建築研究部 構造基準研究室
研究室の紹介
構造基準研究室では、建築基準法や住宅品質確保促進法などの法律に基づく、建築、住宅の構造等に関する基準(政令や告示など)に関連して、以下の研究業務を行っています。
1.基準案作成のベースとなる基礎的研究の蓄積と、先端技術に関する情報収集
2.社会のニーズや技術の進歩を踏まえた、新しい基準や基準改正のあり方の検討
3.新しい基準の原案、基準の改正案などの作成
研究者情報
室長
向井 智久
鉄筋コンクリート造、性能設計、被災建物調査
主任研究官
三木 徳人
鉄骨構造
主任研究官
小原 拓
鉄筋コンクリート構造
国内外における地震被害調査
1).令和6年能登半島地震
・関連研究:これまでの地震における基礎ぐいの被害を鑑み、当室では大地震時に靭性能を期待できる既製杭基礎システムを検討しています。
・高耐震性を有する杭基礎構造システムに関する研究
(R5〜R7)
2011年の東北地方太平洋沖地震や2016年の熊本地震では、建築物の杭基礎に発生した被害が原因で上部構造物が傾斜し、当該建築物が地震後継続使用できなくなる事例が報告されています。本研究では、靭性のある杭基礎構造システムの開発及び構造性能評価を行います。
2).2023年トルコ・シリア地震
3).2025年ミャンマー地震
現在実施している研究課題
1).低炭素型のコンクリートを用いた部材の構造性能に関する検討
・ 環境配慮型コンクリートを利用した建築物に関する規制の在り方について
・建築基準整備促進事業(低炭素型のコンクリート等に係るRC造基準の適用可否の判断方法に関する検討)
(R7〜R9)
低炭素型のコンクリート等の社会実装及び開発が進み、イノベーションによる新商品や新サービスの創出を後押しします。また、低炭素型のコンクリート等の利用促進により、カーボンニュートラルの実現に寄与します。
・総合技術開発プロジェクト(カーボンニュートラルに資する新技術の導入促進のための研究開発)
(R7〜R10)
カーボンニュートラル新技術のうち、既存の技術基準では要求性能(強度、耐久性等)を満たしているのかを確認できず、利用が困難となっている技術について、要求性能を満たしているかを評価する方法を開発します。
2).建設用3Dプリンターを利用した建築物の構造性能に関する検討
・建設用3Dプリンターを利用した建築物に関する規制の在り方について
・建築基準整備促進事業(建設用3D プリンターを用いた建築物に係る構造規定の検討)
(R7〜R8)
建設用3Dプリンターによる部材等といった新しい材料・技術が開発されているが、それらの部材を構造部材として使用する場合は小規模建築物においても法第20条認定が必要となり、設計や申請に大きな手間がかかるという課題があります。
建設用3Dプリンターの社会実装及び活用が進み、イノベーションによる新商品や新サービスの創出を後押しします。作業人員の削減や工事期間の短縮が可能で、建設業の就業者数減への対策や建設費の低コスト化につながることが期待されます。
3).接着系あと施工アンカー強度指定申請ガイドライン
平成13年国土交通省告示第1024号のあと施工アンカーに関する規定が改正され(令和4年3月31日公布・施行)、あと施工アンカーの接合部の許容応力度及び材料強度の指定の対象が「補強のための部材との接合部」から「構造耐力上主要な部分である部材との接合部」に拡大されました。
住宅・社会資本分野における人工衛星等を活用したリモートセンシング技術の社会実装
地震の発生後に建築物の被災情報を迅速かつ正確に把握することは、震災による二次被害の低減や早期の経済活動の再開のために不可欠です。近年の衛星観測技術やMEMSセンサ技術の急速な発展により、リモートセンシング技術を活用した構造ヘルスモニタリング(以下、SHMという。)による被害判定を行うための基盤が整いつつあり、SHMシステムによる建物被災判定が普及すれば、建築物の被災情報を迅速かつ正確に把握できるようになることが期待されます。
飛行体レーザ計測データを用いた建築物の被災分布の判定手法に関する研究
令和6年能登半島地震において、広範囲に多くの構造物の沈下及び傾斜被害が確認されました。建築物の沈下及び傾斜の把握には、多くの調査員による作業に基づき実施されているため、多くの危険を伴うだけでなく、その調査に長時間を費やしています。 早期の被災対策を講じるためには、被害の概況や規模感について早期の把握が求められているところです。このため、本施策においては、大規模地震が発生した際に、地理的制約にも縛られない飛行体レーザによる計測データを用いて沈下傾斜した建築物を対象に、その被害分布を早期に把握するシステムを構築・実証し、早期の復興に寄与する技術開発を実施します。
(R4〜R8)
近年の社会環境の変化に対応した住宅・建築物の性能評価技術の開発を行い、住宅性能表示制度の技術基準に反映するとともに、公共建築物等の非住宅建築物においても適用可能な性能評価手法に関する各種ガイドラインを作成します。
建築物及びエレベーターの災害時の迅速な被災状況及び使用継続性を把握できる建物変位観測システムを開発します。
大地震などによって建築物の被害が大きくなると,当該建築物にアクセスすることが困難となり,被害調査そのものが困難になることが想定されます。また建築物の上階外周部に損傷がある場合にもその計測は困難になることが想定されます。そこで本研究ではUAVを用いて被災建築物を3次元計測し,その被害状態を把握できる調査方法を提案することを目的とします。
ハンチ付き鉄骨梁端接合部に関する研究
梁端接合部において、フランジを拡幅する‘水平ハンチ’や梁せいを拡幅する‘鉛直ハンチ’では、ハンチ部と元断面で幅厚比が異なるが、最も幅厚比の大きいハンチ部分の断面に着目すると、拡幅のない梁よりも低い変形性能であると評価されてしまいます。ハンチを適切に設計した場合は、十分な変形性能を有することが考えられますが、あまり検討されていません。本研究では、ハンチ付き鉄骨梁端接合部の変形性能の合理的な評価方法を提案することを目的とします。
これまでの主な研究課題
本研究では、建築物の更新時に支障となる従前建築物の杭の有効活用や既存宅地擁壁の耐震化を促進する新技術基準を開発するとともに、 構造規定の合理化を図ることにより、都市の再生と強靭化及びその設計・施工に係る生産性向上につなげるための技術開発を行います。
(R2〜R3)
H28年熊本地震により、液状化被害を受けた地区における戸建住宅所有者を対象に,住宅・宅地の被害状況、復旧工事の状況等についてアンケート調査を行うことにより、 事前の対策工事の被害軽減効果や公的助成・地震保険の有用性について把握し、戸建住宅の液状化対策について考察しました。
(R1〜R2)
本研究では、令和元年台風第15号(房総半島台風)によって強風に対するぜい弱性が顕在化した各種外装材と木造屋根を対象に、 被害実態を把握したうえで耐風性能向上に資する仕様と試験評価法の検討を行いました。
新しい木質材料を活用した混構造建築物の設計・施工技術の開発
(基準認証システム研究室主管:H29〜R3)
木材の利用推進、材料の特性を活かした可変性の拡大、施工期間の短縮、木材を表面に見せる使用ニーズへの対応など、各種目的を実現するため、 CLT等の木質系大型パネルを用いた木造と他構造種別、木質系他構法(集成材構造・2X4工法)の混構造建築物の 設計・施工技術の整備に資する技術開発を行いました。
木造住宅の耐久性向上に資する外皮の施工監理と住まい手との情報交換ツールの開発
(H30〜R1)
木造住宅の耐久性を確保するためには、木質系の下地材や躯体材などの含水率を長期間にわたり高めないことです。 本研究では、建設現場において、雨水浸入や結露を防止するための施工監理チェックリストを作成するとともに、 住まい手に適切に評価してもらうための情報交換ツールを充実させることを目的にしています。
鋼種の違いが鉄骨造柱梁接合部の構造性能に及ぼす影響に関する研究
(H30〜R1)
本研究では、鉄骨造柱梁接合部の変形性能を定量的に把握するための基礎資料として、鋼種毎に部材性能がどの程度変化するか検討するため、材料試験と柱梁接合部実験を様々な鋼種について行いました。
地表面付近での粗度効果を反映した竜巻荷重算定法の体系化
(R1〜R3)
本研究では、室内実験と観測事例から地表面付近の竜巻による気流特性を評価し、竜巻の突風によって建築物に作用する荷重(竜巻荷重)の算定法を構築しました。 既往の風力係数モデルに粗度効果を新たに導入し、竜巻荷重の算定法の体系化を図ることを目的としています。
実被害事例に基づいた大地震に対する杭基礎建物の設計手法の高度化
(H29〜H30)
杭基礎の設計に考慮すべき因子を抽出し、地震時の上部構造物応答および杭応力に及ぼす影響を実験・解析的に明らかにするとともに、 2016年熊本地震等における杭基礎の被害事例に対するシミュレーションを実施し、現行の設計法と提案モデルを比較し、有効性を検証しました。
巨大地震に対する中低層建築物の地震被害軽減技術に関する研究
(H26〜H28)
建築物の多くを占める中低層建築物を対象に、使用材料や基礎構造と上部構造のバランス等の工夫を加えることで、効率的に地震被害を軽減させる耐震技術の研究を行いました。
木質住宅における外皮の構造・仕様とその評価に関する研究
(H24〜H26)
各種の外装材および取り合い部からの雨水浸入や壁内結露のリスクを把握し、各種の材料及び構法の適切な納まりや性能評価について検討・提案しました。
地震情報の高度化に対応した建築物の耐震性能評価技術の開発
(H22〜H25)
近年、地震学の進展に伴い、任意地点での地震動が詳細に予測されるようになってきました。これらの中には、 従来の想定レベルを上回るものもあるようです。一方、建築物に作用する地震力は、地表面上の地震動が そのまま建築物に入力すると見なした場合より、かなり低減される場合のあることが知られています。
建築物の耐震性能を適切に評価するには、地震動をより精度良く予測することに加え、このような「地震動」と 「地震力」との関係を見極めることが重要と言えます。 建築研究部では、多くの建築物の地震観測記録を収集、分析し、「地震動」と「地震力」との関係を検討しました。
( 報告書 )
建築実務の円滑化に資する構造計算プログラムの技術基準に関する研究
(H22〜H25)
平成17年の構造計算書偽装問題を踏まえ、平成19 年の建築基準法改正により構造計算プログラムの大臣認定制度が創設され、 構造計算の信頼性の確保や、建築確認審査の簡素化と円滑化が図られるようになりました 一方、従前より、プログラムによって構造計算の結果にばらつきが見られることが指摘されています。 これは、プログラムにより異なるモデル化方法等が採用されていること、現状のプログラムでは、 特殊な構造部分について設計者が補完する必要があること等が要因となっています。 このため建築確認審査では、認定プログラムを使用した構造計算であっても、慎重な取扱いが必要となっているのが現状です。 そこで本研究では、計算結果のばらつきを少なくするため、プログラムが従うべき構造計算の技術基準に関する研究を行い、 建築構造のモデル化、自動計算フロー等のあり方について検討しました。
小規模建築物の雨水浸入要因とその防止策に関する研究
(H21〜H23)
信頼と安心のもとに住宅を供給できるよう、平成21年10 月に「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(住宅瑕疵担保履行法)が完全施行されました。 それに伴い住宅瑕疵担保責任保険の設計施工基準が規定され、建物内への雨水浸入の対策も重要な項目となっています。
本研究は、戸建住宅等の小規模建築物を対象として、外装からの雨水浸入のメカニズムや構成材料の劣化の要因をより明確にした上で、 将来の技術基準化に向けて、その対応策を検討する際の基礎データについて検討しました。
(報告書 )
高強度鋼等の革新的構造材料を用いた新構造建築物の性能評価手法の開発
(H17〜H20)
現在、高度な耐震性を有する建築物、既存ストックの有効活用が求められています。また高強度鋼等の材料が開発されつつあります。そこで、高機能・高強度鋼等の特性を最大限活用することにより、耐震性と可変性が格段に高い新構造建築物の性能検証法・評価方法の開発を行いました。あわせて既存建築ストック等の改修技術に活用・応用して、都市の既存構造物群の機能向上・再生を可能とする技術開発を検討しました。