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規制の事前評価書
法律又は政令の名称:携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不
正な利用の防止に関する法律施行規則の一部を改正する省令案
規 制 の 名 称:いわゆる 050 アプリ電話の契約締結時等における本人確認の義務付け
規 制 の 区 分:新設、改正(拡充、緩和)
、廃止 (注記)いずれかにしろまる印を付す。
担 当 部 局:総務省 総合通信基盤局 電気通信事業部 消費者行政第二課
評 価 実 施 時 期:令和5年 6月
1 規制の目的、内容及び必要性
1 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)
「規制の新設又は改廃を行わない場合に生じると予測される状況」について、明確かつ簡
潔に記載する。なお、この「予測される状況」は 5〜10 年後のことを想定しているが、課題
によっては、現状をベースラインとすることもあり得るので、課題ごとに判断すること。
(現状をベースラインとする理由も明記)
令和4年における特殊詐欺の被害額は 361.4 億円に達している。その手口としては、近年、特
定IP電話番号によって提供される電気通信役務(いわゆる 050 アプリ電話)を用いるものが数
多く使われている。報道によれば、令和4年に全国の高齢者宅などにかかってきた特殊詐欺の電
話や資産・在宅状況を聞き出す「アポ電」について、番号が判明した 19,843 件のうち 050 アプ
リ電話が相当数を占めると思われるIP電話は 7,281 件
(36.7%)
であった。
犯行に使われる 050
アプリ電話の多くは、本人確認がなされていない匿名の電話と分析される。
こうした状況を放置した場合、匿名の 050 アプリ電話の流通が維持又は増加することとなり、
特殊詐欺被害の件数や額が高止まりする恐れがある。
以上のような状況をベースラインとする。
2 課題、課題発生の原因、課題解決手段の検討(新設にあっては、非規制手段との比較に
より規制手段を選択することの妥当性)
課題は何か。課題の原因は何か。課題を解決するため「規制」手段を選択した経緯(効果
的、合理的手段として、「規制」「非規制」の政策手段をそれぞれ比較検討した結果、「規
制」手段を選択したこと)を明確かつ簡潔に記載する。
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【課題及び課題の発生原因】
課題は、050 アプリ電話が特殊詐欺の犯行に使われており、そうした犯行による被害額が甚大
なものとなっている状況である。
課題の発生原因としては、050 アプリ電話については、契約に際し本人確認義務が課されてお
らず、匿名の 050 アプリ電話を入手することが容易であるため、こうした匿名の通信手段が犯罪
集団によって特殊詐欺の犯行に利用されている点である。また、仮に発生した場合、法執行機関
が事後的な立証を行うことが困難な点である。
050 アプリ電話の契約に際し本人確認を義務化することにより、匿名の 050 アプリ電話の流通
を無くすことができる。これにより特殊詐欺を未然に防止することができるほか、仮に発生した
場合であっても、法執行機関が本人確認書類を確認することにより事後的な立証にも資する。
【規制の内容及び非規制手段との比較】
050 アプリ電話の提供者に、契約時に利用者の本人確認を行うことを義務づける。自主規制に
任せた場合、本人確認を行わない事業者が発生することが予想され、犯罪者はこうした抜け道を
利用することとなる。よって、法令による規制を行うことが適当である。
2 直接的な費用の把握
3 「遵守費用」は金銭価値化(少なくとも定量化は必須)
「遵守費用」、「行政費用」について、それぞれ定量化又は金銭価値化した上で推計すること
が求められる。しかし、全てにおいて金銭価値化するなどは困難なことから、規制を導入した
場合に、国民が当該規制を遵守するため負担することとなる「遵守費用」については、特別な
理由がない限り金銭価値化を行い、少なくとも定量化して明示する。
【遵守費用について】
現状、050 アプリ電話については非対面取引が行われることが大多数であり、現状、本人確認
として、何も行っていないか、SMS 認証やコールバック認証、クレジットカードによる認証が行
われていることが通例である。よって、今回の改正により、本人確認書類の原本若しくは写しの
送付を受けるとともに、
携帯電話端末又は契約確認書類を書留郵便等により転送不要郵便物等で
送付する義務が生じる。なお、本人確認方法は、左記のほかオンライン上で本人確認を行う eKYC
を活用する方法等があり得るが、最も多く使われている、写しの送付と転送不要郵便による書類
の送付の組み合わせと仮定する。
(84 円+320 円)×ばつ40 万台=1.62 億円
(注記) 84 円:定形郵便物の基本料金 320 円:簡易書留料金 40 万台:年間の 050 アプリ電話新規
契約数(「電気通信番号に関する使用状況(総務省公表)」より推計。)(注記) また、本人確認記録を作成する義務の遵守は、事業者のこれまでの契約事務における作業の
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中で対応可能と推測され、当該義務に係る遵守費用は僅少であると想定される。
【行政費用について】
行政費用は発生しない。
4 規制緩和の場合、モニタリングの必要性など、
「行政費用」の増加の可能性に留意
規制緩和については、単に「緩和することで費用が発生しない」とするのではなく、緩和
したことで悪影響が発生していないか等の観点から、行政としてモニタリングを行う必要が
生じる場合があることから、当該規制緩和を検証し、必要に応じ「行政費用」として記載す
ることが求められる。
(規制緩和するものではないため、該当せず)
3 直接的な効果(便益)の把握
5 効果の項目の把握と主要な項目の定量化は可能な限り必要
規制の導入に伴い発生する費用を正当化するために効果を把握することは必須である。定
性的に記載することは最低限であるが、可能な限り、規制により「何がどの程度どうなるの
か」
、つまり定量的に記載することが求められる。
改正により、特殊詐欺に用いられる匿名の 050 アプリ電話の入手が困難となり、これにより治
安対策上大きな便益が見込まれる。また、本人確認記録の作成の義務付けにより、法執行機関の
事後的な立証にも資するものである。
6 可能であれば便益(金銭価値化)を把握
把握(推定)された効果について、可能な場合は金銭価値化して「便益」を把握すること
が望ましい。
令和4年における特殊詐欺の被害額は 361.4 億円に達しており、
このうち相当程度が 050 アプ
リ電話を悪用した被害であるとの報告を警察当局から受けている。報道によれば、特殊詐欺の電
話等で、
番号が判明している 19,843 件のうち、
050 アプリ電話が相当数を占めると思われるIP
電話は 7,281 件(36.7%)である。
これを踏まえ、特殊詐欺の端緒たる電話の約 36.7%が 050 アプリ電話を含むIP電話であると
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の仮定をおくと、
およそ 132.6 億円の被害が 050 アプリ電話を含むIP電話を端緒にしていた可
能性がある。
(注記) 本人確認の義務化によりこの全ての被害が防止できるとは考えられず、これ以上の推計は困
難である。
7 規制緩和の場合は、それにより削減される遵守費用額を便益として推計
規制の導入に伴い要していた遵守費用は、緩和により消滅又は低減されると思われるが、
これは緩和によりもたらされる結果(効果)であることから、緩和により削減される遵守費
用額は便益として推計する必要がある。また、緩和の場合、規制が導入され事実が発生して
いることから、費用については定性的ではなく金銭価値化しての把握が強く求められてい
る。
(規制緩和するものではないため、該当せず)
4 副次的な影響及び波及的な影響の把握
8 当該規制による負の影響も含めた「副次的な影響及び波及的な影響」を把握するこ
とが必要
副次的な影響及び波及的な影響を把握し、記載する。
(注記) 波及的な影響のうち競争状況への影響については、
「競争評価チェックリスト」の結
果を活用して把握する。
副次的な影響及び波及的な影響として想定されるものはない。
(注記) 本件規制により、最低限の本人確認が発生することとなるが、これにより契約をためらう利
用者がいることは想定されないため、副次的な影響及び波及的な影響として想定されるもの
はない。
5 費用と効果(便益)の関係
9 明らかとなった費用と効果(便益)の関係を分析し、効果(便益)が費用を正当化で
きるか検証
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上記2〜4を踏まえ、費用と効果(便益)の関係を分析し、記載する。分析方法は以下の
とおり。
1 効果(便益)が複数案間でほぼ同一と予測される場合や、明らかに効果(便益)の方
が費用より大きい場合等に、効果(便益)の詳細な分析を行わず、費用の大きさ及び負
担先を中心に分析する費用分析
2 一定の定量化された効果を達成するために必要な費用を推計して、費用と効果の関係
を分析する費用効果分析
3 金銭価値化した費用と便益を推計して、費用と便益の関係を分析する費用便益分析
推計された規制の遵守コスト(1.62 億円)に比して規制の便益は明らかに大きく((注記))
、規制
を行うことが適当である。
(注記) およそ 132.6 億円の被害が 050 アプリ電話を含むIP電話を端緒にしていた可能性がある。
ただし、本人確認の義務化によりこの全ての被害が防止できるとは考えられず、これ以上の
推計は困難である。
6 代替案との比較
10 代替案は規制のオプション比較であり、各規制案を費用・効果(便益)の観点から
比較考量し、採用案の妥当性を説明
代替案とは、
「非規制手段」や現状を指すものではなく、規制内容のオプション(度合
い)を差し、そのオプションとの比較により導入しようとする規制案の妥当性を説明する。
代替案として、050 アプリ電話の提供を禁止するという案が考えられる。代替案と規制案を費
用・効果(便益)の観点から比較した場合、代替案(050 アプリ電話を全面禁止)の方が、費用
(本人確認をしないので、
それにかかる経費は国民にも事業者にも生じない)
は生じず、
効果(050アプリ電話が存在しなくなるので、それを通信手段とした特殊詐欺は 0 になる)も上回ることに
なるが、全面禁止した場合、050 アプリ電話は令和 3 年度末において 943 万番号が使用されてい
るため市場への影響が大きく、また、若年層や低所得層の安価な通話手段を奪うことになる。
よって、左記代替案を採用することは妥当ではなく、規制案を採用することとした。
7 その他の関連事項
11 評価の活用状況等の明記
規制の検討段階やコンサルテーション段階で、
事前評価を実施し、
審議会や利害関係者から
の情報収集などで当該評価を利用した場合は、その内容や結果について記載する。また、評価
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に用いたデータや文献等に関する情報について記載する。
くろまる「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」
(令和
5年3月17日犯罪対策閣僚会議決定)
特殊詐欺の犯行には、匿名での架電を可能とする様々な通信手段が利用されているところ、総
務省、警察庁等の関連省庁が連携して施策を推進することにより、こうしたサービスの悪用防止
対策を更に強化する。
くろまる「特殊詐欺の手口と対策」
(令和5年4月13日警察庁組織犯罪対策部)
我が国においては、(「携帯電話」を契約する場合とは異なり、
)050IP電話を契約する際
に、通信事業者には、顧客の氏名、住居及び生年月日等の「本人特定事項」等を「本人確認書類」
等により確認することは、義務付けられていない。そのため、当該電話番号から被疑者を割り出
そうとする捜査は、困難なものとなっている。本人確認の義務付け等、制度改正を含めた検討が
必要であると考えられる。
8 事後評価の実施時期等
12 事後評価の実施時期の明記
事後評価については、規制導入から一定期間経過後に、行われることが望ましい。導入した
規制について、費用、効果(便益)及び間接的な影響の面から検証する時期を事前評価の時点
で明確にしておくことが望ましい。
なお、実施時期については、規制改革実施計画(平成 26 年 6 月 24 日閣議決定)を踏まえる
こととする。
当該規制については、施行から5年以内に事後評価を実施することを想定している。
13 事後評価の際、費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するための指標等をあら
かじめ明確にする。
事後評価の際、どのように費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するのか、その把握
に当たって必要となる指標を事前評価の時点で明確にしておくことが望ましい。規制内容に
よっては、事後評価までの間、モニタリングを行い、その結果を基に事後評価を行うことが必
要となるものもあることに留意が必要
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050 アプリ電話を用いた特殊詐欺の被害件数、被害額、050 アプリ電話の契約数の推移

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