人身取引対策行動計画2022
令和4年12月20日
犯 罪 対 策 閣 僚 会 議
目次
序 ----------------------------------------------------------------------- 1
1 人身取引の実態把握の徹底 --------------------------------------------- 3
(1)人身取引被害の発生状況の把握・分析 --------------------------------- 3
(2)諸外国政府等との情報交換 ------------------------------------------- 3
2 人身取引の防止 ------------------------------------------------------- 4
(1)入国管理の徹底等を通じた人身取引の防止 ----------------------------- 4
1 厳格な出入国管理の徹底 ------------------------------------------- 4
2 厳格な査証審査 --------------------------------------------------- 4
3 査証広域ネットワークの充実強化 ----------------------------------- 4
4 偽変造文書対策の強化 --------------------------------------------- 5
(2)在留管理の徹底を通じた人身取引の防止 ------------------------------- 5
1 厳格な在留管理による偽装滞在・不法滞在を伴う人身取引事犯の防止 --- 5
2 不法就労事犯に対する厳正な取締り --------------------------------- 5
3 不法就労防止に係る積極的な広報啓発の推進 ------------------------- 5
(3)労働搾取を目的とした人身取引の防止 --------------------------------- 6
1 外国人技能実習制度の適正化の更なる推進 --------------------------- 6
2 外国人技能実習生に対する法的保護等の周知徹底 --------------------- 7
3 労働基準関係法令の厳正な執行 ------------------------------------- 8
4 技能実習生等の送出国との連携・協力 ------------------------------- 8
5 特定技能制度の適正化 --------------------------------------------- 8
(4)いわゆるアダルトビデオ出演被害の防止及び救済 ----------------------- 9
(5)人身取引の防止のための罰則強化の検討 ------------------------------- 9
(6)外国人材の更なる活用に向けた制度に係る取組 ------------------------- 9
(7)人身取引の需要側に対する取組 --------------------------------------- 9
1 性的搾取の需要側への啓発強化 ------------------------------------- 9
2 雇用主等への働きかけ --------------------------------------------- 10
3 人身取引被害者の認知の推進 ------------------------------------------- 10
(1)被害者の認知に関する措置」に基づく取組の推進 ----------------------- 10
(2)潜在的被害者に対する被害申告先、被害者保護施策の周知 --------------- 11
(3)外国語による窓口対応の強化 ----------------------------------------- 11
(4)在京の各国大使館との連携 ------------------------------------------- 12
(5)在外公館等における潜在的人身取引被害者に対する注意喚起の推進 ------- 12
4 人身取引の撲滅 ------------------------------------------------------- 12
(1)取締りの徹底 ------------------------------------------------------- 13
1 人身取引対策関連法令執行タスクフォースによる関係行政機関
の連携強化 --------------------------------------------------------- 13
2 人身取引取締りマニュアルの活用等による人身取引事犯の取締りの徹底-- 13
3 売春事犯等の取締りの徹底 ----------------------------------------- 13
4 児童の性的搾取に対する厳正な対応 --------------------------------- 13
5 悪質な雇用主、ブローカー等の取締りの徹底 ------------------------- 13
6 技能実習生等に対する労働搾取を目的とした人身取引の取締りの徹底---- 14
(2)国境を越えた犯罪の取締り ------------------------------------------- 14
1 外国関係機関との連携強化 ----------------------------------------- 14
2 国際捜査共助の充実化 --------------------------------------------- 14
5 人身取引被害者の保護・支援 ------------------------------------------- 15(1)「被害者の保護に関する措置」に基づく取組の推進 ---------------------- 15
(2)保護機能の強化 ----------------------------------------------------- 15
(3)被害者への支援 ----------------------------------------------------- 15
1 人身取引被害者の支援のための意識の向上 --------------------------- 15
2 婦人相談所等における一時保護・援助等の一層の充実 ----------------- 16
3 ワンストップ支援センターの体制整備をはじめとする性犯罪・性暴力被
害者支援の充実 ----------------------------------------------------- 16
4 捜査過程における被害者への情報提供 ------------------------------- 16
5 被害者に対する法的援助の実施とその周知 --------------------------- 17
6 外国人被害者の自主的帰国・社会復帰支援 --------------------------- 17
6 人身取引対策推進のための基盤整備 ------------------------------------- 17
(1)関係諸国、国際機関との連携強化 ------------------------------------- 17
(2)国民等の理解と協力の確保 ------------------------------------------- 18
1 広報啓発活動の更なる促進 ----------------------------------------- 18
2 学校教育等における取組 ------------------------------------------- 19
3 性的搾取等の根絶に向けた官民連携の取組 --------------------------- 20
4 中小企業団体への働きかけ ----------------------------------------- 20
5 海外渡航者への啓発 ----------------------------------------------- 20
(3)人身取引対策の推進体制の強化 --------------------------------------- 20
1 閣僚級会議の実施 ------------------------------------------------- 20
2 関係行政機関職員の知識・意識の向上 ------------------------------- 20
3 関係行政機関の連携強化・情報交換の推進 --------------------------- 21
4 NGO、IOM、民間企業等との連携 ------------------------------- 21
5 人身取引に関する年次報告の作成等 --------------------------------- 21 1序 「人身取引対策行動計画2022」の策定に当たって
人身取引は重大な人権侵害であり、人道的観点からも迅速・的確な対応を求められ
ている。これは、人身取引が、その被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもた
らし、その損害の回復は非常に困難だからである。また、人身取引はしばしば国境を
越えて行われる深刻な犯罪であり、人身取引の防止・対策の強化は国際社会が取り組
むべき喫緊かつ共通の課題である 1。人身取引について、
「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人
(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」
(以下「人
身取引議定書」という。
)第3条は、次のとおり定義している。
第3条(a)「人身取引」とは、搾取の目的で、暴力その他の形態の強制力による脅迫若しく
はその行使、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用若しくはぜい弱な立場に乗ずること
又は他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭若しくは利益の授受
の手段を用いて、人を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受することをい
う。搾取には、少なくとも、他の者を売春させて搾取することその他の形態の性的
搾取、強制的な労働若しくは役務の提供、奴隷化若しくはこれに類する行為、隷属
又は臓器の摘出を含める。(b)(a)に規定する手段が用いられた場合には、人身取引の被害者が(a)に規定
する搾取について同意しているか否かを問わない。
(c)搾取の目的で児童を獲得し、輸送し、引き渡し、蔵匿し、又は収受すること
は、
(a)に規定するいずれの手段が用いられない場合であっても、人身取引とみな
される。(d)「児童」とは、十八歳未満のすべての者をいう。
政府は、こうした被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらす人身取引の
防止・撲滅と被害者の保護に向け、平成16年4月には人身取引対策に関する関係省
庁連絡会議を設置し、同年12月に同会議において「人身取引対策行動計画」を、平
1 例えば、持続可能な開発目標(SDGs)でも、人身売買(目標52)や強制労働(目
標87)
、子どもの搾取(目標16.2)等の禁止が目標として規定されているほか、本
年のG7の首脳コミュニケでもその防止等が言及されている。 2成21年12月には犯罪対策閣僚会議 2
において「人身取引対策行動計画2009」
を、また、平成26年12月には同会議において「人身取引対策行動計画2014」
(以下「行動計画2014」という。
)を策定したほか、関係閣僚を構成員とする人身
取引対策推進会議を設置し、平成27年以降毎年開催するなど、一体となってその対
策を推進してきた。また、我が国自身の取組の強化と国際社会の一致した協力を促進
するため、平成29年には、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約及び人身
取引議定書を締結したところである。
こうした取組の結果、我が国の人身取引対策は着実に前進し、一定の成果を上げて
きたと言える。しかし、人身取引は非常に潜在性が強いものであることから、全ての
被害者を認知できているものではないということを念頭に、引き続き、その認知・保
護に積極的に取り組むとともに、加害者の摘発等を強力に推進していく必要がある。
また、外国人材の適切な受入れに際しての人権保護の強化も念頭に人身取引対策に
積極的に取り組んでいくことは外国人との共生社会の実現に資するものであるほか、
これまで我が国で保護された人身取引の被害者は女性がその多くを占めているとこ
ろ、その対策は女性への暴力根絶、ひいては全ての人が生きがいを感じられる社会の
実現にも資するものとなる。
そこで、行動計画2014が、既に終了した2020年東京オリンピック競技大
会・パラリンピック競技大会の開催を視野に入れて策定されたものであること、人身
取引議定書第9条第1項の規定も踏まえ、この際、人身取引対策に係る情勢に適切に
対処し、政府一体となった総合的かつ包括的な人身取引対策を更に推進するため、新
たに「人身取引対策行動計画2022」を策定し、人身取引の根絶を目指すこととす
る。
この行動計画では、平成29年に締結した人身取引議定書第3条に定める「人身取
引」の定義に従い、関係行政機関が緊密な連携を図りつつ、また、外国の関係行政機
関、国際機関、NGO等とも協力して、人身取引対策に取り組むこととしている。ま
た、人身取引対策推進会議を開催し、人身取引に関する年次報告を作成・公表するこ
と等を通じて、不断に各種対策の実施状況の確認、効果の検証等を進めていくことと
している。
2 犯罪対策閣僚会議は、
「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、有効適切な対策を総合
的かつ積極的に推進するため、平成15年9月、内閣総理大臣が主宰し、全閣僚で構成す
る会議として発足した。人身取引対策推進会議は、平成26年12月、同閣僚会議の下に
位置付けられた。 31.人身取引の実態把握の徹底
人身取引対策を効果的に進めていくには、第一に、その実態をしっかりと把握する
ことが肝要である。人身取引の手段の巧妙化や情勢の変化を念頭に置きながら、それ
ぞれの関係行政機関において自らが取り扱う人身取引事犯等の実態を丁寧に分析する
とともに、関係行政機関間で情報共有等を図る必要がある。また、人身取引は国境を
越えて行われるものでもあり、国際社会と協調して取り組んでいくことも重要とな
る。
(1)人身取引被害の発生状況の把握・分析
風俗営業等に対する立入調査や売春事犯や風俗関係事犯等の人身取引関連事犯の
取締り等あらゆる警察活動を通じて、人身取引被害の発生状況の把握・分析に努め
る。出入国在留管理庁における各種手続等において、人身取引被害者又は加害者と
認められた者の情報を人身取引事案のデータベースに登録し、それらの実態把握に
努める。
こうした関係行政機関の取組や、在京大使館、NGO関係者、弁護士等からの情
報提供を通じて得られた情報を、関係行政機関において共有し、外国人女性及び外
国人労働者の稼働状況や人身取引被害の発生状況、国内外のブローカー組織の現状
等の把握・分析に努める。
関係行政機関、在京大使館、国際機関、NGO等との間で設置している人身取引
事犯に係るコンタクト・ポイントを有効に活用して情報共有を図り、被害者の保
護・支援及び被疑者の検挙に結び付ける。
警察において児童の性に着目した営業に係る実態調査等を通じ、人身取引に関連
するおそれのあるものを含め、被害児童の把握に努める。
外国人労働者等の旅券等の留め置きが疑われるなど人身取引に関連するおそれの
ある事案について調査を行う。
(2)諸外国政府等との情報交換
我が国に対し人身取引被害者を多く送り出している国々に加えて、人身取引に関
連する様々な取組を実施している国々に対して、我が国の人身取引対策関係省庁か
らなる政府協議調査団を派遣して、実情把握や政府、関係機関等との情報交換に努
め、これらの国々との間で人身取引の防止及び被害者保護に関する協力関係の構築
を図る。さらに、今後も幅広い実情把握及び情報交換を実現するために、継続して
実施していく。 42.人身取引の防止
人身取引は、その被害者に対して深刻な精神的・肉体的苦痛をもたらし、その被害
の回復は非常に困難であるため、そもそも被害が発生しないようにしていくことが何
よりも重要である。
そのためには、各種広報啓発活動(6(2)等も参照)や人身取引の需要側に対す
る働きかけ、取締りを含めた関連法令の適正な執行(4等も参照)等を推進していく
ことが重要である。特に、外国人に対しては、出入国管理、在留管理を適切に行うと
ともに、風俗営業、性風俗関連特殊営業等に係る不法就労の防止等を図っていくこと
が必要となる。また、外国人技能実習制度の運用や外国人材の受入れを図っていく上
で、外国人の就労に係る制度が人身取引等に悪用されることがないように適切に管理
されていかなければならない。
(1)入国管理の徹底等を通じた人身取引の防止
1 厳格な出入国管理の徹底
本邦への入国目的に疑義がある外国人については、より慎重な審査を実施すべ
く、特別審理官に引き渡し、口頭審理を実施するなどして、空海港において、厳格
な上陸審査を徹底するほか、人身取引事案のデータベース、事前旅客情報(API)、航空券の予約に係る航空会社が作成する乗客予約記録(PNR)等を活用し、
人身取引加害者の入国阻止や同被害者の保護に努める。また、入国警備官による空
港における直行通過区域(トランジットエリア)でのパトロール活動や港湾区域に
おける警戒活動の体制を強化し、航空会社等との連携強化を図りながら、密航等や
ブローカー等からの偽変造旅券の受け渡し等不審な動きの監視・摘発に努める。
2 厳格な査証審査
偽装結婚、なりすまし等巧妙な手口による査証申請に対処するため、また、人身
取引の被害に遭うおそれが否定できないような者からの査証申請に対処するため、
個別面接を行い、厳格な審査を通じて人身取引被害の防止に努める。
また、元被害者が再来日するために査証申請した場合には、更に慎重に審査をす
ることにより、元被害者が再度被害者となることを未然に防ぐ。
3 査証広域ネットワークの充実強化
水際対策の一環として、潜在的被害者と疑われる査証申請に関する情報の即時共
有化を図り、人身取引の防止に役立てるため、外務本省と在外公館及び関係省庁と
の間で構築されている情報通信ネットワークを充実させていく。 54 偽変造文書対策の強化
人身取引被害者を入国させる手段として旅券等の偽変造文書が使用されないよう
にするため、我が国としてより高度な偽変造対策技術を施した旅券の開発に努め
る。また、出入国者の大多数が利用する成田、羽田、関西及び中部の各空港に設置
した偽変造文書対策室を中心に、偽変造であることが疑われる文書の鑑識を厳格に
実施するとともに、空海港の職員に対する偽変造文書鑑識に関する研修等を実施
し、鑑識機器の有効活用を含めた鑑識技術等の向上に努める。
(2)在留管理の徹底を通じた人身取引の防止
1 厳格な在留管理による偽装滞在・不法滞在を伴う人身取引事犯の防止
厳格な在留管理により、偽装滞在・不法滞在を伴う人身取引事犯の防止を図る。
また、偽装結婚を始めとする偽装滞在事案及び不法滞在事案並びにこれらの事案に
関与するブローカー等の取締りに資するため、警察、出入国在留管理庁等の関係行
政機関の間で情報交換を推進するなど連携強化を図り、各種情報を収集するととも
に、それらの情報を分析することによって、外国人の在留状況及び就労状況の的確
な把握に努める。また、これまでに構築した犯罪のグローバル化に対応する横断的
枠組みや不法滞在者等の生活、資格・身分の偽装等の手段として利用される犯罪イ
ンフラへの対策を総合的に推進する体制を引き続き活用する。これら偽装滞在・不
法滞在事案を認知した場合には、連携の上、積極的な取締りを行い、人身取引事犯
の掘り起こし及び被害者の保護を徹底する。
2 不法就労事犯に対する厳正な取締り
警察、出入国在留管理庁、労働基準監督署等関係行政機関が連携を強化し、不法
就労事犯の取締りに資する情報交換を行うとともに、人身取引等の被害者を不法就
労させる悪質な雇用主、ブローカー等を認知した場合には、関係行政機関が連携し
て、積極的に取り締まることにより、人身取引事犯の認知及び被害者の保護を図
る。特に、風俗営業、性風俗関連特殊営業等に不法就労させられている人身取引被
害者が多いことから、これら営業に係る不法就労事犯の取締りを強化する。
また、在留カードの偽変造が非常に精巧になっていることへの対策として、在留
カード内のICチップ内に記録されている券面情報を端末に表示することで、在留
カードが真正であることを容易にかつ確実に確認できる在留カード読取アプリケー
ションを配布することにより、引き続き不法就労の防止に努める。
3 不法就労防止に係る積極的な広報啓発の推進
外国人の雇用を適正化して不法就労を防止するため、政府全体としての「外国人
労働者問題啓発月間」に時期を合わせて、毎年6月を「不法就労外国人対策キャン 6ペーン月間」と定めて広報活動を行ってきたが、令和4年度からは、
「共生社会の実
現に向けた適正な外国人雇用推進月間」として、国民を始め、外国人を雇用する企
業、関係団体等に、外国人を受け入れるに当たっての留意点等のほか、不法就労防
止に係る啓発活動を行う。
また、業界団体等に対して外国人の不法就労防止に関する説明会の開催や依頼文
書の送付等を行うとともに、外国人が参加する防犯教室等の各種啓発活動の機会を
活用し、不法就労防止のための指導啓発に努める。
(3)労働搾取を目的とした人身取引の防止
1 外国人技能実習制度の適正化の更なる推進
技能実習制度の適正化及び技能実習生の保護のため、検査担当職員に対する各種
研修の実施等を行うとともに、外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保
護に関する法律(平成28年法律第89号。以下「技能実習法」という。
)に基づ
き、外国人技能実習機構による監理団体・実習実施者に対する実地検査を実施し、
法令違反等を把握した場合には改善勧告等を行う。悪質な法令違反については、主
務大臣等による監理団体の許可取消し等の行政処分等を実施する等、外国人技能実
習制度の更なる適正化に向け不正な行為に対して厳正に対処する。
技能実習生からの相談件数が増加する状況を踏まえ、技能実習生の一層の保護を
図る観点から、外国人技能実習機構が開設した「技能実習SOS・緊急相談専用窓
口」において暴行や脅迫等の緊急の対応を要する案件を迅速に把握し、外国人技能
実習機構が技能実習生の一時保護や実習実施者等に対する実地検査等を行う。さら
に、監理団体において人権侵害行為を把握した場合には、技能実習生を速やかに保
護するとともに、迅速かつ確実に臨時監査を実施し、その概要を直ちに外国人技能
実習機構に連絡することとし、人権侵害事案に対する迅速な把握・対応を図る。ま
た、監理団体が技能実習生の保護の義務を十分に果たせない場合等、必要に応じ、
外国人技能実習機構が技能実習生の保護、実習先変更支援等を行う。
外国人技能実習機構において、令和4年4月より、技能実習生の一層の保護を図
る観点から、多くの技能実習生が在籍する実習実施者を管轄する東京、名古屋、大
阪及び広島事務所を中心に、暴行、脅迫その他の人権を侵害する行為等の緊急対応
案件を迅速に把握し、技能実習生の一時保護や実習実施者に対する実地検査等を一
体的に行うための体制を整備する。
技能実習生の失踪を減少させるため、平成31年3月に取りまとめた技能実習制
度の運用に関するプロジェクトチームで示された改善方策や令和元年11月に取り
まとめた更なる改善方策を着実に実施すべく、失踪・死亡事案発生時の初動対応、
技能実習生の失踪率に着目するなどした実習実施者等に対する実地検査を強化する 7とともに、技能実習生に対する支援制度の周知徹底を図るなど、技能実習生の失踪
を減少させるための各種措置を講じる。
出入国在留管理庁と外国人技能実習機構の間の情報連携、各地方出入国在留管理
局・支局が必要に応じ外国人技能実習機構と連携して行う監理団体・実習実施者に
対する調査、都道府県警察と外国人技能実習機構との相互通報制度等を通じて技能
実習法違反が疑われる事案を着実に把握し、迅速かつ効果的な実地検査を引き続き
実施する。
その上で、外国人技能実習制度については、技能実習法の附則第2条の規定にお
いて、必要があると認めるときは、法律の規定について検討を加えるとされている
こと、また、出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律
(平成30年法律第102号。以下「改正入管法」という。
)附則第18条の規定に
おいても、特定技能制度の在り方の検討の際には外国人技能実習制度との関係を含
め検討すること、とされている。
令和4年2月から7月には、法務省において「特定技能制度・技能実習制度に係
る法務大臣勉強会」が開催され、課題・論点を把握した。また、同年11月22日
には「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」において「技能実習制度及
び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の開催が決定されたところ、制度の
在り方について、引き続き様々な関係者からの意見を踏まえて、政府全体で総合的
に検討を行っていく。
2 外国人技能実習生に対する法的保護等の周知徹底
外国人技能実習機構のHP、SNS及び「技能実習生手帳アプリ」により、技能
実習生等に最新の技能実習関係法令、法令違反の通報先、申告手続、母国語相談窓
口等を案内し、これらの情報が在京の各国大使館や現地政府などを通じ、最新かつ
適切な内容で伝わるよう情報発信を行う。
技能実習の実施が困難となった技能実習生で技能実習の継続を希望する者につい
て、監理団体の協力が得られない場合に外国人技能実習機構における実習先変更支
援を受けることができることについて、具体例を示すほか、例えば技能実習生の妊
娠又は出産を理由とした不利益取扱いの禁止等に係る事項等については、リーフレ
ットを作成し、確実に伝わるよう周知活動を行うことなどにより、技能実習生が相
談しやすい環境を目指す。
出国時に空海港において入国審査官が実習期間を満了せずに途中で出国しようと
する技能実習生に対し、母国語で作成された「出国意思確認票」を用いて技能実習
生の意思に反して技能実習を継続させずに帰国を強制する行為が行われていないか
を確認する取組を着実に実施することにより、いわゆる強制帰国の防止を図る。ま
た、技能実習生本人が意思に反して帰国を促された場合には、外国人技能実習機構 8に相談や申告を行うことができるほか、空海港での出国手続の際に入国審査官にそ
の旨を申し出ることができることについて更なる周知を図る。
3 労働基準関係法令の厳正な執行
労働基準監督機関等においては、実習実施者に対し、労働基準関係法令等の周
知・啓発を行い、労働基準関係法令違反や人身取引関連事犯の未然防止に努める。
また、労働基準関係法令違反が疑われる実習実施者に対しては、重点的に監督指導
を実施し、労働搾取目的の人身取引が疑われる事案については、労働基準監督機関
が外国人技能実習機構と合同で監督・調査を実施し事実確認を行うなどにより、人
身取引の解消を図る。さらに、遵法状態の定着を図るための体制の強化を行う。
4 技能実習生等の送出国との連携・協力
保証金や違約金を徴収する等の不適切な送出機関等を排除するため送出国政府と
の間で作成した二国間取決め(14か国と作成)に基づき、両国で生じている課題
等について情報共有や協議を行う。また、日本側が不適切な送出機関の情報を把握
した場合には、送出国に通報し、調査、指導、送出機関の認定取消しを含めた対応
を求めるとともに、技能実習法に適合しない送出機関については、技能実習生の新
規受入停止等の措置を講じるなど厳正に対処する。さらに、二国間取決め未作成国
については、早期作成に向けた協議を進める。
また、失踪の原因の一つとして、入国時に支払った費用の回収等、技能実習生側
の経済的な事情もあると指摘されていることから、来日前の技能実習生候補者を含
めた技能実習生に対して、制度の趣旨や相談先を紹介する母国語の動画の活用等を
通じて、失踪防止に向けた積極的な周知・啓発活動を実施する。
5 特定技能制度の適正化
潜在的な特定技能外国人候補者を対象に、主要送出国の現地語で特定技能制度に
関する情報を発信・広報(特設ウェブサイトの運用及び広報動画の公開)し、悪質
な仲介事業者による、特定技能外国人候補者の知識不足に乗じた介入を抑止する。
建設分野において、業種横断の基準に加え、建設分野の特性を踏まえて国土交通
大臣が定める特定技能所属機関(受入企業)の基準を設定している。日本人と同等
以上の賃金水準、月給制及び技能習熟に応じた昇給などを受入れ企業に課し、国土
交通大臣がその受入計画の認定を行うことや、巡回指導による確認等を通じて、外
国人技能者の適正な就労環境の確保に努める。
特定技能制度における特定技能雇用契約、受入れ機関及び登録支援機関が満たす
べき基準等に関する厳格な審査により人身取引の可能性・徴候を発見し、基準を満 9たさない受入れ機関等を排除する仕組みを通じ、悪質な仲介業者や受入れ企業の特
定技能制度への参入を防ぐ。
その上で、特定技能制度の在り方については、改正入管法附則第 18 条の規定にお
いて、外国人技能実習制度との関係等を含めて検討が求められている。令和4年2
月から7月には、法務省において「特定技能制度・技能実習制度に係る法務大臣勉
強会」が開催され、課題・論点を把握した。また、同年11月22日には「外国人
材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」において「技能実習制度及び特定技能制
度の在り方に関する有識者会議」の開催が決定されたところ、制度の在り方につい
て、引き続き様々な関係者からの意見を踏まえて、政府全体で総合的に検討を行っ
ていく。
(4)いわゆるアダルトビデオ出演被害の防止及び救済
いわゆるアダルトビデオへの出演に関する被害の問題は、被害者の心身や私生活
に長期間にわたって悪影響を与える重大な人権侵害であり、深く憂慮すべき問題で
あることから、令和4年6月23日から施行された性をめぐる個人の尊厳が重んぜ
られる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図
り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律(令和
4年法律第78号)に基づき、出演被害の相談先である性犯罪・性暴力被害者のた
めのワンストップ支援センターの相談体制の強化に努めるとともに、被害防止のた
めの広報啓発を推進するほか、同法違反等により取締りを行い、アダルトビデオ出
演被害の防止及び救済を図る。
(5)人身取引の防止のための罰則強化の検討
児童が被害者となる人身取引の更なる防止を図るため、人身取引議定書の担保法
の一つである児童福祉法(昭和22年法律第164号)の関係規定の重罰化の可能
性について検討する。
(6)外国人材の更なる活用に向けた制度に係る取組
国家戦略特区における「外国人家事支援人材」の受け入れに当たり、制度の適切
な運用に努める。
(7)人身取引の需要側に対する取組
1 性的搾取の需要側への啓発強化
人身取引被害者の多くが買春等による性的搾取を受けていること等について、性
的搾取の需要側に向けた啓発媒体の作成、交通広告・SNS等の広報媒体を用いた
積極的な広報を行うことなどにより、性的搾取の需要側への啓発を推進する。 10「子供の性被害防止プラン(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)202
2」に基づき、児童買春等の子供の性被害事犯は、子供の人権を侵害する悪質な犯
罪であることを周知するためのポスターを掲示するとともに、子供の性被害につな
がるおそれのある不適切な書き込みをサイバーパトロールにより発見し、警察が注
意喚起のためのメッセージを投稿する取組を推進するなど、児童の性的搾取等の需
要側に対する啓発に努める。
2 雇用主等への働きかけ
風俗営業等の営業所に対する立入調査活動や風俗営業等の規制及び業務の適正化
等に関する法律(昭和23年法律第122号)に基づく管理者講習等の機会を通
じ、雇用主等への広報啓発活動により、人身取引に関連する意識の向上、人身取引
に関連する行為を規制する法令の理解・遵守を促し、人身取引への加担を防止する
ように努める。
外国人技能実習制度を所管する出入国在留管理庁及び厚生労働省と特に失踪者が
多い業界を所管する省庁で協力し、失踪防止への働きかけを行う。
技能実習事業協議会や特定技能制度における分野別協議会等を通じ、外国人材を
受け入れている業界に対し、人身取引対策に係る情報の発信等を行う。
3.人身取引被害者の認知の推進
人身取引は潜在性の高い犯罪であり、その被害者の発見は容易ではない。また、人身
取引の被害者の中には、自身が被害を受けていること、救い出されるべき立場にあるこ
とを認識していないものもいるとの指摘もある。人身取引の加害者を検挙し、その撲滅
を図るためにも、また、人身取引の被害者の保護を図るためにも、まずは、被害者を確
実に認知していくことが大前提となる。
そのためには、人身取引問題について様々な広報手段を用いて周知を図りつつ、人身
取引対策等に取り組む者が被害者を確実に認知するとともに、
外国語による対応を含め、
被害者がその被害を訴え出やすい環境を更に整備していく必要がある。(1)「被害者の認知に関する措置」に基づく取組の推進
平成22年6月に人身取引対策に関する関係省庁連絡会議において申し合わせた
「人
身取引事案の取扱方法(被害者の認知に関する措置)について」に基づき、関係機関に
おいて人身取引が疑われる事案を見逃すことがないよう、
人身取引被害者やその関係者
から相談や保護要請があった場合には、その者を保護することを念頭に置き、必要に応
じて関係機関に速やかに通報又は連絡するなど、積極的に対応し、被害者の認知に関す
る措置を適切に講じていく。 11外国人技能実習機構は、
実習実施者による技能実習生に対する暴力や旅券の取上げ等
により、技能実習生が従わざるを得ない状況で働かされるなど、人身取引が疑われる事
案を把握した場合には、労働基準監督機関等に対し、情報提供等を行うとともに、必要
に応じて各地方出入国在留管理局・支局と連携の上、当該実習実施者に対して、合同に
よる調査を実施する。
警察相談専用電話(#9110)や匿名通報ダイヤル等の警察の窓口、各地方出入国
在留管理局・支局、外国人在留総合インフォメーションセンターにおける相談窓口や人
権擁護に関する相談窓口、
技能実習生からの相談を受ける外国人技能実習機構の相談窓
口、労働基準監督署、婦人相談所や児童相談所等の性的搾取、労働搾取等を受けている
女性、児童及び外国人からの相談や被害申告、通報等を受けることとなる各種窓口にお
いて、人身取引が疑われる事案を見逃すことのないよう、関係行政機関において、各窓
口の役割、対応等を把握した上で連携を図り、事案に応じた適切な対応に努める。
相談には、できる限り母国語で対応するとともに、相談者等が同性を希望する場合に
は同性の職員が対応するなど、相談者等が相談しやすい環境を作るよう努める。
(2)潜在的被害者に対する被害申告先、被害者保護施策の周知
人身取引の被害申告等を呼びかけるポスター、リーフレット等を多言語で作成し、上
陸審査場、地方出入国在留管理局、外国人向け食材販売店等の人身取引被害者の目につ
きやすい場所に置くことにより、
被害を受けていることを自覚していない又は被害を訴
えることができずにいる潜在的な被害者へ被害の申告先、
相談窓口の周知を図る。
また、
被害者保護施策の周知に努め、被害申告を促すとともに、イベントや研修等様々な機会
を利用して同リーフレットの内容を広く国民に周知し、
人身取引への関心を高めて情報
提供を促す。
入国時に技能実習生に配布する技能実習生手帳や技能実習生手帳アプリ、
外国人技能
実習機構HPに、
「母国語相談ホットライン」に暴行や脅迫等の緊急案件に関する専用
相談窓口である「技能実習SOS・緊急相談専用窓口」の案内を掲載する等、周知に努
める。
(3)外国語による窓口対応の強化
法務省の人権擁護機関では、全国の法務局において、面談、電話、インターネットに
より、人身取引を含む人権問題に関する相談に応じているが、その対応言語について、
面談において常時82言語、
電話インターネットにおいては常時10言語に対応できる
よう拡大したところであり、相談者ができる限り母国語で相談することができるよう、
引き続き適切に対応していく。
また、出入国在留管理庁では、全国一律の番号(0570-013904(IP、海
外 03-5796-7112)
)で、外国人及び関係者に対して、入国・在留関係諸 12手続及び当該手続に必要な各種書類の記載要領等の案内を多言語で行うとともに、
各地
方出入国在留管理局・支局(空港支局を除く)に相談員を配置し、来訪者の相談に応じ
ていく。
都道府県警察では、外国人からの110番通報に迅速・的確に対応できるよう、通報
者、通信指令室の職員、通訳センターの職員等が三者通話を行い通報を受理する「三者
通話システム」が整備されているところ、その一層の活用を推進する。また、事件・事
故等の現場における外国人からの急訴等に対応するため、
多言語翻訳機能を有する装備
資機材の活用を図るほか、
外国語による対応が可能な職員の配置や語学研修等の教養の
実施に努める。
外国人技能実習機構では、
技能実習生への相談対応について、
「母国語相談」
として、
曜日を決めて主要な8言語により、電話やメール等で相談対応を実施しているほか、地
方事務所・支所においても、電話又は来所による対面での相談対応を実施しており、受
け付けた相談に対しては、その内容に応じ適切に対応していく。
(4)在京の各国大使館との連携
外国人の人身取引被害者が母国の在京大使館に相談する事例もあることに鑑み、
各国
の在京大使館に対し、
我が国における人身取引対策に関するリーフレット等の資料を送
付し、自国民への広報を依頼するとともに、我が国の関係機関の窓口情報等を提供する
などして、
人身取引被害に遭った自国民を把握した場合に我が国関係機関と連携して対
処するよう協力を働き掛ける。
(5)在外公館等における潜在的人身取引被害者に対する注意喚起の推進
我が国に対し人身取引被害者を多く送り出している国々から我が国に向けて出国す
る潜在的被害者に対し人身取引への注意喚起を促すとともに、
我が国入国後の被害申告
を容易にするため、それらの国々所在の我が国の在外公館や現地の政府機関等を通じ、
被害者向けのリーフレットを頒布する。
また、在外公館による査証審査の過程において、在外公館での面接を実施した申請者
に対してリーフレットを配布するほか、
代理申請機関が査証申請受理及び交付を行って
いる国については、同申請機関に対し注意喚起について協力を依頼する。
4.人身取引の撲滅
人身取引の撲滅を図るためには、人身取引事犯の取締りにより加害者を排除し、実態
を明らかにすることで効果的な対策を講じていくことが必要である。また、人身取引そ
のものではないにしても、
人身取引が潜在するおそれのある関連事案についても積極的
な取締りを実施し、人身取引事犯を掘り起こしていく必要がある。 13(1)取締りの徹底
1 人身取引対策関連法令執行タスクフォースによる関係行政機関の連携強化
平成26年に設置された、内閣官房、警察庁、法務省、最高検察庁、出入国在留管
理庁、
厚生労働省及び海上保安庁からなる人身取引対策関連法令執行タスクフォース
において、
都道府県別の人身取引担当部署間の連絡体制を強化することなどを通じて、
人身取引関連事犯についての情報共有を図り、
具体的な問題事案について関連部局が
協力して積極的に取締りを行う。
2 人身取引取締りマニュアルの活用等による人身取引事犯の取締りの徹底
警察、出入国在留管理庁、検察、労働基準監督署及び海上保安庁において、上記タ
スクフォースにおいて令和4年に改定を行った、人身取引事犯への適用法令、具体的
適用例等をまとめた「人身取引取締りマニュアル」を有効活用し、それぞれの職員が
性的搾取、
労働搾取等を目的とする人身取引に該当する可能性のある事案や人身取引
が潜在しているおそれのある事案についての認識を共有し、
当該事案を認知した場合
には、必要に応じて緊密な連携を図り、取締りを徹底するとともに、人身取引加害者
に対する厳正な科刑の実現に努める。
3 売春事犯等の取締りの徹底
売春事犯及び風俗関係事犯等の人身取引関連事犯について、取締りを徹底し、人身
取引事犯の掘り起こしを図るほか、
人身取引関連事犯の加害者に対して厳正な科刑の
実現に努める。
4 児童の性的搾取に対する厳正な対応
児童買春・児童ポルノ事犯に対しては、平成26年6月の児童買春、児童ポルノに
係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
(平成11年法律第52
号)の改正を踏まえ、国外犯処罰規定の適用を含め、同法違反等により積極的かつ適
正な取締りを徹底し、人身取引事犯の掘り起こしを図るとともに、人身取引事犯の加
害者に対する厳正な科刑の実現に努める。
5 悪質な雇用主、ブローカー等の取締りの徹底
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律、 出入国管理及び難民認定法
(昭和26年政令第319号)
、労働基準法(昭和22年法律第49号)等関係法令
の履行確保を図るとともに、
人身取引に該当する可能性がある事案を認知した場合に
は、関係行政機関が緊密な連携・協力を図り、不法就労に関与する悪質な雇用主、偽
装滞在、
不法滞在に関与するブローカー等の検挙を念頭に人身取引事犯及びその関連
事犯の取締りに当たる。その際、犯罪収益の剝奪を含め、人身取引事犯及びその関連 14事犯の加害者に対する厳正な科刑の実現に努める。
6 技能実習生等に対する労働搾取を目的とした人身取引の取締りの徹底
都道府県労働局に新たに配置した人身取引対策担当者が中心となり、
技能実習生等
からの相談や外国人技能実習機構からの情報、
監督指導時に把握した情報等の各種情
報から、
労働搾取を目的とした人身取引が疑われる事案の掘り起こしを行うとともに、
労働基準関係法令違反が認められた事案で、
技能実習生等に対する労働搾取目的の人
身取引が疑われる重大・悪質な事案については、
労働基準監督機関において送検する。
技能実習生や特定技能の在留資格を有する外国人について、
人身取引につながるお
それのある旅券等を取り上げる行為を禁止する。
同行為を外国人技能実習機構や各地
方出入国在留管理局等で把握した場合、悪質な技能実習法違反事案については、主務
大臣等による実習計画の認定取消や監理団体の許可取消等の行政処分等を実施し、処分等の内容を公表するとともに、特定技能外国人については、雇用先の企業等におけ
る特定技能外国人の受入れ停止などの措置を適切に実施する。
(2)国境を越えた犯罪の取締り
1 外国関係機関との連携強化
警察庁は、ICPO(国際刑事警察機構)を通じて、人身取引被害者の送出国や日
本人による児童買春等が行われている疑いのある諸外国の捜査機関との間で、
人身取
引事犯及び児童買春
・児童ポルノ事案に関する情報交換を必要に応じ実施する。
また、
警察庁において、子供の性被害防止に取り組む国内の関係機関、外国捜査機関、在京
大使館等が参加する「子供の性被害防止セミナー」を開催し、同セミナーにおいてそ
れぞれの取組を紹介し、情報・知見を共有するなど、関係機関との連携強化を図る。
海外で邦人が人身取引に関与した事案が発生した場合は、
外務省が現地当局及び本
人への対応を行うとともに、警察庁に情報提供を行う。
2 国際捜査共助の充実化
外国当局が、当該国で児童買春・児童ポルノ事犯等の人身取引事犯に関与した日本
人を訴追するに当たり、
国際礼譲又は刑事共助条約等の関連する国際約束に基づいて
我が国に捜査共助を要請してきた場合には、国際捜査共助等に関する法律(昭和55
年法律第69号)等の国内関連法に基づき、迅速かつ適切に共助を実施する。特に、
共助件数の多い国との間には、
刑事共助に関する条約の締結の可能性について検討す
る。 155.人身取引被害者の保護・支援
人身取引の被害者は、精神的・肉体的に大きな被害を受けていると考えられ、まずは
被害者の安全を確保した上で、その心情、立場を踏まえた支援措置を講じていくことが
重要である。また、全ての被害者が保護・支援措置の対象となるよう、犯罪被害者や女
性、
児童、
外国人に関する既存の支援制度等も活用しつつ、
効果的な措置を講じていく。(1)「被害者の保護に関する措置」に基づく取組の推進
平成23年7月に人身取引対策に関する関係省庁連絡会議で申し合わせた
「人身取引
事案の取扱方法(被害者の保護に関する措置)について」に基づき、関係行政機関は相
互に連携しつつ被害者の保護に関する措置を適切に講じていく。
人身取引の被害者に対し、保護施策の周知及び外国人である場合には、在留特別許可
等の法的手続に関する十分な説明を行う。また、外国人の人身取引被害者に対し、その
立場に十分配慮しながら、被害者の希望等を踏まえ、在留期間の更新、在留資格の変更
又は在留特別許可により、法的地位の安定を図る。さらに、在留を希望する被害者や、
帰国することができない被害者については、本人の意思を尊重しつつ、個別の事情を総
合的に勘案した上で、必要に応じて就労可能な在留資格を認める。
(2)保護機能の強化
法務省の人権擁護機関が実施する調査救済において、
緊急避難措置として男性も含め
た人身取引被害者に対し宿泊施設を一時的に提供する制度を適切に運用していく。
技能実習生が人権侵害等により、
実習実施者の下での実習継続が技能実習の適正な実
施及び技能実習生の保護の趣旨に合わないと認められる場合には、
引き続き実習を行う
ことを希望する技能実習生が実習を行うことができるよう監理団体は他企業での実習
継続等の支援を行うこととされており、
実習継続等に係る支援が確保されていない場合
には、外国人技能実習機構から監理団体等に対して助言・指導を行う。また、他企業で
の実習開始までの宿泊施設の確保など、
監理団体等による技能実習生の支援ができない、
又は監理団体等が支援を行うことが適当でない場合には、外国人技能実習機構が、実習
先変更支援のほか、一定期間宿泊先の提供を行う等、引き続き支援を行っていく。
(3)被害者への支援
1 人身取引被害者の支援のための意識の向上
性別等に関わらず全ての者が被害に遭う可能性があることから各関係行政機関に
おいて、
被害者の保護に関する必要な知識及び意識の向上を図るとともに可能な限り
相談者の希望に応じた対応ができるよう努める。 162 婦人相談所等における一時保護・援助等の一層の充実
婦人相談所等により人身取引被害女性への保護を行い、
安全の確保及び心身の健康
状態に配慮した心理的ケア等の対応を行うとともに、外国人被害者である場合には、
出身国の大使館や外国人支援を行う民間団体、IOM等の関係機関等と連携・協力を
図りながら、言葉の問題や生活習慣、食事の違いにも適切に対応し、きめ細かい支援
を図る。
3 ワンストップ支援センターの体制整備をはじめとする性犯罪・性暴力被害者支援
の充実
「第5次男女共同参画基本計画」
(令和2年12月25日閣議決定)及び「女性活
躍・男女共同参画の重点方針2022(女性版骨太の方針2022)」(令和4年6月
3日すべての女性が輝く社会づくり本部・男女共同参画推進本部決定)に基づき、被
害者の心身の負担を軽減するため、被害直後から相談を受け、緊急避妊薬の処方、証
拠採取などの医療的な支援、
心理的支援などを可能な限り一か所で提供する
「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター
(以下
「ワンストップ支援センター」
という。)」における相談員の処遇改善、24時間・365日対応を進めるとともに、
夜間休日に対応できる「性暴力被害者のための夜間休日コールセンター」の設置、運
営を行うなど、支援体制の整備を図るとともに、被害者支援の充実を図る。
ワンストップ支援センター全国共通短縮番号(「#8891
(はやくワンストップ)」)
の周知・広報を進める。
また、
若年層が利用しやすいよう、
SNS相談支援事業(「Cure
time」
(キュアタイム)
)について、システムの改善を行う。
被害児童の精神的打撃の軽減を図るために実施している継続的な支援については、
専門知識が必要な場合も多いことから、警察において、あらかじめ臨床心理学、精神
医学等の専門家を委嘱しておくなど、
必要に応じて支援を担当する警察職員が部外の
専門家の助言を受けることができる態勢を整備する。
各都道府県警察の性犯罪被害相談電話に繋がる全国共通番号「#8103(ハート
さん)
」を適切に運用するとともに、国民への更なる周知を図る。
4 捜査過程における被害者への情報提供
損害賠償に関する制度、人身取引等の被害者の保護に関する制度、被害者が証人等
として出廷することがあり、
その場合には証人の遮へい措置を講じることができる制
度があることなど、犯罪被害者保護・支援のための諸制度について分かりやすく解説
した犯罪被害者等向けパンフレット「犯罪被害者の方々へ」
(日本語版及び英語版)
を作成し、犯罪被害者等から事情聴取をする際に手渡すなどして、これらについて分
かりやすく教示するよう努める。 175 被害者に対する法的援助の実施とその周知
日本司法支援センターにおいて、人身取引被害者が、法的支援を必要としている場
合、犯罪被害者支援の経験や理解のある弁護士の紹介を行う。また、当該被害者が、
加害者に対して損害賠償請求を行うに当たり、日本に住所を有し、適法に在留してい
る場合であって収入等の一定の要件を満たすときには、
民事法律扶助が活用可能であ
ることについて周知を図る。さらに、刑事訴訟において被害者参加制度を利用するに
当たって、公判廷への出席に要する旅費等が支給されることや、収入等の一定の要件
を満たす場合には、国選被害者参加弁護士の選定請求が可能であることについても、
多言語で情報提供し、その周知を図るとともに、これらの法的援助を実施する。
6 外国人被害者の自主的帰国・社会復帰支援
本国への帰国を希望する外国人被害者の帰国を更に円滑にするため、
国際移住機関
(IOM)
、被害者出身国の在京大使館、婦人相談所、民間シェルター等との情報交
換と連携を一層密にしながら、被害者の保護及び帰国支援に取り組むとともに、各種
会議、研修及び日常業務を通じて、継続的な情報交換・意思疎通を図る。また、出身
国大使館等から帰国用渡航文書が速やかに発給されるよう関係各国との情報交換を
推進する。
国際移住機関(IOM)への拠出を通じ、国内で保護された被害者のカウンセリン
グ費用、帰国のための航空券代、帰国後の社会復帰支援費用(職業訓練・医療費等)
などを手当てするなどして、被害者の出身国の在京大使館・政府・NGOとも協力の
上、被害者の円滑な帰国及び帰国後の社会復帰と、再被害の防止に向けた最適な支援
を行う。
6.人身取引対策推進のための基盤整備
人身取引の撲滅を図るため、
「人身取引を許さない」という国民意識を醸成していく
ことが肝要となる。国際社会とも連携しつつ、総合的かつ包括的な対策を講じていくと
ともに、関係行政機関の取組状況も確認しつつ、取り組むべき施策についても必要な見
直しを行っていく。
(1)関係諸国、国際機関との連携強化
我が国で認知される外国人人身取引被害者の大半はアジア出身であるところ、
以下
の施策を通じ、人身取引対策に係るアジア諸国との連携を一層強化する。また、今後
の人身取引被害者の出身国の状況も踏まえ、必要な連携強化を検討していく。
(i)東南アジア諸国に対し、人身取引に関する教育の普及、被害者ケア、職業能力
強化、法執行能力強化等の分野において政府開発援助(ODA)を通じ支援を提 18供する。これらの国への支援においては、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)
や国際移住機関(IOM)等の国際機関、JICA、NGOとも協力し、人身取
引の背景の一つである貧困の削減にも取り組むとともに、
各国における人身取引
の防止と被害者の支援に資する協力を実現する。
(ii)人身取引被害者の送出国との間で、適切な情報交換を可能とする二国間協力・
情報交換の枠組の構築を進めていく。
(iii)バリ・プロセス(密入国・人身取引及び関連の国境を越える犯罪に関する地域
閣僚会議のフォローアッププロセス)を通じ、アジア太平洋地域における人身取
引対策に関する情報共有を更に強化する。
(iv)国連アジア極東犯罪防止研修所が行う各種の研修や情報共有の活動等、我が国
が中心となって行っている国際協力の取組を通じ、
人身取引対策の分野における
アジア諸国の法制度の整備、実務の改善及び関連諸機関の能力向上を図る。
(v)海上保安庁とJICAにより共同でアジアの海上法執行機関等を対象に、人身
取引対策を含む海上犯罪取締りに必要な知識・技術に関する研修を実施していく。
(2)国民等の理解と協力の確保
1 広報啓発活動の更なる促進
人身取引につき、人身取引とはどのようなものか、また、その実態について、国民
に対して情報提供を行い、広く問題意識を共有することを目標とし、以下の方法によ
る情報発信のほか、より効果的な広報について検討していく。
(i)関係省庁において、インターネット等を利用した人身取引に関する啓発活動に
ついて、広報手段の拡大等も含め、今後強化していく。(ii)AV出演被害・「JKビジネス」・援助交際等の若年層の性暴力被害予防に関し、
毎年4月の「若年層に対する性暴力被害予防月間」をはじめ、SNS等の若年層
に届きやすい広報媒体を活用した啓発活動を効果的に展開し、
相談先の周知を図
る。
(iii)人身取引の被害申告等を呼びかけるポスター、リーフレット等を多言語で作成
し、上陸審査場、地方出入国在留管理局、外国人向け食材販売店、外国人被害者
の主な送出国の駐日大使館及び在外日本国大使館等の人身取引被害者の目につ
きやすい場所に掲示等することにより、
被害を受けていることを自覚していない、 19又は被害を訴えることができずにいる潜在的な被害者に対し、
多言語に応じた被
害の申告先や相談窓口の周知を図る。
(iv)毎年11月12日から25日までの「女性に対する暴力をなくす運動」期間に
おいて、人身取引を含む女性に対する暴力の根絶につき、地方公共団体、民間団
体等と連携し、広報活動を行う。 広報啓発においては、被害者自身が被害と認
識していない場合があることや、
被害を受けていることを言い出しにくい現状が
あることも踏まえ、女性に対する暴力に関する認識の向上や、悪いのは被害者で
はなく加害者であり、暴力を断じて許さないという社会規範の醸成を図る。
(v)警察庁において、人身取引に対する国民の理解を深めるため、人身取引事犯の
主な手口等に関する資料を作成し、ウェブサイトに掲載するとともに、SNS等
を活用した被害防止広報を実施する。
(vi)法務省の人権擁護機関において、人身取引や外国人に対する偏見や差別を解消
するため、
「人身取引をなくそう」及び「外国人の人権を尊重しよう」を、それぞ
れ啓発活動の強調事項の一つとして掲げ、啓発冊子の配布等、各種人権啓発活動
を引き続き実施する。
(vii)独立行政法人国立女性教育会館において、国際協力機構JICAからの委託を
受け、
タイをはじめとするASEAN諸国の行政及び民間の人身取引対策に携わ
る担当者に対する研修を実施し、
各国間の連携強化や人身取引対策の強化に取り
組む。
(viii)国際社会に対して我が国の取組が正しく伝わるよう、内閣官房及び外務省ウェ
ブサイトへの資料の英文訳の掲載や人身取引対策に関連する国際会議における
参加等を含め積極的に発信していく。
2 学校教育等における取組
文部科学省において、学校教育及び社会教育を通じて、人権尊重の意識等を高める
教育の推進に努める。また、学習指導要領に基づき、自他の生命を尊重する心を重視
した教育を推進する。さらに、子供たちを性暴力の加害者、被害者、傍観者にしない
ための「生命(いのち)の安全教育」を推進していく。具体的には、生命の尊さを学
び、性暴力の根底にある誤った認識や行動、また、性暴力が及ぼす影響などを正しく
理解した上で、
生命を大切にする考えや、
自分や相手、
一人一人を尊重する態度等を、
発達段階に応じて身に付けることをめざす取組を推進する。 20また、
インターネット利用を通じた子供の性被害防止に関するリーフレットを作成
し、関係機関・団体や学校における活用を促すなど、性被害の防止に資する啓発を推
進する。
3 性的搾取等の根絶に向けた官民連携の取組
官民が連携し、AV出演被害・
「JKビジネス」
・援助交際等の性的搾取等の根絶を
目指し、被害防止及び被害者の救済に係る取組を進める。
4 中小企業団体への働きかけ
経済産業省においては、毎年6月に「外国人研修指導協議会」を実施し、中小企業
団体(日本商工会議所、全国中小企業団体中央会、全国商工会連合会、全国商店街振
興組合連合会)に対し、外国人技能実習制度の適切な実施や人身取引対策を含む政府
の外国人労働者に関する取組等について、関係省庁の協力を得て情報提供し、外国人
労働者問題に対する意識の向上等を図る。
5 海外渡航者への啓発
不健全旅行等の法令に違反するサービスの提供は、旅行業法(昭和27年法律第2
39号)において禁止されており、旅行業者等による自己点検や国・地方公共団体に
よる立入検査を通じて指導する。また、外務省においては、海外旅行者向けに配布し
ている「海外安全虎の巻」及び海外安全ホームページに掲載している安全対策基礎デ
ータを通じ、日本人が「犯罪者」になるケースとして買春をあげ、海外において買春
に関与しないよう国民に対する啓発を継続する。
(3)人身取引対策の推進体制の強化
1 閣僚級会議の実施
閣僚級会議である人身取引対策推進会議を開催し、
政府一体となって人身取引対策
を推進していく。
2 関係行政機関職員の知識・意識の向上
各関係行政機関において、人身取引対策に関する関係行政機関、IOM等の関係機
関やNGO等から講師を招くなどし、
関係職員に対する人身取引被害者の認知、
保護、
支援等の方法に係る専門的かつ実践的な研修等を実施し、
人身取引対策を推進する上
で必要な知識・技能の習得及び意識の向上を図る。
検察官に対し、各種研修等の機会を通じ、人身取引に関する講義を実施するととも
に、全国の検察官が集まる各種会議等において、人身取引事犯に対して積極的に対応
すべきことを周知し、人身取引事犯の具体的事例等を共有するなどして、人身取引対 21策を推進する上で必要な知識及び意識の向上を図る。
3 関係行政機関の連携強化・情報交換の推進
人身取引事犯に係る関係省庁及び地方行政機関の人身取引担当者の連絡先を交換
し、地方ブロックごとに連絡会議を随時開催するなどして情報共有を密にし、被害者
の認知から保護に至る一連の手続における連携を強化する。
出入国在留管理庁、警察庁、法務省及び厚生労働省との間で作成した不法就労等外
国人対策に係る合意文書に基づき、人身取引等の国際的な組織犯罪対策として、不法
就労事犯に対する厳正な取締りを強化するなど、円滑かつ積極的な情報交換を行う。
4 NGO、IOM、民間企業等との連携
関係省庁とNGOの間の意見交換を継続して実施するとともに、
IOM等の関係機
関とも連携を図り、官民一体となった人身取引対策を推進する。
人身取引に係るコンタクトポイント連絡会議を開催するなどして、NGO、IOM
等の関係機関と連携強化を図ることにより、
官民一体となった人身取引対策を推進す
る。
航空会社から人身取引被害者の可能性がある搭乗者の情報提供を受けることで、人身取引被害の防止を図る。
5 人身取引に関する年次報告の作成等
人身取引に関する施策の実施状況や人身取引事犯の取締状況等、
我が国の人身取引
に係る取組をまとめた年次報告を作成し、公表する。また、我が国の人身取引対策の
現状について関心を有する在京各国大使館等にも年次報告を説明するなどし、
我が国
の人身取引対策についての取組を広く示していく。
さらに、上記年次報告の作成を通じ、人身取引に係る最新の情勢の把握や各種施策
の進捗状況や効果等を確認・検証し、随時必要な施策を検討するほか、必要に応じて
行動計画の見直しを行う。

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