難民認定制度の適正化のための更なる運用の見直しについて
1 平成29年1月から9月までの難民認定申請の状況
(1)難民認定申請数
難民認定申請数は,近年は毎年,対前年で約50%増と急増してきたところ,平成
29年9月末の申請数は14,043人となり,前年同期(7,926人)に比べて,
約77%(6,117人)増と大幅に増加しており,既に平成28年の申請数(10,
901人)を大きく上回っています。
このうち,約9%に当たる1,242人が,過去に難民不認定処分を受けたにもか
かわらず申請を繰り返している申請者であり,
申請回数が最多の申請者は6回目の申
請となっています。
表1及び図1:難民認定申請数の推移 (人)
表2及び図2:複数回申請数の推移 (人)
平成24年 平成25年 平成26年 平成27年
平成28年 平成29年
1月〜9月 1月〜9月
10,901 7,926 14,043
平成28年
申請数
2,545 3,260 5,000 7,58602,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
14,000
16,000
平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年 平成29年
1月〜9月
2,545 3,260
5,000
7,586 7,926
14,043
2,975
1,497
平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年
申請数 573 720 1,019 1,425 1,168 1,242
平成28年 平成29年
1月〜9月 1月〜9月02004006008001,000
1,200
1,400
1,600
平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年 平成29年
1月〜9月573720
1,020
1,425
1,168 1,24232910,901
1,497
(人)
回数別の内訳
2 回目 1,037 人
3 回目 175 人
4 回目 24 人
5 回目 1 人
6 回目 5 人
(人)
(2)国籍別の難民認定申請数
申請者の国籍は77か国にわたり,主な国籍はフィリピン3,177人,ベトナム
2,329人,スリランカ1,825人,インドネシア1,342人,ネパール1,
097人となっており,これら上位5か国で申請数全体の約70%を占めています。
特に,上位3か国(フィリピン,ベトナム及びスリランカ)は,前年同期に比べて,
2倍を超える大幅な増加となっています。
また,本年6月に国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がプレスリリースした
「グローバル・トレンズ2016」において,世界で避難を余儀なくされている人の
多い上位5か国とされている国々(シリア,コロンビア,アフガニスタン,イラク,
南スーダン)からの申請者はわずか29人にとどまる一方,大半は,大量の難民・避
難民を生じさせるような事情がない国々からの申請者となっています。
表3:国籍別申請数上位5か国の推移 (人)
図3:国籍別難民認定申請数
(3)難民認定申請時の在留状況
難民認定申請時における申請者の在留状況は,正規在留者が13,317人(申請
数全体の約95%)で,非正規在留者が726人(約5%)となっており,正規在留
者が大半を占めています。
この正規在留者の在留資格は,観光等を目的として入国した「短期滞在」が7,7
72人,「技能実習」が2,035人,「留学」が1,773人,出国する意思を表
明し,
その準備のための期間を求めて在留の許可を受けた後に難民認定申請に及んだ
対前年同期
増減率
申請数全体に
占める 割合
1 フィリピン 82 299 1,412 886 3,177 258.6% 22.6%
2 ベトナム 294 574 1,072 845 2,329 175.6% 16.6%
3 スリランカ 485 469 938 615 1,825 196.7% 13.0%
4 インドネシア 17 969 1,829 1,342 1,342 0.0% 9.6%
5 ネパール 1,291 1,768 1,451 1,206 1,097 -9.0% 7.8%
2,169 4,079 6,702 4,894 9,770 99.6% 69.6%
5,000 7,586 10,901 7,926 14,043 77.2% 100.0%
申請数(上位5か国)
申請数全体
平成26年 平成27年 平成28年
平成28年
1月〜9月
平成29年
1月〜9月
フィリピン
3,177人
ベトナム
2,329人
スリランカ
1,825人
インドネシア
1,342 人
ネパール
1,097人
トルコ
971人
ミャンマー
745人
カンボジア
486 人
インド
461人
パキスタン
343人
その他
1,267人
「特定活動(出国準備期間)」が761人,難民認定申請を繰り返す「特定活動(難
民認定申請中)」が560人となっています。特に,「短期滞在」,「技能実習」及
び「特定活動(出国準備期間)」をもって本邦に在留する申請者からの申請数は,前
年同期と比べて,2倍を超える大幅な増加となっています。
また,「技能実習」からの難民認定申請者のうち,99%以上が,本国の国若しく
は地方公共団体の機関又はこれらに準ずる機関からの推薦を受けて入国した外国人
であり,また,多くの申請者が,実習実施機関から失踪し又は所在不明となった後に
難民認定申請に及んでいます。
表4:在留資格別難民認定申請数の推移 (人)
図4:在留資格別難民認定申請数の内訳
(注1)本統計上,「特定活動(出国準備期間)」については,平成26年及び平成27年は
未集計のため,「その他」に含まれています。
(注2)「非正規」は在留許可を有していない外国人を指します。
申請数全体に
占める割合
4,134 6,394 9,702 94.8%
1,813 2,882 5,395 55.3%
414 731 1,106 14.5%
696 1,413 1,399 12.6%
­ ­ 436 5.4%
628 849 784 4.0%
580 519 582 3.0%
866 1,192 1,199 5.2%
5,000 7,586 10,901 100.0%
平成26年 平成27年 平成28年
平成28年
1月〜9月
平成29年
1月〜9月
対前年同期
増減率
正 規 6,920 13,317 92.4%在留資格
短期滞在 3,553 7,772 118.7%
技能実習 783 2,035 159.9%
留学 1,243 1,773 42.6%
特定活動
(出国準備期間)(注1)
268 761 184.0%
特定活動
(難民認定申請中)
627 560 -10.7%
その他 446 416 -6.7%
非正規 (注2) 1,006 726 -27.8%
総 数 7,926 14,043 77.2%
短期滞在
7,772人55%技能実習
2,035人15%留学
1,773人13%特定活動
(出国準備期間)
761人5%特定活動
(難民認定申請中)
560人4%その他
416人3%非正規
726人5%(注2)
(4)不服申立数
難民の認定をしない処分に対して不服申立てを行った外国人(以下「不服申立者」
という。)の数は,
近年の難民認定申請数の増加に伴い,
毎年増加傾向にあるところ,
平成29年9月末の不服申立数は5,829人となっており,前年同期(3,605
人)に比べて,約62%(2,224人)増と大幅に増加しています。
表5及び図5:不服申立数の推移 (人)
(5)処理の状況
ア 難民認定申請(一次審査)
一次審査の処理数は7,454人であり,前年同期に比べて,約29%(1,
685人)増加しています。
その内訳は,難民と認定した申請者(以下「認定者」という。)9人,難民と
認定しなかった申請者(以下「不認定者」という。)6,602人,「本国に帰
国するため」,「問題が解決したため」,「難民ではないため」等を理由として
申請を取り下げた申請者等が処理数全体の約11%を占める843人となって
います。
イ 不服申立て
不服申立ての処理数は2,680人であり,前年同期に比べて,約33%(6
60人)増加しています。
その内訳は,不服申立てに理由があるとされた不服申立者(認定者)1人,理
由がないとされた不服申立者(不認定者)1,778人,不服申立てを取り下げ
た者等が処理数全体の約34%を占める901人となっています。
ウ 認定数及び人道配慮数
難民認定手続の結果,在留を認めた申請者は44人であり,その内訳は,認定
者10人,難民と認定しなかったものの人道的な配慮を理由に在留を認めた申請
者34人となっています。
3,605 5,829
平成28年 平成29年
1月〜9月 1月〜9月
不服申立数
1,738 2,408 2,533 3,120 5,197
平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年01,000
2,000
3,000
4,000
5,000
6,000
平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 平成28年 平成29年
1月〜9月
1,738
2,408 2,533
3,120
3,605
5,829
1,592
5,197
(人)
エ 平均処理期間
一次審査の平均処理期間は約9.9月,不服申立ての平均処理期間は約23.
4月であり,長期化しています。
(6)一次審査で難民と認定されなかった申請者の申立て内容
不認定者の主な申立ては次のとおりとなっています。最も多いのは,知人や近隣住
民,マフィア等とのトラブル(約44%)であり,そのうち,約66%が借金に関す
るトラブルとなっています。
また,我が国での稼働希望を申し立てるものなどもあり,申請者の申立て内容を前
提としても,難民条約上の難民に明らかに該当しない申立てが全体の半数以上を占め
ています。
図6:申立て内容の内訳
知人や近隣住民等とのトラブル
しろまる借金を返済していないため,債権者から脅迫を受けた。
しろまる借金を返済できないため,銀行に自宅を差し押さえられる。
しろまる交通事故を起こしたため,被害者やその家族から慰謝料を要求されている。
しろまる犯罪を目撃し,通報したため,犯人から恨まれている。
しろまるマフィアとトラブルになり,暴行された。
政党関係者とのトラブル等
しろまる政党関係者から入党を勧誘されたり,寄附金を要求されたりした。
しろまるSNSに本国政府に対する不満を投稿したり,デモに参加したりした。
知人,近隣住民,マフィ
ア等とのトラブル
(借金に関する問題等)
43.7%
政治活動
(政党間の争い,非支持
政党からの脅迫等)
26.3%
宗教
(改宗,信仰等)7.2%人種
(少数民族,差別等)5.1%親族間のトラブル
(遺産相続,夫婦喧嘩等)4.7%
本国の治安に対する
不安4.5%家族が難民認定申請3.7%本邦で稼働希望2.7%個人的な事情
(健康上の問題,本邦で
の生活の長期化等)1.3%その他
(カースト,兵役忌避,
LGBT等)0.7% (注)出入国管理及び難民認定法における「難民」とは,難民条約で規定する「難民」
と同じであり,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であるこ
と又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある
恐怖を有するために,国籍国の外にいるものであって,その国籍国の保護を受け
ることができないもの又はそのような恐怖を有するために国籍国の保護を受け
ることを望まないもの」をいいます。
ここでいう「迫害」とは,原則として,国家機関による生命,身体又は身体の
自由の侵害又は抑圧をいうと解され,具体的には,国家機関による殺害,不当な
拘禁,不当に重い刑罰などが考えられます。また,
「迫害を受けるおそれ」とは,
抽象的な可能性では足りず,
迫害を受ける客観的かつ具体的なおそれが存在する
ことが必要であると解され,さらに,「十分に理由のある恐怖を有する」とは,
申請者が迫害を受ける恐怖を抱いているという主観的事情だけでは足りず,
通常
人が申請者の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存
在していることが必要であると解されています。
2 難民認定制度の運用の更なる見直し
上記1のとおり,借金などの難民条約上の難民に明らかに該当しない申立てが全
体の約半数を占めるなど,難民該当性や人道配慮の必要性が認められない難民認定
申請が相当数存在しており,近年の難民認定申請の急増に伴って,そのような申請
も急増しています。
法務省では,平成22年3月以降,正規滞在者から難民認定申請があった場合に,
難民認定手続中の生活の安定に配慮して,難民認定申請から6か月経過後,難民認定
手続が完了するまでの間,原則として,我が国での就労を認める運用を行っています
が,このような運用が誤った形で我が国での就労等を意図する外国人に伝わり,難民
認定制度を濫用・誤用する外国人の増加に繋がっていると認識しており,このことが
難民認定申請数の増加の主たる要因となっているものと考えています。
そのため,法務省では,難民認定制度を取り巻く国内外の動向の変化を踏まえ,真
の難民の迅速かつ確実な庇護を推進するため,平成27年9月に公表した「難民認定
制度の運用の見直しの概要」に基づいて,同月以降,濫用・誤用的な難民認定申請に
ついては迅速に処理するとともに,
我が国での就労等を目的として難民認定申請を繰
り返すような申請者に対しては,申請の内容に応じて,在留することは認めるものの
就労は許可しない措置(以下「就労制限」という。)や,更には在留すること自体を
認めない措置(以下「在留制限」という。)を執っています。
しかしながら,これらの措置は,難民認定申請を繰り返す再申請者を対象とするも
のであり,
再申請の抑制には一定程度の効果を発揮していますが,急増する難民認定
申請者の大半を占める初めての難民認定申請者(以下「初回申請者」という。)には
適用されないため,依然として,これら初回申請者による,濫用・誤用的な申請が急
増しており,真の難民の迅速な保護に支障を生じる事態となっています。
そこで,法務省では,難民条約上の難民である可能性が高いと思われる申請者等真
に庇護を必要とする外国人の更なる迅速な保護を図るとともに,
難民とは認められな
い濫用・誤用的な申請を抑制し,難民認定制度の適正化を推進することにより,真の
難民の迅速な保護に支障を生じさせないようにするため,次のとおり,正規滞在中に
申請した者の在留資格「特定活動」に関する運用などについて,更なる見直しを行う
こととしました。
(1)振分け期間の新設
初回申請の受付け後に案件の内容を振り分ける期間
(2月を超えない期間)
を設け,その振分け結果を踏まえて,
速やかに在留資格上の措置
(在留許可,
在留制限,
就労許可,就労制限)を執ることとします。
(2)難民該当性が高い申請者への更なる配慮
難民条約上の難民である可能性が高いと思われる申請者又は本国情勢等により
人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる申請者については,
これまで難民認
定申請から6月経過後に就労可能な「特定活動」(6月)を許可していましたが,
今般の更なる見直しにより,
申請案件の振分け後,
速やかに就労可能な
「特定活動」
(6月)を許可することとし,より迅速な保護を図ります。
(3)濫用・誤用的な申請への更なる厳格な対応
ア 初回申請について
(ア)
難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない事情を申し立てる申請者につい
ては,在留制限を執ることとします。
(イ)在留制限をしない場合でも,失踪した技能実習生や退学した留学生等本来の
在留資格に該当する活動を行わなくなった後に難民認定申請した申請者や,出
国準備期間中に難民認定申請した申請者については,就労制限を執ることとし
ます。また,この場合の在留期間は,従前の「6月」から「3月」に短縮しま
す。
イ 再申請について
原則,在留制限を執ることとします。
ただし,再申請者であっても,難民条約上の難民である可能性が高いと思われ
る申請者又は本国情勢等により人道上の配慮を要する可能性が高いと思われる
申請者については,上記(2)にある保護を図ります。
ウ 迅速処理について
上記ア及びイの対象となる難民認定申請者の案件については,
迅速な審査を行
い,早期に処理することとします。
図7:難民認定制度の運用の更なる見直しの概要
(注)難民条約上の難民である可能性が高いと思われる申請者又は本国情勢等により人道上の配慮
を要する可能性が高いと思われる申請者を除く。

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