日弁連新聞 第586号

新年会長インタビュー
平和と人権が問われる時代に使命と責務を果たす

就任後、会長として最も力を入れてこられた課題は何ですか


民事法律扶助制度改革

まずは、民事法律扶助制度の改革です。民事法律扶助は社会のセーフティネットとして重要な役割を有しており、一層の利用促進を図ることが必要です。しかし、現状の民事法律扶助における弁護士報酬(扶助報酬)等の費用は立替制であり、利用者に償還が求められるため、これが利用促進の障害となっています。一方、法テラス基準での扶助報酬は低廉な額に抑えられており、弁護士の労力に見合わない場合が多いので、民事法律扶助の担い手を安定的に確保する方策の検討も求められています。


これらを踏まえ、民事法律扶助制度は、原則給付制に移行させるとともに、収入に応じた応能負担を導入するなど、利用者負担の在り方を検討し、利用者の負担を軽減しつつ持続可能な制度とすることを検討すべきと考えています。


2022年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」に、国民生活の安全・安心を確保するための施策として、総合法律支援の充実・強化が明記されたことは歓迎すべきことです。今後、総会において、民事法律扶助に関する決議案を提案することを目指して準備を行っています。


民事法律扶助制度を利用しやすくすると同時に、担い手の確保についても持続可能なものとなるよう、今後も関係機関と緊密に連携を取りながら、諸課題の解決に向けて活動していきます。


再審法の改正

二つ目は、再審法改正です。2019年10月の第62回人権擁護大会において、「arrow_blue_1.gifえん罪被害者を一刻も早く救済するために再審法の速やかな改正を求める決議」が採択されていますが、この内容を実現するため、2022年6月に「再審法改正実現本部」を設置しました。


一方で、同本部設置直後に、日弁連が再審請求の支援をしている「大崎事件」の第4次再審請求事件について、鹿児島地方裁判所が再審請求を棄却する決定をしました。同事件は不十分な再審法に翻弄され続けてきました。できる限り早く再審法改正を実現できるよう、今後も同本部を中心に粘り強く取り組みを進めていきます。


D&Iの推進

三つ目は、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)です。男女共同参画にとどまらず、誰もが生き生きと暮らせる社会を実現するため、司法分野においてもジェンダー・バイアスの除去、ジェンダーの視点からの法制度や手続等の見直しが必要です。そこで、2022年6月に「ダイバーシティ&インクルージョンの推進に関するワーキンググループ」を設置しました。弁護士会内におけるD&Iの推進が弁護士会の発展に貢献するとともに、社会全体におけるD&Iの推進に寄与することにつながるという展望を持ち、今後の対応を進めていきます。


民事司法改革

四つ目は、民事司法改革です。日本の民事訴訟を適正かつ実効的なものとするためには、証拠や紛争にかかる情報を収集するための手続の拡充が必要です。また、損害賠償制度については、一般的に低く抑えられているとされる精神的苦痛に対する慰謝料を適正に算定するための実体法を制定し、加害者に利得が生じる一定の類型の契約違反や不法行為について、違法収益の吐き出し等を内容とする賠償制度を構築するための取り組みが必要です。


日弁連は、2022年7月15日に「arrow_blue_1.gif早期開示命令制度新設の立法提案」、同年9月16日に「arrow_blue_1.gif違法収益移転制度の創設を求める立法提言」「arrow_blue_1.gif慰謝料額算定の適正化を求める立法提言」を取りまとめ、法務大臣等に提出しました。これらの提案・提言の実現に向け、さまざまな角度からの活動を展開していきます。


裁判手続のIT化

最後に、裁判手続のIT化への対応です。2022年の通常国会で、IT活用を内容とする民事訴訟法等の一部を改正する法律が成立しました。これを受けて、「arrow_blue_1.gif民事訴訟法等の一部を改正する法律の成立についての会長声明」を公表し、民事訴訟手続にIT活用の諸規定が整備されたことは大きな前進であると評価するとともに、IT化を契機として民事裁判手続等における審理の在り方を再検証するなどして、より身近で利用しやすい民事司法の実現に向けて不断の努力を続けていく旨を表明しました。


また、IT技術の利用が困難な本人訴訟の当事者をサポートする体制の整備については、裁判所、法テラスなどの公的機関との調整を図りつつ、日弁連の「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」に則り、弁護士会とともに積極的に取り組んでいきます。


会員へのメッセージをお願いします

私が会長に就任して9か月が経過しましたが、昨年を振り返ると、海外ではロシアによるウクライナへの軍事侵攻があり、国内では安倍晋三元首相が殺害されるという事件を契機として旧統一教会の問題が明らかになりました。これらに目を向けたとき、改めて私たち弁護士が平和と人権を守る存在であり続ける意義を感じます。平和と人権が問われる時代にあって、弁護士の使命と責務を果たすには何を考えて行動すべきか、会員の皆さまの意見を伺いつつ、しっかりと対応してまいる所存です。


会員の皆さまには、本年も、一層のご支援とご協力をお願いいたします。


(インタビュアー 広報室長 白石裕美子)



「霊感商法等の被害に関する法律相談事例収集(第1次集計報告)」を公表

arrow_blue_1.gif霊感商法等の被害に関する法律相談 事例収集


日弁連は、関係省庁による「旧統一教会」問題に関する相談集中期間の合同電話相談窓口や、法テラスの「霊感商法等対応ダイヤル」と連携しながら、無料法律相談を実施している。そこに寄せられた相談事例を収集し、2022年11月29日に第1次集計報告として公表した。


事例収集の概要

日弁連は、2022年9月5日から、全国の弁護士会および相談担当弁護士等の協力を得て、霊感商法等の被害に関する無料法律相談を実施している。


同年10月24日までに全国から624件の法律相談を受け付けたところ、東京三弁護士会に所属する相談担当弁護士に割り振られた473件のうち、10月27日時点で相談結果報告が完了している389件の事例を集計し、傾向の把握を行った。


なお、本事例収集の対象である結果報告は、相談概要の把握程度にとどまる。


事例の傾向

今回集計した相談のうち、「旧統一教会」によるものは約8割を占めていた。なお、「旧統一教会以外」によるものには、旧統一教会以外の宗教団体関連、開運商法や占い系等に関する被害の相談が寄せられている。


旧統一教会に関する相談については、財産的被害に関する相談を含むものが8割以上を占め、そのうち1000万円以上の被害額を申告する相談が4割を超え、さらに5000万円以上の被害額を申告する相談が1割を占めた。また、被害終期を「20年以上前」と申告する相談が約4分の1を占めており、被害が高額であることに加え、長期間、被害が救済されていないことが特徴的であった。


旧統一教会に関する相談における対象者(信者となった者)の入信時の属性については、「壮婦・壮年」(結婚して家庭を持った経験または相当年数の社会人としての経験がある人)の割合が約8割を占めた。また、「旧統一教会であることを隠していた可能性のある勧誘」も相当数あった。


これらの集計結果からも、旧統一教会による深刻な被害の実態をうかがうことができ、その被害の救済および防止を早急に図っていく必要があると言える。今回の事例収集をワーキンググループでもさらに検討し、霊感商法等の被害の救済・防止に関する今後の活動に活用していきたい。


(霊感商法等の被害の救済・防止に関するワーキンググループ座長 釜井英法)


死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計を提言

arrow_blue_1.gif死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言


日弁連は、2022年11月15日に「死刑制度の廃止に伴う代替刑の制度設計に関する提言」を取りまとめ、法務大臣等に提出した。


経緯・背景

日弁連は、2016年の第59回人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択した。また、2019年10月の理事会では、死刑の代替刑として仮釈放の可能性のない終身刑を導入し、仮釈放の可能性のある無期刑への減刑を認める手続制度の創設を目指して、その具体的な内容を今後検討するとの基本方針を議決した。


提言の内容

本提言では、これまでの経緯を踏まえ、死刑を廃止し、死刑に代わる最高刑として終身拘禁刑の創設と、終身拘束刑に処せられた者について、一定の要件を充足する場合は仮釈放制度の適用のある無期拘禁刑に減刑する特別減刑手続制度の創設を提言している。特別減刑手続制度の具体的内容は、次のとおりである。


1 手続の担当機関は裁判所とする。
2 減刑手続の申し立てまでに必要な期間は15年または20年とする。
3 減刑のための判断要素について、改悛の状が顕著に認められることに加え、社会の状況を要素とするか、今後更に検討を要する。
4 判断のための資料は刑事施設の長に提出義務を課し、受刑者本人や家族、被害者遺族等にも提出権を認め、あわせて受刑者の心身状態を調査する鑑定制度を導入する。
5 審理は審判手続として合議体で行う。
6 受刑者が収容されている地の地方裁判所を第一審の管轄とする。
7 申立人は、受刑者本人および受刑者の意思に反しない場合の配偶者や三親等内の親族、刑事施設の長、検察官とする。
8 申立要件は、申立必要期間の経過および受刑者が刑事事件の捜査・公判中でないこととする。
9 減刑認容時の検察官の上訴権は認めず、減刑判断が棄却された場合には相当期間経過後の再申立権を認める。
10 受刑者の付添人選任権を認める。


さらに、終身刑受刑者の処遇については、2003年12月の行刑改革会議の提言や2022年6月の改正刑法などの趣旨に沿うよう、個人の尊厳を尊重し、受刑者の人格的特性を配慮した個別的な計画を立てることなどを提案した。また、終身刑と無期拘禁刑との関係や仮釈放の運用に関する問題の再指摘も行った。


本提言は、理事会において6か月にわたる丁寧な審議が重ねられ、理事の意見や弁護士会内の意見状況も踏まえ幾度も修正を経て、承認されたものである。



(死刑廃止及び関連する刑罰制度改革実現本部 副本部長 小田清和)


高齢者・障害者虐待を通報した者の保護を求める意見書

arrow_blue_1.gif 高齢者及び障害者虐待に係る通報をした者の保護の徹底を求める意見書


日弁連は、2022年11月16日付けで、「高齢者及び障害者虐待に係る通報をした者の保護の徹底を求める意見書」を取りまとめ、法務大臣および厚生労働大臣に提出した。


現行法の規定と背景事情

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」および「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「高齢者・障害者虐待防止法」)は、通報および届出(以下「通報等」)を虐待対応の端緒と位置付けており、通報者が躊躇なく通報等ができることが重要である。


そのため、現行法においても、通報等(虚偽であるもの、過失によるものを除く)をする場合、刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定について免責されるとともに、解雇その他の不利益な取り扱いを受けないものとされている。


しかし、近時、虐待に関する通報等をした障害者福祉施設の従事者等が、当該施設から損害賠償請求訴訟を提起されたり、知的障害者施設を運営する法人が、事実と異なる情報を通報等した場合には懲戒処分の対象にもなり得ると記載した文書を配布するなど、通報等を萎縮させる事案が発生している。


意見の趣旨・概要

意見書では次のとおり、高齢者・障害者虐待防止法を改正するよう求めている。


1嫌がらせ等の事実行為も含め、通報等を萎縮させる行為を禁じる旨を規定すること。

2通報等をした者に対する損害賠償請求を禁じる旨を明文に定めること。

3守秘義務が免じられない場合や、不利益取り扱いおよび損害賠償が許される場合の主観的要件を、通報が虚偽であるものに限定すること。

4都道府県および市町村に独立した第三者である「通報保護担当官」を置き、通報者の保護と必要な助言指導を継続的に行う職責を担わせること。同担当官に立ち入り調査等の介入権限を付与して、調査の結果、通報者に対する不利益な取り扱いが認められた場合などには、都道府県および市町村に対し、その事実の公表や当該事業者の指定取り消しを進言できるようにすること。


(日弁連高齢者・障害者権利支援センター 委員 堀江佳史)


「えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン」の改訂

arrow_blue_1.gif えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン(2022年度版)


日弁連は、刑事司法に関するさまざまな課題のうち、えん罪を防止するための刑事司法改革の全体構想を示すことを目的として、「えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン」(以下「グランドデザイン」)を2018年に策定した。


この度、2020年に続く2回目の改訂を行い、2022年度版として公表した。


グランドデザインとは

グランドデザインでは、現行の刑事司法の下で、罪を犯していない人が犯罪の嫌疑をかけられたときに経験することとなる手続の流れ(捜査機関による取調べ、逮捕、被疑者勾留、起訴、被告人勾留と保釈、第一審、控訴審・上告審、再審)に沿って、各場面の問題点と、それに関する日弁連の意見の概要を明らかにしている。


改訂の内容

意見書の反映

前回改訂(2020年)以降に日弁連が公表した次の意見書を反映した。


・「人質司法」の解消を求める意見書(2020年11月)
・刑事訴訟法附則第9条に基づく3年後見直しに関する意見書(2022年1月)
・裁判員が主体的、実質的に参加できる裁判員制度にするための意見書(2022年6月)


また、身体拘束に対する懸念、取調べの実施方法に関する懸念などが表明された国連自由権規約委員会「日本の第7回定期報告に関する総括所見」(2022年11月)を踏まえた改訂も行った。


えん罪事件の追加

次のえん罪事件についての記載を追加した。


・泉大津コンビニ窃盗事件(大阪地裁岸和田支部平成26年7月8日無罪判決)...人違いで300日以上拘束された事件。苛烈な取調べが行われた。
・大川原化工機事件(東京地裁令和3年8月2日公訴棄却決定)...検察官が公訴提起から約1年4か月経過後の第1回公判直前に公訴取り消しをした事件。
・プレサンス事件(大阪地裁令和3年10月28日無罪判決)...裁判所が、立証の柱となった関係者供述について、取調べにおける検察官の発言に迎合した可能性があるなどと指摘した事件。


各種統計資料に基づく数値のアップデート


その他、司法統計、検察統計、弁護士白書などにおいて公表された2021年度の数値を掲載した。


(刑事調査室 嘱託 須﨑友里)


第75期司法修習終了者
966人が一斉登録

2022年12月6日時点の第75期司法修習終了者1321人のうち966人が、同月8日、日弁連に一斉登録した。


任官志望者数(2022年12月19日現在未公表)を第74期と同じ73人と仮定し、任検者数(71人)とともに除いた未登録者数は211人(16%)と推計される。さらに1月中の登録予定者(勤務開始時期等の理由から、例年、1月の登録希望者も相当数に上る)を差し引いた未登録者数は79人(5.9%)と推計される。


日弁連では、引き続き若手弁護士サポートセンターを中心に、新規登録者を含む若手弁護士への各種支援を行うとともに、未登録者への採用情報提供、即時独立支援、さらには登録後のフォローアップを行って、今後の推移を見守りたい。


修習終了者数 登録者数
(一斉登録日時点)
未登録者数
(一斉登録日時点)
71期 1,517 1,032 334
72期 1,487 1,032 315
73期 1,468 1,047 286
74期 1,456 1,136 175
75期 1,321 966 211(推計値)


(注記)登録者数・未登録者数は各期一斉登録日時点

(注記)75期の修習終了者数は2022年12月6日時点



シンポジウム 障害者権利条約を完全に実施するために
〜国連からの勧告を受けて、私たちが目指す社会〜 11月4日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif シンポジウム「障害者権利条約を完全実施するために〜国連からの勧告を受けて、私たちが目指す社会〜」


日本は、国連障害者の権利に関する条約を2014年に批准し、2022年8月に初めての国連障害者権利委員会(以下「委員会」)による審査を受けた。日弁連は三度にわたりパラレルレポートを提出するなど、審査が国内の実情を反映したものとなるよう積極的に働きかけてきた。

同年9月に公表された委員会の「総括所見」の内容を確認し、条約の完全実施に向けた今後の取り組みを共有するシンポジウムを開催した。


総括所見の概要

関哉直人会員(第二東京)は、総括所見において国内法の規定を権利条約の人権モデルと調和させる必要性が指摘され、特に、障がい者の施設収容から地域での自立生活への移行、特別支援教育の廃止(インクルーシブ教育を受ける権利の保障)に関しては、緊急に措置を講じるよう要請を受けたと報告した。


パネルディスカッション

内閣府障害者政策委員会委員長・元国連障害者権利委員会副委員長の石川准氏は、国際社会の信頼を得るためにも、法律に基づく国内人権機関の設置が必須であると指摘した。


日本障害フォーラム(JDF)パラレルレポート特別委員会事務局長の佐藤聡氏は、総括所見を踏まえた具体的な法制度の改正に向けた短期・中期・長期の取り組み計画を策定して、関連省庁との定期協議等を積極的に行いたいと述べた。


東洋大学客員研究員の一木玲子氏は、総括所見は分離教育である特別支援教育を廃止してインクルーシブ教育に移行するよう、日本の学校教育制度の抜本的な改革を求めており、実現に向けたロードマップの策定が必要であると説いた。


田門浩会員(東京)は、自身の経験を交えて、インクルーシブ教育が実現すれば、障がいのある人とない人とが同じ場所で同じ経験をすることにより、相互に理解を深めることができると語った。


パネリストらは、日弁連や市民団体から充実したパラレルレポートが提出されたことで、総括所見が日本の実情を反映したものになったと高く評価し、国内の法制度の改正に向けて、声を上げ続けていくことが重要であると強調した。




「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」発表を踏まえて
〜ビジネスと人権行動計画ステークホルダー報告会
11月17日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif 「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」発表を踏まえて〜ビジネスと人権行動計画ステークホルダー報告会


国家の人権保護義務、企業の人権尊重責任、救済へのアクセスの3つを柱とする国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく日本の行動計画(NAP)の施策の一つとして、2022年9月に政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)を発表した。


本報告会では、NAPやガイドラインの意義、今後の課題などを議論した。


ガイドラインの概要

政府の国際人権問題を担当する中谷元氏(内閣総理大臣補佐官)は、ガイドラインでは人権の保護・実現を国家の義務と明示しており、企業の人権尊重責任を後押しするには、国家による人権保護義務の履行が重要であると語った。また、ガイドラインは、日本で事業活動を行うサプライチェーン上のすべての企業(個人事業主を含む)が、状況に応じて適切に取り組む指針を示していると説明し、サプライチェーンを展開する日本企業と連携し、アジア地域における企業の人権尊重の取り組みに貢献していきたいと力を込めた。


次の10年に向けたロードマップとガイドライン

山田美和氏(独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所新領域研究センター長)は、国連人権理事会WGが2021年に発表した「ビジネスと人権の次の10年へのロードマップ」で、現在もガバナンス・ギャップがビジネスに関連する人権侵害をもたらしていると指摘されており、実行ペースを上げていく段階にあると説明した。


また、人権デュー・ディリジェンスは手段であってガイドラインに従うことが目的ではないと述べ、常に、ビジネスが与える影響をライツホルダーの視点で考え、多くの実績を重ねて、より良いガイドラインに発展させていくことが重要であると語った。


パネルディスカッション


パネリストとして、外務省、国際労働機関、日本経済団体連合会、中小企業家同友会、日本労働組合総連合会、金融機関、市民社会団体などの関係者、学識者、弁護士らが登壇した。髙澤令則氏(外務省総合外交政策局人権人道課長)は、今後はガイドラインの普及に力を入れていくと強調した。


登壇者からは、ガイドライン策定を歓迎しつつ、それぞれの立場からの要望や課題が示された。今後も活発な議論が期待される。


2022年度ESG基礎講座 第2回
サステナブルなインパクト/ESG投資、スタートアップ投資の動向
〜ESG時代における弁護士の役割も含めて〜11月30日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif 日弁連ESGセミナーシリーズ 「2022年度ESG(環境・社会・ガバナンス)基礎講座第2回 サステナブルなインパクト/ESG投資、スタートアップ投資の動向〜ESG時代における弁護士の役割も含めて〜」


「ビジネスと人権」が経済の中心的なテーマとなる中、スタートアップ企業への投資においてもSDGsやESGといったサステナビリティ実現の視点は必須である。経済的利益とともに、社会問題や環境問題などの解決を目的とした「インパクト投資」に携わる3名の専門家を招き、近時の動向を把握し、議論した。


インパクト投資での指標

日本国内のインパクト投資の推進事業を担う菅野文美氏(一般財団法人社会変革推進財団)は、リスクとリターンの2軸に加え、社会的・環境的問題解決(インパクト)の創出の計3軸によって投資判断をすると述べ、投資の全過程での分析と投資家をはじめとするステークホルダーへの情報開示が必要だと説明した。


また、投資先との出資契約においては、さらなる問題解決に資するような条件設定の工夫が必要であり、適切な条項作成など、弁護士が担うべき役割があると指摘した。


スタートアップ企業へのESG投資

国内外で投資を行い、投資先の支援に携わる鈴木大祐氏(ソニーベンチャーズ株式会社)は、ESG投資について、投資活動を持続するためには経済的リターンの確保が大前提となるとしつつ、古着からバイオ航空燃料を製造する技術開発への投資実例を紹介し、環境技術の育成も長期的視点で取り組めば地球環境への貢献と投資リターンを両立できると語った。


欧州におけるインパクト投資・サステナブル投資

フィンランドを拠点にベンチャー投資を行う宗原智策氏(NordicNinja VC)は、EUでは、2021年にサステナブル投資における金融商品のESG関連情報の開示が義務付けられたと解説した。また、近時のトレンドとして、CO2排出権の取引市場の開設や、個人や企業活動のCO2排出量の追跡・計算を行う気候フィンテック(Climate FinTech)に言及し、これらは意識改革・行動変容の契機となり得ると評価され、盛り上がりを見せていると述べた。


パネルディスカッション

弁護士の役割について、宗原氏は、サステナビリティ部門を統括する責任者であるCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)の存在に触れ、CSOは弁護士資格の保持者が多いと指摘し、法規制の遵守とサステナビリティの確保という観点から、弁護士の活躍に期待を寄せた。



「身寄りのない人」の支援を多機関で考えるシンポジウム
〜政策動向を学び、社会資源のはざまをどうつなぐのかを考える〜
〜11月17日 オンライン開催

arrow_blue_1.gif 「身寄りのない人」の支援を多機関で考えるシンポジウム〜政策動向を学び、社会資源のはざまをどうつなぐのかを考える〜


少子高齢化が進み、医療や介護・福祉サービスを利用する際に頼れる親族等がいない「身寄りのない人」が増加している。


本シンポジウムでは、医療機関において患者の相談支援を行っている医療ソーシャルワーカーや弁護士等の関係者がそれぞれの立場から現状や課題を報告し、身寄りのない人の支援の在り方について議論した。


基調講演〜政策の動向

川端伸子氏(厚生労働省社会・援護局地域福祉課成年後見制度利用促進室/成年後見制度利用促進専門官)は、2016年の成年後見制度の利用促進に関する法律の施行後、いかなる状態の人であっても、情報を理解し、記憶し、選択肢を比較検討し、決定した内容を他者に伝えるという意思決定能力があることを前提に、成年後見による意思決定支援の在り方を検討してきたと説明した。


また、2022年3月25日に閣議決定された第二期成年後見制度利用促進基本計画では、地域共生社会の実現に向けて、意思決定支援と権利侵害からの回復支援を両輪とした権利擁護支援を基盤とし、成年後見制度の利用促進に取り組んでいると報告した。


現状と課題

藤木美才会員(熊本県弁護士会・医師)は、医療機関や介護施設で求められる身元保証人等の役割は、その大部分を成年後見制度の利用によってカバーできると説明した。その上で、身寄りのない人が身元保証事業者と締結した契約が無効と判断された裁判例を紹介し、行政による監督や保全措置の体制整備が必要であると訴えた。


服部あゆみ氏(愛知県医療ソーシャルワーカー協会保証人問題委員会)は、身寄りのない人の増加に伴い、愛知県内では身元保証事業者が増加している現状を報告した。しかし、多くの医療ソーシャルワーカーがその利用に不安を感じており、地域の医療機関や福祉施設等が連携して対応できる公的な支援体制を構築することが必要であるとして、さまざまな立場の支援者に協力を求めた。


他の登壇者からは、介護老人保健施設が抱えている悩みや、愛知県豊田市の地域生活意思支援決定事業などについて報告された。また、身寄りのない人の権利擁護のために、地域社会で支え合い、支援していく体制を整備することが重要であるとの意見が出された。


JFBA PRESS-ジャフバプレス- Vol.176

みんなが安全にインターネットを利活用できる社会を
一般社団法人 安心ネットづくり促進協議会

スマートフォンなどが普及し、インターネットに起因したトラブルは後を絶ちません。安心・安全なインターネット利用環境の構築を目指し、さまざまな活動を行っている一般社団法人安心ネットづくり促進協議会(以下「安心協」)理事の上沼紫野会員(第二東京)と森亮二会員(第一東京)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 長瀬恵利子)


設立の経緯

(上沼)2008年に、青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律(以下「環境整備法」)が成立しました。これをきっかけに、安心・安全なインターネット利用環境の構築を目指し、青少年のメディアリテラシーの向上、民間企業等の自主的な取り組みの促進、環境整備に関する知見の集約とアイディアの共有を目的として、2009年2月に安心協が設立されました。


安心協の活動に賛同する会員は、2022年11月18日時点で民間企業、教育関係団体、学識経験者など160に及んでいます。


安心協の活動

(上沼)環境整備法が成立する以前から、民間企業などがインターネット利用時のトラブル防止や教育現場でのインターネット利用を促進するための啓発活動を行っていました。安心協は、こうした民間の活動を見える化する取り組みとして、関係省庁の協力を得ながら、保護者や子ども、教育機関、PTAなど関係者間の橋渡しをしてきました。


橋渡しだけではなく、安心協が主体となる事業も多くあります。最近では、コロナ禍による学校の一斉休校を受けて、子どものインターネット利用を考える保護者向けのオンラインイベントや、成年年齢の引き下げに伴い、高校生からの疑問や不安に答えるシンポジウムを開催しました。


インターネットに関する問題をグループで討論し、政府への提言を取りまとめるイベント「高校生ICT Conference」も毎年開催しています。全国の高校生に自由な発想で議論し、身近に起きている問題に向き合ってもらう機会となっており、近年では偽情報の見極め方などをテーマに議論されました。


(森)安心協では、青少年のインターネット利用に関するさまざまな課題について、有識者等を交えた調査・検討も行っています。例えば、児童ポルノ対策のために電気通信事業者が実施したブロッキング措置が、通信の秘密を侵害するかどうかを検討し、その結果を取りまとめて公表しました。青少年によるインターネットの長時間利用、歩きスマホの問題など、新たな課題に対する研究支援活動も行っています。


規制ではなく、利活用を

(森)現在、中心的な検討テーマとなっているのは「デジタル・シティズンシップ(情報技術の利用における適切で責任ある行動規範)教育」です。安心協では、従来より「賢くインターネットを利用する」ことを活動のテーマとしていましたが、今後はますますこの点が重要となってくると思います。


子どもだけでなく、大人に対する周知・啓発も必要です。老若男女を問わず誰もがインターネットの仕組みを理解し、偽情報や偏向的な情報に惑わされることのない環境の整備を目指した活動をしています。


弁護士の役割

(上沼)安心協における弁護士の役割として重要なのは「なぜ、それが問題となるか」を分かりやすく伝えることだと思います。例えば「表現の自由が重要」と言うだけでは、真の理解は得られません。なぜ、それが表現の自由の問題となるのか、表現の自由が保障されないとどうなるのかを、かみ砕いて伝えていくことが重要だと考えています。


(森)インターネットは社会の重要な情報インフラになっているため、インターネットに関する法整備がなされるとき、プライバシーや表現の自由などの重要な権利が問題になります。これらの権利を保障しつつ、インターネットの安全な利用を実現する制度にするためには、国民の理解が不可欠であり、弁護士としてもインターネット特有の事情を広く伝えていく必要があります。


会員へのメッセージ

(森)弁護士は、その専門性を信頼されており、社会に影響を与える場面では、ある程度バランスの取れた対応や意見表明が求められるはずです。にもかかわらず顧客の利益のみを代弁する意見表明をしたり、あからさまなSLAPPを受任したりするケースが見受けられます。会員の皆さんにも弁護士の役割の重要性を意識していただき、一緒によりよい社会を作っていけたらと思います。


(上沼)インターネットの利活用に関する活動に弁護士として携われるのは、弁護士が社会的に信頼されているからだと思います。ぜひ会員の皆さんに安心協の活動に関心を持ち、支援していただきたいです。


日弁連委員会めぐり120 取調べ立会い実現委員会


今回の委員会めぐりは、「取調べ立会い実現委員会」(以下「委員会」)です。川上有委員長(札幌)と川﨑拓也事務局長(大阪)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 田中和人)


立会権の明定を目指して

日弁連は、2019年の第62回人権擁護大会において「弁護人の援助を受ける権利の確立を求める宣言」を決議し、弁護人立会権を重要課題と位置付けて取り組みを本格化しました。2021年6月に設置された委員会では、各弁護士会連合会や関連委員会から推薦された委員が、立会権の立法措置(刑訴法への明記)を目指して活動をしています。


弁護人立会いの現状と対策

弁護人が立会いを求めても、捜査機関は取調べの機能を阻害する恐れがあるなどとして認めず、近時の身体拘束事件で立会いが実現された例は見当たりません。このため、弁護士等から、立会いの申し入れは無意味ではないかという声が聞こえてくることもあります。


しかし、捜査機関が立会いを拒否した事実は、自白の任意性や信用性の判断において重要な意味を持つと考えられます。同時に、立会い申し入れの実績を積み重ねることで、立法措置の必要性も明確になります。


被疑者を孤立させて長期間の取調べを行うことが真相解明に不可欠なはずがありません。それにもかかわらず、こうした取調べが常態化しているのです。なお、在宅事件では立会いが実現した事例が相当数あり、違法不当な取調べに対する監視機能を発揮しているとの実践報告が寄せられています。


委員会では「取調べ立会い弁護実践マニュアル」を作成し、会員専用サイトに掲載しています。申し入れの実践方法の他、立会いの態様や事例なども紹介しており、今後これを用いた全国キャラバンも計画しています。また、会員専用サイトにおいて、立会い申し入れの事例収集も行っていますので、情報提供にぜひご協力ください。


会員へのメッセージ

取調べは被疑者が最も弁護人を必要とする場面です。それにもかかわらず、そこに弁護人が援助できない現状は看過できません。


弁護人の最も重要な役割は、被疑者の人権を守り、えん罪を防止することです。そのために必要不可欠な弁護人立会権の確立は、弁護士である私たちにとって喫緊の課題です。私たちが声を上げ、本気で取り組めば必ず実現できるはずです。立会いの申し入れは誰もが実践できます。ぜひ、一緒に取り組んでいきましょう。


ブックセンターベストセラー(2022年11月・手帳は除く)
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書名 著者名・編者名 出版社名
1

模範六法 2023 令和5年版

判例六法編修委員会/編 三省堂
2

離婚事件における家庭裁判所の判断基準と弁護士の留意点

武藤裕一、野口英一郎/共著 新日本法規出版
3

サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル〔第4版〕

清水陽平/著 弘文堂
企業法務のための民事訴訟の実務解説〔第3版〕 圓道至剛/著 第一法規
5

民事第一審訴訟における判決書に関する研究

司法研修所/編 法曹会
6

親権・監護権の弁護士実務

近藤ルミ子、西口 元/編著

永嶋久美子、中溝明子、山本佳子/著

学陽書房
7

7士業が解説 弁護士のための遺産分割

狩倉博之/編著 学陽書房

改訂3版 建物賃貸借

渡辺 晋/著 大成出版社
9 有斐閣判例六法 Professional 令和5年版 2023 佐伯仁志、酒巻 匡、大村敦志、道垣内弘人、荒木尚志/編 有斐閣



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eラーニング人気講座ランキング(コンパクトシリーズ) 2022年 11月〜12月

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順位 講座名 時間
1 民事裁判書類電子提出システム(mints)の操作説明会(第2次運用開始対応) 91分
2 遺言書作成におけるトラブル予防と遺言執行トラブル対応 120分
3 小規模事業者に対する消費者被害的案件への対応〜無料求人広告トラブルを題材と
して〜
97分
4 2022年度ツアー研修 第1回 不貞慰謝料の実務 129分
5 遺言・相続全国一斉相談会 事前研修 〜相続法改正を踏まえて〜 98分
6 遺産分割調停・審判の実務 110分
7 知っておきたい養育費の履行確保制度とひとり親家庭の社会保障制度 166分
8 令和3年民法・不動産登記法改正,相続土地国庫帰属法のポイント 118分
9 2019年12月改定版標準算定方式養育費・婚姻費用算定の実務(基礎と応用への展
開)
137分
10 民事信託入門-民事信託を正しく活用するため 119分
改正相続法と家裁実務〜遺産分割事件を中心として〜 104分



お問い合わせ先:日弁連業務部業務第三課(TEL:03-3580-9927)



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