1関係者ヒアリング結果概要
1 日時
令和6年3月15日(金)10時28分〜11時42分
2 場所
オンライン
3 対象者
特定非営利活動法人 可児市国際交流協会
事務局長 各務 眞弓 氏
4 対応者
出入国在留管理庁政策課外国人施策推進室 平林室長 ほか
5 内容
(可児市が外国籍の子どもの不就学問題に取り組むことになった経緯等について)しろまる 1990年に入管法が改正されて以降、可児市においても外国人が増えはじ
め、子どもを含め、増加した外国人に関する課題に対応するために、2000年
に特定非営利活動法人可児市国際交流協会(以下「協会」という)が設立さ
れた。
しろまる 協会設立の前後で可児市内にブラジル人学校も開校し、周辺住民とのすれ
違いも生じる中、日本の学校に在籍している外国人の子どもと住民登録の数
が全く合わず、昼間に遊んでいる子どもが見られるという情報も市に寄せら
れるようになった。
しろまる 協会でアンケート調査を実施したが、回収率も悪く就学状況が正確に把握
できなかったところ、外国人の子どもの教育について、ブラジル人学校の支
援も含めて検討するためにシンポジウムを実施した。
しろまる シンポジウムをきっかけに、大阪大学から可児市の子どもの環境調査等を
実施できないかという申入れがあり、大学と、行政、NPOの協働により
2002年から2004年の間に、保護者と子どもに直接ヒアリングができるまで、
何度も訪問するという徹底的な調査を行った。
しろまる 調査の結果、住民票を残して市外へ移動している方を含めて100人近く就
学状況不明の子どもがいることが判明した。また、日本語の問題以外にも、
給食が食べられなかったり制服が買えなかったりなど、学校の文化になじめ
ない等が不就学の原因となっていることが明らかになった。
しろまる 調査結果に基づいて市に提言を行ったところ、市長から可児市を不就学ゼ
ロにするという意向が示され、2005年に定住外国人の子どもの学習保障事業
が施策として実施された。
しろまる その結果、日本の小・中学校に初めて就学する日本語指導が必要な外国籍 2児童生徒への初期指導教室として「ばら教室KANI」の設置、通訳の増
員、国際教室の充実に行政が取り組むこととなった。
しろまる 外国人の方が増加する中、協会が借りていたビルが取り壊されることとな
り、外国の人たちのよりどころとなる施設が必要だという市長の判断によ
り、2008年4月に多文化共生センターフレビアがオープンした。
しろまる ちょうどリーマンショックの時期と重なり、多くの外国人が職を失う中、
フレビアの向かい側にハローワークの出先機関があったことから、協会にど
んどん外国の方が相談に来たり、日本語教室にも来たりするようになった。
しろまる そのような状況の中、文部科学省の行う虹の架け橋事業を受託して子ども
の教室を次々と始めることとなった。
(外国籍の子どもに関する可児市の現状について)
しろまる 現在可児市では8000人弱の子どもが公立の小・中学校に通っているが、そ
の中で830人超が外国籍の子どもである。国籍としてはフィリピンが一番多
く、続いてブラジルで、合わせて80%を超える。在留資格は、市内に住む外
国人の80%以上が「永住者」又は「定住者」であり、子どもたちもそれに準
じた在留資格を有していると考えられる。
しろまる これまでの施策の中でスキームができており、外国人の方が市民課で住民
登録を行った際に義務教育年齢の子どもがいれば、教育委員会へも行っても
らい、就学の確認をする。教育委員会に所属する外国人児童生徒コーディ
ネーターが、その後も定期的に就学状況の確認を行っている。
(外国人の子どもに係る協会の取組について)
しろまる まず、子どもたちに日本語教育や学校についていくための支援を行う「き
ぼう教室」、受験に失敗して引きこもりがちになってしまった子どもたち
や、ばら教室KANIで中学卒業を迎えてしまって高校受験に至らなかった
子どもたちが高校に行くためのサポートを行う「さつき教室」を始めた。
しろまる その他、不就学、不登校、自宅待機の子どもを対象に日本語習得や学習の
支援を行いながら学校につなげる「ゆめ教室」や、就学前の子どもを対象と
した「ひよこ教室」を運営している。「ひよこ教室」は様々な教室を運営す
る中で明らかになった、子どもがまだ小さいうちに言語を定着させることが
重要であるという課題や小学校入学のための準備指導のために設立された。
しろまる これらの教室の運営を通じて、様々な課題が明らかになったが、まず根底
にあるのは保護者の経済的な不安定という問題である。
しろまる また、海外から呼び寄せられた子どもは自分の学業の断絶や挫折を味わう
ことになる。子どもたちは、日本に来て日本語という大きな壁にぶつかり、 3加えて長く一緒に暮らしていなかった親との関係の再構築も必要となるた
め、年齢や発達の状況に応じて様々な問題が表面化していく。
しろまる 結果として、子どもたちにやる気がなかなか見られなかったり、進学の意
欲がなかったり、低年齢で妊娠・出産してしまうというような問題が生じて
いる。
しろまる これらの問題への取組として、子どもたちの心の声を聞くために、演劇手
法を生かしたワークショップを行った。ゲームのようなものを通じたり、あ
るいは演劇でされているようなコミュニケーションワークショップを通じた
りすることで、子どもたちが普段はなかなか言えないような本音も吐き出せ
るということが分かった。その中で拾った子どもたちの声をもとに保護者に
働きかけたり、声を残すためにドキュメンタリー映画を作ったり、キャリア
教育に力を入れていく等の取組を行っている。
しろまる キャリア教育については、身近なロールモデルが必要であるとはよく言わ
れるところであるが、できすぎたロールモデルだと子どもたちは自分には無
理だと思ってしまうこともある。
しろまる また、外国から来た子どもたちは、そもそも日本の教育現場をあまり知ら
ないので、進学して何ができるかを思い描くことも難しい。
しろまる そのため、より身近な、頑張って高校に進学した少し年上の外国人の子ど
もや日本人の大学生、高校生たちとの様々な活動や交流を通じて、大学でど
ういったことを勉強するのか、高校へ行ったらどんな活動をするのかを学ん
でもらい、自分の少し先にあるキャリアを考えられるようにするという取組
を毎年続けている。
しろまる 岐阜県においても日本語教育の体制整備事業に取り組んでいるところ、県
下の日本語教室において成人向け教室に子どもが来るが、大人と子どもでは
教え方が違うので指導法が分からなかったり、進路など子ども特有の問題へ
の対応が分からなかったりという声が聞かれるようになった。
しろまる この課題に取り組むため、協会において、県内の外国の子どもたちを学校
外で支援していると団体に声をかけ、「ぎふ外国につながる子どもの教育を
考えるネットワーク」を作って活動しており、今年度はキャンプや進路ガイ
ダンスを数団体と共同して実施することができた。
しろまる 特に外国人散在地域においては、あまり外国人もおらず、自分の気持ちを
分かってくれる人が親や家族にもいないという子どもが多いため、他の地域
の団体で活動する外国にルーツのある大学生などとの交流を行えるようにし
た。
しろまる サポートを行う大学生などの若者にとっても、自分の経験を話し、そのこ
とによって誰かを助けられるという経験を得ることができ、参加した外国
ルーツの先輩から「自分にもできることがある、次は企画から参加したい」 4という意見があるなど、本当に良い循環が生まれていると感じている。
しろまる 子どもに関する取組には継続が絶対に必要であり、自分たちの意思で活動
に参加したいと思ってくれる子が少しずつ増えてきたことの意義は非常に大
きい。
しろまる 協会では高校進学支援のための教室を3つ運営している。可児市外の子ど
もを対象としてきたのが「かがやき教室」である。
しろまる 以前は岐阜県の補助金で運営していたが、令和5年度から補助金ではなく
市町村への交付金となったため、NPOでは受け取ることができなくなって
しまった。
しろまる 可児市と隣接する美濃加茂市が交付金を受けてくれたため、現在は美濃加
茂市の委託事業として教室を実施しているが、飽くまで市の事業であるた
め、美濃加茂市外の子どもについては補助を受けられなくなってしまい、他
の近隣の市町の子どもたちは本人負担で教室に通っている状況である。
しろまる 国から条件付けをされているのかもしれないが、岐阜県の交付金を申請す
るためには5人以上の子どもを支援する必要があるところ、小さな町では外
国人の子どもが一人しかおらず、交付金を申請することができないために予
算を組めないというのが実情である。
しろまる 来日間もない生徒だと高校受験をちゅうちょしたり、外国人の子の受験に
ついての知見がない市では先生から今年の受験は無理だと言われたりする例
もある。
しろまる そのため、「ぎふ外国につながる子どもの教育を考えるネットワーク」を
活用し、岐阜県のどこに住んでいても支援を受けられるようになることを目
指しているところである。
しろまる 令和5年度は新型コロナウイルス感染症流行に伴う入国制限が解除された
影響か、学齢超過の子どもが非常に多かった。さらに、出身国において授業
がリモートとなっていた事情もあり、学齢超過して義務教育が終わっていな
い子どもも多い。
しろまる 協会から学齢超過した子どもたちが中学に入れるよう自治体に働きかけて
はいるものの、全員が受け入れてもらえる訳ではない。
しろまる 中学に入れなかった子どもたちは中学校卒業程度認定試験を受けることに
なるが、基礎学力がなく、とりわけ日本の学校を経験していない子どもに
とっては、高校受験よりもハードルが何倍も高いと感じている。
しろまる 中学卒業程度認定試験を受けなければいけない子どもたちはかなりモチ
ベーションが下がってしまい、後から日本に来た子どもたちがどんどん高校
に入っていく中、多くの子どもが1年で諦めてしまう。
しろまる 夜間中学があれば救われる子どもは多いと思うが、岐阜県には夜間中学が
なく、設置に係る検討もなかなか進んでいないのが実情である。 5しろまる 人生で一番多感な時期に、日本で自分は勉強をしていくことができない、
拒絶されたと感じてしまう子どももいる中、子どもたちをそのまま社会に出
すのか、学歴をつけて地域を支える人材となってもらうのかを決めるのは、
ある意味行政次第だと思っている。
しろまる 高校に行かず、日本語ができなくても、派遣会社に所属すれば何らかの仕
事はあるが、その場合に働くことのできる職種は、若い間は問題なくても、
40歳を過ぎた頃には働くことが難しいようである。
しろまる そのため、子どもたちが夢を切り開いていけるように、自分だけの武器を
手に入れられるような取組をしていきたいと考えている。これまでの例で言
うと、ゲームにのめり込んで引きこもりがちだった子どもに、eスポーツで
世界を相手に頑張れるのではないかと英語力を強化したところ、自分に対す
る自信も生まれ、アルバイトに行けるようになったということがあった。た
だし、各個人への強い寄り添いが不可欠であるため、そのためのスキルを備
えた人材の確保が必要であると感じているところである。
しろまる 協会では子どもの語学学習にも取り組んでいる。リーマンショック当時圧
倒的に多かったブラジルの子どもたちが、帰国後に教育を受けるためには、
母語であるポルトガル語の習得が必須と考えて教室を始めたものである。
しろまる 保護者たちの強い思いを受けて始めた教室ではあったが、その後意外にも
学齢期の子どもたちを持つ保護者の方たちは帰国せず、解雇されて社宅を出
てもなお子どもの学区の中で家を探すなど、できるだけ環境を変えずに子ど
もの学校を続けさせたいという思いの保護者が多いことが分かった。
しろまる 公的なサポートのある教室ではないので、保護者の方たちから頂く月謝で
運営しているが、14年間ずっと続いており、子どもの教育について考える外
国人保護者の熱意で支えられている教室だと言える。
しろまる 特に日本で生まれた外国籍の子どもは、自分は日本人だと思って育つこと
も多く、中高生になるとアイデンティティの揺らぎを感じ、保護者の言葉が
いやだと感じる子どもも少なくない。しかし、自分の文化や言葉などに誇り
を持つようなきっかけがあると、バイリンガルに近い、優れた人材に育って
いくということは、中高生向けの母語教室を通じて感じることである。
しろまる 自分の文化等に誇りを持つきっかけは小さなことでもよく、例えば外国籍
の先輩として後輩に話をする中で、普通に高校に進学したということでもす
ごく評価をされたり、尊敬されたりするという経験が子どもの自信につなが
り、アイデンティティとなっていく。
しろまる 自分は人の役に立つ存在なのだという意識は、子どものモチベーションを
上げ、ポルトガル語を話してもよい、ブラジル人として生きてよいのだとい
う自信につながっていく。そしてその自信から、子どもたちは自分の様々な
可能性について考えていけるようになるということが事業を通じて明らかに 6なった。
しろまる 日本語能力の評価ツールとしてDLAがあるが、協会では日本語能力だけ
でなく、母語能力も測る取組をしたことがあり、日本語の評価が低い子ども
たちもポルトガル語は優れていたり、どちらの言語も余りできないと思われ
ている子どもでも両言語を合わせれば十分な能力があったりするということ
が分かった。
しろまる 全部日本語で評価されることによる子どもたちの息苦しさやつらさも、母
語の能力も含めて評価することにより、変わってくるのではないかと思って
いる。
しろまる 名古屋出入国在留管理局とも意見交換を行っているNPOネットワーク
「がいたネット(外国人支援・多文化共生ネット)」で子育て施策について
調査を行った際に、外国人の子どもとその家族に対して保健師の方々が重要
な役割を果たしていることが分かった。
しろまる 保健師は出生した子どもを把握しており、母子手帳の交付や赤ちゃん訪
問、発達が気になる子どもに対する定期的な連絡や家庭訪問等を行っている
ことから、非常に貴重な情報を持っており、定期的に保健師の方々と連携を
できるようになればよいと考えている。
しろまる 地域コミュニティと地域に住む外国人との交流に関して言うと、各地域に
住む方々や企業にも多文化共生の意識を持っていただいて、受け入れる側で
ある日本人も変わっていく必要があると思っている。
しろまる 外国人の方に一方的に日本語の習得や日本文化への慣れを要求するのでは
なく、文化的背景や一人一人のバックボーンなど、何が違うからすれ違いが
生じているのかという視点から相互理解を進めていく必要があると感じてい
る。
しろまる 一方で、集住地の方々については、なかなか日本人との交流が進まないと
いう課題がある。
しろまる 可児市内で最も外国人が集住している今渡地区において、交流型の日本語
教室を月1回開設しており、今後は取組を拡大していきたいと考えている。
しろまる 災害時を想定したネットワーク会議も開設しているところ、防災に係る多
様なステークホルダーと話し合う中で、可児市の課題の一つは外国人だとい
う認識が広まってきているところである。
(その他)
しろまる 「定住者」の在留資格の方たちは、日本語教室に来ない又は続かない傾向
にある一方、日系四世として来日された方が少しずつ日本語教室に来られる
ようになってきている。これは今後能力試験を受けていきたいというモチ 7ベーションに基づいて努力をしているのだと考えている。
しろまる 在留資格の更新時等に日本語能力が必須になれば、もう少し熱心に日本語
を学んでもらえるのではないかと思う一方、根本的な問題として外国人が集
住している土地は日本語ができなくても何とかなってしまうという点が課題
だと考えている。
しろまる 一国民の意見として、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマッ
プ」等で国が掲げている施策が自治体に下りてくるときに薄まっているよう
な実感がある。基礎自治体ができることや優先順位の問題もあると思うが、
国の施策が自治体の捉え方次第で大きく方向性が異なることのないようにし
ていくことが大切だと思う。

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