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規制の事前評価書
法律又は政令の名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に
関する法律
規 制 の 名 称:開示関係役務提供者の範囲の見直し
規 制 の 区 分:新設、改正(拡充、緩和)
、廃止 (注記)いずれかにしろまる印を付す。
担 当 部 局:総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課
評 価 実 施 時 期:令和3年2月
1 規制の目的、内容及び必要性
1 規制を実施しない場合の将来予測(ベースライン)
「規制の新設又は改廃を行わない場合に生じると予測される状況」について、明確かつ簡
潔に記載する。なお、この「予測される状況」は 5〜10 年後のことを想定しているが、課題
によっては、現状をベースラインとすることもあり得るので、課題ごとに判断すること。
(現状をベースラインとする理由も明記)
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成 13
年法律第 137 号。以下「現行法」という。
)は、第4条において、権利侵害情報が匿名で発信され
た際、被害者(権利を侵害されたと主張する者)が、加害者(発信者)を特定して損害賠償請求
等を行うことができるよう、一定の要件を満たす場合には、プロバイダに対し、当該発信者の特
定に資する情報(発信者情報(注記)
)の開示を請求する権利を定めている。インターネット上で権利
侵害投稿が行われた場合、一般的に、SNS の運営者等(コンテンツプロバイダ)は、発信者の氏
名・住所等の情報を保有していないことが多く、被害者が被害回復を図るためには、投稿時の IP
アドレス等の発信者情報を端緒として、
権利侵害投稿の通信経路を辿って発信者を特定する実務
が定着している。しかしながら、近年、投稿時の IP アドレス等を記録・保存していないコンテ
ンツプロバイダの出現により、投稿時の IP アドレス等から通信経路を辿ることにより発信者を
特定することができない場合があるなど、
現行の省令に定められている発信者情報開示の対象の
みでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加している。
今回の制度改正を行わない場合には、これら投稿時の IP アドレス等が記録・保存されていな
いサービス上の投稿による被害者が、発信者の氏名・住所等を特定することができず、損害賠償
請求等を通じた被害回復を図ることが困難な場面が増加するおそれがあることをベースライン
とする。
(注記)開示請求の対象となる発信者情報の範囲については、
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発
信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令」で定めることとされている。
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2 課題、課題発生の原因、課題解決手段の検討(新設にあっては、非規制手段との比較に
より規制手段を選択することの妥当性)
課題は何か。課題の原因は何か。課題を解決するため「規制」手段を選択した経緯(効果
的、合理的手段として、「規制」「非規制」の政策手段をそれぞれ比較検討した結果、「規
制」手段を選択したこと)を明確かつ簡潔に記載する。
【課題及び課題の発生原因】
近年、
SNS 等のサービスを提供する主要なコンテンツプロバイダの中には、
ユーザ ID やパスワ
ード等必要事項を入力してアカウントを作成し、その後当該ユーザ ID やパスワードを入力する
ことによって自らのアカウントにログインした状態で様々な投稿を行うことができるもの
(ログ
イン型サービス)が増加している。昨今の主要な SNS サービスの多くは、こうしたログイン型サ
ービスであるが、ログイン型サービスを提供するコンテンツプロバイダの中には、上述のように
投稿時の IP アドレス等を保有せずに、ログイン時の IP アドレス等 (ログイン時情報)しか保
有していないものがある。このような場合、これらのログイン型サービス上の投稿による被害者
は、コンテンツプロバイダから投稿時の IP アドレス等の開示を受けて、接続元のインターネッ
ト接続サービスを提供する事業者
(アクセスプロバイダ)
を突き止めることができないことから、
発信者を特定するためには、その代わりに、ログイン時情報の開示を受ける方法によることが考
えられる。現行の発信者情報開示の実務においても、ログイン型サービスにおいて権利侵害が生
じた際、発信者の特定のために、ログイン時情報の開示を求める例がある。この点、ログイン時
情報を発信者情報として開示することは、
立法時には必ずしも想定されていなかったと考えられ
るところ、
ログイン時情報が現行法上の開示対象となる発信者情報に該当するか否かについては
明確になっておらず、裁判例も分かれている状況となっている。
【規制の内容】
ログイン型サービスの急速な普及と同サービスにおける権利侵害投稿による被害の深刻化に
対処するためには、
同サービスにおける権利侵害投稿によって生じる被害の救済を制度上可能と
するための見直しを行う必要がある。これらの状況を踏まえ、ログイン時情報等の、権利侵害の
投稿時の通信とは異なる通信に関係する情報を辿って発信者を特定することが可能な情報につ
いて、本制度改正によりその開示対象の明確化を図り、一定の要件を満たす場合には、被害者が
ログイン時情報等の開示を請求できることとする(注記)1。この点、
ログイン時情報等を開示請求の対
象とした場合、
当該情報に係る権利侵害投稿通信以外の通信を媒介したアクセスプロバイダ等に
対して、侵害投稿通信の発信者かつ権利侵害投稿通信以外の通信の発信者でもある者の住所・氏
名の開示を請求することとなるが、当該開示請求を受けるプロバイダは、現行法第4条第1項に
規定する「開示関係役務提供者」の範囲に含まれない場合もあり得るため(注記)2
、このログイン時情
報等を媒介したアクセスプロバイダ等が開示請求の相手方となる「開示関係役務提供者」に含ま
れることを明確化する。
(注記)1開示対象となるログイン時情報等の範囲について法改正のほか省令改正により明確化を図る。
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(注記)2現行法における開示請求の相手方となる「開示関係役務提供者」は、現行法第4条第1項において「当該特
定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」
(実際に侵害投稿通信を媒介し
た通信事業者)と規定されているため、ログイン時情報等を媒介するプロバイダが、この「開示関係役務提供者」
に該当するか不明確な場合があり得る。
2 直接的な費用の把握
3 「遵守費用」は金銭価値化(少なくとも定量化は必須)
「遵守費用」、「行政費用」について、それぞれ定量化又は金銭価値化した上で推計すること
が求められる。しかし、
全てにおいて金銭価値化するなどは困難なことから、規制を導入した
場合に、国民が当該規制を遵守するため負担することとなる「遵守費用」については、特別な
理由がない限り金銭価値化を行い、少なくとも定量化して明示する。
開示関係役務提供者において、
ログイン時情報等の開示請求についての手続に関する費用が発
生すると見込まれるが、上述の課題のように、現行の発信者情報開示の実務においても、本改正
に伴い開示関係役務提供者として追加されるログイン時情報等を媒介したアクセスプロバイダ
等に対して、ログイン時情報等に紐付く発信者情報の開示請求は行われており、当該開示請求に
対応するための特段のシステム更改や体制変更は見込まれないことから、
大幅な追加費用は発生
しないものと考えられる。
4 規制緩和の場合、モニタリングの必要性など、
「行政費用」の増加の可能性に留意
規制緩和については、単に「緩和することで費用が発生しない」とするのではなく、緩和
したことで悪影響が発生していないか等の観点から、行政としてモニタリングを行う必要が
生じる場合があることから、当該規制緩和を検証し、必要に応じ「行政費用」として記載す
ることが求められる。
(規制緩和するものではないため、該当せず)
3 直接的な効果(便益)の把握
5 効果の項目の把握と主要な項目の定量化は可能な限り必要
規制の導入に伴い発生する費用を正当化するために効果を把握することは必須である。定
性的に記載することは最低限であるが、可能な限り、規制により「何がどの程度どうなるの
か」
、つまり定量的に記載することが求められる。
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本改正により、ログイン型サービスにおける投稿によって権利侵害を受けたとする者は、プロ
バイダからログイン時情報等の開示を受けて、
当該ログイン時情報等に紐付く通信経路を辿って
侵害情報の発信者を特定できる可能性が高まることから、被害者の救済に資すると考えられる。
6 可能であれば便益(金銭価値化)を把握
把握(推定)された効果について、可能な場合は金銭価値化して「便益」を把握すること
が望ましい。
(金銭価値化が可能でないため、該当せず)
7 規制緩和の場合は、それにより削減される遵守費用額を便益として推計
規制の導入に伴い要していた遵守費用は、緩和により消滅又は低減されると思われるが、
これは緩和によりもたらされる結果(効果)であることから、緩和により削減される遵守費
用額は便益として推計する必要がある。また、緩和の場合、規制が導入され事実が発生して
いることから、費用については定性的ではなく金銭価値化しての把握が強く求められてい
る。
(規制緩和するものではないため、該当せず)
4 副次的な影響及び波及的な影響の把握
8 当該規制による負の影響も含めた「副次的な影響及び波及的な影響」を把握するこ
とが必要
副次的な影響及び波及的な影響を把握し、記載する。
(注記) 波及的な影響のうち競争状況への影響については、
「競争評価チェックリスト」の結
果を活用して把握する。
上述の課題のように、現行の発信者情報開示の実務において、ログイン時情報が現行法上の発
信者情報に該当するか否かについては明確になっておらず、
裁判例も分かれている状況となって
いる中、本改正により、開示対象となるログイン時情報等の発信者情報を明確化し、開示請求の
相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲を見直すことで、実務上の取り扱いが統一化される
ほか発信者情報開示制度の安定的な運用に資するなど、
直接的な便益の対象となる被害者だけで
なく裁判所やプロバイダ等関係者に対する影響も見込まれる。
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5 費用と効果(便益)の関係
9 明らかとなった費用と効果(便益)の関係を分析し、効果(便益)が費用を正当化で
きるか検証
上記2〜4を踏まえ、費用と効果(便益)の関係を分析し、記載する。分析方法は以下の
とおり。
1 効果(便益)が複数案間でほぼ同一と予測される場合や、明らかに効果(便益)の方
が費用より大きい場合等に、効果(便益)の詳細な分析を行わず、費用の大きさ及び負
担先を中心に分析する費用分析
2 一定の定量化された効果を達成するために必要な費用を推計して、費用と効果の関係
を分析する費用効果分析
2 金銭価値化した費用と便益を推計して、費用と便益の関係を分析する費用便益分析
上記のとおり、遵守費用については大幅な追加費用は発生しないものと考えられる一方で、本
改正により、
被害者がログイン時情報等の開示を受けて当該情報の通信経路を辿って発信者を特
定することができ、被害者の救済が図られることから、本改正により得られる便益は、本改正に
伴う費用を上回ることが見込まれるため、本改正は妥当と考えられる。
6 代替案との比較
10 代替案は規制のオプション比較であり、各規制案を費用・効果(便益)の観点から
比較考量し、採用案の妥当性を説明
代替案とは、
「非規制手段」や現状を指すものではなく、規制内容のオプション(度合
い)を差し、そのオプションとの比較により導入しようとする規制案の妥当性を説明する。
【代替案】
SNS 等のログイン型サービスの普及に伴うインターネット上の権利侵害による被害に対応する
ため、開示対象となるログイン時情報等の発信者情報の明確化を図り、被害者がログイン時情報
等の開示を請求できることとする。この点、現行法は実際に権利侵害通信を媒介した者に着目し
てその者に発信者情報を開示する義務を課すものであるところ、
実際に侵害情報の流通に関与し
た者にかかわらず、
侵害情報の発信者の情報を保有する全ての者に着目してその者に発信者情報
を開示する義務を課すこととする(注記)(注記)開示請求の対象について、採用案では、実際に侵害情報の発信者による権利侵害通信を媒介した事業者やログ
イン時情報等を媒介した者に限定しているが、代替案では、侵害情報の発信者が行った適法な投稿など権利侵害
通信以外の通信を媒介した事業者を含む発信者情報を保有する全ての者としている。
【遵守費用】
発信者情報の開示義務を課された者は、
裁判の一方当事者になることを強いられる等の負担を
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負うこととなるところ、代替案によることとした場合には、採用案の遵守費用に加えて、実際に
権利侵害通信を媒介した事業者やログイン時情報等を媒介した事業者以外の、
現行の発信者情報
開示の実務において開示請求を受けていない者について、
侵害情報の流通に関与していないにも
かかわらず、不意打ち的に当事者として裁判に巻き込まれるという負担を課すこととなり、その
手続に関する費用が発生すると見込まれる。
【行政費用】
採用案と同じ。
【直接的効果(便益)】採用案と同じ。
【副次的・波及的な影響】
採用案と同じ。
【代替案との比較】
代替案によることとした場合、
その便益については採用案と大きな差は生じないと見込まれる
ものの、その費用については採用案を上回ることが見込まれ、開示請求における義務の対象とな
る者の負担は必要最小限とする必要があることを踏まえると、
開示請求の対象となる開示関係役
務提供者の範囲については、侵害情報の流通に関与した者として、実際に権利侵害投稿を媒介等
した事業者に加えて、
ログインなど権利侵害投稿の前提となる行為等を媒介した事業者に限定し
て追加する採用案が妥当であると考える。
7 その他の関連事項
11 評価の活用状況等の明記
規制の検討段階やコンサルテーション段階で、
事前評価を実施し、
審議会や利害関係者から
の情報収集などで当該評価を利用した場合は、その内容や結果について記載する。また、評価
に用いたデータや文献等に関する情報について記載する。
「発信者情報開示の在り方に関する研究会」
(座長:曽我部真裕 京都大学大学院 法学研究科
教授)の最終とりまとめ(令和2年 12 月)において、開示対象となるログイン時情報等の発信
者情報の範囲や、請求の相手方となる「開示関係役務提供者」の範囲について見直しを行う観点
から、法改正及び省令改正を行うことが適当とされていることを踏まえ、本改正を行うものであ
る。
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8 事後評価の実施時期等
12 事後評価の実施時期の明記
事後評価については、規制導入から一定期間経過後に、行われることが望ましい。導入した
規制について、費用、効果(便益)及び間接的な影響の面から検証する時期を事前評価の時点
で明確にしておくことが望ましい。
なお、実施時期については、規制改革実施計画(平成 26 年 6 月 24 日閣議決定)を踏まえる
こととする。
改正法の施行後5年を経過した場合において、改正法の施行の状況について検討を加え、その
結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
13 事後評価の際、費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するための指標等をあら
かじめ明確にする。
事後評価の際、どのように費用、効果(便益)及び間接的な影響を把握するのか、その把握
に当たって必要となる指標を事前評価の時点で明確にしておくことが望ましい。規制内容に
よっては、
事後評価までの間、モニタリングを行い、その結果を基に事後評価を行うことが必
要となるものもあることに留意が必要
発信者情報開示の判例の動向等で制度の運用状況を確認する。

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