1あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
法務省の赤れんが棟が
連続テレビ小説「虎に翼」に登場しました
寅子が司法省を訪れたシーン(写真提供・NHK)
本年4月から放送されている連続テレビ小説「虎に翼」は、日本で女性初の弁護士、
判事、裁判所長となった女性・三淵嘉子さんを主人公のモデルとするテレビドラマ で
す。
三淵嘉子さんは、当時、女性が法律を専門的に学べる ほぼ唯一の学校であった明治
大学専門部女子部法科を経て、明治大学法学部に入学。昭和13年、大学を卒業し、
中田正子、久米愛とともに高等試験司法科(現在の司法試験)の初の女性合格者とな 2あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
りました。修習後に弁護士となり、その後、 司法省(現在の法務省)の民事部(現在
の民事局)で勤務された後、最高裁家庭局の局付などを経て、 昭和24年、東京地裁
民事部判事補に任用されました。 後に、女性初の裁判所長として、家庭裁判所所長を
歴任した、いわば「女性法曹のパイオニア」です。1
本誌「あかれんが」では、本年3月発行の「特別号」 で、主人公の寅子を演じてい
る伊藤沙莉さんのインタビューを掲載しています。
【リンクは こちら。】法務省の赤れんが棟(旧司法省)は、明治21年(1888)に着工、7年の歳月
を経て明治28年(1895)に延べ面積約1万m2、れんが造3階建ての庁舎として
完成しました。
上から見ると「E」のような形をしたこの建物は、急傾斜の大屋根が威風を添える
ドイツのネオ・バロック様式の建物です。
赤れんが棟は、耐震性が高められていたことで、大正12年(1923)に発生し
た関東大震災の際も、ほとんど被害を受けることはありませんでしたが 、昭和20年
(1945)の戦災により、れんが壁とれんが床を残して焼失してしまいました。
戦後、昭和25年(1950)までに復旧工事が行われ、その後、法務省の本館と
して使用されてきましたが老朽化が進み整備の必要性が謳われ、平成3年(1991)
に保存改修工事が始められて、平成6年(1994)に創建当時の姿に復 原されまし
た。
赤れんが棟の外観は、同年12月には、国の重要文化財に指定されています。 2
テレビドラマ「虎に翼」に何度か法務省の赤れんが棟が映っ たことには、お気づき
になられましたか。
法務省の赤れんが棟は、本ドラマ内で、
「司法省」として 何度か使用されています。
放送初日である4月1日(第1話)
、主人公の寅子が、戦争で焼失し、再建中の司法
省を訪ねていく(回想)シーンが放映されました(本誌冒頭の写真参照)
。このシーン
は、三淵嘉子さんが、戦後、日本国憲法が公布され、男女平等の世の中になったのだ
から、女性も裁判官に採用されてしかるべきだと考えて 、司法省人事課に「裁判官採
1 法務史料展示室 企画展示「近代の法曹」展示パネル
2 法務省 法務史料展示室メッセージギャラリーパンフレット
法務省の赤れんが棟が「虎に翼」に登場しました!
法務省の赤れんが棟について 3あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
用願」を自ら提出したという史実に基づく エピソードを描いたシーンであり、三淵嘉
子さんの「パイオニア精神」を象徴する名シーンの一つです。
また、第5週(4月最終週)
、寅子が「高等試験司法科」
(現在の司法試験)を受験
した際には、試験会場である司法省として法務省の赤れんが棟が登場し、受験生たち
が、法務省の赤れんが棟から入場し、試験会場に向かうシーンが映りました。
(建物内
部の廊下や試験会場の教室は、法務省赤れんが棟ではありませんでしたが・・・)。このエントランスは、現在、
「法務史料展示室」への出入口 にもなっていますから、
一般の来省者の皆様も通ることができます。
ぜひ、皆さんも寅子になった気分で、こちらの扉を通ってみてください!
高等試験司法科(現在の司法試験)受験当日のシーンの撮影で
使用された場所
なお、寅子役の伊藤沙莉さんは、法務省の赤れんが棟で撮影(ロケ)したときのこ
とについて、本年2月に行ったインタビューで「法務省の建物を見て、やはり、その
『重み』というか、気が引き締まるような 思いを感じました。私も、司法に携わった
方を演じさせてもらっているので、昔から続く法務省の建物を実際に尋ねて、とても
貴重な経験でした」と述べられました。 4あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
ロケ当日の風景(写真提供:NHK)
法務省の赤れんが棟3階にある法務史料展示室・メッセージギャラリーには、明治
の雰囲気を今に伝える復原室(旧司法大臣官舎大食堂)などがあり、日本の近代化に
関する貴重書などの史料を数多く展示しています。
そのうち復原室中央には、
「司法職務定制」と「民事慣例類集」
が展示されています。
「司法職務定制」には、府県裁判所の設置や「検事」や「判事」の職務が定められ
ています。
「民事慣例類集」は後の民法典の編纂に繋がるもので、我が国の江戸時代に
至る全国における民事的な慣習や習慣(出産、婚姻、死去など)を政府が主導して各
土地に官吏を派遣して調査をさせたその報告書となるものです。
また、特別展示室では令和6年1月から「近代の法曹」をテーマとして、明治初期
から昭和まで、法曹界に名を残した5名の人物にスポットを当て、その事績をたどる
とともに関連する史料を紹介していますが、その中の1人が「虎に翼」のドラマの主
人公のモデルである三淵嘉子さんです!
こちらには、三淵嘉子さん(当時は和田嘉子)が東京地方裁判所判事補に任用され
たことが記されている官報なども展示されています。
「虎に翼」には、法廷のシーンが多く出てきますが、戦前の法廷のシーンでは、 判
ぜひ法務史料展示室にお越しください!
法服について 5あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
事、検事、弁護士がそれぞれ「法服」を着用していました。
ドラマのオープニングの映像でも、寅子役の伊藤さんが、弁護士の法服を着用して
ダンスしていますね。
法務史料展示室では、戦前の法服(レプリカ)が展示されています。
戦前の判事、検事や弁護士が着用していた法服は、文学博士黒川真頼の考案による
ものです。
元来欧米の法曹界では、多くは古雅なる法服を用いて法廷の威厳を添えていたそう
ですが、裁判所構成法制定当時の司法卿山田顕義は、我が国でもこれを取り入れよう
と考え、黒川博士にその考案を依頼、博士は、聖徳太子 以来の服制を調査し、これに
西洋の制をも加味して、法帽法服を考案したそうです。 3
また、判事の制服(紫)
、検事の制服(赤)
、弁護士の職服(白)に色分けされてい
ますが、判事及び検事の制服(地質、飾、製式)は、明治23年10月22日勅令第
260号で定められました。
判事、検事の制服の違いとしては、大審院、控訴院、地方裁判所・ 區く裁判所によっ
て、装飾の桐花の個数が違います。大審院の判事、検事には「桐花7箇及び唐草」が
装飾、控訴院の判事、検事は「桐花5箇及び唐草」の装飾、地方裁判所・ 區く裁判所の
判事、検事は「桐花3箇及び唐草」の装飾と一覧になって定められています。その上
で、判事は黒地の地質に「深紫」の飾り、検事は黒地の地質に「深緋」の飾りと記載
されています。
一方、弁護士の職服(地色、飾、製式)は、明治26年 4月5日司法省令第4号で
定められました。
弁護士の職服には、黒の地色に「唐草の白」の飾りとだけ記載されていて、判事、
検事には装飾されていた「桐花」はありません。
補足ですが、
ドラマの戦前のシーンでも皆さんが被っていた帽子については、
判事、
検事、弁護士ともに黒地で「雲紋」の装飾と記載されているので、それぞれ同じ作り
になっています。
こうした視点でドラマを観るのも、面白いかもしれません。
3 穂積陳重 法窓夜話 岩波書店 (P73) 6あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
判事の法服(紫) 検事の法服(赤) 弁護士の法服(白)
このほか、法務史料展示室には、寅子役の伊藤沙莉
さんのサインも展示してありますので、お見逃しな
く!(写真右)
8月7日(水)
、8日(木)に法務省で行われる「法
務省・こども霞が関見学デー」においても「虎に翼」
関連の企画を検討中です。
詳細がきまりましたら、法務省ホームページ等でお
知らせします!お楽しみに!
(注)法務省こども霞が関見学デーは、 こども・学生を対象とした行事であり、大
人(成人)の方は学生又はこどもの付添いの方のみご入場いただけます。
こども霞が関見学デーについて 7あかれんが 2024 年 第 85 号 《別冊》
主人公・寅子を演じる伊藤沙莉さん
本年2月に実施したインタビューでは、伊藤さんは、寅子を演じる中で法律につい
ても考えるようになったとおっしゃられていました。
「法律というものは、自分の中で
『当たり前にあるもの』と感じていた。ただ、法律にも成り立ちがあって、寅子のよ
うに、法律に疑問を持つ人がいて、それが少しずつ変わっていって今がある」、「私た
ちが、そうやってできてきた法律に守られていることに、感謝やありがたみを感じる」
とおっしゃっていました。
今は、
「虎に翼」の視聴者の皆さんが、演じている伊藤さんと同じように、
「法」に
ついて色々考えを巡らせていらっしゃるのではないかと思います。
このドラマをご覧になっている 多くの皆さんが、ドラマをきっかけに「法」に関心
を持ったり、法務省(法務史料展示室)を訪れてみたり、法務省主催のイベントに参
加してみたり、法曹のお仕事に興味を持ってくださったりしたら幸いです。
(参考文献)三淵嘉子と家庭裁判所 日本評論社 清永聡著
おわりに

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