法務省所管事業(更生保護事業)分野における障害を理由とする差別 の解消の推進に関する対応指針 p1 第1 趣旨 1 障害者差別解消法の制定の背景及び経過 我が国は、平成19年に障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)に署名して以来、障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正を始めとする国内法の整備等を進めてきた。障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定された。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や情報の収集・提供の確保など障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化を内容とする改正法が公布された(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号))。 2 法の基本的な考え方 (1) 法の対象となる障害者は、法第2条第1号に規定する障害者、すなわち、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものである。これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。 p2 (2) 法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象としている。ただし、事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされている。 3 対応指針の位置付け この指針(以下「対応指針」という。)は、法第11条第1項の規定に基づき、また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定。以下「基本方針」という。)に即して、法第8条に規定する事項に関し、法務省が所管する分野(更生保護事業分野)における事業者(以下「事業者」という。)が適切に対応するために必要な事項を定めたものである。 4 留意点 対応指針で「望ましい」と記載している内容は、事業者がそれに従わない場合であっても、法に反すると判断されることはないが、障害者基本法の基本的な理念及び法の目的を踏まえ、できるだけ取り組むことが望まれることを意味する。 事業者における障害を理由とする差別の解消に向けた取組は、対応指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待される。しかしながら、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合など、特に必要があると認められるときは、法第12条の規定により、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとされている。 第2 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方 1 不当な差別的取扱い (1) 不当な差別的取扱いの基本的な考え方 事業者は、法第8条第1項の規定のとおり、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 p3 ア 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止している。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する。 また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではない。 イ したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。 (2) 正当な理由の判断の視点 正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。事業者においては、正当な理由に相当するか否かについて、具体的な検討をせずに正当な理由を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。その際、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められる。 p4 (3) 不当な差別的取扱いの例 正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例及び正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例は別紙のとおりである。 なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、これらの例だけに限られるものではないこと、正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であること、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意する。 2 合理的配慮 (1) 合理的配慮の基本的な考え方 事業者は、法第8条第2項の規定のとおり、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下「合理的配慮」という。)をしなければならない。 ア 権利条約第2条において、「合理的配慮」は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。 法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、事業者に対し、その事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、合理的配慮を行うことを求めている。合理的配慮は、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものである。これまで事業者による合理的配慮の提供は努力義務とされていたが、令和3年の法改正により、法的義務へと改められた。事業者においては、合理的配慮の提供の義務化を契機として、本対応指針に基づき、合理的配慮の必要性につき一層認識を深めることが求められる。 p5 イ 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものである。したがって、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。また、障害の状況等が変化することもあるため、特に、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、提供する合理的配慮について、適宜、見直しを行うことが重要である。加えて、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する。 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ、第2の2(2)「過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要がある。 建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられる。 p6 ウ 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去に関する配慮を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。 また、障害者からの意思表明のみでなく、障害の特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、支援者・介助者、法定代理人等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。 なお、意思の表明が困難な障害者が、家族、支援者・介助者、法定代理人等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。 (2) 過重な負担の基本的な考え方 過重な負担については、事業者において、具体的な検討をせずに過重な負担を拡大解釈するなどして法の趣旨を損なうことなく、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。その際には前述のとおり、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められる。 ア 事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か) イ 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) ウ 費用・負担の程度 エ 事業規模 オ 財務状況 (3) 合理的配慮の例 合理的配慮の例は別紙のとおりである。なお、第2の2(1)イで示したとおり、合理的配慮は、具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであり、掲載した例についてはあくまでも例示であり、あらゆる事業者が必ずしも実施するものではないこと、また、掲載した例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意する。 また、合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例及び該当しないと考えられる例について、別紙のとおりである。これらの例についても、掲載されている例はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについても、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であることに留意する。 p7 (4) 環境の整備との関係 法第5条においては、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として事業者の努力義務としている。環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待される。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規程の整備等の対応も含まれることが重要である。 障害を理由とする差別の解消のための取組は、法や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づくこのような環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である。 環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものであるが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。合理的配慮の提供と環境の整備の関係に係る一例は別紙のとおりである。 なお、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことは有効である。 また、環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなる。 p8 第3 事業者における相談体制の整備 事業者においては、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に対応するため、既存の相談窓口等の活用や窓口の開設による相談窓口の整備や、相談対応を行う担当者をあらかじめ定めておく等といった、組織的な対応ができるような措置を講ずることが重要である。また、ホームページ等を活用し、相談窓口等に関する情報を周知することや、相談時には、性別、年齢、状態等に配慮するとともに、対面のほか、電話、ファックス、電子メール、また、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要となる多様な手段を、相談者の障害特性に応じて可能な範囲で用意して対応することが望ましい。さらに、実際の相談事例については、相談者のプライバシーに配慮しつつ順次蓄積し、以後の合理的配慮の提供等に活用することが望ましい。 第4 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備 事業者は、障害者に対して性別や年齢等にも配慮しながら適切に対応し、また、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に対応するため、研修等を通じて、法の趣旨の普及を図るとともに、障害に関する理解の促進を図ることが重要である。研修等の実施に当たっては、内閣府が障害者の差別解消に向けた理解促進のためのポータルサイトにおいて提供している、事業者が障害者に対応する際に参考となる対応例等、行政機関等が作成し提供する周知・啓発資料等を活用することも考えられる。また、障害者から話を聞く機会を設けることも有効である。 また、事業者の内部規則やマニュアル等について、障害者へのサービス提供等を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の相談事案等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することが重要である。 第5 法務省所管事業(更生保護事業)分野に係る相談窓口 保護局更生保護振興課更生保護事業係 附 則 この対応指針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行の日から適用する。 p9 (別紙) 障害を理由とする不当な差別的取扱い、合理的配慮等の例 1 正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例 ア 障害があることを理由として、一律に対応を拒否、又は対応の順序を後回しにすること。 イ 障害があることを理由として、一律に資料の送付、パンフレットの提供、説明会やシンポジウム等への出席等を拒んだり、資料等に関する必要な説明を省いたりすること。 ウ 障害の種類や程度、サービス提供の場面における本人や第三者の安全性などについて考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に保護や支援等を拒否すること。 エ 業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障害者でない者とは異なる場所での対応を行うこと。 オ 障害があることを理由として、障害者に対して、言葉遣いや態度など一律に処遇の質を下げること。 カ 障害があることを理由として、具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、障害者に対し一律に保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とすること。 2 正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例 ア 更生保護施設において作成する処遇計画について、処遇遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に関しては、当該特性に応じた処遇計画を作成すること。(障害者本人の安全確保の観点) イ 車椅子の利用者が畳敷きの部屋の利用を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと。(事業者の損害発生の防止の観点) ウ 銀行において口座開設等の手続を行うため、預金者となる障害者本人に同行した者が代筆をしようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の取引意思等を確認すること。(障害者本人の財産の保全の観点) p10 エ 車椅子の利用者に対して、通常よりも手続等に時間を要することから、関係者間の情報共有等により所要時間の短縮を図った上で必要最小限の時間を説明するとともに、手続に間に合う時間に会場に来てもらうよう依頼すること。(事業の目的・内容・機能の維持の観点) 3 合理的配慮に該当すると考えられる配慮の例 (1) 物理的環境への配慮の例 ア 事業者が管理する施設・敷地内において、車椅子・歩行器利用者のためにキャスター上げ等の補助をし、又は段差に携帯スロープを渡すこと。 イ 配架棚の高い所に置かれたパンフレット等を取って渡すこと。パンフレット等の位置を分かりやすく伝えること。 ウ 目的の場所までの案内の際に、障害者の歩行速度に合わせた速度で歩いたり、左右・前後・距離の位置取りについて、障害者の希望を聞いたりすること。 エ 移動に困難のある更生保護施設に入所する障害者のために、居室を施設内の移動がしやすい場所に変更すること。 オ イベント会場において知的障害のある子供が発声やこだわりのある行動をしてしまう場合に、保護者から子供の特性やコミュニケーションの方法等について聞き取った上で、落ち着かない様子のときは個室等に誘導すること。 カ 視覚障害のある者からトイレの個室を案内するよう求めがあった場合に、求めに応じてトイレの個室を案内すること。その際、同性の職員がいる場合は、障害者本人の希望に応じて同性の職員が案内すること。 (2) 情報の取得、利用及び意思疎通への配慮の例 ア 筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字、コミュニケーションボードの活用、触覚による意思伝達などによる多様なコミュニケーション、振り仮名や写真、イラストなど分かりやすい表現を使って説明するなどの意思疎通の配慮を行うこと。 p11 イ 情報保障の観点から、見えにくさに応じた情報の提供(聞くことで内容が理解できる説明・資料や、拡大コピー、拡大文字又は点字を用いた資料、遠くのものや動きの速いものなど触ることができないものを確認できる模型や写真等の提供等)、聞こえにくさに応じた視覚的な情報の提供、見えにくさと聞こえにくさの両方がある場合に応じた情報の提供(手のひらに文字を書いて伝える等)、知的障害に配慮した情報の提供(伝える内容の要点を筆記する、漢字にルビを振る、なじみのない外来語は避ける、法律用語等は分かりやすく言い換える等)を行うこと。その際、各媒体間でページ番号等が異なり得ることに留意して使用すること。 ウ 意思疎通が不得意な障害者に対し、絵カード等を活用して意思を確認すること。 エ 比喩表現等の理解が困難な障害者に対し、比喩や暗喩、二重否定表現などを用いずに具体的に説明すること。 オ 障害のある更生保護施設入所者等に対し、生活上必要な言葉等の意味を理解できるように説明すること。 (3) ルール・慣行の柔軟な変更の例 ア 障害者が立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで椅子などを用意すること。 イ スクリーン、手話通訳者、板書、教材等がよく見えるように、スクリーン等に近い席を確保すること。 ウ 他人との接触、多人数の中にいることによる緊張等により、発作等がある場合、緊張を緩和するため、当該障害者に説明の上、障害の特性や施設の状況に応じて別室を準備すること。 エ 事務手続の際に、職員等が必要書類の代読・代筆を行うこと。 オ 障害の特性に応じた休憩時間の調整や必要なデジタル機器の使用の許可などを行うこと。 4 合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例 ア イベントに参加する際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みや使用を認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること。 イ イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。 ウ 電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、法人のマニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること。 p12 エ 介助を必要とする障害者から、講座の受講に当たり介助者の同席を求める申出があった場合に、当該講座が受講者本人のみの参加をルールとしていることを理由として、受講者である障害者本人の個別事情や講座の実施状況等を確認することなく、一律に介助者の同席を断ること。 オ 自由席での開催を予定しているシンポジウム等において、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席での参加を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること。 5 合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例 ア 事業者において、事業の一環として行っていない業務の提供を求められた場合に、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点) イ 早朝や夜間など勤務職員が少ない時間帯に、障害者から職員に対し、退所に向けた荷造りなど緊急性が低く時間を要する作業について、付添いでの補助を求められた場合に、今は人的体制上付添いはできないが、日中他の職員が出勤した際に必要な付添い等が実施できる旨を提案すること(過重な負担(人的・体制上の制約)の観点)。 6 合理的配慮の提供と環境の整備の関係に係る例 ア 障害者から申請書類等への代筆を求められた場合に円滑に対応できるよう、あらかじめ申請手続等における適切な代筆の仕方について職員に周知する(環境の整備)とともに、障害者から代筆を求められた場合には、当該内容を踏まえ、本人の意向を確認しながら職員が代筆する(合理的配慮の提供)。 イ 移動に困難のある障害者のために、居室を1階に移す、トイレに近い場所にする(合理的配慮の提供)とともに、施設内の段差にスロープを渡し、トイレや浴室をバリアフリー化する(環境の整備)。 ウ オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う(環境の整備)。