深紫外光と呼ばれる、極めて強い殺菌作用を持つ光を発する深紫外LED(発光ダイオード)に高い関心が集まっています。NICTでは、東京大学医科学研究所と共同で、発光波長265 nm帯の深紫外LEDが、液体中並びにエアロゾル中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して極めて高い不活性化効果を有することを世界で初めて定量的に明らかにしました(2022年3月18日の報道発表参照)。これにより、深紫外LEDは、接触感染やエアロゾル感染を介した感染拡大を抑制するための画期的なツールとして期待されていました。
深紫外光を用いたウイルス殺菌応用においては、深紫外LEDから発せられるパワー(光出力)をどれだけ高められるかが実用上、最も重要なファクターとなります。しかし、これまでの深紫外LEDを用いたハンディ照射機は、光出力が小さなものしかなく(数十mW 程度)、短い時間で殺菌しようとした場合、殺菌できる有効範囲が直径数cm程度内に限られるなど、パワーを必要とする殺菌応用においては、その実用性に問題がありました。
このため、従来、広範囲の殺菌などに向けた高出力用途の深紫外光源としては、
水銀ランプが主に用いられてきました。しかし、水銀ランプは、人の健康や環境に有害な水銀を含み、2017年発効の「水銀に関する水俣条約」により、その廃絶に向けた国際的な取組が加速しています。また、水銀ランプやエキシマランプ等のガス放電式ランプは、ガスを封入するガラス管が割れやすく、光源のサイズや駆動電源が大掛かりとなるなど、持ち運びに不向きで、その利用範囲は限定されていました。
このような背景から、水銀を使用せず、どこにでも持ち運びできる小型ハンディ機で、広範囲のウイルスを迅速に殺菌可能な高出力深紫外LEDハンディ照射機の開発が切望されていました。
NICTの当研究グループは、これまで、高出力な深紫外LEDの研究開発とその実用化に向けた取組を積極的に推進してきました。内部光吸収や光出力飽和現象(効率ドループ)の抑制を可能とするナノ光構造技術を基盤とした深紫外LEDの研究により、深紫外LEDの単チップ当たりの世界最高出力の記録を何度も大幅に更新(光出力500 mW超)するなど、本分野をリードする成果を発表してきました(2022年3月18日、2017年4月4日及び2015年4月1日の報道発表参照)。NICTは、低環境負荷で、小型、高出力な深紫外LEDの実現に大きく貢献しています。