国際共同研究グループ
NICTフォトニックネットワーク研究室のほか、本研究に参加している研究グループは以下のとおりである。
アイントホーフェン工科大学(Eindhoven University of Technology、オランダ): 伝送実験に研修生が参加
ラクイラ大学(University of L’Aquila and CNIT、イタリア): 伝送実験に研修生が参加
ペタビット
1ペタビットは1,000兆ビットで、毎秒1ペタビットの伝送容量は8K放送の1,000万チャンネルに相当する。また、現在の商用光通信システムの伝送容量は、毎秒20テラビット程度で、1ペタビットはその50倍程度に相当する。
波長多重
波長ごとに異なるデータを載せた光信号を、同一の光経路上に一括して伝送する技術である。電気通信における周波数分割多重と原理は同じであり、各光信号は周波数が等間隔になるように通信波長帯に配置され、周波数間隔に応じて周波数帯域が占有される。周波数間隔が同じであれば、使用する波長数に応じて伝送容量を上げることが可能である。
ただし、光ファイバ通信に適した波長帯域は限られており、現在の光伝送システムでは、主にC帯(波長1,530〜1,565 nm)が利用されていて、波長数は、100 GHz周波数グリッドの場合50程度である。また、L帯(1,565〜1,625 nm)も一部で商用に利用されている。
それに対し、T帯(1,000〜1,260 nm)、O帯(1,260〜1,360 nm)、E帯(1,360〜1,460 nm)、S帯(1,460〜1,530 nm)、U帯(1,625〜1,675 nm)などの波長帯は商用化が進んでいない。これらの波長帯を含んだ波長多重技術を特にマルチバンド波長多重技術と呼ぶ。これまでのマルチバンド波長多重技術で得られた最大の周波数帯域は、S、C、L帯による20 THzである。
マルチコア方式
マルチコア方式の光ファイバは、コア(物理的な光経路)を複数備えており、各コアに異なるデータを送信して伝送容量を拡大する事ができる。マルチコア方式の光ファイバは、さらに、非結合型とランダム結合型に大別される。コア内に信号を閉じ込める非結合型の光ファイバが、早期実用化に適している一方、多数のコアを適切に配置し、コア間で生じる信号同士の干渉をMIMO受信機によって分離するランダム結合型の光ファイバも、次世代の伝送媒体として期待されている。
マルチモード方式
光ファイバのコア中を光信号が伝搬する時は、コアとその外側にあるクラッドとの境界で全反射を繰り返しながら、様々な振動状態で進行する。この振動状態の違いが伝搬モードで、コア径が大きい場合には一つのコア内に複数のモードが存在する。マルチモード方式では、各コアの複数のモードを論理的に異なる光経路として用いる。各モードの信号間には、ファイバ入出力や伝搬中、接続時に干渉が発生するため、MIMO受信機による干渉の除去が必要となる。
今回の研究では、38個の3モード伝搬可能なコアと、1個のシングルモード伝搬可能なコアを持つマルチコア・マルチモード光ファイバを使用し、そのうちの3モード伝搬可能なコアのみを伝送実験に使用した(図4参照)。
MIMO受信機
マルチモード光ファイバやランダム結合型マルチコア光ファイバを用いた伝送では、モード分離(モード/コアごとの個別の信号チャネルへの分離)を行う際に、ほぼ必ずMIMO(Multi-Input-Multi-Output)受信機を用いた復調処理が必要となる。MIMOは、無線通信でマルチパス干渉を除去するために用いられる信号処理技術である。光通信においては、同一の光ファイバ内を伝搬する異なる光信号同士の干渉を除去するために使用される。
偏波多重256 QAM
多値変調は、光の位相や振幅を多段階に制御して複数のビットを表現する技術であり、特に、位相と振幅を同時に用いるものをQAM (Quadrature Amplitude Modulation)と呼ぶ。256 QAMは、1シンボルが取り得る位相空間上の点(多値度)が256個で、1シンボルで8ビットの情報(28=256通り)が伝送でき、同じ時間でOOK(On-Off Keying)の8倍の情報が伝送できる(図4参照)。また、直交する2つの偏光方向を持つ光信号それぞれに対してQAM変調を行うことができ、これによりビット数を2倍にすることを偏波多重と呼ぶ。