1. 1. IOM事務局長による基調講演
ご列席の皆様、
第3回東京イミグレーションフォーラムにおいて、IOM事務局長として皆様にご挨拶できる機会をいただき
大変光栄です。
毎年、このフォーラムに参加する機会をIOMに与えていただき、出入国在留管理庁と法務省に感謝申し
上げます。
このフォーラムには大きな意義があり、アジア、太平洋、その他の地域の出入国管理局のトップが一堂に
会し、世界が今日、直面している人の移動に関する喫緊の課題について論じる場となっています。
この重要な時期に、皆さんがこのフォーラムに集っているのは、IOMのみならず、世界各国の繁栄を実現する
ためですが、何よりも、移住をした、移住をしようとしている、あるいは残留を希望する人々・・・、まさにそうい
った人々のためなのです。
よって、現在の移住に関する実態、移住者の人権擁護の重要性、正規移住への道筋をつけることの重要
性について手短に説明したいと思います。
(世界の概況)
コロナウィルスの蔓延により、あらゆる社会に「必要不可欠な」労働者として、移住者の存在が肯定され、注
目されるようになったのは、この数年のことでした。
また、コロナ禍は人々の記憶から薄れつつあるとはいえ、移住者と移住は、今もなお世界各地で計り知れない
プラスの潮流となっています。
メディアの報道によらずとも、多くの場合、移住は正規に行われ、地理的な結びつきがあり、通常は仕事に直
結していることが明らかです。
実際に、海外移住者、つまり世界各地を移動している人々について言えば、移住者の3分の2が雇用を求め
て移住をしているのです。
その際、彼らは通常、出身域内に留まります。
例えば、世界の海外移住者の40%以上を占めるのはアジア人ですが、その半数以上は他のアジアの国に居
住しています。
アフリカでは、人々が強制的に故郷を追われる主な要因は紛争や気候変動ですが、ほとんどの人が国内や
周辺国に移住しています。実際、アフリカ出身の海外移住者の大半は、他のアフリカ諸国に移住しています。
ラテンアメリカ(中南米およびメキシコ)では、アルゼンチン、コロンビア、ペルー、ブラジル、チリなどが、域内
で発生した難民・移民双方の主な移住先となっています。
世界各地で、移住はたいてい正規で、安全に、混乱なく行われているものの、紛争、気候変動、環境劣化、
不均衡な開発といった要因により、多くの人々は、他の場所に移住して安全と生計の手段を見出す以外に選
択の余地がありません。
より人道的で尊厳のある対応をするため、私たちには共同して尽力すべきことがあります。
IOMは、3つの目標に焦点を合わせています:
人命を救助すること
強制的に故郷を追われる人々に対するソリューションを提供すること
移住が全ての人のためになるように、正規の道筋をつけること
(移住者の人権擁護)
私たちの第一の目標は、いかなる時も、人の命を救い、守ることです。
紛争や災害は前触れなく発生し、人々は移動を余儀なくされます。そのような状況が生じたとき、世界の
人々がIOMに対応を期待します。
しかし、私たちが人道的な対応のみに注力していたのでは、十分な対応を行うことはできません。です
から、私たちはもっと賢く、もっと戦略的に、もっと革新的な考えをめぐらし、人々が移動を余儀なくされ
る場合を想定しつつ、ソリューションを構築する必要があるのです。
私たちは、強制的に故郷を追われる人々に対するソリューションの提供を第二の目標として掲げています。
そのため、有効なソリューションを構築するには、移住者がたどる道のりについて、あらゆる側面から検討しな
ければなりません。
気候変動の影響を考慮する際に、検討が特に重要になります。そこから、環境の変化に対応し、回復する力
を持たないコミュニティを予測する1つの手がかりが得られるのです。
そのため、私たちはデータ構築に投資し、パートナーシップにも注力しています。そうすることで、私たちは各
コミュニティにおける強制的に故郷を追われる人々が発生する時期を予測することが可能になります。そして、
人々がリスクに適応できるよう促すソリューションを構築することが可能になります。ただ、実際には適応でき
ないコミュ二ティもたくさんあります。そのような場合は、彼らが尊厳を守り移動する方策を見出せるよう手助
けすることができます。
移住者は人間として等しく同じ人権を有しており、私たちは、あらゆるソリューションを提供しつつ、移住者の
権利を擁護しなければなりません。
コロナ禍の中、多くの移住者が国外に留まらざるを得ない状況におかれ、帰国がかなわないばかりか、有
効な身分証明書を持たないがために基本的な行政サービスを受けられない人が大勢いました。
コロナ禍による制限がほぼ撤廃されたとはいえ、出入国管理体制の不備により、いまもなおコロナ後の
完全な復活が妨げられています。
つまり、国によって、入国許可申請・入国審査、ビザ発給、就労などを扱う政策が異なることが問題の根源な
のです。これが足かせとなり、移住者は就労先への移動、家族との再会、帰国などが困難な状況にありま
す。
コロナ後に完全かつ持続可能な復活をとげるには、各国が足並みをそろえて権利を尊重したアイデンテ
ィティ管理制度を導入する必要があります。また、さまざまなシナリオに沿ってそれを効率よく運用する
必要があります。
(IOMのビジョン-正規の道と勧告)
最後に、三番目の優先事項は、正規の道を開くことです。これこそが、すべての人のためになる移住をかな
える究極の鍵なのです。
ご列席の皆様:管理さえ上手に行えば、移住は持続可能な開発、繁栄、進歩の礎となりうるのです。
長期的な正規の道がすべての人にとってより良い結果をもたらすという事実は、火を見るより明らかです。
正規の道は、移住者の権利を守るうえでより効果を発揮します。
正規の道は、政府が所定の手順に従って移動の計画を立て、管理を行う際に有効です。
また、正規の道があれば、移住者の出身国や移住者が向かう国の経済発展を支え易くなります。
正規の道は、国民に信頼される、より安定した制度を生み出し、移住に対する私たちの固定観念を変えること
ができます。
私たちはそれを実行するべきなのです。人口統計学的データを見た限りでは、今後数十年、世界各国でより
多くの移民を必要としていることが明白なのです。
世界の経済大国上位30カ国では労働力が不足しており、人手不足による機会損失は1兆3,000億ドルを超えて
います。
多くの高齢化社会もさることながら、皆さんは、経済成長を維持するために移住者を必要としている国がたくさ
んあることをご存じだと思います。
人口動態統計とは対照的に、今や世界が抱える若年層の人口は史上最大に達しました。10〜24歳の人口
は18億人であり、そのほとんどは開発途上国に居住しています。
私たちの目標は、すべての人の純利益を最大にすること、つまり、苦渋に満ちた移動の必要性を減らし、
すべての人の人権を尊重し、人間としての尊厳を守ることです。
(結び)
最後に、私は、日本政府との長年のパートナーシップを維持するというIOMの決意を改めて表明しま
す。
私たちは、皆様方と日本国民の皆様のご協力に感謝申し上げます。
また、今後も、皆様方と知識と経験を分かち合い、協力していくことを期待しています。
私は、東京イミグレーションフォーラムが、皆様方にとって互いに学び合い、情報やベストプラクティスを共
有し、相互理解を深める場となることを心から願っています。
この世界をより良い場所にするため、すべての人のためになる移住をかなえるために、皆さんが
尽力してくださっていることに感謝いたします。

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