1国連人権理事会の特別報告者及び恣意的拘禁作業部会による公開書簡
に対する日本政府の回答について
在ジュネーブ国際機関日本政府代表部宛て送付された、2023年4月18
日付け共同書簡に関し、以下のとおり回答する。
1 序論
(1)我が国の出入国在留管理行政においては、退去強制令書の発付を受けた
外国人による送還忌避やこれに伴う収容の長期化の問題が生じている。
(2)第211回国会で成立した改正入管法(以下「改正法」という。
)は、こ
れらの問題のほか、人道上の危機に直面している真に保護すべき者を確実
に保護する制度の整備といった現行入管法下の課題の一体的な解決を目指
すものであり、その内容は、以下詳述するとおり、外国人の人権に十分に
配慮した適正なものであると考えている。
(3)なお、従前に申し入れたとおり、改正法について、事前に御説明する機
会があれば、
以下の内容を正確に理解いただけたものであり、
我が国から、
何らの説明を受けず、一方的に見解を公表したことについては、遺憾であ
ると考えている。
2 監理措置、収容について
(1)まず、貴見解においては、改正法においても、収容した上で退去強制手
続を行う前提を維持している、無期限の収容を認めている旨の指摘がなさ
れているが、我が国では、従前から、個別の事情に基づいて逃亡のおそれ
等を考慮し、収容の必要性が認められない者については、実際に収容する
ことなく、退去強制手続を進めている。
事実、退去強制事由に該当することが発覚した者のうち、収容しないで
手続を進める者の割合が約7割に及んでいることからも明らかなとおり、
我が国は、外国人の人権に配慮した柔軟な対応を行っており、現行法下の
運用でも、収容を前提とする状態にはなく、無期限の収容をしている事実
もない。
(2)その上で、改正法では、可能な限り収容自体を回避し、その長期化を解
消するため、収容代替措置である監理措置制度を新設した。この点、貴見
解では、新設する監理措置を"monitoring measure"と訳しているが、監理
措置は、入管庁と監理人が共同し、被監理者が相当期間にわたって社会内
で生活しながら退去強制手続を進めることを手助けする措置であって、対
象者を監視する措置ではない。そのため、同訳は、監理措置の実体を正し
く捉えていない。
(3)監理措置の創設によって、法律上、外国人の逃亡等のおそれの程度のみ
ならず、収容による本人が受ける不利益の程度も考慮し、収容しないで退
去強制の手続を行うことが相当な場合には、収容せずに監理人による監理 2に付して退去強制手続を進めなければならないこととなる。
すなわち、
外国人が収容されるのは、
収容の必要性がある場合に限られる
上、
収容を正当化する根拠が必要とされる。
また、
収容した場合であっても、
3か月ごとにその収容を義務的・定期的に見直すこととされている。さら
に、外国人が監理措置に付されない場合であっても、健康上、人道上の理由
が認められる場合には、仮放免することとされている。
このように、改正法は、法律上も、外国人を一切収容しないで退去強制手
続を進めることを可能とするものであって、
収容は、
監理措置に付されず、
かつ、仮放免も認められないときに最後の手段として認められるものにな
ることが明確になっており、その適用が過度に制限的でないことも当然で
ある。
(4)次に、貴見解においては、監理人の義務に関して指摘しているが、20
22年末時点での我が国における送還忌避者は約4,
200人で、
その3割
を超える約1,400人が仮放免中に逃亡して所在不明となっていること
や、仮放免中の者が重大犯罪に及んで逮捕される事例が発生していること
など、仮放免に関する憂慮すべき現状を踏まえれば、適切な指導・監督や援
助を行うために、
一定程度、
監理人に報告義務を課すことはやむを得ない。
ただし、監理人の負担軽減の観点から、監理人の義務は、監理措置条件等
の遵守の確保のために必要な場合にのみ、
かつ、
主任審査官に求められた事
項のみを報告するものとし、その範囲を適切に限定している。
(5)さらに、貴見解においては、監理措置が社会的経済的地位を理由とする
差別である旨の指摘がなされており、その意味するところは明らかではな
いが、監理措置は、退去強制手続中の措置であり、対象者は、退去強制事由
の容疑事実があり、
違反調査・審査中の者又は退去強制令書が発付されて送
還すべきことが決定した者に限られており、
監理措置が、
指摘されるような
差別的措置ではないことは明らかである。
また、
プライバシー権の享受に関する指摘もなされているが、
監理人には、
被監理者の生活状況に関する定期的な届出義務を課さず、
前記のとおり、監理措置条件等の遵守の確保のために必要な場合に限って報告を求めること
ができることとしており、
法律上、
プライバシー権を不当に侵害しないよう
に十分な配慮をしている。
3 司法審査について
(1)自由権規約第9条4は、逮捕又は抑留により自由を奪われた者に裁判所
において手続をとる権利があることを規定しているが、身体拘束に当たっ
て事前に裁判所が関与すべきことを必ずしも義務付けるものではないと理
解している。また、諸外国にも、我が国同様に、事前の司法審査の制度を
設けていない国が複数あると承知している。
(2)我が国では、退去強制処分は、いわゆる三審制の下、慎重かつ厳格な手
続を経ており、また、退去強制処分に不服がある場合には、行政訴訟の提 3起等によって、事後的に司法審査を受けることができることとしている。
加えて、改正法においては、逃亡等のおそれのみならず、収容により本人
が受ける不利益の程度をも考慮した上で、監理措置か収容かのいずれかを
選択する仕組みや、収容した場合でも、主任審査官が3か月ごとに収容の
要否を必要的に見直し、出入国在留管理庁長官もその収容判断の適正をチ
ェックするという定期的、義務的な事後審査の仕組みを規定している。
(3)このような仕組みにより、裁判所による事前の司法審査によらずとも、
手続の適正は十分に図られていると考えている。
4 収容期間の上限の規定について
(1)自由権規約第9条は、収容期間の上限について規定しておらず、諸外国
においても、収容期間の上限を設定していない国が複数あると承知してい
る。(2)貴見解において、
収容期間の上限を法律に明記する旨奨励されているが、
そもそも、我が国で2019年に退去強制手続の対象となった外国人の同
年末時点での平均収容日数は約65日で、そのうち約88パーセントの収
容日数は1か月未満であり、不合理な長期収容の実態もなければ、無期限
収容の実態もないことに留意されたい。
(3)そして、法律上収容期間に上限を設けることについては、その上限まで
送還を忌避し続ければ、逃亡のおそれが大きい者を含め、全員の収容を解
かざるを得ず、確実・迅速な送還の実施が不可能となるため、収容期間に
上限を設けることは相当ではないと考えている。また、収容期間の上限の
規定を求める趣旨は、不必要な収容を回避し、収容の長期化を防止する点
にあると考えるところ、改正法においては、収容が長期化する前に、迅速・
確実に退去等させるとともに、収容しないで退去強制手続を進める監理措
置を創設することによって、送還忌避者の長期収容の解消・防止を実現す
ることとした。
(4)加えて、改正法では、収容されずに退去することが予定される出国命令
対象者の範囲を拡大しており、退去強制手続の対象となった者のうち、収
容する対象が大幅に減少することが想定される。そして、新たに、3か月
ごとに収容の要否を義務的に見直す再評価の仕組みを導入することにより、
不必要な収容の回避と収容の長期化の防止を達成できると考えている。
5 子どもの収容について
(1)現行法制度下では、子どもは、在宅で違反調査を進め、収容を行わない
こととしている。そして、やむを得ず子どもを収容する場合であっても、
人道的配慮の観点から、収容した当日中に仮放免するなどして、必要最低
限の収容とし、子どもの利益を考慮する運用を行っている。その上で、改
正法では、収容代替措置である監理措置を創設しており、収容の削減に一
層配慮している。 4(2)また、在留特別許可の判断に当たっては、これまでも、個別の事案ごと
に、子どもの利益等の様々な事情を考慮して行ってきたところ、改正法で
は、
「家族関係」等の考慮事情を法律で明示しており、子どもの利益につい
ては、
「家族関係」又は「人道上の配慮の必要性」に含まれるものとして考
慮することとなっている。
(3)以上のとおり、我が国では、子どもの最善の利益に配慮して在留資格を
付与し、子どもを退去強制させる場合であっても、その収容は極めて厳格
かつ例外的なものとしている。
6 ノン・ルフールマン原則について
(1)貴見解において、改正法の送還停止効の例外が、ノン・ルフールマン原
則を損なう旨の指摘がなされているが、送還停止効は、難民認定申請中の
者の法的地位の安定を図るために設けられたものである。
そして、3年以上の実刑に処せられた者や外国人テロリスト等を送還停
止効の例外の対象としているが、
これらの者は、
相当程度刑事責任が重く、
強い反社会性を示す者、又は我が国の社会の安全を脅かす者であることか
ら、
法的地位の安定を図る必要がないことから、
送還停止効の例外の対象と
することについて、十分に合理性がある。
(2)また、3回目以降の難民認定申請者は、既に2度以上にわたり、外部有
識者である難民審査参与員の3人一組の判断を含めた難民等の該当性につ
いて審査が十分に尽くされた上で不認定となった者であり、基本的に法的
地位の安定を図る必要がないことから、送還停止効の例外の対象としてい
る。ただし、このような者であっても適正に難民等と認定しなければなら
ない場合もあり得ることを踏まえ、難民等の認定を行うべき相当の理由が
ある資料を提出した者については、なお送還停止効の対象とすることとし
ている。
(3)そして、我が国の入管法は、第53条第3項において、難民と認定され
た者に限らず、全ての退去強制手続が行われる者について、難民条約第3
3条1に規定する領域の属する国等への送還を禁じ、法律上、ノン・ルフ
ールマン原則を担保している。
すなわち、送還停止効の例外に該当する者であっても、その送還先は、入
管法第53条に基づいて決定され、このことは、法改正後も同様である。し
たがって、
法改正後も、
入管法第53条第3項各号に掲げる国が送還先とし
て定められることはなく、
ノン・ルフールマン原則に反する送還が行われる
ことはないから、送還停止効の例外の規定が、ノン・ルフールマン原則を損
なうとの指摘は当たらない。
7 結語
なお、改正法は、2021年に国会に提出したが廃案となった入管法改正
法案についての様々な指摘を真摯に受け止め、UNHCR等の国際機関や日 5弁連と累次にわたって協議を重ねた上、修正すべき点は修正して、再提出し
たものである。
今後とも、
改正法の内容やその適正性について、
広く理解を得るべく、
丁寧
に説明を尽くしてまいりたい。
以 上

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