人身取引対策行動計画2014
平成 26 年 12 月 16 日
犯罪対策閣僚会議
序 「人身取引対策行動計画2014」の策定に当たって
人身取引は重大な人権侵害であり、人道的観点からも迅速・的確な対応を求められ
ている。これは、人身取引が、その被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもた
らし、その損害の回復は非常に困難だからである。また、人身取引は深刻な国際問題
であり、人身取引対策に対する国際社会の関心も高い 1。人身取引について、
「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人
(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」
(以下「人
身取引議定書」という。)2第3条は、次のとおり定義している。
第3条
(a) 「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しく
はその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること
又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受
の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをい
う。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的
搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属
又は臓器の摘出を含める。
(b) (a)に規定する手段が用いられた場合には、人身取引の被害者が(a)に規定する搾
取について同意しているか否かを問わない。
(c) 搾取の目的で児童を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することは、
(a)に規定するいずれの手段が用いられない場合であっても、人身取引とみなされ
る。
(d) 「児童」とは、十八歳未満のすべての者をいう。
国際社会では、このような行為を人身取引としており、我が国においても、人身取
引議定書の締結に向けて国内法の罰則がこれらの行為を処罰の対象としているかを精
査し、当時罰則の対象となっていなかった行為について、平成17年の刑法改正で罰
則(人身売買罪等)を創設・整備したことにより、これに該当する行為は全て犯罪と
されている(別添1「人身取引議定書を担保する罰則一覧表」参照)が、この定義か
1 例えば、国際連合が、本年より7月30日を「人身取引世界デー」と定め、国際連合事
務総長や国際労働機関(ILO)事務局長等が人身取引の根絶を目指すことを表明してい
る。
2 人身取引議定書については、同議定書を実施するための国内法整備も完了しているが、
「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」が未締結のため、同議定書の締結に至
っていない。1 らも明らかなとおり、女性、児童だけではなく、また、日本人、外国人を問わず、被
害者となり得るものである。
政府は、人身取引の防止・撲滅と被害者の保護に向け、関係省庁間の緊密な連携を
図り、国際社会と協調し、これを早急かつ着実に推進するため、平成16年4月、人
身取引対策に関する関係省庁連絡会議を設置し、同年12月、国際的な組織犯罪であ
る人身取引に対し政府一体となった総合的・包括的な対策を推進するため「人身取引
対策行動計画」を策定した。また、平成21年12月には、同計画に基づき取り組ん
だ結果も踏まえ、当時の人身取引対策に係る懸案に適切に対処し、政府一体となった
対策を引き続き推進していくため、犯罪対策閣僚会議 3
において「人身取引対策行動計
画2009」を策定した。
政府は、平成16年以降、両計画に掲げられた施策を着実に実施し、我が国の人身
取引対策は大きく前進し、一定の成果を上げたと言える。しかし、依然として人身取
引は重大な国際問題であり、我が国の取組状況は、国際社会から注目されている状況
にある。人身取引はそもそも非常に潜在性が強く、政府においてすべての人身取引被
害者を認知しているものではないということを念頭に、その認知・保護、加害者の摘
発に常に積極的に取り組んでいく必要がある。
また、我が国では外国人材の活用を進めていくこととしているほか、2020年に
開催されるオリンピック・パラリンピック東京大会に向けて外国人の往来の増加が期
待される。このような中で、我が国が人身取引被害者の受入国とならないよう、引き
続き、人身取引対策に積極的に取り組んでいくことを示すことも重要となる。
さらに、日本人女性が性的搾取の対象とされ、人身取引の被害者となる事例もあ
り、女性の活躍促進という観点からも、人身取引対策を適切に推進することが、社会
において女性が安心して一層活躍できる環境整備の一助ともなる。
そこで、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた「世界一安全
な国、日本」を創り上げることの一環として、人身取引対策に係る情勢に適切に対処
し、政府一体となってより強力に、総合的かつ包括的な人身取引対策に取り組んでい
くため、
「人身取引対策行動計画2014」を策定し、人身取引の根絶を目指すことと
する。
3 犯罪対策閣僚会議は、
「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、有効適切な対策を総合
的かつ積極的に推進するため、平成15年9月、内閣総理大臣が主宰し、全閣僚で構成す
る会議として発足した。人身取引対策に関する関係省庁連絡会議は、平成21年12月、
同閣僚会議の下に位置付けられた。2 この行動計画では、これまで同様、人身取引議定書第3条に定める「人身取引」の
定義に従い、関係行政機関が緊密な連携を図りつつ、また、外国の関係行政機関、国
際機関、NGO等とも協力して、人身取引対策に取り組むこととしている。また、人
身取引の防止に関し、労働搾取の防止を通じてこれを目的とした人身取引の発生防止
を図ること、人身取引被害者の保護、加害者の訴追の前提となる人身取引被害者の認
知を推進していくこととしたほか、人身取引に関する年次報告を作成・公表すること
により、各種対策の実施状況の確認、効果の検証等を進めていくこととしている。3 1.人身取引の実態把握の徹底
人身取引対策を効果的に進めていくには、第一に、その実態をしっかりと把握する
ことが肝要である。人身取引の手段の巧妙化や情勢の変化が想定されることから、そ
れぞれの関係行政機関が扱う人身取引事犯等からその実態を分析し、情報共有を図る
必要がある。また、人身取引は国境を越えて行われるものでもあり、国際社会と協調
して取り組んでいくことも重要となる。
(1) 人身取引被害の発生状況の把握・分析
入国管理局における各種手続等において、人身取引被害者又は加害者と認められ
た者の情報を「人身取引データベース」に登録し、それらの実態把握に努める。風
俗営業等に対する立入調査や取締り等あらゆる警察活動を通じて、人身取引被害の
発生状況の把握・分析に努める。
こうした関係行政機関の取組や、在京大使館、NGO関係者、弁護士等からの情
報提供を通じて得られた情報を、関係行政機関において共有し、外国人女性及び外
国人労働者の稼働状況や人身取引被害の発生状況、国内外のブローカー組織の現状
等の把握・分析に努める。
関係行政機関、在京大使館、国際機関、NGO等との間で設置している人身取引
事犯に係るコンタクト・ポイントを有効に活用して情報共有を図り、国内外のブロ
ーカー等の検挙に結び付ける。
(2) 諸外国政府等との情報交換
我が国に対し人身取引被害者を多く送り出している国々等への政府協議調査団の
派遣等を通じ、諸外国の政府、関係機関等との情報交換に努める。さらに、これら
の国々との間で、人身取引の防止及び被害者保護に関し、協力関係を構築する。
2.人身取引の防止
人身取引は、その被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらし、その被害
の回復は非常に困難であるため、そもそも被害が発生しないようにしていくことが何
よりも重要である。
そのためには、出入国管理、在留管理を適切に行うとともに、不法就労を強制され
ている被害者が少なくないことを踏まえ、風俗営業、性風俗関連特殊営業等に係る不
法就労等の防止等を図っていくことが必要となる。また、外国人技能実習制度の拡充4 や外国人材の活用を図っていく上で、外国人の就労に係る制度が人身取引等に悪用さ
れることがないように適切に管理されていかなければならない。
さらに、人身取引被害者の需要側に対する取組を行っていく必要もある。
(1)入国管理の徹底等を通じた人身取引の防止
1 厳格な出入国管理の徹底
本邦への入国目的に疑義がある外国人については、より慎重な審査を実施すべ
く、特別審理官に引き渡し、口頭審理を実施するなどして、空海港において、厳格
な上陸審査を徹底するほか、人身取引データベース、事前旅客情報(API)
、航空
券の予約に係る航空会社が作成する乗客予約記録(PNR)等を活用し、人身取引
加害者の入国阻止や同被害者の保護に努める。また、入国警備官による空港におけ
る直行通過区域(トランジットエリア)でのパトロール活動や港湾区域における警
戒活動をより積極的かつ継続的に実施し、航空会社等とも協力して、密航等やブロ
ーカー等からの偽変造旅券の受け渡し等不審な動きの監視・摘発に努める。
2 厳格な査証審査
偽装結婚、なりすまし等巧妙な手口による査証申請に対処するため、また、人身
取引の被害に遭うおそれが否定できないような者からの査証申請に対処するため、
個別面接でのよりきめ細かい事情聴取等を行い、厳格な審査を通じて人身取引被害
の防止に努める。
また、元被害者が再来日するために査証申請した場合には、更に慎重に審査をす
ることにより、元被害者が再度被害者となることを未然に防ぐ。
3 査証広域ネットワークの充実強化
水際対策の一環として、潜在的被害者と疑われる査証申請に関する情報の即時共
有化を図り、人身取引の防止に役立てるため、外務本省と在外公館及び関係省庁と
の間で構築されている情報通信ネットワークを充実させていく。
4 偽変造文書対策の強化
人身取引被害者を入国させる手段として旅券等の偽変造文書が使用されないよう
にするため、出入国者の大多数が利用する成田、羽田、関西、中部の各空港に設置
した偽変造文書対策室を中心に、偽変造であることが疑われる文書の鑑識を厳格に
実施するとともに、空海港の職員に対する偽変造文書鑑識に関する研修等を実施
し、鑑識機器の有効活用を含めた鑑識技術等の向上に努める。
また、我が国の旅券・査証が人身取引被害者を入国させる手段として使用されな
いようにするため、なりすましによる旅券・査証の不正取得や偽変造を含めて旅5 券・査証の不正行使事案等への対策を強化する方策として、偽変造防止対策を施し
た次世代IC旅券の導入の検討・査証シールの管理強化を進めていく。
(2)在留管理の徹底を通じた人身取引の防止
1 厳格な在留管理による偽装滞在・不法滞在を伴う人身取引事犯の防止
厳格な在留管理により、偽装滞在・不法滞在を伴う人身取引事犯の防止を図る。
また、偽装結婚を始めとする偽装滞在事案及び不法滞在事案並びにこれらの事案に
関与するブローカー等の取締りに資するため、警察、入国管理局等の関係行政機関
の間で情報交換を推進するなど連携強化を図り、各種情報の収集・分析を行うこと
によって、実態把握に努めるとともに、これらの事案を認知した場合には、連携の
上、積極的な取締りを行い、人身取引事犯の掘り起こし及び被害者の保護を徹底す
る。
2 不法就労事犯に対する厳正な取締り
警察、入国管理局、労働基準監督署等関係行政機関が連携を強化し、不法就労事
犯の取締りに資する情報交換を行うとともに、人身取引等の被害者を不法就労させ
る悪質な雇用主、ブローカー等を認知した場合には、関係行政機関が連携して、積
極的に取り締まることにより、人身取引事犯の掘り起こし及び被害者の救済を図
る。特に、風俗営業、性風俗関連特殊営業等に不法就労させられている人身取引被
害者が少なくないことから、これら営業に係る不法就労事犯の取締りを強化する。
3 不法就労防止に係る積極的な広報・啓発の推進
「外国人労働者問題啓発月間」に時期を合わせて、入国管理局が毎年6月に実施
している「不法就労外国人対策キャンペーン」において、外国人を雇用している又
は雇用する予定がある事業主に対し、リーフレットを配布して不法就労防止を啓発
するとともに、駅頭などにおけるリーフレットの配布を実施し、不法就労防止への
協力を呼びかける。
(3)労働搾取を目的とした人身取引の防止
1 外国人技能実習制度の抜本的な見直しによる制度の適正化
外国人技能実習制度については、賃金未払いや長時間労働等の不正事案が発生し
ていることも踏まえ、国際貢献を目的とするという趣旨を徹底するため、制度の適
正化に向けた抜本的な見直しを行い、所要の法案を提出する。具体的には、
・関係省庁の連携による全体として一貫した国内の管理運用体制の確立
・不適切な送出機関の排除も含めた送出し国との政府(当局)間取り決めの作成
・監理団体に対する外部役員設置又は外部監査の義務化6 ・新たな法律に基づく制度管理運用機関の設置
など、管理監督の在り方を抜本的に見直し、2015年度中の新制度への移行を目
指す。あわせて、業界所管庁による指導監督の充実を図るとともに、関係機関から
なる地域協議会(仮称)の設置により、問題事案の情報共有を円滑に行うよう体制
を整備する。
2 外国人技能実習生に対する法的保護等の周知徹底
外国人技能実習生が実習実施機関で技能等の修得活動を行う前に実施する講習に
おいて、我が国の労働関係法令や出入国管理法令等について、監理団体又は実習実
施機関の職員以外で専門的な知識を有する外部講師が講義を行い、法的保護につい
て十分周知するとともに、労働基準監督機関、入国管理局等の相談窓口、各国大使
館の連絡先や労働関係法令等の情報を実習生の母国語で記載した「技能実習生手
帳」を出入国港において配布し、相談窓口等について周知徹底を図る。
3 労働基準関係法令の厳正な執行
労働基準監督署等においては、実習実施機関に対し、労働基準関係法令等の周
知・啓発に努める。また、強制労働を始めとする労働基準関係法令違反が行われて
いるなどの問題があると考えられる実習実施機関に対しては、積極的に監督指導を
実施し、確認できた法違反については、是正指導を行い、未払いの賃金を支払わせ
るなど是正を確認することにより、技能実習生の労働条件や安全衛生を確保する。
重大・悪質な法違反については、送検するなど厳正に対処する。
(4)外国人材のさらなる活用に向けた新たな制度に係る取組
今後、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた緊急かつ時限
的措置としての外国人建設就労者受入事業が始まるほか、国家戦略特区における
「外国人家事支援人材」の受け入れ等も進めていくこととしていることから、これ
らの制度の適切な運用に努める。
(5)人身取引の需要側に対する取組
1 性的搾取の需要側への啓発
人身取引被害者の多くが買春等による性的搾取を受けていること等について広報
を行うことなどにより、性的搾取の需要側への啓発を推進する。
2 雇用主等への働きかけ7 風俗営業等の雇用主等への広報啓発活動により、人身取引に関連する意識の向
上、人身取引に関連する行為を規制する法令の理解・遵守を促し、人身取引への加
担を防止するように努める。
また、人身取引の目的の一つに労働搾取が含まれていることを踏まえ、雇用主等
への周知活動により、人身取引に関連する行為を規制する法令の理解・遵守を促
す。
3.人身取引被害者の認知の推進
人身取引は潜在性の高い犯罪であり、その被害者の発見は容易ではない。また、
人身
取引の被害者の中には、自身が被害を受けていること、
救い出されるべき立場にあるこ
とを認識していないものもいるとの指摘もある。
人身取引の加害者を検挙し、
その撲滅
を図るためにも、また、人身取引の被害者の保護を図るためにも、まずは、被害者を確
実に認知していくことが大前提となる。
そのためには、人身取引問題について周知を図りつつ、人身取引対策等に取り組む者
が被害者を確実に認知するとともに、
被害者がその被害を訴え出やすい環境を整備して
いく必要がある。(1)「被害者の認知に関する措置」に基づく取組の推進
平成22年6月に人身取引対策に関する関係省庁連絡会議において申し合わせた
「人
身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)について」
(別添2参照)に基づ
き、被害者の認知に関する措置を適切に講じていく。
警察相談専用電話
(♯9110)
や匿名通報ダイヤル等の警察の窓口、
各入国管理局、
外国人総合相談支援センターや人権擁護に関する相談窓口、
労働基準監督署、
婦人相談
所や児童相談所等の性的搾取、労働搾取等を受けている女性、児童、外国人からの相談
や被害申告、通報等を受けることとなる各種窓口において、
人身取引が疑われる事案を
見逃すことのないよう、関係行政機関において、各窓口の役割、対応等を把握した上で
連携を図り、事案に応じた適切な対応に努める。
(2)潜在的被害者に対する被害申告先、被害者保護施策の周知
人身取引の被害申告等を呼びかけるポスター、
リーフレット等を多言語で作成し、入国審査場、
外国人向食材販売店等の人身取引被害者の目につきやすい場所に置くことに
より、
被害を受けていることを自覚していない又は被害を訴えることができずにいる潜
在的な被害者へ被害の申告先、相談窓口の周知を図る。また、被害者保護施策の周知に
努め、被害申告を促す。8 (3) 外国語による窓口対応の強化
法務省の人権擁護機関では、全国の法務局・地方法務局及びその支局において、
人身
取引を含む人権問題に関する相談に応じているが、
今後、英語や中国語等の外国語の通
訳を配置した「外国人のための人権相談所」を充実していく。また、各相談機関におけ
る窓口での対応言語等について共有し、連携に努める。
(4) 在京の各国大使館との連携
外国人の人身取引被害者が母国の在京大使館に相談する事例もあることに鑑み、
各国
の在京大使館に人身取引被害者の相談を受ける窓口や24時間対応可能な相談ホット
ラインを設けるよう働きかける。
特に、我が国における人身取引被害者を多く出してい
る国の大使館に対し、上記システムの構築を強く働きかける。
(5) 在外公館等における潜在的人身取引被害者に対する注意喚起の推進
我が国に対し人身取引被害者を多く送り出している国々から我が国に向けて出国す
る潜在的被害者に対し人身取引への注意喚起を促すとともに、
我が国入国後の被害申告
を容易にするため、それらの国々所在の我が国の在外公館や現地の政府機関を通じ、被害者向けのリーフレットを頒布する。
また、在外公館による査証審査の過程において、在外公館での面接を実施した申請者
に対してリーフレットを配布するほか、
代理申請機関が査証申請受理及び交付を行って
いる国については、同申請機関に対し注意喚起について協力を依頼する。
4.人身取引の撲滅
人身取引の撲滅を図るためには、
人身取引事犯の取締りにより加害者を排除し、
実態
を明らかにすることで効果的な対策を講じていくことが必要である。
また、人身取引そ
のものではないにしても、
人身取引が潜在するおそれのある周辺事案についても積極的
な取締りを実施し、人身取引事犯を掘り起こしていく必要がある。
(1)取締りの徹底
1 人身取引対策関連法令執行タスクフォースによる関係行政機関の連携強化
平成 26 年に設置された、警察庁、法務省、最高検察庁、厚生労働省、海上保安庁
からなる人身取引対策関連法令執行タスクフォースにおいて、
人身取引関連事犯につ
いての情報共有を図り、
具体的な問題事案について関連部局が協力して積極的に取締
りを行う。9 2 人身取引取締りマニュアルの活用等による人身取引事犯の取締りの徹底
警察、入国管理局、検察、労働基準監督署、海上保安庁において、上記タスクフォ
ースにおいて作成した、人身取引事犯への適用法令、具体的適用例等をまとめた「人
身取引取締りマニュアル」を有効活用し、それぞれの職員が性的搾取、労働搾取等を
目的とする人身取引に該当する可能性のある事案についての認識を共有し、
当該事案
を認知した場合には、必要に応じて緊密な連携を図り、取締りを徹底するとともに、
人身取引加害者に対する厳正な科刑の実現に努める。
3 売春事犯等の取締りの徹底
売春関係事犯及び風俗関係事犯等の人身取引関連事犯について、取締りを徹底し、
人身取引事犯の掘り起こしを図るほか、
人身取引関連事犯の加害者に対して厳正な科
刑の実現に努める。
4 児童の性的搾取に対する厳正な対応
児童買春・児童ポルノ事犯に対しては、2014年6月の児童買春、児童ポルノに
係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の改正を踏まえ、
国外犯
処罰規定の適用を含め、同法違反等により積極的かつ適正に取り締まるとともに、より一層厳正な科刑の実現に努める。また、児童買春の防止、児童ポルノの排除に向け
た取組を強化する。
5 悪質な雇用主、ブローカー等の取締りの徹底
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、出入国管理及び難民認定法、
労働基準法等関係法令の履行確保を図るとともに、
人身取引に該当する可能性がある
事案を認知した場合には、関係行政機関が緊密な連携・協力を図り、悪質な雇用主、
ブローカー等の検挙を念頭に人身取引事犯及びその関連事犯の取締りに当たる。
その
際、犯罪収益の剝奪を含め、人身取引事犯及びその関連事犯の加害者に対する厳正な
科刑の実現に努める。
(2)国境を越えた犯罪の取締り
1 外国関係機関との連携強化
ICPO(国際刑事警察機構)を通じて、人身取引被害者の送出国や日本人による
児童買春等が行われている疑いのある諸外国の捜査機関との間で、
人身取引事犯及び
児童買春・児童ポルノ事案に関する情報交換を必要に応じ実施する。
東南アジアを中心とした諸外国等の捜査機関を招いて警察庁が開催している
「東南
アジアにおける児童の商業的・性的搾取犯罪捜査官会議」において、東南アジアにお10 ける国外犯に関する捜査協力の拡充・強化を図る。
2 国際捜査共助の充実化
外国当局が、当該国で児童買春・児童ポルノ事犯等の人身取引事犯に関与した日本
人を訴追するに当たり、
国際礼譲又は刑事共助条約等の関連する国際約束に基づいて
我が国に捜査共助を要請してきた場合には、
国際捜査共助等に関する法律等の国内関
連法に基づく積極的な共助を実施する。特に、共助件数の多い国との間には、刑事共
助に関する条約の締結の可能性について検討する。
5.人身取引被害者の保護・支援
人身取引の被害者は、精神的・肉体的に大きな被害を受けていると考えられ、
まずは
被害者の安全を確保した上で、
その心情、
立場を踏まえた支援措置を講じていくことが
重要である。また、すべての被害者が保護・支援措置の対象となるよう、犯罪被害者や
女性、児童、外国人に関する既存の支援制度等も活用しつつ、効果的な措置を講じてい
く。(1)「被害者の保護に関する措置」に基づく取組の推進
平成23年7月に人身取引対策に関する関係省庁連絡会議で申し合わせた
「人身取引
事案の取扱方法(被害者の保護に関する措置)について」
(別添3参照)に基づき、関
係行政機関は相互に連携しつつ被害者の保護に関する措置を適切に講じていく。
さらに、
人身取引被害者に対して実施可能な支援・保護措置についての周知に努める。
(2)保護機能の強化
法務省の人権擁護機関が実施する調査救済において、
緊急避難措置として男性も含め
た人身取引被害者に対し一時保護機能を提供できるよう努めていく。
また、外国人技能実習制度の見直しの中で、
人権侵害の被害を受けた技能実習生の保
護機能の強化も検討する。
さらに、中長期的な被害者保護施策についても、実態を踏まえつつ、その在り方につ
いて検討していく。
(3)被害者への支援
1 婦人相談所等における一時保護・援助等の一層の充実
婦人相談所における人身取引被害女性への保護、
援助について、外国人被害者であ
る場合にはその宗教的生活や食生活を尊重した支援を実施するなど、
その充実を図る。11 2 捜査過程における被害者への情報提供
損害賠償に関する制度、人身取引等の被害者の保護に関する制度、
被害者が証人等
として出廷することがあり、
その場合には証人の遮へい措置を講じることができる制
度があることなど、犯罪被害者保護・支援のための諸制度について分かりやすく解説
した犯罪被害者等向けパンフレット「犯罪被害者の方々へ」を作成し、犯罪被害者等
から事情聴取をする際に手渡すなどして、
これらについて分かりやすく教示するよう
努める。
3 被害者に対する法的援助の実施とその周知
日本司法支援センターにおいて、
人身取引被害者が、加害者に対して損害賠償請求
を行うに当たり、当該被害者が日本に住所を有し、適法に在留している場合であって
収入等の一定の要件を満たすときには、
民事法律扶助が活用可能であること及び刑事
訴訟において被害者参加制度を利用するに当たって、
公判廷への出席に要する旅費等
が支給されること、収入等の一定の要件を満たす場合には、国選被害者参加弁護士の
選定を請求することが可能であることについて、
多言語で情報提供し、その周知を図
るとともに、これらの法的援助を実施する。
4 外国人被害者の自主的帰国・社会復帰支援
本国への帰国を希望する外国人被害者の帰国を更に円滑にするため、
国際移住機関
(IOM)
、被害者出身国の在京大使館、婦人相談所、民間シェルター等との情報交
換と連携を一層密にしていく。
また、出身国大使館等から帰国用渡航文書が速やかに
発給されるよう関係各国との情報交換を推進する。
IOMを通じて行っている被害者の自主的帰国支援
・社会復帰事業を一層充実させ、
被害者の出身国の在京大使館・政府・NGOとも協力の上、被害者の円滑な帰国及び
帰国後の社会復帰と、再被害の防止に向けた最適な支援を行う。
6.人身取引対策推進のための基盤整備
人身取引の撲滅を図るため、
「人身取引を許さない」という国民意識を醸成していく
ことが肝要となる。国際社会とも連携しつつ、
総合的かつ包括的な対策を講じていくと
ともに、関係行政機関の取組状況も確認しつつ、取り組むべき施策についても必要な見
直しを行っていく。
(1)国際的取組への参画12 1 人身取引議定書の締結
2003年5月に国会の承認を得た
「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条
約」
(国際組織犯罪防止条約)について、可能な限り速やかな締結を目指し、人身取
引議定書について、同条約を締結次第、速やかに同議定書を締結する。
2 関係諸国との連携強化
我が国で認知される外国人人身取引被害者の大半はアジア出身であるところ、
以下
の施策を通じ、人身取引対策に係るアジア諸国との連携を一層強化する。また、今後
の人身取引被害者の出身国の状況も踏まえ、必要な連携強化を検討していく。
(i)東南アジア諸国に対し、人身取引に関する教育の普及、被害者ケア、職業能力
強化、法執行能力強化等の分野において政府開発援助(ODA)を通じ支援を提
供する。これらの国への支援においては、国連薬物犯罪事務所(UNODC)や
国際移住機関(IOM)等の国際機関、NGOとも協力し、人身取引の背景の一
つである貧困の削減にも取り組むとともに、
各国における人身取引の防止と被害
者の支援に資する協力を実現する。
(ii)人身取引被害者の送出国との間で、適切な情報交換を可能とする二国間協力・
情報交換の枠組の構築を進めていく。また、外国人技能実習制度については、不
適切な送出機関の排除も含めた送出し国との政府(当局)
間取り決めの作成を推
進する。
(iii)バリ・プロセス(密入国・人身取引及び関連の国境を越える犯罪に関する地域
閣僚会議のフォローアッププロセス)を通じ、アジア太平洋地域における人身取
引対策に関する情報共有を更に強化する。
(iv)国連アジア極東犯罪防止研修所における各種研修等、我が国が中心となって行
っている取組を通じ、アジア諸国の捜査機関、捜査官の人身取引対策の能力向上
に協力する。
(2)国民等の理解と協力の確保
1 政府広報の更なる促進
人身取引につき、人身取引とはどのようなものか、また、その実態について、国民
に対して情報提供を行い、広く問題意識を共有することを目標とし、以下の方法によ
る情報発信のほか、より効果的な広報について検討していく。
(i)現在インターネット上で実施している「政府広報オンライン」など、インター
ネットを利用した人身取引に関する啓発活動についても、今後強化していく。13 (ii)毎年11月12日から25日までの「女性に対する暴力をなくす運動」期間に
おいて、人身取引を含む女性に対する暴力の根絶につき、地方公共団体、民間団
体等と連携し、広報活動を行う。
(iii)内閣府作成の人身取引対策の啓発用ポスター及びリーフレットを関係省庁、地方公共団体、
女性団体等の関係団体と広く共有し、
積極的な広報活動を展開する。
(iv)警察庁において、人身取引事犯未然防止のための広報啓発ソフトを作成し、ホ
ームページ上で公開して広く活用を呼びかける。
(v)法務省の人権擁護機関において、
外国人の人権尊重及び人身取引の撲滅等をテ
ーマとして啓発活動を実施する。
その一環として、我が国の人身取引対策に関す
る記載を含む人権啓発冊子を引き続き活用する。
(vi)国立女性教育会館が、平成17年度から22年度まで行った人身取引に関する
調査・研究成果を取りまとめたパネルやブックレットを、
同会館ホームページ上
で公開すること等により、広く国民に情報提供を行う。
2 学校教育等における取組
文部科学省においては、学校教育及び社会教育を通じて、
人権尊重の意識等を高め
る教育の推進に努める。また、学習指導要領に基づき、自他の生命を尊重する心を重
視した教育を推進する。
3 中小企業団体への働きかけ
経済産業省においては、毎年6月に「外国人研修指導協議会」を実施し、中小企業
団体(日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会、全国商店街振
興組合連合会)に対し、外国人技能実習制度の適切な実施や人身取引対策を含む政府
の外国人労働者に関する取組等について、
関係省庁の協力を得て情報提供し、
外国人
労働者問題に対する意識の向上等を図る。
4 海外渡航者への啓発
観光庁においては、旅行会社が不健全旅行に関与しないよう、各社に対する啓発を
引き続き推進する。また、外務省においては、海外旅行者向けに配布している「海外
安全虎の巻」を通じ、日本人が「犯罪者」になるケースとして買春をあげ、海外にお
いて買春に関与しないよう国民に対する啓発を継続する。14 (3)人身取引対策の推進体制の強化
1 閣僚級会議の設置
政府として人身取引対策の取組を強力に推進するため、
人身取引対策のための閣僚
級会議を設置する。
2 関係行政機関職員の知識・意識の向上
各関係行政機関において、人身取引対策に関する関係行政機関、IOM等の関係機
関やNGO等から講師を招くなどし、
関係職員に対する人身取引被害者の認知、
保護、
支援等の方法に係る専門的かつ実践的な研修等を実施し、
人身取引対策を推進する上
で必要な知識・技能の習得及び意識の向上を図る。
3 関係行政機関の連携強化・情報交換の推進
人身取引事犯に係る関係省庁及び地方行政機関の間の情報共有を密にし、
被害者の
認知から保護に至る一連の手続における連携を強化する。
4 NGO、IOM等との連携
関係省庁とNGOの間の意見交換を継続して実施するとともに、
IOM等の関係機
関とも連携を図り、官民一体となった人身取引対策を推進する。
5 人身取引に関する年次報告の作成等
人身取引に関する施策の実施状況や人身取引事犯の取締状況等、
我が国の人身取引
に係る取組をまとめた年次報告を作成し、公表する。また、在京各国大使館等にも年
次報告を説明するなどし、我が国の人身取引対策についての取組を広く示していく。
さらに、上記年次報告の作成を通じ、
人身取引に係る最新の情勢の把握や各種施策
の進捗状況や効果等を確認・検証し、随時必要な施策を検討するほか、必要に応じて
行動計画の見直しを行う。
(以上)15 目的 手段 行為 担保している罰則 人身取引議定書を担保していることの説明
暴力その他の形態の強制力に
よる脅迫若しくはその行使の
手段により
権力の濫用若しくはぜい弱な
立場に乗ずることにより
誘拐、詐欺、欺もうの手段により人を獲得すること
営利・わいせつ誘
拐(刑法第225条)
1目的については、上記のとおり。
2「誘拐、詐欺、欺もう」の手段を用いて「人を獲得するこ
と」は、「誘拐」に該当する。
他の者を支配下に置く者の同
意を得る目的で行われる金銭
若しくは利益の授受の手段に
より
人を獲得すること
営利・わいせつ人
身買受け(刑法第
226条の2第3項)
1年以上10年以下
の懲役
1「他の者を売春させて搾取することその他の形態の性
的搾取の目的」は、刑法第226条の2第3項の「営利」・「わ
いせつ」の目的に該当する。
2「他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われ
る金銭若しくは利益の授受」の手段を用いて「人を獲得す
ること」は、同項の「買い受けた」に該当する。
(注記)「買い受けた」とは、対価を支払って現実に人身に対す
る不法な支配の引渡しを受けることをいうが、対価は金
銭以外のものでもよく、財物との交換も売買に当たり、ま
た、従前の債務の免除と引き替えに人の支配を移転を受
けるような場合も「買い受けた」に当たる。以下同じ。
暴力その他の形態の強制力に
よる脅迫若しくはその行使の
手段により
人を輸送すること
営利・わいせつ被
略取者等輸送(刑
法第227条第3項)
6月以上7年以下
の懲役
権力の濫用若しくはぜい弱な
立場に乗ずることにより
人を引き渡すこと
営利・わいせつ被
略取者等引渡し
(刑法第227条第3項)誘拐、詐欺、欺もうの手段により人を蔵匿すること
営利・わいせつ被
略取者等蔵匿(刑
法第227条第3項)
他の者を支配下に置く者の同
意を得る目的で行われる金銭
若しくは利益の授受の手段に
より
人を収受すること
営利・わいせつ被
略取者等収受(刑
法第227条第3項)
人身取引議定書を担保する罰則一覧表
他の者を売春させて
搾取することその他
の形態の性的搾取の
目的で
人を獲得すること
営利・わいせつ略
取(刑法第225条)
1年以上10年以下
の懲役
1「他の者を売春させて搾取することその他の形態の性
的搾取の目的」は、刑法第225条の「営利」・「わいせつ」
の目的に該当する。
2「暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその
行使」、「権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずる」の
手段を用いて「人を獲得すること」は、「略取」に該当す
る。
1「他の者を売春させて搾取することその他の形態の性
的搾取の目的」は、刑法第227条第3項の「営利」・「わい
せつ」の目的に該当する。
2人の「輸送」、「引渡し」、「蔵匿」、「収受」は、人を「獲
得」することを当然の前提とするものであるから、獲得さ
れた人に客体を限定しても問題はないところ、同項の「略
取され、誘拐され、又は売買された者」の「輸送」、「引き
渡し」、「蔵匿」、「収受」に該当する。
別添1
目的 手段 行為 担保している罰則 人身取引議定書を担保していることの説明
暴力その他の形態の強制力に
よる脅迫若しくはその行使の
手段により
権力の濫用若しくはぜい弱な
立場に乗ずることにより
誘拐、詐欺、欺もうの手段により人を獲得すること
営利誘拐(刑法第
225条)
1目的については、上記のとおり。
2「誘拐、詐欺、欺もう」の手段を用いて「人を獲得するこ
と」は、「誘拐」に該当する。
他の者を支配下に置く者の同
意を得る目的で行われる金銭
若しくは利益の授受の手段に
より
人を獲得すること
営利人身買受け
(刑法第226条の2
第3項)
1「強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこ
れに類する行為、隷属の目的」は、刑法第226条の2第3
項の「営利」の目的に該当する。
2「他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われ
る金銭若しくは利益の授受」の手段を用いて「人を獲得す
ること」は、同項の「買い受けた」に該当する。
暴力その他の形態の強制力に
よる脅迫若しくはその行使の
手段により
人を輸送すること
営利被略取者等
輸送(刑法第227
条第3項)
権力の濫用若しくはぜい弱な
立場に乗ずることにより
人を引き渡すこと
営利被略取者等
引渡し(刑法第
227条第3項)
誘拐、詐欺、欺もうの手段により人を蔵匿すること
営利被略取者等
蔵匿(刑法第227
条第3項)
他の者を支配下に置く者の同
意を得る目的で行われる金銭
若しくは利益の授受の手段に
より
人を収受すること
営利被略取者等
収受(刑法第227
条第3項)
強制的な労働若しく
は役務の提供、奴隷
化若しくはこれに類す
る行為、隷属の目的で人を獲得すること
営利略取(刑法第
225条)
1「強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこ
れに類する行為、隷属の目的」は、刑法第225条の「営
利」の目的に該当する。
2「暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその
行使」、「権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずる」の
手段を用いて「人を獲得すること」は、「略取」に該当す
る。
1「強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこ
れに類する行為、隷属の目的」は、刑法第227条第3項の
「営利」の目的に該当する。
2人の「輸送」、「引渡し」、「蔵匿」、「収受」は、人を「獲
得」することを当然の前提とするものであるから、獲得さ
れた人に客体を限定しても問題はないところ、同項の「略
取され、誘拐され、又は売買された者」の「輸送」、「引き
渡し」、「蔵匿」、「収受」に該当する。
目的 手段 行為 担保している罰則 人身取引議定書を担保していることの説明
暴力その他の形態の強制力に
よる脅迫若しくはその行使の
手段により
権力の濫用若しくはぜい弱な
立場に乗ずることにより
誘拐、詐欺、欺もうの手段により人を獲得すること
生命身体加害誘
拐(刑法第225条)
1目的については、上記のとおり。
2「誘拐、詐欺、欺もう」の手段を用いて「人を獲得するこ
と」は、「誘拐」に該当する。
他の者を支配下に置く者の同
意を得る目的で行われる金銭
若しくは利益の授受の手段に
より
人を獲得すること
生命身体加害人
身買受け(刑法第
226条の2第3項)
1「臓器の摘出の目的」は、刑法第226条の2第3項の
「生命若しくは身体に対する加害」の目的に該当する。
2「他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われ
る金銭若しくは利益の授受」の手段を用いて「人を獲得す
ること」は、同項の「買い受けた」に該当する。
暴力その他の形態の強制力に
よる脅迫若しくはその行使の
手段により
人を輸送すること
生命身体加害被
略取者等輸送(刑
法第227条第3項)
権力の濫用若しくはぜい弱な
立場に乗ずることにより
人を引き渡すこと
生命身体加害被
略取者等引渡し
(刑法第227条第3項)誘拐、詐欺、欺もうの手段により人を蔵匿すること
生命身体加害被
略取者等蔵匿(刑
法第227条第3項)
他の者を支配下に置く者の同
意を得る目的で行われる金銭
若しくは利益の授受の手段に
より
人を収受すること
生命身体加害被
略取者等収受(刑
法第227条第3項)
生命身体加害略
取(刑法第225条)
1「臓器の摘出の目的」は、刑法第225条の「生命若しく
は身体に対する加害」の目的に該当する。
2「暴力その他の形態の強制力による脅迫若しくはその
行使」、「権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずる」の
手段を用いて「人を獲得すること」は、「略取」に該当す
る。
1「臓器の摘出の目的」は、刑法第227条第3項の「生命
若しくは身体に対する加害」の目的に該当する。
2人の「輸送」、「引渡し」、「蔵匿」、「収受」は、人を「獲
得」することを当然の前提とするものであるから、獲得さ
れた人に客体を限定しても問題はないところ、同項の「略
取され、誘拐され、又は売買された者」の「輸送」、「引き
渡し」、「蔵匿」、「収受」に該当する。
臓器の摘出の目的で
人を獲得すること
目的 担保している罰則 人身取引議定書を担保していることの説明
児童を支配下に
置く行為(児童福
祉法第34条第1項
第9号、第60条第
2項)3年以下の懲
役若しくは100万
円以下の罰金又
はこれの併科
児童を支配下に
置く行為(児童福
祉法第34条第1項
第9号、第60条第
2項)
児童を支配下に
置く行為(児童福
祉法第34条第1項
第9号、第60条第
2項)
児童を支配下に
置く行為(児童福
祉法第34条第1項
第9号、第60条第
2項)
臓器の摘出の目的で
児童を支配下に
置く行為(児童福
祉法第34条第1項
第9号、第60条第
2項),児童を引き
渡す行為(同法第
34条第1項第7
号,第60条第2項)「引渡し」は,児童を「自己の支配下に置く行為」があるこ
とが前提となるため,児童福祉法第34条第1項第9号に該
当することとなるが,これに加えて同項第7号にも該当す
る。すなわち、
1同号は、目的を要求しておらず、人身取引議定書の要
請を満たしている。
2同号では、手段の限定はなされておらず、人身取引議
定書の要請を満たしている。
3「引渡し」は、同号の「引き渡し」に該当する。
強制的な労働若しく
は役務の提供、奴隷
化若しくはこれに類す
る行為、隷属させる目
的で
他の者を売春させて
搾取することその他
の形態の性的搾取の
目的で
行為
児童を蔵匿すること
1人身取引議定書上の3種の目的は、いずれも、児童福
祉法第34条第1項第9号の「児童の心身に有害な影響を
与える行為をさせる目的」に該当する。
2同号では、手段の限定はなされていおらず、人身取引
議定書の要請を満たしている。
3「獲得」、「輸送」、「蔵匿」、「収受」は、いずれも「自己
の支配下に置く行為」に該当する。
児童を獲得すること
児童を輸送すること
児童を引き渡すこと
児童を収受すること
人身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)について
平 成 2 2 年 6 月 2 3 日
人身取引対策に関する関係省庁連絡会議申合せ
人身取引は、重大な人権侵害であり、人道的観点からも迅速・的確な対応を求められて
いる。これは、人身取引が、その被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらし、
その損害の回復は非常に困難だからである。
近年、ブローカー等が被害者を偽装結婚させるなどして就労に制限のない在留資格を取
得させるなど、人身取引の手口はより巧妙化・潜在化してきているとの指摘もあり、関係
行政機関においては、潜在化している可能性のある人身取引事案をより積極的に把握し、
その撲滅と被害者の適切な保護を推進する必要がある。そのためには、このような事案に
最初に接する可能性の高い関係機関の職員が、人身取引の問題について十分に理解し、そ
の被害者に該当する可能性のある者に適切に対応することが重要である。
これらを踏まえ、人身取引対策行動計画 2009(平成 21 年 12 月 22 日犯罪対策閣僚会議
決定)に基づき、人身取引事案の取扱方法のうち被害者の認知に関して、人身取引の定義
及びこれに基づく被害者認知のための着眼点、並びに関係行政機関において講ずべき措置
について整理し、あわせて、人身取引対策に携わる関係機関、団体等における活動の参考
に供するため、別紙のとおり、
「人身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)」を取りまとめた。
関係省庁においては、今後、別紙に示す事項が実施され、その実効が上がるよう、関係
職員に対する十分な周知を図るなど必要な措置を講ずることとする。その際、一人でも多
くの人身取引被害者を保護するため、関係機関において被害者に該当する可能性がある者
を認知した場合には、できるだけ幅広く保護を念頭に置いた措置を講ずることとする。ま
た、当初人身取引被害者に該当する可能性があると思われた者が後に該当しないと判明し
た場合においても、その者が置かれている状況やその者の人権に十分配慮して取り扱うこ
ととする。
なお、別紙は、現行の法制度に基づき関係行政機関において現在実施されている人身取
引被害者の保護施策を基本として、関係機関に適切な取扱いの周知を図り、認識を共有す
ることによって、全国における取扱いの適正を図るために作成したものである。関係省庁
においては、
今後、
人身取引被害者の把握を一層促進し、
被害者の適切な保護を図るため、
人身取引対策行動計画 2009 に基づき、
被害者側から関係機関への申出、
相談等を促すため
の施策の充実、被害者に該当する可能性のある者が把握された後の対応の在り方、手続等1別添2
を含む人身取引事案の取扱方法についての体系的な整理、被害者保護施策の更なる充実等
を推進することとする。また、これらを踏まえ、必要に応じて別紙の見直しを行うことと
する。2 人身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)
1 人身取引の定義と被害者認知のための着眼点
「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)
の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」第3条は、
「人身取引」の定義を次
のとおり定めている。
第3条
(a) 「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しく
はその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること
又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受
の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをい
う。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的
搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属
又は臓器の摘出を含める。
(b) (a)に規定する手段が用いられた場合には、人身取引の被害者が(a)に規定する搾
取について同意しているか否かを問わない。
(c) 搾取の目的で児童を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することは、
(a)に規定するいずれの手段が用いられない場合であっても、
人身取引とみなされる。
(d) 「児童」とは、十八歳未満のすべての者をいう。
この定義に従い、人身取引被害者を認知するためには、ある者が以下の点に該当する
か否かに着眼する必要がある。
(1) 加害者の行為
その者が獲得、輸送、引渡し、蔵匿(対象者にその発見を妨げる場所を提供するこ
と。
)又は収受の対象とされたか否か。
(注)いずれかで足り、すべての対象とされることを要さない。(2)及び(3)につい
ても同様。また、定義からも明らかなように、刑法第 226 条の2に規定する人
身売買罪が適用される行為に限らず、より幅広い行為が人身取引に該当する。
(2) 手段
(1)の行為が、次のいずれかの手段によってなされたか否か。
・ 暴力その他の形態の強制力による脅迫又はその行使
(注)
「暴力」とは、他人の身体に対する有形力の行使をいい、
「その他の形態の強
制力」とは、他人の身体に対する物理力の行使によらずにその者の意思を制圧
する一切の行為をいう。
「暴力その他の形態の強制力による脅迫」とは、こうし
た暴力又は強制力を相手方に及ぼす旨を告知することをいう。
・ 誘拐、詐欺又は欺もう(嘘を付いて相手方を錯誤に陥らせることや、甘言を用
いるなどして相手の正当な判断を誤らせること。)・ 権力の濫用、ぜい弱な立場に乗ずること(組織の中の上下関係、親子関係等、
自己の法的若しくは事実上の地位又は被害者とのこうした地位の差を利用して、
不法に有形力を行使し、又は害悪を告知するなどしながら、従わざるを得ない状
態の被害者を意のままにすること。)別紙3 ・ 他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭又は利益の授受(債
務免除、財物との交換の類も含まれる。)(3) 目的
(1)の行為が、搾取を目的としてなされたか否か。搾取には、少なくとも次のものが
含まれる。
・ その者に売春をさせること等による性的搾取(1他の者に売春や売春以外の性
交等をさせることにより、自己又は他人に財産上の利益を得させること、又は、
2自己又は第三者において、当該対象者に対し、その者の意思に反し、性交等を
行うこと。)(注)
「性交等」とは、性交に加え、性交類似行為、性器を触り又は触らせること
等をいい、売春以外の性交等として、特定の者との性交等や対償を受けない性交
等が挙げられる。
・ 強制的な労働又は役務の提供(暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を
不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働又は役務を強制するこ
と。)(注)ここにいう労働又は役務は、社会通念上、一般に対価の支払いが要求され
るものを指す。
・ 奴隷化若しくはこれに類する行為又は隷属(他の者に完全に従属し、当該他の
者の意のままに労役その他の役務を提供させること。)・ 臓器の摘出(営利の目的や生命又は身体に害を加える目的をもって、心臓、肺
等の内臓又は眼球を摘出すること。)(4) その他の考慮事項
・ (2)に挙げた手段が用いられた場合、被害者が(3)の目的となる搾取について同
意しているか否かを問わない。
・ 対象者が児童(18 歳未満の者をいう。
)である場合には、(2)のいずれの手段が
用いられない場合であっても、人身取引被害者に該当する。
2 平素からの措置
各行政機関においては、人身取引被害者又はそれに該当する可能性がある者を認知し
た際に、関係機関間で相互の連携協力が円滑に図られるよう、平素から、
1 人身取引対策に係る関係機関の連絡窓口を確認するとともに、窓口担当者等の変更
があった場合には直ちに関係機関に連絡する
2 人身取引被害者やその関係者に接する可能性のある職員に、人身取引被害者認知の
ための着眼点及び人身取引被害者に該当する可能性のある者を認知した際に採るべき
措置を周知する
など、必要な措置を講ずる。
なお、各行政機関においては、人身取引事案に対して別添のとおり対応することとさ
れている。
3 各種窓口における対応
(1) 警察、入国管理局、法務局、婦人相談所、児童相談所、労働基準監督署、外務本省
等の関係機関の各種窓口においては、例えば、相談者等が外国人である場合には母国
語により対応し、女性である場合には女性職員が対応し、相談者等のプライバシー等4 に十分配慮するなど、
相談者等が相談しやすい環境をつくり、
人身取引被害者の認知・
把握に努める。
(2) 関係機関の各種窓口において、犯罪の被害に関する相談、外国人の人権侵害、生活
上のトラブル等に関する相談等を受けた場合において、相談内容等から総合的に判断
して、
人身取引被害者が存在する可能性があると考えられる場合には、
(3)以下のとお
り、関係機関が連携して人身取引被害者を保護するための措置を講ずる。
(3) 当該相談に係る者等が、人身取引被害者又はそれに該当する可能性がある者と判断
される場合には、その者を保護することを念頭に置き、必要に応じて警察、入国管理
局、海上保安庁、婦人相談所(相手方が女性の場合に限る。以下同じ。
)及び児童相談
所(相手方が児童の場合に限る。以下同じ。
)に速やかに通報又は連絡し、より専門的
な判断を求めるなど、相互に連携の上、対応する。この際、人身取引被害者の円滑な
保護を図るため、関係機関間で相互に十分な情報共有を図る。
(4) 通報又は連絡を受けた警察、入国管理局、海上保安庁、婦人相談所及び児童相談所
は、当該通報又は連絡に係る者が人身取引被害者である場合においては、相互に連携
の上、当該人身取引被害者を保護するとともに、潜在している人身取引被害者の早期
発見に努め、人身取引被害者の安全を確保する。この際、これらの関係機関は相互に
情報の共有を図り、
それぞれの機関の対応に齟齬が生じることのないように留意する。
(5) 関係機関は、人身取引被害者等が民間シェルター等に保護されている場合は、被害
者の所在が明らかになり被害者等に危険が及ぶ可能性が生じないように、細心の注意
を払う。
4 取締り過程における被害者の発見
(1) 警察、入国管理局、海上保安庁、労働基準監督署等において、不法入国・不法在留
事犯、風俗関係事犯、売春事犯、児童買春・児童ポルノ事犯等又は外国人に係る労働
基準法等違反事案を取り扱う際には、人身取引被害者が潜在している可能性があるこ
とを考慮した上、例えば、当事者が外国人である場合には母国語により対応し、女性
である場合には女性職員が対応するなど、
被害者が被害申告をしやすい状況をつくり、
人身取引事犯の早期発見に努める。
(2) 当該事案の当事者又は関係者が人身取引被害者又はそれに該当する可能性がある者
と判断される場合には、同人を保護することを念頭に置き、当事者の意向も踏まえつ
つ、警察、入国管理局、海上保安庁、婦人相談所及び児童相談所に必要に応じて速や
かに通報又は連絡し、相互に連携の上、対応する。この際、人身取引被害者の円滑な
保護を図るため、関係機関間で相互に十分な情報共有を図る。
(3) 通報又は連絡を受けた警察、入国管理局、海上保安庁、婦人相談所及び児童相談所
は、当該通報又は連絡に係る者が人身取引被害者である場合においては、相互に連携
の上、当該人身取引被害者を保護するとともに、潜在している人身取引被害者の早期
発見に努め、人身取引被害者の安全を確保する。この際、これらの関係機関は相互に
情報の共有を図り、
それぞれの機関の対応に齟齬が生じることのないように留意する。
5 新たに明らかになった被害者への対応
各種窓口や取締り過程において人身取引被害者を発見した場合であって、保護した被
害者及び関係者からの情報等を基に他の被害者の存在が明らかになったときには、3又
は4の手順に沿って、関係行政機関が協力し速やかに対応する。5 各行政機関における人身取引事案への対応
≪警察≫
・ 各種窓口における対応
警察署、交番等において、人身取引被害者やその関係者からの相談や保護要請があ
った場合に積極的かつ適切に対応する。
・ 取締り過程における被害者の発見
各種法令違反の取締り過程において、人身取引事犯の発見に努める。
・ 被害者の保護
人身取引被害者を認知した際には、必要に応じて入国管理局、婦人相談所等に通報
又は連絡の上、相互に連携して適切な保護措置を講ずる。
・ 被害者の安全確保
被害者の安全確保、二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者からの相談への
対応及び事情聴取場所の配慮等を行う。
・ 被害者としての立場への配慮
被害者に対して、保護施策の周知及び在留特別許可等の法的手続に関する十分な説
明を行うとともに、可能な範囲で今後の捜査について説明を行う。また、被害者が犯
した犯罪が人身取引被害の一環として同取引に付随して行われたものである場合には、
以後の捜査の状況を勘案しつつ、被害者としての立場に十分配慮した措置に努める。
≪海上保安庁≫
・ 各種窓口における対応
海上保安部等において、人身取引被害者やその関係者からの相談や保護要請があっ
た場合に積極的かつ適切に対応する。
・ 取締り過程における被害者の発見
各種法令違反の取締り過程において、人身取引事犯の発見に努める。
・ 被害者の保護
人身取引被害者を認知した際には、必要に応じて警察、入国管理局、婦人相談所等
に通報又は連絡の上、相互に連携して適切な保護措置を講ずる。
・ 被害者の安全確保
被害者の安全確保、二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者からの相談への
対応及び事情聴取場所の配慮等を行う。
・ 被害者としての立場への配慮
被害者に対して、保護施策の周知及び在留特別許可等の法的手続に関する十分な説
明を行うとともに、可能な範囲で今後の捜査について説明を行う。また、被害者が犯
別添6 した犯罪が人身取引被害の一環として同取引に付随して行われたものである場合には、
以後の捜査の状況を勘案しつつ、被害者としての立場に十分配慮した措置に努める。
≪検察≫
・ 各種窓口における対応
地方検察庁等において、人身取引被害者やその関係者から相談や保護要請があった
場合に積極的かつ適切に対応する。
・ 取締り過程における被害者の発見
各種法令違反の取締り過程において、人身取引事犯の発見に努める。
・ 被害者の保護
人身取引被害者を認知した際には、被害者が悪質な雇用主、ブローカー等から危害
を加えられるおそれが強いこと等を踏まえ、必要に応じて警察や入国管理局への通報
を行うほか、関係行政機関と相互に連携して適切な保護措置を講ずる。
・ 被害者の安全確保
被害者の安全確保、二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者からの相談への
対応及び事情聴取場所の配慮、
被害者等通知制度による情報の提供等を行うとともに、
公判手続における遮へい措置、ビデオリンク方式による証人尋問等人身取引被害者の
立場や心情に配慮した手続が実現されるように努める。
・ 被害者としての立場への配慮
被害者に対して、保護施策の周知及び在留特別許可等の法的手続に関する十分な説
明を行うとともに、可能な範囲で今後の捜査について説明を行う。また、被害者が犯
した犯罪が人身取引被害の一環として同取引に付随して行われたものである場合には、
以後の捜査の状況を勘案しつつ、被害者としての立場に十分配慮した措置に努める。
≪入国管理局≫
・ 各種窓口における対応
入国管理局において、人身取引被害者やその関係者から相談や保護要請があった場
合に積極的かつ適切に対応する。
・ 取締り過程における被害者の発見
入管法違反事案の取締り過程において、人身取引事犯の発見に努める。
・ 被害者の保護・支援
人身取引被害者を認知した際には、必要に応じて警察、婦人相談所等に通報又は連
絡の上、相互に連携して適切な保護措置を講ずる。また、在日外国公館、IOM(国
際移住機関)等との連携確保に努め、被害者の旅券発給等の保護措置について協力を
求める。
・ 被害者の安全確保7 被害者の安全確保、二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者からの相談への
対応及び事情聴取場所の配慮等を行う。
・ 被害者としての立場への配慮
被害者に対して、保護施策の周知及び在留特別許可等の法的手続に関する十分な説
明を行う。
・ 被害者の法的地位の安定
被害者の立場を十分考慮しながら、被害者の希望等を踏まえ、被害者が正規在留者
である場合には、在留期間の更新や在留資格の変更を許可し、被害者が不法在留等の
入管法違反状態にある場合には、在留特別許可を行って、法的地位の安定を図る。
≪婦人相談所・児童相談所≫
・ 各種窓口における対応
婦人相談所又は児童相談所において、人身取引被害者やその関係者から相談や保護
要請があった場合に積極的かつ適切に対応する。
・ 被害者の保護
関係行政機関から人身取引被害者の保護要請を受け、又は、自ら人身取引被害者を
認知した際に、被害者が悪質な雇用主、ブローカー等から危害を加えられるおそれが
強いこと等を踏まえ、被害者本人に対して各関係機関の役割について説明し、連絡の
必要性について了承を得た上で、
必要に応じて警察や入国管理局への通報を行うほか、
関係行政機関と相互に連携して適切な保護措置を講ずる。
・ 婦人相談所等における保護、援助等の実施
婦人相談所において、関係行政機関、在京大使館、IOM及びNGOとの連携確保
に努め、被害女性に対する衣食住の提供、夜間警備体制の整備のほか、被害者の状況
に応じ保護中の支援の充実を図る。なお、被害者が児童である場合には、必要に応じ
て、児童相談所と連携して適切な保護措置を講ずる。また、より適切な保護が見込ま
れる場合には、民間シェルター等への一時保護委託を実施する。
≪労働行政関係機関≫
・ 各種窓口における対応
労働基準監督署等において、人身取引被害者やその関係者から相談や保護要請があ
った場合に積極的かつ適切に対応する。
・ 取締り過程における被害者の発見
外国人に係る労働基準法等違反事案の取締り過程において、人身取引事犯の発見に
努める。
・ 被害者の保護
人身取引被害者を認知した際には、被害者が悪質な雇用主、ブローカー等から危害
を加えられるおそれが強いこと等を踏まえ、必要に応じて警察や入国管理局への通報8 を行うほか、関係行政機関と相互に連携して適切な保護措置を講ずる。
≪その他関係行政機関≫
・ 各種窓口における対応
各種窓口において、人身取引被害者やその関係者から相談や保護要請があった場合
に積極的かつ適切に対応する。
・ 被害者の保護
人身取引被害者を認知した際には、被害者が悪質な雇用主、ブローカー等から危害
を加えられるおそれが強いこと等を踏まえ、必要に応じて警察や入国管理局への通報
を行うほか、関係行政機関と相互に連携して適切な保護措置を講ずる。9 帰国支援
人身取引被害者保護の流れ
法的地位
の安定
連携(委託)
シェルターの
提供・支援
(女性・児童)
外務省
入国管理局
警察
労働行政
関係機関
海上保安庁
婦人相談所
児童相談所
法務局
外国人
総合相談窓口
検察
市区町村
その他行政機関NGOIOM
認知
各種窓口における相談・保護要請
保護
帰国支援
安全確認
連絡
安全確認
安全確認
ケースワーカー
等の派遣
関係行政機関に通報又は連絡
関係行政機関に通報又は連絡
被害者(の可能性のある者)を認知
被害者(の可
能性のある
者)を認知
法令違反
の取締り
関係行政機関に通報又は連絡
連絡
相互に連携・被害者を認知
シェルターの
提供・支援
(民間シェルター)
法令違反の取締り
被害者(の可能性のある者)を認知
被害者の安全確保
被害者としての立場への配慮
参考資料
相互に連携・被害者を認知
人身取引事案の取扱方法(被害者の保護に関する措置)について
平 成 2 3 年 7 月 1 日
人身取引対策に関する関係省庁連絡会議申合せ
人身取引は、重大な人権侵害であり、人道的観点からも迅速・的確な対応を求められて
いる。これは、人身取引が、その被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらし、
その損害の回復は非常に困難だからである。
近年、ブローカー等が被害者を偽装結婚させるなどして就労に制限のない在留資格を取
得させるなど、人身取引の手口はより巧妙化・潜在化してきているとの指摘もあり、関係
行政機関においては、潜在化している可能性のある人身取引事案をより積極的に把握し、
その撲滅と被害者の適切な保護を推進する必要がある。
人身取引被害者の認知については、平成 22 年6月 23 日「人身取引事案の取扱方法(被
害者の認知に関する措置)について」が関係省庁により申し合わされたところ、この度、
新たに人身取引対策行動計画 2009(平成 21 年 12 月 22 日犯罪対策閣僚会議決定)に基づ
き、人身取引事案の取扱方法のうち被害者の保護に関して、被害者保護のための着眼点及
び関係行政機関において講ずべき措置について整理し、あわせて、人身取引対策に携わる
関係行政機関、団体等における活動の参考に供するため、別紙のとおり、
「人身取引事案の
取扱方法(被害者の保護に関する措置)
」を取りまとめた。
関係省庁においては、今後、別紙に示す事項が実施され、その実効が上がるよう、関係
職員に対する十分な周知を図るなど必要な措置を講ずることとする。その際、一人でも多
くの人身取引被害者を保護するため、関係行政機関において被害者に該当する可能性があ
る者を認知した場合には、
できるだけ幅広く保護を念頭に置いた措置を講ずることとする。
また、当初人身取引被害者に該当する可能性があると思われた者が後に該当しないと判明
した場合においても、その者が置かれている状況やその者の人権に十分配慮して取り扱う
こととする。
別添3
人身取引事案の取扱方法(被害者の保護に関する措置)
1 被害者保護のための着眼点
人身取引被害者を適切に保護するためには、次の点に着眼する必要がある。
(1) 被害者の安全確保
被害者が悪質な雇用主、ブローカー等から危害を加えられるおそれが強いこと等を
踏まえ、被害者の安全確保、二次的被害の防止・軽減等を図る必要があること。
(2) 被害者としての立場への配慮
被害者に対して被害者保護施策の周知等十分な説明を行うとともに、被害者が犯し
た犯罪が人身取引被害の一環として同取引に付随して行われたものである場合には、
以後の捜査の状況を勘案しつつ、被害者としての立場に十分配慮した措置に努める必
要があること。
(3) 被害者の法的地位の安定
被害者の保護を優先する観点から、被害者の立場を十分考慮しながら、被害者の希
望等を踏まえ、その法的地位の安定を図る必要があること。
(4) 被害者の滞在の中長期化への配慮
刑事手続への協力、偽装結婚していた場合の離婚手続、母国の安全上の問題等によ
り、被害者の滞在が中長期化する場合があり、言語や生活習慣の違い、集団生活、行
動の制限等が被害者の負担になっていることから、被害者の希望等を勘案し、カウン
セリングを行うなど必要な支援を行う必要があること。
2 平素からの措置
各行政機関においては、人身取引被害者又はそれに該当する可能性がある者を認知し
た際や人身取引被害者の保護に当たり、関係行政機関間で相互の連携協力が円滑に図ら
れるよう、平素から、
1 各行政機関の人身取引対策に係る連絡窓口を一元化し、責任者を置くとともに、他
の都道府県の関係行政機関からの連絡も円滑に行うことができる体制を整備する
2 関係行政機関の連絡窓口を確認するとともに、窓口担当者等の変更があった場合に
は直ちに関係行政機関に連絡する
3 関係行政機関の連絡会議等を開催するなどし、人身取引対策に係る情報を共有する
とともに、各行政機関の業務内容について理解を深めた上で、人身取引被害者の保護
に係る具体的な措置要領について認識を共有する
4 人身取引被害者やその関係者に接する可能性のある職員に、人身取引被害者認知・
保護のための着眼点並びに人身取引被害者に該当する可能性のある者を認知した際に
採るべき措置及び被害者の保護に関する措置を周知する
など、必要な措置を講ずる。
3 被害者の保護に関する措置
(1) 警察、入国管理局、法務局、婦人相談所、児童相談所、労働基準監督署、外務本省
等の関係行政機関の各種窓口において、相談者等が、人身取引被害者又はそれに該当
する可能性がある者と判断される場合には、その者を保護することを念頭に置き、必
要に応じて警察、
入国管理局、
海上保安庁、
婦人相談所
(相手方が女性の場合に限る。
以下同じ。
)及び児童相談所(相手方が児童の場合に限る。以下同じ。
)に速やかに通
別紙
報又は連絡し、
より専門的な判断を求めるなど、
相互に連携の上、
対応する。
この際、
人身取引被害者の円滑な保護を図るため、関係行政機関間で相互に十分な情報共有を
図る。
(2) 通報又は連絡を受けた警察、入国管理局、海上保安庁、婦人相談所及び児童相談所
は、当該通報又は連絡に係る者が人身取引被害者である場合においては、相互に連携
の上、当該人身取引被害者を保護するとともに、潜在している人身取引被害者の早期
発見に努め、人身取引被害者の安全を確保する。この際、これらの関係行政機関は、
必要に応じて連絡会議等を開催し、相互に情報の共有を図り、保護に要する期間の見
通し等を共有するなどして、それぞれの機関の対応に齟齬が生じることのないように
留意する。
(3) 関係行政機関は、人身取引被害者等が民間シェルター等に保護されている場合は、
被害者の所在が明らかになり被害者等に危険が及ぶ可能性が生じないように、細心の
注意を払う。
また、
被害者が外出する場合には、
関係行政機関の職員が付き添うなど、
被害者の安全確保に万全を期す。
(4) 関係行政機関は、人身取引被害者の保護に当たって、例えば、被害者が外国人であ
る場合には母国語により対応し、女性である場合には女性職員が対応するなど被害者
の不安感の払拭に努める。また、人身取引被害者であることが判明した被害者に対し
て、被害者保護施策の周知及び在留特別許可等の法的手続に関する十分な説明を行う
とともに、可能な範囲で今後の捜査について説明を行う。
(5) 捜査機関等は、刑事手続等の必要性から、被害者の保護の期間が中長期化すること
が見込まれる場合は、被害者及び被害者を保護している関係行政機関に対して、刑事
手続や可能な範囲で今後の捜査の見通し等に関する十分な説明を行い、被害者の精神
的負担の軽減に努める。
(6) 捜査機関は、
被害者からの事情聴取その他の刑事手続において、
被害者の安全確保、
二次的被害の防止・軽減等を図るため、被害者からの相談への対応及び事情聴取場所
の配慮、被害者支援員等による法廷への付添い、被害者等通知制度による情報の提供
等を行うとともに、公判手続における遮蔽措置、ビデオリンク方式による証人尋問等
人身取引被害者の立場や心情に配慮した手続が実現されるように努める。また、婦人
相談所等において保護されている被害者から事情聴取等を行う場合は、その時間、方
法等について当該関係行政機関と事前に十分な調整を行う。
(7) 捜査機関において、人身取引被害者が犯した犯罪が人身取引被害の一環として同取
引に付随して行われたものである場合には、以後の捜査の状況を勘案しつつ、被害者
としての立場に十分配慮した措置に努める。
(8) 入国管理局は、被害者の立場を十分考慮しながら、被害者の希望等を踏まえ、被害
者が正規在留者である場合には、在留期間の更新や在留資格の変更を許可し、被害者
が不法在留等の入管法違反状態にある場合には、在留特別許可を行って、被害者の法
的地位の安定を図る。また、婦人相談所等は、必要に応じて各種手続への付添いを行
うなど、被害者の精神的負担の軽減に努める。
(9) 婦人相談所において、警察、入国管理局等の関係行政機関、
在京大使館、IOM(国
際移住機関)及びNGOとの連携確保に努め、国籍、年齢を問わず、人身取引被害女
性の一時保護を行い、被害女性に対する衣食住の提供、居室や入浴への配慮、食事へ
の配慮、夜間警備体制の整備のほか、必要な通訳の確保、カウンセリング、医療ケア
等の実施、被害者に対する法的援助に関する周知等、被害者の状況に応じ保護中の支
援を行う。なお、被害者が児童である場合には、児童相談所において、必要に応じて
児童心理司等による面接、医師による診断等を行うとともに、高度の専門性が要求さ
れる場合は、専門医療機関と連携するなど、心理的ケアや精神的な治療を行う。
(10) 帰国することができない被害者については、入国管理局は、本人の意思を尊重しつ
つ、個別の事情を総合的に勘案した上、必要に応じて就労可能な在留資格を認める。
また、関係行政機関は、我が国で就労可能な在留資格が認められた被害者について、
就労の希望等を勘案し、必要に応じて就労支援を行うように努める。

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