)
、デジタルメディアの符号化と配信(SG16)等
の議論が挙げられる。
また、メタバース関連の標準化について、SG 間を横断的に議論するため、2022 年 12 月に
電気通信標準化諮問会議(TSAG)において、メタバースに関するフォーカスグループ(FG-
MV:Focus Group on metaverse)の設置が合意された。FG-MV は活動期間を1年間とし、新
しい ITU 標準を開発するための基礎となる「標準化前」作業に取り組んだ。表4は、FG-MV
の下設置された9つのワーキンググループ(WG)である70。表4 FG-MV の9つのワーキンググループ
(出典:ITU ホームページ 70)WG3(アーキテクチャとインフラ)と WG5(相互運用性)においては日本から議長が選出さ
れ、また、2023 年7月の第2回 FG-MV では、日本の状況を説明する節が追加された文書が成
果文書となった71
。そして FG-MV 全体としては、第7回会合までに 52 件の成果文書を得た。
2024 年6月 12 日〜13 日開催の第7回 FG-MV をもって、FG-MV は解散した。議論や成果は
ワーキンググループに引き継がれることとなるが、日本としては、引き続きメタバース関連
の ITU-T 標準化に対するインプットを実施する。なお、2024 年1月に開催された TSAG にお
いて、日本の提案により、2025 年1月から SG9 と SG16 を統合することが決定している。
3 OECD
OECD では、マルチステークホルダーによる、責任ある価値観に基づいた権利指向の技術等
に関する議論の場として、GFTech(Global Forum on Technology)が 2022 年 12 月に発足し70ITU. "ITU Focus Group on metaverse (FG-MV)." ITU Website, n.d. https://www.itu.int/en/ITU-
T/focusgroups/mv/Pages/default.aspx. (参照 2024年06月28日).71「Proposal to append Japan's activities on metaverse to "Draft Technical Report on Exploring the
metaverse: opportunities and challenges"」
(FG-MV-I-166)の提案を踏まえ、
「Technical Report
D.WG1-01 - Exploring the metaverse: opportunities and challenges」
(FG-MV-O-012)において日本に
関する記載が反映された。295 G7
2023 年4月 29 日〜30 日に G7 デジタル・技術大臣会合が我が国で開催された。その閣僚
宣言において、メタバースに関して次の文章が盛り込まれた75。「我々は、メタバースなどの没入型技術に対する我々共通のアプローチについて議論を重
ねている。没入型技術のポテンシャルは、様々な分野やユースケースに数多くの革新的な機
会を与え、相互運用性やポータビリティ、持続可能性及びそれらを支える標準に関する政策
議論及び、自由でオープンかつ公正なグローバル経済構造を維持しながら、民主的価値に基
づく信頼できる安全で安心な技術の使用を促進する必要があることを認識する。
この点にお
いて、
国際機関の果たす役割を確認し、
OECD などの関連するマルチフォーラムにおける継続
的な議論に貢献し続けることを求める。」(パラ 38)
その上で、2023 年5月 19 日〜21 日に開催された G7 広島サミットでは、首脳コミュニケ
として、
「人工知能(AI)
、メタバースなどの没入型技術、量子情報科学技術、そのほかの新
興技術などの分野において、デジタル経済のガバナンスは、我々が共有する民主的価値に沿
って更新し続けられるべきである。」(パラ 38)との文章が盛り込まれた76。また、2024 年3月にイタリア・ヴェローナ及びトレントにおいて、G7 産業・技術・デジタ
ル大臣会合が開催され、
その成果文書において、
GFTech について以下の文章が盛り込まれた77。
「我々は、量子技術を含む新興技術の将来のリスクと機会に取り組むために、マルチステ
ークホルダーコミュニティーを結集する OECD テクノロジーに関するグローバルフォーラム
を歓迎する。」(パラ 30)
6 WEF
2022 年5月 25 日、世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)は、新たなイニシ
アチブ「メタバースの定義と構築(Defining and Building the Metaverse)
」を発表した78。この取組は、経済的に実現可能で、相互運用性が高く、安全で包括的なメタバースを構築す
ることを目的とし、60 以上の主要なテクノロジー及びその他の分野の企業が、専門家、学
者、市民社会(civil society)ともに招集され、メタバースに関する規制の枠組み、技術
の選択、経済的機会にわたるテーマを官民で探求するものとなっている。同イニシアチブで
は、1メタバースのガバナンス(Metaverse Governance)
、2経済的・社会的価値の創造
(Economic and Social Value Creation)
を主要分野として焦点を当て、
議論を進めている。
例えば1メタバースのガバナンスに関しては、
同イニシアチブのワーキンググループが 202375総務省. "G7 デジタル技術・大臣会合閣僚宣言". 総務省 Web サイト. 2023年04月30日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000879093.pdf, (参照 2024年06月26日).76外務省. "G7 広島首脳コミュニケ". 外務省 Web サイト. 2023年05月20日,
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100507034.pdf, (参照 2024年06月28日).77デジタル庁. " G7 産業・技術・デジタル閣僚宣言". デジタル庁 Web サイト. 2024年03月18日,
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field ref resources/fb5e5973-1eb0-43c8-90c1-
543533b2d496/03342060/20240318 news-g7 result 05.pdf, (参照 2024年06月28日).78World Economic Forum. "New Initiative to Build An Equitable, Interoperable and Safe Metaverse." World
Economic Forum, May 25, 2022. https://www.weforum.org/press/2022/05/new-initiative-to-build-an-
equitable-interoperable-and-safe-metaverse/. (参照 2024年06月28日).30年1月に相互運用性に関する報告書79
を、2023 年7月にプライバシー及び安全性に関する報
告書等を発表した80
。また、2経済的・社会的価値の創造については、インダストリアルメ
タバースに関する報告書等が発表されている81。(5)インターネット上の情報流通の特性による影響の可能性
米国の法学者キャス・サンスティーンは、2001 年の著書「インターネットは民主主義の敵か」
で「サイバーカスケード」という現象を論じた82
。これは、インターネットの持つ同じ思考や主義
を持つ者同士をつなげやすいという特徴が、ネット上の情報収集における「集団極性化」を引き
起こす現象であり、人々がインターネット上のある1つの意見に流されていき、それが最終的に
は大きな流れとなることを意味する。こうした人間の傾向とネットメディアの特性の相互作用に
よる現象として、
「エコーチェンバー(echo chamber)
」と「フィルターバブル(filter bubble)」が挙げられ83、このようなインターネット上の情報流通の特性がもたらす事象が、
メタバースでも
生じる可能性が主張され始めている。
図 17 メタバースと「インターネットは民主主義の敵か」問題
(出典:第1回研究会 辻構成員御発表資料84)79
World Economic Forum. "Interoperability in the Metaverse." World Economic Forum Website, January
18, 2023. https://www.weforum.org/publications/interoperability-in-the-metaverse/. (参照 2024年06月28日).80World Economic Forum. "Privacy and Safety in the Metaverse." World Economic Forum Website, July 17,
2023. https://www.weforum.org/publications/privacy-and-safety-in-the-metaverse/. (参照 2024年06月28日).81以下の報告書が一例となる。World Economic Forum. "Navigating the Industrial Metaverse: A
Blueprint for Future Innovations." World Economic Forum Website, March 12, 2024.
https://www.weforum.org/publications/navigating-the-industrial-metaverse-a-blueprint-for-future-
innovations/. (参照 2024年08月20日)82Cass R. Sunstein. "Republic.com(邦題「インターネットは民主主義の敵か」
)". Princeton
University Press, 2001.83総務省. "令和元年版情報通信白書 第1部第4節(1)". 総務省 Web サイト. 2019,
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd114210.html, (参照 2024年06月26日).84大阪大学 辻大介. "エコーチェンバー問題とメタバース(資料1-5)". 総務省 Web サイト.
2023年10月24日, https://www.soumu.go.jp/main content/000908181.pdf, (参照 2024年06月26日).31「エコーチェンバー」とは、例えば SNS 等で同じ関心や思想を持つ者同士がフォローし合うこ
とで、閉鎖的な情報ネットワークが形成される現象である。一方、
「フィルターバブル」とは、例
えば SNS やショッピングサイト等でネットユーザ個人の検索履歴やクリック履歴がアルゴリズム
により分析・学習されることにより、個々のユーザが望むと望まざるとにかかわらず、自分の選
好に沿った情報の優先的な表示やユーザの観点に合わない情報からの隔離が行われ、その結果、
自身の考え方や価値観の「バブル(泡)
」の中に孤立してしまう、という情報環境を指す 83
。サン
スティーンはフィルターバブルやエコーチェンバーにより、インターネット上で集団分極化が発
生していると指摘しており 82
、この議論を踏まえ、フィルターバブルやエコーチェンバーによる
インターネット上の意見・思想の偏りが、社会の分断を誘引し民主主義を危険にさらす可能性が
あると警鐘を鳴らす意見もある85。本研究会では、メタバースにおいても「エコーチェンバー」と「フィルターバブル」が生じ、
特定のプラットフォーム又はワールドで、極端な指向性をもった集団の形成・凝集が促される可
能性が指摘された。また、メタバースでヘイトスピーチやヘイトクライムゲームなど差別的なコ
ンテンツが問題となった場合に、国家はどのような対応をとるべきかという問題意識も共有され
た 84
。さらに、
「メタバースネイティブ」は基本的に、メタバース空間と SNS の2軸の活動拠点を
有しており、メタバース空間は「フレンドが居る空間に参加する」等の機能によって、SNS 以上に
強力なフィルターバブルが形成される可能性があるという意見も見られた 29。このような議論は、
表現の自由との関係を踏まえつつ、国家がどの程度メタバースでの情報の多様性の維持に対応す
るべきか、という将来的課題を示唆するものと言えるだろう。
総務省では、2023 年 11 月より「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関す
る検討会」を開催している86
。同検討会では、生成 AI やメタバース等の新たな技術・サービスの
出現により、デジタル空間が更に拡大・深化し、デジタル空間におけるステークホルダーが多様
化していることに伴い、実空間に影響を及ぼす新たな課題の発生に対して、当該課題と多様化す
るステークホルダーの対応等の現状を分析し、今後の対応方針と具体的な方策に関する議論を進
めている。具体的には、幅広いステークホルダー等からヒアリングを行いつつ、偽・誤情報の流
通・拡散への対応について、表現の自由の観点とのバランスにも配慮しながら、制度面を含めた
総合的な対策の検討を行っている。
2024 年4月の第 16 回検討会においては、本研究会事務局より「メタバースの原則(1次案)」を紹介したところ、メタバースにおいて相互運用性の観点が重視されていることに検討会構成員
からの関心が寄せられた87
。さらに、2024 年5月、
「インターネット上の偽・誤情報対策に係るマ
ルチステークホルダーによる取組集」が公表された。この取組集の目的は、民産学官の幅広いス85鳥海不二夫, 山本龍彦. "共同提言「健全な言論プラットフォームに向けて ―デジタル・ダイエ
ット宣言 ver.1.0」". 慶應義塾大学 グローバルリサーチインスティテュート Web サイト. 2022-
01, https://www.kgri.keio.ac.jp/docs/S2101202201.pdf, (参照 2024年06月26日).86総務省. "デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会". 総務省 Web サ
イト. 2024-06 更新, https://www.soumu.go.jp/main sosiki/kenkyu/digital space/index.html, (参照 2024-
06-26).87総務省. "「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」
(第16回)・ワーキンググループ(第13回) 議事録". 総務省 Web サイト. 2024-04,
https://www.soumu.go.jp/main content/000946465.pdf, (参照 2024年06月26日).32テークホルダーによる偽・誤情報対策に係る取組について、ステークホルダー間同士で互いの取
組を参照しやすくするとともに、国内外における連携・協力を推進することである88
。取組集にお
いては、AI・メタバースへの対応に関する総務省の取組として、多様な発言等の確保(フィルタ
ーバブル、エコーチェンバーといった問題が起きにくいメタバース)等を盛り込んだ「メタバー
スの原則
(1次案)」を 2024 年3月に公表したことが紹介されている89。また、
2024 年9月には、
検討会とりまとめが公表された。その中では、メタバース関連事業者に期待される役割・責務と
して、ステークホルダーと連携しながら、更なるメタバースにおける自主・自律的な発展を目指
しつつ、透明性、アカウンタビリティ、プライバシーへの配慮、セキュリティ確保などメタバー
スへの信頼性を向上させるために必要な取組を実施することが示されている90。コラム:メタバースと情報流通の健全性に関する国際的議論
メタバースと情報流通の健全性に関連した議論は、国際社会においても確認できる。例えば、
WEF の 2023 年7月の報告書では、オンライン上の被害や犯罪に関する既存の理解には、バーチャ
ルな個人情報の窃取やなりすまし、財産の窃取、グルーミング、過激化、ネットいじめ、セクシ
ャルハラスメントなどが含まれるが、
(半)没入型環境では、より深い臨場感や、NPC(Non Player
Character)アバターの使用によって、これらが別の形態をとる可能性が考察されている。また当
該報告書は、今日のインターネットに見られるような上述の悪意ある行為がメタバース上でどの
ように悪化する可能性があるのか、また、どのように軽減できるのかについて、リスクを積極的
に評価し、対処するための行動計画を作成する必要性を提起している91
。また、2023 年6月の欧
州委員会の報告書においても、ヘイトスピーチや差別を含めたメタバースでの悪意ある行動の被
害は、マルチプレイヤー・ゲームやソーシャル・アプリ、その他の関連する Web2.0 環境よりも更
に陰湿で衝撃的である可能性が言及されている。
その理由としては、
VR 体験に伴うリアリズムは、
標的になった個人にとって、感情的、心理的、生理的に経験する恐怖に容易に変換されることが
挙げられている 49。88
総務省. "「インターネット上の偽・誤情報対策に係るマルチステークホルダーによる取組集」の
公表". 総務省 Web サイト. 2024年05月07日, https://www.soumu.go.jp/menu news/s-
news/01ryutsu02 02000405.html, (参照 2024年06月26日).89デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会. "インターネット上の偽・
誤情報対策に係るマルチステークホルダーによる取組集". 総務省 Web サイト. 2024-05,
https://www.soumu.go.jp/main content/000945181.pdf, (参照 2024年06月26日).90デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会. "デジタル空間における情
報流通の健全性確保の在り方に関する検討会 とりまとめ". 総務省 Web サイト. 2024-09,
https://www.soumu.go.jp/main content/000966997.pdf, (参照 2024年09月13日).91World Economic Forum. "Social Implications of the Metaverse." World Economic Forum Website, July
17, 2023. https://www.weforum.org/publications/social-implications-of-the-metaverse/. (参照 2024年06月26日).33図 18 メタバース上での法執行に関する国際機関の文書
(出典:欧州刑事警察機構 92
及び国際刑事警察機構ホームページ 93)国際的な法執行機関もメタバースにおける課題に関心を示している。例えば、2022 年に欧州刑
事警察機構(EUROPOLE)は、メタバースにおける法執行機関に関する報告書を発表した。この報
告書では、ユーザが思い描く世界のあるべき姿をメタバース上に創り出すことが可能であるため
に、例えば、バーチャル・イスラム帝国(Virtual Caliphate)
、白人至上主義国家といったもの
が、仮想的に創り出される可能性が指摘されている。そして同報告書は、過激な思想を持ったユ
ーザが、物理世界での社会の基本的な法律や価値観に反し得るルールに従って、仮想空間で生活
を送るかもしれないと考察している92
。また国際刑事警察機構(INTERPOL)は、2022 年 10 月にメ
タバースに関する専門家グループを創設し、2024 年1月にはメタバースにおける法執行機関に関
する白書を発表した。国際刑事警察機構によれば、この白書は、メタバースにおける新たな犯罪
の可能性についての洞察を提供し、法執行機関が将来の課題に備えるための基盤となるものとし
ている。また同白書は、ディープフェイク、偽情報やプロパガンダの流布を含め、メタバースで
の犯罪の類型やシナリオを整理している93。92
EUROPOLE. "Policing in the Metaverse: What Law Enforcement Needs to Know." EUROPOLE Website,
October 21, 2022. https://www.europol.europa.eu/publications-events/publications/policing-in-metaverse-
what-law-enforcement-needs-to-know. (参照 2024年06月26日).93INTERPOL. "Grooming, Radicalization and Cyber-Attacks: INTERPOL Warns of ‘Metacrime.’"
INTERPOL Website, January 18, 2024. https://www.interpol.int/en/News-and-
Events/News/2024/Grooming-radicalization-and-cyber-attacks-INTERPOL-warns-of-Metacrime. (参照
2024年06月26日).34第2章 メタバースの原則(第 1.0 版)の検討
(1)検討の経緯・背景
前述の通り、メタバースの市場規模は国内外で拡大が見込まれており、あわせて、ユーザ数も
更に増加していくことが想定される。また、メタバースを利用したサービスは、娯楽や商業目的
のみならず、教育や地域活性化、産業利用など、活用の場面を社会経済の様々な側面に広げつつ
ある。さらに、我が国で利用されているメタバースサービスは、我が国発のもののみならず、米
国の VRChat、Roblox や韓国の ZEPETO 等、インターネットを通じて世界各国から国境を越えて提
供されており、世界に目を向ければ、様々な国・地域のユーザが、様々な国・地域のサービスを
利用している。加えて、インターネット上での情報流通に関しては、アテンション・エコノミー
の広まりに伴う偽・誤情報の拡散や、
フィルターバブルやエコーチェンバーによる
「情報の偏り」
等の課題も指摘されている。現状では、これらは SNS 上の事例を中心に問題視されており、メタ
バースにおける事例は社会問題として顕在化している状況ではないものの、メタバースが没入感
という特性を備えたインターネットを活用する新たなサービスである側面を踏まえれば、今後の
展開に留意することは重要と考えられる。
また、国際的な議論の場においても、2023 年の G7 群馬高崎デジタル・技術大臣会合や G7 広島
サミットの成果文書において、加盟国が信頼できる安全で安心な、民主的価値に沿ったメタバー
スに向けて継続的に取り組む必要性が明記された。そして、2023 年 10 月に開催されたインター
ネット・ガバナンス・フォーラム京都 2023 では、総務省と OECD の共催によるメタバースセッシ
ョン「Pursuing a metaverse based on democratic values」が開催され、各国・各業界からの登
壇者から民主的価値に基づくメタバースについての考えが述べられた。
このような中、
前研究会の報告書
(同年7月公表)
においては、
「メタバース空間内に係る課題」
の解決の方向性の1つとして、
「メタバースの理念に関する国際的な共通認識の形成」
が挙げられ、
「国際的な理念の確立を見据え、国内における議論を推進」する必要性が示された。上述の市場
や国際的な議論の状況を踏まえれば、ユーザにとってより安心で安全なメタバースを実現するた
めに、重要なことや留意すべきこと等を関係者が共有し、さらに、それらについて国際的な共通
認識の形成を図ることは、今後のメタバースの展開にとって有益であると考えられる。
第1章(2)2で述べた通り、本研究会における取組のみならず、国内の業界団体等において
も、メタバースの利活用をより良いものとするため、事業者やユーザに向けたガイドライン策定
等の自主的な取組が推進されている。
こうした背景を基に、
本研究会では、
メタバースにおける民主的価値の主な要素を示した上で、
これを実現するため、仮想空間そのものの提供を担うメタバース関連サービス提供者が果たす役
割が特に重要であることに注目して、メタバース関連サービス提供者の取組として期待される項
目に関する原則を検討してきたものである。
(2)原則案に対する意見等
メタバースの原則の検討に当たっては、第1回研究会において原則案を提示したうえで、議論
を行ってきた。第2回研究会以降では、メタバースの事業者団体や自治体、NPO 法人等6者の取
組や活動の紹介に加えて、原則案に対する意見や考えを聴取してきた。35図 19 第1回研究会における原則案
(出典:第4回研究会 事務局資料94)事業者団体等における取組と原則案の各項目との対応関係については、各事業者団体等におい
て多岐に渡る取組がなされている中で、原則案で示した項目のうち「多様性」が共通項であると
考えられる。また、多様性(ダイバーシティ)に加え、包摂性(インクルージョン)の重要性に
ついて言及があったことも踏まえると、
「多様性」や「包摂性」が重要なキーワードであることが
認識された。94総務省情報通信政策研究所調査研究部, 総務省情報流通行政局参事官. "第4回 安心・安全なメ
タバースの実現に関する研究会 事務局資料(資料4-3)". 総務省 Web サイト. 2024年02月15日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000928429.pdf, (参照 2024年06月26日).36図 20 原則案と各団体における取組の対応関係
(出典:第4回研究会 事務局資料 94)原則案に対して、構成員及び事業者団体等から示された意見やそれに基づく修正点は、主なも
のとして以下が挙げられる。
(全体に対する意見と修正点)・「誰のためにつくるのか」
「どの原則をどういう文脈で考えていけばいいのか」等の意見
を踏まえ、前文を設け、メタバースについての基本的な考え方、原則の位置付けを記載。ま
た、原則は、メタバース関連サービス提供者が果たす役割として記載・「自由という価値も、民主的価値と同様のレベル感」等の意見を踏まえ、自由に関する記
載を原則から前文へ移動
・メタバースに特有な点として、
「ルールを自分たち(ユーザ)でつくりながら、面白い空
間をつくってきた」
「コミュニティの自主性」等の意見を踏まえ、社会と連携しながら更な
るメタバースにおける自主・自律的な発展を目指すための考え方を記載
・メタバースの自主・自律的な発展を支えるために、メタバース関連サービス提供者がメ
タバースへの信頼性を向上させるために必要な取組を記載
(個別の項目に対する意見と修正点)
・公平な参加機会やユーザビリティについては構成員や業界団体等からの指摘の多かった
「多様性」
「包摂性」として整理37・社会と連携したメタバースの自主・自律的な発展に関して、
ポジティブな面を捉えた
「オ
ープン性」
「イノベーション」を追加し、公平な参加機会やユーザビリティについては構成
員や事業者団体からの指摘の多かった「多様性」
「包摂性」へ移動させた上で整理
・説明責任の項目にあったメタバースの特性の説明等については、
「透明性」に「説明性」
を加え整理し、行動履歴の適切な取扱い等については「プライバシー」の項目へ移動させた
上で整理
これらを踏まえた検討の途中経過として、
「前文」、「メタバースの自主・自律的な発展に関する
原則」、「メタバースの信頼性向上に関する原則」から構成される「メタバースの原則(1次案)」が 2024 年3月に示された。次節に掲載する「メタバースの原則」は、1次案の構成及び内容を基
本としつつ、原則の各項目に対する解説等を追記する等の所要の修正を経た上で取りまとめたも
のである。
なお、各項目及びそれに対応する内容については、メタバースの発展やこれに伴うユーザが担
う役割の多様化、国内外の議論の動向を踏まえた今後の拡充や発展を否定するものではない。
図 21 メタバースの原則(1次案)38図 21 メタバースの原則(1次案)
(続き)
(出典:第5回研究会 審議結果95)(3)メタバースの原則(第 1.0 版)
1)前文
(民主的価値を踏まえたメタバースの将来像の醸成)
将来、メタバース上では国境を越えて様々な仮想空間であるワールドが提供され、メタバ
ースが物理空間と同様に国民の生活空間や社会活動の場として益々発展し、
人々のポテンシ
ャルをより一層拡張することが期待される一方、
メタバースの設計や運営が過剰に商業主義
的な動機で支配され、民主的価値を損なうような仮想空間が出現する可能性、さらには、物
理空間と仮想空間がこれまで以上に融合した結果として、
メタバース上での出来事や価値観
が仮想空間のみならず物理空間にも影響を与え、
両空間の民主的価値を損なう可能性も想定
される。このような状況を防ぐためにも、以下の1〜3をメタバースにおける民主的価値の
主な要素として国際的な共通認識とした上で、
メタバースの将来像の醸成を図ることが重要
である。
1 メタバースが自由で開かれた場として提供され、世界で広く享受されること
2 メタバース上でユーザが主体的に行動できること
3 メタバース上での活動を通じて物理空間及び仮想空間内における個人の尊厳が尊重
されること95安心・安全なメタバースの実現に関する研究会. "メタバースの原則(1次案)". 総務省 Web サ
イト. 2024年03月08日, https://www.soumu.go.jp/main content/000931138.pdf, (参照 2024年06月26日).39(原則の位置付け)
上述の民主的価値を実現し、ユーザが安心・安全にメタバースを利用していくためには、
仮想空間そのものの提供を担うメタバース関連サービス提供者
(プラットフォーマー(※(注記)1)
及びワールド提供者(※(注記)2)
)の役割が重要である。メタバース関連サービス提供者の取組と
して、以下の2つを大きな柱として位置付ける。
1社会と連携しながら更なるメタバースにおける自主・自律的な発展を目指すための原則
2メタバース自体の信頼性向上のために必要な原則
※(注記)1 プラットフォームを提供する事業者をプラットフォーマーと呼ぶ。プラットフォー
ムはメタバースを構築したり利用したりするための基盤。
メタバースを構築するための機能
や素材、法則やルールなどを提供するもの、ユーザの認証・管理やアイテム等の管理、コミ
ュニケーション機能、契約・取引などの基盤的サービスを提供するもの、すぐに利用できる
ようにメタバースの基本的なサービス自体を運営・提供するものなど、多岐にわたる。
※(注記)2 ワールドとは、プラットフォーム上で構築・運用される、メタバースの個々の「世
界」
。ワールド提供者は、プラットフォーマーと契約(有償・無償を問わず、利用規約への同
意等も含まれる)し、プラットフォーム上にワールドを構築して提供する者。なお、これを
ビジネスとして行う者については「ワールド提供事業者」という。プラットフォーマー自身
がワールドを構築して提供する場合もある。
(メタバースの自主・自律的な発展に関する原則についての考え方)
メタバースがメタバース関連サービス提供者による多様な仮想空間の提供と共に、ユーザ
等によるクリエイティブなコンテンツ(UGC を含む)の創造により、自主的な創意工夫によ
り自律的に社会的・文化的発展を遂げてきた経緯を踏まえ、ワールドのオープン性やイノベ
ーションの促進、
世界中の様々な属性のユーザがメタバースを利用する多様性・包摂性、ICTリテラシーの向上やコミュニティ運営の尊重など社会と連携した取組とする。
(メタバースの信頼性向上に関する原則についての考え方)
メタバースの自主・自律的な発展を支えるために、
透明性・説明性、
アカウンタビリティ、
プライバシーへの配慮、
セキュリティ確保などメタバースへの信頼性を向上させるために必
要な取組とする。
(補足)
民主的価値に沿った安心・安全なメタバースの実現のためには、メタバースに関わる全て
のステークホルダーの取組が重要である。本原則は、メタバースにおいて民主的価値を実現
し、ユーザが安心・安全に利用できるようにするためには、仮想空間そのものの提供を担う
メタバース関連サービス提供者(プラットフォーマー及びワールド提供者)の役割が特に重
要であることを踏まえて整理したものである。
したがって、本原則はメタバース関連サービス提供者の取組を対象としたものであるもの
の、ユーザ、コンテンツの創作や提供を行う者(クリエイターを含む。)、メタバースに関す40るルール整備に関わる者、
メタバースに関するユーザのリテラシー向上に関わる者を含む全
てのステークホルダーの取組においても参照されることが期待される。
図 22 メタバースをめぐるステークホルダー
(事務局にて作成)
2)原則(第 1.0 版)及び解説
<メタバースの自主・自律的な発展に関する原則>
□しろいしかく オープン性・イノベーション
・自由で開かれた場としてのメタバースの尊重
(解説)誰もがアクセスできる、自由で開かれた空間として発展を遂げたインターネット
と同様に、
様々な属性のユーザによる参画とその主体的な取組が今後のメタバースの発展に
欠かせない。メタバース関連サービス提供者は、様々な属性のユーザの参画を歓迎するとと
もに、ユーザの自主性を尊重したメタバースサービスの開発・運営等を行うことが期待され
る。
・自由な事業展開によるイノベーション促進、多種多様なユースケースの創出
(解説)メタバースが様々な分野・目的で利活用されることにより、社会課題の解決にも
寄与し得ることから、メタバース関連サービス提供者は、創意工夫に基づき自由に事業を展
開することを通じて、イノベーションを促進させ、ユーザとともに多種多様なユースケース
の創出に繋げることが期待される。
・アバター、コンテンツ等についての相互運用性の確保41(解説)メタバースの利活用において、ユーザが様々なサービスを選択できることは、ユ
ーザの利便性やオープン性の向上・イノベーションの促進につながることから、メタバース
関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、アバターやコン
テンツ等を複数プラットフォーム間で利用可能となるよう、
相互運用性の確保に努めること
が期待される。
・知的財産権等の適正な保護
(解説)メタバース上でクリエイターが安心してコンテンツ等を創作し、ユーザも安心し
てその利用が可能となるよう、メタバース関連サービス提供者は、メタバースサービスの開
発・運営等に当たり、知的財産権をはじめとする諸権利の適正な保護に努めることが期待さ
れる。また、メタバース関連サービス提供者は、利用規約やコミュニティガイドライン等を
通じて、
知的財産権をはじめとする諸権利の適正な保護の重要性についてユーザへの浸透を
図ることが期待される。
□しろいしかく 多様性・包摂性
・物理空間の制約にとらわれない自己実現・自己表現の場の提供
(解説)メタバース上でユーザが物理空間での年齢、性別、居住地等の属性や制約にとら
われることなく活動をし、自己実現・自己表現につなげることができるよう、メタバース関
連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、開発・運営等を行
うことが期待される。
・様々な国・地域、ユーザ属性等による文化的多様性の尊重
(解説)メタバース関連サービス提供者は、メタバースが国境を越えて提供され、様々な
国・地域から、社会的・文化的背景の異なるユーザが参加する可能性があること、また、そ
れらが個々のメタバースの文化を生み出すことを認識し、
様々なユーザの属性に配慮すると
ともに、属性の異なるユーザ同士であっても互いに尊重し合う意識を醸成することにより、
文化的多様性が尊重されるよう取り組むことが期待される。
・多様な発言等の確保(フィルターバブル、エコーチェンバーといった問題が起きにくい
メタバース)
(解説)メタバース関連サービス提供者は、デジタル空間における情報流通の特性から生
じ、偽・誤情報の流通・拡散等のリスクをもたらすフィルターバブルやエコーチェンバーと
いった問題への対処が、
没入感の高さといったメタバースの特性ゆえに今後一層難しい問題
となり得ることを認識し、健全な言論空間の維持の必要性を踏まえ、その提供するメタバー
スサービスの特性に応じて、
ユーザによる多様な発言等とそれらへの接触機会が確保される
よう開発・運営等を行うことが期待される。
・障がい者等の社会参画への有効な手段としての活用42(解説)メタバースは、障がいや心身の状態から物理空間での移動やコミュニケーション
等の活動が難しい人にとっても、就学、就労、他者との交流等の場になり得ることから、メ
タバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、社会参
画への有効な手段として活用がなされるよう開発・運営等に努めることが期待される。
・メタバースへの公平な参加機会の提供
・誰もが使えるユーザビリティの確保
(解説)インターネット上の仮想空間であるメタバースは、アクセス手段があれば誰もが
参加できる開かれた場であることが期待される。メタバース関連サービス提供者は、多様か
つ柔軟なアクセス方法を通じて、ユーザに対して公平な参加機会を提供するとともに、その
提供するメタバースサービスの特性に応じて、
誰でも使いやすいようなユーザビリティを確
保することが期待される。
□しろいしかく リテラシー
・ユーザのメタバースに対する理解度向上の支援
・ユーザの ICT リテラシー向上の支援
(解説)社会全体でメタバースの利活用を推進するためには、メタバースに対する理解の
促進、ICT リテラシーの向上を図ることが必要となることから、メタバース関連サービス提
供者は、ユーザに対し情報提供するとともに、国や自治体、関連団体等と連携し、学習機会
の提供支援等を行うことが期待される。
□しろいしかく コミュニティ
・コミュニティ運営の自主性の尊重
・コミュニティ発展の支援
(解説)メタバースにおけるコミュニティは、物理空間におけるコミュニティ同様、人々
の社会的なつながりの一形態であることから、メタバース関連サービス提供者は、メタバー
スにおけるコミュニティがユーザによる創意工夫により発展してきた経緯も踏まえ、
コミュ
ニティの運営に係るユーザの自主性を尊重するとともに、
コミュニティの更なる発展に向け
て、ユーザ同士の交流が円滑に実施されるよう支援することが期待される。
<メタバースの信頼性向上に関する原則>
□しろいしかく 透明性・説明性
・サービス利用時の保存データ(期間、内容等)及びメタバース関連サービス提供者が利
用するデータの明示並びにそれらのユーザへの情報提供
(解説)メタバース関連サービス提供者は、ユーザに係るデータの取扱いが明確になるよ
う、メタバースの利用に際して取得・保存の対象となるデータの内容やその保存期間をユー
ザに対して明示するとともに、取得・保存したデータの利用範囲や利用目的、外部提供の有
無を含めてユーザに対して可能な限り具体的に明示することが期待される。43加えて、取得・保存したデータの管理方法や管理体制についても、可能な範囲で明示する
ことが期待される。
明示に際しては、ユーザが理解しやすいよう視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用い
て説明するとともに、
掲示する場所や方法等についてユーザの目に触れやすいように考慮す
ることが期待される。
・提供するメタバースの特性の説明
(解説)メタバースには多様なものが存在し、ユーザの利用形態も様々であることから、
メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースサービスの特性について、視認性の
高いビジュアルや平易な言葉を用いてユーザに対し説明することが期待される。
・メタバースの利用に際してのユーザへの攻撃的行為や不正行為への対応の説明
(解説)メタバース上でユーザ間のトラブルを抑制するとともに、コミュニケーションが
円滑に行われるよう、メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースサービスにお
いて、
どのような行為が他のユーザへの攻撃的行為や不正行為に該当するかについて説明し、
また、
それらの行為を行ったユーザに対して取り得る対応について説明することが期待され
る。例えば、メタバース関連サービス提供者は、以下の事項に留意することが考えられる。
●くろまるメタバースサービスの特性を考慮しつつ、ユーザに理解されやすいよう、他のユーザへ
の攻撃行為や不正行為に該当する行為類型や行為態様を可能な限り具体的に定めること。
●くろまる攻撃的行為や不正行為を行ったユーザにどのような対応を取る可能性があるのか、可能
な限り具体的に記載すること。
●くろまるユーザが理解しやすいように視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用いて説明する
こと。
□しろいしかく アカウンタビリティ
・事前のユーザ間トラブル防止の仕組みづくりや事後の不利益を被ったユーザの救済のた
めの取組
(解説)ユーザ間のトラブルによりメタバースの利活用時の安心・安全が損なわれること
のないよう、メタバース関連サービス提供者は、提供するメタバースにおいて、事前のユー
ザ間トラブル防止の仕組みづくりや、
不利益を被ったユーザへの事後的な救済のための取組
に努めることが期待される。例えば、以下のような取組が該当する。
●くろまる視認性の高いビジュアルを活用して注意喚起すること。
●くろまるメタバースサービス内の巡回やコンテンツモデレーション等のモニタリングを実施す
ること。
●くろまるブロック・ミュート機能等の技術的なユーザ保護機能を実装すること。
●くろまるユーザからの通報窓口を設置するなど、トラブルが発生した場合に迅速に対応できる体
制を構築すること。
・他のユーザやアバターに対する誹謗中傷及び名誉毀損の抑制44(解説)自由で開かれた場であるメタバースにおいて、他のユーザやアバターに対する誹
謗中傷、また名誉毀損につながり得る行為を抑制するために、メタバース関連サービス提供
者は、提供するメタバースサービスにおいて、こうした行為がなされないようにするため、
利用規約やコミュニティガイドライン等を通じてユーザ間、
ユーザとメタバース関連サービ
ス提供者の間で当該メタバースサービスに関する共通的な理念を形成し、
これに基づき必要
な措置を講じることが期待される。
・ユーザ等との対話を通じたフィードバックを踏まえた改善
(解説)ユーザ等の声を踏まえたメタバースの発展のため、メタバース関連サービス提供
者は、ユーザや幅広い関係者からの意見の収集によるフィードバックの機会を得て、開発・
運営等の改善につなげることが期待される。
・子ども・未成年ユーザへの対応
(解説)メタバース関連サービス提供者は、子どもや未成年のユーザによるサービスの利
用に際して、特段の配慮を要することから、安全の確保及びトラブルの防止に努めることが
期待される。メタバース関連サービス提供者は、例えば以下の事項に留意することが考えら
れる。
●くろまる子ども・未成年にも理解しやすいよう、視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用いて
注意喚起すること。
●くろまる子どもや未成年のユーザにとって有害となるコンテンツへのラベリングや対象年齢の
レーティングを実施すること。
●くろまるコンテンツモデレーション等のモニタリングを実施すること。
●くろまるフィルタリング等の保護機能を実装すること。
●くろまるペアレンタルコントロールの実装等、保護者が関与できる仕組みを構築すること。
□しろいしかく プライバシー
・ユーザの行動履歴の適正な取扱い
(解説)
メタバースの利用において、
ユーザの様々な行動に関する履歴が大量に記録され、
蓄積され得る状況を踏まえ、メタバース関連サービス提供者は、ユーザのプライバシーに十
分配慮した取扱いを行うことが期待される。メタバース関連サービス提供者は、例えば以下
の事項に留意することが考えられる。
●くろまるどのような行動履歴を取得するか明示し、行動履歴を利用する場合は、利用目的を併せ
て明示して、ユーザから同意を得ること。
●くろまる取得する行動履歴は、利用に必要な範囲にとどめること。
●くろまる行動履歴の管理方法や管理体制について明示すること。
・ユーザとアバターとの紐付けにおけるプライバシーの尊重
(解説)ユーザは、用途や目的に応じてアバターを使い分けるなど、ユーザのアバターに
対する自己投射の程度は様々であることに加え、
ユーザの公表している情報の度合いも様々45であることから、メタバース関連サービス提供者は、ユーザのプライバシーが尊重され、ユ
ーザとアバターの意図しない紐付けにより本人の意に反して情報が公開されることがない
よう、利用規約やコミュニティガイドライン等での考え方の明示や、プライバシーを侵害す
るような行為をしたユーザに対し適切な対応をとることが期待される。
・メタバースの利用に際してのデータ取得、メタバースの構築に際しての写り込み等への
法令遵守等による対処
(解説)
メタバース関連サービス提供者は、
ユーザに係るデータの取得や利用等について、
個人情報に係る法令を遵守するとともに、物理空間を撮影したデータを利用する場合や、ユ
ーザによってメタバース上でのスクリーンショットが行われる場合を考慮して、
その撮影デ
ータにおける人物等のプライバシー情報等の写り込みに対処することが期待される。
例えば、
以下のような取組が該当する。
●くろまるデータの取得
・利用については、
取得する内容及び利用目的を明示し、
同意を得ること。
●くろまる物理空間を撮影したデータに個人を特定できる情報が入り込んでいる場合、撮影データ
の利用について同意の取得が可能な場合には、同意を得ること。同意を得ることが難しい際
は、個人を特定できない形に加工すること。
●くろまる他のユーザによってスクリーンショットが行われる場合があることについて、事前にユ
ーザに対し同意を得ること。
・アバター(実在の人物を模したアバターを含む)の取扱いへの配慮(知的財産権、名誉
毀損及びパブリシティの観点を含む)
(解説)実在の人物を模したアバターを無断生成・利用した場合には、その容ぼうの実態
等に即して肖像権又は知的財産権の侵害が起こり得るほか、
その利用の形態によっては実在
の人物に対するプライバシー侵害や名誉毀損も起こり得る。また、有名な人物をアバターと
して無断生成・利用した場合にはパブリシティ権の問題が生じ得る。このため、メタバース
関連サービス提供者は、アバターをめぐる権利の扱いに関する議論の動向等も踏まえ、以下
のような対応を取ることが期待される。
●くろまる著作物や肖像の利用等について、利用規約やコミュニティガイドライン等で、基本的な
考え方や、留意すべき事項、許諾に関する必要となる手続、権利侵害が確認された場合の取
り得るべき対応等を明示すること。
●くろまる名誉毀損や権利侵害にあたる可能性のある状況が確認された場合には、速やかに利用規
約やコミュニティガイドライン等に沿った対応をとること。
□しろいしかく セキュリティ
・メタバースのシステムのセキュリティ確保(外部からの不正アクセスへの対処等)
(解説)メタバース関連サービス提供者は、ユーザに係る情報等を適切に保護する必要性
を踏まえ、メタバースに係るシステムのセキュリティが確保されるよう、外部からの不正ア
クセスへの対処等を含めた必要な措置を講じることが期待される。例えば、提供するメタバ
ースサービスの特性に応じて、以下のような取組が該当する。46●くろまる登録時の本人確認システムを含む必要な措置の導入・強化に向けた検討を行うこと。
●くろまるログイン時の認証システムの導入・強化に向けた検討を行うこと。
●くろまるセキュリティリスクに対応するための体制を構築すること。
●くろまる情報セキュリティポリシー等を策定すること。
・メタバース利用時のなりすまし等の防止
(解説)メタバース関連サービス提供者は、なりすまし等によりユーザに不利益が生じる
ことを防ぐため、必要な措置について検討・導入することが期待される。例えば、以下のよ
うな取組が該当する。
●くろまる利用規約やコミュニティガイドライン等でアバターの模倣等に関する考え方等を明示
すること。
●くろまるなりすましと判断をした場合、当該アバターのアカウントを速やかに凍結するなど、被
害の拡大防止のために適切な対応をとること。47第3章 メタバースに関する技術動向等
前章では、前研究会の報告書における、
「メタバース空間内に係る課題」の解決の方向性の1つ
として、本研究会で実施した原則(第 1.0 版)検討の取組をまとめた。前研究会の報告書ではその
他に、
「メタバース空間外に関係する課題」の解決の方向性として、
「市場、技術、ユーザ動向の継
続的フォローアップ」及び「メタバースと UI/UX の関係についての調査等」が挙げられ、今後のユ
ーザや技術、市場等の動向を把握していく必要性及び VR や AR 等の新しい UI を通じて人々の認識
がどのように変わっていくのか、その影響を調査する必要性が示された。これを受け本章では、本
研究会にて議論された内容から(1)VR・AR 等デバイスの動向等、
(2)VR・AR 等を用いたメタバー
スの利活用と課題、
(3)デバイスの進化を踏まえた UI・UX の変化とその影響、をまとめる。
(1)VR・AR 等デバイスの動向等
まず VR・AR デバイスの市場動向について、国内における直近の VR デバイスの販売台数は 40 万
台〜50 万台程度であり、VR・AR デバイスの市場に関するレポートから今後は年率 30%以上で成長
する見込みとなっている。AR デバイスについては直近で VR デバイスよりも販売台数の規模が小
さいものの、今後高い成長率が見込まれている。ユーザ層に関しては、米国では若年層の VR ヘッ
ドセット所有率が 33%、週間利用率が 13%という調査があり96
、若年層を中心に VR デバイスが
浸透していると考えられる。
表5 VR・AR デバイスの市場規模関連数値一覧
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料97)96
Sandler, Piper. "Taking Stock With Teens Spring 2024 Survey (47th Semi-Annual Taking Stock With
Teens Survey)." Piper Sandler Website. April 9, 2024. https://www.pipersandler.com/teens. (参照 2024-06-26).97
株式会社日本総合研究所 リサーチ・コンサルティング部門 通信メディア・ハイテク戦略グル
ープ. "VR デバイスの普及と UI·UX の進化に伴う影響の分析 調査結果概要(資料7-2)". 総
務省 Web サイト. 2024年05月24日, https://www.soumu.go.jp/main content/000947595.pdf, (参照 2024-06-26).48
図 23 VR 市場における若年層の動向
(出典:第7回研究会 Mogura 御発表資料98)次にデバイスのスペック動向について、1没入型99
(Oculus Go、MeganeX など)及びビデオシ
ースルー型100
(Quest 3、Apple Vision Pro など)と、2光学シースルー型101
(HoloLens、Magic
Leap など)に分けて整理する。
表6 デバイスのスペック動向
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)98
株式会社 Mogura/Mogura VR 久保田瞬. "XR の最新動向(資料7-1)". 総務省 Web サイト.
2024年05月24日, https://www.soumu.go.jp/main content/000948760.pdf, (参照 2024年06月26日).99没入型:装着者の視界を外界から完全に遮断し、外界が見えない形で映像を投影する方式100ビデオシースルー型:ビデオカメラを通じて外界の様子を取り込み、仮想物体と重ねて表示す
る方式101光学シースルー型:ハーフミラーなどを用いて外界と表示内容を重ねる方式491 没入型・ビデオシースルー型
2019 年以前発売のデバイスと 2021 年以降発売のデバイスを比較すると、2019 年以前発売
のデバイスは、幅方向の解像度は 1,500 ピクセル付近、価格は 10 万円以下が主流となって
いる。2021 年以降発売のデバイスは、幅方向の解像度は 2,000 ピクセル以上が主流となっ
ており、一部のデバイスでは 3,800 ピクセルや 4,800 ピクセルとなっている。価格は 40 万
円以上のものも出てきており、
幅方向の解像度及び価格については上昇傾向にあると考えら
れる。
図 24 没入型・ビデオシースルー型 ×ばつ解像度(幅方向)
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)重量については、一般消費者向けデバイスでは軽量化が進んでおり、300g 程度のデバイス
が出てきている。ビジネス向けのデバイスは機能を重視する傾向のため 800g 程度の重さが
主流となっている。50図 25 没入型・ビデオシースルー型 発売年別重量
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)視野角及び画素密度について 2019 年以前発売のデバイスと 2021 年以降発売のデバイスを
比較すると、視野角については大きな変化はなく、画素密度が過去よりも増加している。視
野角は技術的にも現状以上の向上が難しくなっており、
画素密度の向上が今後も進むと想定
される。
図 26 没入型・ビデオシースルー型 ×ばつ画素密度
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)51
今後の VR・AR デバイスの動向予測としては、AR の機能だけでなく VR の機能も内包する形
のビデオシースルー型ヘッドセットが主流となり得ることや、
デバイスの搭載 OS
(Operating
System)は Apple の visionOS と、Meta がオープン化した Meta Horizon OS が競う形の市場
になり得ることが第7回研究会にて言及された。
2 光学シースルー型
光学シースルー型のデバイスについては、2019 年以前は多くのデバイスが存在していた
が、近年の発売機種は少ない。価格帯については大きな変化はなく、一般消費者向けの数万
円台とビジネス向けの数十万円台のデバイスが存在する。幅方向の解像度については 2,000
ピクセル程度が主流となっている。
図 27 光学シースルー型 解像度(幅方向)×ばつ価格
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)重量については、PC やスマホに繋いで利用するデバイスが多く出てきていることから、デ
バイス本体の重量は軽量化し、現在では 100g 前後のデバイスが主流となっている。52図 28 光学シースルー型 発売年別重量
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)視野角及び画素密度について 2019 年以前発売のデバイスと 2021 年以降発売のデバイスを
比較すると、以前は 20〜40 度程度の視野角の製品が多かったものの、近年では 50 度付近の
製品が多い。一方、画素密度については大きな変化は見られない。
図 29 光学シースルー型 ×ばつ画素密度
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)(2)VR・AR 等を用いたメタバースの利活用と課題
本節では VR・AR 等を用いたメタバースの利活用に際し、現在どのような影響・課題が指摘され
ているか、留意・着目すべき課題は何かを整理する。53メタバース利活用に係る課題を、文献や有識者のヒアリング等で得られた情報を元に整理した
ものを、以下に示す。身体的な影響・課題、精神的な影響・課題、ユーザのプライバシーに関す
る影響・課題等、様々な観点で検討・指摘がなされている。
表7 文献等により検討・指摘されている VR・AR 等の利活用に係る課題
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)列挙した課題のうち VR・AR 等を用いたメタバースに特有の影響・課題を抽出し、事業者や有識
者へのヒアリングを通じて特に今後の実施が期待される対策を整理したものを以下に示す。未だ
はっきりと解明されていない VR・AR 等を用いたメタバースサービス・コンテンツによる身体・感
覚・行動への影響の仕組みやリスクの明確化及びこれらに関する教育と、コンテンツ提供者への
ベストプラクティスの共有について、今後の実施が期待される。54図 30 VR・AR 等特有の影響・課題に対する、今後期待される対策
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97)(3)デバイスの進化を踏まえた UI・UX の変化とその影響
VR・AR 等を用いたメタバースの新しい UI を通じて人々の体験や認識がどのように変わり得るか
を整理する。まず入出力デバイスの進化の方向性を開発動向からまとめ、その変化によって生じ
得る社会への影響を正の影響、負の影響に分けて整理する。
まず VR・AR 等を用いたメタバースにおける入力・出力デバイスの開発動向について、入力デバ
イスは、現状のコントローラでの直感的な操作の難しさ(例えば物を掴む動作に難しさを感じる
など)を受け、ハンドトラッキングやアイトラッキング、音声認識など、体の動きの検知によっ
てより直感的なアバター操作を実現する方向性となっており、
今後の操作性の向上が見込まれる。
出力デバイスは、より現実同様の体験ができるよう、アイトラッキングによる常に鮮明な映像の
維持や、立体音響の精度向上による没入感の向上、手袋型のデバイスなどによる仮想空間上の触
覚の再現など、より没入感を増す表現を実現する方向性となっており、今後の表現力の向上が期
待される。
デバイスの開発動向から想定される社会への影響を考えると、操作性の向上から想定される影
響として、VR 酔いの低減や、より没入感の高い体験が得られると考えられる。一方、コンテンツ
開発負荷の増加や、
所持デバイスの差によるメタバース体験の格差などが生じ得ると考えられる。
メタバース上での社会形成の観点では、高齢者や障がい者等の新たな活躍の場としてメタバース
上での社会参画が増加する可能性がある一方、メタバース上での生活時間が増える事による物理
空間でのコミュニケーション低下や、メタバース上で形成された社会におけるいじめ・ハラスメ
ントが生じる可能性もある。業務においては、例えば製造業などにおける設計でメタバースを利
活用することで、複数人で同じ対象物を見たり触ったり、コミュニケーションを取ったりしなが
ら設計を進めることが可能になるなど付加価値向上も想定される。
また、表現力の向上による社会への影響を想定すると、よりリアルな NPC による没入体験の向
上や、アバターの外見が行動や認知に影響を及ぼすプロテウス効果等を用いた、物理世界だけで55は実現できないトレーニングや心理療法による、身体能力向上や精神状態の改善が考えられる。
一方、もしそれらの技術が悪用された場合は、NPC によるナッジの影響やフィルターバブル・エ
コーチェンバー等が発生する可能性、身体能力や精神状態への負の影響が生じる可能性もある。
このように、UI・UX の変化に伴う影響については、正と負の両面が想定されることから、正の
影響を増大させ、負の影響を最小化していくことが期待される。
図 31 VR・AR 等を用いたメタバースにおける UI・UX の進化とその影響
(出典:第7回研究会 日本総合研究所御発表資料 97
より一部編集)
第7回研究会ではリアル・バーチャルの融合を目指す取組として、
表情豊かな 3D アバターを構
築・再現する技術が紹介された。この技術は、遠隔会議であっても心の機微を自然に伝え合える
ようなコミュニケーションの実現のため、動作や微細な表情変化を反映したフォトリアルなアバ
ターを Web カメラ1台で構築することができる。今後もこうした物理空間と仮想空間の橋渡しと
なる技術の発展により、実世界での人々の活動が飛躍的に拡大する未来社会の到来が期待されて
いる。56図 32 自然な表情や動作を再現する 3D アバター技術
(出典:第7回研究会 安藤構成員御発表資料102)102
国立研究開発法人情報通信研究機構 安藤広志. "リアル・バーチャル融合のテクノロジーと未来
社会(資料7-3)". 総務省 Web サイト. 2024年05月24日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000947592.pdf, (参照 2024年06月27日).57第4章 メタバースに関する様々な利活用事例
メタバースに関する利活用の進展については、
前研究会において多くの事業者等より様々な利活
用事例が紹介された。また前研究会の報告書にて「さらなる多様なユースケースの展開」の動向に
ついて引き続きフォローアップを行う必要性が示されたことから、本研究会においても、最新の利
活用事例についての紹介を受け、それらに対する意見交換を行った。
本章では、
本研究会で紹介された事例を大きく2つに分け、
今後のメタバースの利活用において、
より自然なコミュニケーション体験や各種コンテンツの創作ハードルの緩和等に大きな影響を与
え得る「メタバースと生成 AI の連携」に関する事例と、今後メタバースのユーザ増加が見込まれ
るところ、より安心・安全なメタバースの利活用に向けた取組である「メタバースを利活用するに
当たっての課題解決」についての事例をそれぞれ示す。
(1)メタバースと生成 AI の連携
生成 AI の技術が急速に発展している中、メタバースの開発やサービス提供においても様々な
形で生成 AI との連携が始まりつつある。
本節では、
本研究会で紹介された3つの事例について示
す。
各事例に関する意見交換においては、NPC や AI アバターを利用する際の明示の在り方、NPC や
AI アバターに対するハラスメント等への対応、NPC や AI アバターの利用がユーザの認知や行動
に与える影響
(ナッジ)、生成 AI によるハルシネーション
(幻覚)
の影響等の観点が議論された。
1 生成 AI を活用した対話アバター
近年、顧客と企業の接点が多様化してきており、特に新型コロナウイルス感染症の拡大時
期以降は対面チャネルの利用が激減し、
チャットボットや SNS といった新たなチャネルの利
用が増加してきている。その中でもメタバースは、既存チャネルの特徴の多くを兼ね備える
ことから注目が集まってきており、AI によって動作する無人アバター(AI アバター)をメ
タバース上に配置することで、
多様なコミュニケーション方法をもって人手を使わずに顧客
との接点を持つことができるとされている。
本研究会で紹介された事例では、対話内容の生成やアバターの動作の選択に生成 AI を活
用した AI 音声対話アバターによって、無人でも自然なコミュニケーションが行えるように
なり、メタバース上での新たな顧客接点の創出に役立つことが示された。また、人間(ユー
ザ)対 AI のコミュニケーションであっても、メタバース上では双方がアバターを介してい
ることで、
「人間が AI に話しかける」という行為のハードルが大きく下げられることも実例
を交えて示された。
本研究会での意見交換においては、
現状の AI アバターによる対話能力を 100%生かすため
には、ユーザ側が対話の相手を AI と認識していた方が適切なコミュニケーションを取れる
と考えられることが指摘された。また、今後更に AI の性能が向上し、AI アバターの言動・
行動が人間の判断に影響を与えかねない状況になった場合は、
サービス提供者側が一定のポ
リシーを定めた上で運用をすべきである、
との意見も示された。
AI アバターに対してハラス
メントのような不適切な言動・行動があった場合、
該当事例については、AI アバターの管理
者(クライアント)に報告をする、AI アバター側から「
(ハラスメントを)やめてほしい」58旨を明示的に伝えるインターフェースを用意する、
といった対応をしているとのことであっ
た。
図 33 生成 AI を活用した対話アバターの例
(出典:第6回研究会 アドバンスト・メディア御発表資料103)2 NPC の自動生成及び活用
メタバースでは様々な空間が提供され、それらが生活空間や社会活動の場として発展して
いく可能性を秘めている一方、
現状は十分なにぎわいを創出しきれていない空間が多く存在
するとの指摘がある。これに対し、NPC をメタバース内に多数配置することで疑似的な「に
ぎわい感」を確保したいというニーズがあるが、従来、NPC の製作には手間・コストがかか
るという問題があった。
本研究会で紹介された事例では、生成 AI を活用した NPC の製作効率化の一例として、
「行
動ロジック生成 AI」による効率化とその効果が示された。NPC の行動ロジックは「ビヘイビ
アツリー」と呼ばれる、行動実施時の条件や順番とその内容を表すノードをツリー状に表現
したもので規定されることが一般的であり、
このビヘイビアツリーを開発者の入力するプロ
ンプト(指示)に従い自動生成する AI を利用することにより、人手での生成時間に比べて
約 86%の時間削減が見込めるとの試算104
が得られたとのことであった。
本研究会での意見交換においては、製作した NPC を利用する際は、ユーザの不信感をあお
らないためにも NPC であることを明示すべきであるとの意見や、
「にぎわい感」の創出には
各 NPC の行動ロジックが単一でないことが重要であり、その点で行動ロジック生成 AI によ
って多様な行動ロジックを低コストで得られることは有用であるとの意見が示された。103株式会社アドバンスト・メディア. " VR アプリ向け AI 音声対話アバター AI Avatar AOI による
新たなタッチポイントの創造(資料6-1)". 総務省 Web サイト. 2024年04月16日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000941976.pdf, (参照 2024年06月27日).104株式会社 NTT ドコモ. "「ノンプレイヤーキャラクター自動生成技術」の取り組みご紹介(資料
6-2)". 総務省 Web サイト. 2024年04月16日, https://www.soumu.go.jp/main content/000941975.pdf,
(参照 2024年06月27日).59図 34 ビヘイビアツリーによる NPC の行動ロジックの規定
(出典:第6回研究会 NTT ドコモ御発表資料 104)3 メタバースの産業応用(インダストリアルメタバース)
一般消費者・個人向けのメタバースの取組が推進されている一方で、メタバースの産業応
用の取組(インダストリアルメタバース)が始まっている105
。これは以前から「デジタルツ
イン」と呼ばれていた、物理空間上の装置や環境を仮想空間上に再現してシミュレーション
や検証等を行う取組の延長線上にあるものとされる。
本研究会で紹介された事例では、鉄道車両の 3D モデルを配置したメタバース空間上に、
設計情報や説明動画等の各種情報を蓄積・管理・表示することで、直感的な情報提示と操作
が可能となるだけでなく、
複数のステークホルダーが同じメタバースを参照することで迅速
な意思決定が可能となることが示された。また、生成 AI の利用に当たっては、メタバース
空間上であれば、「『これ』の右上の警告ランプ」といった、ある特定の空間を指すような情
報を生成 AI に入力して理解させることができ、
それによって適切な情報を生成 AI から得る
ことができるとの利点も紹介された。
研究会での意見交換においては、インダストリアルメタバースの典型的な適用先の1つで
ある社会インフラ関連のミッションクリティカルな業務では、生成 AI のハルシネーション
が大きな問題になるため、
既存の技術等も組み合わせてのファクトチェックの仕組みを備え
ることが重要であるとの意見が示された。105本報告書第1章(3)に挙げたとおり、例えば英国での取組がみられる。60図 35 インダストリアルメタバースにおける生成 AI 活用の例
(出典:第6回研究会 日立製作所御発表資料106)(2)メタバースを利活用するに当たっての課題解決
第1章で触れたようにメタバースの市場規模は今後も拡大する予測があることを踏まえると、
青少年を含むユーザ増加と、それに伴う様々なトラブルの増加も予想される。そこでトラブル発
生等の諸課題を解決・防止するための取組が始まってきていることから、その事例を示す107。1 安心・安全なメタバース空間の実現に向けたセキュリティガイドラインの公表
第1章(2)でも触れたように、一般社団法人メタバース推進協議会に設置されたセキュ
リティ分科会は、他の業界団体等と連携し、安心・安全なメタバースの実現・普及を目的と
して 2023 年 12 月に「メタバースセキュリティガイドライン(第2版)」15
を公表した。
本ガイドラインでは、ユーザや事業者等のメタバースに関わる全ての関係者に対して、情
報セキュリティや利用環境上の課題と解決策を解説するとともに、安心・安全にメタバース
を利用・運用するために必要と考えられる要件が示されている。106株式会社日立製作所 影広達彦. "5D 現場拡張に向けたインダストリアルメタバース(資料6-
3)". 総務省 Web サイト. 2024年04月16日, https://www.soumu.go.jp/main content/000941974.pdf, (参照
2024年06月27日).107事例の掲載は本研究会内での発表順としている。61図 36 セキュリティガイドライン(第2版)の構成等
(出典:第2回研究会 メタバース推進協議会御発表資料 16)2 メタバース・リテラシーの向上のためのガイドブックの公表
第1章(2)でも触れたように、一般社団法人日本デジタル空間経済連盟に設置されたメ
タバース・リテラシー検討委員会は、ユーザや関連事業者のメタバースに対する一定の知識
や倫理観といった「メタバース・リテラシー」の向上を目的とし、2024 年1月に「メタバー
ス・リテラシー・ガイドブック」25,26
を公表した。
このガイドブックは、メタバースを利用する際に知っておきたいことを 10 個のテーマご
とにイラストを用いながらわかりやすく解説した「ユーザー向け」と、それらに対する事業
者向けアドバイスを追記した「事業者向け」の2種類が公表されており、それぞれの立場・
役割からリテラシー向上のための知識を習得できるよう配慮されている。
図 37 メタバース・リテラシー・ガイドブックの表紙と目次
(出典:第3回研究会 日本デジタル空間経済連盟御発表資料 24)62
3 青少年を対象としたメタバースの適正利用の啓発
インターネットやオンラインゲームのユーザの低年齢化が進む中で、同様にメタバースに
おいてもユーザの低年齢化が進み、これに伴うトラブルの発生・増加が懸念されている。そ
こで、青少年を対象としたメタバースの適正利用に向けた啓発活動が始まっている。
本研究会で紹介された事例では、小学4年生から高校3年生の青少年とその保護者等に向
けた東京都による「メタバース教室」108
において、参加者が実際にメタバース空間に入り、
メタバースの機能や特性を体験しながら、メタバース上で典型的に起こり得る、利用時間・
お金のトラブル、アバター・コミュニケーションにまつわるトラブルと、その対処法につい
て理解を深めていく様子が示された。
図 38 メタバース上で起こり得るトラブルの例とその対処法
(出典:第4回研究会 東京都御発表資料109)コラム:生成 AI の台頭
生成 AI とは、ユーザの入力(指示内容をテキストで表現した「プロンプト」等)に応じて何ら
かの生成物を出力
(生成)
する AI の総称である。
生成 AI は、
その目的に応じてテキスト
(文章)、画像、動画、音声など様々な生成物を出力可能であり、近年の技術革新により、誰でも簡単に高
度な生成物を得られるようになってきている。
本コラムでは、
生成 AI の台頭とそれに伴う動きに
ついて概観する。108東京都生活文化スポーツ局. "東京都初開催!! 親子で体験してみよう! メタバース教室".東
京都 Web サイト. 2023年08月28日,
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2023/08/28/11.html, (参照 2024年06月27日).109東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部. "「メタバース教室」開催結果について(資料4-
1)". 総務省 Web サイト. 2024年02月15日, https://www.soumu.go.jp/main content/000928426.pdf, (参照
2024年06月27日).631 世界の生成 AI 市場規模
ディープラーニング(深層学習)技術の登場を契機とした「第3次 AI ブーム」110
により、
AI の社会実装が急速に進展し、BtoC、BtoB を問わず様々な用途・場面に AI を活用したサー
ビスが実用されるようになった。
第3次 AI ブーム以降に実用が進んだ AI 技術の主な用途と
しては、数値予測、音声認識、画像認識、最適化等が挙げられる。これに加え、2022 年 11
月に OpenAI が発表111
した対話型 AI サービス「ChatGPT」の登場により、文章・画像の作成
といった「創造的な」用途での AI 活用が急速に進んだ。ChatGPT は、その公開からわずか2
か月後には全世界でのユーザ数が1億人を突破112
し、日常・ビジネスの両面で多くのユーザ
が利用している。これを皮切りに様々な生成 AI が利用され、世界での市場規模は 2023 年に
670 億ドルとなり、2032 年までの 10 年間で約 33 倍の市場規模に成長すると予測されてい
る。
図 39 世界の生成 AI 市場規模予測
(出典:Bloomberg(Statista より引用)113)2 ChatGPT 等の生成 AI サービスの活用
前述のとおり ChatGPT は、
2022 年に登場した際に自然な文章生成が可能なことで大きな話
題となり、多数のユーザを獲得するに至った。ChatGPT には、LLM(Large Language Model:
大規模言語モデル)という生成 AI の技術(AI モデル)が搭載されており、OpenAI は複数の
種類や形式のデータに対応したマルチモーダル LLM として 2023 年3月に「GPT-4」114
を、さ110AI は、その研究開発や社会実装が進む「ブーム」と、その勢いが落ち着く「冬の時代」を繰り
返しており、現在は生成 AI の台頭によって「第4次 AI ブーム」に入ったともいわれる。111OpenAI. "Introducing ChatGPT." OpenAI Website. November 30, 2022.
https://openai.com/index/chatgpt/. (参照 2024年06月27日).112森健, 林浩之. "日本の ChatGPT 利用動向(2023 年 4 月時点)". 野村総合研究所 Web サイト.
2023年05月26日, https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0526 1, (参照 2024年06月27日).113Bloomberg. "Generative artificial intelligence (AI) revenue worldwide from 2020 with forecast until 2032
(in billion U.S. dollars)." Statista. June 1, 2023. https://www.statista.com/statistics/1417151/generative-ai-
revenue-worldwide/. (参照 2024年06月27日).114OpenAI. "GPT-4 is OpenAI's most advanced system, producing safer and more useful responses."
OpenAI Website. March 14, 2023. https://openai.com/index/gpt-4/. (参照 2024年06月27日).64らに 2024 年5月には「GPT-4o」115
を公表しており、それらを順次 ChatGPT へ搭載し、その
性能向上及び機能拡充を続けている。例えば GPT-4o では、文章(テキスト)でのやりとり
だけでなく、ユーザがカメラ越しに周囲の景色を見せてその状況を理解させる、ユーザが指
定した感情表現等を踏まえながら音声を生成させる、Web 会議の内容をリアルタイムに要約
させる、などといった、より高度・より多様な使い方が、実用的な応答速度で可能になって
きている。
図 40 GPT-4o の利用デモ
(左:カメラ越しでの GPT-4o との会話の例、右:GPT-4o を交えての Web 会議の例)
(OpenAI の映像 115
を基に事務局作成)
また、この1年ほどで LLM の日本語対応に向けた取組も進んできており、例えば情報通信
研究機構(NICT)は 2023 年7月に日本語に特化した LLM を試作したことを公表116
した。他
にも、
NTT が 2023 年 11 月に世界トップレベルの日本語処理性能を持つ LLM として
「tsuzumi」
を公表117
し、
2024 年 3 月にはその商用提供を開始118
しており、
さらには 2024 年4月に OpenAI
が日本オフィスの開設及び日本語に最適化された GPT-4 カスタムモデルの提供開始を公表119している。
LLM 以外にも、特定の目的に適した生成 AI として、例えば画像生成に適した GAN
(Generative Adversarial Network:敵対的生成ネットワーク)とその発展型の各種技術や
Diffusion model
(拡散モデル)
等も急速にその利活用が進んできたが、
前述の GPT-4 と GPT-
4o のようなマルチモーダル機能を備えた LLM が登場していることから、生成 AI のサービス
適用は今後 LLM を中心としながら拡大していくとみられる。115OpenAI. "Hello GPT-4o." OpenAI Website. May 13, 2024. https://openai.com/index/hello-gpt-4o/. (参照
2024年06月27日).116国立研究開発法人情報通信研究機構. "日本語に特化した大規模言語モデル(生成 AI)を試作".
情報通信研究機構 Web サイト. 2023年07月04日, https://www.nict.go.jp/press/2023/07/04-1.html, (参照
2024年06月27日).117日本電信電話株式会社 NTT 人間情報研究所. "NTT 版大規模言語モデル「tsuzumi」". NTT R&D
Web サイト. 2024年04月25日 更新, https://www.rd.ntt/research/LLM tsuzumi.html, (参照 2024年06月27日).118日本電信電話株式会社. "NTT 版 LLM「tsuzumi」商用開始!". NTT Web サイト. 2024年03月25日,
https://group.ntt/jp/magazine/blog/tsuzumi20240325/, (参照 2024年06月27日).119OpenAI. "Introducing OpenAI Japan". OpenAI Website. April 14, 2024.
https://openai.com/index/introducing-openai-japan/. (参照 2024年06月27日).65このように、国内外を問わず生成 AI の利活用の機会が拡大の一途を辿る中、政府として
はこれまでに総務省や経済産業省が AI 関連の各種ガイドラインを公表してきたが、それら
のガイドラインを踏まえ、我が国における AI ガバナンスの統一的な指針を示すため、総務
省及び経済産業省は 2024 年4月に「AI 事業者ガイドライン(第 1.0 版)
」を公表120
した。
ここまでに述べたような生成 AI の発展や、その利活用の拡大に向けたガイドライン等の
整備の進展から、今後も更に生成 AI の台頭は続いていき、本章に挙げた事例のように、メ
タバースにおいても様々に生成 AI が利活用されていくであろう。
図 41 AI 事業者ガイドライン(第 1.0 版)の構成
(出典:AI 事業者ガイドライン(第 1.0 版)121)120
総務省, 経済産業省. "「AI 事業者ガイドライン案」に関する意見募集の結果及びガイドライン
の公表". 総務省 Web サイト. 2024年04月19日, https://www.soumu.go.jp/menu news/s-
news/01ryutsu20 02000001 00010.html, (参照 2024年06月27日).121総務省, 経済産業省. "AI 事業者ガイドライン(第 1.0 版)". 総務省 Web サイト. 2024年04月19日,
https://www.soumu.go.jp/main content/000943079.pdf, (参照 2024年06月27日).66第5章 今後の検討事項
本研究会では、
第2章で触れたように、
メタバースにおける民主的価値を実現し、
ユーザが安心・
安全にメタバースを利用していくために、
メタバース関連サービス提供者の役割が重要であるとの
認識の下、メタバースの原則(第 1.0 版)を取りまとめた。
今後、メタバースの原則(第 1.0 版)を踏まえ、国際的な議論を喚起するとともに、共通認識の
形成に向けた働きかけを実施していくことが期待される。
また、メタバースに関する技術動向、メタバースに関する様々な利活用事例については、第3章
及び第4章で触れたとおりであるが、本研究会で検討を進めている間にも、注目すべき XR デバイ
スが登場するなど、日進月歩で進化している。ユースケースについても、アバターによる交流のほ
かに、産業利用が更に進むことが見込まれる。
メタバースの自主自律の考え方を尊重しつつ、
メタバース関連サービス提供者やユーザがメタバ
ースの利活用を広げられるよう、メタバースの実現・利用を可能とする没入型技術全般について、
人体や精神にもたらす影響等にも目を向けながら、
市場の動向やユースケースとともにフォローし
ていくべきである。また、総務省においては、必要に応じて利活用の環境整備等を行っていくこと
が求められる。
なお、メタバースに関する今後の取組等について、メタバース関連業界全体の発展を目指し、業
界団体、関係事業者と意見交換を行うなど、業界団体等との連携、協力の強化を図っていくことが
望まれる。
以下、今後の検討事項について次のとおり整理する。本報告書を公表した後、これらの事項につ
いて、引き続き、本研究会において検討を進めることが適当である。
(1)メタバース等に関する国際的な議論の状況フォロー
1 国際的な共通認識の醸成
2023 年4月の「G7 群馬高崎デジタル・技術大臣会合」や同年5月の「G7 広島サミット」
において確認された民主的な価値に基づくメタバースの発展を念頭に、
本研究会が取りまと
めたメタバースの原則(第 1.0 版)や本報告書を踏まえ、ユーザにとってより安心・安全な
メタバースを実現するため、民主的な価値を具現化させつつ、国際的な共通認識の形成に向
けた議論に貢献していくことが求められる。
2 国際動向の把握
我が国においてメタバースの普及・発展を目指すとともに、
上記の国際的な議論を喚起し、
共通認識の形成に向けた働きかけを実施していくためには、海外の国や地域、国際機関等に
おいていかなる政策が展開され、議論が行われているか、メタバースをめぐる国際情勢を的
確に把握していくことが求められる。67第1章においては、米国、EU、英国、中国、韓国のほか、国際機関等における議論につい
て取りまとめたが、今後も主要な国や地域の動向を把握しつつ、国内の関係者にも展開を図
っていくことが期待される。
(2)リアルとバーチャルの融合の進展、没入型技術全般を用いた多様なメタバースの利活用
促進に係る課題等の検討
1 リアルとバーチャルの融合の進展が社会に与える影響等についての検討
物理空間と仮想空間はインタラクティブなものであり、メタバースの活用やその発展が、
物理空間における生活様式や思考を変えていくことも予想される。また、本研究会でも紹介
されたフィルターバブル、エコーチェンバー等の問題について、メタバースという仮想空間
においても本格的に顕在化してくる可能性がある。加えて、本研究会ではこれまで VR を活
用した仮想空間をメタバースの議論の中心に置いてきたが、
最近では AR・MR の実装が進む中
でこれらの没入型技術全般を活用したメタバースも多く見られ、リアル(物理空間)とバー
チャル(仮想空間)は相互に作用しつつその融合が一層進展することが見込まれる。
そのような状況においては、メタバース関連サービス提供者が提供するサービスの設計や、
ユーザが選択・設定する没入環境に依拠してリアルとバーチャルが融合されるため、同じ対
象を見ている場合であっても、
同一の見え方が共有されない事態も起こり得るところであり、
ある空間が持つ公共性をめぐる議論にも影響する可能性がある。
また、第4章で紹介したようなコンテンツ生成以外にも、デジタルツインの空間構築やシ
ミュレーションなどにも AI は活用され得る。
こうしたことを踏まえ、メタバースにおける没入型技術や AI 等の活用が、ユーザの認知
や言動に影響し、
ひいてはユーザの社会参画の在り方にも影響する可能性が見込まれること
について、実態やそれに伴う問題等の把握に向けた検討を行うことが求められる。
なおその際、リアルとバーチャルの関係性に応じ、問題の焦点に差異が生じ得る点を認識
しておくことが必要と考えられる。
2 没入型技術全般を用いた多様なメタバースの利活用等に関する動向の把握
これまで議論の中心であったコミュニケーションを主目的とするメタバースが一定の認
知を得ると同時に、
産業面においても没入型技術全般を用いたメタバースの利活用が活発に
なされていることを踏まえ、
改めてメタバースに関連する様々なステークホルダーを整理し
て把握するとともに、国内外の市場や技術、制度(ソフトローを含む)等の動向に関する調
査のほか、インダストリアルメタバースや行政、医療、教育現場等での利活用事例などを含
むユースケースを幅広く調査し、
没入型技術全般をユーザが主体的に活用したメタバースの
メリットや普及に向けた課題を整理することが求められる。
なお、メタバースの定義について、前研究会報告書において、
「ユーザ間で「コミュニケー
ション」が可能な、インターネット等のネットワークを通じてアクセスできる仮想空間」で
あると定義したうえで、
仮想空間が、
次のi〜ivを備えている場合に、
これを
「メタバース」
と呼称することとしていた。68i 利用目的に応じた臨場感・再現性があること(デジタルツインと同様に物理空間を再
現する場合もあれば、簡略化された物理空間のモデルを構築する場合、物理法則も含め異な
る世界を構築する場合もある)
ii 自己投射性・没入感があること
iii (多くの場合リアルタイムに)インタラクティブであること
iv 誰でもが仮想空間に参加できること(オープン性)
海外では、VR、AR・MR といった没入型技術を、仮想空間、メタバースを実現・利用するた
めの技術と位置付け、仮想空間の一種であるメタバースと区別していることや、上記で定義
されたメタバースに限定されない、
没入型技術全般を多様な目的で用いているメタバースの
利活用促進が ICT 産業の発展やイノベーションの創出に資すると考えられることから、
広く
没入型技術全般についてフォローしていくことが適当である。
なお、メタバースがいかなる技術と結びついて、どのような形で発展していくか、現時点
で必ずしも見通すことができないことから、没入型技術の利活用を中心としつつ、いわゆる
2D メタバースなども含め、広く動向をフォローすることが適当である。
3 没入型技術に特有の影響・課題、望ましい利用の在り方についての検討
没入型技術のうち特に VR ゴーグルや AR スマートグラス等のメタバースを利用(アクセ
ス)するための技術である XR デバイスについては、近年、青少年を含めて利用が増加して
いるところであり、今後も性能の向上等に伴って市場の拡大が見込まれている。没入型技術
を用いたメタバースについては、様々な活用方法がある反面、文献調査においてはプラスの
方向のものやマイナスの方向であっても軽微なものを含め身体的、精神的な影響・課題があ
ることが指摘されていることは第3章で触れたとおりである。
こうしたことを踏まえ、没入型技術を用いたメタバースの利用が人々の身体、感情・行動
等に影響し、
そのポテンシャルを拡張させる仕組みやそれに伴うリスクの有無を明らかにし、
望ましい利用の在り方を検討すべく、調査研究・実証を行うことが求められる。
4 メタバースに係るコンテンツの創作・流通等の市場動向の把握
メタバースがいかなる性質の空間として設計され、いかなる者が参加するものであっても、
コンテンツが提供されて初めてサービスとして成立するものである。生成 AI が台頭する中
で、少数のプラットフォーマーが市場を支配するのではなく、クリエイターが生成 AI と共
存しながらメタバースでコンテンツを創造し、その権利が守られ、適正な対価が得られる環
境を構築することが望まれる。
こうしたことを踏まえ、クリエイターを含むメタバースに関連する様々なステークホルダ
ーの動向やそれぞれの関係性の理解を通じて、
メタバースに係るコンテンツとして今後どの
ようなものが創作され、流通していくのか、市場の動向をフォローすることが求められる。695 その他
1〜4に加え、メタバースの発展やこれに伴うユーザが担う役割の多様化、国内外の議論
の動向を踏まえて、また、メタバースの普及が大きく進み、現在の SNS と同様の社会的影響
力を持つようになる可能性も見据えながら、
必要な事項について検討することが適当である。
その際、メタバースの原則(第 1.0 版)についても、必要に応じてその内容を見直すことが
適当である。70おわりに
近年、インターネットの世界に危機が訪れているという。生成 AI が作る偽情報が氾濫し、SNS は
誹謗中傷で機能しなくなるなど、
インターネットを取り巻く環境の悪化が深刻になっている。
最近、
あるビジネス雑誌は「瀕死のインターネット」という衝撃的な言葉でこの現状を表現し、特集を組
んだ。
本研究会は「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」と称し、メタバースに関わる様々
な関係者から、メタバースの健全な発展に向けて、それぞれの立場からの取組を紹介いただいた。
メタバースもインターネットを介して多数の者が参加する仮想空間である以上、
インターネットを
めぐる様々な課題と向き合い、適切に対応していくことが求められる。そのため、本研究会で取り
まとめたメタバースの原則(第 1.0 版)をはじめ、これまでの議論については、総務省で同時期に
開催している「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」における、
デジタル空間の健全性の議論を参照している。
2024 年1月に発生した能登半島地震では、
インターネット上の偽・誤情報が社会を混乱させた一
方、デジタル技術が救助活動や避難生活に大いに役立てられた。また、被災した輪島朝市をデジタ
ル空間で表現した復興応援イベントが企画されたり、
有志ボランティアがメタバースでチャリティ
ライブを開催したりするなど、リアルとバーチャルが連動した新たな取組も行われた。
メタバースは高度なインフラやデバイスに支えられたデジタル技術の結晶であり、
メタバースで
こそ解決に適した社会課題も多い。メタバースの将来が思い描くようなものとなるかは、技術を利
用していく人間社会の努力にかかっている。メタバース関連サービス提供者はもとより、国、ユー
ザなど様々な主体がそれぞれの責任を果たしていかなくては、安心・安全なメタバースの実現は困
難である。
様々な可能性を秘めたメタバースの、10 年先、20 年先に見える景色はどのようなものであろう
か。我が国の伝統や文化に根差したメタバースがグローバルに存在感を発揮し、インクルーシブな
空間で豊かなコミュニケーションが成立していることを願いたい。
最後に、
本報告書の作成に当たり、
研究会や事務局におけるヒアリングに御協力いただいた皆様、
本研究会に参加いただいた構成員各位に厚い感謝を申し上げる。1(参考1)開催要綱
安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 開催要綱
1 目的
メタバースはまだ黎明期であり、将来的に市場規模及びユーザ数が大幅に増加す
ることを見据え、
ユーザにとってより安心・安全なメタバースの実現に向け、民主的
価値に基づく原則等を検討するとともに、メタバースに係るサービスが国境を越え
て提供されることを踏まえ、国際的なメタバースの議論にも貢献することを目的と
する。
また、
本研究会は、
「Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会」
(以下「前研究会」という。
)報告書において提示されたメタバース等の発展に向け
た課題と課題解決の方向性のうち、継続的なフォローアップが必要とされたものに
ついて、引き続き検討を行うものとする。
2 名称
本研究会の名称は、
「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」とする。
3 研究事項
(1)メタバースの民主的価値に基づく原則等に関連する事項
(2)国際的なメタバースの議論に関連する事項
(3)前研究会報告書に関連する事項(4)(1)から(3)に掲げる事項のほか、メタバース等に関連する事項
4 構成及び運営
(1)本研究会は、総務省情報通信政策研究所長の研究会として開催する。
(2)本研究会の構成員は、別紙のとおりとする。
(3)本研究会には、座長及び座長代理を置く。
(4)座長は、研究会構成員の互選により定めることとし、座長代理は座長が指名す
る。
(5)座長は、本研究会を招集し、主宰する。また、座長代理は、座長を補佐し、座長
不在のときは、座長に代わって本会を招集し、主宰する。
(6)本会は、必要があるときは、構成員以外の者の出席を求め、意見を聞くことがで
きる。
(7)座長は、必要に応じて、ワーキンググループ等を開催することができる。
(8)ワーキンググループ等の構成員及び運営に必要な事項については、座長が定め
るところによる。
(9)その他、本研究会の運営に必要な事項は、座長が定めるところによる。25 議事の公開
(1)本研究会の会合は、原則として公開とする。ただし、公開することにより、当事
者又は第三者の権利、
利益又は公共の利益を害するおそれがあると座長が認める
場合その他座長が必要と認める場合には、非公開とする。
(2)本研究会の会合において配付した資料については、原則として総務省のWeb
サイトに掲載し、公開する。ただし、資料を公開することにより、当事者又は第
三者の権利、
利益又は公共の利益を害するおそれがあると座長が認める場合その
他座長が必要と認める場合には、非公開とする。
(3)本研究会の会合であって、非公開とするものについては、原則として、その終了
後に、議事要旨を作成し、総務省のWebサイトに掲載し、公開する。
6 その他
(1)本研究会の庶務は、情報流通行政局参事官の協力を得て、総務省情報通信政策
研究所調査研究部が行う。
(2)前研究会については、本研究会の開催をもって終了とする。3安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 構成員
(令和6年4月1日時点)
座長 小塚 荘一郎 学習院大学法学部 教授
座長代理 栄藤 稔 大阪大学先導的学際研究機構 教授
構成員 雨宮 智浩 東京大学情報基盤センター 教授
安藤 広志 情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーショ
ン研究所先進的リアリティ技術総合研究室 上席
研究員
石井 夏生利 中央大学国際情報学部 教授
出原 立子 金沢工業大学情報フロンティア学部 教授
江間 有沙 東京大学国際高等研究所東京カレッジ 准教授
大屋 雄裕 慶應義塾大学法学部 教授
岡嶋 裕史 中央大学国際情報学部 教授/政策文化総合研究
所 所長
木村 朝子 立命館大学情報理工学部 教授
塚田 学 東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授
辻 大介 大阪大学大学院人間科学研究科 教授
仲上 竜太 日本スマートフォンセキュリティ協会技術部会
部会長
増田 雅史 森・濱田松本法律事務所 パートナー
安田 洋祐 大阪大学大学院経済学研究科 教授
(座長、座長代理を除き五十音順)
オブザーバー
内閣府知的財産戦略推進事務局 参事官
金融庁総合政策局イノベーション推進室 課長補佐
デジタル庁戦略・組織グループ Web3.0 政策担当 法令専門官
経済産業省商務情報政策局コンテンツ産業課 課長補佐
国土交通省都市局国際・デジタル政策課 国際・デジタル政策企
画調整官
別 紙4(参考2)開催実績567891011121314151617(参考5)メタバースに関する用語整理
(Web3 時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会報告書 P25 より抜粋・編集)
用語整理
Web3 時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会での議論の対象については新規
分野として現時点で確立した用語の定義が存在しないものも多いため、
研究会における議論
等を踏まえ、以下のとおり用語を整理することとした。
ア.メタバース
ユーザ間で
「コミュニケーション」
が可能な、
インターネット等のネットワークを通じて
アクセスできる仮想空間。メタバースについてさまざまな「定義」が提唱されているが、本
報告書における用語の整理としては、
仮想空間が、
次のi〜ivを備えている場合に、
これを
「メタバース」
と呼称することとする。
なお、
個々の仮想空間サービスにおいて下記のそれ
ぞれの要素があると言えるか否かについては、一般に利用される技術水準と対照した上で
考えることが必要である。
i 利用目的に応じた臨場感・再現性があること(デジタルツインと同様に物理空間を
再現する場合もあれば、簡略化された物理空間のモデルを構築する場合、物理法則も含め
異なる世界を構築する場合もある)
ii 自己投射性・没入感があること
iii (多くの場合リアルタイムに)インタラクティブであること
iv 誰でもが仮想空間に参加できること(オープン性)
また、
多くの場合は 3D の仮想空間として構築され、
VR デバイスを必須とするものもある
が、スマートフォンなど一般のデバイスから利用可能なものもあり、ビジネス向けの一部
には 2D で構築されるものもある。なお、次のv〜viiのいずれか又は全てを備えている場合
もある。
v 仮想空間を相互に接続しユーザが行き来したり、アバターやアイテム等を複数の仮
想空間で共用したりできること(相互運用性)
vi 一時的なイベント等ではなく永続的な仮想空間であること
vii 仮想空間でも物理空間と同等の活動(例:経済活動)が行えること18「メタバース」と関連する用語の概念図1
(出典:第7回 Web3 時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会資料を
一部改変)
イ.デジタルツイン
物理空間の物体・状況を仮想空間上に「双子」のように再現したもの。製造工程、都市設
計、医療、健康、環境など多様な分野でのシミュレーションや最適化、効果・影響・リスク
の評価、意志決定などでの活用が進んでいる。物理空間の再現度は目的に応じて変わり得
るほか、犯罪やテロ等の危険がある場合等には物理空間の一部をマスク・簡略化して再現
することもある。ウ.(メタバース)プラットフォーム
メタバースを構築したり利用したりするための基盤。メタバースを構築するための機能
や素材、法則やルールなどを提供するもの、ユーザの認証・管理やアイテム等の管理、コミ
ュニケーション機能、
契約・取引などの基盤的サービスを提供するもの、
すぐに利用できる
ようにメタバースの基本的なサービス自体を運営・提供するものなど、
多岐にわたる。
プラ
ットフォームを提供する事業者をプラットフォーマーと呼ぶ。
エ.ワールド(バースともいう。)プラットフォーム上で構築・運用される、メタバースの個々の「世界」
。ワールド間の移
動可否については、移動が可能な場合と不可能な場合があり、ワールド提供事業者が異な
ると移動できない場合、ワールド提供事業者が異なっても移動可能な場合、ワールド提供
事業者が同じでもプラットフォームが異なると移動できない場合、など現状では様々であ
る。ワールド提供事業者が同じであってもプラットフォームが異なる場合には、移動でき1※(注記)1 物理空間を再現する場合、いわゆる「デジタルツイン」の場合もあれば、簡略化された物
理空間のモデルや物理法則も含め異なる世界を構築する場合もある。
※(注記)2 プラットフォーマーがワールドを提供する場合(図のワールド Ba)もある。
※(注記)3 プラットフォーマーやワールド提供事業者の場合もある。コンテンツにはアイテムその他
も含まれる。19るケースは現状では少ないとみられる。
オ.ワールド提供者
プラットフォーマーと契約(有償・無償を問わず、利用規約への同意等も含まれる)し、
プラットフォーム上にワールドを構築して提供する者。なお、これをビジネスとして行う
者については
「ワールド提供事業者」
という。
プラットフォーマー自身がワールドを構築し
て提供する場合もある。
カ.ユーザ
メタバースを利用する者。特に断りのない限りは個人のエンドユーザを指す。法人等が
バーチャルオフィスなどを契約して利用する場合やデジタルツインをビジネスに利用する
場合などについては「ビジネスユーザ」と記載する。なお「ワールド提供事業者」はビジネ
スユーザに含まない。
キ.アバター
「化身」を意味し、メタバースにおいて、ユーザのアイデンティティを表象するもの。ア
バターの生物種(例:人間、動物、架空の生命体)
、外見(例:顔・髪型、身体、服装)
、名
前、属性(例:性別、年齢、人種)
、人格・意志、身体能力や身体障がい、スキル・資格な
どについて、
ユーザ自身をそのままアバターに反映・具備させる場合と、
物理空間とは異な
るものにする場合があり、それらはユーザ自身が選択できる場合もあれば、ワールド提供
事業者がルールとして定めている場合(例:
匿名・ニックネーム制としている場合)
がある。
また、
アバターとユーザの関係については、
アバターと特定の個人が対応している場合、複数の個人が一つのアバターを共有・操作している場合、組織や法人がアバターを操作して
いる場合の他、VTuber のように対応するユーザ(いわゆる「中の人」
)の存在に触れない場
合もある。20(参考6)メタバース・没入型技術の説明比較
国・組織
参照ソース
説明1米国
連邦議会
調査局2022年8月TheMetaverse:
ConceptsandIssuesforCongress•2
次元(2D)オンライン・アプリケーション
とは異なる3つの重要な特徴、すなわち(1)没入感
のある3次元(3D)ユーザー体験、(2)
リアルタイムの持続的ネットワーク・アクセス、(3)ネッ
トワーク・プラット
フォーム間の相互運用性を特徴とするものと考えられる•メタバース技術(すなわち
AR/MR/VR)2
英国
Ofcom2023年6月
Future
TechnologyandMedia
Literacy:Themetaverse•メタバースは、「ユーザーがコンピュータによって生成された環境や他のユーザーと相互作用
できる、永続的な3D仮想空間」として概念化される。•メタバースによって、ユーザーは、娯楽、社会的交流、仕事、コミュニケーション、商業など、
実生活で一般的に行われている様々な機能を実行可能になる。3EU
VR/AR
産業連合2023年7月
COMMISSION
STAFF
WORKING
DOCUMENT•仮想世界の相互運用可能なネットワーク4ITU-T
FG-MV2023年12月
DefinitionofmetaverseWG1:General•ユーザーに没入体験を提供する仮想世界の統合エコシステムー
経済的、環境的、社会
的、文化的観点から、既存のものを修正し、新たな価値を創造する。•注-メタバースは、仮想的なもの、拡張されたもの、物理的な世界を代表するもの、物理
的な世界と関連するものである。5OECDCDEP(現CPC)2022年11月Background
paperfortheCDEPMinisterial
meeting•拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、その他の拡張現実(XR)
技術に基づいており、仮想体験のリアリズムを高め、物理世界とデジタル世界の境界線を
曖昧にしている。6WEF
メタバースの定義と
構築イニシアチブ2023年7月
Metaverse
PrivacyandSafety•2
次元(2D)や3次元(3D)の物理的・デジタル的な世界や環境が相互に接続された
ネットワークであり、臨場感をもって体験できる(半)没入型の性質のものである。
メタバース(
Metaverse)国・組織
参照ソース
没入型技術としての例示1米国NIST2024年1月NIST
の現状調査•VR、AR、MR2英国
Ofcom2023年6月
没入型技術
に関する見解•VR、AR、MR
、ハプティクス(
Haptics)3EUVR/AR
産業連合2023年7月
COMMISSION
STAFF
WORKING
DOCUMENT•VR、AR、MR
(=総称してXR)4ITU-T
FG-MV2023年12月
Service
scenariosandhigh-level
requirementsformetaverse
cross-
platform
interoperabilityWG5:Interoperability•AR,VR,haptic
sense,
temperature,
humid,andscent
technologies5OECD
GFTech2023年6月
Technologydeepdives
Immersive
technologies•VR、AR、MR6WEF
メタバースの定義と
構築イニシアチブ2023年7月
Metaverse
PrivacyandSafety•VR、AR、MR
(=総称してXR)
※(注記)
Metaverse
technology
として定義
(参考6)メタバース・没入型技術の説明比較(続き)
没入型技術(
immersive
technologies)21