今回行った実験の中から二つの実験について説明します。
実験1では、被験者にはロボットハンドルを握って装置の前に座ってもらいました(図1参照)。画面の中心には、多数の点が表示され、その動きが、全体として右に動いているのか、左に動いているのかを判断してもらい、その判断と同じ方向にハンドルを動かしてもらいました(図2A参照)。被験者は、提示される点の動きが簡単に判断できるグループ(「迷いなし」グループ: 同期率100%)と、難しいグループ(「迷いあり」グループ: 同期率3%)の二つに分けられました。
いずれのグループでもロボットハンドルを動かす際、図2Bのような力が掛かることで運動が邪魔されるようになっており、被験者は、その力に対抗してまっすぐハンドルを動かすことを学習しました。
図2 A今回の実験で被験者に呈示した画面、Bハンドルの動きに掛かる力場による邪魔のパターン
図3 実験1の結果
A 迷いなし又は迷いありのグループが学習した邪魔に対抗する力
B 迷いなし又は迷いありのグループが運動学習後に行った、異なる点集合の同期率に対する学んだ力の発揮率
その結果、どちらのグループも同じ程度、邪魔する力に対抗して運動ができるようになりました(図3A参照)。しかし、「迷いなし」で運動を学んだグループが、迷いのある状況に置かれると、うまく邪魔する力に対抗できず、逆に、「迷いあり」で運動を学んだグループは、迷いのない状況で、邪魔する力にしっかりと対抗できませんでした(図3B参照)。
これは、運動が事前の「迷い」とセットで学ばれているため、運動を学んだ時の迷いが異なれば、違う運動になってしまうことを意味します。
図4 実験2の結果
A 迷いなし又は迷いありのグループの運動学習前後における邪魔に対抗する力
B 迷いなし又は迷いありの学習におけるハンドルの動きに掛かる邪魔する力のパターン
実験2でも、被験者にロボットハンドルを握って装置の前に座ってもらい、画面の中心に表示される多数の点の動きが、全体として右に動いているのか、左に動いているのかを判断させ、同じ方向に動かしてもらいました。迷いなく判断できる動きを表示(同期率100%)した場合は、反時計回り方向の邪魔する力が掛かり(図4B上参照)、迷わせる動きを表示(同期率3%)した場合は、時計回り方向の邪魔する力が掛かります(図4B下参照)。
その結果、被験者は、「迷いのない判断」の後の運動と「迷いのある判断」の後の運動の二つを同時に学習することができるようになりました(図4A右参照)。これは、運動の前の迷いの有無が、運動を区別するための手がかりとなるため、それぞれの邪魔に対して別々に対抗する力を学ぶことができたからです。
つまり、運動する前の迷いは、その後の運動を別々のものとして「タグ付け」しているといえます。