JRC
JRCは、発災時の通信ネットワークをユースケースとし、災害状況の把握から、現場監視、人命救助、支援物資の運搬、ライフラインインフラ設備の復旧復興まで、長期的に優先度の高い通信環境を構築することに取り組みました。具体的には、GEO衛星回線、LEO衛星回線、地上回線をバックホールとした、マルチバックホールスイッチングの実証、及び、災害時をユースケースとし、GEO衛星回線と、LEO衛星回線のそれぞれをバックホールとしたローカル5G-衛星の実証実験を実施しました。人間が立ち入れない危険な場所での情報収集を想定し、360度カメラを搭載したロボットをローカル5G環境に置き、衛星回線を経由してロボットの操作と高機能映像の伝送を行いました。ジッタの少ないGEO衛星と遅延の少ないLEO衛星、それぞれの特長を活かすため、GEO衛星回線では360度カメラや監視カメラからの映像伝送を行い、LEO衛星回線では、災害用ロボットの遠隔操作を成功させました。この実証実験により、災害下での情報収集ニーズに対し、使用したいアプリケーションから最適な軌道の衛星回線を選択することで、優れたソリューションを提供できることを実証しました。また、
スライシングのQoS制御を活用することにより、災害時の限られた通信帯域を有効利用できることも示しました。
なお、LEO衛星回線は、ソフトバンク株式会社が提供する「Eutelsat OneWeb」またはKDDI株式会社が提供する「Starlink」を利用しました。また、ロボット制御と360度カメラ映像伝送は、株式会社ポケット・クエリーズによるシステムを利用しました。
スカパーJSAT
スカパーJSATは、ローカル5Gのバックホールとしてそれぞれ特性の異なる複数軌道の衛星通信の活用を目的として、「QoS制御」及び「経路制御」を組み合わせた環境の構築を行いました。構築した環境では、回線状況に応じた動的な制御の有効性を実証しました。具体的には、アプリケーションの用途に応じて最適なバックホール経路を割り当てるとともに、災害や障害などで一部のバックホール回線が使用できなくなった場合には、自動的に衛星回線へ切り替える仕組みを導入し、通信の継続性と安定性を確保しました。回線の切り替えに伴い、一部の回線にトラフィックが集中せざるを得ない状況においても、QoS制御により各アプリケーションに対して適切な帯域の割り当てを動的に調整する仕組みを適用しました。LEO衛星による通信容量の増大とGEO衛星利用時の安定した帯域確保を組み合わせることで、
スループットの向上と通信の安定性の両立が可能であることが確認されました。
これらの成果から、GEO及びLEOといった複数軌道衛星と5G通信を連携させた通信システムは、地上インフラが整っていない地域や災害時などの特殊な環境においても、高速かつ安定した通信の提供が可能であると実証されました。
東京大学
東京大学はBeyond 5Gにおける衛星-地上統合技術研究開発の実証実験において、衛星地上統合システム上で
エンドツーエンドのネットワークスライシング技術を実現しました。さらにネットワークスライスの動的QoS制御手法を確立し、東京大学が開発しているローカル5Gシステムや実衛星システムを利用し、上記にて確立した手法の実証を行いました。
遠隔による災害監視等では、複数台の高品質なカメラを同時に利用することが求められますが、現在の衛星地上統合システムは通信帯域に限界があり、すべてを同時に高品質で配信することは難しいという問題があります。一方で、常に高品質な映像が要求されるわけではなく、時間や場所によって要求されるカメラやその品質は変化します。
そこで、監視者のニーズに応じて、カメラのQoSを動的に制御させる動的QoS制御手法を研究開発しました。この手法には、各カメラによる映像配信アプリケーションを5Gが提供するネットワークスライシングを利用して個別にQoSを確保・制御する手法を採用しました。具体的には、高品質な伝送を必要としないアプリケーションについては、GBR(Guaranteed Bit Rate)を利用して一時的に帯域を制限します。これにより、品質を高める必要があるアプリケーションが利用できる帯域を相対的に確保することで、QoSの向上を図っています。さらに遠隔監視というニーズに応えるため、動的QoS制御を遠隔地からリモートで操作可能なコントローラの開発も実施しました。
また、今後の利活用推進に向けて
SDN/NFV技術を利用したトラフィック分類、優先制御、遅延対策機能などの研究開発も独自に実施しており、ローカル5Gシステムの堅牢化やネットワークスライシングの自動化につながる技術も開発しました。
NICT
NICTは、Beyond 5G時代における衛星地上統合技術の研究開発を加速させるため、委託研究の枠組みを整備し、ESAとの連携を通じて国際的な協力体制を確立しました。これにより、国内外の企業・大学・研究機関が連携して研究開発を行える基盤を整え、グローバルな視点から技術開発及び通信インフラを相互接続する連携技術の実現に向けた取り組みを推進しています。また、本実証実験では、NICTがこれまで培ってきた衛星回線、5G基地局、5Gコアなどを含む通信システム全体のネットワーク構築に関する知見を活かした技術的な支援及び委託研究としての支援を行いました。特に技術的な支援として、実験環境の信頼性向上を目的に、ノウハウを活かして5G基地局の接続安定性確保のための通信パラメータ設定や5Gコアのシステム構築などを行い、本実証実験の成功に大きく貢献しました。