ユビキタスネットワークの利活用において成功しているサービスの例として、鉄道の自動改札における非接触型ICカードの活用が挙げられる。このサービスは、小銭を必要とせず、リーダーに近づけるだけで改札を通過可能とするサービス利用の簡便さに加え、そのICカードを利用した定期券を紛失した際には当該ICカードの利用を禁止し、残高の払い戻しを受けることが可能となるなどの利用者のメリットがあり、短期間で多くの利用者を増やした(
1-2-2(2)参照)。企業においても、従来の磁気カード式自動改札に比べ自動改札機の補修・交換コストが削減され、かつ、駅内店舗における電子マネー活用等、新たなサービスの展開が可能となっている。この鉄道における非接触型ICカードの成功例から、ユビキタスネットワークの利活用においては、まず技術ありきの発想ではなく、企業・利用者のニーズ・実態を把握することが求められていることが分かる。
3 標準化の推進
ユビキタスツールの有効活用を進める上で企業が課題の一つとして挙げたのは、端末機器・通信方式等の標準化である(図表[1])。例えば、電子タグは、一つの企業、一つの業界だけでなく、業界を越え、国際的に活用が進むことによってより大きな効果を発揮すると考えられる。そのためには、電子タグに入力するデータ形式や読み書きに用いる方式等に関してある程度共通化しておく必要がある。また、情報家電は、異なる企業の製品同士でも接続できることが消費者の利便のためには望ましい。
我が国においては、ユビキタスIDセンターが平成15年(2003年)3月に設立され、電子タグ等を用いて「モノ」を認識する基盤技術の確立と普及等の推進を行っており、アジア各国との協力も推進している。ユビキタスIDセンターでは、電子タグに付与するID 体系「ucode」を規定している。「ucode」はJANコード(我が国における従来のバーコード)等の既存のIDコードはもちろん、EPC(後述)にも対応している。また、国際的な非営利研究機関としてAuto-ID Centerが1999年10月に設立され、米国のマサチューセッツ工科大学に本部が置かれた。Auto-ID Centerでは、電子タグに使われる識別コードとして従来からあるバーコードを拡張したEPC(Electronic Product Code)を提唱してきた。Auto-ID Centerは、2003年11月にAuto-ID Labsと名称を変更し、米国コードセンター(UCC:Uniform Code Council)、国際EAN協会(EAN International:European Article Number International)によって設立された非営利団体EPC Globalの下、EPCの技術的な面を支援する形になっている。
近年の映像音響機器を中心とする情報家電市場が拡大している状況に比べ、家庭内における各種情報家電相互間及びこれらの機器からの外部との接続(インターネット等)に関しては、各種方式の開発・検討等の動きはあるものの、各々の機器が容易に接続できるとは言い難く、ユビキタスネットワーク社会の実現に不可欠な家庭の情報家電のネットワーク化は進んでいない。このような状況を踏まえ、総務省では平成16年2月から、デジタル情報家電のネットワーク化に関する調査研究会を開催しており、デジタル情報家電の相互接続・相互運用性に関するニーズ動向や技術動向を調査するとともに、望ましいデジタル情報家電のネットワーク化の在り方、推進方策等に関する検討・調査研究を行っている。
ユビキタスネットワーク技術やそれらの利活用において先導的な立場にある我が国には、産学官連携して国際電気通信連合(ITU)の次世代ネットワークの標準化等の国際標準化活動を推進し、ユビキタスネットワークの世界的展開に貢献していくことが期待される。
4 実証実験の推進
企業が事業を行うにあたり、ユビキタスネットワークの特長を活用するためには、実際のビジネスの場面で実証実験を行い、技術や投資対効果等を検証することが望ましい。現在、ユビキタスネットワークを利用した実証実験に参加中又は参加検討中の企業は全体の2.0%に過ぎないが、自社業務に関係があれば積極的に参加したいという企業は12.4%、コスト負担がなければ検討したいという企業まで含めると47.0%の企業がユビキタスネットワークに関連する実証実験に参加したいとしている(図表[2])。今後、多くの企業で実証実験が行われることで、企業の各業務におけるユビキタスネットワーク導入による技術の蓄積、コストの低減、投資対効果の明確化が進み、ユビキタスネットワークの実用化が進んでいくと考えられる。