1関係者ヒアリング結果概要
1 日時
令和6年3月18日(月)10時43分〜11時56分
2 場所
オンライン
3 対象者
外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクト
木下 貴雄 (王 榮) 氏
4 対応者
出入国在留管理庁政策課外国人施策推進室 平林室長 ほか
5 内容
(外国人高齢者と介護の橋渡しプロジェクトのこれまでの取組について)
しろまる 日本人でも高齢者と介護は対応の難しい問題であるが、外国人にとっては
言語や制度の不知という障壁があり、より解決が困難な状況にある。外国人
高齢者と介護の橋渡しプロジェクト(以下「プロジェクト」という)は、この
ような問題に取り組むため10年前に発足した。
しろまる きっかけは、中国旧満州からの帰国者であった私の父親が要介護となった
ときに、日本語がほぼできない母親では対応が難しく、私自身があらゆる問
題に対応しなくてはならなかったことである。外国人の高齢化と介護は、な
んとかしなければならない課題であると痛感し、チームでトヨタ財団の助成
を受けて立ち上げた。
しろまる プロジェクトに取り組み、最初に実感したのは何よりも言葉の問題を解決
しなければ先に進まないということである。
しろまる 中国からの帰国者の中でも要介護者が増えて問題になっていたことから、
中国語に特化した介護通訳のボランティア派遣を行うとともに、外国人が介
護保険制度を知らず、利用できていないことから制度の周知、外国人高齢者
問題が社会に認知されていなかったことから福祉関係機関、公的機関、介護
施設等への理解啓発を行ってきた。
しろまる 介護通訳は中国語に特化して2期で27名を養成し、1期生が修了した段階
から現場にボランティア派遣を行った。
しろまる 取組を通じて分かったのは外国人の介護施設利用者及び事業所において、
介護通訳の需要が非常に大きいということである。
しろまる 周知活動については、中国からの帰国者だけでなく、日系南米人も高齢化
が進んでおり、フィリピンの方も要介護者が増えてきていることから、日系
南米人向け及びフィリピン人向けの説明会も行ってきた。
しろまる プロジェクトだけで解決できる問題ではないため、関係する支援団体やコ 2ミュニティにも問題意識を持っていただき、取組を行ってもらえるようにな
ることが重要だと考えている。
しろまる 介護通訳について、当初は無償で派遣を行っていたが、財源がなくなった
ため途中から有償に切り替えたところ、途端に利用が減ってしまった。
しろまる 必要なサービスであっても自己負担となると利用を諦めてしまうという実
態を踏まえ、介護保険制度において言語サービスを利用可能としないと、今
後高齢化していく外国人のコミュニケーション問題が解決できないと考え、
厚生労働省老健局に提言書を提出した。
しろまる また、介護通訳の今後の在り方について、NPO法人の助成をいただい
て、実践を通しての研究もしている。
しろまる 恐らく自治体の中で初の試みではないかと思うが、愛知県の外国人高齢者
支援事業を1年間受託させていただき、実態調査を踏まえた調査報告を行っ
た上で、支援者、ケアマネージャー並びに介護施設の関係者向けの多文化理
解のパンフレット及び外国人向けの介護保険制度の多言語リーフレットを作
成した。
しろまる 多言語リーフレットを作成する際には、なるべく文字情報を減らし、イラ
ストを多く使用することで、誰が読んでも理解できるように工夫しており、
このリーフレットは現在愛知県のウェブページに掲載されている。
しろまる また、できる限り全国を回り、ヒアリングや外国人高齢者への支援に係る
環境作りを行ってきた。外国人高齢者に係る諸問題は政府や自治体、地域社
会全体で取り組んでいく必要があると考えており、今後は外国人高齢者問題
を共有できる全国ネットワークも必要ではないかと考えている。
(外国人高齢者が抱える問題について)
しろまる 外国人高齢者が抱えている問題として「コミュニケーションの壁」、「識
字の壁」、「味覚の壁」、「習慣の壁」及び「心の壁」の5つの壁があると
考えている。
しろまる 「コミュニケーションの壁」は最初に現れる問題である。
しろまる 日本語を使用する頻度が減っていくと、徐々に忘れていき、母語帰りを起
こしてしまう。これは認知症を発症すると特に顕著である。
しろまる 「識字の壁」は、文字の読み書きができない外国人も多く存在するという
問題である。
しろまる 中国からの帰国者は1世も2世も教育を受けられず、読み書きができない
人が多く存在したところ、介護保険制度利用に係る契約書の内容が理解でき
ないのみならず、サインすらできないという例もある。
しろまる 「味覚の壁」は、食習慣に関する問題である。
しろまる 年を取ると過去が懐かしくなり、母国文化に回帰してしまう傾向があると 3ころ、食習慣が一番明確に現れる問題である。
しろまる 特に施設に入ると食習慣の違いから、3食どれも食べたくないという気持
ちになり、苦痛に感じてせっかく入った施設を退所してしまうというケース
もある。
しろまる 「習慣の壁」は育ってきた習慣の違いによって生じる問題である。
しろまる 施設やデイサービスを利用する中で、バックボーンとなる習慣の違いに
よって苦痛を感じたり、施設の中で孤立してしまったりするケースも多々発
生している。
しろまる 「心の壁」は来日してから受けた偏見、差別によるトラウマから生じる問
題である。
しろまる 年を取ってからまた過去のトラウマがよみがえり、自分が話す日本語が変
だと思われるのが嫌で朝の挨拶と帰りの挨拶しかせず、一日中何も話さない
というケースもある。
(介護通訳の養成・ボランティア派遣事業について)
しろまる 介護通訳という名称や概念自体がプロジェクトの取組によって初めて生ま
れたといっても過言ではないと考えている。
しろまる 日本で最初に外国人の高齢化問題に直面したのは在日コリアンの方々だ
が、彼らは様々な事情により自分たちのコミュニティの中で解決を行ったた
めに、社会全体として問題が共有されなかった中で、他のコミュニティで外
国人高齢者問題が生じたという流れがある。
しろまる 介護通訳はコミュニケーションの問題を解決するための手段として、医療
通訳を参考にしながら開発を行った。
しろまる カリキュラムについても医療通訳を参考にしながら、知識面では介護保険
制度等介護に関連する専門知識や、外国人高齢者を取り巻く環境、介護の利
用に係る全体の流れ等を学ぶようにした。
しろまる また、プロの通訳の養成のために最低限必要な基礎知識、基礎技術もカリ
キュラムに取り入れ、5日間かけて小テスト及び修了テストも行い、合格者
に対してプロジェクトの認定や修了証を発行している。
(外国人への介護保険制度等の周知について)
しろまる 年金についてはこの10年間で理解が進み、外国人の間でも意識がされるよ
うになってきたと感じるが、介護保険制度については社会全体において外国
人の高齢化という意識が共有されておらず、周知が遅れている。
しろまる 外国人への介護保険制度の周知について、外国人が集住している地域では
制度に係る情報が多言語化されていることもあるのかもしれないが、取組が
広く外部に知られている例はほぼないと感じている。 4しろまる 情報発信の仕方として、窓口に行かないと手に入れられないような冊子の
みの配布ではなく、ウェブページで公開するなど、時代に沿った情報発信を
行っていく必要があると考えている。
しろまる 法務省が公開している数値から単純計算をすると、在日外国人のうち65歳
以上の人口は15年後には約60万人となる。介護保険制度の周知について今の
うちにしっかりと考えておかなくてはならない。
しろまる 中国からの帰国者やインドシナ難民等が現在高齢化問題の真っただ中にあ
り、今後は日系南米人の方々、その後にフィリピンの方々の間で高齢化が問
題となっていくであろう。
しろまる プロジェクトの取組としての外国人への制度の周知は、名古屋市社会福祉
協議会にも講師として御協力いただき、中国語通訳を利用して名古屋市内在
住の中国帰国者向けに説明会を行うことから始めた。
しろまる 日系南米人向けの説明会やフィリピン人向けの説明会も社会福祉協議会に
御協力いただいて実施している。
しろまる 説明会以外にも、名古屋市と名古屋国際センター等が主催する「外国人の
心とからだの健康相談会」等様々なイベントにできるだけ参加して、介護保
険制度の周知に努めている。
しろまる フィリピンの方向けの説明会では、30代から40代の比較的若い世代の方た
ちも参加しており、介護保険の仕組みが分からない、保険料を支払ったこと
がない等の質問を受けるところであり、厚生労働省等から外国人を雇用して
いる企業に対しての従業員への周知に係る働きかけも大切であると考えてい
る。
しろまる 介護保険料を支払ってきたが、制度を知らないので利用できていないとい
う方々がいるのも課題の一つである。
しろまる 現在の介護制度において、地域包括ケアシステムが推奨されており、今後
地域包括支援センターの役割や存在が重要になっていくが、現時点の認知度
は消して高いとはいえず、今後周知が必要であると考えている。
(外国人の終活について)
しろまる 外国人高齢者への支援活動を行う中で感じるのは、あらかじめ老後の人生
設計をどうしていくかという意識を持てるかどうかで、老後生活が大きく変
わるということであり、5年前から愛知県立大学と共同開催で異文化終活に
ついてのセミナーを開催している。
しろまる 宗教及び習慣による差異は弔いの部分においても大きな課題となってお
り、多くの外国人が困っている部分である。
しろまる ここ数年でムスリムの方の埋葬問題が話題となっているところ、火葬した
くないから母国に遺体を搬送したいと考える人も多くいるが、搬送費用が高 5く、火葬せざるを得ないというケースもある。
しろまる また、老後の生活には年金が必要であり、年金の周知は終活に係る問題へ
の取組ともなる。
しろまる 外国人の方に特に強調して伝えているのは、自分が日本で老後の生活を送
る想定、意識をしているかどうかを考える必要があるということである。
しろまる 日本で老後の生活を送ると思っているのであれば、自分の老後設計をどう
していくのかをイメージしていく必要があり、そのためにはまず自身で情報
及び知識を収集していくことが不可欠である。
しろまる 今後は、外国人の遺族へのメンタルケアの重要性が増していくと考えてお
り、その面からも支援体制を整えていくことが必要である。
(「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」等について)
しろまる 情報の発信の仕方について、従来のような文字ベースのみではなく、皆に
分かりやすく動画を作成したり、障がいを持つ方のために音声による案内を
作成したりというような多面化が必要になってくると考えており、実際にこ
れまでのプロジェクトの取組を通じても需要を感じているところである。
しろまる 外国人支援コーディネーターについて、育成対象を公的機関だけでなく、
民間の支援団体も対象とするとより効果的な取組となると考えている。
(外国人の孤独・孤立について)
しろまる 新型コロナウイルス感染症が流行していたときには、中国からの帰国者も
引きこもるようになっていた。
しろまる 夫婦だけの世帯又は独居者も増えており、日本人だけではなく、外国人に
も孤独・孤立を感じる人は増加している。
しろまる 自殺した中国からの帰国者や、施設内で孤独になって自殺を図る外国人高
齢者もいた。
しろまる 近頃では名古屋で2件の孤独死があったところであり、孤独、孤立による
問題が顕在化していると感じている。
しろまる コミュニティとのつながりがあれば、孤独を感じることも減ると思うが、
つながりがない人は地域とのつながりも薄く、完全に孤立してしまう。
しろまる 電話やSNSを使用して、そのような人たちから母語で話を聞くという支
援を行っており、彼らをコミュニティにつなげるようにしている。
(その他)
しろまる 文化的な部分では、今後ムスリムの方に関係する部分が課題となってくる
と考えている。コミュニティの中で解決できる分には問題ないと思うが、コ
ミュニティ外のサービスを利用しなければいけなくなった際には宗教や食、 6習慣の部分で壁を感じる方が出てくるのではないか。
しろまる トイレの仕方についても拭くのではなく洗うという文化があるので、一般
の施設における受入れでどのように対応していくのかを考えなければならな
いであろう。
しろまる 在留外国人の中には、介護の仕事を好きでやりたい、同国人の高齢者のお
世話をしたいという人もいるが、資格外活動許可における就労時間の制限で
多くは働けない。長年アルバイトで働いている人もいて、彼らを労働人材と
してもう少し生かせるような仕組みができるとよいと感じている。
しろまる 私が所属している住宅型有料老人ホームはオーナーが在日中国人で、職員
にも外国にルーツを持つ人が半数以上いる。利用者にも外国にルーツを持つ
人が4人いるところ、コミュニケーション及びサービスは母語によらなけれ
ばできないという状況である。
しろまる 近頃は外国人高齢者にも認知症が増えているが、特に外国人においては認
知症に対する理解、知識が不足しており、認知症患者への虐待につながる
ケースも見受けられる。
しろまる 政府から外国人の認知症に対する理解促進を行うよう自治体に促し、現在
日本人を対象として力を入れている認知症予防に係る取組について、外国人
も対象としていかなければ、今後はより外国人高齢化問題が深刻化していく
であろう。
しろまる 海外から来た人材が日本の介護を学び、出身国を同じくする外国人への支
援を通じて、日本の介護の中で外国人に適した介護文化を身に付けて、将来
的に自国に帰って生かされるのも、介護分野での国際貢献に結びついていく
ことになると考えている。
(政府等への意見について)
しろまる 多文化共生社会の先にある外国人高齢者への支援の必要性という現実から
目をそらすことなく、関係各省庁には意識を持って、今のうちにできること
を徐々に整備していっていただきたい。
しろまる 特に介護保険については外国人高齢者に配慮したものが今後必要になって
くると思うが、ゆくゆくは介護保険法のみならず、様々な法律の見直しや支
援制度の再構築等をしなければならない。
しろまる 異なる文化的背景を持つ介護人材について、海外から受け入れるのみでは
なく、既に日本国内に定住、永住している外国人を育成していくことも必要
である。

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