日弁連新聞 第620号
不動産押し買い被害の防止・解決に向けて
宅建業法の改正を求める意見書を公表
不動産押し買い被害の防止・解決に向けて宅地建物取引業法の改正を求める意見書
日弁連は、本年9月18日付けで「不動産押し買い被害の防止・解決に向けて宅地建物取引業法の改正を求める意見書」を取りまとめ、国土交通大臣に提出した。
背景等
消費者、特に高齢者の所有する不動産を、宅地建物取引業者が自宅を訪問し不当に廉価で買い取るという、いわゆる押し買い被害が増加している。最近では、リースバック(居住不動産を買い取って貸し戻す方法)が利用され、不動産の市場価格や取引による利益・損失、取引の仕組み(リースバック、定期借家契約等)について、危険性等を事業者が十分説明せずに言葉巧みに勧誘して売却させ、消費者に著しい不利益を及ぼす事案も多発している。不動産取引の公正を確保するために、不動産の押し買いに対する法整備は急務である。
意見書の趣旨
本意見書では、現行法制度の不備を指摘した上で、1宅地建物取引業者に不動産を売却する者も、宅地建物取引業法における保護の対象となることを明確にすること、2宅地建物取引業者が買主となる売買についてクーリング・オフ制度を導入し、クーリング・オフ妨害に関する規定ならびに顧客に転売先を通知する義務および転売先にクーリング・オフ対象案件であることを通知する義務に関する規定を新設すること。なお、宅地建物取引業者が買主となる売買については、引き渡し済み、代金支払い済みの場合をクーリング・オフ制度の適用除外としないこと、3媒介契約のみならず売買契約においても、取引対象となっている不動産の価額または評価額について根拠を明示した上で説明する義務を定めること。併せて、当該取引による利益・損失や当該取引の仕組み(リースバック、定期借家契約等)、危険性等について、当該顧客の経験、知識、理解力等に応じて、具体的に理解することができる程度の説明を行う義務を定めること、4宅地建物取引業法において、当該顧客に不適当な契約の勧誘を行わないことや顧客の保護に欠けるような取引を行わないこと等、適合性の原則の規定を設けること、5高齢者が不動産売買の当事者となる場合には親族等の立ち会いを求めるなどの適切な対応がとれるように法定指針やガイドラインを設けること、を内容とする宅地建物取引業法の改正等を求めている。
(消費者問題対策委員会 委員 藤田裕)
消費者保護を基軸とした速やかな特商法改正を
意見書を公表
特定商取引に関する法律等の改正を消費者保護の基軸に立って速やかに行うことを求める意見書
日弁連は、本年9月18日付けで「特定商取引に関する法律等の改正を消費者保護の基軸に立って速やかに行うことを求める意見書」を取りまとめ、消費者庁長官に提出した。
背景等
日弁連は、消費者被害の予防・救済の観点から、特定商取引に関する法律(以下「特商法」)の抜本的改正を繰り返し求めてきた(2022年7月14日および2024年10月22日付け意見書)。インターネット上の詐欺的な定期購入商法被害の激増に対しても、2023年9月15日付け意見書を公表し具体的な法改正の提言を行っている。
定期購入に関する消費者被害の相談件数は、2020年の5万9578件から、2024年には8万9893件へと大幅に増加し、SNS関連の消費生活相談件数も、2020年の4万496件から、2024年には8万6396件と増加の一途をたどっている。SNS型投資詐欺の被害額も、2025年上半期の数字で約351億2千万円、同じくSNS型ロマンス詐欺の被害額は約239億6千万円と高止まりし、深刻な被害状況が続いている。
それにもかかわらず、デジタル分野を担当する消費者庁取引対策課は、本年6月19日付けで、法改正の必要性を否定するかのような内容を含む「デジタル社会における消費取引研究会(報告書)」(以下「報告書」)を取りまとめた。
意見書の趣旨
本意見書は、報告書の問題点(提言の基本的方向性や研究会の委員構成・運営面・内容面)を指摘した上で、報告書が示した方向性に拘泥することなく、消費者保護を基軸とする速やかな特商法等の改正を求めるものである。
具体的には、主に、1消費者庁は、消費者被害相談が激増している詐欺的定期購入やSNS型投資・ロマンス詐欺を含むインターネット取引等における消費者被害に対応するため、政省令やガイドラインの見直しを含む特商法等の改正を速やかに行うべきであること、2上記改正は、報告書が示した「極力私人間の契約・取引に対して国家が干渉せず、個人の意思を尊重する原則の下での制度設計とすべき」といった方向性に拘泥することなく、あくまで消費者保護を基軸として行われるべきであることを求めている。
(消費者問題対策委員会 副委員長 金昌宏)
国会主導での再審法改正の実現を求める院内会議
10月7日 衆議院第二議員会館
本年6月18日に再審法(刑事訴訟法第4編「再審」)の改正法案(以下「本改正案」)が国会に提出されている。再審法改正の議論は法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下「部会」)でも行われているが、えん罪被害者の救済は喫緊の人権問題である。1日も早い再審法改正を実現すべく院内会議を開催し、国会議員78名(代理出席・オンライン参加を含む)をはじめとする多数の参加を得た。
再審法改正の議論状況
渕上玲子会長は開会挨拶で、数多くのえん罪事件を通じ現行法の不備があらわになっていると強調し、再審法の理念に則った法改正が、立法府たる国会の主導により早急になされることを強く期待する、と述べた。
再審法改正実現本部の河井匡秀事務局次長(東京)は、えん罪被害者の早期救済のために再審法改正は一刻を争うと力を込めた。一方で、部会ではえん罪被害者へのヒアリングが1人当たり10分程度にすぎないなど、えん罪の実態把握が不十分だと批判した。
共に部会委員を務める村山浩昭副本部長(東京)と、再審法改正推進室の鴨志田祐美室長(会長特別補佐)(京都)は、部会では開示証拠の範囲を限定する意見や検察官抗告禁止への消極意見が出ており、その方向で議論が進めば、現行制度の運用で開示されてきた証拠すら開示されなくなる事態が危惧され、えん罪被害者の迅速な救済は実現できないと強調した。
えん罪被害者からの訴え
袴田ひで子さんは、弟の袴田巖さんが無罪確定によりようやく死の恐怖から解放され、日頃の会話でも反応が見られるようになったと報告し、47年7か月の身体拘束をはじめ、巖さんの苦悩は再審法改正を通じて昇華させたいと語った。
大川原化工機事件において保釈請求が認められないまま病死した相嶋静夫さんのご遺族は、捜査機関による証拠の意図的隠滅等を挙げて、誤判の積極的検証と誤判からの早期救済の必要性を訴えた。いわゆる福井中学生殺害事件で再審無罪となった前川彰司さんは、再審法改正による手続整備を求めるとともに、刑事司法全体の在り方も改めて検討してほしいと要望した。
再審法改正の早期実現を
会議では再審法の早期改正に向けて、国会議員をはじめとする参加者らの意気込みが語られた。三日月大造滋賀県知事(代読)は、湖東事件のえん罪被害者と家族の苦労にも触れた。
えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟幹事長の逢坂誠二衆議院議員は、再審法改正は国会の責務であるとし、国会議員も含め多くの人々の思いが込められた本改正案を必ず早期に可決させたいとの強い思いを示した。
総合的な権利擁護支援制度の整備に向けて
意見書を公表
本人の自律、意思及び選好を尊重する支援付き意思決定の仕組みを実装した「権利擁護支援事業」を社会福祉法に新設することを求める意見書
日弁連は、本年9月19日付けで「本人の自律、意思及び選好を尊重する支援付き意思決定の仕組みを実装した「権利擁護支援事業」を社会福祉法に新設することを求める意見書」を取りまとめ、厚生労働大臣に提出した。
背景等
成年後見制度を必要な場合に必要な期間だけ利用可能とする方向で、民法改正の議論が進んでいる。また、社会福祉法2条3項に掲げる第二種社会福祉事業を創設または拡充するため、社会保障審議会福祉部会では、同法改正を視野に具体的な制度化の議論が進められる見通しである。
意見書の概要
本意見書では、このような潮流と、2022年度から厚生労働省が展開してきた持続可能な権利擁護支援モデル事業の実践成果と課題を踏まえ、あるべき新たな「権利擁護支援事業」を提案した。ポイントは3つあり、1本人の自律、意思および選好が十分に尊重され、一人一人に適した支援が提供される仕組みとすること、2「意思決定支持者」、「権利擁護支援委員会」、「権利擁護支援専門員」の3主体を法文上に明記し、複数の主体がそれぞれ独立した立場から確認、評価し合う相互けん制機能が担保された透明性のある枠組みとすること、3国の責任で全国どこでも利用可能な体制を整備することである。
本意見書における「権利擁護支援事業」は、地域の実情を十分に踏まえながらも、常に本人の側に立ち、本人の意思・意向、選好および価値観に根差した意思決定を支持する「意思決定支持者」、日常的に金銭管理サービス等を行う事業者を監視・監督しつつ、本人および意思決定支持者を支援する「権利擁護支援委員会」、委員会から要請を受け独立した立場で調査、支持および代弁活動等を行う「権利擁護支援専門員」の3主体が連携することによって、本人の自律、意思および選好を尊重しながら、生活基盤サービス事業者の関係性の濫用等による本人の不利益を防止することを目指すものである。
(日弁連高齢者・障害者権利支援センター 委員 水島俊彦)
取調べの可視化フォーラム2025
もしも録画がなかったら。カメラが見ていた取調べの実態
9月9日 弁護士会館
取調べの可視化フォーラム2025「もしも録画がなかったら。カメラが見ていた取調べの実態」
刑事訴訟法によって録音・録画が義務付けられる取調べは一部の事件に限定され、特に警察の取調べの大部分は今も録音・録画がない。録音・録画があった事件となかった事件とを比較しつつ、改めて可視化の必要性について議論した。
事例報告
プレサンス事件
株式会社プレサンスコーポレーションの代表取締役を務めていた山岸忍氏が、共犯者とされた部下の供述を証拠に業務上横領で起訴され、無罪となった事件である。検察官による取調べが問題となった。
秋田真志会員(大阪)は、山岸氏とともに、無罪判決確定後も検察による検証や山岸氏への謝罪はなく国家賠償請求訴訟の提起等に至ったことや、同訴訟で公判不提出部分を含めた取調べを録音・録画した記録媒体の文書提出命令を申し立て、許可抗告審の最高裁判所が公判不提出部分の開示申し立てを却下した原審決定を取り消したことなどを説明した。
佐賀出口国賠事件
窃盗の嫌疑で取調べを受けた被疑者が不起訴となった事件である。被疑者が黙秘し、録音・録画がなされなかった取調べにおいて、警察官が虚偽の供述調書を作成したことが問題となっている。
出口聡一郎会員(佐賀県)は、国家賠償請求訴訟提起のために証拠保全を申し立て、警察官によって作成された供述調書を入手したことなどを報告した。
パネルディスカッション
現在、録音・録画が義務付けられている事件は起訴されて公判が開かれた全事件の約3%であることを踏まえ、さらなる可視化について議論した。
登壇者らは、違法な取調べを防ぐには、全事件・全過程の録音・録画とともに、取調べへの弁護人の立会いが必要だと訴えた。山岸氏は、捜査機関は独善に陥ることなく常に内省しつつ職務を適正に執行してほしいと力を込めた。
新制度 いよいよ始まる犯罪被害者等支援弁護士制度
2024年4月に改正された、総合法律支援法に基づく犯罪被害者等支援弁護士制度(以下「新制度」)が、2026年1月13日から施行される。本稿ではそのポイントを概説する。
新制度の概要
新制度の開始により、1故意の犯罪により人を死亡させた罪(未遂を含む)の被害者等、2一定の性犯罪(未遂を含む)の被害者等、3故意の犯罪により重傷を負った被害者等(政令で定めるもの)は、事件発生直後から、告訴を含む刑事手続の対応のほか、民事訴訟について弁護士に法律相談や代理援助等を依頼する際に、一定の資力要件の下で日本司法支援センター(法テラス)を利用できるようになる。
新制度は、これまで日弁連が法テラスに委託して実施していた犯罪被害者法律援助だけでなく、民事法律扶助制度についても包摂するものである。弁護士の報酬は、起訴前の活動、起訴後の活動、民事手続での活動の有無によって変動することとされている。
法律相談や代理援助の弁護士報酬について、原則として被害者による償還は不要(給付制)である。ただし、現実に取得した金銭がある場合にはその額に対する一定の割合を弁護士報酬として被害者が負担する。また、高額賠償を得た場合には償還を要することも、現行の援助事業と同様である。
犯罪被害者等支援弁護士契約を
弁護士が新制度で受任するには、民事法律扶助制度と同様に法テラスと基本契約を締結した上で被害者と個別契約を締結することとなる。基本契約の締結には、弁護士会が指定した犯罪被害者支援に関する研修の受講が要件となる。
新制度において被害者は弁護士費用の償還が原則不要であることから、これまでは民事法律扶助を利用していた事件でも新制度を利用することが見込まれる。法律援助事業の国費化という日弁連の要請がようやく実ったものであり、他の事業の国費化の試金石ともなる。基本契約の締結漏れによる受任者不足などの事態を招かないよう、引き続き新制度の周知や開始後の運用を注視していきたい。
(犯罪被害者支援委員会 副委員長 山本剛)
高等教育の修学支援新制度の改善を求める意見書
日弁連は、本年9月19日付けで標記の意見書を取りまとめ、10月1日付けで、文部科学大臣および独立行政法人日本学生支援機構理事長に提出した。
本制度の現状等
いわゆる「高等教育の修学支援新制度」は、経済的事情による進学格差の拡大、貸与型奨学金の返還困難者の増加等の事情を背景とする国の対応の中で、2020年度に開始された。政府主導の少子化対策と大学改革の一環として、授業料・入学金の減免と給付型奨学金を柱とする制度である。
制度開始の当初から、支給規模や支給額が十分でないなどの課題が指摘されており、その後、多子世帯や私立学校の理工農系学生等への支援が拡充されてきた。
意見書の概要
本制度には、特に大学等への進学を目指す困窮世帯の子どもが、経済的困窮を理由に進学を断念することなく、安心して学ぶことができるようにするという観点から、多くの課題がある。
本意見書では、現行制度の主な課題を5つに整理するとともに、各課題を解決するための制度改善を求めている。
具体的には、1困窮世帯の子どもは短期間で大学等への入学金等を工面することが困難であるため、困窮世帯の学生等に配慮した制度創設を大学等に求めること、2本制度における授業料の減免上限額が一律であるため、授業料等が高額になる理工農系などの学部系統の授業料減免上限額を引き上げること、3本制度を利用する学生等は、事実上、無利子奨学金(第一種奨学金)を併給することができないため、無利子奨学金との併給調整を撤廃すべきこと、4学生等本人の収入が支給額の算定に影響することから、算定基準額を超えて稼働した場合には翌年の支給額が減額され、さらに稼働収入を増やす必要が生じるため、学生等本人の収入の一定額は支給額の算定から控除するべきであること、5給付型奨学金の不正利得に係る徴収金は非免責債権であり、誤った徴収決定がなされた場合には学生等にとって重大な影響を与えるため、行政不服審査法が規定する行政不服審査手続と同等の透明性や公平性・中立性が確保されるべきこと等を求めるものである。
(貧困問題対策本部 委員 西博和)
2025年度 ESG(環境・社会・ガバナンス)基礎講座 第2回
金融犯罪対策と企業の社会的責任
〜国際的な動向や弁護士の果たすべき役割も含めて〜
9月9日 弁護士会館
2025年度ESG(環境・社会・ガバナンス)基礎講座第2回「金融犯罪対策と企業の社会的責任〜国際的な動向や弁護士の果たすべき役割も含めて〜」
SNS投資詐欺、ロマンス詐欺等の金融犯罪の被害は加速度的に拡大し、2024年の国内財産犯の被害額は4千億円を超えた。マネー・ローンダリングを含む金融犯罪対策について、国際的な動向等を踏まえ議論した。
金融犯罪対策と社会の責任
齋藤豊氏(金融庁金融犯罪対策室長)は、2024年に摘発された事件では、137の金融機関で1367の法人口座が不正に開設されていたとし、インターネットバンキングを含め、口座の不正利用等防止に向けた対策を継続的に強化していく必要があると説明した。また、債務名義の取得が簡便な支払督促や公正証書を悪用し、凍結口座を差し押さえることで、当該口座から資金を不正に引き出す事例を報告し、犯罪の手口が巧妙化・多様化している実情を踏まえ、社会全体での対策が急務だと論じた。
野田恒平氏(財務省調査課長)は、犯罪収益はさらなる犯罪に使用され、テロ・核開発などの資金源にもなるとし、組織犯罪の撲滅には、犯罪収益の没収を含め、資金の循環を断つ必要があり、世界規模で犯罪が組織化する現状において、国際社会一丸での対策が求められると述べた。また、カネが通る途はすべてマネー・ローンダリングのチャンネルになり得るとし、金融機関のみならず、弁護士や会計士などの財産を扱う職業的専門家、NPO等もリスクを抱えていることを認識しなければならないと指摘した。
金融機関向けコンプライアンスを専門とする山﨑千春氏(ラクシャー・コンサルティング株式会社代表取締役)は、オンラインによる本人確認で生成AIを悪用したなりすましによる口座開設例を紹介した。不審な取引に対して毅然とした態度をとる金融機関は、犯罪組織に悪用される傾向が低いと分析した。
パネルディスカッション
金融犯罪の被害拡大の防止に向けて、SDGsの達成目標でもある、人々が等しく金融サービスを利用できる環境を整える金融包摂等の観点も踏まえて意見交換がなされた。
金融犯罪対策は、顧客のリスクの大小に応じた顧客管理・取引モニタリング等によって金融機関のみが担うものではなく、企業等による取引先等のクライアント情報の管理を含めて、社会全体で取り組むべき課題であるとの認識が共有された。また、弁護士も企業法務等を通じて金融犯罪に関与してしまうリスクがあるとして、注意喚起された。
多重債務事件処理における面談義務はなぜ重要なのか
〜失ってはいけない大切なもの〜を考えるシンポジウム
10月3日 弁護士会館
多重債務事件処理における面談義務はなぜ重要なのか〜失ってはいけない大切なもの〜を考えるシンポジウム
弁護士による債務整理事件の処理では、日弁連の「債務整理事件処理の規律を定める規程」(以下「規程」)により依頼者との面談等が求められる。規律の概要を確認し、直接面談の必要性・有用性について議論した。
直接面談義務等の規律
消費者問題対策委員会の小林孝志副委員長(宮崎県)は、面談義務(規程3条)について、面談は受任前に行う必要があることや、債務者ごとに行わなければならないことを解説した。例外事由である「面談することに困難な特段の事情があるとき」についても、障壁となる事情が解消され次第速やかな面談を要すると注意喚起した。
このほか、不利益事項の説明義務(規程4条)、受任弁護士の明示義務(規程7条)、広告規制(規程18条、「弁護士等の業務広告に関する規程」および「業務広告に関する指針」)等を説明した。
直接面談の必要性・有用性
小野仁司委員(神奈川県)は、直接面談の重要性を診療になぞらえて説明した。人は自身に都合の悪い事実は見ないようにしがちであり、患者は医師から直接助言を受けて初めて治療の必要性を理解できるもので、債務整理にも同様の構造があるとした。弁護士には依頼者の背景事情を含めて把握・検討して手続選択することが望まれると語った。
生水裕美氏(一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワーク理事、元滋賀県野洲市市民部次長)は、自殺の原因として多重債務が増加していることを挙げた。生活再建・生活困窮者支援には、債務整理と生活支援の連携が重要であるとし、行政は弁護士に対する信頼を基に、相談者をつないでいると述べた。
パネルディスカッション
生水氏は、法律事務所に出向くことができない高齢者や障がいのある相談者に対して、自治体の相談員が同席して弁護士とのオンライン面談を活用したケースを紹介した。
高橋敏信委員(大阪)は、近時の不適切な対応事例として、弁護士が直接面談をせずに、生活保護受給状況等の情報を聞き漏らし、依頼者の財産状況の全体像を把握しなかったケースを挙げ、手続選択を誤れば、依頼者の生活再建ができないだけでなく、その家族へも深刻な影響が及ぶと指摘した。高橋委員は、信用が崩れるのは一瞬であることを弁護士は今一度認識しなければならないと呼びかけた。
第85回 市民会議
9月30日 弁護士会館
本年度第2回の市民会議では、民事法律扶助制度の拡充と外国人の人権保障に関する日弁連の取り組みについて議論した。
民事法律扶助制度の拡充に向けて
2006年の日本司法支援センター(以下「法テラス」)設立後、民事法律扶助の事業規模は拡大してきたが、費用の立替償還制度や弁護士報酬の見直しは行われていない。
寺町東子副会長は、2023年の日弁連総会における、民事法律扶助制度の原則給付制への転換、日弁連法律援助事業の国費・公費化を含む民事法律扶助の範囲拡大、弁護士報酬の適正化等を求める決議について説明した。また、離婚後の共同親権制度の開始が2026年に迫る中、子どもが自分に関する事項について意見を表明するためには、弁護士によるサポートが重要であるが、未成年者は単独で法律行為ができないため法テラスを利用できない現状を共有し、状況の改善が急務であることを訴えた。
委員からは、民事法律扶助制度の担い手たる弁護士を確保するための対策が必要であるとの声が挙がった。社会の理解を得るために、民事法律扶助の需要増加の構造的背景を分析し、受任事件の業務量などを調査して、事案の複雑化、長期化が進む状況を可視化することも考えられるとの意見もあった。
外国人の人権保障に関する取り組み
近時の外国人を巡る人権保障は日本においても消極的な潮流にある。
藤田祐子副会長は、在日外国人に対する差別や、技能実習制度、難民認定制度の問題など日本における外国人の人権保障に関する課題を説明した。政府が本年5月に発表した、ルールを守らない外国人を速やかに日本から退去させるための対応策を示す「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」は、保護されるべき外国人の人権の侵害や国際人道法に反するおそれがあるとの懸念を示した。
委員からは、外国人問題とひとくくりにせず、それぞれの課題を整理して議論する必要があることや、外国人の能力や文化的知見等を日本で活用していくという視点も必要だとの指摘があった。また、外国人が原因ではない不安や不満が外国人に向かっている傾向があり、その背景を十分に吟味し、人権保障の重要性を市民に分かりやすく伝えることが必要であるとの意見もあった。
市民会議委員(2025年9月現在)五十音順・敬称略
井田香奈子(朝日新聞オピニオン編集長代理)
伊藤 明子(公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター顧問、元消費者庁長官)
太田 昌克(共同通信編集委員、早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授、博士(政策研究))
吉柳さおり(株式会社プラチナム代表取締役、株式会社ベクトル取締役副社長)
小井土彰宏(亜細亜大学国際関係学部多文化コミュニケーション学科教授、一橋大学名誉教授(社会学研究科))
河野 康子(議長、一般財団法人日本消費者協会理事、NPO法人消費者スマイル基金理事長)
清水 秀行(日本労働組合総連合会事務局長)
浜野 京(信州大学理事(ダイバーシティ推進担当)、元日本貿易振興機構理事)
林 香里(副議長、東京大学理事・副学長)
福澤 克雄(株式会社TBSテレビ ドラマ・映画監督)
湯浅 誠(社会活動家、東京大学先端科学技術研究センター特任教授)
第29回 全国弁護士会ADRセンター連絡協議会
9月26日 京都市
弁護士会のADRセンターの運営に携わる各地の委員らが会し、ハラスメント等の組織内のトラブルを中心に、紛争が顕在化する前(紛争「未満」)のADR手続の活用について議論した。
協議会の前半では、昨年度の仲裁ADR統計年報(全国版)の概要報告や災害ADR未設置会解消に向けた取り組みの紹介、京都弁護士会が実施するスキルアップ研修の紹介を行った。
京都弁護士会紛争解決センター運営委員会の橋本弥江子副委員長(京都)は、企業へのヒアリング結果も踏まえ、組織内トラブルへの対応に関する現状と課題を報告した。企業は、ハラスメント事案の事実認定および行為の判定に難しさを感じており、調査についても大きな負担感を抱えていると指摘した。企業による調査・判定前にADR手続を活用することで、企業の負担軽減につながり得ると述べた。
「京都モデル」の紹介
京都弁護士会紛争解決センター運営委員会の委員らは、「京都モデル」と題して、紛争顕在化前におけるADR手続の新しい枠組みの構想を紹介した。
「京都モデル」は、従来のADR手続とは異なり、1当事者が所属する組織による当事者双方の了解を得てからの利用申し込み、2担当者による聴取、3伝達と話し合い、4相互理解と関係性の調整の4段階から構成される。鈴木桂子氏(MWI社(米国ボストン)組織オンブズ)は、当事者自らではなく所属組織が申し立てる京都モデルが成功するためには、事情聴取をはじめとする手続的中立性の担保が重要だと語った。
パネルディスカッション
組織内トラブルが顕在化する前にADR手続を活用することについて、入江秀晃教授(九州大学大学院法学研究院・法科大学院)は、組織における人間関係の調整には多大な労力を要するところ、事柄の性質上、組織の上席者がその役割を担う必要があるとし、組織的な負担軽減という観点からADR手続を活用するという視点は有用ではないかと述べた。
小西絢子会員(京都)は、組織内弁護士としての経験を踏まえ、企業はハラスメントは内部で解決すべきとの意識が強いと思われ、また、弁護士等の企業外の者には内情が分からないと考えている人も多く、早いタイミングでのADR手続の利用には、動機付けの難しさもあると指摘した。
JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.207
公共訴訟をひらく
認定特定非営利活動法人CALL4
旧優生保護法国家賠償請求訴訟における令和6年の最高裁大法廷判決は、訴訟を提起した被害当事者だけでなく、同様の被害を受けた人たちに対する補償の実現につながりました。訴訟における司法判断は、同種事案へと波及し、社会制度を改善することがあります。
今回は、社会課題の解決を目指す訴訟(以下「公共訴訟」)の支援に特化したウェブプラットフォームを運営する認定特定非営利活動法人CALL4(以下「CALL4」)の共同代表を務める谷口太規会員(東京)、プロボノメンバーの向井佑里会員(東京)と紺田雄平会員(第二東京)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 長瀬恵利子)
公共訴訟の活性化を図る
(谷口)公共訴訟は、政策形成訴訟と呼ばれたり、住民訴訟や集団訴訟の形をとったりして以前から存在してきました。私は司法修習時代から公共訴訟に携わってきましたが、時間や労力の負担が大きい一方で結果を獲得しにくく十分な報酬も得られないため、弁護士の誰もが取り組める活動ではないという課題があると考えていました。
そのような問題意識を背景に設立した組織がCALL4です。設立当初から、法曹関係者だけではなく、編集者などの伝えるスキルを持つメンバーが参画しています。ウェブプラットフォームをはじめとして、市民に訴訟の背景を分かりやすく伝えて関心を集め、その訴訟の社会的意義の理解を促し、訴訟期日の傍聴やクラウドファンディングなどの形で公共訴訟に関与してもらう仕組みです。
CALL4は、ある社会課題の改善・解消に取り組むコミュニティの構築を支援することで、公共訴訟を活性化させることを目指して活動しています。他方でCALL4もまた、公共訴訟の活性化を目指すコミュニティの支援によって発展を続けてきました。
人と人の輪が訴訟を支える
(紺田)私は大学生の頃、CALL4の存在を知り、学生インターンとしてメンバーになりました。ある公立小学校の教員が残業代の支払いを求めた訴訟では、教員を目指す学生らが支援者として集まり原告を勇気づけ、原告は将来の教員のためにと奮闘していました。人と人の輪が訴訟を支える様子に感銘を受けました。
(向井)私も法科大学院在学中にインターンとしてCALL4に参加し、現在に至ります。弁護士だけでなく、原告や支援者、法曹ではないCALL4のメンバーらが公共訴訟を通じて社会問題に取り組む姿を目の当たりにし、さまざまな人たちの関わりが力になることに気付かされました。
社会にひらく
(谷口)CALL4で支援を呼びかけたケースのうち相当多くの割合で課題解決につながる結果を獲得しています。この中には最高裁が法令違憲判決を出した例もあります。訴訟代理人の工夫や努力によるところが大きいことはもちろんですが、市民からの支援金による訴訟活動の充実や、関心を持った市民で法廷の傍聴席が埋まるなど、目に見える形で多くの支援があることも結果に影響しているのではないかと思います。
2021年3月に札幌地裁が同性婚訴訟で違憲判決を出したときには、CALL4のウェブサイトに掲載されていた訴訟資料にアクセスが集中しサーバーがダウンしました。市民はマスコミが報道する結論だけではなく、前提となる事実・証拠やそれを踏まえて結論に至る論理にも高い関心を寄せています。
公共訴訟の内容が共有され、社会にひらかれれば、市民が自分で考えて議論を深めることができるようになり、民主主義の実現へとつながっていきます。公共訴訟をひらいていくことで、弁護士の社会的意義に対する市民の理解を得ることにもなると思います。
(向井)先例の少ない事件の依頼を受けたとき、CALL4で公開されていた事件の資料がヒントになることがありました。公共訴訟がひらかれるということは、弁護士の間で知見を共有できることでもあります。公共訴訟で蓄積された成果を、法曹の間でより便利な形でシェアできる仕組みについても考えていきたいです。
結びに代えて
(谷口)公共訴訟を支援するプラットフォームを正式に公開してから6年が経過しました。総寄付件数は間もなく1万5千件に達します。総寄付額は1億2千万円を超えました。今後も多くの人がCALL4を活用するとともに、私たちと一緒に公共訴訟の活性化に取り組んでいただけるととても嬉しいです。
(紺田)より多くの人に関心をもってもらえるようにSNSの活用や音声番組の配信など発信媒体も工夫を重ねています。各地域で公共訴訟に関わったり、サポートしたりする弁護士が増えていくことを期待しています。
日弁連委員会めぐり139
性の平等に関する委員会
性の平等に関する委員会(以下「委員会」)は、性の多様性をはじめ新しい社会課題に対応すべく、2024年度に改称を行うとともに体制強化を図りました。藤本圭子委員長(広島)、岡村晴美副委員長(愛知県)、中山美惠子副委員長(第一東京)、本多広高委員(東京)にお話を伺いました。
(広報室嘱託 李桂香)
性やジェンダーに関わる様々な社会課題に対応するために
委員会は、1雇用・労働問題、2教育・福祉問題、3家族問題・女性に対する暴力問題をそれぞれ扱う3つの部会と4つのPTを設置し、活動しています。
例年、全国の弁護士会で実施している「全国一斉女性の権利ホットライン」には、離婚問題や女性に対する暴力、労働問題等、数多くの切実な相談が寄せられます。本年度は、離婚後共同親権制度を含む民法改正に関する相談にも対応すべく、委員会で関係資料をまとめて相談員に提供するなど準備を重ねて実施しました。
離婚後共同親権
離婚後共同親権の導入については、引き続き動向を注視し、親権の単独行使をなし得る「日常の行為」「急迫の事情」などの適切な解釈や適正な運用などを検討していく必要があります。
会員のみなさんに対して、適時に適切な研修等を開催していきたいと考えています。
選択的夫婦別姓制度導入・LGBTの権利に関する取り組み
選択的夫婦別姓制度の導入については、これまで複数回にわたり意見書や会長声明の公表等の活動を行ってきました。
性に関する平等を実現するために対応すべき事柄は、女性差別だけではありません。昨今では性的指向・性自認による差別等があることが認識されるようになりました。「LGBTの権利に関する取組についての意見交換会」の開催やメーリングリストを通じ、各地の先進的取り組みを共有し、全国に拡大すべく努めています。
おわりに
性やジェンダーにまつわる問題は、私たち弁護士一人一人の課題でもあります。当事者だけに担わせるのではなく、共に取り組み、あらゆる分野において、性の平等を実現するための活動を続けていきます。
ブックセンターベストセラー (2025年9月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター
| 順位 | 書名 | 著者名・編者名 | 出版社名 |
|---|---|---|---|
| 1 |
一問一答 令和6年民法等改正 |
北村治樹/編著 | 商事法務 |
| 2 |
契約書作成の実務と書式〔第3版〕 |
阿部・井窪・片山法律事務所/編 | 有斐閣 |
| 3 |
令和7年度版 弁護士職務便覧 |
東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会/編 | 日本加除出版 |
| 4 |
Q&A 交通事故の示談交渉における保険会社への主張・反論例 |
鈴木啓太、西村裕一、木曽賢也/著 | 日本加除出版 |
| 5 |
破産申立マニュアル〔第3版〕 |
東京弁護士会倒産法部会/編 | 商事法務 |
| 6 |
工夫次第でここまで出来る!弁護士ミニマム経営のポイント |
北 周士/編 | 第一法規 |
| 7 |
倒産事件のゴールデンルール30 |
藤代浩則、野村 創、野中英匡、城石 惣、田附周平、原 香奈、白石義拓、黒川佳純/著 | 学陽書房 |
| 8 |
IT・AI法務のゴールデンルール30 |
松尾剛行/著 | 学陽書房 |
| 9 |
改訂4版 弁護士報酬基準等書式集 |
弁護士報酬基準書式研究会/編 | 東京都弁護士協同組合 |
|
一問一答 新しい民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(デジタル化等) |
脇村真治/編著 | 商事法務 |
日本弁護士連合会 総合研修サイト
eラーニング人気講座ランキング(連続講座編) 2025年9月
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| 順位 | 講座名 |
|---|---|
| 1 | 成年後見実務に関する連続講座(全5回) |
| 2 | 交通事故の実務に関する連続講座(全11回) |
| 3 | 相続分野に関する連続講座2022(全4回) |
| 4 | 消費者問題に関する連続講座〜基本法編〜(全3回) |
| 5 | 離婚事件実務に関する連続講座(全5回) |
| 6 | コーポレート・ガバナンスに関わる弁護士のための連続講座(中級編)(全3回) |
| 7 | 労働問題の実務対応に関する連続講座(2021)(全5回) |
| 8 | 連続講座 この弁護人にきく(全2回) |
| 9 | コーポレート・ガバナンスに関わる弁護士のための連続講座(上級編)(全6回) |
| 10 | 中小企業の事業承継支援の全体像(入門編)連続講座(全2回) |
お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9826)