LiDAR搭載UAVを活用した安全で効率的な事業計画策定・実行ツールの普及
[画像:筆者の写真]
根釧西部森林管理署
森林技術指導官 佐藤 亜樹彦
根釧西部森林管理署管内の概要
根釧西部森林管理署は、釧路湿原の上流域及びラムサール条約において登録された別寒辺牛湿原を含むパイロットフォレスト等がある釧路地区、阿寒富士を源として太平洋へ注ぐ庶路川・茶路川流域に面する白糠地区、阿寒湖・雄阿寒岳等阿寒摩周国立公園の中心部及び阿寒川流域に面する阿寒地区、阿寒山系から屈斜路外輪山をとおり摩周岳にかけての山岳林及び釧路川上流部に面する弟子屈地区、これら4地区により構成された釧路市を中心とした釧路総合振興局管内の8市町村(釧路市、釧路町、厚岸町、浜中町、標茶町、弟子屈町、鶴居村、白糠町)に広がる約182,000haの国有林の管理経営を担っており、森林面積割合はカラマツ、トドマツ等の人工林等が全体の31%に対し、カンバ類を中心とした天然林は61%、その他8%の森林で構成されています。
[画像:望楼からのパイロットフォレストの風景][画像:厳寒の摩周湖]
(望楼からのパイロットフォレストの風景) (厳寒の摩周湖)
管内の森林・林業の現状
多くの人工林が主伐期を迎え、木材生産量の増加と共に、更新量が増加する中、林業従事者の高齢化や若手職員の離職が深刻化しています。とりわけ若手の山離れの理由に、ヒグマとの遭遇があげられており、「山は危険!」といったイメージが強くなっていることに加え、令和3年には、当署管内の請負生産事業において、山林の調査中に事業体の職員がヒグマに襲われる労働災害が発生したことも、山離れの一因となっています。
管内の森林・林業の問題と課題
このような現状を踏まえ、山林におけるヒグマとの遭遇問題は、地域の喫緊の課題となっています。釧路新聞社様からご提供いただいた記事にもありますように、一歩間違えば死につながる重大な災害でした。(削除) (削除ここまで)
また、現状、山林の伐採を行うには、山林での不測の事態に対応できるように、2人以上の職員を配置して実施されることから、作業路の設計段階で現地確認に多大な時間と労力を要します。これらのことから、山林調査の安全性と、効率化を高めることが課題解決のキーワードと考え、地域の林業事業体と共にその手段を模索することとしました。
[画像:ヒグマ被害の新聞記事]
(ヒグマ被害の新聞記事(釧路新聞社の許諾を得ています))
課題解決に向けた取組の内容
課題解決に向けて、これまで人力で行っていた山林調査の安全性と効率化の向上に向けて、LiDAR搭載UAVとQGISを用いた安全な調査方法の検討と実証を進めることとしました。
実証は根釧西部森林管理署の国有林で行い、撮影範囲は約100ha、飛行時間は20分のフライトを4回、準備を含めて約2時間の作業となりました。
LiDAR技術とは、レーザー光を照射してその反射光を利用し対象物までの距離や形状を計測するもので、特性として、木や葉の間を通り抜けて地面や山林の測定が可能で、高精度な地形や樹形の計測ができます。また、光に依存しないため夜間でも計測が可能です。使用するUAVには、色や模様を記録するのが得意でより明瞭な写真・動画の撮影が可能となる光学カメラを搭載しました。
また、LiDARで取得したデータは、DJI TERRAなどの専用ソフトウェアを使って点群処理を行い、3Dモデルを作成しました。この点群データは、RGBカラー(※(注記)1)による色彩表現が可能で、DEM(デジタル標高モデル)の出力もできるほか、QGISを用いてCS立体図(※(注記)2)を作成することができます。このCS立体図を現場で使用している高性能林業機械にタブレットを搭載して活用することにより、リアルタイムでの位置把握を可能にしました。これをザウルスロボ3台とハーベスタ4台で使用し、各々の機体における使用感、性能を検証することとしました。
※(注記)1「RGBカラー」…光の三原色である赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)を組み合わせて色を表現する手法
※(注記)2「CS立体図」…長野県林業総合センターにより考案された、標高、傾斜、曲率の3つのデータを組み合わせて、立体的に地形を表現する手法
課題解決に向けた取組の成果・今後の課題
LiDAR搭載UAVとQGISを用いた取組の成果として、大きく3点が挙げられます。
まず一番に目指した安全性の面では、ヒグマの生息域や活動時期に山林に入る時間が大幅に減ったことで、遭遇のリスクは極端に減少し、作業時間も従来人力で行っていた山林調査に比べ、約90%も削減することが出来ました。
次に、現場作業では重機にタブレットを搭載したことにより、誤認や誤伐等の防止など効率性・正確性ともに大きく向上しました。
[画像:重機にタブレットを搭載している様子]
(タブレットを重機に搭載)
3つ目に、作業道や土場の計画・実行管理において、これまでは書面で管理・共有していたものが、デジタル化したことにより、事務作業の効率が格段に向上し、図面や座標の正確性、ペーパーレス化によるコスト削減が達成されました。
これらの成果は、当署で作業を行っている請負事業体にも紹介し、マニュアルを作成して研修会を開催する等、その普及に努めています。また、北海道森林管理局で開催された「令和6年度 北の国・森林づくり技術交流発表会 」においても紹介させていただき、反響のあった近隣署や事業体向けに研修会を実施しています。
今後の課題としては、最新の機材を使用できる人材の育成が急務と感じています。UAVやQGISを活用するには多くの知識が必要となり、業務への運用までに少々ハードルがあります。そのため、当署で実施している研修会やマニュアルの活用等を通じ、人材育成が進めば、安全で効率的な技術の普及が図られるものと考えています。
また、今回取得したデータで、現地と国有林で使用している図面がうまく合わない箇所がありました。それらを都度、見直していく作業も必要となります。
[画像:QGIS操作講習会]
(QGIS操作講習会)
国有林フォレスターとしての想い
今回、安全面と効率性に主眼を置いた各種ツールを利用した取組でしたが、その過程で導入したUAVを適切に運用することで、より多くのスキャン技術が応用され、安全面はもとより、そのデータを有効活用することにより、次世代の森林管理や森林経営への方向性が示唆された取組であったと感じています。
これらの技術を民国連携で普及していく中、筆者も当署に勤務して2年目を向かえました。
当初は、各市町村の会議等に出席しても、アウェー的な雰囲気を感じていましたが、各市町村や振興局の各種会議やイベントなどに積極的に参加・出席することにより、各関係機関との連携が深まり、今は管内何処に行ってもアウェー感はなくなっています。
そのような関係性を築けたことによって、プラス面も多く、様々な情報や相談などが舞い込んでくるようになりました。国有林の広報役として、いち早く地域の実情や情報を掴むのは重要なことであり、喜びを感じると同時に、職務的な役割を果たしているのではないかと思っています。
また、以前の自分と同じ様に、民有林支援について、知る機会の少ない職員が多くなっていると思います。私は、特に興味がありそうな若手職員には、地域の森林・林業・木材産業の各種イベントに誘うこととしています。参加した職員には、そのイベントの広報者として「ペン」で発信していただき、民有林支援の必要性・重要性を共に共有する活動をしています。小さなことですが、積み重ねて国民の期待に応えられる国有林職員の育成に、微力ながら尽力していきたいと考えています。
今後も当署の民有林支援サポートチームと共に、道東地域における森林・林業の発展に貢献することを目指して、各種課題の解決に向け取り組んで参りたいと考えています。
[画像:アカエゾマツサミットでの講演(筆者)]
(アカエゾマツサミットでの講演(筆者))
お問合せ先
根釧西部森林管理署
ダイヤルイン:050-3160-5785
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